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狂人号 関連テキスト

スチル

狂人号

黄金に輝く旗艦も、絢爛なるこの時代も、決して色あせぬ我らの栄光―― そう固く信じていた過去の人々はもう、永き眠りについている。

「世界」

「大地」。これは、その狭さゆえに広く知れ渡る言葉となった。 では、遠い昔であれば、天地の一切を……我々がその人生で触れる万物を形容し得る、壮大な言葉が存在したのだろうか?

暗雲の町

この小さな町には年中暗雲が垂れ込めていて、足早に行き交う人々もそれに慣れきっている。 けれどここにも、輝く陽射しが降り注いでいた頃があったのだろう。

青年の夢

海とはどんな場所なのだろう?エーギルの血を引く青年には、それを想像の中で思い描くことしかできない。 今は海辺に足を踏み入れるだけでも、冒険と呼べる状況なのだ。

イベリアの眼

過ぎし日にこの地を訪れ灯台を目にした者たちは、全員ここに眠っている。 けれど、この灯台が象徴する志を我々が覚えている以上、彼らの犠牲は記憶に留め置かれるべきだ。

霧を破りて

霧の向こうから、黄金の亡霊が姿を現した。六十余年の歳月にすら、その輝きを覆い隠すことはできない。 ――来訪者たちよ。そのささやきに立ち向かう覚悟はあるか?

昔日の玉座

昔日の玉座の傍らには、今でも揺れる影がある。 彼らもまた、かつてはその栄光の一部だったのだ。

狩人と狩人

同僚か、旧友か、あるいは敵か。 それ以前に、彼らは皆運良く命拾いしただけの生き残りにすぎない。

証明

我々の身体にも、まだ人間らしい部分が残っていると証明するためには―― 人間にしかできないことをやってのければいいだけだ。

審判

彼女は自分が何と戦っているかを理解していた。そして、それは経典や法とは関係のないことである。 ただ、生き抜こうとする人々を代表して、ほかの命の存続に対し、判決を下すのだ。

再会に舞う

舞踏会の時間がやってきた。滅多に訪れないこの機会、踊りに興ずる人々の邪魔をしてはいけない。 久々に相まみえた彼女たちには、話すべきことが山とあるのだ。

育まれるものは

人間は献身を崇高で偉大な行為と見なしている。 だがそれこそが、視野の狭さの表れだ。

火葬

彼は炎の中に立つ。その姿を「守護者」と賛するのは実に低俗であり、冒涜的ですらあるだろう。 彼は、その身を以て人間の存在を知らしめているのだ。

静謐

彼女は、星空から静かに現れた優美な生き物を見つめていた。 その時、すべての音は雑音へと変わった。

終焉を告げる音

かの旗艦が沈んでいく。崩れ落ちる鋼鉄の巨体が轟音を立て、時代はここに終焉を迎えた。 ――とはいえその終焉は、とうの昔に、人々のため息の中に訪れていたのかもしれない。

海淵の光

深き海淵の下、輝ける都市が今も歩み続けている。そこは彼女たちの故郷であり、少し手を伸ばせば過ぎ去ったすべてに触れられそうにすら思われた。 それでも、彼女たちには立ち去ることしかできない。

偉大にして平凡な人

この若者は戦士ですらない、単なる普通の人間だ。 彼がことを成し遂げられたのは、そうした事実を承知の上で、それでもやると決めたからである。

 

音楽

黄金時代の遺産

蔓延

不朽の岩礁

深淵の寝言

狂人共の船歌

 

ランドマーク

錆びた標識

潮風で錆びた標識が孤独に佇んでいる。この道を通る者はほとんどなく、この場で起きた出来事を気に留める者も、記憶する者もない。沈黙は誰の身にも平等に降りかかり、同じ沈黙をもたらすのだ。記憶の道しるべとなるのはこの案内板だけであり、そこには小さな町の名前が――「グランファーロ」と、荒っぽく刻まれていた。

イベリアの眼

この灯台が災厄を逃れた理由を知る者などないが、それはどれほど恐ろしい波風を以てしても、人々が海へと目を向けることを止められはしないというだけのことなのかもしれない。イベリアの眼は閉じられてはおらず、ただひと時の間曇らされているにすぎないのだ。

スタルティフィラ

スタルティフィラ、またの名を「狂人号」。災厄が起きた時、偉大なるかの旗艦とそれが率いるイベリア大艦隊は、航海のさなかにあった。大いなる波はすべてを飲み込み、過去の亡霊だけがいまだ彷徨い続けている。

昇降機

スタルティフィラの中央に据えられた巨大な天蓋付き昇降機は、この偉大なる戦艦の各層にある甲板を繋いでいる。これに乗っている間は、壁に描かれたイベリアの輝かしい風景を眺めることもでき、まるで世界の中心にいるかのような気分を味わえるのだ。

主甲板

主甲板に広がる溟痕は、無情にもすべてを覆い尽くそうとしている。時間が残した傷跡さえも消し去っていく、それこそが奴らの在り方だ。

名もなき海

かつてはこの海にも名前があったのかもしれないが、もはやどうでもいいことだ。呼称とは、必要があってこそつけられるものであり、今の海はただの「海」でしかないのだから。

破れた地図 [Tattered Map]

災厄は象徴的な意味だけでなく、現実においてもイベリアを作り変えてしまった。この地図の精確に引かれた線や、細かい書き込みからは、測定者が相当の心血を注いでいただろうことが伝わってくる。恐らくかの災厄のあと、何人ものこうした人々が我が身を削って、もたらされた変化の一つ一つを描き、残された爪痕の一つ一つを発見していったのだろう。

地図上の新しい海岸線には、強調するように一つの地点へマークがされている。そこに「グランファーロ」という新たな町が築かれ、失われた灯台への架け橋として、海の侵攻に抗う要塞として、国家再建の起点となってイベリアの栄光をすぐにも取り戻す――当時の人々はそう信じていたのだ。

しかし現実には、今やこの地図自体がボロボロになり、グランファーロへ通じる道には雑草が生い茂っている。

地図を描いた人物がこの結末を知ってしまったら、何を感じるのだろうか?それがすでに亡き人だろうことは幸いと呼べるかもしれない。

黄ばんだ集合写真 [Faded Group Photo]

それはどのような時代だったのだろう。熱意には熱意で報いられ、理想には理想で応じられていた「その頃」。信じがたいことにグランファーロでは、島民とイベリア人は仲良く肩を並べて共闘していたという。海と戦う彼らには、互いの出自を気にしている暇などなかったのだ。その時は、災厄のあとの反感も暗い雰囲気も一掃され、全員の眼に海だけが映っていた。

とはいえ、もちろんそこにあったのは海との戦いだけではない。人々は友情を深めていき、愛情が芽生えることもあっただろう。そうして、「イベリアの眼」の彫刻が町の広場に建てられた時には、誰もがそれに酔いしれたのだ。皆がそこで集合写真を撮り、曇りない笑顔で写っていた。黄金時代がついに戻ってくるのだと、ちょっとした工夫と努力をすれば万事は好転していくのだと、全員がそう信じていた。

それが、黄金色に輝いた最後の残照となることなど、誰一人想像もしていなかったのだ。

恐魚の研究サンプル [Sea Terrors's Study Sample]

「恐魚は美しい生き物だ。一点注意していただきたいのだが、これは単なる修辞的な言い回しではない。同僚たちは常々、私をロマンチストすぎると言うし、その通りなのかもしれないが、それでもこう書かずにはいられない。私からすれば、恐魚はどれも、短く繊細な詩の如き存在だ。そこにはリズムがあり、韻があり、存在自体が鑑賞されるべきものなのだ。」

「この多種多様な姿を持つ生き物たちを見てほしい。文学者たちは、なぜ一つの詩文が人の心を動かして止まないのかということを、手を尽くして分析するのだろうが、我々が行っているのはある種それと同じことだ。ゆえに、使者は許してくださるだろう。我々は大いなる進化を傷つけているのではなく、それに更なる輝きをもたらすものは何なのかを分析しているだけなのだから。」

走り書きされた手帳 [A Scribbled Notepad]

「『グランファーロは君たちを必要としている。共にこの場所でイベリアの栄光を取り戻そう。』――彼らが最初に告げたのはそんな言葉だった。そう、このまま膝をつくことを良しとしない我々はここに集い、自分たちの町を作り上げたのだ。イベリア人は災厄などには屈しないし、島民の兄弟たちも我々の仲間に加わってくれた。彼らの技術的な才能は驚嘆に値する。とはいえ、ブレオガン閣下がエーギル人であることを思えば、それも不思議ではない。」

「私は、ブレオガン閣下と一緒に仕事をしたことはないが、彼の設計図を目にして以来、それは一生ものの心残りとなった。造船所には、彼のもとで働いていた上に、港町の建設にも関わったという老練の技師がいる。しかし、その技師は閣下に関連することを何一つ語りはしない。それどころか、誰も閣下のことには触れようともしないのだ。一体なぜなのだろうか?」

「何にせよ、この設計図は製図台のガラス板の下に敷いておくとしよう。こうした美しい船を設計し、建造することは二度とできないのかもしれないが、それでも、かつて我々がそれを有していたことを思い出させるのも重要なことだ。」

血塗れのスケッチ [Bloody Sketch]

ある雨の夜、とある大審問官がよろめきながら駐屯地へと戻ってきた。脇腹に穴が空くほどの重傷を負ったまま、冷たい雨の中、長い道のりを歩き続けた彼女が生きていること自体、奇跡のようなものだった。人々は少しでも彼女を温めてやろうと焚火のそばへ連れて行ったが、それはほとんど効果がなく、彼女を診た医師には、その血がすでに流し尽くされようとしていることがわかった。

機転が利き、決断力があることで知られるこの大審問官は、小隊を率いて、ある深海司教の捕獲任務に当たっていた。それまでの彼女の仕事ぶりは素晴らしく、その任務もそう危険なものではないかのように思われた。しかし一週間前、彼女の小隊全員と駐屯地との連絡は途絶してしまった。確かに現在のイベリアは、瓦礫の上に秩序を再建すべく奮闘している最中で、アクシデントが起こること自体は珍しくもない。だが、それが胸の痛む出来事であることに変わりはなかった。

そして今、なんと彼女は戻ってきてくれた。ふと、医師はその右手が固く何かを握り込んでいることに気が付いた。大審問官はもはや力加減も効かない様子で、己の手のひらに爪を突き刺してしまうほどにこぶしを握り締めている。彼女はまだ苦痛からの解放を望まず、なおも耐え続けようとしていた。誰かを待っているのだ。

カルメン閣下がついにご到着されると、大審問官は肺から最期の息を吐き、弱々しくも、駐屯地すべてに聞こえる声でこう告げた。

「灯台は、未だ健在です。朋友の眼は、今も見守ってくれています。」

このスケッチは、握り締めたその手の中から見つかった物だ。

消えた灯り [A Extinguished Lantern]

イベリアの経典における教えによれば、灯りが導く先にあるのが進むべき道であり、灯りが留まるその場所こそが守るべき故郷である。灯りを絶やさぬ限り、希望もまた不滅のものとなるのだ。けれどそれなら、灯りが消えてしまった時はどうすればいいのだろう?国教会時代にも、裁判所時代にも、経典を読み解く学者たちは皆それを語ることを避けるか、あるいは「心の灯りに点した炎は永遠に消えることなどない」と言って適当にあしらってきた。時折、革新的な信念を抱いた人物が、「灯りが消えることあらば、この身を焚き木とし、再び燃え上がらせてみせよう」などと気概に溢れた宣言をすることもあるが、それを実現するのは非常に難しいことだ。

灯台に閉じ込められた守人は、この問いについて考えた末、「暗闇の中で生き続ける」という結論を出したようだ。

旗艦建造用の設計図 [The Engineering Blueprint of Flagship]

スタルティフィラ、またの名を「狂人号」。その設計図が王室や貴族たちの元へ届けられた時、権力者の中で最も愚かな者にさえ、その意味するところは理解が及んだ。エーギルから来たあの技師は、常々海の脅威とやらをうるさく説いており、彼の言い分を聞くのには皆うんざりしていたのだが、我慢した甲斐はあったようだ。

無論、嫌われ者の技師当人はこの船を科学研究用の物だと主張し続けたが、王室の強力な介入のもと、脅威への対抗手段を口実に、結局船には強度の高い装甲と、大口径の主砲が取り付けられた。

そうして、あとは「脅威」と見なす対象を少しぼかしてしまえば……

人々は、概念的なものより実体のあるものにこそ憎しみを抱き、理想よりも目に見える利益にこそ貪欲になるものだ。ゆえに、この船は海との戦いより前に、まずはイベリアの敵との戦いで用いられるべきなのである。恐らく、あのエーギルもこの程度の些細なことを気にはしないだろう。

色あせた写真 [A Faded Photo]

現存する希少な資料によると、この設備は「天蓋付き昇降機」と呼ばれていたようだ。すでに色あせた写真の中にも、スタルティフィラの中央に据えられた昇降機の建設当時の姿を垣間見ることができる。安っぽいたとえではあるが、スタルティフィラをイベリアの王冠と見るならば、「天蓋付き昇降機」はそれを飾る一等輝かしき宝石と言えるだろう。これはブレオガンが各層の甲板を繋ぐべく設計した設備だが、実際に昇降機を作り上げたのは、かの時代を代表する偉大な芸術家たちだった。昇降機を囲む壁には、比類なく壮大な絵画が描かれ、至上の深みを持つ詩文が刻まれ、格別な感動をもたらす彫刻が施されたという話だ。ひとたび乗ればその間は、イベリア最高の宝を鑑賞する旅に出ることができるだろう。

また、「天蓋付き昇降機」には、その建設計画への参加資格を巡って、三名以上の宮廷画家が決闘で命を落としたという噂もある。

埃を被った聖像 [Dusty Eikon]

「諸君の提案をまたしても否決せざるを得なかったことを、申し訳なく思う。だが、私は君たちがついてきてくれることに感謝しているし、過度な謙遜をするつもりもない。確かに、イベリアは大いなる災厄に見舞われ、王室と貴族たちがもはやこの国を支える力を失ったことは誰もが認める事実となった。今や、イベリアの再建には国教会の力が不可欠だ。しかしそれでも、私は教皇の冠を戴くことにまだ抵抗がある。」

「かの災厄から教訓を得るには時期尚早とはいえ――今のイベリアの混乱は紛れもなく、国の頂に座す権力者や貴族たちには民衆を正しいほうへと導くことなどできないと証明している。そして、彼らを貪欲にさせ、享楽に溺れさせ、取るに足らない利益を得ることにしか興味を持てない人間にさせたのは、その地位なのだ。ゆえに、我々はそれと同じ過ちを繰り返してはいけない。教皇一人と数名の司教を担ぎ上げ、それがすべての問題を解決し続けてくれると期待するような真似をすべきではないのだ。」

「我々は最前線へと立ち続けなければならない。己が肉体で海からの侵攻を防ぎ、己が命運を賭して残された国土を守り、人々のために灯りを掲げて濃霧を晴らし、剣を手にしていばらを踏み越え進み続けるべきなのだ。そうして、罪深きものを裁き、穢れた悪には罰を与え続けよう。」

「今ここに、イベリア国教会を裁判所として再編し、この場の九名を『聖徒』と称することを提案する。これより我ら九名は元の名を捨て、この国の名を自ら冠し、国家のためだけに奔走しようではないか。こう名乗ることは少々出過ぎた真似かもしれないが、我らが――そして私、カルメン・イ・イベリア自身が、その重責に背かずにいるために。」

折れたイベリア式レイピア [Broken Iberian Rapier]

たった一振りの剣に、どれだけの意味が担えようか。それは生み出された瞬間から、誰かの胸へと突き立てられる運命にある。名誉や儀礼、敬意といった意味をどんなに与えられようと、剣はあくまで殺し合いの道具で、いつかは血塗られる定めなのだ。それは変えようのない事実であり、しかしこの剣が血を見るに至った経緯は、通常とは少し異なっていた。あの二人は、命を奪い合ったその時、何を求め、そして何に駆り立てられていたのだろう。愛か、衝動か、あるいは憐憫だろうか?

もしかすると、それは互いの魂を救わんとしてのことであり、その「救い」を与えるためには互いに滅ぼし合うしかなかったのかもしれない。

粘液まみれの手紙 [A Slimy Letter]

「手紙を書くのも、これで1172通目になる。残念ながら実際に送ることはできないし、今まで書いた手紙はすべて、引き出しに仕舞い込んだままだ。けれど、今回が本当に最後になるかもしれない。今、私は自分を懲罰房に閉じ込めているところだ。レイナは数日前、海に飛び込んでいった。あの子に祝福があらんことを(上から線を引いて消されている)」

「(何行にもわたって打ち消し線が引かれている)すまない。自分をコントロールできないんだ。それより、今の暮らしはどうだ?恩恵(線で消されている)お前たちには本当に申し訳ないことをした。私を少しでも誇りに思ってくれているといいんだが。あと少しで耐え抜くことができそうなんだ。私は三十年耐えてきた。それがどんなに難しいことか、幸福が(インクの塊がいくつか落とされている)あと少しだ、あと少し耐え抜けばいいんだ。お前たちが心底恋しいよ。この言葉をこれまで何度書いてきただろう?いや、そんなことはどうだっていい。もうすぐお前たちに会えるんだから。」

「必ず帰るよ。帰ってお前たちを抱きしめ、一族からの挨拶を伝えよう。(狂ったような字で綴られている)私は偉大な船に身を置いていた。守るために(線で消されている)イベリアを。子供たちにはプレゼントを持って帰ろう。何が欲しい?もしかして(判読不能の文字列)」

「私は耐えている。まだ、耐え続けている。」

甲板の平面図 [Deck Plan]

イベリアの領土であればどこであれ、かの旗艦の甲板に、対応する場所を見つけ出すことができる。というのも、船の設計には数名の文学者と修辞学者が関わっており、各所の構成物は山々を、そして配線の位置関係は河川を象徴するなど、甲板にあるすべてのものには相応の意味が与えられているからだ。そのため、甲板の清掃を担当していた乗組員は、そこに傷がつくことも、穴が開くことも決して許さなかった。少しの汚れであろうとも、見落としてしまえばイベリアに恥をかかせることになる。いつしか、自分の故郷を象徴する場所を磨いてワックスをかけ、甲板のどこが一番ピカピカなのかを比べ合うことは、出身地域が違う乗組員同士の密かな競争の種になっていた。

ある時には、荷物の積み下ろしを行うエリアの摩耗しやすい船板と、他のエリアの船板を交換しようとした者すらあり、それは厳しい叱責を受けた。象徴というのは得てしてそういうもので、我々には単なる想像に入れ込んでしまう節がある。

ボトルシップ ["Ship in the bottle"]

小さな船を詰め込んだ瓶が、なぜ土産物として成立するかは誰にもわからない。だが、事実としてそれはイベリア中で大流行し、当時の子供たちは皆誕生日プレゼントに「狂人号」のボトルシップを欲しがった。彼らは瓶を日の光へとかざしては、想像の中で船を出し、空へ漕ぎ出して遠い海まで航海をしたものだった。

しかし、災厄のあと、その流行はあっという間に廃れてしまい、ボトルシップが鎮座していたベッドサイドのスペースには、代わりに経典が置かれるようになっていった。その原因は単なる生活苦だけではなく、海や艦隊に関するすべてが人々の癒えない傷となり、それに触れるたび失望と悲しみ、屈辱を感じさせられるからでもあった。大艦隊は失敗したという結果だけが彼らの心に突き刺さり、そこへ至るまでの過程に関心を寄せる者はなかったのだ。

この瓶の中の小さな船を宝物に感じられるのは、かつてのグランファーロのような、未来を諦めていない人々が集う町の人間くらいのものだ。

けれども、今のグランファーロに、そんな人はまだ残っているのだろうか?

手記のページ・海岸 [Pages of an Atlas-Shore]

ブレオガンは友人たちと海岸に立ち、元来たほうへと視線を向けた。潮風はごうごうと吹いている。エーギルの都市は、どの波の下に隠れているのだろうか。

手記のページ・遠出 [Pages of an Atlas-Long Journey]

荒野の長旅はエーギル人にとって決して楽しくはないものだ。しかしブレオガンは、初めて高原に登った際、遍く大地を照らす双月の光を見た時のことを今でも覚えている。

手記のページ・対話 [Pages of an Atlas-Dialogue]

古代の禁じられた知識を得るために、何を代価とするべきか――それは恐らく、真摯な心だけで十分だ。そこに味の良い酒も合わせれば、なおさら上手くいくだろう。

手記のページ・拝命 [Pages of an Atlas-Ordination]

「全員が求めるものを得られるならば、誰が誰を利用しているなどということはない」というのが、ブレオガンの信じる理念である。このやりとりにも、何らかの科学的根拠があるのかもしれない。

手記のページ・骨組 [Pages of an Atlas-Framework]

この船で本当に何かを変えることなどできるのだろうか?そんな迷いがあろうとも、ブレオガンは自ら選んだその道を進み続けるしかなかった。

未完成のページ [Unfinished Atlas Pages]

災厄が訪れた。

血に濡れたボタン [Bloody Button]

ブレオガンは瓦礫の中を進んでいく。

道路はまだ水浸しで、両の足がそこを通るたび、いびつな波紋が広がっていった。しかと聞こえるわけではないが、きっと誰かが物陰ですすり泣いてでもいるのだろう。でなければ、これほど気分が沈み、心臓をわしづかみにされる感覚に陥るわけがない。

災厄が訪れてから、どれだけ時間が経ったのだろう?ブレオガンにはもう、はっきりとは思い出せなかった。時間と物事が折り重なって絡み合い、その密度がある程度高まってしまうと、順序というのは意味を失ってしまう。今となっては、覚えているのはその始まりのことだけだ。あの時、すべての音が消え、黒い波が何もかもを静かに葬り去っていった。王族や貴族たちは今どこにいるのだろう?国教会はどうしているだろう?疑問が多すぎて、一つ一つを吟味することはできそうにない。しかし、エーギルに何かが起きたのは確かだ。その上それは、彼が最も恐れていたことであってもおかしくなかった。

もしかすると、彼の努力はすべて無駄になってしまったのかもしれない。

各所にある灯台との連絡も試みてはみたものの、それは当然のように失敗した。また、曖昧な情報によると、港町への移動経路があった場所は海に沈んでしまったという話だった。こうなっては、大艦隊や全身全霊をかけて作り上げてきたスタルティフィラについては、もはや考えたくもない。考えずにいれば、希望という名の儚い泡が漂い残っていられるのだ。つまるところ、それは触れれば割れてしまうことがわかりきっていた。

エーギル人こそすべての元凶だ、などと吹き込む悪意に満ちた噂があちこちで広がっている。彼らこそが、黄金に輝くイベリアを妬み、災厄を招いた張本人だというのである。そして、その噂の中心に置かれてしまっているのが、彼――ブレオガンだった。かつてイベリアのスターとして祭り上げられた最高造船技術士は、一瞬で邪悪と手を結んだ狂人とされてしまったのだ。国教会の友人は、彼にイベリアを離れるよう勧めてくれたが、ここを離れたとして一体どこへ行けば良いのだろうか?

ふと、ブレオガンは誰かが自分をつけてきていることに気付いた。――そういえば、この廃墟まで足を運んだのはなぜだったか……彼は数秒、その目的を思い出そうとしてみたが、何一つ思い浮かばなかった。あるいはこうして行く当てもなく彷徨って、この惨状を目の当たりにすることこそが、己の傲慢と怠惰に対する罰となりうるかもしれない。

もし、選択をし直せるとしたら、彼はどうするのだろうか。何を選ぶべきなのだろうか。そんなばかばかしい考えを振り切ろうとして、ブレオガンは足取りを速めた。

つけてくる人数は増えていた。

ブレオガンは不意に、絵を描くのが好きなあの友人のことを思い出した。そうだ。今いるこの場所には、彼と通った小さなレストランがあったのだ。ここの店主はふくよかなエーギル人のおばさんで、彼女はいつも彼らに小皿をおまけしてくれていた。しかし昨日、そんな彼女が路地裏で死んでいたのが見つかった。その首には絞められた痕が残っていた。

昨今はそうした事件があまりに多く、彼女の死は通行人の誰からも見向きもされなかった。

彼をつけてくる人々はもはや隠れようともせず、海を満たす水の如く黙りこくっていた。

目の前には崩れた壁があり、もはやどこにも逃げ場はない。ブレオガンは振り返り、群衆のほうを見た。そこには見慣れた顔もあれば見慣れぬ顔もあり、それでいて全員が同じような顔をしていた。その表情をどう呼ぶべきかというと――それは憎しみでも、嘲笑でも、憐れみでもない何かだった。

そうして人々はゆっくりと、それでいて決して止まらずに、彼のほうへと近付いてきた。

その時、ブレオガンは群衆の中に見知った顔を見つけた。それはあの店主の息子だった。エーギル人だとばれたくないのか、顔を半分ローブのフードで隠している。そのほかにも、昔付き合いのあった島民が何人か紛れていた。自分たちの今の境遇をブレオガンのせいだと思っているのか、あるいは単なる鬱憤晴らしか――ともあれ、仕方があるまい。彼は一つ息を吐いた。これこそが、彼の迎えた結末なのだ。

人々が集まってくる。もはやそこにいるだけで抱擁すらも感じさせるほどの人数だ。

――少なくとも、彼らは屈しはしなかった。抗う意志さえ残っていれば、それが希望となるだろう。群衆は散り散りに去って行く。あとには浅い水たまりに倒れ込んだ老人だけが残されて、その身体の下には紅色が滲み出していた。

「リトル・ハンディ」 [“Little Handy”]

「古き賢人の知恵から生まれたこの製品には、我々が美徳とする人助けの精神が込められている。夜も眠れぬ悩めるエーギル人に告ぐ――日常の些細な悩みをお持ちなら、救いの手を求めているのなら、君だけの『リトル・ハンディ』を手に入れよう。」

これがなぜグランファーロにあるのかは、誰にもわからない。

野外用サバイバルユニットの説明書 [Wilderness Survival Module Manual]

「『野外用サバイバルユニット』は、あなたと『リトル・ハンディ』が海底に潜む災厄の牙や、時折運命によって放たれる罪深き毒矢に立ち向かう時、役立ってくれることでしょう。都市外への探索や、まだ見ぬ陸への挑戦を求めるエーギル市民の旅に必携の一品です。」

……で、真面目な話、この滑車だの細いワイヤーだのがどうサバイバルの役に立ってくれるんだ?とりあえずつけてみたらいいのか?

家庭用ヘルパーモジュールの説明書 [Housekeeping Assistant Module Manual]

「『家庭用ヘルパーモジュール』は、ご自宅の「お掃除専門家」のコアモデルを更新し、パフォーマンスを向上いたします。この装置がお家の埃を一掃し、心の汚れも洗い流してくれるでしょう。ご使用の際には『リトル・ハンディ』に接続してください。」

「聖徒の御手」は、裁判所が一部の過酷な前線に配給する戦場支援装置である。これは聖徒のご意志のもとに、すべての穢れを排除するだろう。なお、この装置がエーギルの島民から没収されたものだという噂はあくまで流言である。鵜呑みにせぬよう。」

運動量増加用プログラムの説明書 [Incremental Motion Firmware Manual]

「『運動量増加用プログラム』を『リトル・ハンディ』に取り付ければ、これはあなたに運動の楽しさを教えてくれることでしょう。健康な身体は素晴らしきアイデアを支え、みなぎる元気は清らかな心を養ってくれるものです。技術アカデミーと科学アカデミーの外壁は、ランニングの障害になどなりえません。ご自身の身体の弱さがその奮い立つ精神に追いついていないと感じた時、ぜひともご使用ください。」

夜中に筋肉痛で目を覚ましたくないのなら、鍛錬は適度にするべきだ。

小型清掃用キットの説明書 [Mini Decontamination Kit Manual]

「『小型清掃用キット』は、あなたと『リトル・ハンディ』に汚れを根絶する力をもたらします。邪念は人の心から芽生え、土地をも蝕んでしまうもの。放っておけば、善良さは穢れに遮られ、栄光にも陰りが差してしまいます。本装置を使って毒素を取り除き、その浸蝕を防ぎましょう。」

効果のほどは、匂いのきつさに比例している。

強化用外付けパーツの説明書 [External Upgrade Module Manual]

「もし、救いの手が決定打に欠け、悪を除くには不十分だと感じた時には、こちらの『強化用外付けパーツ』をご利用ください。英雄は試練によって己を高めるものであり、この装置を使えば『リトル・ハンディ』も古き鎖から解き放たれることでしょう。」

この機械、なんか変な音するんだが……オーバーヒートして燃え上がったりしないだろうな?

 

ログ

潮風で錆びた標識が孤独に佇んでいる。この道を通る者はほとんどなく、この場で起きた出来事を気に留める者も、記憶する者もない。沈黙は誰の身にも平等に降りかかり、同じ沈黙をもたらすのだ。記憶の道しるべとなるのはこの案内板だけであり、そこには小さな町の名前が、「グランファーロ」と荒っぽく刻まれていた。

今や訪問者も滅多にいない海辺の町、グランファーロ。しかしその場所へ、ロドスの人々とイベリア裁判所、そしてアビサルハンターやAUSまでもが集まり始めている。どうやら、嵐が近付いているようだ。

寂れた酒場では、見るからに長年質の悪いアルコール漬けになっていたらしい男が、ぶつぶつと意味不明の言葉を並べながら、生活の味気なさに文句を垂れていた。町によそ者が来たと聞くと、彼はようやくまぶたを持ち上げ、その濁った眼を露わにすると冷笑した。「AUS?ロックバンドだぁ?ハハッ!」「さっさとお家に帰りやがれってんだよ!そんなもんこの辺じゃ必要ねえ!そもそも、連中は裁判所のスパイかもしれねえしな!」 そして男は酒瓶を手によろよろとバーを出て行き、外からその声が遠く聞こえてきた。「ここはもう、あの連中にぶっ壊されちまったんだ……昔の、俺たちの……」

小さな礼拝堂の前では、ぼろ布をまとった物乞いが、礼拝堂の壁に寄りかかり、両手を強く握り合わせていた。彼は祈っているというよりは、一粒の小石の如く、ただその場に存在しているだけのように見えた。昼が過ぎ夜が訪れることも、生死も病も老いさえも、彼とは無関係にすら思えた。彼を気にかける者はなく、彼もまた誰をも気にかけはしない。しかしある時、彼は深くこうべを垂れ、両の目から涙を流してこう言った。――「私は選ばれるに値しない。」

礼拝堂の周りに集まった敬虔な人々は、震えながら目を閉じ、振り向くと、額を冷たい石壁へと押しつけていた。まるで風雪に晒され続けた礼拝堂のその壁が、今や唯一の支えであるとでも言うかのように。 そんな中、一人の老人が目を覆い、引きつけを起こしたようにして悲鳴を上げた。「炎が、光が見える! 奴が光を連れてきたんだ!」

広場で見つかった一匹の恐魚は死にゆきながらもこの大地を観察し続け、その視線はグランファーロの置かれた危機を感じさせた。 そしてケルシーはようやくエリジウムと合流し、AUSと接触する。その一方で、恐魚の死に応じ、その同族や深海教徒たちが不穏な動きを見せ始めていた。

暗い地下室の中、町の住民が腹立たしげにこう言った。「何だってんだよ……どうしてグランファーロはこんなふうになっちまったんだ?エーギル人に邪教徒、*イベリアスラング*な怪物どもまで来るなんて!早くここから逃げなけりゃ、どうなるかなんて……わかりきってるぞ!俺はこの目で見たんだ!審判の炎が、人の魂まで焼き尽くしちまうところをな!」 彼は補給物資を置いて行ってくれた。この物資はきっと役に立つだろう。

タイヤのついた奇妙な機械が、ガラクタの山から転がり落ちてきた。それは不完全な状態らしく、埃にまみれているものの、不思議な光沢がある。見ていれば、何かの拍子に電源が入ったのか、それは機械音と共に起動した。その骨組みには、エーギル語で「リトル・ハンディ」と書かれていた。足りないパーツを見つけられたら、戦場で役立つかもしれない。

ティアゴは街を離れるようとジョディを説得し、グランファーロに関するすべてを彼に教えた。黒い海に相対した人々は、行き場をなくしているようだ。

アビサルハンターたちの登場で、邪教徒は散り散りになっていく。ウルピアヌスと名乗る狩人が暗躍し、カルメンとグレイディーアもまた接触を果たす一方で、エリジウムは、邪教徒の残した資料の中から手掛かりを発見したようだ。

狭い路地にある家の窓、そのカーテンの隙間から、警戒の滲む老人の眼が覗く。十数年前同様の経験をした彼らには、この状況は既視感のあるものだった。あの時、再建の希望は潰され、踏みにじられた。その上あろうことか、手を下したのは彼らが深く信じていた人々だったのだ。兄弟同然だった友人は暗がりに姿を消し、心血を注いできた計画は中止になった。挙げ句、灯りを手にしたお偉方が、「お前たちの中に邪教徒がいる」などと言い出したのだ。 老人は、ベッドサイドに伏せて置いていた写真を見つめた。かつての眩しい夕焼けはすでに色あせている。夢は打ち砕かれたのだ。 老人は考えた。――怪物と人間、恐ろしいのはどちらだろうか?

誰もいないはずの店から物音がした。見れば、一匹の恐魚がカウンターの後ろにうずくまっており、その向かいに老婆が一人座っていた。老婆と恐魚の間には、図面が山ほど広げられている。老婆の顔はフードの影に半分隠れていたものの、彼女が目の前の恐魚を見つめていることは確かだ。――その昔、彼女は才能のすべてをイベリア最大の遠征へと捧げたが、かの冒険は恐るべき静謐に飲み込まれてしまった。苦しみと足掻き、幻滅を経験した老婆は、地域も国家も超越したより大きな目的へと身を投じ――生き物に到達しうる完全な理想郷を追い求めるようになったのだ。何よりも、あの教会に加われば、彼女は夢中で打ち込んできた季節風や水文学の研究を続けることができた。 裁判所がやってきた今、これまで心血を注いできた研究の結晶は燃やさねばならない。ここに記した学説は、二度と日の目を見ることはないだろう。彼女はそれを大いなる進化の一部たるその恐魚に捧げようと決意した。恐魚は彼女の目の前をただ徘徊するばかりだ。しかし幸い、彼女は我慢強い人間だった。

岩礁広がる岸辺には今も作業小屋が並んでおり、かつての賑わいを思わせる。災厄のあと、人々は一縷の希望を取り戻そうと各地からこの町へ集まってきたのだ。しかし今ではここは廃墟となり、トタンは崩れ、再建に使われた貴重な資源が手つかずのまま、そこかしこに散らばっている。この物資はきっと役に立つだろう。

AUSと出会った狩人たちは、町が攻撃を受けていることに気付いた。彼女らが町を守って戦う中、エリジウムはウルピアヌスによる襲撃を受ける。その頃、スペクターはアマイアとの邂逅を果たしていた。

変形したポストの中に、奇妙な装置が詰め込まれていた。その側面にはエーギル語で「野外用サバイバルユニット」と刻印されている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。これを置いて行ったのは何者で、その人は誰に何を伝えようとしていたのだろうか?

懲罰軍の前線基地で、人々は溟痕の実態を突き止めようとしていた。その浸蝕に抗うには、守り抜く信念が必要だ。

溟痕の出現に、カルメンとケルシー、そして狩人たちは危機感を示す。その頃、私欲に走った町民たちは、ジョディを引き渡して難を逃れようと画策し、ジョディはティアゴに逃がされることになる。町を出た彼はウルピアヌスからも追われるが、それを救い出したのはエリジウムだ。

倒壊した住居のあったエリアは昔、エーギルの「島民」が多くいる居住区だったようだ。看板に、イベリア風のものではない模様がかすかに残されているのが見て取れる。今や荒れ果てたこの場所には、物資を持ち出す暇もなくここを去った、かつての住民たちが置き去りにした物ものが残っていた。この物資はきっと役に立つだろう。

焼け落ちた研究所は、その燃え残った設備を見るに、少し前まで秘密の研究所として使われていたようだ。深海教徒たちは、ここで進化の秘密を解き明かそうとしていたのだろう。彼らはただ盲信するばかりでなく、探求をも行っていたのだ。

何とか焼失を免れた資料棚には、深海教徒が長い時間を費やして集めた研究資料が保管されていた。ファイルに振られた番号と日付から、この研究は随分と昔に始まっていたことが見て取れる。進化の終点という未来への約束は、あまりにも魅力的で現実味のあるものだった。その目的のため、素晴らしい頭脳の持ち主たちが昼夜を問わず働き続け、我が身を捧げてしまうほどに。 あるファイルの見出しには、恐らく記録者である深海教徒が記したのだろう走り書きがあった。――「進化の一部となることは、すべての苦しみから真に解放されることを意味する。」

何とか焼失を免れた検体保管庫には、既存の進化記録の中では目にしたことのないような写真や解剖図、組織サンプルなど、膨大な数の物ものが保管されていた。進化の終点という未来への約束は、あまりにも魅力的で現実味のあるものだった。その目的のため、素晴らしい頭脳の持ち主たちが昼夜を問わず働き続け、我が身を捧げてしまうほどに。 深海教徒たちは、崇拝する生き物に対してどのように接していたのだろう。メスで恐魚の皮膚を切り裂く時、彼らもその痛みを感じていたのだろうか。あるいは、人類の好奇心がその信仰を凌駕していたのだろうか。

価値ある物の大半は持ち去られていたが、当時の接収担当者は、隅にある工具箱を見落としていたようだ。

放棄されたまま幾年も経つ廃工場には、巨大な機械の間に、血肉を食い荒らされて荒野に骨を晒す遺骸のような、未完成の船の骨組みが置かれていた。グランファーロと共に生まれたこの工場がこんな結末を迎えるとは、大志を抱き建設に携わった人々は夢にも思わなかっただろう。価値ある物の大半は持ち去られていたが、当時の接収担当者は、隅にある工具箱を見落としていたようだ。その中には数枚の設計図と一冊の手帳がしまわれていた。設計図には、災厄より前、イベリア黄金時代の壮大な建造計画による大きな軍艦が描かれており、そこには船の設計責任者であるブレオガンのサインが入っていた。 だが、グランファーロもこの工場も、災厄のあとに築かれたものだ。ここで試作する予定だった船は、かつての大艦隊における一番小さな船と比べても、おもちゃ同然の代物だった。ここにいた技師が再現不能の設計図を持ち歩いていたのは、技術的な参考にするためだったのだろうか。あるいは、在りし日の夢を手元に置いておくためだったのだろうか。 滑稽なことに、その黄金時代への拙い模倣でさえ、今では過去の遺物でしかない。

存在自体に意義を持つこのグランファーロの町で、裁判所とアビサルハンターたちは協議を行うこととなった。イベリアの眼の捜索は目前に迫っている。

港には、懲罰軍が用意していた小船がいくつか係留されている。この船たちは、これから始まる初航海において、今まで経験したことのない波風に晒されることになるだろう。

コールドリーフの埠頭から見渡せば、かの災厄がイベリアの海岸線を完全に作り変えてしまったことがよくわかる。七十年以上前に築かれた偉大なる港町は、とうに跡形もなく海へ沈んでいった。このコールドリーフは当時のそれとは比べものにならない小さな港だが、それでも、巨大船舶用の停泊スペースが用意されている。かの巨艦は、実際には二度と戻らなかったというのに。 グランファーロの建設計画が頓挫したあと、コールドリーフ港はほとんど使われなくなった。出航記録に残っているのは、裁判所と懲罰軍の計画した小規模探索任務くらいのものだ。その上、そうした任務から帰還した者はいない。 けれども今日、この寂れて久しい港はついに、再び船を見送ることとなった。乗組員たちは、遠い海を今なお見渡しているだろう「イベリアの眼」を探すべく旅立つのだ。懲罰軍は前もって、航海の準備をしてくれていた。そして、港の年老いた労働者たちは、遠洋へと漕ぎ出そうとする人々のために物資を積み込むという、慣れない作業をこなしてくれた。やがて、小さな船はゆっくりと港を離れ、送り出す皆の視界から消えていく。 老いたる働き手は、先の短い残りの人生で、こうして船を見送る機会は二度とないかもしれないと思った。

埃まみれの倉庫の中には、今なお次の航海に備えて、物資が蓄えられたままになっている。けれども一つ問題なのは、次の航海がいつなのか、そもそも「次」がやってくるのかを誰も知らないということだ。しかし、この物資はきっと役に立つだろう。

イベリアの眼は依然、波間に佇んでいる。この灯台が災厄を逃れた理由を知る者などないが、それはどれほど恐ろしい波風を以てしても、人々が海へと目を向けることを止められはしないというだけのことなのかもしれない。イベリアの眼は閉じられてはおらず、ただひと時の間曇らされているにすぎないのだ。

町に残ったカルメンとケルシーは、懲罰軍の到着を待ちながら、邪教徒の一掃と前線基地の設営を計画する。一方で、航行は順風満帆とはいかず、狩人たちは恐魚の脅威に晒されながら、イベリアの眼へと辿り着いた。ジョディが扉を開こうと試みる中、そこへさらなる来客が現れる。

イベリアの眼を起動させるべく、ダリオがその入り口を守り、ジョディはアイリーニと共に中へと踏み込んでいく。しかし、海から現れた「最後の騎士」は、この灯台を打ち砕くべき「大波」だと思い込んでいるようだ。

灯台守の小屋には、生活の痕跡がそのまま残されていた。当時、かの災厄は前触れなく起こり、ここに駐在していた灯台守は音信不通となった。しかし、六十年以上過ぎた今も、ここには窓から海を見つめる守人の姿がある。身体が朽ち果て、眼孔が空となっても、責務を果たし続けているのだ。ここでは、残された日記を確認し、引き出しの中を検めることができた。

制御室外の廊下で、ジョディはその場をレンガ一つ、壁の一つも見逃さないように眺めていた。この灯台こそ、老人たちが口々に語り、彼が夢にまで見てきた「イベリアの眼」だ。この廊下や階段はジョディの両親が踏みしめたかもしれない場所であり、このパネルにも、二人が触れたことがあったのかもしれない。ジョディはその場に、少しでも懐かしい気配を感じ取ろうとした。彼はそれまで幾度となく両親の姿を思い描いては、彼らが灯台の間を行き来する様子を想像してきたのだ。そして、ノートに書き残された言葉の一つ一つが、目の前の現実と一致していることを、彼は今確かめつつあった。――もしかすると、二人の遺骨は今もこの灯台のどこかで眠っているのかもしれない。そう考えたジョディは、思わず身震いした。今や彼自身もここに立ち、その手はコントロールパネルに触れている。となれば、彼の運命はどこへ向かっていくのだろうか? ジョディはそれ以上考えるのをやめた。その出自や彼自身の価値、そして立場がどうであれ、使命を果たさねばならないことには変わりないのだ。彼は自身の荒唐無稽な夢のために、ここへ立っている。その心には確かに、緊張も怯えもあるかもしれないが、迷いは少しもありはしない。

イベリアの眼は再び光を取り戻し、「最後の騎士」は去った。一方グランファーロでは、ジョディを連行されたと聞いたティアゴが深海教徒に接触を始めている。他方で、町へ増援に来るはずの懲罰軍は、溟痕に足止めされているようだ。

半開きの金庫の中には、イベリア大艦隊が霧の中を探索して作り上げ、海洋征服の支えとしていた古びた航海図が入っていた。しかし、残念ながらこれは今ではただの紙くず同然だ。また、金庫の下の段には、もはや誰も使うことのないわずかな物資が保管されていた。この物資はきっと役に立つだろう。

壊れた戸棚の中に、複雑な構造の装置が立てかけられていた。その側面にはエーギル語で「家庭用ヘルパーモジュール」と小さく書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。大切に仕舞い込まれていたようだが、これはどこから持ち込まれたものなのだろうか?

「狂人号」の航跡がようやく判明し、かの失われた旗艦はついに姿を現した。

スタルティフィラ、またの名を「狂人号」。災厄が起きた時、偉大なるかの旗艦とそれが率いるイベリア大艦隊は、航海のさなかにあった。大いなる波はすべてを飲み込み、過去の亡霊だけがいまだ彷徨い続けている。

狩人たちは黄金の大船に辿り着いた。そこでシーボーンに出くわした彼女らが追跡と戦闘を行う中、ついにスペクターに正気が戻る。

将校の休憩室には、壊れた美術品が散乱していた。切り裂かれた大きな油絵、砕けてしまった純白の石像、へこんだ銅製のレリーフ……そして、中には銀で飾られたビリヤード台や、手描きらしい複雑な図案の入ったトランプなど、一風変わった物もある。ここでは室内を調べることができ、鍵さえあれば、奥の部屋を確かめてみることもできた。

洗面所の中は、ほとんどすべてが真新しく見え、今も蛇口から水を出すことすらできた。しかし、不思議なことに、鏡だけはどれも砕けており、そこに映る景色もひび割れていた。また、洗面台の下の収納箱には、まだ使われていない備品が残っている。これはきっと役に立つだろう。

船員の宿舎のほうから、何かが繰り返し壁を叩いているような、規則的で、空虚で、単調に続く奇妙な音が聞こえてきた。

案の定、そこにいたのは恐魚だった。それはよろめきながら歩みを止めて、振り返った。恐魚にも「混乱」することがあるのなら、目の前のこれは今まさに相当混乱しているだろう。どうやら長いこと壁と戦い続けていたようで、恐魚の身体の側面にはぶつけるあまりに分厚い角質層ができている。このまま閉じ込められていたら、いずれ恐魚は脱出を諦め、同族の餌となっていたかもしれない。 その身体には、いつかの格闘の痕跡らしき鍵束が深々と突き刺さっていた。恐らく、この恐魚と戦った人物は、手にした刃が折れたあと、身につけていた中で一番鋭いものを取り出して、最期まで足掻き続けたのだろう。 そうして突き刺さった鍵による傷が、恐魚の神経節にまで達したせいかは定かでない。だが、ともあれこの恐魚は何らかの要因で宿舎に逃げ込み、壁と格闘するよりほかになくなってしまったようだ。あるいは、もしかすると…… 何であれ、今はあの鍵を引き抜いて、その惨めな生命に終止符を打ってやるとしよう。

工具室の中には、スタルティフィラのメンテナンスに必要な機材と工具、消耗品などが保管されている。とはいえ、恐ろしい災厄を経て動力系統が完全に壊れてしまった船を、ここにある工具だけで修理するのは難しいことだったのだろう。ここでは戸棚を調べることができ、鍵さえあれば、引き出しの中を検めることもできた。

貯蔵室には予備の帆布が山ほど収められていた。広げてみればそれは、金糸で飾られ、イベリアの国旗が丁寧に刺繍された巨大な帆だ。この部屋で見つけた物資はきっと役に立つだろう。

シーボーンを追ううちに、この船の主人、アルフォンソ船長が姿を現した。数十年の時を狂人号で過ごし、半分シーボーンになりかけながらも、彼は己の意志を失わずに生き続けていたのだ。しかし、船長は無情にも、ここから立ち去るようにと言い渡してきた。

第一調理室は、その規模を目にするだけでも、そこから豪華な料理が運び出されていく在りし日の盛況ぶりは想像に難くない。ここでは、扉を開いて室内を調べ、隅にある冷蔵庫を検めることもできた。

深海教徒に捕らえられたエリジウムは、アマイアが彼らの先導者であることを確信する。一方で狩人たちは、狂人号と副船長ガルシアと共に生きようとする船長を説得できずにおり、シーボーンを狩りに向かう彼はその場を離れていく。

スタルティフィラの中央に据えられた巨大な天蓋付き昇降機は、この偉大なる戦艦の各層にある甲板を繋いでいる。これに乗っている間は、壁に描かれたイベリアの輝かしい風景を眺めることもでき、まるで世界の中心にいるかのような気分を味わえるのだ。

訓練場には、狩りの鐘の音で目を覚ましたらしい恐魚がひしめいていた。人々が切磋琢磨するために作られたこの場所は、とうに奴らの孵化するゆりかごとなっていたようだ。暗闇の中、無数の眼が不気味に光るのが見え、這い回る物音が聞こえる。その敵意は肌で感じられるほど強いものだった。

恐魚は所詮恐魚でしかなく、戦いはすぐに幕を閉じた。奴らは慌てて闇の中へと身を潜め、次の機会を待つことにしたようだ。――狩人たりえぬものは、獲物になるよりほかにない。狩りとはそういうものなのだ。見渡せば、一匹の大きな恐魚が同族に囲まれたまま死んでいた。その触腕には、壊れた懐中時計がぶら下がっている。それは、彫られた刻印から察するに、スタルティフィラの航海長のものだったようだ。しかし、恐魚がその群れに必要な進化を遂げるものなのだとしたら、収集癖を身につけることなどあるのだろうか?

船内の小さな教会には聖像が据えられており、訪問者たちを等しく見下ろしている。かつては乗組員たちが自らの罪を懺悔し、魂を清めるためにここを訪れていたのだろう。しかし今や、この荘厳な一室に足を踏み入れるのは迷い込んだ恐魚くらいのものだ。

イベリア国教会は災厄が訪れる前から、ラテラーノの法による拘束を避けるべく、ラテラーノ教皇庁と距離を置いていたのだが、教皇閣下はそれにお気付きでなかったようだ。そうして最終的に、イベリア人は「己を救える者は己のみ」という結論にたどり着いた。 この小さな教会は、まさしくその分離期における典型的な様式となっている。聖像が銃ではなく剣と灯りを携えているのがその証左だ。国教会は当時、新たな経典を編み上げた上で、国王の支持の元、イベリア独自の教皇を擁立しようとさえしていた。しかし、そのすべてが跡形もなく消え去った今、イベリアの導きとなるものは、もはや裁判所のみとなった。教会の隅には船員たちの軍帽が整然と並べられていた。その持ち主たちは恐らく、とうに海へと姿を消してしまったのだろう。けれども、このささやかな形見が飾られていること自体が、彼らを忘れたくないと願う誰かの存在を証明していた。

資料室には、イベリア大艦隊の全機密文書が保管されていたようだ。一つ一つの金庫の中に、人事情報や配備計画、戦術の手配などにまつわる、あらゆる資料がしまわれている。しかし、今ではそのすべてが紙くずの山と化してしまった。ここでは室内を調べることができ、パスワードさえ見つかれば、大きな金庫の中を検めることもできた。

パイプシャフトはひどい有様だった。誰かが無惨に殺されたらしい形跡があり、この場に残された傷が剣によるものであることから考えて、手を下したのも人間だろうと思われた。

薄暗く雑然としたこの場所の、光が届かない隅のほうに、白骨死体が転がっていた。一つきりと思われたそれは、よく見れば二体分の骨が絡んだもので、その内一つは……ひどくねじれて、折れ曲がっていた。その骨格は、ある種の恐魚のそれと非常に似通っている。二人の胸部があった場所には、一本のレイピアが突き刺さっていた。その柄は彼ら自身の手に握られており、それを突き立てたのが当人たちだったことを思わせる。 二人はなぜ、こんな最期を迎えることになったのだろうか?彼らは一体どのような関係だったのだろうか?その死の間際、彼らは何を考えていたのだろうか?恐らく、もはやそれを知る術は残されていない。

シーボーンは狩人や船長たちと一戦交えたのち、逃げ出してしまった。一方で、アイリーニは偶然ガルシアがピアノを弾く場面を目にし、この副船長にまだ理性があることを知る。その頃、造船士ブレオガンの遺産を前に、グレイディーアはかつての僚友の存在を感じ取っていた。

チェーンロッカーにあったアンカー関連の機材は、大いなる静謐によって完全に破壊されていた。この部屋も長年放置されていたはずだが、誰かがここを秘密の倉庫として使っていたらしく、たくさんの輝く物ものが保管されている。この物資はきっと役に立つだろう。

メンテナンス通路の途中、壁沿いに変わった装置が置かれていた。その表面にはエーギル語で「運動量増加用プログラム」と書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。しかし、これがどのように運動を手伝ってくれるのかはまるで想像がつかない。

エリジウムは説得を試みるものの、ティアゴはそれに耳を貸さない。狂人号のほうでは、ウルピアヌスとグレイディーアが再会し、言葉を交わしていたが、なおも話を続けようとしたその時、「最後の騎士」が現れる。

懲罰房は鉄格子にぐるりと囲まれていた。しかし、内側から破られてしまったらしく、ここはもはや元の役割を果たせそうになかった。鉄格子は引き裂かれ、折られた鉄の棒があちこちに散らばっている。

意外にも、懲罰房の机には未完成の手紙が置かれていた。その手紙には、溟痕に似た質感の怪しげな粘液がぽつぽつと滴っている。けれども、時を経たそれはすでに乾ききっていた。便せんの上半分は比較的綺麗なもので、家族に宛てて書いていたらしい内容だ。手紙を書いた人物は、家族への思いと、そばにいてあげられない罪悪感を繰り返し綴っていた。しかし、滴る粘液が増えるにつれ、文字は次第に乱れていき、手紙の主は「もうすぐお前たちに会える」「子供たちにはプレゼントを持って帰ろう」などと書き残している。それ以降の内容はほとんど粘液に覆われてしまい、かろうじて「海」や「回帰」といった文言を読み取ることしかできなかった。手紙の最後の一行には、綺麗な字でこう書かれていた。――「我らは共にある。」 どうやら、懲罰房から逃げ出したのは、手紙を書いていた人物らしい。

製図室は、探索の成果をまとめて海図を作るための部屋だった。しかし災厄のあと、海流や季節風、そして目印となる島など、海のすべてが様変わりしたため、何世代もかけて研究されてきた法則は崩れ、無用のものとなってしまった。ここでは、余っている物資を手に入れられた。この物資はきっと役に立つだろう。

ティアゴが深海教徒に牙を剥く。彼の協力はあくまで、町を守るべく深海教徒と裁判所をぶつけ合わせるための演技だったのだ。その頃灯台では、ダリオが満身創痍になりながら、なおも恐魚と戦い続けていた。そしてスタルティフィラ号はといえば、狩りと乱戦が幕を開けたところだ。

ティアゴは深海教徒によって命を奪われた。死の間際、彼はかつて愛した人と町に関する真相を知りたいと願うものの、カルメンはあえてその残酷な真実を語らなかった。一方狂人号では、進化を続けるシーボーンを前に、アイリーニが自ら成長を遂げ、ハンドキャノンを手に取っていた。

ブリッジの通路のそばで、ひげをたくわえた白髪の船長が、舷窓から外を眺めている。六十年以上、二万日を超える時の中で、幾多の荒波と無数の危機を乗り越えてきたこの船は、不滅の国家イベリアと同じく、沈むことなど決してない。言うまでもなく、スタルティフィラはかくあるべきで、かくあり続けるほかないのだ。彼の視線の先に広がる海面には、風景と呼べるほどのものは何もない。初めの十数年ほどの間、彼は多くの時間を見張り台で過ごした。小島の一つでも構わないから、かつて故郷と呼んだ地をこの目で見たいと思ったのだ。 けれどそこには何もなかった。視界に入るのは、果てしなく遠くまでを満たす水だけだ。その光景に彼は退屈し、焦燥し、憤り、そしてついには目を背けた。どうせ何も起こりはしない。彼の命運はもはやその場所と無縁のものなのだ。しかし、なぜだかこの時船長はふと、自分がこの名もなき海を見飽きていないことに気が付いた。そこで彼は、この馬鹿げた茶番を終わらせたら、何年も前そうしていたように、副船長と共に日の出を静かに眺めようと心に決めた。

タラップを通れば、甲板はもう目の前にある。――どれほど嵐が吹き荒れようと、海はやがて静まるものだ。

主甲板に広がる溟痕は、無情にもすべてを覆い尽くそうとしている。時間が残した傷跡さえも消し去っていく、それこそが奴らの在り方だ。

ウインチのそばには大量の恐魚が集まり、その場にうずくまって、栄養豊富な筋繊維の塊へと自ら姿を変えていくところだった。奴らは己が属する群れへと文字通り身を献げているのだ。

社会学者は、恐魚とシーボーンの社会形態をどう分析するのだろうか?いや、恐らく彼らにそれを求めることは難しいだろう。というのも、人間社会は我々の利己心と高尚な精神、そして臆病さと勇敢さの上に成り立つものだからだ。我々の醜さは時として、輝ける瞬間をももたらすのである。一方でこの生き物たちの己がコミュニティへの認識は、完全に我々の想像を超えたものだ。人類が献身を讃えるのは、それが道徳的かつ稀有だからこそである。しかし、恐魚たちはそうした視点から物事を見ることはなく、どんな選択にも卑劣かあるいは高尚かなどと意味を持たせはしない。奴らはたった一つの目標のみを目指しており、ありとあらゆる行動はそのためだけのものである。恐魚に地位などありはせず、個々の利益を得ることもない。ただ進化の終点に到達せんとするばかりの存在なのだ。 ゆえにこそ、人類は奴らと徹底的に戦わねばならない。

狩りの決着は付かず、またもシーボーンは逃げだした。アマイアと出会ったスペクターは狩りを任せて、彼女との戦いを始める。その一方、カルメンとケルシーはイベリアの眼へと辿り着こうとしていた。

恐魚が信号灯の近くへ集まっていた。奴らが這う場所には、影が忍び寄ってくる。

右舷甲板では、手負いのシーボーンが同族を喰らい、己が力を蓄え、逃げだそうとしていた。自分が次なる進化の扉の目前まで迫っていることを感じ取っていたのだ。

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、恐魚が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてきた。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、その場を逃げ去っていった。奴にはまだ時間が必要だったのだ。

船首甲板では、手負いのシーボーンが栄養を求め、方向を探り、逃げ道を探していた。奴は苦労して追い求めてきた答えまであと一歩だと理解していたのだ。

未来への希望の訪れを感じ取ったのか、奴の血族は文字通り一丸となり、命を賭して防護壁を築き上げてきた。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、その場を逃げ去っていった。奴にはやはり、まだ時間が必要だったのだ。

左舷甲板に集まった恐魚が、びっしりとその場を埋め尽くしていた。奴らは緩やかに蠢き、せめぎ合い、繁殖していたのだ。その中には何かが隠れており、手負いのシーボーンが体力を回復しているのかもしれないと思われた。

群れに囲まれたその巨体は、ただの大きな恐魚だった。それは意図しない偶然か、あるいは巧妙な偽装なのか――ともあれ、そんなことを考えている時間はない。それより、シーボーンを見つけ出さなくてはならなかった。

手負いのシーボーンは左舷甲板で立ち止まった。何かを思考し、理解しようとしていたのだ。奴にはまだ答えの出せない問題があり、その解決法を探っていた。

シーボーンは、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めていた。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

船首甲板のどこからか、赤ん坊が言葉を真似て喋るような拙さで、人のものとは思えない声が何か呟くのが聞こえてきた。シーボーンの声だ。奴を見つけ出し、この長すぎた茶番を終わらせねばならない。

「右舷甲板」に向かって続く血痕は、あのシーボーンのものに違いない。奴が力を付けてしまう前に、追って始末を付けなければ。

右舷甲板にはまたも、シーボーンが姿を現した。奴はなおも同族を喰らい、己が力を蓄えようとしていた。まだ、次なる進化の扉の前で徘徊している最中らしい。

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、奴の血族が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはまだ時間が必要なのだ。

船首甲板では、手負いのシーボーンが栄養を求め、方向を探り、逃げ道を探していた。奴は苦労して追い求めてきた答えまであと一歩だと理解していたのだ。

未来への希望の訪れを感じ取ったのか、奴の血族は文字通り一丸となり、命を賭して防護壁を築き上げてきた。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、その場を逃げ去っていった。奴にはやはり、まだ時間が必要だったのだ。

手負いのシーボーンは左舷甲板で立ち止まった。何かを思考し、理解しようとしていたのだ。奴にはまだ答えの出せない問題があり、その解決法を探っていた。

シーボーンは、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めていた。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

左舷甲板では、物陰から荒い息遣いが聞こえた。何かがそこに隠れているようだった。もしや、あのシーボーンだろうか?ならば見つけ出して仕留めなければ。これは生き残りをかけた戦いなのだから。

暗闇に潜むその巨体は、ただの大きな恐魚だった。それは意図しない偶然か、あるいは巧妙な偽装なのか――ともあれ、そんなことを考えている時間はない。それより、シーボーンを見つけ出さなくてはならなかった。

船首甲板のどこからか、赤ん坊が言葉を真似て喋るような拙さで、人のものとは思えない声が何か呟くのが聞こえてきた。シーボーンの声だ。奴を見つけ出し、この長すぎた茶番を終わらせねばならない。

「右舷甲板」に向かって続く血痕は、あのシーボーンのものに違いない。奴が力を付けてしまう前に、追って始末を付けなければ。

右舷甲板では、シーボーンがなおも徘徊していた。奴はやはり同族を喰らい、己が力を蓄えながら、進化の扉を探し求めているようだ。

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、奴の血族が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはまだ時間が必要なのだ。

船首甲板で、手負いのシーボーンは栄養を求め、方向を探り、逃げ道を探していた。奴は苦労して追い求めてきた答えまであと一歩だと理解していたのだ。

シーボーンは、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めていた。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

打ち捨てられた樽に何が入っていたかを知る者はもういない。この樽は六十年ほど前ならば、乗組員たちが祝いの席を思う存分楽しめるよう、嫌というほど強い酒で満たされていたのかもしれない。樽の中から見つかったボロボロの遺物は、絶望に飲まれた誰かが最後の一杯を飲み干して、その代金として置いて行ったものだろうか?ともあれ、この物資はきっと役に立つだろう。

スペクターとアマイアは戦いの中で言葉を交わす。しかし、ウルピアヌスが気配を隠さなくなったことで、時間稼ぎは無用と判断したアマイアは離脱し、シーボーンに身を献げに向かった。かくして、さらなる進化が訪れようとしている。

水文観測所では、未知の機械が規則的な音を発していた。しかし、その意味を理解できる人間は残念ながらもういない。そこには、精密な造りの装置が置かれていた。その底面にはエーギル語で「小型清掃用キット」と書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。

イベリアの眼に辿り着いたカルメンとケルシーは、戦いの中で命を落としたダリオの姿を目の当たりにした。彼の守り抜いた灯台は無事、そこにある。狂人号では、アマイアの献身で進化を遂げたシーボーンが新たなる「静謐」を引き起こし、船は今や沈もうとしていた。 狩人たちとアイリーニ、そして船長は共にシーボーンを瀕死へ追い込む。狂人号は最期を迎え、船長は船と共に沈んでいく。海で力を取り戻そうとするシーボーンだったが、ガルシアの執念とウルピアヌスの一撃で仕留められ、海底へ落ちていくのだった。

かつてはこの海にも名前があったのかもしれないが、もはやどうでもいいことだ。呼称とは、必要があってこそつけられるものであり、今の海はただの「海」でしかないのだから。

懲罰軍は弱みを見せることもなければ、誰かに屈することもない。彼らはイベリアの堤防であり、大波はただ不浄の穢れを洗い流したにすぎないのだ。補給所の兵士たちは今も、海の下に広がるイベリアの国土をじっと見つめている。

海へ飛び込んだ狩人たちとアイリーニを救ったのはジョディだ。すべてが終わったそのあと、人々は狂人号の喪失という挫折の中から真理を拾い上げ、それを建材として、新たな戦いに向けて動き始めた。

物語は終幕を迎え、人々は別れ行く。悠久の時が流れようと、人は誰しも、幾度も十字路へと立ち、選択し続けることしかできない。

この手記の筆者は序文において、自分は故郷を離れた哀れな男にすぎず、己の名前など重要ではない、と記している。彼は友人たちや自身の暮らしと経験を記録するため、そして記憶が波に流されてしまわないようにするため、筆を執ったそうだ。また、意外なことに、この手記は子供たちにも愛されていたようで、ページの隅にはしばしば彼らの落書きが見受けられる。もしかすると、陸で育った子供らも、身近なものから「エーギル」という朧気な故郷の姿を知ろうとしていたのかもしれない。 手記のページはなぜかバラバラにされており、少しずつ物語を繋ぎ合わせる必要がありそうだ。

「ブレオガンは俺たちをこう説得した。――今のエーギルは自惚れという泥沼に沈み込んでおり、我々の都市は陥落しかけている。故郷が深淵に消えようとしているにもかかわらず、執政官たちは未だに勝利を信じ切っているのだ。それでも、我々は新たな可能性を見つけ出さなければならない。」 「海はいかに広大であろうと、世界のすべてというわけではない。陸の人々は弱く、目先のことしか見えていないかもしれないが、恐らく彼らは変革をもたらす力を秘めている。何しろ、源石の災禍に蝕まれながらも、それを使いこなす術を身につけたのだから。」 「――ブレオガンは、そこにエーギルが求める答えがあるとは保証しなかったものの、それは確かに新たな道ではあった。俺は最初に陸へ上がった瞬間のことを今でも覚えている。足元の砂浜はエーギルのそれと変わりなかったが、風に吹かれる感覚を知ったのは初めてだった。」

「俺たちが上陸したこの場所は、イベリアという驕り高ぶる後進国だ。傲慢さとは、海陸問わず蔓延する、人類共通の疫病のようなものらしい。ここでは、災厄によってエーギルを離れた難民たちと共に暮らしていたのだが、陸の人々はそんな俺たちを『島民』と呼んでいた。」 「とはいえ、俺たちにとって陸のすべてが新鮮だったことは確かだ。特にブレオガンは、科学アカデミーの天才と呼ばれていた頃にさえ、あれほどの興奮を見せることはなかったように思う。あいつは毎日駆け回ってはあれこれと尋ね回り、すぐに地元の人々と打ち解けてみせた。」 「しかし、「これも『人付き合いの科学』を心得ているからだ」などと得意げに語る様子には辟易する。先日など、あいつはある老人から気になる話を聞いてすぐ、旅に出ると決めてしまったが、これには期待できない。そもそもこの土地をよく知らない以上、無闇に冒険すべきじゃない。」 「だというのに――もういい、わかった。とりあえずチームには入ってやる。道半ばで死ぬようなことにならなければいいんだが。」

「あの場所を離れて何年経つだろう。五年か、六年か?ともあれその間に、俺たちはヴィクトリアの街を歩き、カジミエーシュ平原で景色を眺め、ラテラーノの大聖堂を訪れ、ウルサスの雪原で死にかけたりもした。そして今、目の前にあるのは何千マイルも先まで続くサルゴンの砂漠だ。」 「ブレオガンの言う通り、俺たちは真相に近付きつつある。この旅の途中、預言者あるいは神の使い、もしくは祭司と呼ばれる特別な存在数名と、短期間ながらコンタクトを取ることもできた。」 「そして昨日、ブレオガンがその一人を正式に訪問した。訪ねた相手は非常に発音しづらい名前の持ち主で、さらにはその名前でしか呼ばれたくないと言うものだから、俺としてはもはや発音が合っていることを祈るばかりだ。さておき、ブレオガンはそいつと長いこと話し込んでいた。」 「『巨獣』という奇妙な陸上生物は、計り知れない力を持っている。ブレオガンはそれについてある仮説を立てようとしているが、正直俺は二の足を踏んでいる。俺たちが海で相手取っている恐ろしい敵には、確かに巨獣と似たところもあるが、まったく異なる部分もあるように思うのだ。」 「あいつの仮説が、反証されるためだけの存在になるよう願っておくとしよう。」

「十数年ぶりに、俺たちはイベリアへ戻ってきた。驚いたことにこの国自体はまったく代わり映えしなかったが、島民は増えているようだ。どうやらエーギルの戦況は芳しくないものらしい。俺は少しホームシックになってきた。故郷の安否が心配だ。」 「一方ブレオガンはというと、イベリアで新しい友人を作った。カルメンとかいう聖職者と、アルフォンソとかいう軍人だ。あいつらは毎日のようにつるんでは、『偉大なる計画』とかいうものについて話し合っている。まったくお笑いぐさだな。」 「しかし、相変わらず人付き合いの上手い奴だ。俺が閉じこもりすぎなのかもしれないが、元々俺は人間より絵筆と過ごしたいほうだしな。――ブレオガン曰く、仮説は着々と洗練されつつあるそうだ。エーギルの技術と源石技術を融合させる方法も見つけたから、試す機会が欲しいと言っていた。」 「機会というのはたとえば、イベリアの最高造船技術士を拝命する、とかだ。」

「ブレオガンはイベリアのために大艦隊の建造計画を立てている。あの王が野心に満ちていることはどんなバカでも見抜ける事実だが、まあ、ブレオガンの言う通りかもしれない。結局、陸において俺たちは通りすがりの客でしかないし、その最終目標はエーギルを助けることにある。」 「――建造中の旗艦を見てきた。エーギルからすればぎりぎり形になっているくらいの代物だが、陸上国家にとっては前代未聞の船となるだろう。ブレオガンとアルフォンソは、その船をスタルティフィラ、『狂人号』と名付けた。」 「二人は圧力に負けず双方同意の下でこの命名を断行したが、その解釈はそれぞれで異なっているように思う。それに、最近のブレオガンはいつもしかめ面をしている。何かが起こる予感でもあるのか、あるいは疲れのせいかもしれない。王は灯台と港町の建設までもをあいつに課したのだから。」 「最近、ブレオガンはイベリア中の新聞で引っ張りだこで、どの新聞社もあいつを賞賛してやまない。だが俺は、あいつがもっと遠くへ目を向けていることを知っている。あいつの判断はいつも的確だし、今回もそうあってほしいものだ。」

「初上陸」の章を閲覧した。

「最近、時折夢を見る。輝けるドームと、しっとりとした故郷の夢を。」

「荒野の旅路」の章を閲覧した。

「こんな形をした水に触ったのは初めてだった。これは冷たく、美しく、ふわふわしていて、そのくせ命取りにもなる。」

「代理人」の章を閲覧した。

「この場の炎は、俺の知るどんなそれよりも熱かった。もしかすると、会話の主題が非凡なものだからかもしれない。」

「絢爛なる宮殿」の章を閲覧した。

「ブレオガンがもたらしたのは黄金色の夢だけではない。そこには海からの警告もあるというのに、大部分の人間は後者を聞き流している。」

「ブレオガンの奴、いつの間に自分のリトル・ハンディを陸に連れてきてたんだ?俺も持ってくれば良かった。欲しい色を作ってもらうのに重宝してたんだが。しかもあいつ、自分のハンディに強化用外付けパーツを買ってやってたらしい!あれ、滅茶苦茶高いんだぞ!」

「狂人共の船」の章節を閲覧した。

「誰も己の欲望に抗えない。それが欲望であると知っていればなおさらだ」

「遠望する灯台」の章を閲覧した。

「光あるところ影が差す。照らす光が強いほど、影もまた濃くなるものだ。」

「波砕く港」の章を閲覧した。

「アルフォンソは、友人としては自信を持って勧められる男だが、船長としては……まあいい。どの道、比べるほどの相手もいないのは確かだ。」

「音という音が消え去った。波は進み続けている。」 「何せこれほどの大波だ。俺たちは皆、あれに飲まれることになるだろう。」 「きっとエーギルに何か起きたんだ。ブレオガンを探さなくては。」

未完成の「静謐の断章」を閲覧した。

そのページは長く水に浸かったせいでふやけていて、書かれた文字が読めなくなっていた。

「あちこち探し回ってみたものの、ブレオガンは見つからない。大いなる静謐で死んだとは思えないが、あいつにとって今の状況はあの時よりも危険なはずだ。」 「確かにあいつは災厄を予見していた。しかしそのために準備した対策の数々は、あいつ自身が災厄を招いた証拠と捉えられ、ブレオガンこそイベリアを波に沈めた邪悪な巫術師だと誰もが言い出した。さらにはエーギル人であること自体が罪とされ、陸の人々は、俺たちを追って災厄が来たなどと言う始末だ。」 「ついさっき、エーギル人の若者が街角で殴り倒されるのを見てしまった。しかもそいつを殴ったのは、普段懇意にしていたはずのイベリア人だった。」 「クソッタレめ。何とかしてブレオガンを探さないと。エーギルがどんな状況だろうと、俺たちは戻らなきゃならん。」

古びた手記の整頓は終えた。だが、その結末はどこにあるのだろうか?

「土は命で満ちている。彼らが言うには、春風が吹き抜けるたびに、緑の芽が出てくるものらしい。」

「真相の一つを前にして、誰もが皆興奮しているのが伝わってきた。」

「権力者とは往々にして、力を持てば持つほどに判断を誤りがちなものだ。」

「野心というのは、一度芽吹いてしまったら、破滅を招くとわかっていても大きくなっていくばかりだ。」

「あの潮騒が聞こえるか?まるで誰かが泣いているみたいだ。」

「友よ、俺たちは歳を取り始めたんだ。昨日ブレオガンが新しくできたシワについてだらだら文句を垂れていたが、俺に言わせればしかめ面ばかりしているせいだろう。」

「……海神……エーギル……失……アビサルハンター……あの計画が、最後の希望だ。」

朧気な意識の中で、彼は選択を迫られていることに気付いた。同じ選択をしたこともあるのかもしれないが、その結果も選択自体も、とうに忘れてしまっていた。こうなれば、もう一度選んでみよう。しかし、その身はどこへと向かっているのだろう。もしかすると、すでに結末が近付いているのだろうか?

偽りの可能性を見つめ直してみよう。もしやり方が違っていたら、別の可能性もあったのだろうか?たとえばもう少し妥協していたら、譲歩していたら、退いていたら、自らの執念と守るべきものを諦めていたら……それがたとえ偽りの可能性だとしても、報われざる大きな志を、もう一度掴んでみたいと思った。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。もしやり方が違っていたら、別の可能性もあったのだろうか?たとえばもう少し利害を考慮していたら、計画ができていたら、掌握できていたら、自らの知恵と勇気を結集させられていたら……それがたとえ偽りの可能性だとしても、破れなかった局面に、もう一度挑んでみたいと思った。

彼は破れぬ一局に挑んだことがある。

彼は報われぬ志を持ったことがある。

たとえ幻想が与えた報酬でも、それがもたらす喜びと励ましは本物だ。

巡る思考の欠片の中、かつて経験したすべてが脳裏に蘇る。しかし、それは触れることも捉えることもできないものだ。彼は寒さこそ感じたが、そこに痛みは伴わない。ならば、ここで耽溺していたほうがいいだろう。選択と推断、演繹を続けていけば、目の前に抜け道が見つかるかもしれない。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。押し寄せてくる感情が行き着く先にあるものは心残りだけだ。後悔と心残りの違いは、後悔が深い痛みと怒りを内包しているのに対し、心残りは淡い哀愁に満ちていることにある。もう一度会って、杯を交わしたかったあの人たちとは、二度と会うことはないのだろう。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。押し寄せてくる感情が行き着く先にあるものは恨めしさだけだ。後悔と恨めしさの違いは、後悔は当時の選択が間違っていたことを前提としているのに対し、恨めしさは単なる不満の表明に過ぎないということにある。もう一度旅して、探索し踏破したかった道は、二度と選べぬものなのだろう。

彼は選ばれぬ道を目にしたことがある。

彼は見知らぬ人と相対したことがある。

たとえ幻想が与えた報酬でも、それがもたらす喜びと励ましは本物だ。

崩れた歴史の欠片の中、彼は答えを探し求める。これまでの苦心と努力に意味はあったのだろうか?歴史の中に自らの座標をいかにして見いだすべきかというのは、誰もが直面する問題だ。彼は疲れと眠気を感じていた。恐らく、この問題は思ったほど重要ではないのだろう。もはや事はここに至ってしまったのだから。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。彼は、乾いた目から何かが流れ落ちていくのを感じた。塩辛く、そして苦く、二度と帰れない故郷を思い起こさせる何かが。――憎しみはまだ心の中でくすぶっている。それを手放すのは諦めて、受け入れるほうがずっと楽だ。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。彼は、強張る身体から何かが流れ落ちていくのを感じた。紅く、しっとりとして、崩れゆく故郷を思い起こさせる何かが。――責務はまだその両肩にのしかかっている。それを果たすのは諦めて、休息を取るほうがずっと楽だ。

彼は果たされぬ責務に向き合ったことがある。

彼は終わらぬ憎しみを抱えていたことがある。

たとえ幻想が与えた報酬でも、それがもたらす喜びと励ましは本物だ。

消えた運命の欠片の中、再度身を起こそうとした彼は、またも失敗した。――どれほど多くの英雄が運命という言葉で自らを正当化し、どれほど多くの愚者が同じ言葉で責任を逃れようとしたのだろうか。散り散りに離れていく人々に既視感があるのは、かつて似たような動きで彼へと近付いてきた人々がいたからだろう。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。光り輝くかの旗艦は、今どこにいるのだろうか?嘆かわしいことに、今の彼の目に映るのは暗くよどんだ空だけだ。それももうすぐ終わりだと彼は自分を慰めたが、その願いはというと……人の力には限界がある。もう少しだけ待つとしよう。

偽りの可能性を見つめ直してみよう。偉大なるかの灯台は、今なお健在なのだろうか?嘆かわしいことに、今の彼の目に映るのは暗くよどんだ空だけだ。それももうすぐ終わりだと彼は自分を慰めたが、その夢はというと……人の力には限界がある。もう少しだけ待つとしよう。

彼は触れられぬ夢を見たことがある。

彼は成しえぬ願いを抱いたことがある。

たとえ幻想が与えた報酬でも、それがもたらす喜びと励ましは本物だ。

定められた結末へとたどり着いた時、彼はふと、この結末を受け入れるのにさほど抵抗を覚えないことに気付いた。もちろんこれは、暖炉のそばでクッションに身を預け目を閉じるような、真っ当な最期ではない。ここは人生の終点としてはあまりに寒く固い場所で、何なら腹は何度も刺されて血を流している。けれど、そこまで悪くはなかった。彼は、そそくさと散って物陰に身を潜めた人々を許すことさえ決めていた。もしも立場が逆だったら、自分もきっと同じような怒りを覚えただろうと思ったのだ。彼は懸命に努力してきたが、それは失敗に終わった。結局海に抗うことはできなかったのだ。しかし、恐らく惨敗したというほどでもないだろう。彼を死に追いやった人々はまだ怒りを抱くことができる。その事実こそが希望だった。 「我が同胞よ、陸と海、それぞれの朋友たちよ。君たちに幸あれ。」

彼は一幕の死に直面した。

取るに足らぬ真相が明らかになった。「静謐を招いた男ブレオガンは、海を怒らせた報いとして、路地裏で命を落としたらしい。」……だが、この噂は大して話題にならなかった。人々にとってはそれよりも、明日の食料を探すことのほうがよほど大切だったのだ。

記憶の果てへとたどり着き、すべては混沌に帰した。

探索ノード説明文

古井戸

彼は底知れぬ古井戸へ問いを投げかけ、答えを得た。

海辺の小道

海辺で育った彼は、海を眺める自由を渇望していた。

無人の大通り

ひと気のない町で、異郷の旅人が歌う。

海に臨む大通り

海沿いの長い大通りで、二つの文明の代弁者たちが話し合いをしている。

上陸地点

その眼は閉じられ、十数年もの間、誰の妨げも受けず眠り続けている。

下層ホール

彼の眼は怒りに見開かれ、その手は数十年もの間、舵輪を放しはしなかった。

宴会場

興が乗るまま楽しみ尽くそう。ここには酒杯がずらりと並び、部屋中に亡骸が落ちている。

司令室

見渡す限り、その往く先に道はない。

メインブリッジ

シーボーンは同類とは戦わない。そんなことをするのは人間だけだ。

甲板室

振り返りたくない過去が背後から迫り、直視したくない未来が目の前で静かに待っている。

メインマスト

久しぶりに会う仇敵を前に、気持ちの整理をどうつけるべきか――ここは一曲踊ってみてはどうだろう。

グランファーロ

出発地点に戻り、荷物を整頓するとしよう。道のりはまだ長く続いていくのだから。

暗い地下室

「何だってんだよ……どうしてグランファーロはこんなふうになっちまったんだ?エーギル人に邪教徒、*イベリアスラング*な怪物どもまで来るなんて!早くここから逃げなけりゃ、どうなるかなんて……わかりきってるぞ!」

「俺はこの目で見たんだ!審判の炎が、人の魂まで焼き尽くしちまうところをな!」

「ほら、こいつはあんたにやるよ!」

放置された小屋

岩礁広がる岸辺には今も作業小屋が並んでおり、かつての賑わいを思わせる。災厄のあと、人々は一縷の希望を取り戻そうと各地からこの町へ集まってきたのだ。しかし今ではここは廃墟となり、トタンは崩れ、再建に使われた貴重な資源が手つかずのまま、そこかしこに散らばっている。

倒壊した住居

この辺りは昔、エーギルの「島民」が多くいる居住区だったようだ。看板に、イベリア風のものではない模様がかすかに残されているのが見て取れる。今や荒れ果てたこの場所には、物資を持ち出す暇もなくここを去った、かつての住民たちが置き去りにした物ものが残っていた。

制御室外側の廊下

この灯台こそ、老人たちが口々に語り、ジョディが夢にまで見てきた「イベリアの眼」だ。この廊下や階段はジョディの両親が踏みしめたかもしれない場所であり、このパネルにも、二人が触れたことがあったのかもしれない。

ジョディはその場に、少しでも懐かしい気配を感じ取ろうとした。彼はそれまで幾度となく両親の姿を思い描いては、彼らが灯台の間を行き来する様子を想像してきたのだ。そして、ノートに書き残された言葉の一つ一つが、目の前の現実と一致していることを、彼は今確かめつつあった。

――もしかすると、二人の遺骨は今もこの灯台のどこかで眠っているのかもしれない。そう考えたジョディは、思わず身震いした。今や彼自身もここに立ち、その手はコントロールパネルに触れている。となれば、彼の運命はどこへ向かっていくのだろうか?

ジョディはそれ以上考えるのをやめた。その出自や彼自身の価値、そして立場がどうであれ、使命を果たさねばならないことには変わりないのだ。

彼は自身の荒唐無稽な夢のために、ここへ立っている。その心には確かに、緊張も怯えもあるかもしれないが、迷いは少しもありはしない。

埃まみれの倉庫

倉庫の中には、今なお次の航海に備えて、物資が蓄えられたままになっている。けれども一つ問題なのは、次の航海がいつなのか、そもそも「次」がやってくるのかを誰も知らないということだ。

半開きの金庫

金庫の中には、イベリア大艦隊が霧の中を探索して作り上げ、海洋征服の支えとしていた古びた航海図が入っていた。しかし、残念ながらこれは今ではただの紙くず同然だ。また、金庫の下の段には、もはや誰も使うことのないわずかな物資が保管されていた。

洗面所

洗面所の中は、ほとんどすべてが真新しく見え、今も蛇口から水を出すことすらできた。しかし、不思議なことに、鏡だけはどれも砕けており、そこに映る景色もひび割れていた。また、洗面台の下の収納箱には、まだ使われていない備品が残っている。

貯蔵室

貯蔵室には予備の帆布が山ほど収められていた。広げてみればそれは、金糸で飾られ、イベリアの国旗が丁寧に刺繍された巨大な帆だ。もしかすると、この部屋でも物資を見つけられるかもしれない。

チェーンロッカー

アンカー関連の機材は、大いなる静謐によって完全に破壊されていた。この部屋も長年放置されていたはずだが、誰かがここを秘密の倉庫として使っていたらしく、たくさんの輝く物ものが保管されている。

製図室

製図室は、探索の成果をまとめて海図を作るための部屋だった。しかし災厄のあと、海流や季節風、そして目印となる島など、海のすべてが様変わりしたため、何世代もかけて研究されてきた法則は崩れ、無用のものとなってしまった。ここでは、余っている物資を手に入れられそうだ。

打ち捨てられた樽

この樽は六十年ほど前ならば、乗組員たちが祝いの席を思う存分楽しめるよう、嫌というほど強い酒で満たされていたのかもしれない。樽の中から見つかったボロボロの遺物は、絶望に飲まれた誰かが最後の一杯を飲み干して、その代金として置いて行ったものだろうか?

懲罰軍補給所

懲罰軍は弱みを見せることもなければ、誰かに屈することもない。彼らはイベリアの堤防であり、大波はただ不浄の穢れを洗い流したにすぎないのだ。この補給所の兵士たちは今も、海の下に広がるイベリアの国土をじっと見つめている。

湿潤な夢

「最近、時折夢を見る。輝けるドームと、しっとりとした故郷の夢を。」

蒼白き雪

「こんな形をした水に触ったのは初めてだった。これは冷たく、美しく、ふわふわしていて、そのくせ命取りにもなる。」

熱宿す炎

「この場の炎は、俺の知るどんなそれよりも熱かった。もしかすると、会話の主題が非凡なものだからかもしれない。」

海からの警告

「ブレオガンがもたらしたのは黄金色の夢だけではない。そこには海からの警告もあるというのに、大部分の人間は後者を聞き流している。」

燃え滾る欲望

「誰も己の欲望には逆らえない。それが欲望だと知っていればなおのことだ。」

不滅の光

「光あるところ影が差す。照らす光が強いほど、影もまた濃くなるものだ。」

誇り高き艦長

「アルフォンソは、友人としては自信を持って勧められる男だが、船長としては……まあいい。どの道、比べるほどの相手もいないのは確かだ。」

声なき潮

そのページは長く水に浸かったせいでふやけていて、書かれた文字が読めなくなっていた。

褐色の土

「土は命で満ちている。彼らが言うには、春風が吹き抜けるたびに、緑の芽が出てくるものらしい。」

高鳴る心臓

「真相の一つを前にして、誰もが皆興奮しているのが伝わってきた。」

王の傲慢

「権力者とは往々にして、力を持てば持つほどに判断を誤りがちなものだ。」

溢れる野心

「野心というのは、一度芽吹いてしまったら、破滅を招くとわかっていても大きくなっていくばかりだ。」

すすり泣く波

「あの潮騒が聞こえるか?まるで誰かが泣いているみたいだ。」

年老いた職人

「友よ、俺たちは歳を取り始めたんだ。昨日ブレオガンが新しくできたシワについてだらだら文句を垂れていたが、俺に言わせればしかめ面ばかりしているせいだろう。」

消え去った城

「……海神……エーギル……失……アビサルハンター……あの計画が、最後の希望だ。」

幻想の報酬

たとえ幻想が与えた報酬でも、それがもたらす喜びと励ましは本物だ。

取るに足らぬ真相

漏水している避難所で、こんな噂が流れていた。「静謐を招いた男ブレオガンは、海を怒らせた報いとして、路地裏で命を落としたらしい。」……だが、この噂は大して話題にならなかった。人々にとってはそれよりも、明日の食料を探すことのほうがよほど大切だったのだ。

変形したポスト

ポストの中に、奇妙な装置が詰め込まれていた。その側面にはエーギル語で「野外用サバイバルユニット」と刻印されている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。これを置いて行ったのは何者で、その人は誰に何を伝えようとしていたのだろうか?

壊れた戸棚

壊れた戸棚の中に、複雑な構造の装置が立てかけられていた。その側面にはエーギル語で「家庭用ヘルパーモジュール」と小さく書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。大切に仕舞い込まれていたようだが、これはどこから持ち込まれたものなのだろうか?

メンテナンス通路

メンテナンス通路の途中、壁沿いに変わった装置が置かれていた。その表面にはエーギル語で「運動量増加用プログラム」と書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。しかし、これがどのように運動を手伝ってくれるのかはまるで想像がつかない。

水文観測所

スタルティフィラは単なる軍艦ではなく、たくさんの研究施設を搭載した船でもある。この水文観測所では、未知の機械が規則的な音を発していた。しかし、その意味を理解できる人間は残念ながらもういない。

そこには、精密な造りの装置が置かれていた。その底面にはエーギル語で「小型清掃用キット」と書かれている。見たところ「リトル・ハンディ」のパーツとして使えそうだ。

幕間

「ブレオガンの奴、いつの間に自分のリトル・ハンディを陸に連れてきてたんだ?俺も持ってくれば良かった。欲しい色を作ってもらうのに重宝してたんだが。しかもあいつ、自分のハンディに強化用外付けパーツを買ってやってたらしい!あれ、滅茶苦茶高いんだぞ!」

誰もいない店

誰もいないはずの店から物音がした。それは足掻く誰かの立てた音か、それとも……

焼け落ちた研究所

燃え残った設備を見るに、この焼け落ちたばかりの建物は、少し前まで秘密の研究所として使われていたようだ。深海教徒たちは、ここで進化の秘密を解き明かそうとしていたのだろう。彼らはただ盲信するばかりでなく、探求をも行っていたのだ。

廃工場

放棄されたまま幾年も経つ工場には、巨大な機械の間に、血肉を食い荒らされて荒野に骨を晒す遺骸のような、未完成の船の骨組みが置かれていた。グランファーロと共に生まれたこの工場がこんな結末を迎えるとは、大志を抱き建設に携わった人々は夢にも思わなかっただろう。

コールドリーフ港

災厄はイベリアの海岸線を完全に作り変え、七十年以上前に築かれた偉大なる港町は、とうに跡形もなく海へ沈んでいった。このコールドリーフは当時のそれとは比べものにならない小さな港だが、それでも、巨大船舶用の停泊スペースが用意されている。かの巨艦は、実際には二度と戻らなかったというのに。

灯台守の小屋

この小屋には、生活の痕跡がそのまま残されている。当時、かの災厄は前触れなく起こり、ここに駐在していた灯台守は音信不通となった。しかし、六十年以上過ぎた今も、ここには窓から海を見つめる守人の姿がある。身体が朽ち果て、眼孔が空となっても、責務を果たし続けているのだ。

将校の休憩室

休憩室には、壊れた美術品が散乱していた。切り裂かれた大きな油絵、砕けてしまった純白の石像、へこんだ銅製のレリーフ……そして、中には銀で飾られたビリヤード台や、手描きらしい複雑な図案の入ったトランプなど、一風変わった物もある。

船員の宿舎

宿舎のほうから、何かが繰り返し壁を叩いているような、規則的で、空虚で、単調に続く奇妙な音が聞こえてくる。

工具室

この場所は工具室だったようで、スタルティフィラのメンテナンスに必要な機材と工具、消耗品などが保管されている。とはいえ、恐ろしい災厄を経て動力系統が完全に壊れてしまった船を、ここにある工具だけで修理するのは難しいことだったのだろう。

第一調理室

部屋の入口には、「第一調理室」の看板がかけられていた。その規模を目にするだけでも、そこから豪華な料理が運び出されていく在りし日の盛況ぶりは想像に難くない。

訓練場

訓練場には、狩りの鐘の音で目を覚ましたらしい恐魚がひしめいていた。人々が切磋琢磨するために作られたこの場所は、とうに奴らの孵化するゆりかごとなっていたようだ。暗闇の中、無数の眼が不気味に光るのが見え、這い回る物音が聞こえる。その敵意は肌で感じられるほど強いものだった。

小さな教会

船内の小さな教会には聖像が据えられており、訪問者たちを等しく見下ろしている。かつては乗組員たちが自らの罪を懺悔し、魂を清めるためにここを訪れていたのだろう。しかし今や、この荘厳な一室に足を踏み入れるのは迷い込んだ恐魚くらいのものだ。

資料室

この資料室には、イベリア大艦隊の全機密文書が保管されていたようだ。一つ一つの金庫の中に、人事情報や配備計画、戦術の手配などにまつわる、あらゆる資料がしまわれている。しかし、今ではそのすべてが紙くずの山と化してしまった。

パイプシャフト

パイプシャフトはひどい有様だ。誰かが無惨に殺されたらしい形跡があり、この場に残された傷が剣によるものであることから考えて、手を下したのも人間だろうと思われた。

懲罰房

鉄格子にぐるりと囲まれたこの部屋は、そのプレートの文字によれば、懲罰房だったようだ。しかし、内側から破られてしまったらしく、ここはもはや、元の役割を果たせそうになかった。鉄格子は引き裂かれ、折られた鉄の棒があちこちに散らばっている。

ウインチ

ウインチのそばには大量の恐魚が集まり、その場にうずくまって、栄養豊富な筋繊維の塊へと自ら姿を変えていくところだった。奴らは己が属する群れへと文字通り身を献げているのだ。

右舷甲板

手負いのシーボーンは同族を喰らい、己が力を蓄え、逃げだそうとしている。自分が次なる進化の扉の目前まで迫っていることを感じ取っているのだ。

船首甲板

手負いのシーボーンは栄養を求め、方向を探り、逃げ道を探している。奴は苦労して追い求めてきた答えまであと一歩だと理解しているのだ。

左舷甲板

手負いのシーボーンが立ち止まり、何かを思考し、理解しようとしている。奴にはまだ答えの出せない問題があり、解決法を探っているのだ。

左舷甲板

集まった恐魚が、びっしりとこの場を埋め尽くしている。奴らは緩やかに蠢き、せめぎ合い、繁殖していた。その中に何かが隠れている。手負いのシーボーンが体力を回復しているのかもしれない。

船首甲板

どこからか、赤ん坊が言葉を真似て喋るような拙さで、人のものとは思えない声が何か呟くのが聞こえてくる。シーボーンの声だ。奴を見つけ出し、この長すぎた茶番を終わらせるとしよう。

右舷甲板

右舷甲板にはまたも、シーボーンが姿を現した。奴はなおも同族を喰らい、己が力を蓄えようとしている。まだ、次なる進化の扉の前で徘徊している最中らしい。

船首甲板

手負いのシーボーンは栄養を求め、方向を探り、逃げ道を探している。奴は苦労して追い求めてきた答えまであと一歩だと理解しているのだ。

左舷甲板

手負いのシーボーンが立ち止まり、何かを思考し、理解しようとしている。奴にはまだ答えの出せない問題があり、解決法を探っているのだ。

左舷甲板

物陰から荒い息遣いが聞こえる。何かがそこに隠れているようだ。もしや、あのシーボーンだろうか?ならば見つけ出して仕留めなければ。これは生き残りをかけた戦いなのだから。

船首甲板

どこからか、赤ん坊が言葉を真似て喋るような拙さで、人のものとは思えない声が何か呟くのが聞こえてくる。シーボーンの声だ。奴を見つけ出し、この長すぎた茶番を終わらせるとしよう。

右舷甲板

右舷甲板では、シーボーンがなおも徘徊している。奴はやはり同族を喰らい、己が力を蓄えながら、進化の扉を探し求めているようだ。

船首甲板

手負いのシーボーンが立ち止まり、何かを思考し、理解しようとしている。奴にはまだ答えの出せない問題があり、解決法を探っているのだ。

失った記憶の欠片

朧気な意識の中で、彼は選択を迫られていることに気付いた。同じ選択をしたこともあるのかもしれないが、その結果も選択自体も、とうに忘れてしまっていた。こうなれば、もう一度選んでみよう。しかし、その身はどこへと向かっているのだろう。もしかすると、すでに結末が近付いているのだろうか?

偽りの可能性

もしやり方が違っていたら、別の可能性もあったのだろうか?たとえばもう少し妥協していたら、譲歩していたら、退いていたら、自らの執念と守るべきものを諦めていたら……それがたとえ偽りの可能性だとしても、報われざる大きな志を、もう一度掴んでみたいと思った。

偽りの可能性

もしやり方が違っていたら、別の可能性もあったのだろうか?たとえばもう少し利害を考慮していたら、計画ができていたら、掌握できていたら、自らの知恵と勇気を結集させられていたら……それがたとえ偽りの可能性だとしても、破れなかった局面に、もう一度挑んでみたいと思った。

巡る思考の欠片

巡る思考の中、かつて経験したすべてが脳裏に蘇る。しかし、それは触れることも捉えることもできないものだ。彼は寒さこそ感じたが、そこに痛みは伴わない。ならば、ここで耽溺していたほうがいいだろう。選択と推断、演繹を続けていけば、目の前に抜け道が見つかるかもしれない。

偽りの可能性

押し寄せてくる感情が行き着く先にあるものは心残りだけだ。後悔と心残りの違いは、後悔が深い痛みと怒りを内包しているのに対し、心残りは淡い哀愁に満ちていることにある。もう一度会って、杯を交わしたかったあの人たちとは、二度と会うことはないのだろう。

偽りの可能性

押し寄せてくる感情が行き着く先にあるものは恨めしさだけだ。後悔と恨めしさの違いは、後悔は当時の選択が間違っていたことを前提としているのに対し、恨めしさは単なる不満の表明に過ぎないということにある。もう一度旅して、探索し踏破したかった道は、二度と選べぬものなのだろう。

崩れた歴史の欠片

これまでの苦心と努力に意味はあったのだろうか?歴史の中に自らの座標をいかにして見いだすべきかというのは、誰もが直面する問題だ。彼は疲れと眠気を感じていた。恐らく、この問題は思ったほど重要ではないのだろう。もはや事はここに至ってしまったのだから。

偽りの可能性

彼は、乾いた目から何かが流れ落ちていくのを感じた。塩辛く、そして苦く、二度と帰れない故郷を思い起こさせる何かが。――憎しみはまだ心の中でくすぶっている。それを手放すのは諦めて、受け入れるほうがずっと楽だ。

偽りの可能性

彼は、強張る身体から何かが流れ落ちていくのを感じた。紅く、しっとりとして、崩れゆく故郷を思い起こさせる何かが。――責務はまだその両肩にのしかかっている。それを果たすのは諦めて、休息を取るほうがずっと楽だ。

消えた運命の欠片

どれほど多くの英雄が運命という言葉で自らを正当化し、どれほど多くの愚者が同じ言葉で責任を逃れようとしたのだろう。再度身を起こそうとした彼は、またも失敗した。散り散りに離れていく人々に既視感があるのは、かつて似たような動きで彼へと近付いてきた人々がいたからだろう。

偽りの可能性

光り輝くかの旗艦は、今どこにいるのだろうか?嘆かわしいことに、今の彼の目に映るのは暗くよどんだ空だけだ。それももうすぐ終わりだと彼は自分を慰めたが、その願いはというと……人の力には限界がある。もう少しだけ待つとしよう。

偽りの可能性

偉大なるかの灯台は、今なお健在なのだろうか?嘆かわしいことに、今の彼の目に映るのは暗くよどんだ空だけだ。それももうすぐ終わりだと彼は自分を慰めたが、その夢はというと……人の力には限界がある。もう少しだけ待つとしよう。

定められた結末

さて、終わりは目の前だ。彼はふと、この結末を受け入れるのにさほど抵抗を覚えないことに気付いた。もちろんこれは、暖炉のそばでクッションに身を預け目を閉じるような、真っ当な最期ではない。ここは人生の終点としてはあまりに寒く固い場所で、何なら腹は何度も刺されて血を流している。

けれど、そこまで悪くはなかった。彼は、そそくさと散って物陰に身を潜めた人々を許すことさえ決めていた。もしも立場が逆だったら、自分もきっと同じような怒りを覚えただろうと思ったのだ。

彼は懸命に努力してきたが、それは失敗に終わった。結局海に抗うことはできなかったのだ。しかし、恐らく惨敗したというほどでもないだろう。彼を死に追いやった人々はまだ怒りを抱くことができる。その事実こそが希望だった。

「我が同胞よ、陸と海、それぞれの朋友たちよ。君たちに幸あれ。」

寂れた酒場

見るからに長年質の悪いアルコール漬けになっていたらしいその男は、ぶつぶつと意味不明の言葉を並べながら、生活の味気なさに文句を垂れていた。町によそ者が来たと聞くと、彼はようやくまぶたを持ち上げ、その濁った眼が露わになる。

「AUS?ロックバンドだぁ?ハハッ!」男は冷笑する。「さっさとお家に帰りやがれってんだよ!そんなもんこの辺じゃ必要ねえ!そもそも、連中は裁判所のスパイかもしれねえしな!」

男は酒瓶を手に、よろよろとバーを出て行った。外からその声が遠く聞こえてくる。「ここはもう、あの連中にぶっ壊されちまったんだ……昔の、俺たちの……」

寂れた酒場

酒場にあるのは、まだらについた酒の染みと倒れた椅子だけだ。

小さな礼拝堂

ぼろ布をまとった物乞いが、礼拝堂の壁に寄りかかり、両手を強く握り合わせている。彼は祈っているというよりは、一粒の小石の如く、ただその場に存在しているだけのように見えた。

昼が過ぎ夜が訪れることも、生死も病も老いさえも、彼とは無関係にすら思えた。彼を気にかける者はなく、彼もまた誰をも気にかけずにいた。

物乞いは深くこうべを垂れ、両の目から涙を流してこう言った。――「私は選ばれるに値しない。」

小さな礼拝堂

物乞いは深くこうべを垂れ、両の目から涙を流してこう言った。――「私は選ばれるに値しない。」

小さな礼拝堂

礼拝堂の周りに集まった敬虔な人々は、震えながら目を閉じ、振り向くと、額を冷たい石壁へと押しつけていた。まるで風雪に晒され続けた礼拝堂のその壁が、今や唯一の支えであるとでも言うかのように。

「炎が、光が見える! 奴が光を連れてきたんだ!」一人の老人が目を覆い、引きつけを起こしたようにして悲鳴を上げた。

小さな礼拝堂

人々は彫刻のように動かない。ひきつけを起こした老人の姿はすでになく、彼の行方を進んで口にする者はいなかった。

暗い地下室

地下室にはもう誰もいない。

小さな礼拝堂

部外者の訪問が町の静けさを破った。まずは寂れた酒場――「バー・ビタースケール」で話を聞いてみよう。

ガラクタの山

タイヤのついた奇妙な機械が、ガラクタの山から転がり落ちてきた。それは不完全な状態らしく、埃にまみれているものの、不思議な光沢がある。見ていれば、何かの拍子に電源が入ったのか、それは機械音と共に起動した。

その骨組みには、エーギル語で「リトル・ハンディ」と書かれていた。足りないパーツを見つけられたら、戦場で役立つかもしれない。

ガラクタの山

ここにはもう、使えないガラクタしか残っていない。

狭い路地

邪教徒が町に侵入し、怪物の唸り声が聞こえてきた。ここは通れそうにない。

狭い路地

カーテンの隙間から、警戒の滲む老人の眼が覗く。十数年前同様の経験をした彼らには、この状況は既視感のあるものだった。あの時、再建の希望は潰され、踏みにじられた。その上あろうことか、手を下したのは彼らが深く信じていた人々だったのだ。

兄弟同然だった友人は暗がりに姿を消し、心血を注いできた計画は中止になった。挙げ句、灯りを手にしたお偉方が、「お前たちの中に邪教徒がいる」などと言い出したのだ。

老人は、ベッドサイドに伏せて置いていた写真を見つめた。かつての眩しい夕焼けはすでに色あせている。

夢は打ち砕かれたのだ。

怪物と人間、恐ろしいのはどちらだろうか?

狭い路地

カーテンが引かれ、人々の警戒の眼差しを隠している。

誰もいない店

邪教徒が町に侵入し、その儀式によって道路が封鎖されてしまった。

誰もいない店

一匹の恐魚がカウンターの後ろにうずくまっており、その向かいに老婆が一人座っていた。

誰もいない店

老婆と恐魚の間には、図面が山ほど広げられている。老婆の顔はフードの影に半分隠れていたものの、彼女が目の前の恐魚を見つめていることは確かだ。――その昔、彼女は才能のすべてをイベリア最大の遠征へと捧げたが、かの冒険は恐るべき静謐に飲み込まれてしまった。

苦しみと足掻き、幻滅を経験した老婆は、地域も国家も超越したより大きな目的へと身を投じ――生き物に到達しうる完全な理想郷を追い求めるようになったのだ。

何よりも、あの教会に加われば、彼女は夢中で打ち込んできた季節風や水文学の研究を続けることができた。

裁判所がやってきた今、これまで心血を注いできた研究の結晶は燃やさねばならない。ここに記した学説は、二度と日の目を見ることはないだろう。彼女はそれを大いなる進化の一部たるその恐魚に捧げようと決意した。

恐魚は彼女の目の前をただ徘徊するばかりだ。しかし幸い、彼女は我慢強い人間だった。

誰もいない店

カウンターの後ろにはもう何もない。

放置された小屋

使えそうな物はもう残っていない。

変形したポスト

ポストは空っぽだ。

静かな遊歩道

前線基地で溟痕への対処方法を見つけるまでは、軽率にここを通らないほうが良さそうだ。

倒壊した住居

家屋のあった場所に残されているのは、役に立たないガラクタばかりだ。

焼け落ちた研究所

資料棚の中のファイルは、何とか焼失を免れたようだ。

焼け落ちた研究所

検体保管庫の中のサンプルは、何とか焼失を免れたようだ。

焼け落ちた研究所

資料棚には、深海教徒が長い時間を費やして集めた研究資料が保管されていた。ファイルに振られた番号と日付から、この研究は随分と昔に始まっていたことが見て取れる。

進化の終点という未来への約束は、あまりにも魅力的で現実味のあるものだった。その目的のため、素晴らしい頭脳の持ち主たちが昼夜を問わず働き続け、我が身を捧げてしまうほどに。

ファイルの見出しには、恐らく記録者である深海教徒が記したのだろう走り書きがあった。

「進化の一部となることは、すべての苦しみから真に解放されることを意味する。」

焼け落ちた研究所

検体保管庫には、既存の進化記録の中では目にしたことのないような写真や解剖図、組織サンプルなど、膨大な数の物ものが保管されていた。

進化の終点という未来への約束は、あまりにも魅力的で現実味のあるものだった。その目的のため、素晴らしい頭脳の持ち主たちが昼夜を問わず働き続け、我が身を捧げてしまうほどに。

深海教徒たちは、崇拝する生き物に対してどのように接していたのだろう。メスで恐魚の皮膚を切り裂く時、彼らもその痛みを感じていたのだろうか。

あるいは、人類の好奇心がその信仰を凌駕していたのだろうか。

焼け落ちた研究所

ファイルはすでに持ち出されている。資料棚は空っぽだ。

焼け落ちた研究所

サンプルはすでに持ち出されている。検体保管庫は空っぽだ。

廃工場

価値ある物の大半は持ち去られていたが、当時の接収担当者は、隅にある工具箱を見落としていたようだ。

廃工場

工具箱の中には数枚の設計図と一冊の手帳がしまわれていた。設計図には、災厄より前、イベリア黄金時代の壮大な建造計画による大きな軍艦が描かれており、そこには船の設計責任者であるブレオガンのサインが入っていた。

だが、グランファーロもこの工場も、災厄のあとに築かれたものだ。ここで試作する予定だった船は、かつての大艦隊における一番小さな船と比べても、おもちゃ同然の代物だった。

ここにいた技師が再現不能の設計図を持ち歩いていたのは、技術的な参考にするためだったのだろうか。あるいは、在りし日の夢を手元に置いておくためだったのだろうか。

滑稽なことに、その黄金時代への拙い模倣でさえ、今では過去の遺物でしかない。

廃工場

調べる価値のあるものは、もはや何一つ残っていない。

コールドリーフ港

港には、懲罰軍が用意していた小船がいくつか係留されている。この船たちは、これから始まる初航海において、今まで経験したことのない波風に晒されることになるだろう。

コールドリーフ港

グランファーロの建設計画が頓挫したあと、コールドリーフ港はほとんど使われなくなった。出航記録に残っているのは、裁判所と懲罰軍の計画した小規模探索任務くらいのものだ。

その上、そうした任務から帰還した者はいない。

けれども今日、この寂れて久しい港はついに、再び船を見送ることとなった。乗組員たちは、遠い海を今なお見渡しているだろう「イベリアの眼」を探すべく旅立つのだ。

懲罰軍は前もって、航海の準備をしてくれていた。そして、港の年老いた労働者たちは、遠洋へと漕ぎ出そうとする人々のために物資を積み込むという、慣れない作業をこなしてくれた。やがて、小さな船はゆっくりと港を離れ、送り出す皆の視界から消えていく。

老いたる働き手は、先の短い残りの人生で、こうして船を見送る機会は二度とないかもしれないと思った。

コールドリーフ港

船は出航した。予定通り戻ってくることを祈ろう。

制御室外側の廊下

ここにはもう誰もいない。

海に臨む大通り

「廃工場」になら、海を渡るための手がかりが残されているかもしれない。

イベリアの眼

航海には危険が伴うものだ。「コールドリーフ港」へ行って、準備を整えなければ。

灯台守の小屋

日記には、灯台守がここで過ごした日々が記されていた。ある日、静寂の大波がすべてを飲み込んだ時、彼らは自分たちが海の真ん中に閉じ込められたことに気が付いた。初めは恐怖とパニックに陥り、次に脱出を試みたものの、最終的には己の運命を受け入れるよりほかになかったようだ。

尊厳を、文明を、そして人が本来拠り所とするすべてを捨ててしまえば、生き延びることはそう難しくもない。「任務を終えた」仲間は皆、ほかの仲間が監視を続けるための糧となった。

最後のページには、数滴のしずくが落ちて文字が滲んでいたものの、かろうじて内容を読み取ることはできる。

「我々の行いが罪深いことであろうと、冒涜的なことであろうと――それは、勝利を目的としたものではなかった。私たちはただ、敗北の訪れを少しでも遅らせたかっただけだ。」

灯台守の小屋

引き出しを開けると、灯台守の持ち物が綺麗に収納されており、大切に保管していたようだと思わせた。たとえば、激しい戦闘で使われたのだろう折れたナイフ。そして、数本のタバコが入った箱。残念ながらマッチは見当たらない。持ち主はしばしばそれを嘆いていたことだろう。

それから、できる限り修理したらしい痕跡のある、バラバラになったいくつかのアーツユニット。加えて、写真も一枚入っている。それは時間と共に朽ちてしまって、もはや何が写っていたかもわからなくなっているような代物だ。

さらには、小型の通信端末も収められていた。そのチャンネル調整用のつまみは、擦れてつやつやと鈍く輝いている。

そうした物もののほか、何の肉かもわからない風化した干し肉も見つかった。

埃まみれの倉庫

倉庫の物資は空になった。

半開きの金庫

金庫に入れておくほどの物はもう残っていない。

壊れた戸棚

この中はもう空っぽだ。

将校の休憩室

そこにあったメモには、過ぎていった年月の痕跡がなぜかはっきりと残っていた。それは剥がされることも、交換されることも、埃を払われることもなくただそこに留まって、どれだけ月日が流れても、書き手の伝えたかったメッセージを忠実に伝え続けているのだ。

「触るな!すべて俺の宝物だ。一つでも欠ければ容赦はしない。」

「次に喧嘩をする時はもっと自制的にやれ。この船にはもはや、俺たちがどこから来たかを証明するものは、多くは残っていないと忘れるな。」

長い時間が過ぎ、それを目にしていた者すら姿を消して久しい今も、その筆跡は優雅で威厳に溢れるものだった。

将校の休憩室

鍵のかかった扉を開けると、休憩室の奥のその部屋が、小さな会議室だということがわかった。どうやらここでの最後の会議は望ましからぬ結果に終わったようで、床には書類や報告書が散乱し、その上に慌ててつけられたらしい足跡が残っている。

会議室には、大艦隊の船すべての位置を記すための大きな海図がかけられていた。しかし、今ではそこにほかの船を表すマークは一つもない。ただ無限に広がる海を象徴するかのようながらんとした海図の青を背景に、この旗艦だけがぽつりと浮かんでいた。

テラの歴史上最大級の艦隊は、この青の中へと静かに溶けていったのだ。

かつてのイベリアが抱いていた、誇りと野望諸共に。

洗面所

洗面所には、取るに足らない物しか残っていない。

船員の宿舎

案の定、そこにいたのは恐魚だった。それはよろめきながら歩みを止めて、振り返る。

船員の宿舎

恐魚にも「混乱」することがあるのなら、目の前のこれは今まさに相当混乱しているだろう。どうやら長いこと壁と戦い続けていたようで、恐魚の身体の側面にはぶつけるあまりに分厚い角質層ができている。このまま閉じ込められていたら、いずれ恐魚は脱出を諦め、同族の餌となっていたかもしれない。

その身体には、いつかの格闘の痕跡らしき鍵束が深々と突き刺さっていた。恐らく、この恐魚と戦った人物は、手にした刃が折れたあと、身につけていた中で一番鋭いものを取り出して、最期まで足掻き続けたのだろう。

そうして突き刺さった鍵による傷が、恐魚の神経節にまで達したせいかは定かでない。だが、ともあれこの恐魚は何らかの要因で宿舎に逃げ込み、壁と格闘するよりほかになくなってしまったようだ。

あるいは、もしかすると……

何であれ、今はあの鍵を引き抜いて、その惨めな生命に終止符を打ってやるとしよう。

船員の宿舎

この部屋には、誰にもぐっすり眠れそうにないぼろのベッドしか見当たらない。

工具室

そこにあった装置を前にすれば、諸国のどんな名工でも途方に暮れることだろう。それは装置の構造が複雑だからでも、その中のアーツユニットの操作が難しいからでもない。

むしろこうした道具は概して扱いやすく、いくつかスイッチを入れてボタンを押せば起動し、極めて効率的に仕事をこなしてくれるものだ。唯一の問題は、それがどんな原理で動いているのかが誰にもわからないということだろう。

その装置は、合理的な駆動システムもエネルギー供給源も持ち合わせていない。なぜ今なお稼働するのかなど、誰にも知り及ぶところではなかった。それはどこか、大方の人類には足無くしてどう歩けばいいか、手無くしてどう物を掴むかを想像できないことにも似ている。

そもそも、源石の使い方からしてまるで違うのだ。

工具室

引き出しの底には一枚の黄ばんだ紙が貼り付けられ、その隣には目の覚めるような赤いペンキでこう書かれていた。「ここで落ち込むのはよせ!甲板には出るな!海に飛び込んじゃダメだ!これをよく見て覚えておけ!自分が誰かを忘れるな!」

貼られた紙のほうは、将校手帳から切り取られたもののようだ。この大船を「イベリアが誇る海上宮殿」「高貴なる王の旅する玉座」と言葉を惜しまず賛美する文面が見受けられる。

そんなスタルティフィラの乗組員として、幸運にも選ばれた将校や研究者たちは、イベリアの黄金時代でも傑出した実力の持ち主だったのだ。

紙に書かれたある一節にマーカーが引かれている。「一時代の中で、人々の記憶に残る名前は限られたものだけだ。歴史というのは残酷で、平凡な人間のことはすぐさま忘れ去ってしまうが――おめでとう、誉れ高き我らが乗組員よ。君は必ず歴史に名を刻むことだろう!」

貯蔵室

貯蔵室には、取るに足らない物しか残っていない。

下層ホール

「将校の休憩室」に、まだ開けていない扉がある。そこに脅威が無いかどうかを確認してから進むとしよう。

第一調理室

「第一調理室」はその名の通り数ある調理室の一つであり、このほかにも食材加工用の厨房やデザート専用のキッチンなど、様々な部屋があるようだ。ここでは船の乗組員たちに、その栄誉ある地位に相応しい、あるいは「相応しかったはずの」美味しい料理を提供していたのだろう。

しかし、災厄とそれに伴う飢餓は人々から善良さを剥ぎ取ってしまうものだ。キッチンの隅についている黒く変色した痕が、瘤獣のステーキを切る時にうっかり散らした血によるものであることを祈るばかりである。

加えて、どれほど強靱な生き物も海水を飲んで生きていくことはできないはずだが、調理室に取り付けられた海水淡水化装置は、何年も前に壊れてしまっているようだ。

この海の真ん中でかの人々を待ち受けていた運命は、脱水症による死だったのだろう。

第一調理室

冷凍庫を開けると、冷気が流れ出してくる。この冷凍庫はまだ機能しているようだ。

冷凍庫の中には、恐魚の死体が何十体も整然と並べられていた。その種類は様々だが、原型をほとんど留めていないものもいくつかある。どれも断面は滑らかで、鋭利な何かで切り取られたのだろうと思われた。

そしてそのほかにも、様々な形の奇妙な骨格が吊り下げられており、それは進化の過程における多様な模索の痕跡を集めたもののようにも見えた。骨の変色度合いを見るに、古い物から新しい物まで、数十年にわたって集積されているようだ。

恐らくこの船は、言葉を持たない来訪者をも、もてなしてやっているのだろう。

宴会場

「宴会場」は、これまで様々な客人をもてなしてきた場所だ。まずは「第一調理室」へと向かい、配膳しそびれた料理がないかを調べてみよう。

昇降機

遠くから奇妙な音が聞こえてくる。宴はまだ「終わってはいない」ようだ。

訓練場

剣を抜け。生き残りをかけ、戦うのだ。

訓練場

恐魚は所詮恐魚でしかなく、戦いはすぐに幕を閉じた。奴らは慌てて闇の中へと身を潜め、次の機会を待つことにしたようだ。――狩人たりえぬものは、獲物になるよりほかにない。狩りとはそういうものなのだ。

見渡せば、一匹の大きな恐魚が同族に囲まれたまま死んでいた。その触腕には、壊れた懐中時計がぶら下がっている。それは、彫られた刻印から察するに、スタルティフィラの航海長のものだったようだ。

しかし、恐魚がその群れに必要な進化を遂げるものなのだとしたら、収集癖を身につけることなどあるのだろうか?

訓練場

訓練場はすでに一掃された。

小さな教会

聖像はこちらを静かに見下ろしている。

小さな教会

イベリア国教会は災厄が訪れる前から、ラテラーノの法による拘束を避けるべく、ラテラーノ教皇庁と距離を置いていたのだが、教皇閣下はそれにお気付きでなかったようだ。そうして最終的に、イベリア人は「己を救える者は己のみ」という結論にたどり着いた。

この小さな教会は、まさしくその分離期における典型的な様式となっている。聖像が銃ではなく剣と灯りを携えているのがその証左だ。国教会は当時、新たな経典を編み上げた上で、国王の支持の元、イベリア独自の教皇を擁立しようとさえしていた。

しかし、そのすべてが跡形もなく消え去った今、イベリアの導きとなるものは、もはや裁判所のみとなった。

教会の隅には船員たちの軍帽が整然と並べられていた。その持ち主たちは恐らく、とうに海へと姿を消してしまったのだろう。けれども、このささやかな形見が飾られていること自体が、彼らを忘れたくないと願う誰かの存在を証明していた。

よく見ると、ある帽子の下に、半分だけになったコードブックが置かれている。引き出して目を通せば、そこにはさまざまな暗号が記されていた。資料室の金庫のパスワードらしきものも書かれているが、それは不完全な状態で、もう半分を見つけなければ打ち込めそうにない。

小さな教会

気になる物はこれ以上見当たらない。

資料室

室内には、天井近くまで積み上げられた大小様々ある金庫のほか、部屋の中央に置かれた机と数脚の椅子、そしてテーブルランプが置かれているだけで、無駄な物はほとんどない。この部屋のかつての管理者は、相当のしっかり者だったのだろう。

ここにある金庫のほとんどは鍵が開いていて、中に入っている書類も今ではまるで意味を成さないものばかりだった。だが、ある大型金庫にだけはしっかりとロックがかけられており、それを開けるにはパスワードが必要になるようだ。

資料室

金庫の重たい扉がゆっくりと開く。中はほとんど空っぽで、狂人号の船員名簿だけがぽつりと一冊残されていた。それに目を通してみれば、災厄がスタルティフィラにもたらした被害の凄まじさを垣間見ることができる。

静謐が訪れた時、大艦隊のほとんどは正面から巨大な波にぶつかってしまい、大きな損失を出したようだ。波が収まったあと、スタルティフィラは一度、海面に生き残りの船や人員を探そうとしたものの、自身も動力系統に損傷を受けていたこともあり、大した収穫は得られなかったらしい。

さらには、怪物たちが姿を現したことで、かの災厄から半月のうちにこの船は乗組員の半数を失い、甲板中が鮮血に染められた。一年が経つ頃には船内の補給物資が底を尽き、わずか百名余りの生存者たちは長い闘争へと身を投じることになったのだ。

その後の記録には、おぞましい言葉ばかりが並んでいる。「裏切った」「気が触れた」「食われた」「変異した」……

そして、名簿にはこう書かれていた。――「かの災厄から二十年の月日が去った今も、この船上には理性を保った生存者が十六人残っている。」……記された「今」は、すでに「昔」になっている。

パイプシャフト

薄暗く雑然としたこの場所の、光が届かない隅のほうに、白骨死体が転がっていた。

パイプシャフト

一つきりと思われたそれは、よく見れば二体分の骨が絡んだもので、その内一つは……ひどくねじれて、折れ曲がっていた。その骨格は、ある種の恐魚のそれと非常に似通っている。

二人の胸部があった場所には、一本のレイピアが突き刺さっていた。その柄は彼ら自身の手に握られており、それを突き立てたのが当人たちだったことを思わせる。

二人はなぜ、こんな最期を迎えることになったのだろうか?彼らは一体どのような関係だったのだろうか?その死の間際、彼らは何を考えていたのだろうか?恐らく、もはやそれを知る術は残されていない。

骸骨の向こうへ回り込んでみると、隅のほうに、半分だけになったコードブックが落ちている。拾い上げて目を通せば、そこにはさまざまな暗号が記されていた。資料室の金庫のパスワードらしきものも書かれているが、それは不完全な状態で、もう半分を見つけなければ打ち込めそうにない。

パイプシャフト

これ以上調べる必要はなさそうだ。

黄金の回廊

この場の壁には、何やら恐ろしい痕跡がいくつか残されている。ここで起きたことを知るために、まずは「資料室」へと向かおう。

チェーンロッカー

何かが擦れるような、不気味な音が聞こえてくる。すぐさま「黄金の回廊」へと戻り、未知なる敵との戦いに備えよう。

チェーンロッカー

チェーンロッカーには、持ち出すべき物はもう残っていない。

メンテナンス通路

何かが擦れるような、不気味な音が聞こえてくる。すぐさま「黄金の回廊」へと戻り、未知なる敵との戦いに備えよう。

メンテナンス通路

ここにはもう、持ち出すべき物は残っていない。

司令室

室内には今のところ、気になる物は見当たらない。今はそれより、「懲罰房」と呼ばれる部屋が気にかかる。

懲罰房

何かが擦れるような、不気味な音が聞こえてくる。すぐさま「黄金の回廊」へと戻り、未知なる敵との戦いに備えよう。

懲罰房

意外にも、懲罰房の机には未完成の手紙が置かれていた。

懲罰房

その手紙には、溟痕に似た質感の怪しげな粘液がぽつぽつと滴っている。けれども、時を経たそれはすでに乾ききっていた。

便せんの上半分は比較的綺麗なもので、家族に宛てて書いていたらしい内容だ。手紙を書いた人物は、家族への思いと、そばにいてあげられない罪悪感を繰り返し綴っていた。

しかし、滴る粘液が増えるにつれ、文字は次第に乱れていき、手紙の主は「もうすぐお前たちに会える」「子供たちにはプレゼントを持って帰ろう」などと書き残している。

それ以降の内容はほとんど粘液に覆われてしまい、かろうじて「海」や「回帰」といった文言を読み取ることしかできなかった。

手紙の最後の一行には、綺麗な字でこう書かれていた。――「我らは共にある。」

懲罰房

ここには、気になる物はもう残っていない。

製図室

「メインブリッジ」で製図室のセキュリティシステムを解除しなければ入れない。

製図室

ここにはもう、持ち出すべき物は残っていない。

メインブリッジ

ここへ戻るには、「司令室」を通る必要がある。

観測所

先に「メインブリッジ」へ向かい、船長に会わなければ。

ブリッジの通路

六十年以上、二万日を超える時の中で、幾多の荒波と無数の危機を乗り越えてきたこの船は、不滅の国家イベリアと同じく、沈むことなど決してない。言うまでもなく、スタルティフィラはかくあるべきで、かくあり続けるほかないのだ。

ひげをたくわえた白髪の船長が、舷窓から外を眺めている。視線の先に広がる海面には、風景と呼べるほどのものは何もない。初めの十数年ほどの間、彼は多くの時間を見張り台で過ごした。小島の一つでも構わないから、かつて故郷と呼んだ地をこの目で見たいと思ったのだ。

けれどそこには何もなかった。視界に入るのは、果てしなく遠くまでを満たす水だけだ。その光景に彼は退屈し、焦燥し、憤り、そしてついには目を背けた。どうせ何も起こりはしない。彼の命運はもはやその場所と無縁のものなのだ。

しかし、なぜだかこの時船長はふと、自分がこの名もなき海を見飽きていないことに気が付いた。そこで彼は、この馬鹿げた茶番を終わらせたら、何年も前そうしていたように、副船長と共に日の出を静かに眺めようと心に決めた。

ブリッジの通路

通路には誰もいない。

ウインチ

こうもおぞましい進化を遂げた生き物は、殲滅されるべきだ。

ウインチ

社会学者は、恐魚とシーボーンの社会形態をどう分析するのだろうか?いや、恐らく彼らにそれを求めることは難しいだろう。というのも、人間社会は我々の利己心と高尚な精神、そして臆病さと勇敢さの上に成り立つものだからだ。我々の醜さは時として、輝ける瞬間をももたらすのである。

一方でこの生き物たちの己がコミュニティへの認識は、完全に我々の想像を超えたものだ。人類が献身を讃えるのは、それが道徳的かつ稀有だからこそである。しかし、恐魚たちはそうした視点から物事を見ることはなく、どんな選択にも卑劣かあるいは高尚かなどと意味を持たせはしない。

奴らはたった一つの目標のみを目指しており、ありとあらゆる行動はそのためだけのものである。恐魚に地位などありはせず、個々の利益を得ることもない。ただ進化の終点に到達せんとするばかりの存在なのだ。

ゆえにこそ、人類は奴らと徹底的に戦わねばならない。

ウインチ

ウインチ付近の恐魚は一掃された。

甲板室

「ウインチ」のある方向から、怪しい物音が聞こえてくる。先にそちらを調べたほうが良さそうだ。

信号灯

今はそれより、シーボーンを探すほうが先決だ。

右舷甲板

右舷には誰の姿もない。シーボーンを探さなくては。

船首甲板

船首付近には誰の姿もない。シーボーンを探さなくては。

左舷甲板

左舷には誰の姿もない。シーボーンを探さなくては。

打ち捨てられた樽

「信号灯」のあるあたりが、大量の恐魚に占領されている。そちらの対処を済ませてからにしよう。

メインマスト

「信号灯」のあるあたりが、大量の恐魚に占領されている。そちらの対処を済ませてからにしよう。

儀礼広場

儀礼広場には誰もいない。まだ戦いの時は来ていないようだ。

水文観測所

ここにあるのは、今でも動き続けている研究設備だけだ。

右舷甲板

奴を止めなければ。

右舷甲板

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、奴の血族が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはまだ時間が必要なのだ。

右舷甲板

シーボーンはここから逃げ去った。あるのは戦いの痕跡だけだ。

船首甲板

奴を止めなければ。

船首甲板

未来への希望の訪れを感じ取ったのか、奴の血族は文字通り一丸となり、命を賭して防護壁を築き上げてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはやはり、まだ時間が必要なのだ。

船首甲板

シーボーンはここから逃げ去った。あるのは戦いの痕跡だけだ。

左舷甲板

奴を止めなければ。

左舷甲板

その生き物は、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めている。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。

そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

けれどあと少し、もう少しで掴めるはずだ。

左舷甲板

シーボーンはここを去って行った。

左舷甲板

奴を止めなければ。

左舷甲板

群れに囲まれたその巨体は、ただの大きな恐魚だった。それは意図しない偶然か、あるいは巧妙な偽装なのか――ともあれ、そんなことを考えている時間はない。今はそれより、シーボーンを見つけ出さなくては。

左舷甲板

ここには、戦いの痕跡以外何もない。

船首甲板

この音は、そう遠くない場所から聞こえてくる。

船首甲板

「右舷甲板」に向かって続く血痕は、あのシーボーンのものに違いない。奴が力を付けてしまう前に、追って始末を付けなければ。

船首甲板

この場所には、気になるものは何もない。

右舷甲板

奴を止めなければ。

右舷甲板

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、奴の血族が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはまだ時間が必要なのだ。

右舷甲板

シーボーンはここから逃げ去った。あるのは戦いの痕跡だけだ。

船首甲板

奴を止めなければ。

船首甲板

未来への希望の訪れを感じ取ったのか、奴の血族は文字通り一丸となり、命を賭して防護壁を築き上げてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはやはり、まだ時間が必要なのだ。

船首甲板

シーボーンはここから逃げ去った。あるのは戦いの痕跡だけだ。

左舷甲板

奴を止めなければ。

左舷甲板

その生き物は、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めている。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。

そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

けれどあと少し、もう少しで掴めるはずだ。

左舷甲板

シーボーンはここを去って行った。

左舷甲板

奴を止めなければ。

左舷甲板

暗闇に潜むその巨体は、ただの大きな恐魚だった。それは意図しない偶然か、あるいは巧妙な偽装なのか――ともあれ、そんなことを考えている時間はない。今はそれより、シーボーンを見つけ出さなくては。

左舷甲板

ここには、戦いの痕跡以外何もない。

船首甲板

この音は、そう遠くない場所から聞こえてくる。

船首甲板

「右舷甲板」に向かって続く血痕は、あのシーボーンのものに違いない。奴が力を付けてしまう前に、追って始末を付けなければ。

船首甲板

この場所には、気になるものは何もない。

右舷甲板

奴を止めなければ。

右舷甲板

進化の突破口に立つそれに迫った危機を察してか、奴の血族が群れを成して通路を埋め尽くし、その身を挺して足止めしてくる。シーボーンはその群れの向こうへ飛び込んで、ここから逃げ去っていく。奴にはまだ時間が必要なのだ。

右舷甲板

シーボーンはここから逃げ去った。あるのは戦いの痕跡だけだ。

船首甲板

奴を止めなければ。

船首甲板

その生き物は、自らが生まれ、やがては還ることになる海を眺めている。奴には海に浮かぶこの箱の中で起きていることも、奴を害そうとする同族や異種族のことも、まるで理解ができなかった。

そうして、奴は思考しながらうろつき回っていた。答えはすでに持っているのに、それを表現することはまだできそうもないと感じていたのだ。

けれどあと少し、もう少しで掴めるはずだ。

船首甲板

シーボーンはここを去って行った。

打ち捨てられた樽

ここにはもう何もない。

水文観測所

ここにあるのは、今でも動き続けている研究設備だけだ。

懲罰軍補給所

補給の配分は予め決められている。何度も受け取ることはできない。

災厄

「狂人共の船」「遠望する灯台」「波砕く港」の三つのページを繋ぎ合わせることで、物語の続きを確かめられそうだ。

序文

厚く埃を被った手記を開くと、そこには序文が短く残されていた。手記の筆者はその中で、自分は故郷を離れた哀れな男にすぎず、己の名前など重要ではない、と記している。彼は友人たちや自身の暮らしと経験を記録するため、そして記憶が波に流されてしまわないようにするため、筆を執ったそうだ。

意外なことに、この手記は子供たちにも愛されていたようで、ページの隅にはしばしば彼らの落書きが見受けられる。もしかすると、陸で育った子供らも、身近なものから「エーギル」という朧気な故郷の姿を知ろうとしていたのかもしれない。

手記のページはなぜかバラバラにされており、少しずつ物語を繋ぎ合わせる必要がありそうだ。

第一章

「ブレオガンは俺たちをこう説得した。――今のエーギルは自惚れという泥沼に沈み込んでおり、我々の都市は陥落しかけている。故郷が深淵に消えようとしているにもかかわらず、執政官たちは未だに勝利を信じ切っているのだ。それでも、我々は新たな可能性を見つけ出さなければならない。」

「海はいかに広大であろうと、世界のすべてというわけではない。陸の人々は弱く、目先のことしか見えていないかもしれないが、恐らく彼らは変革をもたらす力を秘めている。何しろ、源石の災禍に蝕まれながらも、それを使いこなす術を身につけたのだから。」

「――ブレオガンは、そこにエーギルが求める答えがあるとは保証しなかったものの、それは確かに新たな道ではあった。俺は最初に陸へ上がった瞬間のことを今でも覚えている。足元の砂浜はエーギルのそれと変わりなかったが、風に吹かれる感覚を知ったのは初めてだった。」

第二章

「俺たちが上陸したこの場所は、イベリアという驕り高ぶる後進国だ。傲慢さとは、海陸問わず蔓延する、人類共通の疫病のようなものらしい。ここでは、災厄によってエーギルを離れた難民たちと共に暮らしていたのだが、陸の人々はそんな俺たちを『島民』と呼んでいた。」

「とはいえ、俺たちにとって陸のすべてが新鮮だったことは確かだ。特にブレオガンは、科学アカデミーの天才と呼ばれていた頃にさえ、あれほどの興奮を見せることはなかったように思う。あいつは毎日駆け回ってはあれこれと尋ね回り、すぐに地元の人々と打ち解けてみせた。」

「しかし、「これも『人付き合いの科学』を心得ているからだ」などと得意げに語る様子には辟易する。先日など、あいつはある老人から気になる話を聞いてすぐ、旅に出ると決めてしまったが、これには期待できない。そもそもこの土地をよく知らない以上、無闇に冒険すべきじゃない。」

「だというのに――もういい、わかった。とりあえずチームには入ってやる。道半ばで死ぬようなことにならなければいいんだが。」

第三章

「あの場所を離れて何年経つだろう。五年か、六年か?ともあれその間に、俺たちはヴィクトリアの街を歩き、カジミエーシュ平原で景色を眺め、ラテラーノの大聖堂を訪れ、ウルサスの雪原で死にかけたりもした。そして今、目の前にあるのは何千マイルも先まで続くサルゴンの砂漠だ。」

「ブレオガンの言う通り、俺たちは真相に近付きつつある。この旅の途中、預言者あるいは神の使い、もしくは祭司と呼ばれる特別な存在数名と、短期間ながらコンタクトを取ることもできた。」

「そして昨日、ブレオガンがその一人を正式に訪問した。訪ねた相手は非常に発音しづらい名前の持ち主で、さらにはその名前でしか呼ばれたくないと言うものだから、俺としてはもはや発音が合っていることを祈るばかりだ。さておき、ブレオガンはそいつと長いこと話し込んでいた。」

「『巨獣』という奇妙な陸上生物は、計り知れない力を持っている。ブレオガンはそれについてある仮説を立てようとしているが、正直俺は二の足を踏んでいる。俺たちが海で相手取っている恐ろしい敵には、確かに巨獣と似たところもあるが、まったく異なる部分もあるように思うのだ。」

「あいつの仮説が、反証されるためだけの存在になるよう願っておくとしよう。」

第四章

「十数年ぶりに、俺たちはイベリアへ戻ってきた。驚いたことにこの国自体はまったく代わり映えしなかったが、島民は増えているようだ。どうやらエーギルの戦況は芳しくないものらしい。俺は少しホームシックになってきた。故郷の安否が心配だ。」

「一方ブレオガンはというと、イベリアで新しい友人を作った。カルメンとかいう聖職者と、アルフォンソとかいう軍人だ。あいつらは毎日のようにつるんでは、『偉大なる計画』とかいうものについて話し合っている。まったくお笑いぐさだな。」

「しかし、相変わらず人付き合いの上手い奴だ。俺が閉じこもりすぎなのかもしれないが、元々俺は人間より絵筆と過ごしたいほうだしな。――ブレオガン曰く、仮説は着々と洗練されつつあるそうだ。エーギルの技術と源石技術を融合させる方法も見つけたから、試す機会が欲しいと言っていた。」

「機会というのはたとえば、イベリアの最高造船技術士を拝命する、とかだ。」

第五章

「ブレオガンはイベリアのために大艦隊の建造計画を立てている。あの王が野心に満ちていることはどんなバカでも見抜ける事実だが、まあ、ブレオガンの言う通りかもしれない。結局、陸において俺たちは通りすがりの客でしかないし、その最終目標はエーギルを助けることにある。」

「――建造中の旗艦を見てきた。エーギルからすればぎりぎり形になっているくらいの代物だが、陸上国家にとっては前代未聞の船となるだろう。ブレオガンとアルフォンソは、その船をスタルティフィラ、『狂人号』と名付けた。」

「二人は圧力に負けず双方同意の下でこの命名を断行したが、その解釈はそれぞれで異なっているように思う。それに、最近のブレオガンはいつもしかめ面をしている。何かが起こる予感でもあるのか、あるいは疲れのせいかもしれない。王は灯台と港町の建設までもをあいつに課したのだから。」

「最近、ブレオガンはイベリア中の新聞で引っ張りだこで、どの新聞社もあいつを賞賛してやまない。だが俺は、あいつがもっと遠くへ目を向けていることを知っている。あいつの判断はいつも的確だし、今回もそうあってほしいものだ。」

災厄

「音という音が消え去った。波は進み続けている。」

「何せこれほどの大波だ。俺たちは皆、あれに飲まれることになるだろう。」

「きっとエーギルに何か起きたんだ。ブレオガンを探さなくては。」

数行の脚注

「あちこち探し回ってみたものの、ブレオガンは見つからない。大いなる静謐で死んだとは思えないが、あいつにとって今の状況はあの時よりも危険なはずだ。」

「確かにあいつは災厄を予見していた。しかしそのために準備した対策の数々は、あいつ自身が災厄を招いた証拠と捉えられ、ブレオガンこそイベリアを波に沈めた邪悪な巫術師だと誰もが言い出した。さらにはエーギル人であること自体が罪とされ、陸の人々は、俺たちを追って災厄が来たなどと言う始末だ。」

「ついさっき、エーギル人の若者が街角で殴り倒されるのを見てしまった。しかもそいつを殴ったのは、普段懇意にしていたはずのイベリア人だった。」

「クソッタレめ。何とかしてブレオガンを探さないと。エーギルがどんな状況だろうと、俺たちは戻らなきゃならん。」

序文

序文の書かれたページをめくれば、物語がゆっくりと展開されていく。

第一章

手記の第一章は、在るべき場所へと綴じられた。

第二章

手記の第二章は、在るべき場所へと綴じられた。

第三章

手記の第三章は、在るべき場所へと綴じられた。

第四章

手記の第四章は、在るべき場所へと綴じられた。

第五章

手記の第五章は、在るべき場所へと綴じられた。

災厄

ふやけたページは、在るべき場所へと綴じられた。

数行の脚注

災厄はあらゆるものを変えてしまった。走り書きされた数行の脚注からは、時代を垣間見ることしかできない。

湿潤な夢

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

蒼白き雪

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

熱宿す炎

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

海からの警告

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

燃え滾る欲望

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

不滅の光

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

誇り高き艦長

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

声なき潮

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

褐色の土

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

高鳴る心臓

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

王の傲慢

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

溢れる野心

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

すすり泣く波

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

年老いた職人

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

消え去った城

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

幕間

このページは、在るべき場所へと綴じられた。

失った記憶の欠片

彼は深くまで調べてみることにした。

失った記憶の欠片

彼は手探りで進んでみることにした。

失った記憶の欠片

この先の運命はすでに決している。けれど、偽りの可能性を探してみることもできそうだ……

偽りの可能性

彼は深くまで調べてみることにした。

偽りの可能性

行く手には更なる濃霧が広がっている。心の中の探索を続けるとしよう。

偽りの可能性

彼は手探りで進んでみることにした。

巡る思考の欠片

彼は思い出してみることにした。

巡る思考の欠片

彼は探求してみることにした。

巡る思考の欠片

この先の運命はすでに決している。けれど、偽りの可能性を探してみることもできそうだ……

偽りの可能性

彼は思い出してみることにした。

偽りの可能性

彼は探求してみることにした。

崩れた歴史の欠片

彼は繰り返し問い続けることにした。

崩れた歴史の欠片

彼は再度自分に問いかけてみることにした。

崩れた歴史の欠片

この先の運命はすでに決している。けれど、偽りの可能性を探してみることもできそうだ……

偽りの可能性

彼は繰り返し問い続けることにした。

偽りの可能性

彼は再度自分に問いかけてみることにした。

消えた運命の欠片

彼はしばし目を閉じることにした。

消えた運命の欠片

彼はしばし一息つくことにした。

消えた運命の欠片

この先の運命はすでに決している。けれど、偽りの可能性を探してみることもできそうだ……

偽りの可能性

彼はしばし目を閉じることにした。

偽りの可能性

彼はしばし一息つくことにした。

定められた結末

彼は結末にたどり着いた。

定められた結末

目の前が真っ暗になり、意識は無に帰していく。

幻想の報酬

ここに留まる必要はない。この先には、まだ真相が待ち受けているのだから。

取るに足らぬ真相

明らかとなった真相は、取るに足らないものだった。


[アイリーニ] こちらが新たに獲得したパーツです。「リトル・ハンディ」から確認することができますよ。


[アイリーニ] こうしたパーツを組み込むことで、シーボーンとの戦いを有利に運ぶことができます。探索を続けて、より多くのパーツを手に入れましょう。


[アイリーニ] 「リトル・ハンディ」のパーツは、ここからも確認及び調整が可能です。




[ドーベルマン] 本日は、この先会敵が予測される相手と作戦環境に焦点を当て、特殊な訓練を実施する。

[ドーベルマン] これはあくまで、裁判所から提供された前線の情報を元にシミュレーションとして作った戦場だが、心してかかるように。

[クオーラ]うわわ! あのうねうねしてる地面はなあに~!?

[ドーベルマン] あれは溟痕(めいこん)だ。一部の学者の推測によると、海に棲むある種の生命体らしい。現状、溟痕に関する情報は多くない。まずは見ろ――


[ドーベルマン]この奇妙な生命体は、一定間隔ごとに周りの地面へ広がっていく!


[クオーラ] たいへん! 溟痕が敵の足元まで広がっちゃった!

[ドーベルマン]気をつけろ! 溟痕の上にいる敵から攻撃されると、より多くの神経損傷を受けてしまうぞ!


[クオーラ]ドーベルマン教官! 溟痕がボクの足元まで来ちゃったよ! なんだか、ずずず~って音まで聞こえてくるような……

[ドーベルマン]それも留意するべきポイントだ。溟痕の上にいるオペレーターは、術ダメージと神経損傷を受けることになる。

[クオーラ] て、撤退しちゃダメ……? 靴底が溶けちゃいそうで、立ってられないよ~……!

[ドーベルマン] 溟痕を食い止めるには、オペレーターを溟痕の上に配置するよりほかにない。お前が撤退して誰もいない状態になれば、溟痕はそこから広がり続けてしまうんだ!

[ドーベルマン] すでに医療オペレーターへ支援を頼んである。持ちこたえろ、クオーラ!


[ドーベルマン]さあ、あとはお前たち次第だ! 右側にも突破されかねない場所があるぞ! 溟痕が主戦場へ広がるのを食い止めろ!


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