aklib_story_統合戦略3_追憶映写3

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統合戦略3 追憶映写3

イベリアの海岸は天候が急変しやすい。ジョディ・フォンタナロッサには、毎週日曜の午後に決まって重要な仕事があった。しかし今日だけは、パラパラと打ちつける雨音に耐えかねていた。まるで冷たい滝の水で心臓が締め付けられるような思い──彼はこの感情を何と呼ぶかよく知っている。筆を執ることもままならず、ただ仕事を投げ出して、書類が山のように積まれた部屋の中から逃げ出そうとするしかなかった。

雨水が地面に落ちて砕けた時、ジョディの鼻に嗅ぎ慣れた匂いが漂ってきた。血生臭さを伴う湿った土の匂い。この匂いが表すのは天気や季節などではなく、困難の接近である。前線から知らせが届き、この湿った空気が鼻孔を満たす度に、ジョディは今の時代に対し、ある印象を明確に抱くのだった。

エーギルが崩壊して以降、ずっとこんな状況が続いている。

夕暮れ時が近付くにつれ、灯台の明かりがイベリア最後の要塞を赤く照らし出す。道すがら、ジョディは懲罰軍将校たちが交わす討論をなるべく気にしないよう努力した。背後にいる将校たちが重苦しく話す言葉は、厳格に規制され、そのほとんどが無感情なものだった──意気消沈しているわけではないが、決して闘志がみなぎっているとも言えなかった。気を逸らそうと自分の歩数を数えながら歩いていたジョディは、前方から歩いてきた人にぶつかってしまった。

「申し訳ありません。」

相手が口を開いた時、ジョディは驚いた。思った以上に若かったからだ。彼はイベリアの中枢に身を置いているにも関わらず、顔に付いた血の汚れすら拭っていなかった。体格が良く、背丈はジョディとそう変わらないが、腕を一本失っていた。ジョディは最初この青年を百戦錬磨の懲罰軍兵士ではないかと推測したが、彼の眼差しと、彼のバッグの中にある壊れた剣と『灯り』を見てようやく気付いた。彼がエーギル出身の、若き審問官見習いだったことに。

ジョディは、彼のような若い審問官を一人知っていた。

「今戻ったばかりですか?」

「はい、書記官さん。」

青年審問官の口調は驚くほど落ち着いている。悪夢のような戦場のことは、既に頭の片隅に追いやったらしい。しかしこういった若者たちを見慣れているジョディはすぐに気づいた。これは決して彼らが戦場の残酷さに順応したわけではなく、むしろある種の感情の麻痺のようなものなのだ。ジョディは若き審問官のために道を空けた。今や裁判所でも、審問官を見かけることはめっきり少なくなってきていることを、彼は知っていた。

若き審問官はうなずくと、ジョディの横を通り抜けた。彼のふらふら揺れる後ろ姿が、建物が落とす影の上を歩いていく。今にもその影の中に溶けてしまいそうに見えた。

ジョディは思わず振り返ってこう訊ねた。「あなたの名前は?」

「マティアスです。」

「エーギルの名ではないみたいですが……」

「俺の養母はイベリア人でしたからね、姓だけはエーギルのものが残りました。」若き審問官は少し躊躇していた。まるでこんなプライベートな事情を語って時間を無駄にさせてしまわないかと逡巡しているようだったが、最後には口を開いた。「ブレオガンです。」

「ん?」

「俺の一族は、ブレオガンと言うんです。その発音以外、一族に関することは何一つ知りません。それが姓なのか、祖先の誰かの名前なのかすらも定かではありません。何せ俺たちの故郷はもう……」

ジョディ・フォンタナロッサは言葉を失った。

短い沈黙を先に破ったのは、若き審問官の方だった。「もし俺の記憶が間違ってなければ、あなたはあの聖徒カルメン様の……えっと、お弟子さんですよね?」

その名前がジョディの胸の痛みを呼び覚ました。激しい感情に吐き気を催し、一瞬訪れためまいに身を強張らせながらも、彼は低い声で答えた。「はい。」

それから、ジョディはほとんど自嘲に近い口調でこう訊ねた。「失望しましたか、若い審問官さん? このような非常時に、あなたたちと共に戦ってやれない僕に対して……」

「いえ、そういう意味ではありません。」若き審問官はすぐにジョディが自分の言葉を誤解していることに気づき、苦笑しながら答えた。「カルメン閣下が以前こうおっしゃってました。俺たちのような者は、火種を守り抜くためにいる。そしてあなた方こそが、その火種なのだと。」

ジョディはすぐには答えられなかった。込み上げるものを噛み殺した後、彼は無理やり笑顔を作ってこう言った。「ありがとうございます。奇遇なことに……僕もブレオガンという名とは少し関わりがあるんです。彼と僕との繋がりを証明できるものはないけど、ブレオガンに関する物語なら少しは知っています。」

「造船士の伝説だったら、俺も知っていますよ、書記官さん。」

「いや──」一瞬言葉を止めたジョディの脳裏に、過去の様々な出来事がよぎった。「僕はエーギルに、故郷に帰ったことがあるんだ。」

若き審問官の目が微かに輝いた。しかし、彼の血脈に対する憧れを、すぐに別の用件が遮った。

「すみません、その件はまたお会いできた時にでも。」

そう言って、若き審問官は去って行った。

雨音は次第に激しさを増し、どこからか日暮れを知らせる鐘の音が鳴り響く。ジョディは散らかった仕事部屋に戻ってきた。机の上を少し片付け、数週間前の整った状態に戻していく。それから深く息を吸い込んだが、湧き上がる感情を抑え込むことはどうしてもできなかった。恐怖、悲しみ、悔しさが瞬く間に彼を呑み込んでいく。彼にできることはただ、タイプライターを濡らしてしまわぬよう、涙をぐっとこらえることだけだった。

それから「行方不明者」の一行の下に、震える手でいくつかの文字を書き込んだ。

「カルメン・イ・イベリア、死亡確認」。


「千三百キロ。」

無意識に考え事を口に出していたジョディは、すぐにそれが不適切な言動であったと気付いたが、既に周囲からの訝しげな視線を浴びてしまっていた。その中でいち早くジョディの発した距離の意味を悟ったのは、前方を歩いていた大審問官アイリーニである。彼女は足を止め、ホール内の地形図に目を向けて言った。

「ここからグランファーロの灯台までの距離は、千三百キロね。」アイリーニは一瞬の回想に耽った後、こう続けた。「それはつまり私たちの国土が──人類の防衛線が、千三百キロも後退したことを意味しているわ。」

ジョディはため息をついて言った。「もし各国の協力がなければ、この数字はどんどん膨らんでいく一方でした。」

「逆に言えば、テラ全体の力がイベリアの前線に集中してしまっているのよ。私たちに第二の防衛線は存在しないわ。この千三百キロ圏内の土地は、もはや海と等しい場所だと言えるでしょうね。」

アイリーニの言葉を聞きながら、ジョディはずっと道沿いのホールを見ていた。彼はまだ、自分が向かっている場所を知らなかった。「防衛線は決して堅牢なものではありません。シーボーンが陸地を侵略するための入口はイベリアだけではないのです……サルゴン、ウルサス、炎国。戦火は既に大地全体に及んでいます。」

「そう、それへの対処こそが今回の私たちの使命よ。ヴィクトリアの子爵や、サルゴンのパーディシャーの中にも偽装した深海教徒が紛れている可能性がある以上、陸地はもはや陥落したも同然と言えるかもしれないわ。でも私たちは今回、ついにあの恐魚たちを率いる司教たちを一人残らず殲滅することに成功した。それなのにシーボーンは相も変わらず、自発的に陸地への攻撃を続けている。何かが奴らを駆り立て続けているのよ。」

アイリーニの言葉に、ジョディは上擦った声で言い返した。「でもあの深海子爵はもう死んだんですよ! リターニアの法律守護団の手にかかって! まさか他にも……」

「もしかしたら、大群はより大きな危機を察知したのかもしれないわね。生存という目的のため、陸地の生態系を作り直さざるを得なくなったのかも……」

呟くようにそう言ってアイリーニは大きな扉の前で立ち止まった。ジョディは、ふと十数年もここで仕事と生活を続けてきた自分が、未だこのエリアに足を踏み入れたことがないと気づいた。

「だから今回こそ、必ず成功させなきゃならない。」アイリーニは振り返って言った。以前はクールビューティーで鳴らした彼女の顔つきには、今や冷たさだけしか残っていない。「私はそのために再び大審問官の任に就いたのよ。」

「ええ、そうでしょうね。既にあなたはその名にふさわしい実力をお持ちなのですから。」

「それで、大審問官としてあなたに頼みたいことがあるのよ。」

アイリーニは『灯り』を掲げた。光が瞬時にホールに広がり、大扉を照らし出した。すると大扉は、隙間から光でこじ開けられるようにして開いた。

大扉の先にあった大きな広間は、かつて牢屋だったようだ。その後溶鉱炉や工房となり、そして今、あらゆる物が部屋の一角でほこりに埋もれており、中央には一つの『灯り』が置かれている。

「かつてここには一匹のシーボーンが幽閉されていたの。審問官はみな、正式に着任する前に、ここで海の真相を知らされるのよ。」アイリーニの声はとても落ち着いていた。「今ではその必要もなくなってしまったけれど。」

「だからここを……鍛冶場に改造したんですか?」

「ええ。」

「その灯りは?」

アイリーニは『灯り』に近づいた。まるで存在しない神に近付くかのように。彼女がそれを掲げると、まばゆい光がジョディの視界を埋め尽くした。

それは灯りと言うより、太陽だった。

「カルメン、ダリオ、ヨハン、カルロス……回収することができた審問官の『灯り』すべてを一つに鋳直したものよ。名前はいくつも検討したけど、まだ決まってはいないわ。」アイリーニがアーツを止めると、光は瞬時に狭いガラスの檻の中に戻っていった。「あなたに決めてもらう方がいいかもしれないわ。裁判所はこれをあなたに託すことに決めたから。」

「僕にですか!?」

「あなた、『灯り』は使えなかったかしら?」

「それは……無理です。カルメン閣下から教わったことはありますけど……やっぱり審問官のようには……」

「大丈夫、光を灯せるなら十分よ。もし不安なら、他に使える人を探してくれればいいわ。」アイリーニは微笑みながらそう言った。ジョディは、自分たちの歳にそれほど差がないことを今頃になって思い出した。「あなたは裁判所の抗争を見届けてきた。灯台から私たちの凱旋をいつも見守っていてくれた。そして犠牲となった英雄たちや、無念の内に倒れた人々を覚えている。『灯り』は決して凶器なんかじゃなく、私たちの希望であるべきなのよ。」

アイリーニはしばし言葉を区切って言った。「それを忘れないで、そして伝え続けていってちょうだい。」

「ではあなたは?」ジョディはほとんど彼女と同時に口走った。

「私が次に切り伏せなければならないシーボーンには……既にコードネームがつけられているの。コードネームは……」アイリーニは『灯り』を持つ手をふっと緩め、曖昧となった光と影の中を、扉に向かって歩き出しながら言った。

「グレイディーア。」


ジョディがケルシーに別れを告げた時、見慣れたはずの女性は災厄の中で、見知らぬ他人に変わってしまったように見えた。今の彼女は最後の都市を築き上げた創始者であり、もはやあの小さな艦船の上でオペレーター・ルーメンを指導していたケルシー先生ではなくなっていた。記憶の中のあの人たちも、もうケルシーの傍にはいない。ジョディも同じく、多くのものを失っていた。だからあの都市で過ごした短い歳月の中、ジョディはロドスに関することを一切口に出さなかった。過去への想いが、災厄の後に残ったわずかな希望に何らかの影響を及ぼすのではないかと恐れたからだ。

「海は依然危険なままだ。たとえ私たちが……既に自らの居場所を受け入れたとしてもな。」ケルシーはジョディの訴えを聞いても、特に驚いた素振りは見せなかった。「我々は生態系全体の従属物として、大群の奴隷として、共生関係の一員として、どうにか生き永らえているに過ぎない。それは決して私たちが……」

ケルシーはそこで話を止めた。目の前にいる、自分に別れを告げに来た者が、かつてその渦の中心からやって来たのだということを、ふいに思い出したようだった。

「分かっています。」ジョディは笑って言った。「でも僕は、海を見に行きたいんです。」

「……護衛は必要か?」

「いえ、それには及びません。年をとった名もないただの書記官に過ぎませんから。」

ケルシーはそれ以上は何も言わず、旅立つジョディのため、すぐに移動手段と荷物を整えた。故郷を見に行くだけなのだから、出兵のような大袈裟な準備は必要ない。出発する直前、ジョディは都市を振り返って一望し、こう思った──ここはもう移動する必要もなくなったんだな、と。大群から存続の許可を得ることができたのは、穏やか、かつ永久に停滞し続ける文明の形態だけだった。

また、ジョディはこうも思った。自分は生涯、最前線で命を懸けて戦ったことなどなく、都市の建設に力を注いだこともなかったと。初めから終わりまで、ずっと取るに足らない仕事をしてきただけのように思える。灯台に火が灯る時にも、船とイベリア人を導くのは灯台の光であって、守り人本人ではないのだから。

彼は崖の上に座り込んでいた。視界内の数海里にも及ぶ範囲では、珊瑚色の生物が回転しながら移動している。滑らかな貝殻を持った生物が波の軌跡に沿ってびっしり並び、カタカタ音を立てていた。海は穏やかで心地よく、空は澄み渡っている。人類、源石、魔物、そして常識を遥かに超えた存在たちをも克服してからというもの、世界を観測するシーボーンの感覚器官はもはや、人類の理解が及ぶものではなくなっていた。

海の上のどこか、陽光と雲の間にある最も不明瞭な一角に、新たに誕生したキチン質の神が、未だ無言のままじっとしていることを、ジョディは知っていた。ある人間が巣穴を出て海岸へ来た時から、「それ」の触手は隠れ家を離れて、この特異個体の一挙手一投足を警戒し続けている。今や「それ」はテラそのものであり、空を泳ぐ大群の同胞にとっての格好の目印となっていたのだ。

しかし「それ」にとって予想外だったのは、どうやらこの個体は、人間の粗末な双眸でもって、「それ」の意志を捕えているらしいということだった。

「こんにちは、海。」テラに存在する大群の個体が自らの言葉を聞き取れるかどうかなど気にも留めず、老人が子供に物語を聞かせるかのように、ジョディは口を開いた。「僕の名前はジョディ、ジョディ・フォンタナロッサ。かつて、あなたたちの取るに足らない敵だった男です。」

自己紹介から始まって、ジョディは静かに自分の人生について語りだした。

グランファーロ。エーギル。狂人号。アビサルハンター。帰郷。戦争。崩壊。覚醒。神。真相。失敗。死亡。離別。恥辱。平和。

彼の語り口は、時に早く時にゆっくりと、時に語気を強め、時に声を抑えたものだった。それに応える者はなく、ただ、珊瑚のような山脈の穴から吹き抜ける風だけが、岸辺に立つ奇妙な形のシュロの木をかすめ、轟轟と音を立てていた。

老人は語り終わると、海岸をじっと見つめた。海全体が前触れなく彼の意識に呼応して、微生物の作用で海水が急速に濁っていった。貝の恐魚が一斉に集まると、身体をぐにゃぐにゃと変形させて癒着し合い、ある物へと変わっていった──一隻の小舟に。

大群は彼の考えを読み取って、具現化したのだ。しかしジョディはなぜ大群がこんなことをしたのかは気に留めず、ただ笑って首を横に振り、こう言った。「いえ、そうじゃありません。誤解ですよ。残念ですけど、あなたの負けですね。」

波は答えない。イベリア最後の守り人もまた言葉を発さなかった。

陽射しは変わらず降り注いでいる。風と波、そして貝がぶつかる音の波形と周波数が、とある瞬間にぴたりと重なり合って一致した。大群の中のある一個体、つまりは大群全体も同然と言える存在が、この母星に棲みついた寄生体の残した遺言に対し、反応を見せた。

「さようなら、ジョディ・フォンタナロッサ。」

「さようなら。」


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