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ゆっくり進む者
家族で一番「出来が悪い」子とされたジェシカは父親の言うことを聞いてBSWを離れようとした。だがその時、自分の助手にならないかとリスカムが彼女を誘った。
ええ、私は一回で覚えたけど。兄様もそうだったわ。
あら、大丈夫よ、気を落とさないで。あなたは末っ子だもの、まだ私たちみたく上手にできなくたって仕方ないわ。
焦らずにゆっくりやっていこう? 一回で無理なら二回、一日で無理なら二日やればいいんだから。
身につけさえすれば、習得できたのが速くたって遅くたって、結局一緒じゃない?
[ジェシカ] 報告します……! エッチング弾の最後の一箱、入庫しました。これで機材と物資の格納は全て完了です。
[テスト責任者] 了解した。
[テスト責任者] ジェシカ、本当に辞めるのか?
[ジェシカ] えっ? は、はい、すみません……
[テスト責任者] はぁ、新人傭兵の実習審査に合格したってだけで立派なことなんだけどな。BSWに入って間もないし、これから頑張るぞって時だと思うけど?
[テスト責任者] なにより、あのイェランドさんに直々に教えてもらえたんだぞ?
[ジェシカ] でも、審査はギリギリでの通過ですし……イェランド教官も別にわたしのことは……うぅ……
[テスト責任者] まだ新人だし、焦らずにやっていかないと。何事も簡単に上達できるわけじゃないよ。
[テスト責任者] 決意は固いみたいだけど、何かBSWを離れなくちゃならない理由でも? この前の任務で怪我して怖くなったとか?
[ジェシカ] いえ、あれはただのかすり傷で……わたし……
[ジェシカ] ……ごめんなさい。
[テスト責任者] ……やれやれ、わかったよ。誰にでも事情はあるしね。君が困るならこれ以上は聞かないから。
[テスト責任者] ところで、さっきテストした防爆シールドについてはどう思う?
[ジェシカ] え? えっと……あれは恐らくレイジアン工業が開発した最新素材で作られたもので、各種の投擲物を確実に防げると思います。
[ジェシカ] ただちょっと重くて……あっ、ご、ごめんなさい。わたし、毎日の筋トレにもっと励むべきでした……
[テスト責任者] ふむ、フェリーンにとっては少し重すぎたのかもしれないな。君の評価は相変わらず的を射るものだよ。
[テスト責任者] ご苦労さま、ジェシカ。君がずっとそれを担いでテストしてくれたおかげで、データがたくさん集められたよ。
[ジェシカ] い、いえ、これがわたしの仕事で……最後の仕事ですから。
[テスト責任者] ホント、せっかく優秀なテスターが入ってくれたのに、もったいないよ。
[ジェシカ] わ、わたしは……
[ジェシカ] まだまだなんです。その、すみません……
[ジェシカ] あと……そろそろ人事部に行く時間ですので……
[テスト責任者] ああ、そうだな、わかった。それじゃあな、ジェシカ。
[???] お邪魔します。ジェシカという者がこちらにいると聞きましたが。
[テスト責任者] お疲れ様です。ジェシカならちょうど出ていったところで、人事部の方に向かったかと。言付けでしたら預かりますよ、あとで会ったら伝えときますから。
[???] そうですか。大丈夫です、自分で探しに行きますので。
[ジェシカ] (ここで待てばいいのかな……)
[レイジアン工業代表] ……ありがとうございます。BSWとの技術提携は、かねてよりレイジアン工業の最も重要な事業の一端ですからね。あなたのご尽力には感謝していますよ、「クリップ」さん。
[BSW中心メンバー] はは、何年も前の話ですよ。それに、うちの要求を満たせるほどの技術力を備えた兵器商は、レイジアン工業をおいて他にはありませんから。
[レイジアン工業代表] お褒めに預かり光栄です。今なおエッチング弾の設計と改良は我が社の研究開発における重要課題の一つです。
[レイジアン工業代表] 次の四半期の発注確認で、またお会いできることを楽しみにしておりますよ。
[BSW中心メンバー] いえいえ、こちらこそ。
[レイジアン工業代表] では、今日のところはこの辺で。
[BSW中心メンバー] ああ、あの方のお嬢さんに会いに行かれると……ブリンリーさんはお変わりなくお過ごしでしょうか? よろしくお伝えください。
[レイジアン工業代表] はは、おかげさまで。戻りましたらきちんとお伝えしますね。
[レイジアン工業代表] ご機嫌いかがでしょうか、「ジェシカ」お嬢様。私は……
[ジェシカ] こ、こんにちは。レイモンドさん、ですよね。
[ジェシカ] わたしには、そんなに気を使わなくていいですから……
[レイジアン工業代表] ははっ、さすがはブリンリー様のご息女様です。ご聡明でありながら気さくでいらっしゃる。
[ジェシカ] そんな……
[レイジアン工業代表] ここでの生活はいかがですか?
[ジェシカ] えっと……BSWの訓練はとても計画性があって、おかげで日々成長しているのを感じます。もちろん、一人前の傭兵と比べたらまだ全然ですけど……
[レイジアン工業代表] 収穫があったようで、何よりです。
[レイジアン工業代表] お父様との再会は二年ぶりになりますね。ブリンリー様は楽しみにされていますよ。
[レイジアン工業代表] 退職の手続きはお済みですね? お荷物はどちらに? 運んでおきましょう。
[ジェシカ] レイモンドさん、ま、待ってください……
[レイジアン工業代表] どうされました?
[ジェシカ] 以前レイモンドさんがいらっしゃった時、お父様はわたしに帰って来てほしいと……でも、BSWで進みたい道が見つかったなら、ここに残ってもいいとも言っていましたよね。
[ジェシカ] だから、もし……
[レイジアン工業代表] 実のところを申しますと、ブリンリー様も最初はお嬢様のビジョンを認め、BSWで視野を広げて生きる道を見つけることに賛成されておりました。
[レイジアン工業代表] だからこそ、お嬢様の才能が埋もれていると知り、残念がっておられたにもかかわらず、お嬢様ご自身でBSWに残るか否かを決めていただくために、三ヶ月の猶予を与えてくださいましたね。
[ジェシカ] ……お父様に認めていただけるほどの実績をあげられなかったのはわかっています。
[ジェシカ] ごめんなさい。わたし、本当にすごく頑張ったんですが、でも……
[レイジアン工業代表] お嬢様。申し訳ありませんが、聞いていてください。すでに何回もお話したとおり、家へ帰るようにというブリンリー様のご意向は熟慮の結果です。
[レイジアン工業代表] 装備・応用技術部に配属されていることは、BSWからすれば、出身に由来するあなたの強みが十分に発揮されているといえます。しかしながら、ご自身にとっては役不足と言わざるを得ません。
[ジェシカ] そんな、わたしは別に、大した人材では……
[レイジアン工業代表] あなたがBSWで扱う最新装備にしても、所詮はレイジアン工業で幾度も内部テストを経た成果物にすぎないのです。
[レイジアン工業代表] この分野に興味を持ち、やっていく意欲がおありでしたら、レイジアン工業に戻った方がより力を発揮できるのではないですか?
[レイジアン工業代表] 何より、ご家族の会社ですよ。
[レイジアン工業代表] ブリンリー様の下でなら、もちろん十分なリソースと活躍の場が得られることでしょう。
[レイジアン工業代表] ヒラの装備テスターから下積みする必要もなく、冷遇されることもありません。
[レイジアン工業代表] 比べて今のご処遇はどうでしょう。正直に申しまして、とてもブリンリー家のご子息らしくありませんよ。
[ジェシカ] ご、ごめんなさい……わたしが役立たずなせいで……
[レイジアン工業代表] そんな、お嬢様、卑下なさらないでください。
[レイジアン工業代表] そういえば、最近の外勤任務で怪我をされたと聞きましたが、本当ですか?
[ジェシカ] はい、訓練不足のせいか、実戦で緊張して……すみません、もっと鍛えておくべきでした。
[レイジアン工業代表] なるほど。しかしこれでよくお分かりになったかと。傭兵という仕事はどうしても命の危険が伴うものです。
[レイジアン工業代表] いくら万全を期した訓練を受けていても、負傷する可能性はゼロにはなりません。
[レイジアン工業代表] 私にも幼い娘がいまして、ご息女様を守りたいブリンリー様のお気持ちはよくわかるのです。どうかお気を悪くしないでください。
[レイジアン工業代表] ブリンリー様は、もちろん子供たちが自ら選んだ道を進むのを応援されています。お姉様のように自分の道を切り開いたのなら、同様に称賛は得られたのでしょう。
[レイジアン工業代表] ですが、あなたはご子息の中で一番お若い。皆の経験を参考に、苦労や回り道を避け、早めにお家へ帰る方がいいとブリンリー様はお考えです。
[レイジアン工業代表] お嬢様は上の兄弟姉妹と違って、人付き合いが得意な方ではありませんし、機械の設計について勉強したのでもありませんから。
[レイジアン工業代表] 身体能力と戦闘技術だけで結果を出すのは、少々難しいのではないでしょうか。
[ジェシカ] おっしゃる通りです……
[ジェシカ] ごめんなさい……いつもレイモンドさんとお父様を失望させて。
[レイジアン工業代表] とんでもありません。それと、レイジアン工業に戻られたら、ご希望に添った専用装備を作ることもできますよ。
[レイジアン工業代表] もっと優れた防具を身につければ、小規模の衝突なら怪我をすることはまずないでしょう。
[ジェシカ] でも、一番いい装備を手に入れても……使う場面がないのでは?
[レイジアン工業代表] エンジニアのこだわりが詰まった製品を楽しんでいただければ、それでよいのです。使う場面を考える必要はありません。
[レイジアン工業代表] ところで、バロン基地はこのような辺境の地に位置していますが……こちらにおいても、ちゃんと一流シェフによるスイーツを召し上がることができてますか?
[レイジアン工業代表] 何年か前にお嬢様が執務室にいらした時も、スイーツを用意するようブリンリー様に申し付けられたと記憶してますが。
[ジェシカ] その……訓練期間中の食事制限が厳しいので……
[ジェシカ] 自分で少しだけお菓子を買ったりはしてますが……うう、もっと自分に厳しくできれば……
[レイジアン工業代表] ご自分を責めないでください。お嬢様は、もう十分努力されていますよ。
[レイジアン工業代表] あなたを担当されたイェランド教官に話を伺ったのですが、お嬢様の印象は薄かったとしても、ただ必死に訓練に打ち込む姿はちゃんと覚えておいででした。
[レイジアン工業代表] イェランドさんのように有名な精鋭の傭兵でさえ、あなたの熱意を認めています。特に目立った活躍はなくとも、ひた向きな努力だけで審査を通過したじゃありませんか。
[レイジアン工業代表] そんなにご自分を責める必要は、どこにもありませんよ。
[ジェシカ] イェランド教官……
[ジェシカ] すみません……教官のことを思うと、今でも緊張して……
[レイジアン工業代表] ああ、お嬢様はやはりたくさん辛い思いをされたのですね。それこそがブリンリー様の心配されていることなのです。
[レイジアン工業代表] ですが、あなたは健気に耐えました。もう十分に鍛えましたし、立派に成長しました。家に帰ったらきっと……
[ジェシカ] ――す、すみません。
[ジェシカ] 退職の手続きがまだ終わっていないんです……それと、ここを離れる前に、その……友達にお別れの挨拶をしたいです。少しお時間をいただけますか?
[レイジアン工業代表] おや、そうしますと恐らくスケジュールに影響が……ブリンリー様も帰りをお待ちになっていますが……まあ、もちろん、お嬢様のご要件が最優先になります。
[ジェシカ] は、はい、すみません……
[ジェシカ] すぐに人事部へ行ってきます……
[ジェシカ] ……ふぅ……はぁ……
[ジェシカ] ……荒野の風。
[ジェシカ] ……
誰もいない屋外訓練場の一角で、ジェシカは目を閉じて、源石火薬の匂いが漂う空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
不合格率が八割近くの実習審査を通過するために、ほとんどの休み時間を彼女はここで過ごしていた。
[ジェシカ] (これで、この果てしない大地を、わたし自身の目で見たと言えるのかな?)
[ジェシカ] (……言えないよね。)
[ジェシカ] (小規模な衝突の対応に参加しただけで、それ以外は基地でひたすら訓練とテストを繰り返してただけだから。)
二年前、彼女は人生で初めて勇気を出し、これから踏み出す一歩のために父親と話をした。
家族は娘が入る学校、学ぶ専門、さらには卒業後の就職先まで決めていたが、彼女自身はBSWに履歴書を出したいと思っていた。
彼女は、何ができるかまだわからないから、まずは自分を鍛えたいと父親に言った。
それに、この大地に終わりがないように、人の生き方にも無数の可能性があると、よく父親に言われていた。
だから他人の生きる姿を見て、自分自身の可能性を見出したかったのだ。
[ジェシカ] (でも、荷物はもうとっくにまとめてしまったし。)
[ジェシカ] (別れを告げる相手も……特にいないか。)
[ジェシカ] ごめんなさい……わたし、何もできなかった……
[ジェシカ] あぁ――!
[???] ……あなた、大丈夫?
[ジェシカ] えっ、あぁっ……
[ジェシカ] ご、ごめんなさい! わ、わたしはただ……
[???] 待って、逃げないで。
[リスカム] わたしはB.P.R.S.部門所属、コードネーム「リスカム」……あなたがジェシカさんですね?
[ジェシカ] はい! は、はじめまして……リスカム先輩……!
[リスカム] 探しましたよ。
[リスカム] あなたの同僚から訓練場に行ったと聞きましたが、そこのスタッフは見ていないと。屋外訓練場を通りかかったついでに、たまたま覗いて正解でした。
[ジェシカ] すみません……
[リスカム] あなたに相談したいことがあります。
[リスカム] わたしの異動に伴って、助手が必要になったのですが、BSWの人材データを調べたらあなたがヒットしました。わたしとしてはぜびその役を引き受けてもらいたいと考えています。
[ジェシカ] は、はい……えっ?
[ジェシカ] つまり……先輩の助手を? わたしが?
[リスカム] ええ、総合的な能力に優れた人員が必要ですから。
[ジェシカ] でも、わたし、そんな人では……
[リスカム] あなたの能力について、データベースに登録された審査データ以外はまだよく知らないですが、ジョゼフに聞いたら適任だと言っていましたよ。
[ジェシカ] ジョゼフ……イェランド教官が? 印象が薄いっておっしゃってたんじゃ……
[リスカム] え? それは違いますよ。先日たまたま一緒に食事をした時、あなたとわたしは相性が良さそうだから、いい助手になれるんじゃないかと彼は言っていました。
[リスカム] それに、あなたも自分では絶対にBSWの選考をクリアできないと思いながらも、毎日訓練場に通っていたタイプだったと。
[リスカム] ……大丈夫? なんだか辛そうな顔ですが。
[ジェシカ] す、すみません……!
[ジェシカ] 実はわたし、BSWを辞めることになったんです……
[リスカム] ……悔しい?
[ジェシカ] えっ?
[リスカム] この訓練場にまだ未練があるように見えたから。どうして辞めるんですか?
[ジェシカ] ……わたしが、上手にできませんから。
[リスカム] ……銃はもう返却しましたか?
[ジェシカ] い、いえ、まだです……
[リスカム] それなら抜いて見せて。実戦演習だと思って。
[ジェシカ] こ、ここでですか? 防護措置がないんですが……
[リスカム] 大丈夫、わたしには盾があります。それに、あなたが実戦訓練で仕掛けた攻撃を、ジョゼフは全部避けたんでしょう?
[ジェシカ] ……じゃ、じゃあ、失礼します!
[リスカム] 悪くないですよ。射撃は上々、精度も合格。
[リスカム] ただ弾の威力に……限界を感じますね。
[ジェシカ] うう……
[リスカム] 緊張しないで。
[リスカム] 視線をそらさず、相手をよく見て――
[リスカム] 反応は良好。訓練で条件反射がしっかり身につきましたね。
[リスカム] でも、実戦の状況は訓練よりよっぽど複雑です。
[ジェシカ] うわっ!
[ジェシカ] す、すみません……避けられませんでした……
[リスカム] わたしのアーツを知らなかったのだから仕方ありません。もう十分合格と言えます。
[リスカム] さぁ、立って。
[ジェシカ] 本当に……合格なんですか?
[リスカム] ええ。あなたは「上手にできない」と言いましたが、わたしはそうは思いません。経験と訓練が足りないだけです。だけど新人ってそういうものだから。
[ジェシカ] 経験が、足りない……
[ジェシカ] ……リスカム先輩、一つお伺いしてもいいですか?
[リスカム] ん? 訓練が足りないとは言いましたが、わたし自身がいい教官なわけでは……まぁいい、何が聞きたい?
[ジェシカ] 先輩は……自分が傭兵に向いているって、どうやってわかったんですか?
[リスカム] 向いている? それはどうかな。わたしは傭兵になりたくてなっただけだから。
[ジェシカ] でも……
もし向いてなかったら? 回り道をするのは怖くないんですか?
――もしかすると、一番楽な道を選んで進むべきだなどと、人の生き方をそう簡単に決めてはいけないのかも。
[ジェシカ] ……ありがとうございます。認めてくださって、ありがとうございます!
[ジェシカ] わたし……
あの日父親の執務室の前でしたように、彼女は拳を握りしめた。
これは、BSWの傭兵、「ジェシカ」自身の考えだ。
[ジェシカ] ……わたし、このチャンスを手にしたいです。
[リスカム] ええ、いいでしょう。
[リスカム] しかし、その前に伝えなくてはならないことがあります。わたしが所属しているB.P.R.S.という部署は特殊で……中核部署ではない一方、その仕事は常に危険が伴うものです。
[リスカム] 感染生物の相手をしたり、緊急の源石汚染事件に対処したりしなければなりません。そのリスクはちゃんと理解できますか?
[ジェシカ] わ、わかっています……
[リスカム] 通常任務で負う怪我はほとんど完治できるけど、B.P.R.S.の任務では、深手を負うと鉱石病に感染するリスクもあるんです。
[リスカム] あなたのプロフィールから、前回の任務で軽傷を負ったのを知っています。
[リスカム] もちろんB.P.R.S.は防護措置が完備されていて、ジャネット主任も感染リスクを減らすために緊急事件対応の改善に取り組んでいます。
[リスカム] それから、わたしの助手になった場合、もっと厳しい訓練を受けてもらうことになります。期待する水準に達するまでは、危険性の高い任務には出しません。
[リスカム] 説明は以上です。わたしが異動申請を出す前に会いに来たのは、事情を知った上で決めてもらいたかったからです。
[ジェシカ] ありがとうございます……でも、もう決めました……!
[ジェシカ] わたしはもっと経験を積んで、もっと厳しい訓練を受けて……それから、いくつかの問題の答えを見つけたいです。
[ジェシカ] えっと、問題というのは、わたしじゃなくて、他の人の生き方に関するもので……任務中には色々見てきたんですが、未だに戸惑っているんです。
[リスカム] そうですか……すみません、わたしからも直接答えを出せないかもしれません。
[リスカム] でも、自分の助手がそんな問題について考えていることを、嬉しく思います。
[ジェシカ] 先輩の助手……
[リスカム] ええ。
[リスカム] 人事部に退職の手続きをしに行くんでしょう? それなら一緒に行きましょうか。申請の取り消しもスムーズになりますから。
[ジェシカ] あっ、はい……ありがとうございます!
[ジェシカ] (でもレイモンドさんがまだ待ってるし。お父様にどう説明すれば……)
[レイジアン工業代表] お嬢様、どうかされましたか?
[ジェシカ] えっ……どうしてレイモンドさんがここに!?
[レイジアン工業代表] BSWの構内を勝手に動き回るわけにもいきませんので、外に出た次第です。
[レイジアン工業代表] ところで、さきほど退職の申請を取り消されると?
[ジェシカ] ……
[ジェシカ] リスカム先輩……
[ジェシカ] ……いえ、何でもないです。すみません、レイモンドさん、わたしはここに残ることにしました。
[ジェシカ] お父様には……このようにお伝えください。「ジェシカ」はあくまでもBSWに残って、警備会社の傭兵として人々を守りながら、問題を解決することに決めました、と。
[ジェシカ] 自分の「可能性」が何なのか、まだわかりませんが……探し続けたいと思います。
[レイジアン工業代表] ……わかりました。
[レイジアン工業代表] そのようにお伝えしておきましょう。
私の末娘が今後もBSWの「ジェシカ」でありたいと? ……その粘り強さ、それでこそブリンリー家の子供だ。
ずいぶん皮肉を言わせて悪かった。だが簡単に流されない強い意志を持っているかどうか、確かめる必要があったからな。
そう、私だってあの子に大変な思いはさせたくない。この大地には辛いことが多すぎる。答えが見つからない疑問をたくさん抱えることになるだろう。
しかし、挑戦者になりたいというのなら、好きにさせよう。たとえ自分のやるべきことが見つかるまで、一番時間がかかる子になろうとも……永遠に見つからなかったとしても。
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