aklib_story_マリアニアール_MN-8_商業連合会_戦闘後

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マリア・ニアール_MN-8_商業連合会_戦闘後

絶体絶命の窮地に陥るマリア。その瞬間、溢れる光が会場を覆った。光とともに現れたのは伝説の耀騎士。心を一つにした姉妹による栄光への戦いが始まろうとしていた。


観客席に、一人の老人が座っている。

騎士競技には微塵も興味はないが、孫の機嫌を取るためにどうにかチケットを二枚手に入れ、新聞やテレビで大々的に宣伝されていたこの試合を見に来たのだ。

老人は眉をひそめ、ため息をついた。目の前で繰り広げられているサルカズ人による若いクランタの公開処刑……なぜこのような残酷な見世物が好まれるのか、理解に苦しんでいた。

理解に苦しめど、間違っているとは思わない。彼自身も所詮は貴族の地位など持たぬ征戦騎士なのだ。ただ彼は、この試合、或いはあのサルカズ人の戦い方に心底辟易していた。

しかし、会場が突然眩い光に包まれた時、老人は思い出したのだ。あの若い騎士が、ニアール家の末娘だということを――「実に残念だ」老人はそう思いながら、眩い光を眺めていた。

それと同時に、ごく数人のカジミエーシュ人たちが、とある物語を思い出していた。

物語の舞台は、深い森の湖のほとりにある、高い壁に囲まれた要塞が建つ守衛地。

夜の帳が下りると、松明の炎と月明かりが、辺り一面とそこに集う征戦騎士の鎧を照らし出す。そしてきらめく銀槍の鋭い刃が、暗闇に蠢く敵に向けられる。

だが無慈悲な侵略者たちは、大気を操る力を持ったリターニア人に月明かりを遮断させた。そして暗闇から現れた恐ろしいウルサスの軍隊が、壁を越えて要塞へ侵入を果たした。

いくつもの都市が屈辱的に陥落し、防衛線は後退する一方だった。そして「銀槍」という言葉さえも、死の商人たちにとっては、騎士をあざ笑う代名詞となったのだ。

最後の防衛線である荒地まで、もう後がない――

そんなカジミエーシュ最後の砦に、黄金の髪の年老いたペガサスが舞い降りた。

ウルサスが初めて敗北したあの夜明け……カジミエーシュの彼方に見える地平線に、二つの太陽が昇った。

光。

光は消えていなかった。遍く光が周囲を照らし、競技場を支配していた恐怖の霧が晴れていく。

そして今、太陽が頷き、騎士の帰還を歓迎している。

......

......

……マリア。

立つんだ、マリア。

[マリア] ……

[マリア] ……お姉ちゃん?

マリア。

成長したな、お前はよくやった。

[代弁者チャルニー] いや……あれはマリアのアーツではない……

[代弁者チャルニー] 一体何が起こっている?

[企業職員] チャルニー様! 先ほど無冑盟の見張りから連絡がありました! ここより北西の方向およそ1キロの地点から、一筋の光が外壁を穿ち競技場に飛び込んできました!

[企業職員] 恐ろしい速度で、まったく詳細が確認できません!

[代弁者チャルニー] ……テロの可能性は?

[企業職員] い、いいえ、武器のようなものでは――待ってください、人です! あれはクランタ人です! これほどの速度を出せるのは最上位の騎士以外に――

[代弁者チャルニー] ……

[代弁者チャルニー] ……いいや。

[代弁者チャルニー] あり得ない……まさかこの光は……

[腐敗騎士] グオオ……敵はどこだ? 眩しすぎて、何も見えん……!

[凋零騎士] 任務は、最後まで遂行する。どんな事態であろうと――標的を抹殺するのみ!

[腐敗騎士] グアア……!

[腐敗騎士] 拳で……この俺を拳だけで吹き飛ばすだと? 何者だ?

[マーガレット] 汚れたアーツ……苦難の道を歩んできた、哀しきサルカズ感染者の成れの果て。それが、「騎士」にあるべき姿なのか?

[腐敗騎士] グオオ……

[マリア] お姉ちゃん……?

[マリア] 待って……本当にお姉ちゃんなの? 気を失って幻覚を見てるってわけじゃないよね……?

[マーガレット] ああ。

[マリア] ……

[マリア] ほ、ほんとに……?

[マーガレット] そうだ。

[マリア] ……お姉ちゃん?

[マーガレット] よくここまで耐えた、マリア。

[マリア] うぅ……お姉ちゃん……戻ってくるの……遅いよ……

[腐敗騎士] ……目障りだ! まとめてぶち殺す!

[マーガレット] ふっ……させるか!

[腐敗騎士] なっ! 攻撃が効かない――だと?

[凋零騎士] ……奴の放つ光が、俺たちのアーツを無効化している。退がれ、俺がやる。

[ビッグマウスモーブ] ああーーっ! 眩い光の中から現れたのは――あれは間違いなく、そう……あれは――耀騎士だ!!

[ビッグマウスモーブ] これは一体!? 追放されたはずの耀騎士が、まさかのタイミングで戻ってきましたーーー!!

[ビッグマウスモーブ] (おい! 今すぐあの代弁者のところに行って何がどうなってるのか聞いてこい! な……に?)

[ビッグマウスモーブ] ル、ルールには反しますが! そんなのは問題ではありません! 妹マリアを助けるために、危険を冒してカジミエーシュに戻ってきた耀騎士!!

[ビッグマウスモーブ] 迫力が! 勢いが! いいえ、そもそも格が違います! 地獄から這い出たかのような騎士二人を前にしても、まったく臆することはありません!!

[ビッグマウスモーブ] さぁ、復活した耀騎士に――ありったけの歓声を!!

[ゾフィア] あれは……マーガレット? あの盾を持った騎士は、マーガレットなの……?

[ゾフィア] ど、どうして戻ってきたのよ……?

[禿頭マーティン] まるで別人じゃないか……

[禿頭マーティン] ……確かにマーガレットだが……一体、どんな日々を過ごしてきたというんだ?

[ゾフィア] はぁ……

[禿頭マーティン] あの気迫に満ちた耀騎士が――マーガレットがついに、戻ってきたのか!

[老騎士] ふむ……大人しく退いてはくれんかの?

[プラチナ] 残念だけど、ムリだね。

[老騎士] となると、本気を出さねばならんということかのう?

[プラチナ] ……できれば、そんなに頑張ってほしくないんだけどなぁ。

[プラチナ] もう一度言うよ。アンタたちにはどうすることもできない。そして必要に迫られない限り、見逃してあげるっていうのが私の主義だから――

[プラチナ] 競技場にさえ近づかなければ、命は助けてあげるよ……ん?

[プラチナ] ――なにあの光?

[老職人] おい! フォー、あれを見ろ!

[老騎士] なんじゃ……?

[老騎士] あの光……あれは……

[老騎士] まるでニアールの旦那様のようじゃが……

[プラチナ] (ここまで強い輝き……マリアがこれまでに放ったアーツとは似ても似つかないけど、まさか……)

[プラチナ] (でも……ラズライトの二人が……ウソでしょ……)

[プラチナ] ん……?

[プラチナ] もしもし。

[???] 遊びはオシマイ。つーことでさっさと撤退よろしく。

[プラチナ] ……どういうこと?

[???] 耀騎士が競技場に突入したんだ。これ以上そこでやり合ってても意味ないだろ?

[プラチナ] ……

[プラチナ] 大体状況はわかった――アンタたち二人掛かりで失敗したってことだね。

[???] 上のランクを疑うとは感心しないぜ、プラチナ。元々、理事会から受けた任務も「耀騎士を見張れ」って内容だったんだ。実力行使しろとは言われてねぇ。

[???] まぁやり合うことになっても、あのしかめっ面が一緒だし、楽勝だと思ってたんだけどな。

[???] ただ、ほんの少しだけ想定外のことが起きたんだ。まず、耀騎士自身がちょっとばかし強くなってて……あとは……何だ、厄介なツノ付きが増えててな。

[プラチナ] はぁ……アンタたち二人が厄介だって思ったんなら、わざわざ私に恨みがましく言わなくてもいいんだけどね。

[???] おっと、忘れるとこだった。このままだとお前とも鉢合わせることになるって教えてやろうと思ってたんだが――まぁ、もう遅いかもな。

[???] とにかく手は出すなよ。命を大事にするんだな、プラチナ。

[プラチナ] はぁ? ちょっ――!

[プラチナ] まったく、一体どういうこと……

[プラチナ] まさか、ムリナールが? あり得ない……アイツはずっと会社にいるはず……じゃあ一体誰が……

[プラチナ] うっ……!?

[プラチナ] (な、なにあれ……あの青白い影は?)

[老職人] フォー……!

[老騎士] うむ……

[老職人] 何なんだ? こんな感じは初めてだ――

[老騎士] ……無闇に動くでない。息を潜めて辺りを観察するんじゃ。

[プラチナ] (まるでなにかに心臓を掴まれてるみたい……あの二人が厄介だって思ったんならかなりの……)

[プラチナ] うっ……! 来る!!

[老騎士] ……

[老職人] ……

[プラチナ] ……

剣を携えた白い角のサルカズが足を止め、静かに顔を上げた。

[シャイニング] ……

[プラチナ] ……はぁ、これなら手を焼いて当然か。端っから騎士ですらないんだもん。

[シャイニング] ……

[プラチナ] 通っていいよ。ターゲットリストには載ってないし。

[シャイニング] ……ありがとうございます。

[シャイニング] リズさん、まだ歩けますか?

[ナイチンゲール] 大丈夫です……あそこ、とても明るいです。

[シャイニング] ニアールさんですね。

[ナイチンゲール] では、私たちも行きましょう。

[シャイニング] はい。

[プラチナ] ……まったく、なんて日なの。

[老騎士] さっきのサルカズ……マーガレットの知り合いなのか? いったいどうなっとるんじゃ?

[老職人] ありゃマーガレットだ! フォー! 本当にマーガレットが帰って来たんだ!

[老騎士] ……騒ぐでないわ。

[老騎士] で……わしらはどうするんじゃ? 続けるか?

[プラチナ] ちょっと、そんな目で見ないでよ……ま、ここまでだね。

[老騎士] ……

[プラチナ] 任務自体が無くなったんなら、こんなところでアンタたちの相手をする意味もないし。

[プラチナ] 命拾いしたね。

[老騎士] 待てい! 逃げるのか?

[老職人] フォー! 競技場に行くのが先だ、あんなのは放っておけ!

[老騎士] ふんっ……無冑盟め!

[代弁者チャルニー] マーガレット・ニアール……耀騎士め!

[代弁者チャルニー] 競技場の警備はどうなっているんです?

[企業職員] け、警備ですか……? 耀騎士が全力で突入してくるなどとは想定しておりませんでしたので、防壁なども特に用意は……

[代弁者チャルニー] ……

[代弁者チャルニー] 耀騎士……

[代弁者チャルニー] はは……耀騎士、今さら戻って来て何をするつもりだ? 騎士たちの墓標でも眺めていくのか?

[企業職員] チャルニー様! 商業連合会から連絡が……その……

[代弁者チャルニー] ……

[代弁者チャルニー] マルキェヴィッチさん。

[企業職員] へっ?

[代弁者チャルニー] これから何があっても――たとえ私が戻ってこなくても、この部屋を出てはいけませんよ。

[企業職員] は、はい……

[代弁者チャルニー] ええ……準備は万端に整えてきました。そうです、やれることは全てやり尽くしたではありませんか。後は終幕を迎えるだけ――

[代弁者チャルニー] まったく、お笑い種ですね……あはははっ……

[企業職員] チャルニー様?

[代弁者チャルニー] これは、失礼……

[代弁者チャルニー] ……

[企業職員] チャルニー様? お電話が……?

[代弁者チャルニー] ……ええ、わかっていますよ。

[代弁者チャルニー] 申し訳ありませんが……しばらく失礼します。

[マーガレット] ……騎士としての力量はある。

[マーガレット] だが、薬の多用、そしてアーツに頼り過ぎる傾向、さらに……

[腐敗騎士] グオオ――

[凋零騎士] 俺が奴を抑える! お前は標的を始末しろ!

理性を失いかけたサルカズ騎士たちが繰り出す武器とアーツによる攻撃は、辺り一面に死の匂いを撒き散らしている。

それでも、耀騎士は微動だにしない。

[凋零騎士] ――殺せ!

[マーガレット] むっ、爆破のエネルギーで――

[腐敗騎士] ――死ね。

[マリア] させないっ――!

[腐敗騎士] グオオ……! 貴様、俺の突進を盾で? まだそんな余力が残っていたのか!?

[マーガレット] マリア、そんなことをしたらケガが――

[マリア] お姉ちゃん……! 前に言ってたよね、騎士は弱者を守るために盾を手に取るんだって……そうでしょ?

[マリア] でも、今この場には――

[マリア] ――お姉ちゃんが守らなきゃいけないような弱者はいないよ!

[マーガレット] ……!

[マリア] 私がお姉ちゃんの盾になる、だから――

[凋零騎士] どいてろ、こいつらまとめて粉々にしてやる!

[マリア] ――全力を出して!

[腐敗騎士] グオオ……盾を捨てたぞ! お前のアーツはどうした!

[凋零騎士] ……あり得ない……あの戦鎚はただのアーツユニットのはず……奴は……

[マーガレット] マリア……準備はいいか?

[マリア] うん!

[マーガレット] ……騎士とは!

[マリア] 大地を照らす崇高なる存在だ!

[ビッグマウスモーブ] 戦場に飛び込んできた耀騎士ですが、少し交戦しただけで盾を手放しました! ……いやわざと捨てたのか? あ、あれは!!

[ビッグマウスモーブ] かつて耀騎士が、両手持ちのウォーハンマーで大会を席捲したのを覚えているでしょうか!? 今のあの姿、盾を捨てウォーハンマーを掲げるスタイル! あれこそが耀騎士の真骨頂です!

[ビッグマウスモーブ] 幾重もの警備を突破した耀騎士! 帰ってきた伝説! ですが試合が終了次第、国民議会に連行されてしまうかもしれません! 耀騎士の雄姿を目に焼き付けられるのは今だけです!!

[左腕騎士] あのアーツ……あの輝きは……

[左腕騎士] なぜ貴様は堂々とそのような光を放てるのだ……? 不遜なヤツめ――まさか本当に己を太陽だとでも思ってるのか!? 耀騎士よ!

[シャイニング] マーガレットさんが盾を手放す姿を見るのは、久しぶりですね。

[ナイチンゲール] あの光……焼けつくように熱いです。

[ナイチンゲール] 大丈夫、ですよね?

[シャイニング] あの状態になった耀騎士が失敗したところなんて、今まで見たことがありませんよ。

[ナイチンゲール] あの子、ニアールさんと似ていますね。

[シャイニング] えぇ、彼女の妹です。

[シャイニング] ふふっ……なんて可愛らしい騎士なんでしょう。マーガレットさんとそっくりです。

[凋零騎士] ……矢が……尽きた!

[腐敗騎士] グオオ――! アーツを使え!

[マリア] アーツを矢の代わりにするつもりだね……でも大丈夫、防いでみせるから!

[マーガレット] あぁ、後は任せておけ。

[凋零騎士] くそっ! 貫けない――忌々しい光め!

[ゾフィア] ……

[禿頭マーティン] ……観客たちがやけに静かだな。

[禿頭マーティン] あのサルカズたちは強い……コンビネーションも息が合っている。見た目ほどマーガレットは優勢なわけじゃない。

[ゾフィア] でも、マーガレットが負ける気は全くしないわ……あの子が劣勢だなんて、微塵も感じない……

[禿頭マーティン] マーガレットの戦いは人を魅了する……優雅な佇まいとあの光が、さらに高揚感を与えるんだ……

[禿頭マーティン] ニアールの旦那様が若かった時を思い出すよ。

[ビッグマウスモーブ] な、なんということでしょう! 摩訶不思議です!

[ビッグマウスモーブ] 耀騎士がハンマーを振り下ろす度に放たれる光が、相手のアーツをかき消しています! 彼女が踏み越えた地面の亀裂までもが、光り輝いているではありませんか!

[ビッグマウスモーブ] なんとまばゆいアーツなのでしょう! なんと素晴らしい戦闘技術なのでしょう!!

[ビッグマウスモーブ] これこそが王者の技! 真の騎士の実力――!!

[マリア] わぁ……傷口の痛みが引いていく……これもお姉ちゃんのアーツ?

[マリア] (あんな攻防を繰り広げながら私の傷まで気にかけてくれるなんて――)

[腐敗騎士] グオオ――! 俺のハンマーが……!

[腐敗騎士] 武器が駄目なら、この両腕を使うまで。その体を引き裂いてやる!

[凋零騎士] 殺せ!

[マーガレット] ……

お姉ちゃんの表情、何か変だな。どこか……哀しんでいるみたい。

あのサルカズたちの行動に? 彼らが騎士と呼ばれてることに? それとも……彼らの境遇を嘆いているの?

[マーガレット] ……マリア。

[マリア] えっ、うん!

[マーガレット] 援護は頼んだ。

[マリア] ――うん!

[腐敗騎士] お前もかかれ!

[凋零騎士] わかっている!

[マーガレット] 懺悔するがいい。

[腐敗騎士&凋零騎士] ――

[マーガレット] ――

その瞬間、競技場は水を打ったように静まり返った。

試合の決着に沸く歓声も、勝者の雄叫びも、敗者の嘆きも――何も聞こえない。

サルカズたちは地面に膝をつけども、まだ倒れてはいない。しかし耀騎士は、それ以上は不要とばかりに武器を下ろした。

彼女は二人のサルカズを見下ろすと、次の瞬間、片膝をついて手を差し伸べた。

[腐敗騎士] ……

――サルカズは何の反応も見せない。

[マーガレット] ……己の運命を諦めるべきじゃない。

[腐敗騎士] いいや……

[腐敗騎士] ……

二人の前で跪く姿が屈辱であるかのように、サルカズたちは口を閉ざしたまま微動だにしなかった。もはや、立ち上がる力も残っていないようだ。

耀騎士は、軽いため息とともに立ち上がると、後ろを振り返った。

[マーガレット] マリア。

[マリア] え、えっ……?

[マーガレット] 私たちの勝利だ。

[ビッグマウスモーブ] 信じられません! 誰が信じることなどできるでしょうか!?

[ビッグマウスモーブ] かくいう私でさえ信じられないのですから! 突然、乱入してきた耀騎士と、試合を中断させることなく全てを了承した騎士協会! あぁ神よ! 私はこの光景を何と喩えれば――

[ビッグマウスモーブ] 私の長いMC人生でも、こんな状況は初めてです! 国民議会が今回の乱入をどう処理するのかはわかりません。しかし、それも今この瞬間の勝利には関係のないことです!!

[ビッグマウスモーブ] 今ここに――

[代弁者チャルニー] (モーブさん。)

[ビッグマウスモーブ] (……あぁ、待ちくたびれましたよ!)

[ビッグマウスモーブ] これを宣言できることを心から光栄に思います!!

[ビッグマウスモーブ] (代弁者さん、なんと宣言したら良いでしょう?)

[代弁者チャルニー] (構いません。勝利を認めてください。)

[ビッグマウスモーブ] 勝者は! 若き奇跡の騎士、マリア! そして、遥か彼方の地から戻りしペガサス! 誰もが知る耀騎士、マーガレット・ニアール!

[代弁者チャルニー] (素晴らしいですよ、モーブさん。人々の気持ちを高揚させるそのMC、称賛に値します。)

[代弁者チャルニー] (ひとまずこの場を保たせてください、すぐに現場担当が場を鎮めますから。)

[ビッグマウスモーブ] さぁ、二人に大きな声援を送りましょう――!!

[ゾフィア] ――

[禿頭マーティン] ゾフィア!? どこに行くんだ?

[老職人] マーティン! おい、皆どこにいるんじゃ――ん、あ、あれは?

[老騎士] ほ、本当にマーガレットなのか……? しかし何故、マーガレットが戻ってきておるんじゃ?

[老騎士] 何と言おうと彼女は追放者じゃろう? わしらに連絡もなしにこんな――

[禿頭マーティン] 落ち着くんだ。ムリナールなら何か知っているかもしれないが……今はひとまずここを離れなければ。

[禿頭マーティン] 記者と観客たちはすぐに出入口に殺到するだろう。まずは道を――耀騎士を連れて帰る道を探すんだ。

[観光客] あれが……耀騎士!! 前々回のチャンピオン、耀騎士か!!

[観光客] どけ、どけ! 写真を撮らせろ!!

[ビッグマウスモーブ] 皆様、観客の皆様! どうか冷静になってください! 何が起きようと、我々は試合を合法的かつ滞りなく進める義務があります!

[ビッグマウスモーブ] (次はどうする!? 代弁者が見当たらない? バカ! VIP席を探すんだよ――!)

[ビッグマウスモーブ] 待ってください! あれは……鞭刃騎士! 鞭刃騎士が観客席から壇上に乗り込み、耀騎士めがけて一直線――

[マーガレット] ゾフィ――

[マリア] えっ――! ゾ、ゾフィアおばさん?

[ゾフィア] どうして……今頃戻ってきたのよ!?

[ビッグマウスモーブ] ――か、彼女は今、ひょっとして耀騎士にビンタを……? え? あれ? ちょっと待ってください、今のシーンも一面を飾る絵になる――

[マーガレット] 申し訳ない。だが、確かに戻ってきた。

[ゾフィア] ……今のビンタは、マリアの代わりだから。

[マリア] ええっ――!?

[ゾフィア] 私の分はいいわ。

[マーガレット] そうか、手加減してくれてありがとう。だが……今使ったのは右手だな……利き手はどうしたんだ?

[ゾフィア] ……その話は後にして。君が急に現れたせいで、ここはもうパニック状態よ。追放者が堂々と戻ってくるなんて、国民議会が黙っていないわ。

[ゾフィア] 記者や役人が駆けつけてくる前に、早くここから逃げないと。

[マリア] い、今すぐ? でも、試合後のインタビューとか――

[ゾフィア] そんなのに構ってる場合じゃないわよ! 彼女が会場に乗り込んできたことは、試合なんかよりもずっと大ごとなの!

[ナイチンゲール] ニアールさん。

[マーガレット] リズ、足元に気をつけろ!

[マーガレット] ……そんなに心配しなくてもいい。ほら、手を。

[ゾフィア] このサルカズの二人は……?

[マーガレット] 安心してくれ、私の戦友だ。シャイニング、手を貸してくれないだろうか?

[シャイニング] はい。

[腐敗騎士] ……!

[腐敗騎士] ん……気絶していた? ……これは、治療アーツ?

[腐敗騎士] な……何者だお前は!?

[腐敗騎士] サルカズか? お……お前! ありえない、お前が俺の治療を?

[シャイニング] 二人とも酷い怪我ですが、この試合によるものではないようです。たとえアーツを使っても、薬物が残した痕跡までは消すことはできません。どうか、ご自愛ください。

[腐敗騎士] 退け――触るな! グオオ……

[腐敗騎士] 俺は……!

[腐敗騎士] ま……待て、お……お前は――

[シャイニング] ――ニアールさん。

[マーガレット] ああ、わかっている。

[マーガレット] 無冑盟の刺客が二人ほど私たちを監視していた……のんびり勝利を祝う暇はない。

[ゾフィア] 無、無冑盟? 君はいったい――

[ナイチンゲール] 逃げますか、ニアールさん?

[マーガレット] いや……

[マーガレット] 勝利した騎士が恐れおののく必要はない。私たちを止めるつもりならば、やらせておけばいい。

[ナイチンゲール] ニアールさん、あそこ。

[マーガレット] ああ……コーヴァルさんとフォーゲルヴァイデさんだな。こちらに手を振っているが、何か見つけたのか?

[ゾフィア] そんなの逃げるルートを確保してるのに決まってるじゃないの!

[ゾフィア] 私とあの三人で観客の波を抑えるから、さっさとここから逃げて。でもこの後、国民議会は必ず君たちの家に向かうはずよ。そこからはもう、君たちだけで解決策を考えるしかないけど――

[ゾフィア] ――マーガレット!

[マーガレット] ん?

[ゾフィア] 帰ってきてくれて……よかった。本当に。

[ゾフィア] あとで、いつもの場所に集合よ。遅刻厳禁。

[マーガレット] ああ……もちろんだ。

[ナイチンゲール] あれは……ニアールさんの家族でしょうか?

[シャイニング] そうでしょう。彼女が帰ってきたことを喜ぶ気持ちが、私たちにも伝わって来ました。

[シャイニング] ですから、しばらくついて回るのはやめましょう。どのみち、このカジミエーシュで耀騎士に手を出せる者などいないのですから。

[ナイチンゲール] はい。

[シャイニング] 私たちは……アーミヤさんたちと合流しましょう。

マーガレットは真っ直ぐ顔を上げた。

彼女はかつて、この土地を何より憎んでいた。

[マーガレット] ……マリア。

[マリア] え?

[マーガレット] ……帰ろう、私たちの家に。

しかしここは、彼女のたった一つの故郷なのだ。

[代弁者チャルニー] ……

[プラチナ] ……来たね。いつも一緒にいるあのコバンザメは?

[代弁者チャルニー] ……彼は後任者です。

[プラチナ] へぇ……残酷だね。

[代弁者チャルニー] やめましょう。それよりも、答えを聞かせてください。

[プラチナ] ずいぶんあっさりしてるんだね……もうわかってるくせに、聞く必要なんてないんじゃない?

[代弁者チャルニー] ……

[プラチナ] もしかしたら、もっといい人生が送れるかもしれないよ。

[代弁者チャルニー] いや……私は流刑地の荒野で野垂れ死ぬでしょう。もしかすると、あなたが手を下すことになるかもしれませんね。

[プラチナ] ……そうだね。その時は恨まないで。

[代弁者チャルニー] もちろんです。

[プラチナ] アンタの流刑手続きは国民議会を通さないから、今晩中に出ていってもらうけど、何か今のうちに言っておきたいことは?

[代弁者チャルニー] ……

[代弁者チャルニー] シェブチックには、まだ息子がいます。事件発生当時も、その場にいたはずです。

[プラチナ] うん。

[代弁者チャルニー] あなたにお願いしたいのは……

[代弁者チャルニー] 彼が真相を告げる機会を潰していただきたい。永遠に――

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