aklib_story_ニアーライト_NL-10_耀騎士_戦闘前

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ニアーライト_NL-10_耀騎士_戦闘前

ロドス一行は決勝戦のチケットを手に入れ、競技場へと向かう。その決勝の舞台で、感染者騎士たる血騎士はようやく、立場を同じくするニアールとの対決の時を迎えた。


[ゾフィア] ――よし! そこまで!

[ゾフィア] どうかしら、腕のほうは。まだ痛みがありそう?

[マーガレット] いや、完璧な状態だ。

[ゾフィア] よかった、完全に回復したみたいね。風騎士が急に棄権してくれて助かったわ。

[マリア] お姉ちゃん! ソードスピアの強化調整が終わったよ!

[マリア] 今回は、ミノスの加工技術を採用してみたんだけど――アーツ伝導率に優れた特色は保ちつつ、特殊な融合剤でコーティングをして――

[マリア] えーっと、とにかく! この武器が、お姉ちゃんの光をさらに鋭くしてくれること間違いなしだよ!

[老職人コーヴァル] ハッ、手持ちの材料を全部つぎ込んでやったからな!

[老職人コーヴァル] 安心して使うといいさ! こいつは有史以来最高の剣にして槍――そう! つまりは、最高のソードスピアだからよ。

[老職人コーヴァル] ちなみに、有史以来二番目に良い剣はお前がチャンピオンになった時に握ってたやつで、三番目に良いのはお前が昔持ってっちまったハンマーだぜ。

[マーガレット] ……ありがとう。

[老職人コーヴァル] ハッハ! こんくらい、大したことねえよ。

[禿頭マーティン] ……さて、ゾフィア。これが血騎士の試合記録だ。私に見つけられる範囲のものは、全部持ってきたよ。

[ゾフィア] ありがとう。だいぶ時間がなくなってきたわね。

[ゾフィア] とは言え、準備は万全にしないと。ね、マーガレット?

[マーガレット] ……

[マーガレット] ……ありがとう、皆。……私のそばにいてくれて。

[ロイ] ……これが俺らの最後の任務になるかもな、モニーク。

[モニーク] そんなこと、わかってるわよ。

[モニーク] で、私たち本当に、耀騎士相手に手を下さないといけないわけ?

[ロイ] どうなんだろうなあ。理事会の判断は一致してねーみたいだしよ……ま、一番面倒なことは、プラチナに任せりゃいいだけさ。

[モニーク] ……クロガネは、私たちが耀騎士へ手出しすることに同意してるのかしら? だとしたら、どうして? この先も、彼女と関わる可能性があるからってこと?

[ロイ] 理由までは知らねーけど、耀騎士に脅威でも感じたのかもな……だから理事会がそのつもりなら、ちょうどいいって判断したとかさ。

[ロイ] 何せ、理事会は俺たちを警戒し始めてるわけだし……クロガネからの合図があるまでは、軽はずみな動きはしないほうがいい。

[ロイ] とにかく、今は血騎士が耀騎士を倒してくれますようにって祈っとこうぜ。そうなったら、ちっとは手間が省けるしよ。

[モニーク] あんたは、どっちが勝つと思う?

[ロイ] ……何とも言えねえなあ。

[ビッグマウスモーブ] わ、私がメジャー決勝のMCを……ですか!?

[代弁者マルキェヴィッチ] ええ。おめでとうございます、モーブさん。データがそう示している通り、あなたは現在、騎士競技MCの人気ランキングでも上位にランクインしていますし……

[代弁者マルキェヴィッチ] 加えて、マリアさんの試合を皮切りに、ニアール姉妹が今大会で出場した全試合に関わっていますから。理事会はそれも含めてあなたの強みと捉え、この大役をお任せしたいと思っているのです。

[代弁者マルキェヴィッチ] 最近の『競技新聞』はご覧になりましたか? あなたは今や「光と共に歩む声」と呼ばれ、高い評価を受けているほどなのですよ。

[ビッグマウスモーブ] ほ、ほ……本当ですかっ!?

[代弁者マルキェヴィッチ] 本当ですとも。――と、そうそう、あなたのボーナスについては……明日口座に振り込まれる予定となっています。決勝が終われば、さらに追加でお振り込みいたしますからね。

[ビッグマウスモーブ] で、では、これで私は、やっと……両親を大騎士領に招いて、住まわせてやることができるんですね……!

[代弁者マルキェヴィッチ] そればかりか、大きな別荘を買うことだってできますよ。

[アーミヤ] ……決勝戦の……チケットを、ですか?

[ラッセル] ええ。ロドスの皆様には、今年のメジャーのために多くのご支援を賜りましたし……感染者関係の先進的な方策についても、多くを学ばせていただきましたでしょう?

[ラッセル] さらに今年のメジャーの勝者は、耀騎士と血騎士――二人の感染者の中から決まることになります。

[ラッセル] であるならば、このいまだかつてなき決戦をロドスの方々にもご覧いただくべきだと思うのです。

[ラッセル] それに……そちらにいらっしゃる、サルカズのお嬢さんたち。お二方はきっとマーガレットと親しくしてくださっているのでしょう?

[シャイニング] ……ご厚意に感謝いたします。

[ナイチンゲール] あの、ニアールさんは……勝てますよね?

[ラッセル] ふふっ。それはぜひ会場へ赴いて、ご自分の目で確かめてみてくださいな、お嬢さん。

[アーミヤ] いただいたチケットは、全部で四枚ですね……

[ドクター選択肢1] アーミヤには、絶対に行ってもらわないと。

[ドクター選択肢2] ロドスのリーダーが欠席するわけにはいかないだろう?

[アーミヤ] でしたら、ドクターも一緒に行きましょう!

[グラベル] ドクターが行くなら当然、あたしもご一緒させてもらうわ〜。ちゃんと守ってあげる。あ、チケットのことなら大丈夫だよ~、あたしは数に入れなくて平気よ。

[アーミヤ] では、残りの二枚は……

[ハイビスカス] ニアールさんの大活躍を見たいのは山々なんですが、医療チームはあまり長くは現場を離れられないので――

[ハイビスカス] あっ、でもでも! もちろん、アーミヤさんとドクターは行ってあげてくださいね!

[ハイビスカス] それから、シャイニングさんとナイチンゲールさんを加えれば、これでぴったり四人ですよ!

[シャイニング] しかし、ほかの皆さんに任せきりというわけには……

[ハイビスカス] まあまあ、大会はもうクライマックスですし、治療が必要な患者さんもそう多くはありませんから!

[ハイビスカス] それに、感染者関係の問題はドクターが華麗に解決してくれたじゃないですか! こうなれば、しばらくは状況も落ち着くことでしょうし――

[ハイビスカス] ――何より! 私がニアールさんだったら……これまで肩を並べて一緒に戦ってきた戦友が、決勝戦の会場にいてくれなかったらすっごくショックだと思いますから!

[シャイニング] ……ふふっ、それもそうですね。

[シャイニング] ――リズさん。ニアールさんが最後の勝利を手にするところを、見たいとお思いですか?

[ナイチンゲール] ……はい。

[シャイニング] わかりました。

[シャイニング] それではドクター、アーミヤさん、我々も同行させてください。

[ソーナ] いよいよ、血騎士と耀騎士の決戦ね。

[ソーナ] どっちが勝ったとしても……チャンピオンになるのは感染者だわ。

[トーランド] そこへ来て零号地の件が明るみに出て、責任者は失脚し……お前さんたちは監査会からの庇護を得て、新しい生活を始めることができる……と。

[トーランド] これでめでたし……

[ソーナ] ……

[トーランド] ――とは、いかねえよな。お前も、わかってんだろ?

[トーランド] 今日の新聞を見てみろよ。感染者関係の話題が紙面からなくなったことなんざないだろう。無冑盟や連合会に対処できたとしても、民衆の持つ鉱石病への恐怖心にはどう対応するつもりだ?

[トーランド] お前たちはこれまで、あの連中と戦ってきたわけだが……言っちまえば、無冑盟なんざ結局は雇われの身でしかない。その上商業連合会のほうは、今のカジミエーシュの基盤ですらあるんだ。

[トーランド] ――焔尾騎士、ソーナ。

[トーランド] お前さんは、これで満足なのか?

[ソーナ] …………

[ソーナ] 最近、考えてたことがあるんです。トーランドさん、あなたは大騎士領の外から来た人ですし、あたしたちよりも、よくわかってることかもしれませんけど……

[ソーナ] 商業連合会を、そして無冑盟を打ち負かすことで、感染者たちの生活は本当に良くなるんでしょうか?

[ソーナ] いいえ。それどころか、商業連合会を打ち負かすなんてこと自体……本当に、できるんでしょうか?

――感染者。

それは、鉱石病の罹患者を指す言葉。

――騎士。

それは、競技を通じて財と地位とを築いた人だ。

[MC] 紅い鎧に身を包む、ミノスからの刺客! 嵐の辺境よりやってきた戦士にして、豪傑なるフォルテ!

[MC] ご登場いただきましょう! 独立騎士――ディカイオポリス!!

[観客] おい、ミノス野郎! お前の名前、覚えにくいぞ!

[観客] 信じてるぜ! 相手の頭をぶっ潰しちまえ!

[ディカイオポリス] ……ふぅ……

[MC] それでは――試合開始!!

[企業職員] ……ミノス人さん、聞いてください。

[企業職員] 我々はあなたが感染者であることを隠したまま、これまで試合をこなしてきましたが……その結果あなたは、この都市の地下競技場では、少々名の知れた存在になりました。

[企業職員] それで実は今、大騎士領の騎士団がいくつか、あなたに興味を示していまして……これは大儲けのチャンスなんです!

[企業職員] 有名騎士団に気に入られれば、一気にのし上がることだってできるわけですから!

[企業職員] とは言え! 彼らはおそらく、感染者を騎士にはさせたがらないはず……この場所のように小さな町であれば、まだ隠し通せますが、大騎士領でやっていくのはあまりに危険です。

[ディカイオポリス] ……それで?

[企業職員] はい! それでまずは、上辺だけの契約を交わすんです。それから何度か試合に出て稼いだら、頃合いを見て、「負傷」を理由に表舞台から去ることにしましょう……

[企業職員] 身体検査については、私が何とかして賄賂を握らせておきます。ですから、お互い協力し合いましょう! いいですよね、ディカ……ええと……

[ディカイオポリス] 「ミノス人」と呼べばいい。

[ディカイオポリス] 俺の名を覚えておく必要などない。

[企業職員] あ、はは……ですがあなた自身のためにも、強くて覚えやすい名前に変えたほうがいいと思いますよ。芸名みたいなものでもいいですし、ね?

[企業職員] まあ、何はともあれ行きましょう! 大騎士領へ!

[ビッグマウスモーブ] 予想もつかない急展開! 彗星の如く現れたスーパールーキーが、なんと! 白楓騎士を撃破しました!

[ビッグマウスモーブ] 鮮血の如く紅い鎧とその刃! 血を凝縮させて生み出した強大な武器が、スピードで名を馳せるあの白楓騎士を、一発で仕留めてしまいましたーッ!

[ビッグマウスモーブ] 圧倒的なパワー! 比類なき身体能力! 優れた動体視力! おまけに今すぐ広告塔になってくれそうな、ク~~ルなルックス!

[ビッグマウスモーブ] 審判団の判定を待つ必要すらありません! この試合、勝者は間違いなく――熾斧騎士です!!

[ディカイオポリス] ……ハァ……っ、ハァ……

[ディカイオポリス] …………

[企業職員] どええっ――!?

[企業職員] メ、メメメメジャーですって!?

[企業職員] あなた、自分が――ンンッ! ごほん、いえ、その……ここは人目が多いですし、はっきりその理由を明言するわけにはいきませんが……

[企業職員] とにかくダメです! 絶・対・に、ダメです! 前回のチャンピオンがどうしてカジミエーシュを去ることになったのか、お忘れなんですか!?

[ディカイオポリス] ……耀騎士、マーガレット・ニアールのことか?

[企業職員] そうです! 彼女は英雄一族の出身で、史上最年少のチャンピオンでしたが……そんな輝かしい肩書すら、何の役にも立たなかったんですよ!

[企業職員] 「彼女は感染者だ」という理由一つで、前チャンピオンはこのカジミエーシュを追放されたんです。そうしてニアール家は、一瞬にして没落してしまったわけですし……

[企業職員] メジャーだなんて冗談やめてください。私たちは地道に――

[代弁者チャルニー] ……こんにちは。熾斧騎士ディカイオポリス様でお間違いありませんか?

[ディカイオポリス] ああ、そうだが。

[企業職員] あ、あの、どちら様ですか……?

[代弁者チャルニー] ご機嫌よう。あなたが彼のマネージャーさんでしょうか?

[企業職員] は、ははは……まあ、そんなところですが……

[代弁者チャルニー] おお、これは素晴らしい巡り合わせだ。お目にかかれて光栄です。

[代弁者チャルニー] と、申し遅れました。私は、商業連合会の代弁者、チャルニーと申します。

[ディカイオポリス] ……ブラッドゴブレット騎士団?

[代弁者チャルニー] ええ……あなたのための騎士団を立ち上げるのです。

[代弁者チャルニー] 何しろ、あなたは感染者でいらっしゃいますので、今後の世論をコントロールせねばなりません。しかし、それに当たっては、無理に意見を遮るのではなく誘導してやるべきだと考えましたもので。

[代弁者チャルニー] 騎士団の名にご不満はありますか? なければ、「カジミエーシュの紅きゴブレット」というのが、今後あなたを象徴するうたい文句になります。

[ディカイオポリス] ……ゴブレット? そういう上品なイメージは、向いていないと思うが……何せ、俺はガサツな人間なんでな。

[代弁者チャルニー] まあ、そう仰らずに。

[代弁者チャルニー] それと、ほかのメンバーについてですが、可能であれば、感染者による騎士団を作るというのも良い案でしょう。今後の展開次第ではありますがね。

[ディカイオポリス] ……貴様は、なぜここまでするんだ? 普通の人間は、感染者の話題になると顔を曇らせるほどだというのに。

[代弁者チャルニー] 逆ですよ。「普通の人間」が大事を成し得ない理由は正しくそれなのです。

[ディカイオポリス] ……なら……感染者が騎士になれるのであれば、耀騎士はなぜ追放された?

[ディカイオポリス] 規則が許したところで、観衆は果たしてどうみるでしょう?

[代弁者チャルニー] その「どう思うか」の部分に関してが、私の仕事なのですよ。ディカイオポリス様。

[MC] メジャー出場を果たした歴史上二人目の感染者騎士! ミノスから来たディカイオポリス! 「カジミエーシュの紅きゴブレット」はこの二年間でその名を轟かせております!

[MC] 鮮やかな紅の鎧を纏い、その肉体が発揮する超絶パワーで、ポイントも人気も、着実に上昇中の熾斧騎士! 彼の見せる活躍は、実に爽快です! これこそ真の騎士と呼べる勇姿でしょう!

[MC] さて、対するお相手は独立騎士、ヴィヴィアナ・ドロステ――

[血騎士] ……「血騎士」?

[代弁者マッキー] ……ああ。騎士協会が先ほど君に与えた称号だ。

[代弁者マッキー] 君が提案してくれた……感染者による大会への参加制度は、非常に参考になった。理事会も、この提案を受け入れつつあるようだ。

[代弁者マッキー] 君とブラッドゴブレット騎士団は、新たなモデルケースとなることだろう。これは同時に、カジミエーシュは感染者を見捨ててなどいないということを、彼らの多くに証明する有力な証拠にもなる。

[代弁者マッキー] 上手くいけば、近年激化しつつある感染者関係の問題を、緩和ないし改善してくれると期待しているよ。

[血騎士] ……代弁者よ。感染者は騎士となっても、差別を受けることになるだろうか?

[代弁者マッキー] 申し訳ないとは思うが……ほぼ確実に、そうなるだろうな。

[代弁者マッキー] ……いついかなる場所でも、人々はこの病を恐れているものだ。その考えを変えさせるには、抜本的で……過激な対策が必要になってくるだろう。

[血騎士] これは病なのだから、恐れること自体は間違いではない。

[血騎士] だが、感染者もその被害者であり、そして感染者騎士は――騎士の身分であるはずだろう。

[代弁者マッキー] ……確かに被害者でもあるが、病そのものでもあるというのが現実なんだ。それに、騎士の身分というものに関しては、君はもう理解しているだろう?

[血騎士] ……

[代弁者マッキー] ――医学者たちが鉱石病の研究を止めたことはない。しかし、治療法が見つからないまま長い時が経ち……今では通常の理論では説明できない病、というのが現代医学の一般的な見解となっている。

[代弁者マッキー] けれど、少なくとも……理事会が君と君の提案についての議論を望んでいるという事実は、確かに良いニュースだと言えるはずだ。

[血騎士] ……そうだな。

[血騎士] 俺の騎士団へ来い。

[感染者騎士] ……あ、あんた……チャンピオンだよな!? 騎士団へ来い、って……

[血騎士] 俺のもとへ来れば、普通の生活ができる。だから、来い。

[感染者騎士] だ……だけど俺たち、大した実力でもないんだぞ……

[血騎士] 貴様たちに成績を求めはしない……連合会からすれば、俺がいるだけで十分だしな。

[感染者騎士] ……!

[感染者騎士] は、はっ……本当なら追放されて、荒野で野垂れ死ぬ運命だったってのに……

[感染者騎士] 都市に居続けられるばかりか、チャンピオンの騎士団に置いてもらえるなんて――

[感染者騎士] 俺、頑張るよ! ありがとう、本当にありがとう……!

[感染者騎士] あんたは俺らの救世主だ、血騎士! 血騎士万歳!

[感染者騎士] 血騎士万歳!

血騎士万歳! 血騎士万歳!

[ソーナ] ……さ、行きましょ。

[グレイナティ] 一目見るだけで良かったのか?

[ソーナ] ええ、これで十分よ。

[ソーナ] あたしたちには、あたしたちの行くべき道があるもの。

[ビッグマウスモーブ] 信じられません! 誰が信じることなどできるでしょうか!!

[ビッグマウスモーブ] かくいう私でさえ信じられないのですから! 突然、乱入してきた耀騎士と、試合を中断させることなく全てを了承した騎士協会! あぁ神よ! 私はこの光景を何と喩えれば――

[ビッグマウスモーブ] 私の長いMC人生でも、こんな状況は初めてです! 国民議会が今回の乱入をどう処理するのかはわかりません。しかし、それも今この瞬間の勝利には関係のないことです!!

[血騎士] ……

[血騎士] ……あれが、耀騎士か……

[血騎士] 貴様は、何のために戻ってきた?

[血騎士] この場所はいつも忙しないな。

[代弁者マルキェヴィッチ] ――決勝進出おめでとうございます、血騎士様。

[代弁者マルキェヴィッチ] 耀騎士との決戦は間近ですね。……勝敗が決したその時には……ここで優勝セレモニーが行われ、チャンピオン自ら肖像画を飾る、と――

[代弁者マルキェヴィッチ] ――失礼。あなたはチャンピオンでいらっしゃいますから、一連の流れはご存知でしたね。

[血騎士] メジャーは回を重ねるごとに、規模が大きくなっているが……それに応じて貴様らが追加する、余分な規則やセレモニーは好かん。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……それは残念です。

[血騎士] ときに、耀騎士の肖像画だが、今は飾られているのか?

[代弁者マルキェヴィッチ] はい。騎士協会が彼女の身分を承認したことで、再度チャンピオンとして名を連ねることになりましたから。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?

[血騎士] 無論だ。

[代弁者マルキェヴィッチ] あなたと耀騎士は、同じ感染者ですよね。彼女をどうお思いになりますか?

[血騎士] ……偉大な失敗者と捉えている。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……と仰いますと?

[血騎士] 偉大とする理由は、彼女の闘争と意志、そしてその確かな実力にこそある。

[血騎士] 一方で、失敗者とする理由は……何一つ成し遂げられなかったことにある。

[血騎士] 信念を示すことにせよ、名誉を保ち続けることにせよ……彼女は目的を達することもなく、自らを追放へと追い込み、家族を巻き込んだだけだ。

[血騎士] 人一人守ることすらも、満足にできているとは思えない。

[代弁者マルキェヴィッチ] では、耀騎士を認めてはいらっしゃらないと?

[血騎士] ……それはまた異なる問題と言えるだろう。

[血騎士] そもそも……彼女は承認などというものを欲しているだろうか?

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[観戦する騎士] ……うおおっ、決勝だ! ついに決勝がきちまった!

[観戦する騎士] 血騎士対耀騎士……! どういう試合展開になるのか、全然予想がつかねえや!

[リターニア女性貴族] まあ素敵! これがカジミエーシュ最高と謳われる騎士の盛宴ですのね? 噂に違わぬ華やかさですこと!

[リターニア女性貴族] これから一体、どんな戦いを目にすることができるのかしら?

[リターニア男性貴族] ハッハッハ! 騎士の国は常々驚きに満ち溢れていますから、きっとお気に召しますよ、ご夫人。ひとまず今は、胸膨らませて待つといたしましょう!

[企業職員] 試合開始30分前になりました!

[企業職員] 大盛況の客入りで……あっ! ちょっとそこ、Cエリア! しっかり誘導してください! Iエリアには最後に入場してもらうように……

[企業職員] わっ! も、申し訳ありません! 混雑しておりましたもので――

[左腕騎士] ……気にするな。

[代弁者マッキー] ……配置は完了したか? ……よし。

[代弁者マッキー] マルキェヴィッチ君からの指示を忘れるなよ。耀騎士が勝とうが負けようが、試合最後の宣言時に、あの言葉を付け加えるように。

[代弁者マッキー] ……何、ロドスが? ……会場に来ているのか? ふうむ、監査会の名義でか……やむを得まい。

[代弁者マッキー] 警備員は十分に警戒しておいてくれ。それから、監視役には征戦騎士たちの動向へ目を配らせておくように――

[代弁者マッキー] ――っ……

[企業職員] ええとマッキー様? どうされましたか?

[代弁者マッキー] すまない……少し外させてもらうよ。

[代弁者マッキー] ……ドロステさん。

[燭騎士] ……マッキーさん。

[燭騎士] お久しぶりです。何か御用でしょうか?

[代弁者マッキー] ……私は……

[燭騎士] ……

「あなたを失望させてしまったことでしょう。」

そうは思っても、言葉が出てこない。

彼は己の手を所在なく彷徨わせ、ばつの悪さから逃れようとした。

しかし、最後にはそれを諦めて、口を開く。

[代弁者マッキー] ……いえ。どうか、試合を楽しんでいただけましたら幸いです。

[追魔騎士] ……

[追魔騎士] ――(古代語)若き狩人、天路を往かん……♪

[追魔騎士] ――(古代語)夢より出でて、黄金の彼岸へ……♪

――夢より出でて、黄金の彼岸へ……♪

血族の血が矛を紅く染め……♪ 矛を握りて……♪

明るき月の哀悼に溺れ往く……♪

闇夜が視界を黒く染めるまで……♪

骨の塔が心にそびえるまで……♪

毒草がおぼろな故郷を締め上げるまで……♪

嗚呼、狩人の残火は灰塵に縛られ……♪

嗚呼、その魂は泉の奥底にて眠る……♪

なれど長弓は既に灯台より射られて……♪ 篝火と黎明は矢となりて……♪

されど骨壺は既に死を零し……♪ 父は未だ木の下で白き繭に水をやる……♪

[マーガレット] ……

[血騎士] ……

[アーミヤ] ま、間に合いました、が……すごく、人が多いですね……! テレビ中継で見た時に、予想はしていましたが……

[アーミヤ] わわっ……!

[ドクター選択肢1] アーミヤ、手を繋ごう。

[ドクター選択肢2] もっと寄ってくれ。はぐれてしまう。

[アーミヤ] はい……

[シャイニング] ドクター、こちらです。

[アーミヤ] ナイチンゲールさんも、気を付けてくださいね……

[ビッグマウスモーブ] 現在時刻は、大騎士領時間で夜8時となりました! 第二十四回、カジミエーシュ騎士メジャーの会場へよ~~~~こそ! 皆さんお馴染み、ビッグマウスモ~~~ブです!

[ビッグマウスモーブ] 無数の挑戦と奮戦、勝利と敗北を経て、カジミエーシュは今晩、三年ぶりに! メジャーチャンピオンの戴冠式を迎えようとしています!

[ビッグマウスモーブ] 今宵、カジミエーシュは眠らない街となり! 新たな英雄とその伝説の誕生を目撃することになるのですっ!

[ビッグマウスモーブ] そして今この瞬間にも、クルビア、ヴィクトリア、リターニアなど多くの国々からはるばるやってきた騎士愛好家たちが、この試合に期待の視線を注いでおります!

[ビッグマウスモーブ] こうなりますと、今夜の試合は、同時視聴者数、累計動員数、売上額など、様々な記録を一夜にして塗り替えること請け合いです!

[ビッグマウスモーブ] ――そ・れ・も・そのはずっ! この試合におけるも~~~っとも注目すべきポイントとして――この機に立ち会う幸運なる観客の皆さんなら、既にご存知のことでしょうが!

[ビッグマウスモーブ] なんと約二十年ぶりに! 再び! 二名の過去大会チャンピオンによる決勝戦が実現したのですから! 今宵、彼らの勇姿を前にすれば、ミノスの戦いの女神でさえも見劣りしてくることでしょう!

[ビッグマウスモーブ] しのぎを削るは二人のチャンピオン! カジミエーシュ最強の大騎士たちですっ!! 会場にお越しの皆さんは、瞬き厳禁ですべてを記憶に焼き付けていってください!

[ビッグマウスモーブ] なぜなら我々は今、この時! カジミエーシュ騎士競技史上、最も偉大なる瞬間に立ち会おうとしているのですから!

[ビッグマウスモーブ] さ~て! もはや説明不要の覇者が織りなすこの決勝! ですが、規則に則り、少々お時間を頂いて、選手紹介といたしましょう! 最初にご登場いただきますのは――

[ビッグマウスモーブ] ブラッドゴブレット騎士団所属! 現メジャー・ディフェンディングチャンピオン、「カジミエーシュの紅きゴブレット」! 血騎士――ディカイオ~~~~ポリス~~~~!!

血の如く紅い鎧が暗がりから浮かび上がるようにして、スポットライトの下へと立った。

英雄はどんなパフォーマンスも見せることなく、競技場に立ち、土の温度と空気中の湿り気を感じていた。

血騎士が、僅かに顔を上げる。まばゆい照明の中心に、かろうじて夜の色が見て取れた。

[血騎士] ……

[感染者騎士] 血騎士! 血騎士!

[観戦する騎士] 血騎士! 血騎士! 血騎士!

[アーミヤ] ……あの人が、血騎士。感染者騎士制度を作った大騎士ですか。

[アーミヤ] あのような騎士だったとは……想像もしていませんでした。

[シャイニング] ……お聞きください、この歓声を。鼓膜が破れそうなほどの轟音ですね……

[ナイチンゲール] シャイニングさん。あの方は、英雄と呼ばれているのですか……?

[ドクター選択肢1] 彼をよく知らずとも、英雄であることは否定できない。

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 彼女の対戦相手とはいえ、強敵と認めざるを得ないな。

[ビッグマウスモーブ] そして――対しますのは!

[ビッグマウスモーブ] ――数多の伝説を受け継ぐ者! 英雄の子孫にして若き伝説! 一度はチャンピオンの座に輝いていながら、一瞬にして追放を受け、多くの人が惜しんだ元・王者!

[ビッグマウスモーブ] しかし今や、追放などという過去は関係ありません! 彼女こそ、メジャー史上最年少チャンピオンにして! 当時最短記録で大騎士称号を獲得し、独立騎士として王座に就いたあの戦士!

[ビッグマウスモーブ] 長く語り草となってきた名高き大騎士が今! 我々の目の前に立っています! 光輝溢れるペガサス! 耀騎士! マ~~ガレット――ニア~~~~ル!

[マーガレット] ……

[血騎士] ……

[ビッグマウスモーブ] ここに揃った両者は、感染者であり、チャンピオンであり、大騎士でもあります! この試合は必ずや、皆さんの心を揺さぶる一戦となり――後世まで語り継がれることでしょう!

[ビッグマウスモーブ] それでは――ここに宣言いたします!

[ビッグマウスモーブ] カジミエーシュ騎士メジャー第二十四回大会、決勝戦! 試合――

[ビッグマウスモーブ] ――開始!!

[マーガレット] ……

[血騎士] ……

[ビッグマウスモーブ] こ……これは、どうしたことでしょうか!? 血騎士がかぶとを脱いでおります! これまでは、勝負がついたあとにしか見たことのない光景ですが――

[マーガレット] ……あなたは……

[血騎士] 耀騎士よ。ここまで辿り着いてくれたこと、嬉しく思う。

[マーガレット] ありがとう。

[血騎士] 貴様の選択を理解できる者は多くはないが、俺にはわかっている。

[血騎士] 貴様は、灯台になろうとしているのだろう。自分には、この時代を打ち壊すことなどできはしないと――仮にできたとしても、意味のない行為だと理解しているからこそ、な。

[血騎士] ゆえに、貴様は自らの光が他人の道を照らすことを期待して……服従を強要された人々にしかと前を向かせ、抑圧を受ける人々に自らの運命を選ばせようとしている。

[マーガレット] ……

[血騎士] ……貴様の目は真っ直ぐで、理想主義者が残酷な現実を前にして見せる、失望の色は感じられない。その逞しく献身的な精神は、尊敬に値する。

[血騎士] ……多くの「英雄」と呼ばれる者は、確かに正しきを為しているものだ。しかし奴らのほとんどは、私欲を満たすためだけに事を急いでいるにすぎん。

[マーガレット] ……だが、私には意外だった。

[マーガレット] カジミエーシュへ戻ってから、信念を抱く多くの騎士を目にしてきたことがな。

[マーガレット] この時代においても、いまだ己を見失わずに立ち続けている彼らには――栄光が、その輝きが見て取れた。

[血騎士] ……如何なる時にも、美徳は存在するものだ。この都市はまだ、そこまで深刻な状態ではないからな。とはいえ――

[血騎士] ――美徳では、この時代を変えられないのが現実だ。

[マーガレット] 私は、この腐敗した舞台で証明したいだけなんだ。

[マーガレット] ――今もなお、騎士は存在するのだということを。

[マーガレット] 美しく、栄誉溢れる、正義あるものが、この地に未だ残っているのだということを――

[血騎士] ――そうした高潔な存在や精神は、貴石のようなものだ。貴様はその貴石を照らし、誰かが拾い上げるのを待っているのだろう。

[血騎士] だがそれこそが、貴様の偏狭さを示す最たる部分だ。

[血騎士] 献身、犠牲、公正を求めての闘争……このすべては無論崇高にして正義ある行いであり、俺が貴様を尊敬するのはそのためでもある。

[血騎士] しかし、貴様の持つ騎士道精神で、この複雑な時代を救えるとは限らない。

[マーガレット] ……

[血騎士] 貴様は弱者につるはしを手渡し、岩壁を破壊する方法までは教えるが……新たな家をどう建てるのかは教えていない。

[血騎士] あるいは――新たな道を歩むことも選択の一つだということを、道はいくらでもあるはずだということを、彼らに伝えていない、とも言えるだろう!

[マーガレット] ぐっ――!

[ビッグマウスモーブ] 突然、血騎士が一撃を入れたーッ! リーチだけを見れば、耀騎士のソードスピアのほうが有利のはず! ですがこの瞬間――おっとこれは……!

[ビッグマウスモーブ] 鮮血のアーツです! 斧をやり過ごしたところで、立て続けに襲い来るのは左手に握った血の矛だ~~ッ!!

[マーガレット] ――ッ!

[血騎士] (防がれたか――)

[マーガレット] これで終わりと思うな!

[血騎士] くっ!

[ビッグマウスモーブ] 輝く光! 耀騎士のアーツです! アーツ対アーツのぶつかり合い――ですが何が起こっているのやら、よくわかりません――などと言っている間にも! 二人は接近戦に移行しています!

[燭騎士] ……これほど精巧なコントロールで、この規模のアーツを瞬時に展開するなんて……想像を絶する技術ですね。

[燭騎士] こんなものは、普通の訓練どころか……騎士競技の中に身を置いてすらも、会得できるものではないはず……

[燭騎士] この技を養ったのは、軍隊との戦いでしょうか? それとも、地を埋め尽くすほど大量の野獣たちとの戦いでしょうか……?

[燭騎士] マーガレットさん。やはり、私の思った通り……今のあなたは、天の中心で輝く太陽のようですね。

[血騎士] ――貴様は、どの戦いにおいても……ナイツモラや燭騎士との戦いにおいてすらも、そうして平静を保ってきたのか?

[血騎士] そのように落ち着いた表情を競技場で目にするのは初めてだ。

[血騎士] 貴様は――

[マーガレット] ――どういった心境にあるか、という問いならば……

[マーガレット] 想像していたよりも、愉快な気分だ。

[血騎士] ……

[マーガレット] ……競技場に復帰したとして、そこでひどく腐敗した光景を目の当たりにすれば……心がくじけることもあるのでは、と考えたこともあった。

[マーガレット] だが今は、決心を固めたよ。

[マーガレット] ――しかし、込み入った話はひとまず置いておくべきだろう。

[血騎士] ……同感だ。

騎士たちの視線がぶつかり合う。

鎧の下で力がざわつき、強烈な感情が二人の心を満たしていく。

今は、試合のもたらす結果や未来を議論するべき時ではなく――

――勝負を決する時なのだ。

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