aklib_story_闇散らす火花_因果応報

ページ名:aklib_story_闇散らす火花_因果応報

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闇散らす火花_因果応報

クエルクスがカレドンに戻ったが、放火事件の手がかりを警備隊に届けに行ったスージーが黒幕の一人だった警備隊長に誘拐される。しかし謎の爆発に乗じて脱出、黒幕のベックマン議員を追い詰めてその陰謀を白日の下に晒すことができたのだった。


1097年11月26日 a.m. 9:33

カレドンシティ市外40km地点 荒野の流民居住区

荒野にて、ゴドズィンのドルイドが、背の低い墓の前で静かに佇んでいる。

[クエルクス] 「彼の者、死を欺けり。」

[クエルクス] 「彼の者、其れが得んとする勝利を奪いけり。」

[クエルクス] 「彼の者、誇らしく己が安眠の地へと向かいけり。」

彼女は高らかに声を上げ、祈りを捧げながら杖を振る。

太陽が昇る。これはテラの荒野におけるありふれた葬儀の光景だ。

[クエルクス] ほら、約束のお酒だよ。

[クエルクス] 強くはないけど、飲み過ぎないようにね。

[冷静な荒野の人] メイの分の酒はどうする?

[冷静な荒野の人] できればかけてやりたいんだが、彼女が眠ってる場所に。

[無気力な荒野の人] はぁ……そうだな。でもクエルクスがくれたものだし……

[クエルクス] 気にしないでいいよ、大地に還そう。

[無気力な荒野の人] あなたは三週間で酒ができるって言ってくれてたんだけどな。その前に亡くなるとは俺たちも思っていなかった。

[無気力な荒野の人] はぁ、残るは俺ら二人だけか。

[冷静な荒野の人] これでよし。さあ、乾杯しよう。

[無気力な荒野の人] ……乾杯。

[クエルクス] うん、乾杯。

[冷静な荒野の人] カレドンシティは相変わらず管理が厳しくてな。おかげで君を探しに行けなかったよ、クエルクス。

[冷静な荒野の人] 本当は分かっているんだけどな。私たちの病は治らないんだから、君がいたかどうかは関係ないって。私たちより先に、彼女にその時が来てしまっただけだ。

[冷静な荒野の人] ただ最期の数日、彼女はずいぶん泣いていた。

[冷静な荒野の人] はぁ、君は数え切れないほど看取ってきて、彼らがどれだけの苦しみを抱えていたかも知っているだろう。

[冷静な荒野の人] 彼女は私にアーツで楽にしてくれとすがりついてきた。だが私にはできなかった。

[冷静な荒野の人] ……そして翌日、私たちは谷底で彼女を見つけた。目を閉じて、安らかに眠っていたよ。もう涙を流さなくて済むんだ。

[冷静な荒野の人] 周囲には誰もいなかった。彼女は誰にも感染させず、私たちに影響はなかった。悪いことは何一つ起きなかったよ。でも私は……

[クエルクス] 少し寂しい、でしょ?

[冷静な荒野の人] ああ、孤独なんだ。

[冷静な荒野の人] よし、もう一杯かけてやるか。

[クエルクス] うん。

[クエルクス] あとのお酒は、生きてる人のために残しておきなよ。

[無気力な荒野の人] ああ、そうするよ。

[無気力な荒野の人] そうだ。数日前に、例の天災トランスポーター、エルバさんが来たんだ。これは彼女からあなたに渡すよう頼まれた手紙だ。

[クエルクス] 「追塵者」エルバからの手紙?

[無気力な荒野の人] そうだ。大公爵の部隊の駐屯状況を調べてくれって、彼女に依頼してただろ?

[無気力な荒野の人] ここ数日、軍の車列が北へ向かっているのをよく見かけるよ。街のお偉いさんたちは何をしようとしてるんだか。

[クエルクス] ……なんにせよ、まともなことではないだろうから、気を緩めないようにね。

[クエルクス] さてと、そろそろ戻るよ。くれぐれも体に注意するんだよ。

[クエルクス] それからこの薬を置いていくね。もう冬だし、ここもどんどん寒くなるよ。もし凍傷になったら、これを使って。

[無気力な荒野の人] 「フロストノヴァ」か……面白い名前の薬だな。

[冷静な荒野の人] クエルクス、次はいつ来てくれるんだ?

[クエルクス] うーん……はっきりとは言えないかな。

[冷静な荒野の人] そうか、わかった。

[冷静な荒野の人] またいつ会えるかわからないなら、最後に一つ訊いてもいいか?

[クエルクス] いくらでもどうぞ、まだお酒は飲み終わってないし。

[冷静な荒野の人] クエルクス、なぜ君はここまでして私たちを助けてくれるんだ? 薬だって安くはないだろ?

[冷静な荒野の人] いつも私たちのような荒野の住人に色々と聞き込みをしてるけど、君は一体誰のために働いてるんだ?

[冷静な荒野の人] 長い付き合いだし、単純に興味があってな……みんなは、君が以前軍にいたとか言ってるが……

[冷静な荒野の人] 君が誰かなんて本当はどうだっていいんだ。私たちは街の連中みたいに綺麗事ばかり並べたりしない。君がすることは私たちが生きてくための助けになってるから、何だろうと協力するよ。

[クエルクス] ん~、真面目に答える気はあるけど、君たちにとっては真実味が薄いと思うんだ。

[クエルクス] もし、感染者を助け続けている人たちがいるって言ったら、君たちは信じる?

1097年11月28日 p.m. 2:28

[記録係ケイト] それでゴドズィン大公爵は、本当に軍隊を率いてロンディニウムに向かったんですか?

[クエルクス] うん、そうだよ。

[記録係ケイト] どれだけの規模の部隊ですか?

[クエルクス] 荒野に住む流民が、少なくとも二隻の高速戦艦を見たと言ってる。天災トランスポーターによれば、彼らは攻城団の砲兵たちが駐屯地を離れるところも見たらしい。

[記録係ケイト] それは悪い知らせですね……八人の大公爵がそれぞれ軍隊を率いてロンディニウムに向かったなんて……

[記録係ケイト] ……なんにせよ、新たな情報があれば、ビタールート隊長まで報告するようにします。

[記録係ケイト] そうだ、ケルシー先生から依頼されてた件は済ませておきました。この書類は絶対に失くさないようにしてくださいね。

[記録係ケイト] こちらが四つの公爵領の大型移動プラットフォーム出入許可証で、こちらはヴィクトリアにおけるロドスの業務内容証明です。

[クエルクス] 「廃棄工業資源の回収および処理」。

[クエルクス] どうして医療サービスとか、いつもの名目じゃないの?

[記録係ケイト] ヴィクトリアでは、鉱石病の防護管理は非常に厳しくて、公爵領ごとに管理法も全く異なるので扱いにくいんですよ。これが一番簡単な方法です。まずは中に入るのが先決ですから。

[クエルクス] ……なるほどね。

[記録係ケイト] それと、ハイディさんからのお手紙です。絶対に直接ケルシー先生に渡してくださいね!

[クエルクス] わかった、安心して。

[記録係ケイト] そろそろ資料館に戻りますね。あまり長く外にいると、同僚に疑われるので……あ。

[記録係ケイト] そうだ。もう一つ伝えておかないといけないことがありました。

[記録係ケイト] あなたが以前拠点にしてたあのお店……あの「グリーンスパーク」ですけど、数日前に放火で燃えちゃったんですよ。

[クエルクス] なんだって!?

[記録係ケイト] ビタールート隊長もあなたのことを待っていますから、早く事務所に行った方がいいですよ。

[クエルクス] ……店が放火に? どうして……

1097年11月28日 p.m. 3:15

[クエルクス] 隊長、戻ったよ。

[ビタールート] ああ、お疲れさま!

[スージー] 隊長?

[クエルクス] スージーちゃん!

[スージー] ビタールートさんがクー姉の……隊長さん?

[クエルクス] スージーちゃんもここにいたんだね……心配してたんだよ。

[スージー] つまり、クー姉はロドスの人だったんですね……

[ビタールート] ハハハ……それは……後で説明するよ。

[ビタールート] クエルクス、ちょうどいいところに戻ってきた。重症感染者がいるから診てやってくれ。

[クエルクス] 状況はどんな感じ?

[ビタールート] 急性の発作だが、いち早く送られてきたのが幸いして無事だ。

[ビタールート] 通常の応急処置は終わってるから、あとは任せたぞ。

[クエルクス] 了解、診てみるね。

[クエルクス] 検査試薬とってくれる?

[ビタールート] ああ。

[クエルクス] かなり衰弱してるね、静脈注射でエネルギーを補給する必要があるよ……

[スージー] ……クー姉。

[クエルクス] ん?

[スージー] 鉱石病を治せるんですか?

[クエルクス] 私は無理だし、ロドスにも根治させる方法はまだないよ。でもロドスは病状を抑制して悪化を遅らせる薬を開発したんだ。

[スージー] ……かなり深刻な状態なんです……お願いします、どうか助けてください。

[クエルクス] この子は君の友達なの?

[クエルクス] いや……感染者地区では、みんなが君の友達だったね。

[クエルクス] 心配しないで。この注射を打てば、彼女は持ちこたえられる。炎症による高熱も私のアーツで一時的に抑制できるから、後遺症なんかも残らないよ。これで彼女は安定した状態に戻れる。

[クエルクス] 体にいくつか外傷があったけど、一緒に処置しといたから、痛みも引くと思うよ。

[スージー] はい……

[クエルクス] スージーちゃん……その、大丈夫?

[スージー] ……

[スージー] クー姉……「グリーンスパーク」がなくなっちゃいました。全部……なくなっちゃいました。

[クエルクス] うん……わかってる……

[ビタールート] ちょうど訊こうと思ってたんだ。

[ビタールート] 俺の方には変な噂は入ってきてないが、何か知らないか? 前に誰かの恨みを買ったとか……

[クエルクス] 私がここで誰の恨みを買うっていうの? スージーならなおさら有り得ないよ。

[ビタールート] 最近この街では色んなことが起こりすぎだ。今回の事件もあまりにタイミングが良すぎるし、繋がりがあると疑わざるを得ないんだ。

[ビタールート] 数日前、感染者地区で市議会議員を拉致しようとする者がいた。

[クエルクス] 度胸のある奴がいるもんだね。

[ビタールート] 幸い現場にスカイフレアがいてな、最悪の事態は免れた。

[ビタールート] 警備隊は、感染者地区に暴徒が侵入しただけだと言い張って、何の調査もしていない。

[クエルクス] 来る途中で貼り紙を見たけど、容疑者に懸賞金をかけるみたいよ。情報提供者も報酬がもらえるって。

[クエルクス] 感染者地区で懸賞金だなんて……よくやるよね。

[ヘイズ] あの燃えちゃったお店って……あなたのだったの……

[スージー] ヘイズさん!

[クエルクス] あっ、目が覚めたんだね。

[ヘイズ] ……ここはどこ? あたしって生きてる? それとも死んじゃったのかなぁ?

[スージー] 大丈夫、生きてますよ。

[スージー] ここはロドスの事務所で……この人たちが助けてくれたんです。

[ヘイズ] あのロドスか……本当に感染者を救ってるのね。

[クエルクス] 君、さっき燃えちゃったお店のこと話してたけど、どういうこと?

[ヘイズ] あの夜、あたしは二人の乱暴者に追われてたの。それで「グリーンスパーク」っていうお店に隠れたんだけど、まさか焼夷弾を投げ込んでくると思わなくってさぁ。

[スージー] 焼夷弾?

[スージー] あなたを殺そうとしてたんですか? どうして?

[ヘイズ] さあ? 彼らが「老いぼれ議員を拉致する」とかなんとか話してたのを聞いちゃったからかも? 爆発物がどうとかとも言ってたし、口封じしようとしたのかもね。

[ビタールート] 待て待て!

[ビタールート] 議員を拉致するって? いつ聞いた話だ?

[クエルクス] それに爆発物?

[ヘイズ] にゃ……あたしってどのくらい寝てたの?

[ビタールート] 今日は11月28日だ、ヘイズさん。

[ヘイズ] だったら五日前……23日の夜だよぉ。

[ビタールート] 工場での誘拐事件発生の前日……

[ビタールート] ヘイズさん、もし可能なら……君が遭遇した二人がいた場所を教えてくれないか?

十数分後

[ビタールート] 地図上だとこの位置……ここか?

[ヘイズ] そうだよぉ。

[ビタールート] この辺りにある古い建物は知っている。外縁部の廃棄地区近くにあるから借り手がつかず、ずっと空き家だ。

[クエルクス] 確かに悪事を企むにはうってつけの場所だね。

[ビタールート] 相手はシラクーザ人の二人……シラクーザからの移民か。

[ビタールート] 感染者地区の家をためらいなく燃やせるなんて、恐らく感染者じゃないだろうな。

[クエルクス] 多分傭兵か、ギャングの一味ってところでしょ。

[クエルクス] 向こうのアジトがわかったなら、行ってみる?

[ビタールート] それは賛成できないな。

[ビタールート] この件はもうロドスの業務範囲を超えている。俺たちは治安維持のためにここにいるわけじゃない。

[クエルクス] そうだね……

[ビタールート] だが警備隊が懸賞金をかけたんだろう? これらの手がかりを提供すれば、賞金がもらえるんじゃないか?

[ビタールート] 大した額じゃないだろうが、スージーさんの店の損失をいくらかは補うことができるはずだ。

[クエルクス] そうだ! そうしよう!

[スージー] え? いいんですか? お金はヘイズさんがもらうべきなんじゃ?

[ヘイズ] あたしからのお礼だと思ってくれればいいよぉ……命を救ってくれたんだしね。

[ヘイズ] それにあなたの店がああなったのも、あたしの……

[スージー] ……ううん、ヘイズさんのせいじゃありませんよ。私の店じゃなくてほかの場所に隠れてたとしても、誰かほかの感染者の家が燃やされてたかもしれないんですから。

[スージー] ……それにあなたを助けたのは、実はレイドさんという感染者の方なんです。

[クエルクス] いいんじゃないかな。その手がかりで犯人が捕まれば、みんなの鬱憤も晴れるってもんでしょ。お金だって現にスージーちゃんのお店が燃やされてるんだから受け取っておきなよ。

[スージー] ありがとうございます、ヘイズさん……それにクー姉も……

[スージー] あ……耳をモフモフしないでくださいよ……

[クエルクス] どうしてまだそんなに他人行儀なのかな?

[ビタールート] じゃそういうことで。スージーさんのために書類をまとめるから、それができたら警備隊に持って行ってくれ。

[スージー] わかりました。

[ビタールート] ん? 何を見てるんだ?

[ヘイズ] 通りの向かいの隅っこ、ネコちゃんが日向ぼっこしてるよ。

[ビタールート] 羨ましいのか?

[ヘイズ] もちろんだよぉ。

[ヘイズ] ……あっ、鉢植えを倒して……逃げちゃった。

[ヘイズ] あなたたちは、いつあたしのことを追い出すんでしょうね?

[ビタールート] ロドスは鉱石病の急性発作を起こした感染者を治療した後、そいつの病状が安定するまでは、簡単に追い出したりしない。

[ヘイズ] 医療費なんて払えないよぉ?

[クエルクス] それは心配しなくていいよ。

[ビタールート] もちろん、もし君が今後も治療を続けたいのであれば、その方法もたくさんある。病状がある程度回復したら話すとしよう。

[ビタールート] ついでにもう一つ。

[ビタールート] 話したいことがあるなら、気軽に言ってもらって構わないよ。

[ビタールート] 「魔女の森のビッグハット」。

[ヘイズ] どうして……

[ビタールート] まさか魔女の森に生存者がいたとはな。

[クエルクス] 魔女の森? あの感染者術師を受け入れてた組織のこと?

[ビタールート] そうだ。

[クエルクス] 確か五年前に、大公爵の要求を拒否して、ヴィクトリア軍に……

[ヘイズ] ……何か別のお話をしてもいい?

[クエルクス] あっ……ごめんね、わざとじゃないんだ……

[ヘイズ] 謝らなくていいよ~。

[ヘイズ] それについてはもう受け入れてるし、元々あたしはこの街を最期に眠る場所にするつもりだったからねぇ。

[ヘイズ] でも時々、迷っちゃうことがあるんだよね。もっとネコちゃんを見ていたいし。

[ヘイズ] ……あの夜、もしあたしがスージーちゃんのお店に隠れなければ、あのシラクーザ人たちもお店を燃やすこともなかったよね。

[スカイフレア] クエルクス? 戻ってきましたの?

[クエルクス] おはよう、なんかまた疲れた顔してるね。

[ビタールート] その表情だと、調査の方は順調じゃないみたいだな?

[スカイフレア] 警備隊は本っ当に救いようがありませんわ! 懸賞金について告知した後は完全にほったらかしですのよ! それで犯人が自首するとでも思っているのかしら?

[スカイフレア] グラニもどこへ行ったのか姿が見えませんし。工場の件の調査協力を依頼しようと思っておりましたのに……

[クエルクス] グラニに頼りすぎない方がいいよ。ロドスの協力オペレーターって身分はここじゃちょっとデリケートだからね。

[ビタールート] ……妙だな……

[クエルクス] どうしたの?

[ビタールート] さっきは気付かなかったが、ヘイズさんがシラクーザの二人組に遭遇した古い建物って……その工場のすぐ隣じゃないか?

[クエルクス] え? ほんとだ!

[ビタールート] ヘイズさん、さっきそいつらがスージーさんの店に投げ入れたのは軍用焼夷弾だと言ってたよな?

[ヘイズ] にゃあ、そうだよ。

[クエルクス] 何か問題でもあるの?

[ビタールート] ……俺の記憶が正しければ、工場のオーナーはビシュマー議員で、軍用武器を生産していた。だが一ヶ月半前に「設備メンテナンス」により稼働を停止したはずだ。

[スカイフレア] でも、あのニセ感染者たちがわたくしを誘拐した時、工場には何もありませんでしたわ。盗まれたのかしら?

[クエルクス] でも事件のあとに関連する続報とかも新聞に載ってないよ。

[クエルクス] その二人はビシュマー議員と関わりがあるって言いたいの?

[ビタールート] その結論を出すには、まだ証拠や情報が少なすぎる……

[ビタールート] だが……俺の記憶が正しければ……

[ビタールート] カレドンシティの警備隊長って、ビシュマー議員の甥だよな?

[クエルクス] そうだったかも。前にグラニもそんなこと言ってた気がする……

[クエルクス] ……ねえ。

[クエルクス] スージー……スージーちゃんが警備隊に行ってどれくらい経った?

[ビタールート] もう三時間だ、とっくに帰ってきていい時間……

[ビタールート] ……

[スカイフレア] ……

[クエルクス] 私行ってくる!

[スカイフレア] わたくしも参りますわ!

[ビタールート] 通信機を持ってけ! いつでも連絡できるようにしとけよ!

[ビタールート] ……

[ビタールート] 厄介なことになったな。

冷静沈着なオペレーターは机の上の地図を真剣に見つめ、頭に浮かんだ疑問点を細かく整理した。

次には机の下から特殊な形状の通信機を取り出した。

[???] ちょっと隊長? 今は書記官の勤務時間です。市政公文書館にどれだけ人がいるかわかってるんですか?

[ビタールート] カゼマル、特殊ケース──緊急事態だ。今から言うことを優先的に処理してくれ。

[???] ……承知しました。

[ビタールート] ビシュマー伯爵所有の施設リスト、それとカレドンシティ内の旧地下物流通路の地図をくれ。詳細であればあるほどいい、なるべく急ぎでくれ。

[???] わかりました、すぐに取り掛かります。

[スカイフレア] 見つかりまして!?

[クエルクス] いない! 他の警備隊員が言うには、隊長はスージーちゃんを連れて現場へ向かったっきり戻ってきてないって!

[スカイフレア] そんな!

[クエルクス] いや、一旦落ち着こう。あの子が連れて行かれそうな場所を考えてみよう。

[スカイフレア] そうですわね……

[クエルクス] 隊長から通信?

[クエルクス] 隊長! 何かわかった?

[ビタールート] よく聞いてくれ。今さっき、ビシュマー伯爵が所有する施設とカレドン市街地の旧物流通路とが交わる地点を照合してみた。

[ビタールート] それで最も可能性が高いと思われる地下通路への入り口を七箇所リストアップした。

[クエルクス] スージーちゃんは地下へ連れ去られたってこと?

[ビタールート] ビシュマーがバカじゃない限り、スージーさんの背後には協力者がいると推測するはずだ。であれば、奴らの目的が口封じとは限らない。

[ビタールート] 奴らは、人目につかず誰にもバレない場所へスージーさんを連れて行くはずだ。

[ビタールート] 廃棄地区の可能性もあるが、以前あの工場の下にカレドンシティ最大の旧物流通路があることを発見したんだ。工場内の設備がどこへ消えたかの説明もつく。

[ビタールート] 二人はまずリストの場所を当たってくれ、何かあれば連絡しろ!

[クエルクス] 了解!

[スカイフレア] どういたしましょう?

[クエルクス] こうしよう、私は南側のこの三つの入り口を調べるから、君は北側の四つをお願い。

[スカイフレア] 問題ありませんわ。

[クエルクス] 気を付けてね!

[スカイフレア] 貴方こそ!

1097年11月28日 p.m. 8:30

目を開けると、スージーは自分が冷たい地面の上で横になっていることに気付いた。

冷えた湿り気のある空気が、暗くだだっ広い空間に充満している。

後頭部に鈍痛がある。

すぐそばから言い争う声が聞こえてきた。

[ビシュマー] 使えん奴らめ! この程度のことすらろくにできんのか!?

[警備隊長] それは……私たちだってこれほど問題が発生するなんて予想もしていなかったんだ。

[ビシュマー] アンストめ。あの老いぼれサヴラ、なぜ突然術師に会合を任せたりしたんだ? お前たち情報を漏らしたのか?

[警備隊長] 確かにずっと邪魔をしてくる奴はいたが……

[警備隊長] しかし……アンスト議員が心臓発作を起こしたのは本当だ……

[ビシュマー] そんな偶然があるのか?

[スージー] ここは……どこ……?

[スージー] (え。ど、どうして腕が縛られてるの……?)

[スージー] この設備……ここは工場なの?

[スージー] 違う……工場じゃない。これは……廃棄された物流通路?

[スージー] 何が起きてるんだろう……

[スージー] 確か警備隊長に現場についてくるよう言われて……

[スージー] それから……

[スージー] 頭が痛い……

[ビシュマー] 吹っ飛ばして証拠を隠滅するはずが、工場は健在だ! それなのに中は空だ! 私はどうやって損失を申請すればいい? おい、答えてみろ!

[警備隊長] その……泥棒に工場の設備を全部盗まれた、とか……?

[ビシュマー] みんなお前のようなバカだと思ってるのか!

[ビシュマー] 工場内の設備がすべて一晩で盗まれるなど、内部の犯行としか思えんだろうが! 真っ先に私に嫌疑がかけられるに決まってる!

[ビシュマー] しかもこれほど大規模な窃盗ともなれば、この場所まで捜査の手が伸びるのは確実だ!

[ビシュマー] 大公爵の手の者にここを調査されたら、すべてお終いだぞ!

[警備隊長] いや……そもそも、なぜご工場を爆破すれば問題の解決になるか、教えてもらってないんだが。

[ビシュマー] まだわからんのか? 市議会から支給した金はどこにやったと訊かれたら、設備を購入したが感染者に爆破されたと言うんだよ!

[ビシュマー] 金が手に入ったら、工場はどうせ私のものではないから爆破されようが構わん。この高い設備さえあればいいんだ!

[ビシュマー] 私の完璧な計画が、全て台無しだ!

[警備隊長] ……はぁ、じゃあどうすりゃいいんだ?

[ビシュマー] どうもこうもない、さっさとこの設備を全部街の外へ運び出せ! 証拠は一切残してはならん!

[警備隊長] 元の場所へ戻すってのじゃダメなのか?

[ビシュマー] 頭を使わんか! 今は感染者地区全体が目をつけられてるんだ! そんな状況でどうやって戻す?

[スージー] 警備……隊長? ビシュマー議員?

[警備隊長] おっと! 起きたのか?

[警備隊長] 善良なる感染者市民のお嬢さん。

[警備隊長] よくもやってくれたな!

[スージー] ど……どうして……

[警備隊長] とぼけるな! いいか、正直に吐くんだ。貴様が言っていた情報は誰に聞いた?

[警備隊長] 貴様の仲間は……あいつらは何者だ?

[スージー] ……そういうことだったんですね……あなたもあの人たちの……

[警備隊長] おい、聞いてるのか! あのシラクーザ人たちのことは、誰から聞いたんだ?

[警備隊長] 貴様の報告書に書いてあった「信頼できる証人」ってのは、誰のことだ? そいつの名前も教えろ!

[警備隊長] 言え!

[スージー] (にらみつける)

[警備隊長] なんだその生意気な目は!?

[スージー] ううっ……

[ビシュマー] もういい。そいつが言おうが言うまいがどうでもいい。そんなことにかまけてる暇はないんだ、ここで始末しろ。

[警備隊長] だが彼女の背後にいる連中は厄介だぞ!

[ビシュマー] 元々目撃者はそう多くないんだ。ダントン兄弟を街から追い出しておけば大丈夫だ。

[ビシュマー] それよりも今重要なのは、金の損失をどう埋めるかだ。

[ビシュマー] それと、私の前でやるな。血を見るとめまいがするからな。どこか別の場所へ連れて行け。

[警備隊長] わかった。

1097年11月28日 p.m. 8:32

[クエルクス] まさか本当にここだったとはね……

[クエルクス] 二十人ちょっとか、今から応援を呼んでも間に合わないな……

[クエルクス] 仕方ない、頑張りますか。

ゴドズィンのドルイドは、剥き出しになっている土の上に奇妙な種をぱらりとまいた。

彼女の杖が緑色の光を放つと、アーツの影響によって種はあっという間に発芽し、地中に潜り込んでいった。

[傭兵] そこのフェリーン! 何してやがる!

[クエルクス] おや、視力はいいみたいだね。

[ボイル区の暴徒] 一般人がここに来るはずねぇよな?

[クエルクス] そういうのいいから。時間がないんだ、まとめてかかって来なよ。

[傭兵] イカれてるぜ……ぶちのめされてぇのか!?

太さ十数センチの巨大なツルが数本、地中から飛び出して暴徒たちを薙ぎ倒した。

地面に、壁に、柱に、あらゆる場所に緑の植物が広がり覆い尽くしている。

倒れた傭兵は声を上げる隙もなく、植物に巻き付かれた。

[クエルクス] 君たちが貰ってる報酬って、これ以上続けて割りに合う?

[クエルクス] おとなしく私を中に入れた方がいいんじゃない?

[ボイル区の暴徒] ……勝手に入ってくれ、俺たちは何も見ていない。

[ボイル区の暴徒] 行くぞ! 今日はもう上がりだ!

[クエルクス] うん、賢いね。

[スージー] つまり私のお店は……あなたたちが燃やしたってことですか?

[警備隊長] くだらん話をしてないで歩け。

[スージー] ……

[警備隊長] おいおい、私のせいじゃないぞ。恨むんならこの件に首を突っ込むほど暇だった自分だろ。

[警備隊長] 貴様ら感染者は元々短い命だろ? どっちみちこういう運命だ。

[スージー] ……あなたたち……あなたたちには報いが与えられる日がきます。

[警備隊長] もうすぐ死ぬっていうのに、口が減らないな。

[スージー] (目を閉じる)

[警備隊長] じ、地面が揺れてる?

[ビシュマー] 何事だ? 地震か? これは何の音だ?

[傭兵] いや……この音は、上から来てるんです。

激しい爆発音が彼らの頭上から響き、廃棄地区のインフラ層全体が揺れる。

壁に亀裂が入り、揺れの激しさもさらに増していく。

続いて爆発音に建物の倒壊する音が加わり、絶え間ない轟音が振動と共に近づいてくる。

[警備隊長] 何が起こってるんだ?

[警備隊長] うわあああ!!

爆音と同時に地下層の天井が崩れ、数トンはあろうかという鉄の構造物が、そのまま警備隊長の頭上へと落下した。

轟音が鳴り響く中、コンクリートと鉄骨が崩壊し続け、インフラ層は大混乱に陥った。

[スージー] え? ええっ!?

[スージー] (は……早く逃げないと!)

[傭兵] 逃げましょう! ここは崩れます!

[ビシュマー] 何ということだ! 設備が……設備がすべて壊れてしまった!

[傭兵] 命の方が大事でしょう! 急いで逃げてください!

[ビシュマー] 一体どういうことなんだ? 天災か!?

[ビシュマー] なんでこうも訳わからないことが重なるんだ! なんて日だ!

[傭兵] 言ってる場合ですか! 足を動かして!

[ビシュマー] あの感染者! どうやって逃げてきたんだ?

[ビシュマー] お前たち、ちゃんと縛ってなかったのか?

[スージー] !!

[ビシュマー] あの感染者を追うんだ! 逃がしてはならん!

[ボイル区の暴徒] このチビ! すばしっこい奴め!

[スージー] ……

[ボイル区の暴徒] お前がいなけりゃ、こんなことにはならなかったんだよ。

[ボイル区の暴徒] (武器を振りかぶる)

ふいに影の中から鋭い刃が現れた。その力強い斬撃によって暴徒は断末魔と共に倒れた。

[傭兵] まだ誰かいるのか!

[レイド] 逃げるぞ、スージーさん!

[スージー] レ……レイドさん? どうしてここに──

[レイド] 話は後だ、急げ。

[スージー] は……はい!

[警備隊員] なにボサっとしてやがる! 追うんだ!

[傭兵] まだ追うのか? 伯爵ももうどっか行っちまったんだぞ!

[警備隊員] ならお前は行かなくていい、お前の取り分は俺のものだ。

[傭兵] ふざけんじゃねぇ。

[スージー] い……行き止まり。

スージーの前にある鉄骨の足場は、先ほどの爆発で半ばから断たれていた。四メートル先にある途切れた橋の他に、この場からの逃げ道はないように見えた。

背後からは、暴徒と傭兵の罵声が近づいてきている。

[スージー] どうしましょう……?

[レイド] 仕事熱心にも程があるね、こんな状況でもまだ追って来るなんて。

[レイド] あんな連中に目をつけられるなんてトラブルに好かれる体質だね。

[スージー] レイドさん、どうしてここにいるんですか? その刀……普段から持ち歩いてるんですか?

[レイド] 機会があれば話すよ。

[レイド] 今は何とかして君をここから逃がさなければならない。

[レイド] 感染者地区で、スージーさんを心配してる人がたくさん待ってるからね。

[スージー] ですがこの状況では……

[レイド] ちょっと失礼するよ、スージーさん。

[スージー] ──!?

レイドはスージーを担ぎ上げると、まるで荷物を扱うかのように彼女を放り投げた。

若いフェリーンの体は、弧を描いて宙を舞うと、途切れた橋の向こう側に落下した。

[スージー] ……いたた……レイドさん??

[レイド] 上に向かって走り続けろ! 早く!

[スージー] レイドさん! あなたはどうするんですか?

[レイド] 早く行って!

崩壊した鉄骨がトンネルの入り口を完全に塞ぎ、レイドの姿も次第にトンネルの陰へと消えていった。

[スージー] レイドさん……

[スージー] ……ここで止まってちゃダメだ、逃げないと……

[スージー] (地震が……止まった?)

[スージー] (一体何が起きたんだろう?)

[スージー] (レイドさんは……無事かな?)

[スージー] ……道がない、塞がってる。

[スージー] ここから地上までは……あとどれくらいだろう?

[ビシュマー] ようやく収まったか……あいたたっ……

[ビシュマー] くそっ……腰が……

[スージー] ……あなたでしたか。

[ビシュマー] ほう、ゴミ感染者がここまで生き延びていたか。

[ビシュマー] あいつらはしくじったようだな。*スラング*、役立たずの無能どもが。

[ビシュマー] すべて貴様のせいだ!

[ビシュマー] 貴様ら感染者のクズのせいで……私の金がどれほど!

[ビシュマー] 目障りだ、失せろ!

貪欲な政治屋は、スージーに平手打ちを食らわせた。怒りのすべてをこのフェリーンの女の子にぶちまけた。

だが打たれた感染者は、暴行を加えられてもなお、ひるむことは一切なかった。

彼女は目前にいる貴族を強くにらみつけた。この数日抑えつけていた感情と苦痛はもう感じられない。

[スージー] それが理由ですか?

[スージー] そんなことのために、あなたの手下たちが私のお店を燃やしたんですか?

[スージー] そんなことのために、あれほど多くの罪のない感染者を傷つけたんですか?

[スージー] たかが、たかがお金のために?

彼女がゆっくり立ち上がる。これまでの臆病なフェリーンはもうそこにはいなかった。

今この瞬間、彼女の目には怒りと憎しみだけが宿っていた。

ここ数日の間に起こった悲劇はすべて、この貪欲な政治屋によるものだ。

なんの報いもなく逃がしてはならない。自分の行いに代償を支払わせるべきだ。

[スージー] こんなひどいことをしたのが……ただお金だけのため?

[ビシュマー] 何をするつもりだ! 来るな!

[ビシュマー] 近づけるな! 化け物……どけ!

[スージー] ……許さない。

スージーの体が震える。帯電した彼女の全身から火花が飛び散る。

[ビシュマー] 何だお前……誰か……助けてくれ!

[スージー] ……死んで……

若いフェリーンが議員の首をつかむと、火花がバチバチと激しい音を立てた。

[ビシュマー] ぐああああ! やめろ! ぐっあああ!!!

[スージー] 怖い!? 怖いのね!?

[ビシュマー] 命だけは! お願いだ……殺さないで……ぎゃああああ!!!

[ビシュマー] 欲しいものは……何でもやるから……あああ!!

[ビシュマー] 許して! 許してくれ!!

[スージー] なんであなたが……私の生活を壊す権利なんか……

[スージー] あなたが……あなたみたいな人が……

怒りで我を忘れた若いフェリーンは手に力を込める。ビシュマー議員はアーツを受けて痙攣を起こし、口からは白い泡を吹き出していた。

[ビシュマー] う……

彼女の背後から、巨大なツルが現れてコンクリートの瓦礫を払い、木の根が崩壊寸前の鉄骨を支えた。隙間から差し込んだ街の明かりが、一人のシルエットを照らし出す。

[クエルクス] スージー! スージー! やめて!!

ゴドズィンのドルイドは、ようやく再会した少女を抱きしめた。激しく飛び跳ねる火花が彼女の皮膚を焦がす。それでも彼女は腕を離さなかった。

[クエルクス] 落ち着いて、スージーちゃん……私だよ、もう終わったんだよ……

[スージー] ……店長……クー姉……

[クエルクス] 大丈夫、全部終わったんだよ。

[クエルクス] こんな奴……君が手を下す価値なんてないよ。さ、一緒に帰ろ?

[スージー] クー姉……ううっ……

[クエルクス] 大丈夫だから。私はここにいるよ。

[スージー] 帰るって……「グリーンスパーク」……もう何もありません……帰る場所なんて。

[クエルクス] 心配いらないよ、私がよく言ってるでしょ?

[クエルクス] 「生命は必ず自分の居場所を見つける」って。

[クエルクス] 行こうか、スージーちゃん……帰ろう。

[スージー] クー姉……私……私──

[スージー] ううっ……

土と石、鉄骨と廃材に囲まれた狭い空間で、フェリーンの少女は憑き物が落ちたかのように、泣きじゃくった。

1097年11月30日 p.m. 7:45

[スカイフレア] 先生、参りましたわよ。

[アンスト議員] おっと、おはよう、モンベラン君。

[アンスト議員] いや、今は「スカイフレアさん」と呼ぶべきかな?

[スカイフレア] 冗談を言う元気はおありのようですわね、先生。

[アンスト議員] はぁ、そう暗い顔をせんでくれ! 別に何ともないんだ。

[スカイフレア] 入院なさっているのですよ! それで何ともないなどとよく言えますわね!?

[アンスト議員] ……ところで、最終的にどうなったのだ?

[スカイフレア] 市議会は貴方の提案を可決致しましたわ。一票差でしたけれど。

[アンスト議員] それはよいことだ、モンベラン君。

[スカイフレア] 本当によいことなんですの、先生?

[スカイフレア] 感染者地区のことに反対する貴族たちはもう陰で繋がっています。今後は対立がより強くなるだけですわ。

[スカイフレア] 彼らはゴドズィン大公爵が戻ってくるのを待っていますわ。貴方の爵位を取り上げ、貴族としての身分を剥奪するよう、連名で大公爵に手紙を出しておりますのよ。

[スカイフレア] これは貴方にとってあまりにも不公平ですわ。

[アンスト議員] ハハハハ……

[アンスト議員] 私はもう百五十三歳だ、モンベラン君。

[アンスト議員] 来年にも引退し、自分の小さな城へと戻って、学問でも始めようかなどと考えているのだよ。

[アンスト議員] 爵位、身分、権力。

[アンスト議員] そんなものをまだ私が気にすると思うかね?

[アンスト議員] 事が順調に進んでいるなら、君もそろそろロドスに戻る頃かな? ケルシー女史によろしく伝えておいてくれ。

[スカイフレア] 承知しましたわ……

[スカイフレア] わたくしはただ、先生のことが心配ですわ。

[アンスト議員] 何だ、私のどこが心配なのかね? こんなただの老いぼれの。

[アンスト議員] それよりも若人のことが心配だ。どれ、老いぼれからも一つ忠告しておこうか。モンベラン君、どんなに素晴らしい理想も、口に出しただけで行動を伴わなければ、何の意味もないただの音なのだ。

[アンスト議員] 人々は、耳障りのいいスローガンを使って嘘をつくことにあまりにも慣れすぎてしまった。本来たしかに高尚である道理は、そうして積み重なった嘘によってどんどん薄っぺらくなっている。

[アンスト議員] モンベラン君、私がなぜカレドンであの議案の推進に力を入れたのかわかるかな?

[スカイフレア] 聞こえのいい言葉の裏にある本当の理由という意味でしょうか?

[アンスト議員] 二十数年前、ジャネット・ロングフェローという名前の科学者が、ある論文を発表した。

[アンスト議員] 彼女はこう指摘をした──現行の源石工業環境および源石廃棄物の処理が合理的に改善されない場合、年々蓄積され続ける源石廃棄物が恐ろしい影響を大地にもたらす可能性があると。

[アンスト議員] 当時、ヴィクトリアの学会全体がその見解を鼻で笑い、貴族たちも世論を利用してその学者を容赦なく笑いものにした。そして彼女は怒りのあまり、ヴィクトリアを去ってしまった。

[アンスト議員] しかしここ十年、ヴィクトリアの感染者数の増加速度は、恐ろしいほど上がってきている。

[アンスト議員] 時代は変わりゆくのだ、モンベラン君。我々は、「鉱石病」と「感染者」がもたらす問題に直面しなければならない。現状を維持するだけでは状況は悪化する一方だ。

[アンスト議員] ……私はもう百五十三年を生きたのだ、モンベラン君。私のような長寿はサヴラでも珍しい。

[アンスト議員] もちろん、長生きにも良い面はある。歴史の変遷を目にし、過ちから教訓を汲み取ることができるからな。

[アンスト議員] この百年余りで、私はガリアの雄大な宮殿が崩れる光景を目にし、イベリアの黄金都市の陥落する様を見届けた。

[アンスト議員] クルビアの平原では、辺境の領地の公爵軍が壊滅するのを目撃し、クルビア人が荒野で勃興するのを目の当たりにした。

[アンスト議員] ヴィクトリアが変わることができないというならば、最終的にこの国はガリアと同じ運命をたどるだけだろう。

[アンスト議員] モンベランくん、さっき私が言ったように──

[アンスト議員] 時代は変わる。

[グラニ] もう帰ってきた? 警備隊の事務処理にもっと時間がかかるだろうと思ってたよ。

[ヘイズ] うにゃあ、あたしたちの名誉市民、トップニュースの大スターが登場だよぉ。

[ヘイズ] 新聞の写真、いい感じだったよぉ。まさかスージーちゃんがこんなに写真映りがいいなんてね。

[ヘイズ] 一メートルもある名誉市民表彰状ってきっと重いんでしょ? 抱えて写真撮るの、疲れなかった?

[グラニ] スージーちゃんをからかうのはやめなよ。

[グラニ] 「街の英雄」って称号も……十分かっこいいじゃん!

[クエルクス] それで結局あのバカ議員はどうなったの?

[グラニ] とっくに逮捕されたよ!

[クエルクス] あんな大変な騒ぎになって、警備隊は正常に機能してるの?

[グラニ] もちろんそんな簡単じゃないよ。でもすぐに騎馬警察から人が来て警備隊を管理するらしいから。

[クエルクス] それは良いことだね。

[グラニ] ただ今のところスージーちゃんが受けた損害を補う手立てがないんだ……例のビシュマーの財産は、市議会が全部差し押さえちゃったし。

[スージー] ……

[クエルクス] キャンディでも食べる? 君がまだ食べたことのないフレーバーがいくつかあるよ!

[クエルクス] 市議会は本当に一銭も払ってくれないの? 賞状以外には何も? ……まぁ、あの人たちならそうだよね。

[クエルクス] ほら、甘いものでも食べて気分転換しなよ。あの写真の君の表情、なんだか泣きそうな笑顔だったもん。

[スージー] ……ありがとうございます。

[スージー] 私……未だにどうすればいいかわからないんです……

[グラニ] ポジティブに考えようよ。少なくとも今回悪さをした人たちはもうお縄についたんだしさ。

[クエルクス] とはいえ解決してない問題がまだまだたくさんあるように感じるのは確かだよね……私たちが介入できるのはここまでだけど。

[スージー] クー姉、また行っちゃうんですか?

[クエルクス] うん。でも、またすぐにヴィクトリアに戻ってくるよ。

[スージー] カレドンシティには戻ってきますか?

[クエルクス] こんな移動都市より、荒野のどこかへ行きたくなるかもね。

[クエルクス] そうだ、スージーちゃん、お酒を作る場所を変えてみようと考えたことはない?

[スージー] え?

[クエルクス] ほら、「グリーンスパーク」はなくなっちゃったでしょ……だけどお酒を飲みたい感染者はほかにもたくさんいるからさ。

[クエルクス] 美容室でもいいかも。喧嘩しか取り柄がない連中がたくさんいて、移動都市に行ったことがなかったり自分の格好に無頓着なんだ。

[スージー] え? 本当にいいんですか?

[グラニ] いいじゃない! ロドスには面白い人がたくさんいるから、行ってみればいいよ! プロの美容師はまだそんないなかったはずだし。

[スージー] アハハ……そっかぁ……じゃあやってみようかな?

[スージー] (みんながいつも話してるロドスって……どんな場所なのかな?)

1097年11月28日 p.m. 10:24

カレドン地下物流通路

[レイド] 来いよ、さっきまでの勢いはどうした?

[ボイル区の暴徒] てめぇ! 一体何者だ!

[レイド] 俺の名はレイドだ、よく覚えておくといい。

[傭兵] てめぇの*スラング*名前なんぞに興味はねぇ。どけ! どかねぇと容赦しねぇぞ!

[レイド] 知ってるか? ウルサスにいた頃、俺は「紅の刀」と呼ばれていたんだ。

[レイド] 名前の由来がわかるか? 当ててみろよ。

[傭兵] ビビる必要はねぇぞ野郎ども! 俺たちの方が強ぇ!

[ボイル区の暴徒] そうだ、こいつは一人だ! ちょっとアーツが使えるからって俺らには勝てっこねぇ!

[???] 一人じゃないぜ。

[ボイル区の暴徒] え? な、お前たちどこから湧いてきやがった!?

[レイド] いい表情だ。普段感染者をいじめてる時には見なかった顔だよ。

[レイド] かかってこい。本当に強いのか確かめてやろう。

レイドの手に持つ刀が一瞬にして炎をまとう。

灼熱の光が瓦礫を照らし、石と鉄骨がひしめく廃墟は真っ赤な炎の色に染められた。

そして猛火の刀を持った若者が、その腕を大きく振りかぶった。

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