aklib_story_出発の準備

ページ名:aklib_story_出発の準備

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出発の準備

エンフォーサーは、カズデルへ向かう準備をするために、ロドスのサルカズオペレーターたちを積極的に訪ねるのだった。


[エンフォーサー] なるほど……教えてもらったことは全て書き留めました。

[エンフォーサー] 本当にありがとうございます、ヴィグナさん。

[ヴィグナ] お礼なんていいよ。あたしも知ってることはそんなに多くないし。

[ヴィグナ] カズデルについて知りたがっていたのに、肝心な質問には何も答えられなかったね……力になれなくごめんなさい。

[エンフォーサー] とんでもない。そんな風に言わないでください。

[エンフォーサー] サルカズの風習について教えてくれて、大変助かりました。ヴィグナさんのおかげで、たくさんのことを学べましたよ。

[ヴィグナ] そんなん大したことないよ……それよりもあなたさ、もっと気を付けた方がいいよ。ここがロドスだからまだよかったものの、他所でこんな風にサルカズに色々聞いみなさい?

[ヴィグナ] もしここがカズデルだったら、ホントどうなってたかわかんないからね。わかった?

[エンフォーサー] ……分かりました。

[ヴィグナ] いやぜんぜんわかってないでしょ! あのアドナキエルとさえ初めて会った時から口を利くようになるまでかなりかかったんだから。

[ヴィグナ] それなのにあなたはどうよ ロドスに加入してまだほんの数日だって言うのにいきなり話しかけてきてさ。

[エンフォーサー] あぁ、だからあの時のヴィグナさんはやけに警戒していたわけですね……

[ヴィグナ] あれでもマシなほうだったからね!

[ヴィグナ] はあ……とにかくちゃんと気を付けなよ。

[ヴィグナ] その調子じゃ、カズデルに辿り着く前に殺されちゃわないか、心配だわ。

[エンフォーサー] アハハ……そうならないよう努めます。

[エンフォーサー] とにかく、心配してくれてありがとうございます、ヴィグナさん。

[エンフォーサー] ……

[エンフォーサー] (カズデルに関する情報はまだ不十分だ。)

[エンフォーサー] (穏やかな性格をしているサルカズのオペレーターは、ほとんどが他国育ちで、カズデルに関して詳しくはない。)

[エンフォーサー] (だけど皆口を揃えて、そこが危険な場所であると言う。ふむ、セシリアの付き添いが僕だけなのは、やはり心もとないな。出発前にしっかり準備を整えないと……)

[エンフォーサー] (しかしこの調子だと、そこれ以上の情報を得るのは難しいだろう……)

[エンフォーサー] (あと参考になりそうな人は――)

[???] そこをどけ。

[エンフォーサー] あっ、すみません……

[エンフォーサー] (――待てよ、彼は……!)

[エンフォーサー] あの!

[エンカク] あぁ?

[エンフォーサー] サルカズ刀術師のエンカク……

[エンフォーサー] ……公証人役場の手配書であなたの顔を見たことがあります。

[エンカク] サンクタが何の用だ? 復讐か?

[エンカク] 付き合ってやってもいいが、場所を変えてからだ。

[エンカク] 今はとりあえずそこをどけ。水やりの邪魔だ。

[エンフォーサー] ……公証人役場の先輩方から、一部指名手配書の人物と万が一遭遇した際は、単独での戦闘を避けるように言われたことがあります。

[エンフォーサー] それに、僕が今いるのはロドスです……ここの規則を厳守しなくてはいけません。

[エンカク] あっそう、さっきも言ったが好きにしな。

[エンフォーサー] (……)

[エンフォーサー] (彼から一切の警戒を感じない。それどころかリラックスしているようだ……よほど自分の腕に自信があると見える。)

[エンフォーサー] (彼の集中力は今、全てここに飾られている植物に注がれている。僕が手が銃に触れたことすら気にしていない……)

[エンフォーサー] (手配書通りであれば、非常に危険な人物のはずだ。だけど……)

[エンフォーサー] ……

[エンフォーサー] エンカクさん……いくつか質問をしてもいいですか?

[エンカク] 質問?

[エンカク] 聞く相手が違うんじゃないか?

[エンフォーサー] (水やりの手の動きになんらためらいもない……今の発言にまったく関心がないみたいだ。だけど、苛立っている様子もない……)

[エンフォーサー] (うん……これならいけるかも。)

[エンフォーサー] カズデルについて聞きたいんです。

[エンフォーサー] カズデルの現在の状況を教えてくれませんか? たとえば周辺の街の規模だったり、出入りしている人や組織とか……教えてもらえると、本当にありがたいのですが。

[エンカク] カズデルに行きたいのか?

[エンフォーサー] はい。

[エンカク] 死にに行きたいのなら止めはしない。

[エンフォーサー] ……死ぬつもりはありません。

[エンフォーサー] カズデルに行くのは、行かなければならない理由があるからです。

[エンフォーサー] ですが、何も準備ができていない今の状況では、死にに行くのとなんら変わりはないでしょう。

[エンフォーサー] 僕はそんなことをするつもりはありません。これも僕がロドスに来た理由のひとつです。

[エンカク] おい。

[エンカク] そこに立つな。影になって邪魔だ。

[エンフォーサー] ……

[エンフォーサー] ……無茶な行動をして、自分と他人の命を危険に晒すのは、勇気ではなくただの無責任です。

[エンフォーサー] もし行動に移す前に、現地のリアルな状況を可能な限り知ることができれば、それに基づいて計画を立て、準備することができます。

[エンフォーサー] 確かにそれでもリスクが存在することに変わりはありませんが、できる限りそれを回避することも――

[エンカク] ごちゃごちゃ言わなくていい。

[エンカク] お前の事情は俺とは関係ないし、何を考えてるのかも興味ない。

[エンカク] チッ、水が足りなかったか……

[エンカク] この鉢の枝もそろそろ剪定しないとな。

[エンフォーサー] ……片方だけ勢いよく成長しているのは、光の当たり具合が均一ではないからかと。

[エンフォーサー] 伸びすぎた部分を切ってしまうよりも、鉢植えの向きを変えて、逆側も光がよく当たるようにするのがいいかもしれませんね……

[エンカク] 余計な枝を切ったほうが、花をよく付けるようになる。

[エンカク] 選択が多すぎると、却って本来の目的を見失う。植物ってのはそういうもんだ。

[エンフォーサー] しかし……ほかの命が成長する目的というのは、誰かが決めていいものとは思えません。

[エンカク] ハッ、ばかばかしい。

[エンカク] 決められるさ。強者ならな。

[エンフォーサー] ……エンカクさんのその考え、僕は賛同できません。

[エンフォーサー] 剪定したほうが、確かに見栄えはより良くなるでしょう。それに美しく成長し、期待通りの花を咲かせるかもしれません。ですが……

[エンフォーサー] 自らの意志を持った命であれば、どう成長するかどうかは、それ自身が自由に決めるべきだと思うんです。

[エンカク] へー?

サルカズの刀術師は、いかにも無関心な返事をする。

エゼルが次々と言葉を投げかけている間も、彼は一度も手を止めることはなかった。

じょうろが空になると、一旦それを置き、今度は伸びすぎた枝の剪定を始める。

そして、剪定ばさみを整えたばかりの鉢植えのそばに適当に置いたかと思えば、次の瞬間――

花に降り注ぐ光の筋が不意に途切れる。その太刀筋を見るや否やエゼルは背後の壁に思いっきり叩きつけられていた。鋭い刃の切っ先が彼の頬を掠め、そばの壁に突き刺さった。

[エンフォーサー] くっ――!

[エンカク] 綺麗事ばかり並べ立てたところで、命は守れないぜ?

[エンカク] 現にほら、今の自分を見てみな。

[エンカク] 自由なんざどこにある?

[ハイビスカス] ヴィグナちゃん、今日はずいぶんと来るのが遅いじゃない?

[ヴィグナ] ごめんごめん。人に捕まっちゃってさ、ちょっと喋ってたんだ。

[ハイビスカス] あぁ……エゼルさんね?

[ヴィグナ] そうだけど。あれ、どうして分かったの?

[ハイビスカス] だって、ヴィグナちゃんに話を聞きに行くように、エゼルさんに勧めたのが私だもの。

[ハイビスカス] あのサンクタの方は、私とラヴァちゃんにも話を聞きに来たのだけれど、大して力になれなかったから。

[ラヴァ] あのラテラーノ人、まだカズデルについて聞き回ってんのか?

[ラヴァ] 馬鹿正直な奴……一体これまで何人に話を聞いたんだ。

[ラヴァ] もしかして、本気であんな小さい子を連れてカズデルに行こうとしてるのかよ? あんな場所で、頭をピカピカ光らせながら人探しなんかしてたら、どうなるか分かってんのか!?

[ヴィグナ] でしょ! だからあたしも言ってやったわ!

[ヴィグナ] はあ……何かいい方法が見つかればいいんだけど……

[マドロック] ……何を話している?

[ハイビスカス] あっ、マドロックさん!

[ハイビスカス] 最近加入したばかりのサンクタの方について話していたんです……

[エンフォーサー] ゲホッ……!

[エンフォーサー] 放して……ください……!

[エンカク] なぜ急所を撃たなかった? お前の抵抗はこの程度か?

[エンカク] そんなオモチャの銃でカズデルに行って何ができる? お得意の御託を並べて誰を説得するんだ?

[エンフォーサー] ぐっ!

[エンフォーサー] (すごい威圧感……彼は本気だ!)

[エンカク] そんなに知りたきゃ、ブラッドブルードの医者かケルシーのとこにでも行けばいい。

[エンカク] ここであれこれ探ってる暇があるくらいなら、ラテラーノに帰ってお前の上司にでも聞くんだな。カズデル関連の任務なんざ、どこにでも腐るほど転がているだろうぜ。

[エンカク] それとも、俺のこの刀が今までどれだけのサンクタを斬ってきたか教えてやろうか?

[エンフォーサー] ゴホッ……僕は……

[エンフォーサー] ……忠告、感謝します。

[エンフォーサー] ですが僕はやっぱり……皆さんを通して本当のカズデルの姿を知りたいんです。

[エンカク] だったら今ので理解したはずだろ。

[エンカク] 言葉ではなく、この刀でな。

[エンフォーサー] ――!

[エンカク] くだらん。

[エンフォーサー] ゴホッ……ま、待ってください……

[エンカク] 俺に指図すんな、ガキ。

[エンフォーサー] どうして……僕を殺さないんですか?

[エンカク] 不適切な養分を与えたところで、命を正しく育てることはできん。植物も、人もな。

[エンカク] 失せろ。

[エンカク] 花が必要なのは血ではなく水だ。

[エンフォーサー] ……

[エンフォーサー] ふぅ……

[エンフォーサー] (あの殺気……彼は本当に僕を殺す気だった……)

[エンフォーサー] (僕の言葉は……あの人には響かない。何ひとつ届かなかったんだ……)

[エンフォーサー] (じょうろがない……出ていく時に持っていったのか……)

[エンフォーサー] ……

[エンフォーサー] これが本当の……サルカズ。

[エンフォーサー] っ――

[医療オペレーター] 本当に消毒だけでいいんですか?

[医療オペレーター] まだ血が出てますよ……やっぱり包帯を巻いた方が……

[エンフォーサー] 大丈夫です、ただのかすり傷ですから。

[エンフォーサー] あのエンカクさんという方も別に本気で斬りかかってきたわけでは……あっ、えっとまあ、少なくとも僕を殺しはしませんでしたし。

[エンフォーサー] 手当てはこれくらいで十分ですよ。

[エンフォーサー] 僕はまだ用があるので、これで失礼しますね。

[医療オペレーター] あっ……待って、エンフォーサーさん!

[エンフォーサー] まだ何か?

[医療オペレーター] ロドスでは、原則私闘は禁止されていますが、全員が全員きっちり規則を守っているわけではありません……

[医療オペレーター] もしまた今回のような状況に遭遇した場合は、可能ならドクター、もしくはアーミヤやケルシー先生に相談することをお勧めします。

[エンフォーサー] そうですね……はい、尽力します。

[医療オペレーター] なによりも……

[医療オペレーター] ロドスには、過去に色々な経験をしてきたサルカズのオペレーターがたくさんいるんです……彼らと鉢合わせてしまうと、エンフォーサーさんに危険が及ぶかもしれません。

[医療オペレーター] くれぐれもお気を付けください。

[エンフォーサー] ……忠告ありがとうございます。今自分がしていることには、大きなリスクが伴っていることは理解しています。

[エンフォーサー] ですがきっとロドスは……今の僕に見つけられる最も情報集めに適した場所です。

[エンフォーサー] 現にもし今日、エンカクさんと会ったのがロドスでなければ、今頃僕はここに立っていなかったでしょう。

[医療オペレーター] そ、それは確かにそうですけど! でも……!

[エンフォーサー] もし僕がここで引き下がってしまえば、カズデルへ向かう計画は本当にただの机上論となってしまいます。

[エンフォーサー] それではダメなんです。今はまだ諦めざるを得ない段階には達していません。

[エンフォーサー] もう一人だけ、絶対に話を聞きに行かなければいけない人がいるんです……

[エンフォーサー] 失礼します。

[エンフォーサー] すみません……マドロックさんですか?

[マドロック] ……そうだ。

[マドロック] 私の名前を知っている……つまりわざわざ訪ねてきたのか。

[エンフォーサー] はい、会ってすぐにこんな話をするのは大変失礼ですが……

[マドロック] 怪我をしているな。

[エンフォーサー] えっ?

[マドロック] 武器は鋭利な刃物で、傷口は新しい。つけられたばかりだ。

[マドロック] ここに来るまで誰かに会ったのか?

[エンフォーサー] ……エンカクさんに。

[マドロック] ふむ……道理で。

[マドロック] たとえロドスであっても、サンクタは一部の者を避けるよう注意を受けるはずだ。その一部の者にはエンカクや……私も含まれているのかもしれない。

[マドロック] ドクターやアーミヤから聞かされていないのか?

[エンフォーサー] いえ……確かにドクターから忠告を受けました。

[マドロック] だが君はそれに従っていない。

[マドロック] 君がカズデルに関する情報を集めていることは聞いた。それから、あの女の子を連れて人探しに行くつもりなのも。

[エンフォーサー] ……はい、こうしてマドロックさんに声をかけたのも、その件で力になってもらいたいからです……

[マドロック] 理解できないな……どうしても自らが赴かなければならないのか?

[マドロック] たった二人だけで、サンクタにとって最も危険な場所に行くなんて……賢明な判断ではないことは、自分がよく分かっているはずだ。

[エンフォーサー] 僕はセシリアに約束したんです。一緒にカズデルへ行って、彼女の父親を探すと。約束を破ることはできません。

[エンフォーサー] ……だけど、この程度の理由では、マドロックさんはきっと納得しないでしょうね。

[マドロック] ああ。

[エンフォーサー] 実はセシリアとの約束は……成り行きで決まったものなんです。

[エンフォーサー] 僕はごく普通のサンクタです。何もなければ、恐らくラテラーノを離れるなんて考えもしなかったでしょう。

[エンフォーサー] きっとほかの人たちと同じように、安定した仕事を続け、生活に困ることもなければ、大きな悩みも抱かなかったと思います。

[エンフォーサー] 歳を取れば定年退職を申し込み、騒がしくも穏やかな晩年を過ごす……それだけだったはずです。

[マドロック] ……悪くないように聞こえるが。

[エンフォーサー] はい、そうですよ。

[エンフォーサー] だけど、ラテラーノの外に視線を向けた時……自分の認知とは異なるけど、否定できない観点に触れた時……

[エンフォーサー] またもや僕は普通の人にありがちな悩みを抱え、今までの生活を当たり前だと思えなくなってしまったんです。

[マドロック] ……

[エンフォーサー] セシリアは僕にチャンスをくれました。実は僕のほうこそ彼女に感謝しなきゃいけないですよ。

[エンフォーサー] カズデルに行くのは、セシリアとの約束を果たすためだけでなく、僕自身のやりたいことでもあるんです。

[マドロック] やりたいこと?

[エンフォーサー] はい。

[エンフォーサー] カズデルを、そしてそこに住む人々の生活を、自分の目で確かめたいんです。

[エンフォーサー] だから今こうして、マドロックさんに話を聞きに来ました。

[エンフォーサー] 僕は……ずっと敵対関係であったサルカズのことを理解したい。僕たちは同じかどうか、知りたいんです。

[エンフォーサー] もし僕たちは本来は同じ存在だったのなら、何がきっかけで枝分かれしてしまったのでしょう?

[マドロック] ……

[マドロック] 計画の詳細を教えてくれ。

[エンフォーサー] あはは……念入りに立てた計画を見せたいのは山々ですが……

[エンフォーサー] 実は、計画を練るのに必要な情報集めの段階で、もうつまずいていて……

[マドロック] (ため息)

[エンフォーサー] でも、まだ計画とは呼べないですが、まったく何も考えがないわけではありません……

[エンフォーサー] 確かに僕とセシリアがカズデルに入り込むのは、非常に難しいことでしょう。サンクタという身分が明らかに足を引っ張っています。

[エンフォーサー] ですが、もしカズデルに戻ってきた傭兵なら……

[マドロック] つまり……?

[エンフォーサー] 例えば、マドロックさんのような、カズデル出身の傭兵がいたらどうでしょう?

[エンフォーサー] 外でお金を稼ぐついでに捕らえた二人のサンクタを、捕虜として引き連れ故郷へと戻ってきた。なかなかもっともらしい響きじゃないですか……?

[エンフォーサー] ははっ……ただの僕の妄想ですので、本気にしないでくださいね。

[エンフォーサー] エンカクさんに会って、自分の考えがいかに甘かったのか思い知らされたんです……

[マドロック] ……とても理にかなっている。

[エンフォーサー] えっ?

[マドロック] もし君にリスクを冒す覚悟があるのなら……

[マドロック] 今言ったその計画は合理的だ。試してみてもいい。

[マドロック] その覚悟はあるか?

[エンフォーサー] ……はい。

[エンフォーサー] 覚悟がなければ、僕たちはあの時にラテラーノを離れていません。

[エンフォーサー] マドロックさん……お願いしてもいいですか?

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