aklib_story_ニアーライト_NL-3_それぞれの準備_戦闘後

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ニアーライト_NL-3_それぞれの準備_戦闘後

レッドパイン騎士団は以前の四都大分断からヒントを得ようと、手分けして行動を開始した。だが、居住区防衛を担当していた野鬃騎士イヴォナが無冑盟に襲撃されてしまう。その頃、追魔騎士は街中をさまよっており、他方で燭騎士は再び、代弁者と意見が食い違ったままに別れるのだった。


[感染者騎士] 打倒連合会! 打倒貴族! オルマー・イングラを処刑しろ!

[感染者騎士] 打倒連合会! 打倒貴族! オルマー・イングラを処刑しろ!

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] ……私たちの間に、怒りが広がってる……

[ユスティナ] 理解はできるよ。でも……

[ソーナ] ……あたしたちは、怒りという感情に慣れきってしまっている。

[ソーナ] だけど、怒りは視野を狭めるものよ。実際、あたしたちはそれに苦しめられてきたんだから。

[イヴォナ] そー言われても、冷静にやるなんてあたしのスタイルには合わねぇしなあ。

[ソーナ] あなたの場合は、冷静に突き進めばいいのよ。前に向かってね。

[イヴォナ] ……そうだな。じゃ、面倒事はあんたたちに任せるとするよ。その代わり、喧嘩は任せてくれりゃあいい。

[イヴォナ] あたしは、もうずっと我慢してきたんだからな。

[ソーナ] ええ……わかってる。

[ソーナ] ……それで、シェブチックとカイちゃんが戻るまでの間に、あたしたちは当時の関係者を見つけておかないといけないわ。……記者でも目撃者でも、とにかく多ければ多いほどいい。

[ユスティナ] ……四都大分断。

[ユスティナ] 対外的には、メジャー開催を妨害するために、リターニアの過激分子が行った破壊行動による事故として報道されてる。

[ソーナ] でも、この都市がそんなに脆いわけがないもの。大方、組織同士が足の引っ張り合いをした結果だったんでしょうね。

[ソーナ] とはいえ、あの騒動がカヴァレリエルキの……「偉大なる都市」の一体どこが腐敗しているのかを、人々に見せつけたことは確かよ。

[グレイナティ] ……

[グレイナティ] 私はともかく、お前、少しは名の売れた騎士なのだろう? こんなに堂々と行動して、気付かれてもいいのか?

[合成樹脂騎士] ……今はメジャー期間中だ。俺のような小物を気に留める奴などいない。

[合成樹脂騎士] 大体、なぜお前が同行者なんだ? 俺はあの狙撃手が来るものだとばかり思っていたが。こういう仕事は、彼女の方が向いているだろう。

[グレイナティ] 私よりもユスティナの方が目をつけられているからな。彼女はリスクを冒してまで、お前を救い出した当人だから。

[グレイナティ] 危険に晒される可能性がある二人を一緒にしておくのは愚策だ。その上、お前たちはどちらもクロスボウ使いだから、街中で襲撃された際に対処が難しくなると判断してのことだ。

[合成樹脂騎士] 一応納得はできるが、本音を言えば俺を見張りたいだけだろう?

[グレイナティ] ……ふん。

[グレイナティ] 無冑盟という共通の敵があっても、感染者との隔たりを取り払えない騎士貴族……そんなお前を信用できるとでも思うのか?

[合成樹脂騎士] 馬鹿げた物言いはやめろ。俺は、自分や家族が感染するのが怖いだけだ。それの何が悪い?

[合成樹脂騎士] 信用できないのはお互い様だ、灰毫騎士。

[グレイナティ] そうか。だったら、逃げ出すなら今だぞ。合成樹脂騎士。

[グレイナティ] まあ、そうするにもまずは――

[合成樹脂騎士] ――馬鹿げた物言いはやめろと言っただろう、小娘が。

[グレイナティ] ……

[合成樹脂騎士] 俺は群れる弱者の集団へ加わるために来たわけじゃない。お前たちの要求も、相互信頼が本当に必要かどうかなんてことも、どうだって構わない――

[合成樹脂騎士] ――ただ恐れ知らずの感染者どもを訪ねて来ただけだからな。何せ無冑盟はそう簡単に俺を見逃しはしない。俺の家族などはなおさらだ。となれば、俺は先手を打たなければならない。

[合成樹脂騎士] そのために――妻と子供のためだけに、俺は今、ここに立っているんだ。わかるか? これは、お前たちの馬鹿げた行動などとはまったくの無関係だ。

[合成樹脂騎士] いいか、感染者。自意識過剰も大概にしろ。大方お前らは、この都市には「お前たちの敵」と「お前たちの友」しかいないとでも思っているんだろう? そういうのを、典型的な被害妄想と言うんだ。

[合成樹脂騎士] 肝に銘じておけ。このカジミエーシュの社会に生きる大多数の人間は――「お前たちとははなから無関係」だということをな。

[グレイナティ] ……この辺りは静かだな。

[合成樹脂騎士] ここは連合会ビルの下層部分だ。これより下の階には、移動都市のエンジニアとメンテナンススタッフしか入れない。俺たちが行けるのはここまでだろう。

[合成樹脂騎士] ……フッ。

[グレイナティ] ……

[合成樹脂騎士] 安心しろ、そこまで慎重にならずともいい。この付近にカメラはないからな。

[グレイナティ] だったら、無冑盟がいないという保証はあるのか?

[合成樹脂騎士] 冗談のような話だが、無冑盟は公の場で殺しをやることはない――特にこうした社会のエリートが集まる場所ではな。

[合成樹脂騎士] そんなことをすれば、監査会に弱みを握られてしまう……つまり、そこが奴らの限界だ。俺たちはその限界を上手く利用する必要がある。

[合成樹脂騎士] そういうわけで、だ。カジミエーシュには星の数ほど騎士がいる。こうなってくると、人々はIDカードなどを用いて身元を確認することになり……その偽装もまた容易となる。

[グレイナティ] ……そんな真似をして、お前の家族はどうするんだ?

[合成樹脂騎士] 失踪した妻と子供以外は、大騎士領外へ送られている。

[グレイナティ] 無冑盟の監視の目は、大騎士領の外にも及ぶんだぞ。

[合成樹脂騎士] ……わかっている。

[合成樹脂騎士] もしもやり直しが利くのなら、せめて子供が独り立ちするまでは、あんな衝動的な真似はせずにおくんだが。

[合成樹脂騎士] ぼやいたところで、商業連合会が今更チャンスをくれるわけでもないからな。こうなった以上恨み言ばかり口にするのはやめようじゃないか、感染者。

[企業職員] ……うぅ……くっそお……スーパーもレストランも全部閉まってる……なんでこんな時間に会議なんかするんだよ~……

[企業職員] はぁ……明日のレビュー会議……朝イチで原稿を修正すれば、少しはお小言を減らせるかな――

[企業職員] ――ん?

[ソーナ] お邪魔してまーす。一日中お仕事してお疲れじゃありませんか? 記者さん。

[企業職員] き、騎士!? 一体どこから……!?

[ソーナ] まあまあ、そう慌てないでくださいよ。

[ソーナ] あっ、サンドイッチ食べますか?

[企業職員] は……はぁ!?

[ソーナ] あら、もしかして食欲はない? やっぱりお疲れなのかしら?

[企業職員] す、すぐに出て行ってください! でないと通報しますよ! いくら騎士だからって、こんなのは……

[企業職員] ……あ、あれ?

[ソーナ] 電話線ならさっき切っちゃいました。

[ソーナ] ついでに言っておくと、お隣さんたちはどっちも遠くへ出かけています。あたしは、今この建物のエレベーターとゲートを緊急修理してる作業員さんの同僚という体で入ってきました。

[企業職員] も、目的は何ですか? 私はお金なんて持ってませんし、大したことは知りませんよ……

[ソーナ] そんなに緊張しないでください。あたしは強盗じゃありませんから……

[ソーナ] 伺いたいんですが、あなた、数年前の「四都大分断」に関して、記事を書いてましたよね?

[企業職員] ど……どうして、それをわざわざ私に……?

[企業職員] ……あんな大事件ですから、国中のメディアが記事にしてたじゃないですか。私も確かに書きましたけど……

[企業職員] で、でも、私はしがない編集者ですし……あの時はまだ『ザ・イルミネーター』で働いていましたが、今は新聞社ごと買収されてしまいましたし……

[ソーナ] ええ、知ってますよ。ですから、いくつか質問に答えてくれるだけで大丈夫です。お話が終われば、すぐに出て行きますから。ね?

[ソーナ] ただちょっと知りたいことがあるだけなんです。ほら、ついでに夜ごはんも持ってきてますよ。

[企業職員] (ほ……本当に、サンドイッチ持ってる……?)

[ソーナ] あなたの記事には、とある清掃員へのインタビューが載っていますよね。「地震が起きたのかと思った。慌てて輸送パイプの中を這って出た」とコメントがありました。

[ソーナ] 写真を見るに、この場所って商業連合会ビルですよね? 大分断の際には、電力設備は完全に麻痺していましたが、あのビルなら独立した電源がありますし……

[ソーナ] あなたが当時見たものについて……詳しく教えてもらえませんか?

[無冑盟構成員] ご報告いたします、「ラズライト」――モニーク様。

[無冑盟構成員] こちらがターゲットたちの行動追跡結果です。奴らは手分けして何かを調査しているようですが……クランタの「野鬃」イヴォナ・クルコフスカは、付近で感染者の護衛に徹しています。

[モニーク] ……そう。連中は感染者のコミュニティを作ったわけね。

[モニーク] にしても、そのコミュニティを守るのに、自分たちだけ、それもただの暴力だけを頼るだなんて……

[モニーク] ……最近の騎士はバカばっかりね。

[無冑盟構成員] まったくです。こちらが連中の接触した人物の名簿です。傍受した通話の一部もありますが……

[無冑盟構成員] 奴らはとても狡猾でして……無線通信を避けているようです。こうした情報も単なる目くらましかもしれません。

[モニーク] ……どうだっていいわ。あいつらが調べているのは「四都大分断」のことよ。

[無冑盟構成員] えっ……ど、どうしてそんなことが……?

[モニーク] 判断が遅いのよ。そんなにゴチャゴチャ考えてたら、死ぬかクビになるかのどっちかでしょうね。もっと学習したら?

[無冑盟構成員] は、はい! では、ご指示をお願いします!

[モニーク] は~ぁ。あのねえ、野鬃騎士は一人なんでしょ? 何を指示しろっていうのよ……

[無冑盟構成員] も、申し訳ありません! すぐに包囲するよう命じます――

[モニーク] メディアや監査会に気付かれでもして、何か問題が発生したらどうするの。まさか、あんたたちの命なんかで埋め合わせできるとでも思ってる?

[無冑盟構成員] い……いえ……

[モニーク] もういい、私が行く。

[無冑盟構成員] そ、そんな! モニーク様のお手を煩わせるわけには!

[モニーク] 上が正式に命令を下すまで、大々的な行動は控えたほうがいいわ。

[モニーク] 感染者騎士一人を始末するだけなら、大して難しいことじゃない。でも音も立てずに殺るなんて、あんたたちにできる?

[無冑盟構成員] それは……

[モニーク] わかったなら口を閉じて。ついでに、ロイの奴を私のところへ連れてきなさい。ナイツモラには適当に見張りでもつけとけばいいわ。「ラズライト」の労働力を費やすなんてどう考えても無駄だもの。

[モニーク] まったく……

[モニーク] ターゲット、確認。野鬃騎士、イヴォナ・クルコフスカ。

[モニーク] 日時、天気、現在の気分は……と。まあ、正式な任務じゃないし、ここまで細かく記録しなくてもいいわよね。

[モニーク] んー……そんなにたくさん感染者を殺す必要もないわよね。万が一鉱石病を移されたらたまったもんじゃないし。

[モニーク] それじゃ……始めましょうか。

[イヴォナ] ……んん? 何の匂いだ?

[イヴォナ] 花? 誰が植えたんだ、これ?

[「ジャスティスナイト」] “Di~~……di-di”!

[イヴォナ] ……マジかよ! ジャスティスナイト、お前ってこんなことまでできんのか!?

[「ジャスティスナイト」] “Di-di”! “Di-di”!

――ヒュッ、と音が響く。

ジャスティスナイトがゴム製の矢を放ったのだ。すると近くにあったペットボトルが倒れ、前にある鉢植えへと水が注がれた。

[「ジャスティスナイト」] “Di-di”!

[イヴォナ] ……嘘だろ……ジャスティスナイト~! お前すごすぎるぜ! 自分で覚えたのか!?

[「ジャスティスナイト」] “Di~~~di”!

[イヴォナ] ――何だッ!?

[イヴォナ] くっ……気を付けろ! 塀が崩れるぞ!

[「ジャスティスナイト」] “Di-di-di”!?

[イヴォナ] いいから! ここを離れるんだよ!

[「ジャスティスナイト」] “Di-di”! “Di-di-di”!

[イヴォナ] くそっ――

[モニーク] (こちらの位置がわからないと見て、移動を始めた……なかなかの直感ね。)

[モニーク] (だけど――それじゃ遅すぎるわ。)

[モニーク] さようなら。

[下っ端の無冑盟] ……本当に戻ってきちゃってよかったんですか? っていうか、連合会ビルに無冑盟が勝手に入って大丈夫なんですか……!?

[ベテランの無冑盟] ……当然ダメだよ。本来はな。

[ベテランの無冑盟] だが、「ラズライト」の命令じゃ無視できないだろ……はぁ、前に傭兵やってた時ですら、ここまで面倒な上司はいなかったんだが……

[下っ端の無冑盟] モニーク様を感染者の居住区域に一人で置き去りにするなんて……危険はないんでしょうか?

[ベテランの無冑盟] はは、お前彼女の心配してるのか? 下っ端の俺らが、あの「ラズライト」を心配するって?

[下っ端の無冑盟] で、ですが……「ラズライト」も人じゃないですか。それに彼女、まだ若いみたいですし……

[ベテランの無冑盟] ……はぁ。お前、ラズライトの本気を見たことないだろ? 今のうちに心の準備しといたほうがいいぞ。

[ベテランの無冑盟] 聞いたことあるか? 「プラチナ」に必要とされるのはチームを率いるリーダーシップと、複雑な作戦中でも計画全体を進められる優秀さなんだと。

[ベテランの無冑盟] 一方、「ラズライト」に関しては……過去にいたどのラズライトも皆「カジミエーシュ中、どんなターゲットも殺せる」ことを条件として選ばれてるらしいぜ。

[下っ端の無冑盟] えっ……さ、さすがにそれは大げさすぎません? どんなターゲットも、って……あの征戦騎士たちですらも、ってことですか?

[ベテランの無冑盟] まあ、大昔の話だから真偽のほどはわからんが……とある征戦騎士団長たちでさえ――

[ロイ] お~い? な~に喋ってんだ? そんなに夢中になっちゃってよ。

[下っ端の無冑盟] わっ……!?

[ベテランの無冑盟] ロ、ロイ様!

[ロイ] よっ。二人とも、知ってるか? 無冑盟が連合会ビルへおおっぴらに現れると、疑われちゃうんだぜ。

[ロイ] 妙な話ではあるけどさ、まー考えてもみろよ。無冑盟が連合会ビルに自由に出入りしちゃいけない理由って……一体何だろうなあ?

[下っ端の無冑盟] ヒッ……! い、いえ、あの……これは、違うんです……!

[ベテランの無冑盟] ……ロイ様、誤解です。我々はモニーク様からあなたへのご伝言を指示されて伺っただけで……そうでなければ、決してこんな――

[ロイ] アッハハ! わかったわかった。にしても、なんでそんなに緊張してんだ? 殺されるとでも思ったのか?

[下っ端の無冑盟] ……

[ベテランの無冑盟] ご……ご理解いただけたならよかったです……! モニーク様は感染者の居住区域で行動しておられますので、あなたにそれをお知らせするようにと命令を受けております。

[ロイ] 感染者、か。だろうな。

[ロイ] オッケー、了解。お前らもお疲れさん。

[ロイ] このビルはそこら中消毒液臭いし、用が済んだら早いところ出るようにな。ああ、でも下で買えるコーヒーはオススメだぜ。出て行く前に買ってくといい。

[ロイ] じゃあな、お二人さん。お仕事頑張れよ~。

[ベテランの無冑盟] ……ふぅ……

[下っ端の無冑盟] …………

[下っ端の無冑盟] ……う……おえっ……げほ、ごほっ……うええ……

[ベテランの無冑盟] トイレは向こうだぞ……ったく、心の準備しとけって言っただろ。

[ベテランの無冑盟] 傭兵経験がある奴はまだいいが、それ以外の連中は大抵つらい思いをするもんだ。まあ、なんとか耐えるんだな。

[下っ端の無冑盟] う、おえぇ……はぁ……はぁ……お、俺、まだ生きてますか……?

[ベテランの無冑盟] 生きてる生きてる。これでわかっただろ? 俺たちはあの人たちの仕事に深く関わるべきじゃない……

[ベテランの無冑盟] モニーク様がしくじるわけないんだよ。

[イヴォナ] ――っ!?

[イヴォナ] (また……矢が逸れた? どういうことだ……?)

[イヴォナ] (にしても、この威力――やっぱり位置もわからねぇし――野郎、遊んでやがるのか!?)

[イヴォナ] クソッ――

[イヴォナ] 逃げ回るしかねぇのかよ……!?

[モニーク] チッ……照準がずれた。

[モニーク] ……あんた一体……

[トーランド] おいおい、姉ちゃん。そんな目で見ないでくれよ。俺ァちょっと聞きたいことがあるだけなんだって……

[モニーク] ……

[トーランド] ひょっとして、邪魔しちまったかな? お前さんが答えたくないっていうなら、すぐにおさらばするからさ。

[モニーク] ……何の用?

[トーランド] おっ、聞いてくれるか? ありがとよ! 実は、人を探しててな。相手の名前は――

[トーランド] ――「ラズライト」のモニークってんだ。もちろん、本名じゃあないぜ。聞いたことくらいあるんじゃないか?

[モニーク] ……奇遇ね。私も人を探してるの。

[トーランド] へえ? 実を言うと、俺はここに来たばっかりでなぁ。ここらの有名人にはまだ詳しくねえもんだから、力になれるか不安があるが。

[モニーク] 大丈夫よ。彼は悪名高いバウンティハンターだし、一目見たら忘れないような人だもの。

[トーランド] ほ~う。名前を聞こうか?

[モニーク] 「ギルドリーダー」、トーランド・キャッシュ。

[モニーク] 罪状は――殺人罪十三件、強盗罪八件、治安紊乱罪二十三件、違法源石取引罪六件……それから、反逆罪が一件。

[モニーク] そしてその最大の罪は、私の仕事を妨害したこと……それも、二回もね。

[モニーク] 私――仕事の邪魔されるのは大っ嫌いなの。

[トーランド] おっとっとお……なあ、もしかしてそいつのこと、ちょっと誤解してるんじゃないか?

[モニーク] 元々、バウンティハンターが力をつけることには皆目を瞑っていた……なのに組織化なんかすべきじゃないわ。ましてや規模を大きくしようなんて、もってのほかよ。

[トーランド] そうかい? 俺は別の意見だけどな。何せ、「ファイヤーラング」と「イェモーク」の二人が急に姿を消しちまったんだ。あの広~い縄張りが空いたなら、組織くらいあった方が仕事しやすいだろ?

[モニーク] …………

[トーランド] わかるぜ、電話って一番忙しい時に限って鳴るんだよなあ。ほら、出てやんな。

[モニーク] ――私。今、仕事中。

[モニーク] ……了解。

[トーランド] お別れの時間みたいだな。いや~残念残念。

[トーランド] そうだ、モニークさんによろしく伝えといてくれよ。

[モニーク] 勝手にってすれば? 私からも、トーランドへの伝言頼んどこうかしら。

[モニーク] ――

[モニーク] ――あんたのニヤけたツラを見てると、本当に不愉快だ、ってね。

[トーランド] ……俺たち、命拾いしたみたいだな。クランタのお嬢ちゃん。

[トーランド] 向こうさんが俺に追いつけるとは限らないが、多分俺じゃあ彼女には敵わねえからなあ。

[イヴォナ] ……あんた……何者なんだ?

[トーランド] そんじゃ、リクエストにお応えして……改めて自己紹介といこう。俺はトーランド・キャッシュ。ごくごく普通のバウンティハンターだ。

[トーランド] ここは誠意として、しっかり本名で名乗っておくぜ。こいつは親父が酒に溺れて死ぬ前に付けてくれた名前でな。

[イヴォナ] ……バウンティハンターか。さっきの奴は、無冑盟だよな。

[トーランド] ああ。無冑盟の「ラズライト」ってのが奴の肩書きだ。間違っても追いかけるんじゃあねえぞ? そんなことした日にゃあ、俺たちはいよいよおしまいだ。

[トーランド] しかし、ラズライトがここにいたってことは……やっぱり、俺の目に狂いはなかったってこったな。

[イヴォナ] ……言っておくが、財宝なんかねぇぞ。感染者と、家のない貧しい人たちがなんとか生きてるだけの場所だからな。

[イヴォナ] バウンティハンターがここまできて一体何を探してるんだ?

[トーランド] ……抵抗の意志だ。

[トーランド] とある情報屋から噂を聞いて来たんだ……お前さんたち、すげえことをやってのけようとしてるんだってな。

[トーランド] っと、誤解させないように言っておくが、お前らの中に裏切り者だの口の軽い奴だのがいるってわけじゃないぜ。

[トーランド] ただ――都市が前進する時は、誰だってそれに巻き込まれるもんだからな。この大騎士領にだって、「良い奴」と「悪い奴」しか存在しないとはとてもじゃないが言いがたい。だろ?

[イヴォナ] ……よせよ、あたしはソーナじゃないんだ。そういうのを考えるのは得意じゃねぇ。

[イヴォナ] まあ、助けてもらった以上、あんたの紹介くらいならしてやってもいいぜ。

[トーランド] おおっ、そいつは助かる! ありがとうよ、お嬢ちゃん。

[「ジャスティスナイト」] “Di~……di”。

[トーランド] おっ? おおおっ? こいつは何だ、デリバリーロボとかか?

[イヴォナ] ちっげーよ! こいつはあたしの自慢のペットだ! 口の利き方には気を付けろっての!

[トーランド] ……なるほど? ペットねえ。最近の騎士は本当に面白えな。

[モニーク] ……トーランド・キャッシュを見ると不愉快になる原因がわかった気がするわ。

[ロイ] へ~え、その原因ってのは?

[モニーク] あんたにすっごくよく似てるからよ。

[ロイ] ええ~……それ、遠回しに悪口言われてるよな?

[モニーク] で? 私を止めた理由は?

[ロイ] そりゃあ、最近疲れてるみたいだし、たまにはリラックスしてみてもいいんじゃないかな~と思ってさ。

[モニーク] ……仕事に戻る。

[ロイ] 待った待った、最後まで聞けって……やれやれ、最近のお前はワーカホリックにもほどがあるぜ。

[ロイ] ほら、耀騎士の参加するメジャートーナメントも開幕したろ? プラチナに任せっきりじゃ、何かと心配なんだよ。

[ロイ] 監査会も今年は妙に大人しいしな。だっていつもなら、文書やら会議やら、あの手この手で理事会を挑発してきてるとこだろ?

[モニーク] サボりの理由はそれ?

[ロイ] いんや、これだけじゃない。「上の三人」から適当に対処しとけって言われてるんだよ。

[モニーク] はあ、そうね。

[ロイ] 厳密にいえば、感染者が俺たちのためにチャンスを作ってくれてるからなぁ。

[ロイ] クロガネたちはこのチャンスに乗じて、内情を知る最後の人間を取り除いたら、その罪を感染者になすりつけるつもりだろう。

[ロイ] だから、今俺たちがやるべきは、感染者の邪魔じゃなく、必要に応じて連中をこっそり助けてやることさ。

[ロイ] だけど、おおっぴらには動けないから、お前には、働いてますってアピールのために、感染者にちょっかい出してもらったわけだ。どうせやるなら徹底的にっしょ。

[モニーク] ……ほんと、仕事内容がころころ変わる職場ですこと。

[ロイ] んなこと言われたって、俺たちは理事会から金もらって働いてるわけだしなあ。理事会側に立つしかねえだろ?

[ロイ] ……今は、な。

[モニーク] ……ふん。

[モニーク] それで、ナイツモラの件は?

[ロイ] ぜ~んぜん、心配なしだ。古式ゆかしい伝統に従って突き進んでるおばかさんだからな。

[ロイ] 後々、一文字称号の大騎士と当たるように手配しといて、「悪夢の再現」って話題がいい具合に騒がれたら、あとはほっといていい。

[ロイ] あれこそ「騎士」だ。現代都市に生きるナイツモラの生き残りなんてよ……奴も苦しんでるんだろうぜ。

[老騎士] ……

[追魔騎士] ……バトバヤルよ。何ゆえあとをついてくるのだ。

[老騎士] その偉そうな喋り方をやめんか。お主の声はまだ若い。恐らく、わしよりも歳は下じゃろう。

[老騎士] して、お主……いつもこのように、あてどなく彷徨っておるのか?

[追魔騎士] ……

[老騎士] まさか、住む場所がないのか? 称号を有するメジャー騎士が、このカヴァレリエルキでホームレス生活とは……

[追魔騎士] ……

[追魔騎士] ……私は、都市を嫌悪している。

[追魔騎士] 歩み続けることは、頭を冴え渡らせるもの。そしてクランタとは、常に草原を往き、歩み続けるものである。

[老騎士] この場所は草原ではなかろうに。

[追魔騎士] 否、本来そうあるべき場所だ。

[老騎士] ……そうやって、歩み続けてきたのか?

[追魔騎士] ……

[老騎士] お主……どれほど長く歩いてきた?

[追魔騎士] ……十数年、あるいは数年か。既に遠き記憶だ。

[老騎士] なんと……しかし、いくら何でもカヴァレリエルキへは車で来ることになるじゃろう?

[追魔騎士] ……

[老騎士] よもや、徒歩でカジミエーシュを横断したというのか!?

[老騎士] い、いや待て。まさか本当に「歩み続けてきた」のか? 休むことなく?

[追魔騎士] ……バトバヤル。お前は、「天路」を知っているか?

[老騎士] ……なっ……

[追魔騎士] それはかつて……クランタにとって至上の栄誉とされていた。

[追魔騎士] 戦士が成人せし時、クランタとしての栄誉を示すため、両親の眼前で一つの誓いを立てるのだ。

[追魔騎士] 彼らは己の生まれしその地から、はるか遠くの試練の地へと向かい……両親より与えられた武器だけを携え、己の足で進んだ。

[老騎士] 試練の地……?

[追魔騎士] いかにも。その地は、戦士自身が定めるもの。真の勇気とは、己自身に認められてこそなのだ。

[追魔騎士] 勇敢な者ならば、その往く道は縦横に谷間が広がっている。臆病な者ならば、生家の前の森を選ぶことしかできぬだろう。……だが、他方で、試練の基準は道のりの遠さだけではない。

[追魔騎士] ある勇士は獲物の首を持ち返り、またある勇士は、敵の耳を切り落としてそれを得た。そしてまたある勇士は、勝ち得たものこそなかれども、純金と香料を大量に持ち帰ったという。

[追魔騎士] ……先祖たちは、この伝統を決して忘れなかった。これなるは勇気の証明。悪夢の無数の戦士たちが、永き旅路の始まりとして、天路を歩んだのだ。

[老騎士] だから、お主は今……成人の儀を、たった一人で終わらせようとしておるというのか?

[老騎士] 両親はどうした?

[追魔騎士] ……物心ついた頃には、既に居なかった。

[追魔騎士] バトバヤル。悪夢の血脈に連なる者よ。遠い血族とはいえど、お前と言葉を交わすことは、私をいくらか安堵させると認めよう。

[追魔騎士] ……この邂逅は、歪みを伴い進んでいく今の時代においても、過去の同胞たちがいまだ息づいているということを、改めて気付かせてくれた。

[老騎士] そうか。……お主、このまま大騎士領を彷徨い続けるつもりか?

[追魔騎士] ……カヴァレリエルキの名は、旅人より聞いた。この地は騎士の国の中心……カジミエーシュの栄光であると。

[追魔騎士] されど……今我が目に映るものは、腐敗しきった要塞……本来重んじられるべき栄光が、踏みにじられている光景だ……

[追魔騎士] かつて、同胞が天路にて受けた試練は野獣や天災にあった。なれど私が直面したのは、轟音と共に進み、草原を踏みならす金属の巨体にすぎぬ……

[追魔騎士] ……

戦いを制した勝者たち。

彼らは今のカジミエーシュ騎士の頂。皆の注目を集める強者。

表層の物事にこだわったところで無意味。現代の騎士の在り方について論じるのは、あまりに愚かな行いである。

一度、また一度と勝利を重ねることでのみ、今日のカジミエーシュの在りようを理解することができるのだから。

[追魔騎士] カジミエーシュが、私の天路を妨げている。

[追魔騎士] 天命を証明せんがため、私はそれを征服するのだ。

[代弁者マッキー] ……カヴァレリエルキの騎士一人一人に、戦う理由があるのです。

[代弁者マッキー] ひょっとすると、カジミエーシュの外に暮らす多くの無知な人々は……今の騎士競技を「伝統に反している」ですとか、「栄光に背くものだ」ですとか、そうした言葉で批判するのかもしれません。

[代弁者マッキー] ですが我々はそうは思いません。時代は変化し、工業と金融業は今も発展しているのですから……そこにきて旧時代的な殺戮信仰のもと、この現代社会で生死をかけた決闘などすべきだと思いますか?

[代弁者マッキー] 答えはノーです。少なくとも商業連合会としては、とてもではないが認めがたい。

[燭騎士] ……都市が林立し、そのエンジンが轟音を立てて稼働するのが現代です。

[燭騎士] 今は日進月歩の時代です。確かに、十数年前と今とでは、大きく異なることでしょう。

[代弁者マッキー] ……ドロステさん。連合会は必ずやあなたに勝っていただきたいのです。

[代弁者マッキー] 感染者騎士の騒動はますます大きくなりつつあります。こんな時に耀騎士が勇ましく前進するさまなどを見せつけられてしまえば、理事会の面目は丸潰れです。

[燭騎士] ええ、理解はできます。

[代弁者マッキー] 私は……はぁ。あなたを困らせる意図はありませんが、つまり、あなたはどうあっても我々の提案を受け入れるおつもりはないということですよね。

[代弁者マッキー] しかし……ご理解いただけないでしょうか。実のところ、あなたは何もなさらずとも良いのですよ。

[燭騎士] ……マッキーさん。

[燭騎士] 私は正々堂々、耀騎士と戦いたいのです。

[代弁者マッキー] ……

[燭騎士] 「何もなさらずとも良い」と仰いますが、この数年、私は常々それを――「何もしない」ことを要求されてきました。

[燭騎士] けれども、一人の騎士としては、何もしないということ自体が行動の一種なのです。お分かりですかマッキーさん。

[代弁者マッキー] それは……

[燭騎士] マッキーさん。今の私は、たった一つの望みにすらも応えてもらえないのでしょうか?

[代弁者マッキー] いいえ、あなたがそこまで仰るのなら……私が、騎士協会とほかの代弁者を説得してみせます。

[代弁者マッキー] ですが、あなたがそこまでこだわる理由は何なのですか? あなたと耀騎士には、何の繋がりもないはずでしょう。

[燭騎士] では、伺いますが、連合会はなぜ、彼女を標的にするのですか?

[燭騎士] 彼女は名家の生まれではありますが、一度は追放すらされた騎士なのですよ。

[燭騎士] ……連合会がそこまでこだわる理由こそ、何なのですか?

[代弁者マッキー] ……ドロステさん。それは、我々の間で今議論すべき問題ではありません。

[代弁者マッキー] しかし……いいでしょう、お話しします。この件の背景には、監査会と連合会の駆け引きがあるのです。

[代弁者マッキー] 実を言ってしまえば、その両者のどちらも、誰が優勝を手にしたかということ自体は大して気にかけてはいません。

[代弁者マッキー] おわかりになりませんか。私はあなたの考えを尊重し、このようにご回答を差し上げていますが……一方で、あなたがそうした主張をなさることは、連合会とあなたの関係を損なってしまうのです。

[燭騎士] ……騎士団のほうには、私から説明しておきますので。

[代弁者マッキー] そう仰いますが、リターニアからの客人たちも、競技場で予想外の出来事が起こることは望まないでしょうし……

[燭騎士] 予想外の出来事とは、チャンピオンに敗北することですか? それとも感染者に敗北することですか?

[燭騎士] 彼らのことなら、よくわかっています。燭騎士ヴィヴィアナ・ドロステが今のような人気を得ているのは、私がリターニア人だからなのです。

[燭騎士] 同じリターニア人がカジミエーシュの騎士競技で目覚ましい成績を上げれば、彼らの顔も立つでしょうから。

[燭騎士] 黒騎士以降、彼らはその栄光に慣れきってしまったのでしょう。私は彼女の代替品として担ぎ上げられただけ……

[燭騎士] 彼らにとっては、虚栄心を満足させる存在でしかないのです。

[代弁者マッキー] そんなもの、勝手に満足させておけばいいでしょう。それでもあなたへの援助自体は偽りではないのですから。連合会は貴族との貿易協定を望んでいます。あなたの役割は大きなものなのですよ。

[燭騎士] ……マッキーさん。

[燭騎士] 二人の騎士が競技場で相まみえるに際して、公平な戦いを望む……これは、許されないことなのでしょうか?

[代弁者マッキー] ……いいえ。あなたは……あなたの言い分は正しい。

[燭騎士] カジミエーシュ、そしてリターニア。私を生み、育んでくれた我が故郷。

[燭騎士] 幼い頃は、自らの暮らす土地が、ロマンと栄光を両立させられる場所だとばかり思っていたものでした。

[燭騎士] 今の私は純粋に……耀騎士という「特例」と、ただ優劣を競い合ってみたいと思っています。

[燭騎士] 此度ばかりは、美しく勝つ方法などではなく、いかにして勝つかということだけを考えれば良いはずだと、そう思うのです。

[燭騎士] ……それでは、いけないのでしょうか?

[代弁者マッキー] ……どうなさろうとも、結果は変わりません。

[代弁者マッキー] 連合会は何としても耀騎士を敗北に追いやるでしょう。あなたに負けるのが最適だと、彼らは考えているのです。

[燭騎士] あなたは彼らを支持するおつもりですか?

[代弁者マッキー] ええ。事態をこれ以上悪化させないために、そして監査会につけ入る口実を与えないために私は、この判断を支持します。

[燭騎士] …………

[燭騎士] マッキーさん。

[代弁者マッキー] ……はい。

[燭騎士] あなたには、少し失望しました。

[代弁者マッキー] ……申し訳ありません、ドロステさん。

[代弁者マッキー] ですが……これが最善の選択だと、私は信じています。

[代弁者マッキー] 申し訳ありません。

[燭騎士] ……今夜は、騎士団の打ち上げがあります。もうしばらくしたらそちらへ向かわなければなりません。

[代弁者マッキー] そうですか……道中、お気を付けください。

[燭騎士] ……マッキーさん。

[燭騎士] 私は単に、この時代の騎士というものの、本当の輝きを目にしたいだけなのです。

[燭騎士] 彼女は一編の詩のような方ですから。

[燭騎士] ……申し上げることは、それだけです。

[燭騎士] では、また。

[代弁者マッキー] ……詩のような……か。

[代弁者マッキー] 確かに、そうなのかもしれない。だが……あなたが読んでいるその詩を、真に理解できたことなど、私にはないんだ、ヴィヴィアナ。

[企業職員] ……あの、マッキー様? もしや、花をご注文になりましたか? 守衛がカレンデュラのブーケを受け取ったのですが……あなたが手配されたものだと言っておりまして。

[代弁者マッキー] ……ああ。

[代弁者マッキー] 君、最近奥さんとの結婚記念日があったろう?

[企業職員] あっ、えっ? はい、覚えてくださっていたんですか?

[代弁者マッキー] もちろん。これは私から君たちへのプレゼントだ。日頃よく頑張ってくれていることだし、たまにはちゃんと家族と一緒に過ごしてやりなさい。

[企業職員] ……! マッキー様……! ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!

[代弁者マッキー] はは……ほら、仕事が済んだら今日はもう帰りなさい。

[代弁者マッキー] 日常をこそ、大切にするようにな。

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