aklib_story_ドッソレスホリデー_DH-1_思いがけぬ参戦_戦闘後

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ドッソレスホリデー_DH-1_思いがけぬ参戦_戦闘後

チェンとユーシャは、チームを組んで大会に参加することにした。一方で、ホシグマとスワイヤーもまた、ドッソレスへとやってきていた。 武器屋の中で、エルネストはチェンとユーシャに大会の具体的なスケジュールを説明する。


[ホシグマ] お嬢様。もうこの都市に滞在して何日も経ちますが、本当にリンお嬢さんを探すつもりはあるんですか?

[ホシグマ] 確か、見つけたらこっそり忍び寄って驚かせてやるとか言ってましたよね?

[スワイヤー] んー。アンタも、アイスクリーム食べる?

[ホシグマ] トリプルでお願いします。フレーバーはミントに、ストロベリー、それからチョコレートで。

[スワイヤー] あのねえ、遠慮ってものを知らないの? 太るわよ。……そうね、まあいいわ。

[スワイヤー] おじさん、注文いいかしら? アイスクリームを二つちょうだい。フレーバーは「バニラ」にストロベリー、チョコレートのトリプルと……もう一つは、その三つにレモンを追加で。

[店主] はいよっ。

[ホシグマ] その食べっぷりで、よく「太るわよ」なんて言えましたね。

[スワイヤー] あら、アンタこそ、誰のお陰でVIP待遇を楽しめてるのか忘れないことね。このアタシがいたから、ユーシャと違って公式的な手順を踏まなくてもここへ来られたんじゃない。

[スワイヤー] ふふふっ! きっとアイツは、まだドッソレスに辿り着いてもないわよ。

[スワイヤー] バカンスは長いんだし、ゆっくり待ちましょ。

[スワイヤー] それにしても、あのネズ公……アタシに黙ってこんな素敵な場所でバカンスを過ごそうだなんて! 見つけたら、ぜーったいタダじゃおかないんだから。

[ホシグマ] はぁ……お嬢様。何を代償にこのバカンスを手に入れたのか、忘れないでくださいね。

[スワイヤー] はいはい。全有給を消化して、帰ったら一ヶ月間は週休一日勤務になるってだけでしょ。そのくらい大したことじゃないわ。

[ホシグマ] ほう、そうですか? あなたのお目付役で来た私も、お陰で休暇がすべてふいになったんですがね。

[スワイヤー] そんなの、帰ったら埋め合わせてあげるわよ。

[ホシグマ] はいはい。

[ホシグマ] ……うん?

[ホシグマ] あっ……えっ?

[ホシグマ] は!?

[スワイヤー] 何? もしかしてアイツ、もう来てたの?

[ホシグマ] それもあるんですが……彼女と一緒に、予想外の人まで目に入りました。

[スワイヤー] 予想外の人って一体誰のこ……

[スワイヤー] ――は?

[店主] はいよっ、アイスクリームお待ち……って、ありゃ? 何だ、どうした? おーい。アイスが落っこっちまうぞ、お二人さーん!

[チェン] ……まったく、どうしてこんなことになったんだか。

[エルネスト] ぜぇ……はぁ……や、やっと見つけたぁ……

[エルネスト] ほんと、もう……見つけられないかと、思ったよ……ふー……もしあの時、道端のテレビに二人が映り込んでなかったら……

[エルネスト] ふ、二人とも……はぁ……人を追いかけてた、はず……だよね? なのに、なんで……予選会場に、来てるの……?

[ユーシャ] 間違えたの。

[エルネスト] とはいえ、勝っちゃったんでしょ。どうする? いっそのことお二人でチームを組んで大会に参加しちゃう?

[ユーシャ] もちろん。でも、彼女とは組みたくないわ。

[チェン] 奇遇だな、私も同意見だ。

[ユーシャ] チェン・フェイゼ、あなたほかの予選に出なさいよ。

[チェン] これが最後の予選である以上、それは無理な相談だな。

[ユーシャ] あら、そう。どうやら、まずは私たちで白黒つけなきゃいけないみたいね。

[エルネスト] あのー、二人とも? ……多分今、街中のほとんどの人が、画面越しにこのやり取りを見てると思うよ。

[エルネスト] ここはやっぱり一緒に参加した方がいいんじゃないかな。そうすればお互い助け合うこともできるだろうし……

[ユーシャ] ……

[チェン] ……わかった。そうしよう。

[エルネスト] うんうん、俺もお手伝いするからさ。

[エルネスト] なんたって俺は今回のガイド役なんだし……二人が大会に参加してるのに、俺は不参加だったなんてことになれば、間違いなく市長からお咎めを受けるだろうしね。

[エルネスト] もちろん、純粋な戦闘力じゃ二人には敵わないけど、俺は地元民だから、きっと何かしらの形で役に立てるはずだよ。

[チェン] 今からメンバーを増やしても、問題はないのか?

[エルネスト] 大丈夫、チームの人数は七人までってルールだから。本選開始までに登録を済ませられるなら、予選に勝った後にチームメイトを探しても構わないってことになってるんだ。

[エルネスト] 実際、人数が多いほど試合を有利に進められるものだしさ。

[チェン] 確かに、多いに越したことはないだろうな。お前も異存ないか? リン・ユーシャ。

[ユーシャ] 好きにすれば。

[エルネスト] じゃあ、決まりだね。本選まではあと二日あるし、もう少しチームメイトを探してもいいけど……

[チェン] 必要ない。私たち三人で十分だ。

[スタッフ] すみません、準備が整いましたので……そちらのお二人、ステージに上がっていただけますか?

[チェン] ああ、もう一人足してくれ。今、三人になったところでな。

[予選司会者] それでは皆様、本予選の勝者に盛大な拍手をお送り下さい!

[予選司会者] 割れんばかりの大声援、ありがとうございます! ――さて、お三方に伺いましょう! チーム名はもうお決まりですか?

[チェン] どうする?

[ユーシャ] ……あなたが決めて。

[チェン] なら……『龍威鼠心』、にしようか。

[ユーシャ] ……………………

[チェン] 何だその顔は。決めろと言ったのはお前だろう。

[ユーシャ] 確かに言ったけど……はぁ、覚えておきなさいよ……

[予選司会者] えー……わかりました! チーム『龍威鼠心』、ですね! それでは早速ですが、お二人にはこれより、パンチョさんから予選突破の賞品が贈呈されます!

[パンチョ] ……カンデラは実に素晴らしい若者たちを招いたものだ。

[チェン] 我々のことをご存知なのですか?

[パンチョ] 市長が龍門から二人の若者を招いた、というのを知らん者などいないさ。

[パンチョ] エルネスト。お前も、お客人たちをしっかりともてなしているだろうな?

[エルネスト] もちろん。これはカンデラさんから与えられた任務なんだから、精一杯やってるに決まってるだろ? 親父。

[パンチョ] そうか。それならいいんだが。

[チェン] お二人は親子なのですね。

[パンチョ] ああ、ご覧の通りな。

[パンチョ] さて、これが賞品だ。受け取ってくれ。

[ユーシャ] ……この像、純金製だわ。

[チェン] 予選を通過しただけで、ここまでの賞品を?

[パンチョ] そうとも。これがドッソレスシティのやり方なんだ。

[パンチョ] では、この後も楽しんでくれたまえ。若者よ。

[チェン] ……ありがとうございます。

[予選司会者] 『龍威鼠心』の皆さんからは、今後も目が離せませんね! 本選での活躍を大いに期待しましょう!

[ホシグマ] あっははは、はは、はははっ……く、あははは! お嬢様、き、聞きましたか? 『龍威鼠心』ですって、あはは、ははははっ!

[スワイヤー] ちょっと、笑うならもっと静かに笑いなさいよ。

[ホシグマ] だって、リンお嬢さんのあのふてくされた顔見てくださいよ。これ絶対チェンが即席で付けた名前じゃないですか……あははっ!

[スワイヤー] ――ねえ、そんなことより! どうしてチェンの奴までここにいるのよ! しかも二人で大会に参加してるなんて……まさかあのネズミ、チェンがここにいるって知ってたから来たのかしら?

[スワイヤー] ……ふ~~ん……そう。いい度胸してるじゃないの、ユーシャ。そんなことまでアタシに隠してたなんて……

[ホシグマ] おっと、お嬢様。そう興奮なさらずに。

[ホシグマ] リンお嬢さんの件は、ウェイ長官が手配されたことだってあなた自身が言ってたじゃないですか。となれば、チェンがここにいるのもきっと長官の手配によるものだと思いますよ……恐らく、ですが。

[スワイヤー] ……いいわ。確かに、アンタの言うのも一理ある。

[ホシグマ] それで、どうします? リンお嬢さんは既に到着していて、チェンも一緒みたいですし、挨拶しに行きますか?

[スワイヤー] ……いいえ、もっといい考えがあるわ。

[スワイヤー] あの二人、チームを組んであの大会に参加するんでしょ? だったらちょうどいいじゃない。

[スワイヤー] 大会は全行程ライブ中継されるみたいだし、今は挨拶なんて行かずに大会を見物するわよ。それで、二人が負けたらすぐに会いに行って……思いっきり笑ってやるんだから!

[ホシグマ] はは、あなた、チェンのことも恨んでるんですか?

[スワイヤー] ふんっ! だって、アイツまでアタシたちに黙って遊びに来てるなんて許せないじゃない! アンタはムカつかないの?

[ホシグマ] チェンが元気にやっているのはいいことですからね。私はそれだけでとても嬉しく思いますよ。

[スワイヤー] はぁ……アンタに言っても無駄だったわね。で、アタシの考えには賛成なの? 反対なの?

[ホシグマ] 今の私は、あなたのボディーガードですよ。何でも仰る通りにいたしましょう。

[スワイヤー] そう、ならいいわ。

[ホシグマ] ですが、途中で二人にばったり出くわしたとしても、私のせいにしないでくださいね。

[スワイヤー] あら。それは出くわした時に考えるわよ!

[興奮した女性観光客] ねぇ、見て! あれってさっき大乱闘予選で勝ち残った二人よね?

[熱狂的な男性観光客] 『龍威鼠心』、頑張れよ! お前たちに賭けるからさ!

[チェン] ……

[エルネスト] それじゃ、この後はまず……

[チェン] エルネスト。この都市では、軍人らしい者をよく見かけるな。

[エルネスト] ああ……うん。実際問題、誰もがドッソレスに来られるわけじゃないからね。

[エルネスト] ここでバカンスを過ごしたければ、まとまったお金が必要になる。さらに言うと、ドッソレスに住もうと思ったら、かなりの大金が必要になるんだ。

[エルネスト] そんなわけで、それをどうやって稼ぐかっていうと……ボリバルで二番目に儲かる仕事は、ここでバイトをすることでね。そして、一番儲かる仕事っていうのが、軍人になることなんだよ。

[チェン] キミの父上も、軍人だろう?

[エルネスト] うん、昔の話だけど。確か……大佐にまでなったって聞いたかな。

[チェン] 大佐か。申し分のない階級だが……

[エルネスト] なのにどうして親父はドッソレスへ来たのか……やっぱり、気になるよね。

[チェン] ああ。少し興味がある。

[エルネスト] まあ、大した話じゃないんだけどさ。……親父は頑固者でね。一日中戦争のことばっかり考えてて、上の人のご機嫌取りをするのも嫌うタチでね。それが原因で嵌められて、軍を追放されたんだよ。

[チェン] それは……気の毒に。

[エルネスト] いやいや。俺も親父がバカだったと思ってるしさ。

[エルネスト] ……力もないのに偉ぶったって、何の意味もないのにね。

[チェン] ……キミの言う通りかもな。

[ユーシャ] あら、あなたなら反論するかと思ったのに。

[チェン] 本音を言えばそうしたいところだが、まだこの地のことも、ボリバルのことも、理解したとは言えないしな。無闇な反論もできん。

[エルネスト] まあ、親父もここに来てからは大分まともになったんだよ。そうでなきゃ、俺が市長の下で働くなんて到底無理な話だし。

[エルネスト] そういえば、二人がドッソレスに来てから、もう二日経ったけど……この街に抱いた印象について聞いてもいいかな?

[チェン] 腐敗しているな。

[ユーシャ] どこもかしこも、いやな臭いだわ。

[チェン] ……

[ユーシャ] ……珍しく、同じ意見みたいね。

[エルネスト] あれっ? おかしいなあ。市長のお客様なら皆この場所を気に入ると思ってたのに。

[ユーシャ] あなたはどうなの?

[エルネスト] 俺? 俺はもちろん、この場所が好きだよ。

[エルネスト] ここにいれば、街の外の状況なんて何も考えなくていいし……お金さえあれば、一日中遊んで暮らせるしね。

[エルネスト] 二人が龍門でどんな生活を送ってきたのかは知らないけど、俺はここで過ごすよりいい生活なんてないと思ってるよ。

[ユーシャ] ふうん、そう。

[チェン] ……ところで、この大会では、先ほどあった大乱闘予選のように選手同士の衝突が頻発するものなのか?

[エルネスト] ああ、うん。そうだよ。

[エルネスト] チェンさんたちの地元にも、似たようなイベントがあるかはわからないけど、この大会は身体能力がものをいう競技ばかりなんだ。

[エルネスト] でも実際のところ、観客たちが求めてるのは、単なる力比べじゃなくてね。

[エルネスト] この都市の人の多くは、とにかく刺激を求めてるんだ。だから彼らが見たいのは、さっき二人が見せたような……エキサイティングな戦いなんだよ。

[ユーシャ] つまり、街中の人たちに血なまぐさいお楽しみを提供してあげるのが私たちの役割、ってことね。

[エルネスト] ハハハッ。確かに、そうとも言えるかな。

[ユーシャ] ほんと、くだらないわ。

[チェン] 同感だ。しかし、参加するからには準備をしておこう。

[チェン] エルネスト、大会の具体的な流れを詳しく教えてくれ。

[エルネスト] オッケー、任せといて。

[チェン] それと、武器を扱う店がどこにあるかも聞きたいんだが、知っているか?

[エルネスト] もちろん、知ってるよ。新しい武器が必要なのかな?

[チェン] ああ。試合中、先ほどのような戦闘が頻発することになるのなら、武器を変えなければと思ってな。

[エルネスト] なるほどね。そういうことなら、俺についてきてよ。ここだと話しづらいからさ。

[エルネスト] さぁどうぞ、入って。

[チェン] ここは……キミの店か?

[エルネスト] ご明察〜。しかも、チェンさんお求めの武器屋さんだよ。

[エルネスト] 俺はこの街に、こういう店をいくつも持ってるんだ。まあ、いわゆる収入源ってやつだね。

[エルネスト] 基本的に、どんな武器でも取り揃えてるけど……チェンさんは、どうして武器を変えなきゃって思ったの?

[チェン] 私の剣は、この手の競技には適さないのでな。

[エルネスト] うーん……正直、その剣で参加しても問題ないと思うけどな。

[エルネスト] もっとヤバい武器だとか、過激な手段を使ってくる奴なんていくらでもいるし。それに比べたら、剣の一本くらいなら大して危険でもないでしょ。

[エルネスト] 要するに、チェンさんが使わなくたって、ほかの人たちは危ない武器を使ってくるんだよ。……それでも変えるの?

[チェン] 構わんさ。私は手加減するのが苦手でな。

[チェン] だから、あまり相手を傷つけないような武器が欲しいんだ。

[エルネスト] うーん、それなら……この高圧水銃なんてどうかな。

[チェン] 水銃?

[エルネスト] そう。これはちょっと変わった武器でね。高圧の水を弾丸として発射することで、相手に大きな衝撃を与えるって仕組みなんだ。重傷を負わせることもないし、ちょうどいいかなって。

[エルネスト] クロスボウが扱えるなら、イケると思うけど、使ったことある?

[チェン] いいや、だが射撃の授業なら、悪くない成績ではあった。

[エルネスト] それならコレ、試してみるといいよ。

[エルネスト] でもその前に、大会について詳しく説明しておくね。

[エルネスト] この大会の正式名称は「ドッソレスウォーリアーチャンピオン」っていうんだ。

[エルネスト] 開催範囲は都市全域。大会の様子を一瞬も逃さないようにって、市長が大量のドローンとカメラ、それから飛行ユニットを購入して、稼働させてるよ。

[エルネスト] あれだけ用意しておけば、街で一番薄暗い路地の片隅だろうと、見逃すことはないだろうね。試合が始まったら、各チームの密着撮影をする専用のドローンも放たれる予定だし。

[エルネスト] もちろん、テレビでも各地の様子を色んなチャンネルで放送して、市民たちが好きなチームやコンテンツを見て楽しめるようになってるんだ。

[ユーシャ] うんざりするほど周到ね。

[エルネスト] こういうことに関して、カンデラさんはとことんやる人だからさ。

[エルネスト] 話を戻すね。……本選が始まる前に、まずは十日間の予選がある。二人がさっき参加したあれもその一つだよ。

[エルネスト] 都市の各地で毎日、二つから三つの予選が行われるんだ。

[ユーシャ] どれもさっきみたいな乱闘形式なの?

[エルネスト] いや、それが……運がいいのか悪いのかって感じだけど、二人が乱入した大乱闘予選っていうのは、この中で一番危ない競技でさ。

[エルネスト] 実はこの予選って、色んな試合形式で用意されててね。例えば大食いに競歩、それからレースとか……ともかく、大乱闘はその内容から、最も危険とされているんだよ。

[ユーシャ] でも、その分見返りは大きいってことね?

[エルネスト] その通り。ほかの予選を勝ち抜いたとしても、報酬は当然さっき二人がもらった純金像ほどは豪華じゃないよ。

[エルネスト] だからこそ、一番危険な大乱闘に皆こぞって参加するんだ。

[チェン] 待て。先ほど、本戦の試合中にも選手同士の衝突が頻発すると言っていただろう。それなら、ほかの予選を勝ち上がった選手たちは……

[エルネスト] いやあ、さっきのリンさんの反応もそうだけど、チェンさんの今の発言も……つくづく、お二人って本当に頭のいい方たちだなあ。

[エルネスト] チェンさんが心配してるのは、エンタメ色の強い予選で勝ち上がった人にとって、本戦は不利なものになるんじゃないかってことだよね。

[エルネスト] 結論から言うと、確かにその通り、不利にはなってしまうよ。

[エルネスト] さっきも言ったように、観客たちが求めてるのは単なる力比べじゃなく、より刺激的な戦いだからさ。詰まるところ……弱い人はさらなる脅威に直面することになるね。

[チェン] ……ふん。

[エルネスト] でも、そんなに心配しなくても大丈夫。市長もその点を考慮して、大会規則にとあるルールを加えたんだ。

[チェン] ルール?

[エルネスト] お二人とも、こう考えたりはしなかった?

[エルネスト] 大会はアーツを制限していないよね。それなら、もしもレースに参加する誰かが、アーツを用いて自分の身体能力を上げ、とてつもない速度で移動することができたとしたら――

[エルネスト] ――さらに言えば、一瞬にしてゴールに辿り着けたとしたら。ほかの人からしてみれば、打つ手なしだって。

[ユーシャ] そういう人は必ずいると思ってたけど。

[チェン] まさか、いないわけがないだろう? そうでなくとも、クランタなどはレースにおいてほかの種族より大分有利になるだろうし……

[エルネスト] うん、実際はもちろん存在するよ。だから、市長は選択権を観客に与えることにしたんだ。

[ユーシャ] 本当の勝者が誰かを決めるのは観客、ってこと?

[エルネスト] より正確に言うと、「勝者に相応しくないのは誰か」を決めるって感じだね。

[エルネスト] 試合の各ラウンドが終わるごとに、観客の投票時間が設けられるんだけど……これが重要でさ。たとえ試合に勝ったとしても、獲得票数によっては、結果が覆ることだってあるんだ。

[エルネスト] 当然、見事な勝利を収めれば問題はないよ。

[エルネスト] でも、つまらない方法で勝った人は、脱落する可能性が出てくる。一方で、誰もが感心するような方法を用いたのにも関わらず、勝利を逃してしまった人には、復活のチャンスがあるってわけ。

[エルネスト] もちろん、必ずそうなるとは限らないけどね。

[エルネスト] だから、最後の最後まで誰が勝つかはわからないんだ。

[チェン] あくまで「方法」を重視すると?

[エルネスト] そう、大事なのは戦う事だけじゃなくて、どう戦うかだよ。

[エルネスト] 鮮やかな戦いっぷりを見せられるなら、もちろんそれは王道だし、そうじゃなくて、皆の予想を超えた行動を取るのも、注目を集める手段としてはアリだね。

[エルネスト] 戦いだけですべてが決まるわけじゃない。これが、戦闘の不得手な選手向けに大会が用意したルールなんだ。

[ユーシャ] 多分、それはカジミエーシュから学んだことでしょうね。

[チェン] 確かにな。騎士競技にも似たようなルールがあったはずだ。

[エルネスト] お二人は本当に物知りだね。カンデラさんは何度もカジミエーシュに足を運んでるんだよ。聞くところによると、龍門との貿易協定もそこで結んだんだって。

[チェン] ……ウェイもそこに行っていたわけか。

[エルネスト] おっと、話が逸れちゃったね。何はともあれ結局は強者有利なルールだから、予選の賞品だけを求めて大会に参加して、本選は棄権するって人もたくさんいるんだ。

[エルネスト] そういうわけで、毎回本選に参加するチーム数は変わってくるんだよね。

[エルネスト] まあ要するに、これは無差別級、制限なしの試合で、どんな方法で勝利したって構わない。ただし、勝者は街中の観客から認めてもらう必要があるってこと。

[チェン] 私は、試合の勝敗にそこまで興味はない。

[エルネスト] わかってるって。お二人の目的は、大会に参加してカンデラさんから頼まれた調査をすることでしょ。俺も手伝うよ。

[ユーシャ] 初戦で負けたりしたら、調査したくてもできなくなるってこと、忘れないでよね。

[チェン] わかっているさ。

[エルネスト] ハハッ、それは確かに。っと、そうそう。お二人とも気付いてるとは思うけど、人気争いも大会全体に影響してくるからね。予選の時から戦いはもう始まってるよ。

[エルネスト] その点で言うと、一番危険な大乱闘に途中から乱入した挙句、トップに躍り出たお二人は、今最も注目されているチームだろうね。

[エルネスト] せっかくだから、優勝を目標にして大会を楽しんでみるのもいいと思うよ。

[ユーシャ] 状況次第ね。それより、大会の具体的なスケジュールを教えてちょうだい。

[エルネスト] オッケー。

[エルネスト] こっちへ来てくれる? 地図を使って説明するから。

[エルネスト] ――本戦の試合は全部で3ラウンド。

[エルネスト] 第一ラウンドは、住民の避難が完了したあとの住宅地を舞台に、金塊探しをするんだ。

[エルネスト] このエリアには、合計20個の金塊が隠されててね。参加チーム各位は、最低でも1個の金塊を探し出して、ゴール地点にいるスタッフに渡せばクリア……ってルールだよ。

[チェン] 住宅地でやるのか?

[エルネスト] そう。大会期間中、この地域の住民は一時的にほかの地域のホテルへ滞在することになるんだ。もちろん費用は市政府持ち。

[エルネスト] しかも、大会によって生じた家屋や施設の損害についても、市政府がすべて費用を負担することになってるし……

[エルネスト] だから、ほとんどの市民はこの大会を楽しく見物してるんだ。中には家をタダで建て直したいから、選手が壊してくれたらいいのに……なんて思ってる人もいるくらいだよ。

[チェン] ……

[ユーシャ] 金塊を探し、奪い合い、そしてそれをゴール地点まで運ぶ……なるほど、確かに衝突は避けられないわね。

[エルネスト] その通り。金塊を探す人もいれば、誰かから奪う人もいる。かと思えば、まずライバルを減らしにかかるって人もいるっていう競技だよ。

[エルネスト] で、金塊すべてがスタッフの元に集まるまで、第一ラウンドは終わらない。

[ユーシャ] 私の推測が正しければ、集めた金塊も賞品の一部になるのよね?

[エルネスト] ご明察。より多くの金塊を手に入れるため、あえてすぐには渡さないで、金塊を集めてからゴールするのも当然オッケーだよ。まあ、相応のリスクが伴うけどね。

[ユーシャ] じゃあ、たとえば、私が一人ですべての金塊を手に入れたら、どうなるのかしら?

[エルネスト] うーん……確かに、理論上は可能ではあるけど……実際に起きたことは一度もないからなあ。俺にもわからないや。

[エルネスト] リンさんはそうするつもりなの?

[ユーシャ] 別に。そこまで興味ないわ。

[エルネスト] そっか。じゃあ、説明を続けるね。……第一ラウンドが終わると、二日間の休みがあるよ。試合を勝った人はこの間に、色んな関連番組や富豪たちの開くパーティーに招待されるんだ。

[エルネスト] これも、大会以外の場で人気を高める手段の一つだね。

[エルネスト] その休みが終わったら、第二ラウンドだ。試合内容はというと……伝統的な競技だし、多分馴染み深いんじゃないかな? ――そう、トライアスロンだよ。

[チェン] ……伝統的か?

[エルネスト] 伝統的でしょ。

[エルネスト] それじゃ、コース説明をするね。まず、ビーチ沿いに海岸線を走ったあと、自転車で市街地を一周。で、ビーチのスタート地点に戻って、最後は海上ど真ん中のクルーズ船まで泳ぐんだ。

[エルネスト] もちろんこれにも、色んな勝ち方があるよ。

[ユーシャ] ランとバイクは、指定ルート通り行く必要はないとか?

[エルネスト] そういうこと! でも、近道には市長が大量の戦闘要員を投入してるからね。早く進みたきゃ強行突破で力を示せ、ってこと。

[ユーシャ] ふっ。まあ、そうでしょうね。

[エルネスト] それで……第二ラウンド終了後は、第一ラウンド終了時と同じく二日間の休みが入るよ。この二日間は比較的純粋なお休みだね。

[エルネスト] 第二ラウンドまで勝ち抜いた人は、普段ならお金持ちしか乗れないクルーズ船に乗って、船内の娯楽すべてと、全施設を無料で楽しむことができるんだ。

[エルネスト] 実際参加者のほとんどは最終ラウンドじゃなく、この二日間のバカンスを目的にしてるんだよね。

[チェン] 理由は?

[エルネスト] 簡単な話だよ。第三ラウンド……つまり大会の最終ラウンドは、超シンプルな殴り合いなんだ。

[エルネスト] クルーズ船全体を会場として、乱闘の中最後まで生き残ったチームが勝者になる。

[エルネスト] つまりこの第三ラウンドでは、小細工は一切通用しないってこと。

[チェン] なるほど。

[エルネスト] そうそう、チームの人数は七人までって言ったのは覚えてくれてるよね。

[エルネスト] 基本的に、人数が多い方ができることも多くなるんだけど……

[ユーシャ] その一方で、賞金を分け合う相手も多くなる、と。

[エルネスト] その通り! それに加えて、人数が多いからって有利になりすぎないように、「試合中は通信機器の使用は禁止」って制限が設けられてたりもするよ。

[エルネスト] だから、別行動するなら事前にちゃんと計画を立てる必要がある。バラけた結果、各個撃破されてメンバーが減るってリスクも考慮して動かないといけないんだ。

[ユーシャ] でもその代わり、同じチームの中に一人でも目標を達成した人がいれば、メンバー全員がクリア扱いになるんでしょう?

[エルネスト] うん。だから、チームの人数が多くても少なくても、メリットとデメリットが存在するってことだね。

[チェン] それで、第一ラウンドが始まるまでに、あと何日ある?

[エルネスト] 二日だね。この二日間は休みってことになってるんだ。

[チェン] そうか。では、準備を急ぐ必要があるな。

[エルネスト] それなら、奥の方へどうぞ。小型の射撃場と訓練場があるからさ。

[チェン] あちらか、わかった。

[エルネスト] リンさんは? 武器の準備は大丈夫?

[ユーシャ] ええ。私には自分のアーツユニットがあるもの。

[ユーシャ] 力を制御しきれずに、ビビって武器を換えたがる……どこかの誰かさんと一緒にしないでちょうだい。

[チェン] ……リン・ユーシャ。

[ユーシャ] あら、何かしら?

[チェン] 私はこれまで、ずっとお前に我慢をしてきた。恐らくそれは、お前も同じだろう。来い。訓練場で一戦交えるとしよう。

[ユーシャ] いいの? あなた、負けるわよ。それも無様にね。

[チェン] 言ってろ。

[ユーシャ] ふん。

[エルネスト] ……やれやれ。

[エルネスト] ――あの二人、マジで厄介な相手になりそうだな。

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