aklib_story_フラワーパフューム(下)

ページ名:aklib_story_フラワーパフューム(下)

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フラワーパフューム

パフューマーとの会話の後、ロープはアロマに対する新たな認識と、新たな楽しみを得るのであった。


[パフューマー] ごめんなさいね、お花に必要な土の調合に夢中で、周りに全然気が付かなかったの。急に目の前に人がいたから、びっくりしちゃった……

[パフューマー] もう……私ったら。本当に恥ずかしいわ……

[ロープ] いやいや、元はと言えば勝手に入ってきたぼくが悪いんだし、気にしないで。

[パフューマー] いいえ、ロドスのみんなはここを自由に出入りしていいんだもの、あなたは悪くないよ。

[パフューマー] でも、ロープさん、来たのなら一声かけてくれればいいのに。

[ロープ] いやぁ、結構な大声で挨拶したよ? でもシーンとしてたもんだから……

[ロープ] まあ、いいや。とにかく危ないことがなくてよかった。

[パフューマー] 危ないこと?

[ロープ] あ、それはこっちの話。なんでもないから気にしないで。

[パフューマー] ええと、お気遣いありがとう。

[パフューマー] だけど療養庭園には危ないことなんてないわ。ここは来た人に安心してもらうための場所だから、安全は保障されてるわよ?

[ロープ] こっちの話だから気にしないでって言ったのに。でもそうだよね。船室の外にはセキュリティシステムが何重にも敷かれてるし、内部の人じゃなきゃ入りようがないか。

[パフューマー] ええ、そうなの。

[パフューマー] ……そういえば、ロープさんはいつ入ってきたのかしら? おかしいわね、入り口のベルは鳴らなかったわよね?

[ロープ] ベル? あぁ、入り口の方の地面に隠してあった触ったら発動するトラップのこと?

[パフューマー] そう、それ! お客さんが来た時のベルとして使ってるの。忙しくてお客さんに気付けない時があるから、クロージャさんが付けてくれたのよ。

[パフューマー] 地面に付ければお客さんが何かする必要もないし、防犯上も安心だからって。大きい音だから仕事に集中していても気付けるのよ。

[ロープ] ああ、そうだったんだ。

[ロープ] ごめん、それ、鳴らさないで入って来ちゃった。

[パフューマー] え? 鳴らさずに……?

[ロープ] うん、正体不明のトラップは動作させないのが基本だよ! 歩く時は音を立てず、壁を登る時は跡を残さず。生きるためには最低限必須のスキルだね。

[パフューマー] クロージャさんは一時間もかけて、あの装置を隠したのよ? 絶対に誰にも気付かれないって保証してくれたのに!

[パフューマー] ロープさん、すごい!

[ロープ] いやいや、それほどでも~。

[ロープ] って、あれ、待って。パフューマーさん、顔!

[パフューマー] え?

[ロープ] 泥が付いてるよ……ほら、そこ。

[パフューマー] あっ、えっ、顔?

[パフューマー] ……ここ?

[ロープ] もういいよ。ぼくが取ってあげる。

[ロープ] ほら、取れたよ。

[パフューマー] わぁ、ありがとう!

[パフューマー] ……ん?

[パフューマー] (あら、この香りの変化は……)

[ロープ] どうしたの?

[パフューマー] あっ、いえ、なんでもないわ。ありがとう。

[パフューマー] (うん……)

[パフューマー] (ちょっとだけなら、大丈夫よね?)

[パフューマー] そういえば、ロープさんは何のご用だったのかしら? ここに来るのは珍しいわね。

[パフューマー] もしかして調香に興味があるのかしら? そういうことならいつでも大歓迎よ。

[ロープ] あ……違う違う。

[パフューマー] あら、じゃあどんなご用?

[ロープ] えーっと……

[ロープ] ド、ドクターのことだよ。そう、ドクター!

[ロープ] ドクターにアロマを貰ってきてくれって頼まれたんだ。えーっと、いつも使ってるっていう、眠くなるやつ。

[パフューマー] あら? ドクターくん、また眠れなくなっちゃったの?

[ロープ] そうみたい。この前の任務の時も、あんまり元気じゃなさそうだったし。

[ロープ] (小声)それなのに隊を率いて支援に来てさ……

[パフューマー] ん? 今なんて言ったの?

[ロープ] なんでもない! 独り言だよ!

[パフューマー] ?

[パフューマー] うーん……そう? ならいいわ。

[パフューマー] ドクターくんが普段使ってるのは、たしか……ラベンダーよね? 分かったわ。

[パフューマー] もしロープさんにお時間があるなら、この培養土の調合、先に終わらせてからでいいかしら? 今は手が泥だらけで、ちょっと都合が悪いのよ。

[パフューマー] 温室内を自由に見ててくれると助かるわ。あとほんの少しだから。

[ロープ] 大丈夫だよ。じゃあ見せてもらうね。

[パフューマー] (土の調合をしている)

[ロープ] あれ、この花、小さくて可愛いね……って、あれ? どうしてこんなに一気に伸びるの!?

[パフューマー] (土の調合をしている)

[ロープ] うわ、ビックリした……

[ロープ] 温室って本当にいろんな花があるんだね……

[パフューマー] (ひたすら土の調合をしている)

[ロープ] うん? これは……香料? うわぁ、いい香り。って、えぇ?

[ロープ] ハ……ハ……ハ――クシュン!

[パフューマー] プッ。

[ロープ] え?

[パフューマー] コホンコホンッ。

[ロープ] クシュンッ……クシュンッ――うぅ……。

[パフューマー] ロープさん、大丈夫?

[ロープ] だ、大丈夫……ハクシュン!

[パフューマー] 無理しちゃダメよ。あの花と香料は調香に使う材料なの。完成した調香品と比べると、刺激が強くてバランスも取れてないの……

[ロープ] ちょっとどころじゃないみたいだよ、ハ……ハクシュン!

[ロープ] なんだか鼻が変になりそう……毎日こんなのたくさん相手にして、しかもこの匂いをあんなにいい香りにできちゃうなんて、パフューマーさんって本当にすごいなあ。

[パフューマー] 大げさね。そうだわ、あちらのテーブルに緑の小瓶があるでしょ? もし鼻が変なら、ちょっと開けて嗅いでみるといいわ。きっと楽になるはずよ。

[ロープ] おぉ――! ありがと!

[ロープ] どれどれ、緑色、緑色、と……クシュン! あった!!

[ロープ] わぁ、これもいい香りだぁ。

[パフューマー] 気に入ってもらえたならよかったわ。どう? 少しは良くなった?

[ロープ] あっ。

[ロープ] 本当にクシャミが出なくなったよ。

[ロープ] これすごい! パフューマーさんって本当にすごいね!

[パフューマー] フフッ、そういう反応するってことは、アロマの効果なんてほんの気休め程度か、そもそも効果なんかない単なる贅沢品って、思ってたんじゃない?

[ロープ] ……えーっと。

[ロープ] そ、そんなことは……

[パフューマー] いいのよ、気にしてないわ。

[パフューマー] 最初はみんなそういう誤解をしてるから、よくあることよ。香りや調香は普段あまり関わりのない分野だもの。ロープさんがそう思うのも無理はないわ。

[パフューマー] どうすればみんなにちゃんと理解してもらえるかよりも、まずはどうすれば理解しようとしてもらえるか。それが私が考えねばならないことなのよ。興味を持ってもらわなければ始まらないもの。

[ロープ] うーん、なんて言うか。

[ロープ] 確かに香りや調香のことはよく分からないけど……でも今の話を聞いて、パフューマーさんの仕事がとても大事だってことは分かったよ。

[ロープ] ドクターもケルシー先生も、調香はいいものだって言ってたしね。だからみんなにもきっと間違いなく伝わるよ。

[パフューマー] えっ……ドクターくんとケルシー先生が?

[ロープ] そうだよ、二人が何回も言ってるの聞いてるもん。

[ロープ] 「ラナのアロマは先導治療や回復分野において非常に利点がある」みたいな。

[ロープ] それに、実際にたくさんのオペレーターがここに来るんでしょ? 温室から離れたくないってダダをこねるやつもいるとか聞いたよ?

[パフューマー] 確かに……いるわね。

[パフューマー] そのせいで、最近わざわざベッドを増やしたのよ? さすがにもうスペースが足りないのよね。

[パフューマー] このままだとケルシー先生に申請して、温室をもっと広くしてもらわないといけないわ。

[ロープ] ……ほら。

[ロープ] それって、たくさんの人が、調香の良さを分かり始めてるってことでしょ?

[ロープ] それに、よく分かんないからって、それが役に立たないなんて誰も言えないでしょ?

[パフューマー] ……

[パフューマー] ……フフッ。

[ロープ] え、笑われるようなこと言ったかな?

[ロープ] パフューマーさん?

[パフューマー] フフッ、ごめんなさい。なんだか嬉しくって。

[ロープ] ??

[パフューマー] 気にしないで。それにもしよければ、私のことは直接ラナって呼んでくれて構わないわ。

[ロープ] えっ、あっ、それは……

[パフューマー] いいのよ、私もロープちゃんって呼ぶから。

[ロープ] え? ちゃん?

[ロープ] いや、まあ、いいけど……

[パフューマー] フフッ、じゃあ決まりね。ロープちゃん?

[ロープ] (ええええ、どういうこと? なんでこんなことになってるの?)

[ロープ] (パフューマーさんって、こんな人だったの?)

[ロープ] えーっと。

[ロープ] あの……パフューマーさん?

[パフューマー] えっ?

[ロープ] えーっと、その……ラ、ラナ?

[パフューマー] はい、何かしら?

[ロープ] ……意外と強情だねって言われない?

[パフューマー] 言われないわよ? どうして?

[ロープ] 本当に?

[ロープ] まあ、いっか……

[パフューマー] ふぅ、これで培養土はできたわ。

[パフューマー] 手を洗ってくるから、少し待ってて。

[ロープ] これ? さっきと同じ土にしか見えないけど。そりゃ調合しても土は土だよねぇ。

[パフューマー] これは花の種を育てるための土なの。見た目はともかく、中の成分配合がちょっと特殊なのよ。

[ロープ] 花の種?

[パフューマー] そうよ。グロリアの治療が新しい段階に入ったの。特殊な草花が必要で、土への要求も段違いに高いのよね。

[ロープ] へえ、そうなんだ。

[パフューマー] 実は、これまで何回か育ててみたことはあるんだけど、あまり上手くいかなかったの。今回は新しい配合を試してみて、土の比率と栄養に問題がないか見てみようと思ってるのよ……

[ロープ] そうなんだ?

[パフューマー] もし栄養だけの問題なら簡単に解決できるけど、植物の成長に必要なのは栄養だけじゃないこともあるのよね。これがなんとも難しいところなのよ。

[パフューマー] 今回こそは成功してほしいわ。実は、結構自信があるのよね。

[ロープ] 聞くだけで大変そうだね。調香って言うのはもっとこう、優雅なものだと思ってた。

[ロープ] なんて言うか、見た目からしてきれいでエレガント、近くに行ったらいい匂いがして、手も足もすごく繊細なお姉さんがしてるイメージ。

[パフューマー] あら、それは褒めてくれてるかしら?

[ロープ] そう……だね。

[パフューマー] ありがとうね~。でも私はきれいでエレガントよりも、土にまみれて仕事をするのが楽しいのよ。

[ロープ] それは、顔に泥が付いてた時点で分かってたから。

[パフューマー] フフ、まだそのことでからかってるの?

[パフューマー] ところでドクターくんに頼まれたアロマだったっけ? ちょっと探してくるね。

[パフューマー] 確かここに……ラベンダー、ラベンダー……あっ、あった。

[ロープ] そうそう、こんな小瓶!

[パフューマー] はい、どうぞ。

[パフューマー] これ実はとっても人気があるの。たくさんのオペレーターが寝る前に使ってくれてるの。

[ロープ] おぉ~、ラベルも綺麗なんだね。それに効果も抜群だなんて、ぼくの経験上、高価なお宝と見た!

[パフューマー] そんなに高価なものじゃないわ。これはロドス内部専用の非売品だから見慣れてないだけ。

[パフューマー] そうだ、ロープちゃんもなにか試してみない?

[ロープ] え? 何を?

[パフューマー] もちろんアロマよ。こうやって希釈して瓶詰めしたオイルは、携帯しやすいし、ちょっとしたリラックス効果もあるのよ。好きな時に使えるし、もしかしたら新しいトレンドになっちゃうかも!

[パフューマー] ロープちゃんみたいな若くてきれいな女の子が使うにはこれ以上ないほどピッタリよ! 似合いそうな、気に入ってくれそうな香りを一緒に考えましょう?

[ロープ] 待って、ちょっと待ってよ。

[ロープ] こんなにたくさんの瓶を取り出されても、ちょ、ちょっと!

[ロープ] ラナ!?

[パフューマー] あら、ロープちゃん? どうして後ろに下がるのよ、鉤縄まで取り出して?

[パフューマー] 似合いそうなアロマを選んであげるだけじゃない。何も悪いことはしないわよ~。

[ロープ] ひぃ、身の危険を感じるよ!

[パフューマー] それは考え過ぎよ。

[ロープ] ……本当に?

[パフューマー] 本当よ?

[ロープ] ……考え過ぎじゃないよ!! うわあ!!

[ロープ] フゥ、フゥ。

[パフューマー] よかった……ロープちゃんには、やっぱり香りが似合うわ。

[ロープ] どこが似合うの!?

[ロープ] 体に匂いが残るのはマズいよ……いろんな意味で!

[パフューマー] そう?

[パフューマー] んー、ロープちゃんが嫌がるなら、無理にとは言わないけど。

[パフューマー] でも、本当に似合いそうなんだけどな……

[ロープ] ……

[ロープ] ……あああ、もう、わかったよ!

[ロープ] 使う! 使えばいいんでしょ!

[パフューマー] !

[ロープ] なんでこうなっちゃったんだろ? ……はぁ。

[ロープ] もう、じゃあ、ドクターのアロマは持ってくね。

[ロープ] あ、そうだ。

[ロープ] 忘れるとこだった。

[ロープ] ラナっていつも種を持ち歩いてるんだね。はい、これ。

[パフューマー] あら。

[パフューマー] もう返してくれるの? 思ってたよりも早いわね、もうしばらくかかると思ってたわ……

[ロープ] え? 待って、何言ってるの?

[ロープ] その言い方、もしかしてラナは、ぼくがそれを取ったの知ってた?

[パフューマー] フフッ、私は鼻がよく利くのよ? 位置が少し変わっただけでも香りでわかるわ。

[ロープ] ……うぅ。

[ロープ] ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい! わざとじゃないんだ!

[ロープ] そ、その、悪い癖が出ちゃって……ううっ。

[パフューマー] フフッ、大丈夫よ? 責めたりはしないわ。

[ロープ] え?

[パフューマー] うん……実は、もっと準備しておこうと思ってたから。

[ロープ] え? 準備?

[ロープ] 何の準備? 通報? 通報してぼくを捕まえるつもりだった? うわああああ――

[パフューマー] ロープちゃん、落ち着いて!?

[パフューマー] 落ち着いて、いい? 落ち着くのよ。通報はしないし、誰も捕まえに来ないから!

[ロープ] ううう、本当?

[パフューマー] 本当よ、安心して。

[ロープ] ううううっ、ラナはいい人だね――

[パフューマー] 涙、一滴も出てないわよ?

[ロープ] えへ、バレちゃった。

[ロープ] 過ぎたことは終わりにしようよ! とりあえずラナは何を準備しようとしてたのか教えて?

[パフューマー] あぁ、それは……

[パフューマー] ロープちゃんが持って行ったそれは、花の種よ。

[ロープ] 花の、種?

[パフューマー] そう。もともとこの種に合わせて土を調合するつもりだったの。

[ロープ] この花の種は、高価なの?

[パフューマー] そんなことないわ。

[ロープ] じゃあ珍しいとか?

[パフューマー] 別に珍しくもないわ。

[パフューマー] その辺でもよく見かける普通の品種だけれど、心を込めて育てればきれいな花が咲くの。調香にもピッタリな花よ。

[パフューマー] ほら、どんな種でも土の中から芽を出してきれいな花を咲かせ、いつかは土に還るの。

[ロープ] ……

[パフューマー] ロープちゃんが種を返しに来てくれる時に、それを植えてもらおうと思ってたの。

[ロープ] ぼくが……自分で?

[パフューマー] そうよ? それで花が咲いたら、ロープちゃんのためにその花でアロマを作ってあげるわ。

[ロープ] え? ぼくのために、アロマを?

[ロープ] でも、どうして?

[パフューマー] こういうのに、理由が必要なのかしら? うーん……

[パフューマー] きっと、ずっと前から、ロープちゃんにはアロマが似合うって思ってたからかな?

[ロープ] フン~フフン~フフフン~。

[ロープ] 朝露、ミント、スムージー♪

[ロープ] あれ? ドクター、まだ戦闘報告の処理やってたの?

[ロープ] この前はありがとう。本当に死んじゃうかと思ったけど、まさかドクターがとっくに打開策を整えてたなんてね。

[ロープ] でも支援部隊と一緒に来なくてもよかったんじゃない? さすがに危険過ぎるよ。

[ドクター選択肢1] オペレーターの安全を確保する必要があった。

[ロープ] まぁ、本当にヤバい時には、ぼくがドクターを引っ張って一緒に逃げるけどね。

[ロープ] あっ、そうだ……はい、これ。ドクターが使ってるアロマってこれだよね?

[ロープ] えーっと、これをドクターに渡すようにって、パフューマーさん……違う、ラナに頼まれたんだ。

[ドクター選択肢1] なんだか嬉しそう。

[ドクター選択肢2] なんだかいつもと違う。

[ロープ] そうかな? でも、そんなわかりやすかった?

[ロープ] 実はいいことがあったんだよ~。

[ロープ] ドクターにこっそり教えてあげる。あのね、ぼくが自分で植えた花がもうすぐ咲くんだよ?

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