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ニアーライト_NL-6_包囲された者_戦闘前
無冑盟を引きつける囮役を受け持ったイヴォナは、「ラズライト」モニークの襲撃を受ける。同じ頃、とある老騎士がムリナールのもとを訪れていた。どうやら監査会は、今夜大騎士領が暗闇に飲まれることを把握しているようだ。
[ロイ] 始まったな。感染者たちの行動が……
[モニーク] ……あの連中、本気で死地に突っ込んでくるつもりなの?
[ロイ] そうしてくれりゃあ、楽ができんだけどなあ。……ま、俺たちが騒ぎをもっと大きくしてやれば、理事会に何か嗅ぎつけられることもねーだろうよ。
[ロイ] ところで、動力炉のほうは?
[モニーク] は? 私の腕を疑ってるわけ?
[ロイ] いやいや、そういう意味じゃねーって!
[モニーク] ふーん。――で、野鬃は殺していいのよね?
[ロイ] ……そりゃもちろん。こうなった以上、遠慮はいらねえさ。
[ロイ] 何匹か獲物を仕留めて帰れば、飼い主様もそこまで怒りゃしないだろうしな。
[モニーク] ……
[モニーク] 元々、あれは私の獲物よ。とっくに仕留めてたはずのものを回収しに行くだけなんだけど。
[モニーク] ――第三小隊、集合。私についてきなさい。
[無冑盟構成員] 野鬃騎士を発見! こちらに――
[イヴォナ] 遅え!
[無冑盟構成員] ぐっ……!?
[イヴォナ] 影でコソコソせこい真似ばっかしてっから、騎士とどうやってやり合うかなんて忘れちまったんじゃねぇのかよ!
[無冑盟構成員] 黙れ、死に損ないの感染者が……!
[イヴォナ] ――ジェイミーのため――そして、お前らに殺された罪のない人たちのためにッ!
[無冑盟構成員] うっ――
[感染者騎士] ――イヴォナ! ソーナの言葉を忘れるなよ! 軽々しく命を奪うのはよせ……殺しを選ぶなら、それ相応の覚悟を持つんだ。
[イヴォナ] ……無冑盟。お前は何人殺してきた?
[無冑盟構成員] ……ハッ。なんだその質問。
[無冑盟構成員] 殴られねぇ立場で正義を振りかざして気持ちよくなりてぇのかよ、クソチビが。――黄金草原で賞金稼ぎをやってた頃は、そんなもん数えもしなかったさ。
[無冑盟構成員] 都市外のカジミエーシュ人が生き延びる方法なんてのはな――誰よりも強く、冷酷になる以外にはねえんだよクソが!
[イヴォナ] ――どうせ勝つのはあたしだ。好きなだけほざいてろ。
[イヴォナ] 負けて死んだら、何言ったって無駄なんだからよ。
[無冑盟構成員] 貴様――
[イヴォナ] こいつはもう、とっくに救援信号を送ってるはずだ。
[イヴォナ] グレイナティの邪魔はさせたくねえし、上手いこと無冑盟どもを引きつけられるといいんだが。
[ユスティナ] ……
[シェブチック] 遠牙。無冑盟の姿は確認できたか?
[ユスティナ] ううん、まだ。
[ユスティナ] そっちの状況は?
[シェブチック] グレイナティは配置についた。俺たちの合図を待っている状態だ。
[シェブチック] とはいえ、無冑盟の反応がやけに遅いのが気にかかるな。……本当にちゃんと野鬃の陽動に食いついたのか?
[ユスティナ] 多分――
[ユスティナ] ……!
[ユスティナ] ――無冑盟の小隊を発見! イヴォナ! 四番通りの路地から、君の包囲網に入っていったよ!
[ユスティナ] ……イヴォナ、聞こえる? イヴォナ……?
[ユスティナ] 応答して、イヴォナ! ……待って、シェブチックは? ――返事がない……
[ユスティナ] ……通信が……遮断、されてるの……? 嘘でしょ。たくさん信号が飛び交ってるはずの、こんな街中で……?
[イヴォナ] ……
[感染者騎士] 怖いぐらいに静かだな……嫌な予感がするぜ、イヴォナ。
[感染者騎士] ……無冑盟相手に待ち伏せなんて、本当に上手くいくのかね……
[イヴォナ] ……どうだろうな。
[イヴォナ] それより、ユスティナからの通信が来ねぇのが気になってる。あいつは高いところから見張ってくれてるはずなんだが――
[イヴォナ] (――何だ? 今の悪寒は――!)
[イヴォナ] ――ッ、逃げるぞ!
突然、吐き気を催すほどの息苦しさがイヴォナを襲った。
その感覚が単なる生理現象なのか、それとも何らかの毒やアーツによるものなのかは、彼女にはわからなかった。
人影が一つ、ビルの屋上からひらりと飛び降りてくる。
柔らかく軽い薄布が落ちるように、わずかな音を立てることもなくソレは着地した。
[イヴォナ] ……あの高さから飛び降りたってのに何ともなさそうじゃねぇか。
[イヴォナ] フェリーンってのは、みんなそうなのか?
[モニーク] ……第三小隊。
[感染者騎士] なっ!? こいつら――いつの間に!?
[イヴォナ] (さっきまで相手してた無冑盟とはワケが違えな……この青い奴、前に来たラズライトか?)
[イヴォナ] ……お前ら、先に行ってろ。
[感染者騎士] だが!
[イヴォナ] いいから行けッ!
[感染者騎士] ……。生きて戻って来いよ!
[感染者騎士] ――ぐ、あっ!?
[イヴォナ] ――!?
[イヴォナ] おい、弓を引いてすらなかっただろ……!? そんな――
青い無冑盟は片手で何かを投げた直後であるかのように見えた。
その冷ややかな表情に、一瞬だけ不快感が滲む。狩りが幸先の悪いスタートを迎えたからだ。
[イヴォナ] ……まさか――矢を投げたのか!?
[感染者騎士] ぅうっ、ぐ……あ、足が……!
[イヴォナ] 堪えろ、止まるな! ここから逃げるんだ!
[イヴォナ] おい、無冑盟! よそ見してんじゃねえ、あたしはここだぞ!
[イヴォナ] ……ッ!
[モニーク] ……感染者ってどいつもこいつもバカばっかりね。あんたに狙いを定めてる奴が何人いるのか――わかんないなら数えてみたら?
[モニーク] 野鬃騎士。あんたは本当なら、何日も前に死んでたのよ。……ま、でも、運が良かったわね。今日まで生きてたお陰で、またヒーローごっこができそうじゃない。
[モニーク] 私も、何一つ楽しめないまま狩りを終えるのは御免なの。だから……ほら、逃げ回ってみなさいよ。少しは暇つぶしになりそうだし。
[イヴォナ] ハッ、何か勘違いしてるんじゃねえの?
[イヴォナ] お前、あたしがチョロチョロ逃げ回るような奴に見えんのか?
[モニーク] ……へえ。じゃあ正しくは、死に急いでる奴かしら?
[イヴォナ] ペッ、言ってろ! ――いいか、あたしら感染者は、こんな生活にはもううんざりしてんだよ!
[イヴォナ] お前ら無冑盟なんざ、商業連合会の影に隠れて汚えことばっかやってる小物集団じゃねえか! だけどな、その分ここで逞しく生きてきた連中はみんな、お前らなんかよりずっと強えんだ!
こいつら、一人一人の顔を……忘れないでくれ……!
この騎士たちを……カジミエーシュの……残忍な、人殺しのことを……記憶に、刻みつけて……
誰一人……見逃さないでくれ……!
[モニーク] ……
[イヴォナ] ……無冑盟のクズどもが。
[イヴォナ] ――お前、瀕死の鉗獣と戦ったことはあるか? 自分の命が残りわずかだと悟った獣が、どんなふうに戦うかを知ってるか?
[モニーク] ……とんだ身の程知らずね。
[イヴォナ] 確かに、あたしは死ぬことになるかもな。――それでも、お前らには死んでも負けねえ。絶対に報いを受けさせてやる!
[イヴォナ] そうすれば……あたしの仲間たちが……
[モニーク] へえ、死んでもいいとか思っちゃってるわけ? 生き延びる気もない奴が勝ちたいだなんて、笑わせるじゃない。
青き無冑盟は、その背中から一本の矢を取り出した。
[モニーク] ――来なさい。
[イヴォナ] ……その矢を剣の代わりにしようっての? お前、あたしをナメてんのか?
[モニーク] 当たり前でしょ。
[イヴォナ] ……ッ、この……!
[イヴォナ] うぁっ――!?
[モニーク] ご自慢のスピードもその程度なのね、クランタ。
[イヴォナ] バカにしやがって――
[イヴォナ] ぐ、ッ――
[モニーク] 急所は避けてあげたんだから、惨めったらしく呻かないでよ。
[モニーク] さあ――これからあんたがどれだけ血を流すのか見ててあげるわ。
[モニーク] 通り全体がその血で真っ赤に染まる頃には、暗がりに隠れてる感染者たちだって、抵抗をやめるはずよね?
[無冑盟構成員] ……あの、ラズライト様……奴は感染者ですので……
[モニーク] ……感染するのが怖いなら、別の仕事でも探したら?
[モニーク] あいつが死ねば、その怒りも消える。それを見せつけてやれば、抵抗する感染者たちへの対処もずっと楽になるでしょ。
[グレイナティ] ……妙だな。そろそろユスティナからの通信が来てもいい頃だが……
[感染者騎士] もしかして、向こうで何かあったんじゃないか?
[グレイナティ] ……
[グレイナティ] それでも……何があろうと、あと五分で我々は襲撃を開始する。
[グレイナティ] 今は、お互いを信じるしかない。ソーナも配置についているはずだしな。
[ソーナ] ……もうすぐ時間ね。
[ソーナ] みんな、どうか無事でいて……
あと4分。
[モニーク] ……結局、数分と持たなかったわね。
[イヴォナ] ……
[モニーク] ……じゃ、先に進みましょ。感染者の巣穴はこの辺りに七、八個あるわ。もしかすると、もう撤退してるかもしれないけど、しらみつぶしに探すわよ。
[イヴォナ] 待ち……やがれ……
[イヴォナ] まだ……終わって、ねぇぞ……!
[モニーク] ……相手するだけ時間の無駄だし、アレはあんたたちに任せるわ。
[無冑盟構成員] 了解しました。
[無冑盟構成員] 総員構え! 目標を――
[イヴォナ] ――ッ終わって――ねぇ、っつっただろうが!
[無冑盟構成員] ――なっ……!? まだ抵抗するだけの余力が……!
[モニーク] ……私、そんなに大勢殺したくはないのよね。
[モニーク] 老人と子供は見逃してあげる。代わりに、感染者騎士を十人は残してちょうだい。上に報告する時、そのくらいの数は必要だから。
[感染者騎士] こ、このっ……人殺しが!
[感染者騎士] イヴォナはどうした!?
[モニーク] ……普通はもう、血を流しすぎて倒れてるはずだけど。聞こえてくる騒ぎから察するに、まだ抵抗を続けてるみたいね。
[感染者騎士] ――っ! 血も涙もない悪魔め……!
[モニーク] ……あんたたちだってわかってるでしょ? 今日を逃げ延びたところで、大して意味はないってこと。
[モニーク] 無駄話は嫌いなの。――もう一度だけ言うわ。感染者騎士十人の命を差し出しなさい。そうすれば、ほかは全員助けてあげる。
[感染者騎士] お前らみたいなイカレた殺人鬼の言うことなんて信じられるかよ!
[モニーク] ……イヴォナも計算に入れるから、あと九人分でいいわよ?
[感染者騎士] お前ッ――
[モニーク] 叫んだら勝てると思ってる?
[感染者騎士] ……ッ!
[感染者騎士] ……俺は……
[モニーク] ……はぁ、付き合ってらんないわ。自分でやった方が早そうね。
[???] ――まあ待てよ、そう焦んなって。
[???] 上司にいい報告がしたいってんなら、俺的には、仕事の量より質の方が大事だと思うんだよなあ~……
[トーランド] どうだい、お前さんもそうは思わねえか?
[モニーク] ……トーランド・キャッシュ……
[トーランド] 自慢じゃねえが、俺の首にはまだそれなりに懸賞金が掛かってるはずだろ?
[モニーク] まあ、あんたがその首差し出してくれるって話なら、今夜の収穫はそれで十分でしょうけど。
[感染者騎士] トーランド! やめろ、挑発するな! 奴は――
[トーランド] 無冑盟の「ラズライト」、泣く子も黙るモニーク様……だろ?
[モニーク] ……言ったはずよね。仕事の邪魔されるのは大っ嫌いだ、って。
[モニーク] おとなしく死にに来たわけじゃないのなら――あんたの邪魔はこれでもう三回目よ。
負傷した感染者騎士には、何が起きたかもわからなかった。
その耳がやっと捕らえたのは、何かがぶつかり合う甲高い音だ。
[トーランド] ヒュ~ウ。そんな速さで弓を引くとは、確かになかなかとんでもねえ腕前だな。
[モニーク] ……まさか見えたっていうの? っていうか、その構え、まさか騎士剣術?
[モニーク] あんた、バウンティハンターでしょ? 剣技なんて、いつ身につけてたわけ?
[トーランド] あんまうるさく言ってくれんなよ。手段が多いのは良いことじゃねえか。何せ、闇討ちかけたり罠を張ったり、策を弄して獲物がかかるのを待つだけじゃ……
[トーランド] 卑劣な無冑盟諸君と同じになっちまうわけだしさ。
[モニーク] ――何度も避けられるとは思わないことね。
[トーランド] ほー、言うじゃねえの。
[トーランド] おっと危ねえ!
[トーランド] だがな――そちらさんも、足元にゃ気を付けたほうが良いぜ?
[モニーク] ――っ――!
[モニーク] ……爆破式のトラップ? 結局は賞金稼ぎのやり口、ってわけね……
[トーランド] そりゃそうさ、ご存知の通りな。
[モニーク] ――ッ!?
[モニーク] ――今の突撃……騎士として訓練を受けたことでもあるの?
[モニーク] そう考えれば納得だわ。あんた、ニアール家の関係者ね。わざわざあいつらの味方をしてたのはそういうこと。
[モニーク] すごく興味をそそられるけど、仕事は仕事だし、時間はかけていられないわ。
あと2分。
[企業職員] ……メジャー期間って、タクシー捕まえるだけでもほんとに一苦労だなあ。
[観光客] あっ! すみませーん、ホリデイ騎士記念品店ってどっちの方向ですか?
[観光客] なあ、もうこんな時間だし飯でも食ってからにしねえ?
[ビッグマウスモーブ] 会場の皆様、ご覧くださ~い! クルビアから来た若武者が、藤蔓騎士を再び圧倒しております!
[ビッグマウスモーブ] 何という速さ! 後ろから相手を追い越して――おっと! これは……何が起こったのでしょうか!?
[ビッグマウスモーブ] 信じられません!! 試合のクライマックスで、まさかまさかのハプニング~~! ここで倒れてしまうのか!? なんとか持ち直してほしいところです! この会場に恥じぬ戦いを見せてくれ~っ!
あと1分。
[ムリナール] ……
[???] あなた、いつもこんなに帰りが遅いの?
[ムリナール] ……ラッセル閣下。どうしてこちらへ?
[ムリナール] いらっしゃるのなら、一声かけてくださればお出迎えしましたのに……
[ラッセル] すぐおいとますることになるから、あなたの手を煩わせる必要はないと思ったのよ。
[ラッセル] 今宵は穏やかな夜とはいかないわ。対処すべきことがたくさんあるのよ。
[ムリナール] ……
[ラッセル] ――ムリナール。剣を携え遠くへ向かったあの旅人は、帰ってきたのかしら?
[ムリナール] ……
[ラッセル] 屍が山と重なる戦場や、荒廃した死の土地、果てには砲火に焼き尽くされた要塞を越えたあの旅人は……まだ、戻らないの?
[ムリナール] ……
あと30秒。
[グレイナティ] ――相変わらず、連絡はつかないが。これ以上は待てない。
[グレイナティ] 我々は五分以内に奇襲をかけ、商業連合会がある中枢区画への電源を遮断しなければならないんだ。
[グレイナティ] でないと、ソーナに連合会ビルへの潜入チャンスを与えられない。
[感染者騎士] ……責任重大だな。好きだぜ、そういうの。
[グレイナティ] ……おそらく、監査会にいる「友人」は武力衝突を回避するため、ここの警備要員をひそかに移動させているはずだ。
[グレイナティ] 手際よく行こう。では、行動準備――
[グレイナティ] ッ!?
[感染者騎士] な、なんだ!? 今の爆発、どこで起きた!?
[グレイナティ] え……エネルギーエリア? どうして……
[シェブチック] 灰毫! お前、なぜ勝手に行動した!?
[グレイナティ] 違う、私たちはまだ突入していない――
[シェブチック] ――ッ、謀られたか……! 撤退するぞ!
[ロイ] おやすみ、カヴァレリエルキ、俺の愛する大騎士領よ。
[ロイ] いい夢を。
3。
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