aklib_story_ニアーライト_NL-9_溜息_戦闘後

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ニアーライト_NL-9_溜息_戦闘後

決勝戦前夜。感染者たちは活路について言葉を交わし、商業連合会と監査会は互いに妨害を仕掛け合う。そしてマリアとマーガレット姉妹は本音を打ち明け合い……各々が、決勝戦の訪れを静かに待っていた。


[ニュースの音声] 血騎士の決勝進出が決定しました。このまま優勝を収めれば、カジミエーシュメジャー史上二人目の、連覇を遂げた大騎士が誕生します。

[ニュースの音声] しかし、彼が感染者であることが依然として多くの批判をもたらしていることも事実です。連合会の代弁者は、「血騎士が感染者であることを理由に差別を受けることはない」と表明していますが――

[ニュースの音声] この発言に対し、一部の騎士貴族は難色を示しています。彼らは停電事件及び大分断の再現が民衆に与えた重圧は計り知れないと述べている模様です。続いては、騎士協会の担当者に――

[イヴォナ] ……ディカイオポリス! さっすが血騎士だ!

[イヴォナ] ハハッ! 言っただろ、これぞ感染者騎士のあるべき姿ってやつなんだよ!

[グレイナティ] ……次の試合、耀騎士が風騎士に勝てば……

[ユスティナ] ……二人の感染者が揃う。

[ユスティナ] 今回のメジャーのチャンピオンは、その二人のどっちかになるんだね……

[イヴォナ] アッハハ、それって最高じゃねえか!

[イヴォナ] あたしらは、あの連中が誇りに思ってるこの都市が、完全無欠なんかじゃないことを知らしめただろ? そんでお次は、血騎士と耀騎士が奴らの化けの皮を剥いでくれる――

[イヴォナ] そうなりゃ、感染者の大勝利だぜ!

[グレイナティ] ――本当に、そう単純な話であればいいんだがな。

[グレイナティ] それで、我々のほうはこの先どうする?

[ソーナ] ……あはは……そうね。どの道、もう大騎士領には居られないと思うの。

[ソーナ] でもその代わり、合法の証明書は得られるし、静かに暮らせる村を見つけることだってできるはずよ。

[グレイナティ] ……だがそれは、最初に思い描いた未来とは違うだろう。

[イヴォナ] そうだぜ! 鎧を脱いでゆっくりなんてしてらんねぇよ!

[イヴォナ] あたしらは、もっとたくさんの感染者を救って、みんなが公平な扱いを受けられるようにしないとなんねえはずだろ!

[イヴォナ] 零号地で商業連合会がやってることを監査会に知らせたのだって、そのためだったよな!?

[イヴォナ] そんなら、まだここを離れるわけにはいかねぇだろうが!

[ユスティナ] ……

[グレイナティ] ……反論するのは難しいと思うぞ、ソーナ。

[グレイナティ] 今去れば、途中で投げ出したも同然になる。

[ソーナ] ……

[イヴォナ] ソーナ?

[ソーナ] ……感染者の大部分が、見捨てられてしまうのはなぜなのかしら?

[ソーナ] ……いいえ、この言い方はちょっと違うわね。ええと……どうしていつも軽んじられるのは感染者ばかりなのかしら?

[グレイナティ] 危険な環境にさらされている労働者や、天災を効率的に回避することのできない農民たち、都市の外にいて帰る家のない放浪者……鉱石病の感染リスクが一番高いのは、そうした人々だからな。

[ユスティナ] ……加工後の源石細工。

[ユスティナ] 裕福な貴族騎士や上流階級の人たちにとっては、その一生で唯一目にする源石が、そういう宝石なんだ。

[ユスティナ] その人たちは当然、鉱石病とは無縁の暮らしをしているからね。

[グレイナティ] ……それで、どうしてそんなことを?

[ソーナ] ……ううん、何でもない。

[ソーナ] ところで、シェブチックはあたしたちと来てくれるのかしら?

[シェブチック] ……お前は、何を馬鹿なことを……

[ソーナ] あら、いたの。

[ユスティナ] 奥さんと息子さんは、元気にしてた?

[シェブチック] ああ。だから、その礼を言いに来たんだ。二人を救い出せた以上、礼の一つくらい安いものだからな。

[シェブチック] とは言え、俺は感染者ではない。名目上は、合法的な騎士の身分すら残っているくらいだ。

[シェブチック] だから俺は、大騎士領にとどまるつもりはない。数年蓄えておいた財産で土地を買い、別の都市での生活を始めようと思っている。

[ソーナ] 移動都市以外の場所に定住するって手はないの? そのほうが、人目を避けるのは楽だと思うけど。

[シェブチック] ……それでは「生活」とは呼べない。単に「生存」しているだけだろう。

[シェブチック] ともあれ、俺は別れを告げに来たんだ。まだメジャー期間であるからには、人の出入りも増えている。ひそかに大騎士領を去るには、いい機会だからな。

[ソーナ] ……新しい都市へ、向かうのね。

[シェブチック] ……レッドパイン騎士団。お前たちに、いくつか真実を伝えておかなければなるまい。

[シェブチック] 監査会が、無冑盟と感染者収容治療センターに関する情報を得たからといって、彼らがすぐさま商業連合会を追い落とせるわけではない――

[シェブチック] ――いや、それどころか、現状彼らは連合会の脅威にすらならないのではないかと、俺は思っている。

[ソーナ] ……

[シェブチック] お前も、それに感づいているんだろう?

[シェブチック] 薄情だとは言ってくれるなよ。だが、これは既に俺とは無関係のことなんだ。

[シェブチック] 焔尾。しばらく共闘していた人間として、言わせてもらうが……この辺りにしておけ。都市に盾つくのは、やめたほうがいい。

[イヴォナ] ……んだよあいつ、しけた話で盛り下げに来たのか?

[グレイナティ] これだから、騎士貴族なんて嫌いなんだ。

[ソーナ] ……都市に盾つく、か……

[ソーナ] そう聞くと、なんだかばかばかしい騎士小説みたいね……

[グラベル] ドクター。

[グラベル] あなたの護衛を命じられて、しばらく経ったけどぉ……あたしのこと……どう思ってるの~?

[グラベル] 本音を言うと、あたしはぁ……今、こうしてあなたと同じお部屋にいるだけで、ちょっぴりドキドキしちゃうんだけど~……

[ドクター選択肢1] 動悸かな? 医者を呼んだ方がいいか?

[ドクター選択肢2] ……

[ドクター選択肢3] 個人的な質問はひとまずノーコメントとさせてもらおう。

[グラベル] もお~……ひどいわドクター、がっかりしちゃう。

[グラベル] で・も……本当は、わからないフリをしてるだけなんでしょ?

[グラベル] そうやって、たまに無口になるところも魅力的なのよね~。でも、あんまり仕事にのめり込みすぎると、身体を壊しちゃうわよ~?

[グラベル] あら、完全に「個人的な」質問ってわけでもないのよ~? 監査会とロドスのパートナー関係において……あなたがあたしをどう評価してるかは、すっごく重要なことだもの~。

[アーミヤ] ドクター! ニアールさんの決勝進出が決まったそうです!

[アーミヤ] 「風騎士まさかの棄権、耀騎士は不戦勝で決勝へ」……と、今日の新聞に書いてありました!

[グラベル] ……なるほど~? 風騎士はもうすぐ引退だし、この時期に耀騎士相手の黒星を残すのは避けたかったんでしょうね。

[グラベル] それにしてもぉ、ドクターからこんなに心配してもらえるなんて……ほ~んと、耀騎士には嫉妬しちゃうわ~。

[アーミヤ] !? あ、あの。グラベルさん……?

[グラベル] 大丈夫、別に変な意味なんてないわよ~?

[グラベル] ……今のところは、ね。

[アーミヤ] あ……あはは……

[アーミヤ] (小声)ド、ドクター? 最近のグラベルさん、もしかしてご機嫌が良くないんでしょうか? なんだか段々と……えっ? ドクターは、あの状態が素の性格だとお思いなんですか……?

[アーミヤ] (小声)わ、わかりました。ドクターがそう仰るなら……

[プラチナ] ……えっ?

[プラチナ] ……ちょっと……ちょっと待ってよ……

[プラチナ] じゃあ、人員はどのくらい回してもらえるの?

[ロイ] 小隊三つ分だな。

[プラチナ] それで、アンタと……モニークは?

[ロイ] 悪いが、俺らには別の任務があるんだ。

[プラチナ] ……だったら……

[ロイ] ああ、クロガネのことなら、そっちも気にしなくていい。

[ロイ] ……あちらさんにも、ほかの仕事があるんでな。

[プラチナ] ……ねえ。もしかして、無冑盟は……

[ロイ] おっとそこまで。……勘付いちまったなら、知らないフリでもしといたほうが楽に生きられると思うぜ?

[プラチナ] ……わかった。

[プラチナ] なら、私は無冑盟の小隊三つを率いて、メジャー決勝の警備と警戒業務をこなせばいい、ってことね。

[ロイ] そーゆーこと。

[プラチナ] ……決勝って、耀騎士対血騎士でしょ?

[ロイ] その通り。

[プラチナ] ……銀槍のペガサスと、正面切ってやり合う羽目になる可能性もあるよね?

[ロイ] ま、そーなるな。

[プラチナ] ……へー……つまり、死ねって言われてるようなもんじゃない。

[ロイ] まあまあ、そう言うなって~。手出ししなけりゃ済む話だろ?

[プラチナ] ……で? 私はあとどれくらいの利用価値があるわけ?

[ロイ] ――ハハッ。その自覚があって何より、だな。

カジミエーシュは塔みたいなものだ。

[プラチナ] メジャーが終わったら、私はどうなるの?

[ロイ] お前の働き次第だな。少なくとも、個人的には……

[ロイ] 生かしてやりたいところだが。

[プラチナ] ……!

誰も生きては戻らない、塔。

[ムリナール] ……

[マーガレット] ……叔父さん。

[ムリナール] 誰の説得にも耳を貸さず、己の考えを押し通して、お前はすでにここまで進んできたんだ。

[ムリナール] だが、その幼稚な行いのために傷付く人々のことを、省みたことはあるのか?

[ムリナール] マーティンや皆が無冑盟の標的となる可能性を、考えていなかったのか?

[ムリナール] マリアとゾフィアが大騎士領で平和に暮らしていくことなど、できなくなるかもしれないとは思わなかったのか?

[ムリナール] お前が手にしているのは、空虚な理想だけだ。マーガレット、覚えておけ。お前の犯した最大の過ちは、その身勝手で他人の未来を決定づけてしまったことだ。

[ムリナール] そんな権利は、誰にもないというのに。

[ムリナール] お前には、心底失望した。

[マーガレット] ……

[マリア] お姉ちゃん……

[マーガレット] ……マリア、正直に答えてくれ。

[マーガレット] 私は、お前の夢を奪ってしまったのか?

[マーガレット] ……お前は、一族名義の参加資格を私に譲渡してくれたが……本当は……

[マリア] お姉ちゃん! 私は、夢を奪われたなんて思ったことないよ!

[マリア] 本当に、ただ……騎士になるのは向いてないと思っただけなの。

[マリア] ……でも、私……

[マーガレット] ……続けてくれ、マリア。

[マーガレット] 私は長い間、お前の言葉に耳を傾けてこなかった……だからこそ、本音が聞きたいんだ。

[マリア] そっか……うん。……ええと……私ね。……お姉ちゃんのしてることが、理解できなくて。

[マリア] そもそも、今のカジミエーシュでは……騎士になること自体、何の意味があるんだろうって思ってるくらいなの。

[マリア] 私たちが試合で勝った時も、観客の人たちがどうして歓声を上げるのかがわからなくて。私たちは一体何を勝ち取ったんだろう、って……そう思っちゃって。

[マリア] たとえば……お姉ちゃんを勝たせたくない人たちの作った規則に、お姉ちゃんが打ち勝とうとするとして……

[マリア] それもその人たちの計算通りなんだとしたら……

[マリア] あるいは、その人たちにとって、初めからそんな規則なんて何の価値もなかったとしたら……その勝利に、意味はあるの?

[マーガレット] ……お前の懸念は正しい。

[マーガレット] 彼らは初めから、騎士そのものを見下しているんだ。無論私も、それは理解している。

[マリア] ……えっ……?

[マーガレット] ――チャンピオンになること、それ自体には意味などない。

[マーガレット] ならば、どこに意味があるのかと言えば……我々に注目する民衆たちにこそあるんだ。

[マーガレット] マリア。この都市に、この国に問題が生じた場合、その病巣はどこにあると思う?

[マーガレット] 監査会の腐敗と堕落の中に? それとも商業連合会の果てなき拡大と搾取の中にだろうか?

[マーガレット] 答えはそのどちらかなのかもしれないし、両方なのかもしれない。

[マーガレット] 我々はしばしば「カジミエーシュは栄光を取り戻さねばならない」と口にするが……そのためにはまず、栄光とは、正義とは何であるかを誰かが彼らに教えてやる必要があるんだ。

[マリア] ……

[マーガレット] 栄光を手にするべきなのは、何も騎士だけではない。

[マーガレット] そして勝利とは、敵を打倒するためにあるのではない。

[マーガレット] ――「騎士とは、大地を照らす崇高なる存在」だ。ならば進むべき前途を照らし、生い茂るイバラを取り除き、道を平らにならしたあと……

[マーガレット] 何かに翻弄されることを望まぬすべての人々に、苦難を乗り越える方法を教えてやるべきだろう。

[腐敗騎士] ……っ……

[トーランド] ……ようやくお目覚めか、おはようさん。なっかなか起きねえもんだから、死んじまったかと思ったぜ。

[腐敗騎士] お前は――

[腐敗騎士] サルカズ、か……?

[トーランド] おっ! まだ普通にお喋りできるってこたぁ、お前の兄弟よりはマシな状態みてえだな。

[腐敗騎士] ……!

[凋零騎士] ……

[トーランド] 安心しな、そいつも死んじゃあいねえからよ。

[トーランド] にしても、ゲル修復液だったか? 鎧直すのに使うような液剤だったはずだよな。それを人間が直で摂取すると、こうなっちまうってのか……

[トーランド] 一体どういう原理なんだ? 活性化を利用してるのか? だとするとカジミエーシュ騎士の鎧って何でできてんだ? 人も鎧も活性化させられるってんなら……オリジムシはどうなんだろうな?

[腐敗騎士] ……角なしの、サルカズ……

[腐敗騎士] お前は……無冑盟、か?

[トーランド] ははっ、そう見えるかい? だったら、ちと買い被りすぎだな。無冑盟サマの年収は、俺の三千倍はあると思うぜ。

[トーランド] 俺はただのバウンティハンターさ。大騎士領にはちょっとした野暮用で来たんだが……その用事の一つが、サルカズ関係の調査でな。

[トーランド] ああ、もちろんこいつは仕事じゃねえぜ。言うなれば、個人的な好奇心ってやつだ。

[トーランド] ――そんで、お前さん。俺以外の、両角を切ったサルカズに会ったことがあるのかい?

[腐敗騎士] ……

[トーランド] ……お前たちの角は、誰が切り落としたんだ?

[トーランド] サルカズを――実験の奴隷に、そして処刑人にしたのは、何処のどいつだ?

[腐敗騎士] ……

[トーランド] やれやれ、わかったよ。徹底的に飼い慣らされてるらしいな。

[トーランド] だったら俺と一緒に来る気はねえかい?

[腐敗騎士] ……何だと?

[トーランド] お前ら、そんなでっけえ図体してんだから、バリバリ働けるはずだろう? 俺たちは荒野で暮らしてるんだが、いかんせん一番足りねえのは労働力でよ――

[腐敗騎士] お前は、何を――

[トーランド] ――な? 俺と行こうぜ、兄弟。

[トーランド] 一緒に生きていこうや。

[追魔騎士] ――っ!

[老騎士フォー] ……はぁ……

[追魔騎士] ……バトバヤル?

[老騎士フォー] まったく、手のかかる小僧じゃ! お主を病院に連れて行ったところで、診療費を払ってくれる家族などおらぬというに……こんなケガをしおって。

[老騎士フォー] 丈夫な身体をしていたお陰で大事には至っておらぬが……並の者があの血騎士の攻撃を喰らえば、たとえ死なずとも廃人となっておるところじゃぞ!

[追魔騎士] ……

[老騎士フォー] その上、いくら独立騎士とは言え、四強まで来た以上は貯金の一つもあっておかしくなかろうに……賞金は、一体どこへやってしもうたんじゃ?

[追魔騎士] …………

[老騎士フォー] これ、傷は深いのだぞ。動くでない。

[老騎士フォー] ……そもそもお主、どこへ行くつもりじゃ?

[追魔騎士] ……

[老騎士フォー] おい、待たぬか! どこへ行くんじゃと聞いておろうが!

[追魔騎士] ……この地を去る。

[追魔騎士] 金色のペガサス、血色のミノス人……私は、十分な収穫を得た。

[老騎士フォー] ……お主……悔しいのか?

[追魔騎士] ……否。私は敗北した身だ。

[追魔騎士] ゆえにこそ、最早敗北を恐れぬ身でもあるのだ。

[追魔騎士] 私は二度と逡巡を恐れず――

[追魔騎士] そして二度と……弱さへの賞賛を恐れぬ。

[追魔騎士] ……しかし、私には未だ欠けているものがある……なれば、天路を遂げねばならぬだろう。

[老騎士フォー] 天路天路と……目的地は決めておるのだろうな?

[老騎士フォー] 古の頃であっても、天路を幾年も歩む習わしなどないじゃろう?

[追魔騎士] ――北だ。

[追魔騎士] はるか北方へ……先祖の最後の地とも呼応せし北方へと向かう。

[老騎士フォー] ……そこへ辿り着いたあとは、どうするつもりじゃ?

[老騎士フォー] また戻ってくるというわけでもなかろうに。

[追魔騎士] ……

[老騎士フォー] お主は……己に欠けたものを探しておるのだと思っておったが。

[老騎士フォー] やはり、結局は……死を求めておるのだな?

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