aklib_story_測り難き者

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測り難き者

ロドスの大口顧客であるカランド貿易で、感染した従業員に配られるはずの鎮痛剤が届かないという事案が発生した。ドクターは自ら動いて黒幕を暴き、カランド貿易の社長と交流を持つことになる。


[アーミヤ] ……つまり、カランド貿易が新設した支店の従業員は、送ったはずの初回ロット分の鎮痛剤を受け取っていない、ということですか?

[前衛オペレーター] はい。

[アーミヤ] ……

[前衛オペレーター] それと、仲間が近くの闇市で偶然コレを見つけました。

[アーミヤ] これは……ロドス製の鎮痛剤ですね。シリアルナンバーは確認しましたか?

[前衛オペレーター] はい。後方支援部に確認させたところ、間違いなく該当のロットのものでした。誰かが私たちの薬を転売しているとみて間違いないかと。

[アーミヤ] ……

[前衛オペレーター] こういうことをする会社は一つや二つじゃありませんし、対応策も確立されてますから、本来アーミヤさんやドクターに来てもらうまでもないんですが……

[前衛オペレーター] なにせ相手があのカランド貿易の支店ですから、二人の意見を聞いておこうというわけです。

[アーミヤ] はい、ありがとうございます……クリフハートさんがオペレーターとして在籍していることや、カランド貿易が大口の発注者であることなども踏まえて、この件は慎重に対応する必要がありますね。

[アーミヤ] 問題は、管理層による独断なのか、それとも彼らのトップが黙認しているのか、という点です。

[アーミヤ] Medicさん、シルバーアッシュさんとの契約はあなたが主導で締結したかと思いますが、どう思いますか?

[Medic] うーん……なんとも言えませんね。

[Medic] カランド貿易との取引は数ヶ月になりますが、今回の大口注文自体には何ら問題ありませんでした。シルバーアッシュさんが来訪されて、鎮痛剤の購入を希望し、合意に至った。それだけのことです。

[Medic] ですが、あの人が感染者のことを本心ではどう思っているのかまでは分かりません。ただ、ビジネスとしてお金を払って鎮痛剤を購入したのは疑いようのない事実ですから……

[Medic] 該当のロットはすでにシルバーアッシュさんの所有物ですので、どう扱うかは自由といえますね。

[Medic] ただ私たちの立場からすれば、ビジネスを口実に、ごまかしていいことではないと思います。

[Medic] ドクターはどう思われますか?

[ドクター選択肢1] シルバーアッシュって……誰?

[ドクター選択肢2] シルバーアッシュはどんな人?

[ドクター選択肢3] シルバーアッシュか、変わった名前だ……

[Medic] あ! そうでした。あの頃ドクターはまだいなかったですよね。

[Medic] すみません。最近ドクターはますます頼りがいが出てきたので、無意識に何でも知っているものと……

[アーミヤ] フルネームはエンシオディス・シルバーアッシュといい、カランド貿易の社長です。私たちの大口顧客でもあります。

[アーミヤ] シルバーアッシュさんは感染した従業員のため、雇用保険などの福利厚生を充実させたいと常々考えていたようです。同時に、鉱石病に感染した実の妹、クリフハートさんの治療法も求めていました。

[アーミヤ] 多くの製薬会社をあたって、最終的にロドスにたどり着いたそうですよ。

[Medic] ええ。シルバーアッシュさんはこの件には固い意志を持っていて、そのうえ慎重でした。それから時間をかけて協議した結果、ようやく大口の発注に至ったんです。

[Medic] 発注の内訳としては、全社員をカバーする医療保険と、全支店に分配するための鎮痛剤でした。

[Medic] 鎮痛剤は発病時のみ投与するので、各支店への割当数についても、私たちが支店ごとの統計まで出した上で、発注いただきました。

[Medic] すべての感染した従業員が、四半期毎に鎮痛剤を必ず一セット受け取れるようにした上で、会社に予備も確保しておくためです。

[Medic] それらすべて、シルバーアッシュさんの希望に基づくものです。

[Medic] 正直言いますと、自社の感染者のためにあれほど派手にお金を使う経営者は初めて見ましたよ。

[Medic] そんなシルバーアッシュさんがどんな人なのかといえば……

約一年前

[Medic] 本当にこれほどの数を……一度に購入されるんですか?

[エンシオディス] ああ、そうだ。ロドスの鎮痛剤の薬効は、すでに証明してもらっている。感染している従業員全員に一セットずつ行き渡らせたい。

[エンシオディス] ついては、ディスカウントを提示してもらえると嬉しいのだが。

[Medic] ええと……

[Medic] 確かに、今回の発注は、我々がこれまでに受けた注文のどれよりも大口の発注になりますから、割引価格を希望されるのも当然です。

[Medic] しかしながら、我々ロドスの生産する薬は原価率が高く、実のところ売価と原価に大きな開きがあるわけではないんです。

[エンシオディス] あなたに決められないことであれば、御社のリーダーであるアーミヤ殿に協議に参加してもらって構わない。

[Medic] いえ、私にも決裁権はあります。

[Medic] 私が言いたいのは――

[Medic] ロドスの生産している薬は感染者を助けるためにある、ということです。

[Medic] ですから、どうかこれらの薬が鉱石病に感染した従業員へ無事届けられることを約束してください。

[エンシオディス] ……

[エンシオディス] Medic殿……と呼んでも構わないだろうか。御社はコードネームで呼び合う決まりのようだから、私もそれに倣おう。Medic殿、これからの時間は空いているか?

[Medic] えっ?

[Medic] ここは……

[エンシオディス] 私がこの都市に設立した支店だ。

[支店長] 社長!? どうしてこちらへ!?

[エンシオディス] 感染者の従業員たちと面会したい。手配を頼む。

[Medic] あの日、私はシルバーアッシュさんと一緒に、そこで働く感染者に鎮痛剤を配りました。

[Medic] そして両社の提携が深まってきた頃合いで、シルバーアッシュさんは治療のために妹をロドスへ送りました。それがオペレーターのクリフハートさんですね。

[アーミヤ] 話を聞く限り、渋々従業員のための薬を買うような経営者たちとは違うようですね。

[Medic] ええ、まったくです。実際、わざわざ自ら薬を配布するなんて……ただのパフォーマンスとしても、そんなことをしたがる経営者なんて、そうはいないでしょう。

[ドクター選択肢1] つまり、転売は支店の管理層による独断行為だと?

[Medic] ……そう言い切ることもできません。

[Medic] あの人は何を考えているかまったく分からないタイプなので、人となりが見極められないんです……

[Medic] 信じたいと思えば思うほど、自分の中で警鐘が鳴るんです。

[ドクター選択肢1] 彼の考えを確認する必要がある。

[ドクター選択肢2] 慎重に行動する必要がある。

[ドクター選択肢3] クリフハートの気持ちも無視できない。

[Medic] ですが、この件について当人と話し合っても、すんなり本意を認めるとは思えません。

[Medic] そうですね。ロドスのお得意様ですし、クリフハートさんのお兄さんでもありますから……

[Medic] 対応を誤れば、大きな問題に発展するかもしれません。

[Medic] そうですね。確かな証拠がないまま、一方的にカランド貿易との関係を絶ってしまえば、クリフハートさんは立つ瀬がありません……私も彼女に恨まれたくはありませんから。

[Medic] それでは、どうしたらいいでしょうか、ドクター。

[ドクター選択肢1] 一つ考えがある。

[支店長] さあ、午前の仕事はここまでだ。

[支店長] 一時間休憩。全員並んで順番に食事を受け取るように。

[感染者従業員?] (小声)ふぅ……ドクターに言われた通りに紛れ込めたな。次は辺りを見て回るか。

[感染者従業員] よぉ。お前、新入りか?

[感染者従業員?] ああ、そうだ。

[感染者従業員] うちに来て正解だぜ。俺たちの会社は、感染者の待遇はかなりいい方だからな。

[感染者従業員?] ああ……そう聞いて応募してみようと思ったんだ。

[感染者従業員?] で、噂に違わずこの会社は良いとこってわけだな?

[感染者従業員] そうさ。俺も以前は別の工場で働いてたんだが、感染してからこの工場――感染した従業員のための職場へ異動になったんだ。

[感染者従業員] 大企業が感染者に与える仕事なんて、普通の人には耐えられないってよく聞くだろ? だから俺もそうなるもんだと思ってたよ。

[感染者従業員] だけど来てみたら、想像したよりずいぶんましだったね……

[感染者従業員] それにシルバーアッシュ社長は、俺たちのために、ある製薬会社から鉱石病に効く鎮痛剤を買い付けて……

[感染者従業員] 毎月トップの成績を収めた奴に渡してるってな、支店長がそう言ってたよ。

[感染者従業員] そんな社長、他にどこにいる?

[感染者従業員?] ……

[支店長] いいか、二日後にシルバーアッシュ社長が視察に来る。

[支店長] お前たち二人は普段から中々利口なようだ。よって代表者として社長と面会してもらう。何をすればいいか、分かってるな?

[感染者従業員A] もちろんです。仕事を与えてくださるだけで、社長には十分感謝しています。余計な口出しなんてできるはずもありません。

[感染者従業員B] そうですとも。今の仕事だけでも、他の場所では望むべくもないのですから。

[感染者従業員A] ですから、その……

[支店長] ふん、この鎮痛剤をやるよ。お前たちへの褒賞だ。

[感染者従業員A] ありがとうございます。

[支店長] うむ。あー、ゴホン――薬の行方についてだが……

[感染者従業員B] 私たちは皆、薬を受け取っています!

[支店長] よし、その通りだ。もう行け。

[感染者従業員A] はい、失礼いたします。

[感染者従業員B] 私たちは、これで。

[感染者従業員A] けっ、本当にロクなもんじゃねぇ。薬を横領しておいて、俺たちを脅して社長を騙す片棒を担がせるなんてよ。

[感染者従業員B] そうは言うけど、俺たちに何ができるっていうんだ? 社長に告発する勇気はあるか?

[感染者従業員A] ……ないね。

[感染者従業員B] 俺もないさ。社長が帰った後に何されるか分かったもんじゃない。

[感染者従業員B] それに、社長が俺たちの側についてくれる保証だってないしな。

[感染者従業員A] 感染者の味方になってくれる社長なんて、いるわけないだろ。

[感染者従業員B] たとえそうだとしても、さっき言った言葉は本当だからな。今の仕事だけでも、他の場所では望むべくもない。

[感染者従業員A] ……はぁ。他の仲間たちには悪いが、アイツの言うことを聞くしかないな。

[感染者従業員B] ああ。この薬、お前はどうする?

[感染者従業員A] 女房は俺が病気になった後、俺と娘を捨てて逃げちまったんだ。だからいざという時のためにとっておかなきゃならねぇ……

[感染者従業員B] お前も大変だな。

[感染者従業員A] そっちこそ、どうするんだ?

[感染者従業員B] 俺もとっておくよ。

[感染者従業員B] この薬の効能は、あくまで発作の痛みを抑えるだけで、病状自体を改善する効果はないって話だろ。だから発作が起きた奴がいたら、そいつに使ってやるよ。

[感染者従業員A] ……お前がそんなに気前の良い奴だとは知らなかったよ。

[感染者従業員B] みんな可哀想な奴らさ。痛みのあまり本気で死にたいって言ってる奴を見て、気が咎めないのか?

[感染者従業員A] ……こっちは自分の命で手一杯さ。他人に構う余裕なんてねえよ。

[感染者従業員?] ドクター、通信機経由で全部聞いてただろ。

[感染者従業員?] はぁ。こういうことは、本当にどこへ行っても一緒だな。

[感染者従業員?] 確かにヴィクトリアには、従業員が業務中に不注意で鉱石病に感染した場合も、彼らに仕事を提供し続ける会社はいくつかある。

[感染者従業員?] だが、そうした仕事の実情は、会社のために感染者をタダ働きさせているようなものだ。

[感染者従業員?] にもかかわらず、貴族たちはいつもそのことを話題にしては、まるでヴィクトリア貴族の美徳かのように話すんだ。

[感染者従業員?] 言ってしまえば、本当に感染者のために金を使う会社なんてほとんどないし、感染者を虐待したことで本当に処罰された奴もほとんどいないってことさ。

[感染者従業員?] ちっ。

[感染者従業員?] だが、数日の潜入調査の結果から言えば、このシルバーアッシュ社長は確かにすごい人だ。

[感染者従業員?] 裸一貫で起業して、たった数年でヴィクトリアにいくつもの支店を持つまでにカランド貿易を発展させたんだからな。

[感染者従業員?] それに、感染者への対応も悪くなさそうだ。

[感染者従業員?] 先の大口発注の件は元より、社内の感染者の仕事内容や待遇は、俺が見てきた中で一番だと言えるだろうな。

[感染者従業員?] ここの感染者の従業員は揃ってエンシオディス社長を尊敬しているようだが、それも頷ける。

[ドクター選択肢1] それは……彼が管理学に精通している証明にしかならない。

[ドクター選択肢2] 彼が鎮痛剤を転売していない証拠にはならない。

[感染者従業員?] 確かに……そうだな。

[感染者従業員?] 分かったよ、ドクター。つまり、決定的な証拠が必要なんだろ。

[ドクター選択肢1] ああ……鎮痛剤の行方だ。

[感染者従業員?] だよな!

[商業スパイ] お久しぶりです、ディアットさん。

[支店長] ライデンさん! 本当にご無沙汰でした。

[商業スパイ] お元気でしたか。

[支店長] ええ。おかげさまで、衣食住と満足のいく生活を送らせていただいています。

[商業スパイ] はは、それは何よりです!

[商業スパイ] それで、例のモノですが……

[支店長] ご安心ください、鎮痛剤はすべてこの箱の中です。

[商業スパイ] そうですか、ありがとうございます! さすがディアットさん、頼もしい限りです。

[商業スパイ] おっと? 今回は思ったよりも少ないですね?

[支店長] 今は閑散期で、感染者もあまり出勤していませんからね。ですが、ご存じの通り感染者の間でも評判の会社ですから、安定性は保証できますよ。

[商業スパイ] ええ、ええ。

[支店長] それに、包み隠さずにお伝えしますと、いつも通り少しは自社用に残しているんです。私もそこまで残忍な人間ではありませんし、感染者も生きていかなければいけませんから!

[商業スパイ] 仰る通りです。まったく、あなたのように心から感染者のことを考えている管理層は今時珍しいですよ。

[支店長] いやいや、ライデンさん、時代の流れというものですよ。文明という名のトレンドがいま来ているんです。

[支店長] ウルサスの野蛮人共は、感染者を捕まえて殺すことしか知らない。そんなのは時代遅れです。

[支店長] とは言え、ヴィクトリアの同業者でも、その多くは感染者をひたすら搾取することしか知りません。あまりにも非文明的だ。

[支店長] 感染者は動物ではありませんし、人間の言葉を解します。適度に褒賞を与えれば、仕事にも力が入るというものです。

[支店長] 我々のように、感染者を大切にしながら、感染者でカネを生み出すというのが、より文明的なやり方でしょう!

[商業スパイ] 全く仰る通りです! ヴィクトリアという文明国家と、感染者を大切にするエンシオディス社長に感謝しなければ!

[支店長] 文明に乾杯!

[商業スパイ] 文明に乾杯!

[感染者従業員?] ……畜生、アイツら……まだ身分を明かせない立場じゃなけりゃ、速攻で乱入してぶん殴ってやるところだ。

[感染者従業員?] だが、少なくともエンシオディス社長がこの件に関わっていないことは確認できた。

[感染者従業員?] ふん、まさかさっきのとんでもねぇ屁理屈が全部録音されてるなんて思ってもいないだろう。

[支店長] 鎮痛剤に乾杯!

[商業スパイ] 鎮痛剤に乾杯!

[感染者従業員?] すーっ……ふう……耐えろ、耐えるんだ。我慢して最後まで録音してやらねぇと……

[感染者従業員?] ドクター、これで証拠は十分だろう。

[感染者従業員?] 一応ドクターにも送っておいたが、あまり聞きすぎない方がいい。イライラして夜眠れなくなるぞ。

[ドクター選択肢1] 問題ない。

[ドクター選択肢2] 慣れている。

[ドクター選択肢3] ろくでなしどもめ。

[感染者従業員?] それじゃあ、あとはエンシオディス社長にこれらのことを伝えるだけだな。

[感染者従業員?] ドクター、どうする?

[ドクター選択肢1] 彼は数日後、視察に来るという話だろう?

[感染者従業員A] なぁ、昨日シルバーアッシュ社長が到着したらしいぞ。

[感染者従業員B] 本当か? 工場の視察に来るとは聞いていたが、ついにか。

[感染者従業員A] ああ。

[感染者従業員B] そりゃあいいや。やっとこの会社を興したシルバーアッシュ社長の姿を拝めるってわけだな。

[感染者従業員A] じゃあお前……

[感染者従業員?] うっ……あぁ……

[感染者従業員] どうした!?

[感染者従業員?] た、助けてくれ……鉱石病の発作だ!

[感染者従業員] なに!?

[感染者従業員] うあっ、爆発したら終わりだぞ。巻き込まれて死ぬのはごめんだ!

[感染者従業員?] ……

[感染者従業員?] とりあえず完璧に演じきって、派手に暴れるとするか。

[支店長] 社長、こちらは前期の報告書です。お目をお通しください。

[エンシオディス] ああ。

[支店長] それから、もし社内の視察をご希望でしたら、感染従業員の代表者と一般従業員の代表者を案内役として呼んでおります。

[支店長] 仕事については、私よりも彼らからお聞きになられた方が、よりご納得いただけるかと。

[感染者従業員A] 失礼いたします。

[感染者従業員B] は、はじめまして――

[エンシオディス] リハーサルが足りていないのではないか? わざわざ私に見せつけるだけのものが、本当に用意できているのか?

[支店長] う……それは……

[エンシオディス] ディアット。いくら隠し事をしようと、私は一向に構わない。成果が伴っていればな。

[エンシオディス] ただ、人を騙すつもりなら、簡単に見破られないようにしろ。

[支店長] ……はい。申し訳ございません。

[エンシオディス] お前たちはカランド貿易での勤務中に感染したのか?

[感染者従業員A] はい、そうです。

[感染者従業員B] 私はここの待遇がいいと聞いて来ました。

[エンシオディス] ここはどうだと感じる?

[感染者従業員A] 待遇は本当に申し分ありません。

[感染者従業員B] 同意見です。

[エンシオディス] それから……

[???] どけ!

[支店長] 何の騒ぎだ?

[感染者従業員?] どけ、どいてくれ!

[支店長] 確か君は最近入ったばかりの……何をしに来た。社長がいらっしゃるのが見えないのか!

[感染者従業員?] あなたがエンシオディス社長ですか? お助けください、身体がおかしくなってしまって、薬が必要なんです!

[エンシオディス] 薬ならすでに皆の手に行き渡っているだろう。

[感染者従業員?] そんな、薬なんて貰ってませんよ!

[エンシオディス] ……

[感染者従業員?] ……

[感染者従業員?] ……鉱石病の発作が起きたふりをして、シルバーアッシュ社長の前に出るだって?

[ドクター選択肢1] そうだ。彼の周りにロドスの人間がいない状況で。

[ドクター選択肢2] 身内ばかりの状況なら、態度を取り繕いはしないだろう。

[感染者従業員?] なるほど。それで彼の感染者に対する見方を確認するんだな……

[エンシオディス] ……慌てるな、大丈夫だ。

[エンシオディス] ディアット、薬を持ってこい。

[支店長] は、はいっ!

[感染者従業員?] 私が怖くないのですか……

[エンシオディス] お前はカランド貿易の従業員だ。どうして恐れる必要があるのだ?

[感染者従業員A] 社長がこれほど親切に感染者と接するなんて。こんな人は見たことがないぞ……

[エンシオディス] カランド貿易に入社した以上、皆私の従業員だ。感染者かどうかは何ら関係ない。

[エンシオディス] それよりも、この者に配布されたはずの鎮痛剤は?

[支店長] それは……あはは、そうでした。彼は新入りでして、まだ行き届いていないのです。

[エンシオディス] 嘘が下手だな、ディアット。毎回余分に仕入れているのは、こうした事態に対処するためだろう。

[感染者従業員?] 社長、ディアットさんは……従業員には鎮痛剤を一切配っておりません。ここに、その証拠があります……

[エンシオディス] ほう?

感染者の従業員は服をまさぐり、ペンのような装置を懸命に取り出して、軽くボタンを押す。すると、ディアットとライデンのバーでのやり取りが、ありのままに再生された。

[支店長] き、君、いつの間に!

[感染者従業員A] ……ディアット、このくそったれ!

[感染者従業員A] 社長、ディアットは感染者に鎮痛剤など全く配布しておりません。のみならず、鎮痛剤は業績トップの者だけに配られると言って、皆を騙していたのです!

[支店長] お前!

[感染者従業員B] おい、落ち着けよ!

[感染者従業員A] この感染者に、社長はこんなにも良くしてくださったんだぞ。こうなりゃ俺も捨て身だ!

[感染者従業員A] それだけじゃありません。彼は従業員マニュアルの条例に背いて、休憩時間を切り詰め、働かせ続けているんです!

[感染者従業員A] やり過ぎて社長に発覚するのを恐れて、ある程度加減はしていたようですが……そういうことをしているのは事実です。その辺の従業員に訊ねていただければ、すぐに分かります!

[エンシオディス] ……

[感染者従業員B] ……ちっ。

[感染者従業員B] 社長、彼の言う通りです! ディアットはいつも私たちの救世主のように振る舞って、私たちを侮辱し、奉仕するように脅してきました。こいつはろくでもない男です!

[支店長] お前ら!

[感染者従業員B] ……お前は娘のために薬を残しとかなきゃいけないんだったな……ここは私の鎮痛剤をお使いください、社長!

[エンシオディス] ……分かった。

[エンシオディス] 気持ちだけ受け取っておこう。

[エンシオディス] だが、この者の病状は相当危険だ。万一のことを考えて、ここは私に任せてくれ。

[感染者従業員A] ですが、それでは社長が危ないじゃないですか!

[エンシオディス] 私を信じろ。

[感染者従業員B] ……分かりました。社長を信じます。

[感染者従業員A] ……私も信じています! 今日のことは、一生忘れません!

[エンシオディス] さぁ、ここから離れていろ。

[感染者従業員?] (小声)これがエンシオディス・シルバーアッシュか……すごい人だ……

[支店長] しゃ、社長……

[エンシオディス] 落ち着け、ディアット。

[エンシオディス] 管理層として、自分の部下にどういった姿を見せ、逆にどういった姿は隠すべきか、お前も学ばねばならんな。

[エンシオディス] 恩恵を与えるにしろ、脅すにしろ、相手が裏切らないようにせねばならない。

[エンシオディス] 先の二人を見れば、お前の脅しが表面的にしか効いていなかったことは明らかだ。

[支店長] その……怒っていらっしゃらないのですか?

[エンシオディス] なぜ怒る必要がある?

[エンシオディス] 私の定めた規則には背いたが、お前は成果を出している。怒る理由などあるものか。

[エンシオディス] 鎮痛剤の行方には目をつむろう。私からのボーナスとでも思っておけばいい。

[感染者従業員?] ……社長、私たちを騙したのですか!

[支店長] は、ははっ、ははは! さすがは社長だ!

[支店長] そうですとも! 感染者たちは遅かれ早かれ皆死ぬのです。彼らに薬を渡して何になりましょう!

[支店長] それに貴族として、誰が真に高貴な者なのかを感染者に教え込むことも、時には必要なことです。

[支店長] 社長は他の貴族に向けたイメージ作りのために、あのロドスとかいう製薬会社と契約したのでしょう。私には分かっていましたよ!

[支店長] 今回私に甘いところがあったのは認めます。見逃していただけましたら、薬の横流しで稼いだ金額の半分をお納めいたします!

[支店長] もちろんこの件は、誰にも知られることはありません。

[エンシオディス] 半分?

[支店長] う……七割、いや、八割でいかがでしょう! わ、私にも生活がありますから、社長。

[エンシオディス] そうか。それよりも、お前一人でこんなことはできないはずだ。私を協力者たちに引き合わせてはくれないだろうか。

[エンシオディス] 私も、より効率よくロドスの薬を捌く方法を知りたいんだ。

[支店長] 社長も興味がおありで? もちろんですとも。こちらの連絡先をどうぞ。彼らを訪ねて、私の紹介だと言っていただければ!

[エンシオディス] 他の支店の者も関わっているのか?

[支店長] ええと……

[エンシオディス] この事業において、お前は私の一人目のパートナーとなる。その意味を考えてみろ。

[支店長] あ……は、はい。すみません、すぐには頭が回らなくて。こちらの備忘録をご覧いただければすぐに分かります。

[支店長] あの、もし何かなさるおつもりでしたら、どうか私も一枚噛ませてくださいませんかね。へへ……

[感染者従業員?] こんなに堂々と私の前でそんな話をして、言いふらされるのが怖くないんですか?

[支店長] 言いふらす?

[支店長] まさか、生きてここから出られると思っているのか?

[エンシオディス] 従業員を一人失うことなど、当社の規模を考えればどうということはない。

[感染者従業員?] くそっ……黙って殺されてたまるか!

[エンシオディス] 感染者は、アーツユニットの力を借りずともアーツを使うことができる。

[エンシオディス] そして、その病の感染拡大には不確実性がある。

[エンシオディス] 死後に二次感染を引き起こし、周囲の環境と人の害となる可能性もある。

[感染者従業員?] なに……

エンシオディスは従業員に歩み寄ると、通信中の端末を懐からかすめ取り、端末の向こう側にいる人物に問いかけた。

[エンシオディス] 教えてくれ。お前たち感染者が自身の権利を主張する根拠を。

[ドクター選択肢1] ここまでにしよう。

[ドクター選択肢2] 感染者が今の立場を望んだわけではないからだ。

[ドクター選択肢3] それこそが我々の目標だからだ。

[エンシオディス] ……

[エンシオディス] 実のところ私も、そろそろこの茶番劇を終わりにすべきかと考えていたところだ。

[エンシオディス] お前には感謝しなくてはならないな。

[エンシオディス] それにお前も、私に感謝すべきかもしれないな、ドクター。

[エンシオディス] ……

[エンシオディス] それはもはや時代遅れの弁護だ。

[エンシオディス] 今、私たちは過程を経験しているのではなく、何千何百年と積み重ねてきた結果の中にいるのだ。

[エンシオディス] そうやって凝り固まった結果を揺り動かすのがいかに困難か、分からないのか?

[エンシオディス] ……

[エンシオディス] まったく見通しの立たない目標を前にすれば、いわゆる努力というものは自己欺瞞と同義になる。

[エンシオディス] だが今日は、軽々しく非現実的であるという評価を下すことは保留しよう。

[エンシオディス] なぜなら、お前が私の前に現れたからだ。

[エンシオディス] ともかく、ここまでの情報は、ロドスに対するカランド貿易の誠意を示すに足りただろうか?

[ドクター選択肢1] 十分だ。

[エンシオディス] それは何よりだ。

[感染者従業員?] え……?

[支店長] 社……長?

[エンシオディス] 情報提供に感謝するぞ、ディアット。お前の言葉で、カランド貿易の名誉は挽回された。

[支店長] まさかこいつは……ロドスの人間か!?

[エンシオディス] もう少し早く気付くべきだったな。

[エンシオディス] それと残念だが、お前は解雇だ。

[支店長] まさか……私を騙していたのですか?

[支店長] な、なぜですか!?

[支店長] まさか、本当にこの感染者たちに同情しているんですか!

[エンシオディス] お前には、それについて共に議論する価値はない。

[支店長] で、ですが……成果を認めてくださったではありませんか!

[エンシオディス] 私はお前が成果を出していると言っただけだ。

[エンシオディス] まさか、私が満足のいく成果を上げられたと思っていたのか?

[エンシオディス] それは間違いだ。

[エンシオディス] 過激な手段には相応のリターンがあってしかるべきだが、お前はこのような方法を用いたにも関わらず、通常のマネジメントで得られる程度の結果しか出せていない……

[エンシオディス] それでどうして私を満足させられると思ったのだ?

[支店長] 私は……

支店長のディアットは、泥のように膝から崩れ落ちた。

[感染者従業員A] 社長、社長だ!

[エンシオディス] 感染者の従業員各位の身の安全を保障するため、私はロドスへ赴き皆のための薬と保険を購入した。

[エンシオディス] しかしながら、会社の管理上の不注意、ならびに管理層の職務怠慢により、薬を正しく各位に届けることができていなかった。この件について、私は極めて遺憾と言うほかない。

[感染者従業員A] 社長のせいではありませんよ!

[感染者従業員B] 悪いのはディアットです!

[エンシオディス] そうだ。ディアットはすでに解雇された。新しい支店長は、皆の中から選ぼうと思う。

[エンシオディス] この件を通じて、君たちが更に働きやすくなることを願っている。

[感染者従業員たち] 何だって? そりゃあいい!

[感染者従業員たち] 社長万歳!

[エンシオディス] ここで、改めて今回の立役者である二人に感謝を述べたい。

[エンシオディス] ロドスからの、二名の潜入捜査員だ。彼ら二人の勇気ある行動なくして、かねてからディアットが私に隠してきた秘密が暴かれることはなかった。

[感染者従業員A] あれって、あの新入りじゃないか……

[感染者従業員B] あいつら、俺たちの薬を作ってくれてる会社の人だったのか!?

[感染者従業員A] 感染者のために、ここまでしてくれるなんて……

[ドクター選択肢1] これはロドスの責務だ。

[ドクター選択肢2] 安心してロドスを信じてほしい。

[ドクター選択肢3] 感染者の命も等しく尊いものだ。

[エンシオディス] 薬の購入について理解を示さない者は多い。そういった無理解が、最終的には会社の方針に対する面従腹背に繋がってしまった。

[エンシオディス] こうした状況を根絶するため、私はロドスと打ち合わせの上、潜入捜査員を派遣してもらい、弊社の支店を内偵することにしたのだ。

[エンシオディス] 目的はディアットのように会社の運営に危害を及ぼし、同時にロドスのイメージをも傷つける者をあぶり出すことにあった。

[エンシオディス] その見返りとして、ロドスはカランド貿易との協力体制を深め、更に薬の価格を値下げしてくれることとなっている。

[エンシオディス] そうだな、Dr.{@nickname}。

[ドクター選択肢1] ……その通りだ。

[感染者従業員?] え? ドクター、そうだったのか!?

[エンシオディス] さらにこれから、ロドスはここで働く全従業員に無料の健康診断を実施してくれるそうだ。

[Medic] 従業員の皆さん、どうぞこちらにお並びください。これから皆さんに一セットずつ鎮痛剤をお配りします。

[エンシオディス] ……

[ドクター選択肢1] いつ気付いたんだ?

[エンシオディス] あまりにも無意味な質問だ。

[エンシオディス] 逆にこちらが聞くべきだろう。お前は本当に、私を騙す気があったのか? Dr.{@nickname}。

[ドクター選択肢1] いいや。

[エンシオディス] お前は私があの「感染者」を目にした時点で、この計画に感づかれる可能性があると承知の上だった。

[エンシオディス] だが元より、結果を問わずあの瞬間にお前の目的が果たされるようになっていた。

[エンシオディス] 私がどんな反応をし、どのような展開になろうとも、お前が負けることはない策だったのだ。本当に大した策士だ。

[ドクター選択肢1] それはどうも。

[ドクター選択肢2] すべて策の内だったわけではない。

[エンシオディス] ロドスに作戦立案と用兵に長けたリーダーが突然舞い降りたという話は耳にしていたが――

[エンシオディス] 実際に会うまで、そんな人物が自ら我が社に乗り込み、私の前でこのような茶番劇を演じるなどとは予想もしていなかった。

[ドクター選択肢1] ロドスを高く評価してくれているみたいだね。

[ドクター選択肢2] 自分はそんなに有名なのか?

[エンシオディス] 私の妹はロドスで治療を受けている。

[エンシオディス] 最も頼れる二人の部下も、私にロドスでの見聞を伝えてくれる。

[エンシオディス] 神秘のベールの一端をめくってなお、お前たちを見くびるような人間は恐らくいないだろう。

[エンシオディス] 私の妹や部下が、お前の名前を挙げたことは一度や二度には留まらない。

[エンシオディス] お前の存在を知らずにいる方が無理というものだ。

[エンシオディス] それで、改めて問いたい。私の答えに満足いただけただろうか?

[ドクター選択肢1] ああ。

[ドクター選択肢2] いいや。

[エンシオディス] 口ではそう言うが、その目は違うと語っているぞ。

[エンシオディス] なかなかの演技力だが、つまり今回はこれで手打ちにしようと言いたいのだな。

[エンシオディス] そうだろう?

[エンシオディス] 正直な人間は嫌いではない。

[エンシオディス] だが、先ほどお前は私のささやかな反撃を黙認した。

[エンシオディス] つまり我々の提携は今後も継続する、そういうことだな?

[エンシオディス] ふむ。だが、それすらも少々疑わしい。

[エンシオディス] 今回の件が、役者も、セッティングも、小道具も、すべてが欠けた茶番劇であったことは疑う余地もない。

[エンシオディス] 観客の心が弾むような演出も一切存在しなかった。

[エンシオディス] お前はそれを腹の底から分かった上で、非常に残酷なエンディングまで用意していたのだろう。

[エンシオディス] 教えてくれ。もし私がお前を失望させたらどうなっていた?

[ドクター選択肢1] ビジネスパートナーを一人失っていた、それだけだ。

[エンシオディス] それほど現実的なエンディングを見据えた茶番劇にしては、あまりにも大げさな脚本なのではないか?

[エンシオディス] 茶番劇の中心にある、エンディングを左右する核心的な要素が、お前という脚本家にとって極めて重要でない限りは、だが。

[エンシオディス] それは、すなわち私の感染者に対する考え方だ。

[エンシオディス] Dr.{@nickname}、それはお前にとって、どれほど重要なんだ?

[ドクター選択肢1] とても重要だ。

[ドクター選択肢2] パートナーは毎回慎重に選んでいる。

[エンシオディス] あの医療オペレーターの女性が、私自身の手で従業員へ薬を配布するように要求してきた時、それがお前たちの信念とは思わなかったが――

[エンシオディス] どうやら、少々認識を改めなければならないようだな……

[エンシオディス] だが、私は多くの理想主義者が、この大地のすべてについて雄弁をふるう姿を見てきた。

[エンシオディス] しかし彼らの話には、感染者という言葉だけが存在しないのだ。

[エンシオディス] それが何を意味しているか分かるか? Dr.{@nickname}。

[エンシオディス] つまり、もしお前たちが狂人でないとすれば……

[デーゲンブレヒャー] 今どこ? 時間よ。

[エンシオディス] ……すぐに行く。

[エンシオディス] どうやら今回はここまでのようだ。

[エンシオディス] Dr.{@nickname}、お前への答えは保留しておこう。

[エンシオディス] だが、もしチェスが指せるのなら、いつかロドスを訪問した際に対局できることを楽しみにしている。

[デーゲンブレヒャー] 何があったの?

[エンシオディス] なんでもない。些細なことだ。

[デーゲンブレヒャー] 些細なことがあっただけには見えないけど。

[エンシオディス] 知っているか。ロドスの新たな指導者は、記憶を失くした人間だ。

[デーゲンブレヒャー] ……? いきなり何なのよ。

[エンシオディス] その人物は、ごく短期間でロドスの皆を手懐け、さらには明確な行動方針も打ち立てたようだ。

[エンシオディス] 一人の記憶を失くした人間が、だ。

[デーゲンブレヒャー] きな臭い話ね。で、それがあなたと何の関係があるの?

[エンシオディス] まだ分からない。

[デーゲンブレヒャー] 分からない?

[エンシオディス] ああ。今はまだ、な。

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