aklib_story_暗闇の生還

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暗闇の生還

凶悪な採掘場の主の「牙」に狙われながらも、仲間を全員無事に帰還させる――そんなかつての「英雄譚」を、レオンハルトは友人たちに語り聞かせた。


[くたびれた労働者] 東部エリア31、32には鉱物反応なし。エリア30に鉱脈らしき反応、あり……

[臆病な労働者] おい……どうした? 大丈夫か。

[くたびれた労働者] いや、平気だ。少しクラッとしただけで……

[怒れる労働者] ふん、過労がたたったんだろ?

[怒れる労働者] キューウェルの*レム・ビリトンスラング*野郎、俺たちを臼引きの駄獣みたくこき使いやがって!

[怒れる労働者] なぁみんな、このまま奴らのためにタダ働きする気か? 頭数からしたら分はこっちにあるんだ! いっそこのツルハシで一丁やってやろうじゃねぇか!

[臆病な労働者] シッ! 頼むから声を落としてくれ。奴の手下がまだ近くにいるんだぞ。

[臆病な労働者] 聞かれたらそれこそタダじゃ済まないって!

[くたびれた労働者] ああ、そうさ。俺なら平気だ。構わないでくれ……まだ、やれるから……

[クルーズ] ……ここは俺に任せて、レオンハルトさんのところで休んできたらどうです? 彼も何か手伝いを必要としてるかもしれませんし、様子を見てきてくれませんか。

[怒れる労働者] ふん、あの天災トランスポーターの野郎、呑気なもんだぜ!

[怒れる労働者] 俺たちが拉致されたのも、八割方は奴のせいだってのによ!

[採掘場の用心棒] おいお前たち、何をしている? サボるんじゃない!

[くたびれた労働者] いえ、ですが……

[採掘場の用心棒] ですがもへったくれもない! 自分たちの立場が分からんのか!

[採掘場の用心棒] 人質の分際で口答えするな!

[レオンハルト] まあまあ、そうカッカしないで。

[レオンハルト] 少し考えてごらん?

[レオンハルト] もし君が労働者で、ある日、突然鉱石みたいにコンテナに押し込まれて、有無言わさずに危険な天災区域に引っ張り出された挙句、毎日毎日岩をぶっ叩く作業を押し付けられたとしたら――

[レオンハルト] どう? 想像しただけでもしんどいと思わない? 話す気力も湧かないくらいに。

[レオンハルト] だからさ、少しくらいは休憩も与えるべきだと思うよ。まずは体力を回復させないと、このままじゃ君たちのために働くことだってままならないしね!

[採掘場の用心棒] ……

[レオンハルト] んー……それか、こういうのはどうかな。俺が鉱脈の有無を先に探査しておくから、途中で何か発見があったら、すぐ他のみんなを呼んで――

[採掘場の用心棒] もういい。ガキめ、口八丁でごまかせると思うなよ。

[採掘場の用心棒] 鉱区の所有権争奪はスピードにかかってるんだぞ。天災後は、他の企業どもも血眼で露出した鉱脈を探してんだからな。

[採掘場の用心棒] そんな見え透いた企みを見破れない俺だと思ったか? もたもたさせたら「コーンドリル」の連中が来ちまうだろうが! せっかく出し抜けてやったのに、みすみす鉱脈の情報を渡してたまるかよ!

[ハニーベリー] 待ってください。拉致されたのはキューウェルって人のせいなんですよね? なのにどうして労働者の皆さんは、レオンハルトさんに責任があるだなんて……

[レオンハルト] まあ、民衆の怒りを引き受けるのも俺たち天災トランスポーターの務めだからね。

[レオンハルト] それにキューウェルの手下を止められなかったのは事実だし……みんなが不満を持つのも理解できるよ……

[クルース] ん~? でもぉ、レオンハルトはずっとその人たちの手伝いをしてたんだよねぇ?

[レオンハルト] いや、彼らとの付き合いはそんなに長くないよ……俺の言うことなんかよりも、クルーズの言うことを信じたいのは当然だね。

[クルース] うーん、そのクルーズって名前、何だか聞き覚えがあるねぇ。

[ハニーベリー] 確か以前、感謝状を頂いたことがあったような……レオンハルトさんがお読みになってましたよね?

[レオンハルト] え? あははっ……みんなにも読んだんだっけ?

[イースチナ] ええ、そうでしたね。私も印象に残っています。

[レオンハルト] そっかー……読み聞かせたのは医療部のお姉さんたちだけだと思ってた……

[イースチナ] 彼からの手紙だけでなく、他の方のも読み上げてましたよ。あれだけあっちこっちで読まれてますから、具体的に誰のを読んだのか覚えていなくとも不思議ではないでしょう。

[レオンハルト] ……

[ハニーベリー] ええと、それで、そのクルーズという方のお名前が、さっきから何度もお話に出てきているみたいですが……まさか、実はその人が黒幕とか?

[クルース] ええ~? それはないかなぁ。クルーズさんは、きっと良い人だと思うよぉ~。

[イースチナ] 小説的視点から切り込めば、それほどに出番の多いキャラクターは悪役である可能性も無論ありますが、主人公の行動にプラスの影響を与えるキーパーソンとしての役割も十分考えられますね。

[イースチナ] これまでの内容から読み取れるのは、クルーズさんという方はこの事件において重要人物であるということだけです。

[レオンハルト] ちょっとちょっと! どうなってんの? 俺の「英雄譚」を話してるのに、何でみんなクルーズにばっか注目しちゃうのかなぁ?

[レオンハルト] ……あっ。あっちにいるのって……おーい、エアース!

[レオンハルト] エアースってば! こっちこっち!

[エアースカーペ] 大声を出すな、レオンハルト。

[エアースカーペ] やっぱりいたのか。食堂の近くを通っただけでも聞こえてきたぞ。ベラベラと「英雄譚」とやらを語るアンタの声がな。

[エアースカーペ] 拉致された時もそんな調子だったなら、キューウェルの奴に容赦なく始末されてただろうな。

[ハニーベリー] キューウェル? つまり、今までの話は全部本当に現実で起きたことだったんですか? エアースカーペさん。

[エアースカーペ] ……今までの話というのをすべて聞いたわけじゃないから、全部本当とは断言できない。

[イースチナ] 良かったらこの席どうぞ。私はそろそろ戻ります。ソニアに本を渡さないといけないので。

[ハニーベリー] じゃあわたしとクルースさんも……

[レオンハルト] え、ちょっと! 行かないでよみんな、まだ話は終わってないんだから!

[レオンハルト] ……

[くたびれた労働者] レオンハルトさん、何か手伝いましょうか?

[レオンハルト] え? あー、じゃあこれを持って、そっちに座って休んでなよ。ついでにこの辺の壁に、ひと目でわかるような亀裂が入ってるところでも見かけたら教えて。

[くたびれた労働者] 休む、ですか? ……さっきの話、あなたも聞いてたでしょう……

[レオンハルト] うん、聞いてたよ。俺の心配してくれてるの? 大丈夫だよ。俺は天災トランスポーターだから、見かけよりも結構タフなんだ。

[レオンハルト] キューウェルの手下が難癖付けてきたら、俺の指図だって言えばいいよ。

[レオンハルト] いいから休んでなって。そんなに無理をしてたら、肺病がもっとひどくなっちゃうよ。

[くたびれた労働者] ……

[くたびれた労働者] ……すみません……ありがとうございます、レオンハルトさん。

[くたびれた労働者] レム・ビリトンの子供たちが皆、あなたのように育ってくれたら、俺たちの世代の苦労も無駄にならずに済むというもの。

[くたびれた労働者] あの凄腕のエアースカーペさんも……一見取っ付きにくそうに見えますが、俺には分かります。あの方は、他の護衛を生業とする者とは違う。

[くたびれた労働者] 前に俺が採掘隊とはぐれそうになった時……彼はすぐ俺の病気に気づいて、代わりに荷物を運ぶと言ってくれたんです……

[くたびれた労働者] この肺は……何年も前にやっちまったんです。けど俺は採掘以外に何もできないもんですから、ただひたすら我慢するよりほかに方法がなかったんです……

[くたびれた労働者] 使えない奴だと思われたくなくて、クルーズ以外にはこの病気のことを話してないんですが……

[レオンハルト] おじさん、実はね、俺とエアースは採掘船で育ったも同然なんだ。

[レオンハルト] どこから話そうかな……

[レオンハルト] そうだ。これ、見たことある? キューウェルが俺たちの野営地に火をつける前に、俺が持ち出してきたんだけど……

[くたびれた労働者] それは……たしかエアースカーペさんの?

[レオンハルト] そうそう。あいつが枝豆入れるのに使ってたケースだよ。

[くたびれた労働者] 枝豆?

[レオンハルト] そ、笑っちゃうでしょ? いっつもあんなしかめっ面のくせに、実は枝豆が大好物なんだよあいつ……

[レオンハルト] 俺たちがまだ小さい頃、採掘場で肺病を患ったおじいさんと出会ってね。

[レオンハルト] そのおじいさん、採掘の仕事ができなくなっちゃって、その近くで露店をやって暮らしてたんだ。煙を吸っちゃ良くないってんで、塩茹でした枝豆なんかをおつまみとして売ってたりしてさ。

[レオンハルト] 俺たち子供には、いつも好きなだけ枝豆を食べさせてくれたんだ!

[レオンハルト] 大人になってから振り返ってみるとわかるんだけど、おじいさん、ほとんど儲からなかったんだろうなって……

[レオンハルト] 俺とエアースにとって、労働者の人たちはみんな家族っていうか……うーん……少なくとも、すごく仲の良いご近所さんみたいなもんなんだよ!

[くたびれた労働者] レオンハルトさん……

[臆病な労働者] た、大変だ! レオンハルトさん!

[レオンハルト] ん? どうした?

[臆病な労働者] ルカがキューウェルの手下に連れて行かれそうになってるんだ! 今クルーズが足止めをしてる!

[ハニーベリー] ちょっと待ってください! また急に新しい人が出てきましたね……ルカって誰なんです?

[クルース] ルカは~、多分、あの怒りっぽい人のことじゃないかな~?

[ハニーベリー] え? つまり、皆さんが相談していた内容を用心棒の人たちに聞かれちゃってたってことですか……

[レオンハルト] 具体的な経緯は俺もよく知らないんだけどね……とにかく俺が駆け付けた時、クルーズは袋叩きにされてるところだった。

[イースチナ] ルカさんが連れて行かれるのを止めただけで?

[レオンハルト] 「見せしめ」にしたかったんだろうね。キューウェルの奴、誰かのために体を張るようなタイプが一番嫌いらしい。

[ルカ] ……

[ルカ] あんたのこと、あんだけ散々言ったのに、それでも俺を助けてくれるなんて……まったく、恥ずかしいぜ……

[レオンハルト] いいってことよ。労働者一人を見逃すだけで、資源豊富な鉱脈まで案内してもらえる。こんなお得な取引、キューウェルが拒むはずもないからね。

[レオンハルト] それに、俺よりもクルーズに感謝した方がいいと思うよ。君のために危険を顧みず、あんなに大勢の凶悪な面構えの奴らに立ち向かったんだから……

[ルカ] ああ……

[ルカ] クルーズは……どうしてる?

[レオンハルト] それが、まだ目が覚めてないんだ。

[レオンハルト] 腕が折れてて、全身傷だらけだからね……幸い致命傷は負ってないみたいだけど。

[ルカ] クソッ……キューウェルの奴ら……!

[臆病な労働者] ルカ! いい加減突っ走るのはやめてくれよ! まだ一応無事に帰れる可能性は残ってるんだから……

[臆病な労働者] もし奴らを本気で怒らせたら、それこそ誰一人ここから出られなくなる!

[臆病な労働者] 皆、ひょっとして知らないのか? キューウェルの護衛の女のうわさ……

[臆病な労働者] そいつは元暗殺者で、残虐非道な奴らしい……以前とある自治州で開かれたオークションで、命知らずの若い企業家がキューウェルに競りを挑んだんだが……

[臆病な労働者] 公衆の面前で、その護衛に両腕を斬り落とされたって話だ。

[ルカ] ……

[レオンハルト] ……

[レオンハルト] そんな凄い人が、どうしてキューウェルの言いなりになってるんだろう?

[臆病な労働者] 家族や友人がキューウェル鉱業で働いてるとか……おそらく、その弱みにつけこんで脅迫してるんだろうな……

[臆病な労働者] キューウェルは疑り深い。手下は完全にコントロールしないと気が済まない……採掘場にいる用心棒たちも、おそらくは似た境遇だ。

[レオンハルト] でも変だよね。今んとこ、あいつの周りでそれらしき女性は見たこともないけど……

[臆病な労働者] ……闇に隠れて、俺たちの様子をうかがってるんじゃ。

[ルカ] 正直、エアースカーペさんのことを知らなかったら、そんな護衛の話なんて嘘っぱちだと思ってただろうぜ。

[ルカ] 何人もの敵を相手に一人で大立ち回りするところをこの目で見るまでは、世の中にあんな凄腕の人もいるだなんて信じてなかった……だからまあ、そんな人がキューウェル側にいても不思議はねぇな。

[臆病な労働者] もしその二人がかち合ったら、一体どうなるんだろう……姑息な手段でいえば、その女の方が一枚上手な気もするが……

[レオンハルト] ……

[エアースカーペ] ……

[エアースカーペ] レオンハルト、アンタは俺を甘く見過ぎじゃないのか。

[ハニーベリー] そうなると、もうどうにもならないじゃないですか!

[ハニーベリー] 相手が本当にエアースカーペさんでも勝てないような人だったら……

[ハニーベリー] 皆さんはもう、そのキューウェルって人の「処断」をただ待ってるしかないんですか……

[イースチナ] ここは主人公が……つまりレオンハルトさんが、この難局をどう打開していくのかを、見守るしかないかもしれませんね。

[レオンハルト] いやー、注目して欲しいポイントはそこじゃないんだ……女護衛は結局姿を現さなかったし、噂だけの「幽霊」みたいな存在さ。それよりも、そのあと坑道でもっと驚くべきものを見つけたんだよね。

[ハニーベリー] 何ですか? 一体どんなものを見つけたんですか?

[レオンハルト] 爆薬さ。

[レオンハルト] キューウェルの奴は、「コーンドリル」の人たちが助けに来るのを見計らって、俺たち全員をまとめて吹っ飛ばす算段だったんだ。

[レオンハルト] 仮に用心棒は一人残らず伸せられても、果たして爆薬の処理まで手が回ったかな? エアース?

[エアースカーペ] ふん。

[ハニーベリー] ううっ……

[ハニーベリー] 何だか続きを聞くのが怖くなってしまいました……

[クルース] スゥー……スピー……

[ハニーベリー] クルースさん……

[ハニーベリー] クルースさん?

[ハニーベリー] ……

[ハニーベリー] 寝ちゃってますね。

[イースチナ] 寝かせてあげましょう。「クライマックス」が来るまでまだ時間がかかりそうですし。

[レオンハルト] え、ウソ、この話で退屈するポイントなんてどこにもないじゃん!

[レオンハルト] この後、裸同然の労働者たちが、凶悪極まりない採掘場の主と大勢の用心棒たちを相手に、体を張って立ち向かうんだよ? そして……

[レオンハルト] 彼らに勇気づけられた天災トランスポーターは、巨大な危機の中に飛び込み、自身の力だけを頼って悪人との決戦に臨むんだ!

[イースチナ] ふわあ~……

[レオンハルト] ちょっとイースチナさん! 見間違いじゃなければ君いま……ものすごーく大きなあくびしなかった?

[イースチナ] はっ! すみません、つい……夕飯を食べ過ぎてしまったせいか、眠気が……

[エアースカーペ] フッ……

[エアースカーペ] レオンハルト、そのくらいで勘弁してあげたらどうだ。

[エアースカーペ] 普段俺を苦しめてる分だけじゃもう足りないのか?

[レオンハルト] ……

[イースチナ] それで、レオンハルトさん。爆薬の件は結局どうやって解決したんですか?

[エアースカーペ] 派手な爆発を起こしたんだろ。

[レオンハルト] ちょ、何勝手にネタバレしてんの、エアース! まだそこまで話してないのに! 大事なとこなんだから勝手にすっ飛ばさないでよ!

[レオンハルト] うん……起爆信号の発信位置はこの辺のはず……

[レオンハルト] これで二十六個目だ。このエリアにはまだ……

[クルーズ] ……

[クルーズ] レオンハルトさん……

[レオンハルト] あっ、目が覚めた? まだどこか痛みがひどいところはある?

[クルーズ] だいぶ良くなりました。ただ手がまだ少し……レオンハルトさん、俺なんかにここまでしてくれなくても良かったのに。

[レオンハルト] ああ、動かしちゃダメ。さっき診た感じだと、その腕はたぶん骨折に間違いないからさ。

[クルーズ] ……あの、そこで山積みになってるのは何ですか?

[レオンハルト] ん? ああ、これ……天災活動の探査に使う発信器だよ。

[クルーズ] ……

[クルーズ] レオンハルトさん、俺はむかし工兵をやってたんです。記憶が確かであれば、そこにあるのは全部……爆薬の起爆装置のはずです。

[レオンハルト] ……

[クルーズ] キューウェルの仕込みですか?

[レオンハルト] 多分ね。ざっと調べた感じ、この坑道には少なくとも七、八十個は仕掛けられてるみたい。この洞窟全体を、中にいる俺たちごと吹っ飛ばすには十分な量だ。

[クルーズ] 接触式の爆薬じゃなかったのが、不幸中の幸いですね……

[クルーズ] 手伝いますよ。爆薬の除去なら前にも……

[レオンハルト] その手じゃ、さすがに厳しいでしょ?

[レオンハルト] まあ、見てなって。

[クルーズ] それは……アーツですか?

[クルーズ] この距離から正確に起爆装置だけを狙い撃ちにできるなんて……

[レオンハルト] これなら人目につかないから、疑われることはまずない。

[レオンハルト] 一方、君がコソコソと何かをいじってるところをあいつらに見られでもしたら、直接起爆スイッチを押されてみんなオシマイ、っていうのもあり得るんだよね。

[レオンハルト] さて、それじゃもう皆のところに戻ってなよ。もうすぐ会社から助けが来るはずだからさ。

[クルーズ] ですが……

[クルーズ] レオンハルトさん……

[クルーズ] 助けなんて、本当に、来るのでしょうか?

[レオンハルト] ……

[クルーズ] ここにいる労働者のほとんどは、「コーンドリル」とは短期契約を結んだだけの関係に過ぎません……

[クルーズ] 皆、ただなんとか食いつなげたいってだけなのに、続けざまにこんな目に遭うだなんて……天災も起きるし、企業間の汚い競争にも巻き込まれて……

[クルーズ] それに……正直言うと、この採掘隊のメンバーは、大半が給料の支払いを延滞されてるんです。

[クルーズ] 債権者である俺たちが、天災によっていなくなり、しかもその責任を同業他社に押し付けられる……

[クルーズ] お偉いさん方には願ってもない展開だと思いませんか?

[レオンハルト] まあそう重く考えんなって。経験豊富な天災トランスポーターのこの俺がついてるんだ……必ず、みんなを無事に帰す方法を見つけてみせるから!

[クルーズ] ……

[レオンハルト] じゃあこうしよう、クルーズ。実はひとつ作戦があるんだけど、君が協力してくれるなら格段やりやすい。

[レオンハルト] 用心棒たちはまだ君が気を失ったままだと思ってるから、この役目は君にうってつけってわけだ。

[クルーズ] ど、どんな作戦ですか? 何でも言ってください。

[レオンハルト] ここへ来た道は覚えてるよね?

[レオンハルト] 俺があいつらを引き付けておくから、その間に君は来た道をそのまま戻って。

[レオンハルト] 洞窟の入り口まで行けたら、そこで待機してて。エアースの到着まで待てば助かるはずだよ。

[レオンハルト] その時にこれを……あいつに渡してほしいんだ。

[クルーズ] ……これは、レオンハルトさんの上着? この血は……どこかお怪我されたんですか?

[レオンハルト] 大丈夫、大した傷じゃない。

[レオンハルト] そうだ、もう一つお願いがある。伝言を預かってくれ……

[レオンハルト] 「エアース、来ちゃダメだ。契約はもういいから、あとのことは俺に任せてくれ」ってね。

[ハニーベリー] ……

[イースチナ] ……

[ハニーベリー] ……レオンハルトさんがそんなセリフを言ってるところ、全然想像がつきません。

[レオンハルト] 結果から言えば、労働者たちは全員無事に救出できたんだからね。ああ言えたのも自信があってこそだよ!

[ハニーベリー] じゃあ、さっき話に出てきた爆発っていうのは……

[レオンハルト] へへん、それこそが俺の天才的作戦なのさ!

[レオンハルト] 前に用心棒たちが話してたのを偶然聞いちゃってね。キューウェルが俺をさらったのは、あいつが雇ってた天災トランスポーターがトラブルに遭って亡くなったからだって。

[レオンハルト] 奴は何としてでも鉱区を先に占領したいと躍起になってた……けど限られた時間であの一帯の天災事情に詳しい人間を探すってなった時、候補は「コーンドリル」にいた俺くらいしかいないと来た……

[レオンハルト] 考えてみなよ。キューウェルは天災のことを何一つ知らない素人。一方、俺はれっきとした天災トランスポーターだ。ということは……

[ハニーベリー] まさか、その人を天災が発生する地域に連れて行ったとか……

[レオンハルト] えっ? ないない! いくら俺でも、天災トランスポーターとしての良識くらいはちゃんと持ってるって!

[イースチナ] ああ……なるほど、そういうことですか。

[イースチナ] その状況下では、天災を定義できるのはあなただけ。そこであなたは「天災の偽造」を計画した。そういうことですね?

[レオンハルト] イ、イースチナさん……俺の天才的計画を見抜くとは、お見事……

[イースチナ] ……

[ハニーベリー] でも、天災の偽造なんてどうやるんですか……?

[イースチナ] 大爆発というのがまさにそれでしょう。おそらくレオンハルトさんはアーツで一連の爆発を引き起こし、そしてその激しい振動は天災によるものだとキューウェルに吹き込んだのです。

[レオンハルト] その通り! 鉱脈を探ってる時に、洞窟内の岩盤の向きをチェックしてたんだ。その理由はまさに、どこにアーツを放てば洞窟を崩壊させずに爆発が起こせるかを確認するためさ。けどそれよりも……

[レオンハルト] もっと肝心なポイントがある。

[ハニーベリー] それは……なんでしょう?

[エアースカーペ] 爆薬だ。

[イースチナ] ふむ……

[イースチナ] なるほど、考えましたね。

[イースチナ] 天災の余波だけでは、キューウェルに身の危険を感じさせるにはやや足りないかもしれません。ですが、彼は洞窟内の至る所に爆薬が仕込まれていることを知っていた……

[ハニーベリー] で、でも労働者さんたちは? それじゃ怖がっちゃいますよね? そんな状況になれば、何が何でもとにかく外へ出ようとするんじゃないですか?

[レオンハルト] レム・ビリトンの労働者たちにとって、生存を脅かすのは何も天災だけじゃないんだよ。

[イースチナ] 彼らは、社長たちによる不当な競争の駒にされるくらいなら……

[レオンハルト] その場に残る方を選ぶのさ。

[ハニーベリー] ……

[ハニーベリー] なるほど、それなら分かる気がします。確かにそれは、労働者たちを「救う」方法と言えますね……

[レオンハルト] うん。つまりキューウェルとその手下たちを洞窟から追い出すことができれば、労働者たちの安全はひとまず確保できるってわけ。

[レオンハルト] そして起爆スイッチをその手に握るキューウェルは、それさえあればいつでも労働者たちの命を盾にして、俺を脅迫できると考えてたに違いない。

[レオンハルト] でもね、あいつは知らなかったんだよ。その爆薬はすでに俺の手で不発弾に変えられてるってことをさ!

[くたびれた労働者] こ……こりゃ一体……

[くたびれた労働者] レオンハルトさん、何があったんですか? まさか天災が……

[レオンハルト] いいや、俺の仕業さ。

[レオンハルト] キューウェルの手下たちを見なよ。みんな大慌てだ!

[レオンハルト] 多分もうしばらくしたら、どうにか天災を避けようと、俺を探しに来るんじゃないかな?

[くたびれた労働者] しかし、こんな大きな物音……

[レオンハルト] まあ、信じて見ててくれって。後は労働者の皆が団結してくれれば問題ないから……

[レオンハルト] キューウェルたちが俺を連れ去った後に、みんなをここに集めて、決してこのあたりから離れないよう強く言い聞かせてほしいんだ……

[レオンハルト] 全部この天災トランスポーター様の計画なんだって伝えてあげて!

[採掘場の用心棒] いたぞ! おい、天災トランスポーター! 社長がお前に用があると言ってる!

[レオンハルト] ほら、言った通りでしょ。

[くたびれた労働者] ……

[採掘場の用心棒] 一緒に来い!

[くたびれた労働者] レ……

[くたびれた労働者] レオンハルトさん!

[レオンハルト] なんだい?

[くたびれた労働者] また……会えますよね?

[レオンハルト] ……

[レオンハルト] うん! もちろんだよ!

[レオンハルト] きっと、お互い無事にね!

[レオンハルト] 「勇敢なる天災トランスポーターは、労働者のために避難所に仕上げた洞窟から悪人を誘き出した。そして、恐ろしい牙を剥き出しにして待ち受けるキューウェルに、一人立ち向かうのだった……」

[エアースカーペ] 一人立ち向かった?

[レオンハルト] はいはい、「勇敢なる天災トランスポーターと、その護衛は」ね。

[エアースカーペ] 俺が間に合ってなかったら、アンタはたぶん用心棒たちにめった打ちにされてたぞ。

[レオンハルト] まっさか! 相手はたかがザコ数人だよ? それくらいは流石に楽勝だって!

[レオンハルト] まあでも、例のキューウェルの女護衛ってやつが本当に来てたら話は違っただろうな。そうなったらもう、せいぜい無様な死に際を見せないよう足掻くしかなかったかもね。

[エアースカーペ] ……

[エアースカーペ] ん?

[クルース] スピー……スピー……

[イースチナ] スピー……スピー……

[ハニーベリー] スピー……スピー……

[レオンハルト] ……

[レオンハルト] 何だよ! みんな寝ちゃってさ!!

[エアースカーペ] フッ。

[レオンハルト] 笑うな!

[レオンハルト] 待てよ……この話は君には最低でも十回は話してるのに、何でまた聞きに来たんだろうって疑問には思ってたけど……

[レオンハルト] 分かったぞ、エアース。

[レオンハルト] 俺のこと笑い物にしようとしたんだな! そうだろ!

[エアースカーペ] だってアンタ、話が毎回コロコロ変わるじゃないか。今のなんて脚色何回目のバージョンだ?

[エアースカーペ] 自分を「犠牲を恐れないヒーロー」に仕立てたいのは分かるが、何もキューウェルを「凶悪だが間抜けなコメディ風の悪役」にしなくてもいいじゃないのか。

[レオンハルト] いやだって、血生臭すぎる部分をそのまま説明するのは気が引けるだろ?

[レオンハルト] シンプルに悪い奴! って分かれば、それでいいんじゃない?

[エアースカーペ] そうだな。

[エアースカーペ] 最後には俺が駆けつけて解決することになるんだから、ほかは別にどう変えてもいい。

[レオンハルト] ……

[レオンハルト] エアース、今日は一体どうしたんだ? やけによく喋るねぇ?

[エアースカーペ] ……

[エアースカーペ] ……レオンハルト。

[エアースカーペ] ひとに心配をかけるのは別に大したことじゃない。

[エアースカーペ] 隠さなくたっていいこともあるんだそ。

[レオンハルト] ……へへっ。

[レオンハルト] そうだ、確かあの事件の後、新聞でキューウェルの訃報が載ってるのを見たんだけど……

[レオンハルト] 正直、あのまま逃がすのは惜しいと思ってたんだよね! 「悪人は必ず報いを受ける」ってのは本当だったってわけだ!

[エアースカーペ] ……

[レオンハルト] ところでさ、エアース。

[エアースカーペ] 何だ。

[レオンハルト] キューウェルの死について、本当に君は何も知らないわけ?

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