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成長
任務に赴いたウルサスの生徒たちは、バウンティハンターの集団に遭遇。グムは仲間を守るため、自らの「習慣」を克服しようと奮闘する。
グムにはたくさんの思い出がある。
良い思い出、悪い思い出。
楽しかった思い出、悲しかった思い出。
それから、どうしても忘れられない思い出。
[男子学生] アイツらだ、あそこにいるぞ!
[男子学生] こっちだ! もう逃げ場はないはずだ……アイツら食料を持ってやがる!
[アンナ] 気を付けてください、ラーダ!
[ソニア] ちっ、虫けらどもが! アンナ、ラーダ、アタシの後ろに隠れろ!
[ソニア] なかなかの肝っ玉じゃねぇか。上等だ、来いよ。アタシの前に出る度胸があるのはどいつだ?
[ロザリン] 痛てて……またかよ。こっちはまだ腕が治りきってないってのに。
[ロザリン] おい、ソニア。どっちが多く倒せるか勝負しねーか?
[ソニア] ──くだらないこと言ってんじゃねぇ……危ない!
[ナターリア] あらあら、こんな時にぼんやりしていてはだめよ。
[ナターリア] 集中しなきゃね、将軍のお二方?
[アンナ] ふう……危なかったですね。
[アンナ] ソニア、ロザリン、背後にも気を配ってください。
[ソニア] チッ、悪ぃな。
[ロザリン] 不意打ちなんて、よっぽど死にてーらしいな!
[女子学生] うっ……怯んじゃだめよ。相手はたったの数人なんだから……
[男子学生] そうだ、多勢に無勢じゃねぇか! 全員でかかりゃ負けるはずねぇんだ! ビビってたら救援を呼ぶスキを与えちまうぞ。
[ソニア] チッ。
[ナターリア] (小声)どうするの? 確かに数じゃ圧倒的に不利よ。
[アンナ] (小声)……どうにかして突破するしかありませんね。
[女子学生] ごめんなさい。でも……私たちもほかに方法がないの。何としてでも食料を手に入れないと……
[女子学生] これ以上は無理なの……こんな所で飢え死になんてしたくないの!
[男子学生] 門を塞げ! アイツらに逃げ道を与えるな!
[男子学生] かかれ!
危ない。
危ないよ、ソニアお姉ちゃん、ロザリンお姉ちゃん……
アンナお姉ちゃん、ラーダを庇わないで。
ナターリアお姉ちゃん、ラーダのために傷つかないでよ。
危ない、危ない、危ない……!
もうお姉ちゃんたちが傷つくのを見たくない。
これ以上、お姉ちゃんたちの後ろに隠れていたくない。
ラーダだって……ラーダだってみんなを守れる。
一発でダメなら二発、それでもダメなら三発。
お姉ちゃんたちを守るためなら、ラーダは何だってできるんだ。
ラーダも全力で戦うから──
[ソニア] ゴホッ、ゴホゴホッ……ろくでなしどもめ、キリがねぇ!
[ロザリン] まさかもう限界だなんて言わねーよな?
[ロザリン] ペッ! ……くそっ、歯が一本折れちまったみてーだ。
[ソニア] オマエ──
[ナターリア] 待って、敵の数が合わないわ!
[アンナ] ソニア、危ない!!
[ソニア] ──!
[男子学生] 食い物を寄越せ!!
[男子学生] うあぁぁっ!
[男子学生] ゴフッ……ヴゥ……
[男子学生] (地面に倒れ、けいれんする)
[アンナ] ラーダ……?
[ラーダ] ……
[ラーダ] ソニアお姉ちゃんを傷つけるなんて許さない。
[ラーダ] 絶対に許さない……
[女子学生] きゃあぁ!
[女子学生] あの子、く、狂ってるわ……!
[男子学生] アンドレイの首をへし折りやがった! ヤバい、逃げろ!
[ラーダ] ラーダが……ラーダがみんなを守る……!
[ラーダ] お姉ちゃんたちを傷つけるなんて、絶対に許さない!!!
グムにはたくさんの思い出がある。
良い思い出、悪い思い出。
楽しかった思い出、悲しかった思い出。
それから、もう絶対に思い出したくない思い出。
グムは人を傷つけた。
お姉ちゃんたちを守るため? それとも自分が傷つきたくなかっただけ?
グムには分からない。
だけどグムは……グムはもう二度と誰も傷つけたくない。
......
[???] ……ム。
[???] グム?
[???] どうしてこんな所で寝ているんですか……
[イースチナ] 起きてください、グム。
[グム] う……ふわぁ……
[イースチナ] 起きてください、グム。
[イースチナ] 顔色が悪いですよ。まだ傷は痛みますか?
[グム] 悪い夢を見てたみたい……
[グム] 傷はもう全然痛くないよ。心配しないで、イースチナお姉ちゃん。グムは大丈夫だから。
[イースチナ] それならいいのですが。
[イースチナ] ……
[グム] ん? イースチナお姉ちゃん?
[グム] 黙っちゃってどうしたの? そろそろ出発? グムはいつでも出発できるよ。ズィマーお姉ちゃんとリェータお姉ちゃんは?
[イースチナ] いえ、まだ出発の時間じゃありませんから、もう少し休んでいても構いません。
[イースチナ] 彼女たちはルートの下見です。もうすぐ帰ってきますよ。
[グム] じゃあグムも手伝いに行くよ!
[イースチナ] 待ってください!
[グム] えっ?
[イースチナ] 座ってください、グム。大人しくしていてください。
[イースチナ] 傷は言うほど軽くはないでしょうし、あまり動き回ろうとしないでください。もう一度薬を塗ってあげますから。
[グム] ほんとにそんなにひどくないよ。
[グム] 本当だよ! 嘘なんかじゃないんだから!
[グム] ただ、ちょっとだけ……ほんのちょっとピリピリするだけ……
[イースチナ] 良い子だから、動かないで。
[グム] うん、分かった!
[イースチナ] ……
[イースチナ] ……傷だらけですね。
[イースチナ] 以前の傷跡は徐々に薄くなってきていますが、今日の傷は跡が残らないとも言い切れません。
[グム] 残らなかったらいいなぁ。
[グム] 医療部のお姉ちゃんたちが、とってもよく効く軟膏をくれるから、それを毎日ちゃんと塗れば、醜い傷跡だってきっと全部消えちゃうよ!
[イースチナ] そうですね。元々あった体の傷は、この一年あまりでほぼ治りましたし。
[イースチナ] ですが……
[グム] ですが?
[イースチナ] グム……さっきバウンティハンターの襲撃を受けた時、本当は負傷せずに済んだはずでしょう?
[イースチナ] どうしてすぐに倒してしまわなかったんですか?
[イースチナ] 最後の一撃の時、急に手を止めましたね。あの状況で躊躇するなんて……とても危険ですよ、グム。
[グム] でも、でもグムは……
[グム] グムにもどうしようもないの……
[イースチナ] ……グム……
[イースチナ] 実は、ジュナー教官にもあなたの習慣について尋ねられたことがあるんです。
[グム] 教官が……
[イースチナ] 怖いんでしょう、グム?
[グム] ……うん。
[グム] グムは怖いの。
[グム] 三発目は、自分をコントロールできなくなっちゃうから……
[グム] そしたら、学校でのことを思い出しちゃうし、夜中に悪夢も見ちゃうよ。ベッドライトを点けたまま寝たってダメになっちゃうんだ。
[イースチナ] それは……知っています。グムは眠れない時、絶えず寝返りを打ちますから。
[イースチナ] ズィマーも知っていますよ。ですがそれは自分自身で克服するしかないことなので、何も言わないようにしていますが……
[グム] うん……
[イースチナ] ですがグム、私たちは心配なんです。
[グム] ……
[グム] グムは頑張ってるよ……
[イースチナ] ええ、頑張っていますね。
[イースチナ] 私たちの中で一番たくましいと言っても過言ではないでしょう。
[イースチナ] グムは今ではもう、ベッドライトを点なくても眠れるようになったでしょう?
[イースチナ] まだ時々、私やズィマーの所へ来ることはありますが。
[グム] うん……
[グム] グムは頑張って成長して、悪い習慣を全部直したいの。
[グム] アーミヤとケルシー先生に聞いたんだ。グムのお父さんとお母さんは危険な仕事をしてて、会うのはとっても難しいって。
[イースチナ] ご両親を探しに行きたいのですか?
[グム] うん。でも今はまだダメなの。
[グム] グムは、お父さんとお母さんに今のグムを見せたくないの。二人に再会した時に、グムは悪い子になったって思われたくない……
[グム] だから今はまだダメなんだよ。
[イースチナ] グム……あなたは悪い子ではありませんよ。いつも私たちを守ってくれているんですから。
[グム] でも、でも──
[グム] やっぱりうまくいかないの……
[グム] 自分をコントロールできなくて、人を傷つけちゃうんだ。
[グム] イースチナお姉ちゃん、グムはどうしたらいいのかな?
[イースチナ] ……きっと解決方法はありますよ。
[イースチナ] 今すぐに変えられなかったとしても心配はいりません。私たちが側にいますから、グム。
[イースチナ] 皆がついていますから、安心してください。
[グム] ……イースチナお姉ちゃん……
[グム] うん! お姉ちゃんたちがいれば、グムは何も怖くないよ!
[イースチナ] その意気です、勇敢な小熊さん。もう怪我しないでくださいね!
[グム] 痛ててっ、つっつかないでよイースチナお姉ちゃん、痛いよぉ。
[イースチナ] やっぱり痛いんじゃないですか。痛みに後悔したなら今後は気をつけてくださいね。
[イースチナ] 薬は塗り終わりました。ズィマーたちもそろそろ帰ってくるはずですよ。
[イースチナ] 見に行ってみましょう。
[グム] うん!
[ズィマー] オマエら、ちゃんと休めたか?
[グム] ズィマーおねえちゃん、グムはもう大丈夫だよ!
[イースチナ] 傷口の処理は済みました。作戦に支障はないでしょう。
[イースチナ] そちらはどうでしたか?
[ズィマー] この先の村は様子がおかしい。静かすぎる。
[ズィマー] あのバウンティハンターどもが、また何か企んでるんだろうよ。みんな気をつけろよ。
[ロサ] こんなことになるなんて思わなかったわ。迷子の子供を探すだけの簡単な任務だったはずなのに──
[ロサ] まさかバウンティハンターに目を付けられるなんてね。
[リェータ] あ? あっちが先に喧嘩を売ってきたんじゃねぇか!
[リェータ] それに子供を二人も誘拐しやがったんだぜあのクソ野郎どもは! 子供捜しをしてんだから手を出さねーわけにはいかないだろ。
[ズィマー] その辺にしとけ。見ちまった以上放っとく道理もねぇだろ。
[ズィマー] さっきはうまく逃げられたが、次はそう簡単にはいかねぇぞ……
[イースチナ] 慎重にいきましょう。彼らは手強いですよ。
[イースチナ] 向こうは子供を人質に取っています。あまり刺激しすぎないようにしましょう。
[グム] また悪い奴が現れたら、グムがお姉ちゃんたちを守るよ!
[グム] 安心して、グムが悪い奴を全員こてんぱんにしちゃうんだから!
[ロサ] けれど、万一向こうから現れなかったらどうするの?
[グム] うーん……引きずり出す?
[ズィマー] めんどくせぇな……
[イースチナ] ……
[イースチナ] 私に考えがあります……
[グム] ごめんください──
[グム] 誰かいますかぁー?
[グム] すみませーん。
[グム] うーん。
[グム] 誰もいないみたいだね……
[ズィマー] ああ。どうやら調べても成果は得られなさそうだな。
[ズィマー] もういいだろう、帰るぞ。
[ロサ] これじゃあ完了報告ができないわ。もう一度他のオペレーターに頼んで来てもらうしかなさそうね。
[ロサ] ふぅ……次はきっと百戦錬磨の先輩たちが来るでしょうね。
[リェータ] き、きっとそうだぜ!
[リェータ] たしか、何だっけ……そうだ、超絶強くてぇ、バウンティハンターもやってた先輩で、ビ、ビルを素手で壊せるらしいぜぇ!
[イースチナ] (ため息)
[イースチナ] (小声)ロザリン、演技が下手すぎますよ……
[リェータ] (小声)こういうのは苦手なんだよ!!
[グム] 帰ろ帰ろ!
[グム] 先輩たちが絶対に悪い人たちをみーんな捕まえてくれるもん!
[ズィマー] ──!
[ズィマー] (小声)物音がした、来るぞ!
[イースチナ] グム、危ない!
[グム] ふん!
[グム] 防いだもんね!
[喋らない賞金ハンター] ……
[不機嫌な賞金ハンター] あまり首を突っ込むんじゃねぇぞ、ガキども。
[不機嫌な賞金ハンター] 後悔することになるぞ。
[リェータ] はっ、今まで後悔したことなんざ一度もねぇんだわ。腕に自信があるんなら掛かってこいよ!
[ズィマー] くだらねえ話してんじゃねぇ。
[ズィマー] おい、答えろ。ここにはオマエらしかいねぇのか?
[ズィマー] ここの村人たちをどうした。オマエらに誘拐された二人の子供は今どこにいる!
[喋らない賞金ハンター] ……
[喋らない賞金ハンター] ……
[喋らない賞金ハンター] ……
[ズィマー] ……
[グム] (小声)……全然しゃべらないね。
[イースチナ] どうやら無理矢理口を割らせるしかなさそうですね。
[リェータ] お! やっちまうか!
[ロサ] 簡単に言うけれど……模擬訓練と違うってことは、みんな分かっているわよね?
[グム] 大丈夫だよ!
[グム] グムがみんなを守るから!
[グム] うっ!
[グム] 重い……! だけど、グムは耐えられるよ!
[グム] はあっ!
[グム] それっ!
[グム] (攻撃の手を止める)
[喋らない賞金ハンター] ──!
[グム] ううっ!
[イースチナ] グム!
[ズィマー] チッ、どきやがれ!
[喋らない賞金ハンター] う……
[リェータ] くそっ、もう少しで……
[リェータ] もう少しでアタシがこのヤローを倒せたのに!
[ロサ] よそ見してちゃだめよ。
[賞金ハンター] うっ!
[グム] イースチナお姉ちゃん! グムの後ろに隠れて!
[グム] グムの守りを……突破できるなんて思わないでよね!
[イースチナ] 気を付けて、グム!
[イースチナ] 私が彼らの動きを抑えます……
[イースチナ] ズィマー、今です!
[ズィマー] ああ!
[ズィマー] チョロいもんよ。
[ロサ] 大口を叩くものじゃないわ。息が上がってるじゃない。
[グム] ズィマーお姉ちゃん!!
[グム] ケガしてるよ! も、もしかしてさっきグムを庇ってくれた時に?
[グム] グムのせいだ……
[ズィマー] うるせぇな、めそめそすんなって。
[リェータ] そうだそうだ。どう見たってコイツが油断したからだ。グムのせいなんかじゃねぇぞ!
[イースチナ] ……
[グム] でもっ……!
[ズィマー] それよりも、今は他に解決しないといけねぇことがあるだろ。
[ズィマー] おい、どうする? 残りはもうオマエだけだぞ。
[不機嫌な賞金ハンター] ……
[ズィマー] 早く答えろ。この村はどうした。それとあの二人の子供はどこだ?
[ズィマー] 言わねぇんなら──
[グム] 言わないなら、き、君の歯と髪の毛を全部引っこ抜いちゃうよ!
[ズィマー] (……そこまでする必要はねぇだろ。)
[不機嫌な賞金ハンター] ふんっ、このクソガキどもが……
[リェータ] 口には気をつけやがれ!
[不機嫌な賞金ハンター] せいぜい数人に勝ったから何だってんだ?
[不機嫌な賞金ハンター] 目的はあのガキどもか?
[グム] そうだよ!
[グム] 早く白状して!
[不機嫌な賞金ハンター] ハッ、そう簡単に言うわけねぇだろ。
[不機嫌な賞金ハンター] 残念ながら、ガキどもの行方を知っているのは俺だけだ。
[不機嫌な賞金ハンター] 俺が口を割らなけりゃ、お前らは絶対あいつらを見つけらんねぇってことだ……
[イースチナ] 隠していても、損をするだけですよ。
[ロサ] 思うに、こういう場合は、交換条件を出すものではないかしら?
[不機嫌な賞金ハンター] ……
[不機嫌な賞金ハンター] まずは俺たちを解放しろ。
[不機嫌な賞金ハンター] そうすりゃガキどもは村に連れ戻してやる。だが、それ以外の奴らについては、お前たちが関わることじゃねぇ。
[ズィマー] 言いたいことはそれだけか?
[ズィマー] 悪いが──断る。
[リェータ] てめぇよ、自分の立場がわかってんのか? なんでそっちが条件を出すんだよ!
[グム] そうだそうだ!
[不機嫌な賞金ハンター] ……
[グム] (小声)この人まで黙っちゃった……
[グム] (小声)まさか本当に死んでも言わないつもり? どうしよう……
[イースチナ] (小声)参りましたね。本当に拷問するわけにはいかないですし……
[ズィマー] もう何発かぶん殴ってやりゃいいんだ!
[グム] あ、声が大きいってば、ズィマーお姉ちゃん!
[不機嫌な賞金ハンター] ……
[不機嫌な賞金ハンター] なめやがって……
[不機嫌な賞金ハンター] ──くそったれの熊どもが!
[ロサ] 危ない!
[グム] ズィマーお姉ちゃん!
[ズィマー] あっ──!? ぐあっ……!
[ズィマー] 卑怯モンが……!
[不機嫌な賞金ハンター] 卑怯?
[不機嫌な賞金ハンター] 卑怯だろうが勝てりゃいいんだよ!
[不機嫌な賞金ハンター] 死ねぇっ!
[イースチナ] ソニア!
[グム] ──
危ない。
危ない、危ない、危ない……!
グムがみんなを守らないと。
グム、グムは絶対にみんなを──
危ない、危ない、危ない……!
ラーダは絶対にみんなを──
[不機嫌な賞金ハンター] くそっ! このガキ!
[グム] ……
[不機嫌な賞金ハンター] ゴフッ、うっ……
[グム] 許さない……
[グム] ソニアお姉ちゃんを傷つけるなんて許さない……!
[グム] もう一発……!
[ズィマー] 待て、グム! アタシは大丈夫だ、落ち着け!
[ズィマー] まだ子供たちの行方を聞き出さなきゃなんねぇんだ!
[グム] ──!
[グム] う、うう──
[不機嫌な賞金ハンター] ……
[グム] ……
[ズィマー] グム……大丈夫か?
[グム] ……
[リェータ] あーあ可哀想に、死んだか?
[ロサ] いいえ、まだ生きてるわ。
[ロサ] ……
[ロサ] ねぇロザリンさん、どうかこの方をあちらまで運んでくださいませんか? 私が止血をして、ついでに「目を覚まさせる」ので。
[リェータ] 何だよ急にかしこまって。気持ちわりーな……別にいいけどよ。
[ロサ] いいからいいから。早く来て。
[グム] ズィマーお姉ちゃん、傷口……血が出てるよ。ほ、包帯を巻いてあげるから!
[グム] ……ごめんなさい……
[グム] ごめんなさい、ズィマーお姉ちゃん、イースチナお姉ちゃん。グム……またやっちゃった……
[ズィマー] バカなこと言ってんじゃねぇ。
[ズィマー] オマエが何をやらかしたってんだ? オマエはアタシを助けてくれたんだろうが。感謝してもしきれねぇよ。
[グム] でも……
[イースチナ] ズィマーの言う通りですよ。
[イースチナ] グム、あなたは怖がりながらも、私たちを守ってくれました。
[ズィマー] その通りだ。
[ズィマー] それにな……グム。アタシはオマエの怪力っぷりを知ってる。もしオマエが本当に全力でアイツの頭をぶっ叩いてたら、アイツは今頃とっくに死んでるだろうよ。
[グム] じゃ、じゃあ、あの人は──
[ロサ] 安心して、無事よ。
[リェータ] もう一発殴って、たたき起こしてやらねーか?
[グム] 無事だったんだ……
[グム] ってことは、グ、グムはコントロールできたの?
[ズィマー] そういうことだ。
[ズィマー] 最後の一発を力任せに振り下ろしたかと思えば、相手に当たる直前で力を抑え込んだ。この目ではっきり見たぞ。
[グム] ……
[イースチナ] グム。
[イースチナ] こちらに。
[イースチナ] それからズィマーも、こちらに寄ってください。
[ロサ] 私たちは入れてくれないのかしら?
[リェータ] 一体何の遊びだ?
[ズィマー] うるせぇな、押すなよ!
まだ争いの跡が残る現場で、ウルサス学生自治団の少女たちが仲睦まじく寄り添い合う。
イースチナがグムの左手を、ズィマーが右手を取る。小熊たちは手を取り合い、額を寄せ合った。友の髪の毛が頬をくすぐっても、三人は決して離れようとしない。
グムは自分の頭を二人の頭の隙間目がけて突き出し、いつものように自分の額を仲間の額に軽くぶつけた。
それから、親しみのこもったお返しの頭突きをもらった。
[イースチナ] グム、前に言ったことを覚えていますか?
[イースチナ] あなたはよくやっています。
[イースチナ] 安心してください、皆がついていますから。
[リェータ] そうだそうだ、グムは本当によくやってるぜ! 最後に攻撃を受け止めた時なんてもう完璧だったぞ!
[ロサ] ふふ、そのうち、自分の機嫌すらコントロールできない誰かさんよりも強くなっちゃうわね。
[ズィマー] は? 誰のことを言ってやがんだ!?
[グム] プッ。
[グム] ズィマーお姉ちゃん、急に動いちゃダメ! 傷が開いちゃう!
[グム] ……
[グム] グム、グムは……
[グム] グムは本当に……コントロールできたの? 本当に、力を抑えられたの?
[ズィマー] ああ。できてたよ。
[イースチナ] さて、落ち着いたらあの人を起こして、子供たちの居場所を聞き出しましょう。
[イースチナ] 安心してください、私が白状させますから。
[イースチナ] グム、あなたは私たちだけでなく、子供たちをも救ったんですよ。
[グム] グム……コントロールできたんだ……
[グム] ……グムはやれたんだ……!
[グム] これと、それからこれも……あっ、そうだ、パンも多めに持って行こう!
[グム] ふぅ、ようやく荷造りが終わったよ。
[グム] お父さんお母さん、ラーダがもうすぐ会いに行くよ!
[グム] ケルシー先生は難しいって言うけど、やっぱり探しに行きたいの!
[グム] そうだ、ラーダね、攻撃をするたびに手を止めちゃう習慣を克服できたんだ……それに、三発目の力加減もコントロールできるようになったんだ!
[グム] もうお姉ちゃんたちを……それにお父さんとお母さんを心配させずに済むよ。
[グム] いまだに悪夢は見るけど、お姉ちゃんたちのおかげで、今はもう前みたいに怖くないんだ。
[グム] お父さんお母さん、ラーダはここで楽しく暮らしてるよ。
[グム] あ、お姉ちゃんたちに挨拶してこなきゃ。ラーダ、一人で遠出するのはこれが初めてだからね。絶対にまた帰ってくるから、ちゃんと待っててって言っておかなくちゃ。
[グム] ……ふぅ。
[グム] よし、録画はこれでOK。
[グム] ──それじゃあ出発!
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