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荒野に生まれ
ロドス本艦にて得難き穏やかな生活を送っていたブラックナイト。それでも荒野で過ごした昔の日々を、未だに懐かしく思っていた。
[マルベリー] はぁ……
[ドクター選択肢1] マルベリー、担当としてこの件をどう思う?
[マルベリー] ド、ドクター、ブラックナイトさんは有言実行の方ですから、おそらく申請書を提出してすぐ出て行っちゃったんだろうと思います。
[ドクター選択肢1] 何だか彼女に対する愚痴があるみたいだね。
[ドクター選択肢2] 君は彼女が出て行くのに同意するの?
[マルベリー] はい……ただ私の考えはそこまで重要じゃありません。ドクターのご意見を伺いたいです。
[ドクター選択肢1] 彼女が出て行った以上、議論しても無駄だ。
[マルベリー] なんだかドクターもあまり機嫌が良さそうじゃありませんね……
[ドクター選択肢1] まさか、考え過ぎだ。
[ドクター選択肢2] ゴホン、勘違いだ。
[ドクター選択肢1] 彼女がなぜここを出て行ったか分かる?
[ドクター選択肢2] しかし、彼女が出て行った原因は気になる。
[マルベリー] わ、私もさっぱり分かりません。
[マルベリー] はぁ……確かに初対面の頃の彼女は、明らかに落ち着きのない様子でしたが、今はもうすっかりここでの生活に慣れてくれたと思っていたんです。
[マルベリー] 最初の頃、彼女の容態はあまり安定していませんでした。ですから医療部のアドバイスに従い、いつでも状態を観察できるよう、本艦に駐留する正式なオペレーターになってもらうことにしたんです。
[マルベリー] その際に、私が彼女のメンターに任命されまして、艦内をあちこち案内することになったのですが……
[ブラックナイト] で……君が私がこの船にいる間の隊長なの? そんな細い身体で、本当に私を守れる?
[マルベリー] ブ、ブラックナイトさん、確かに身体能力では敵いませんが、それでも危機に瀕した際は、全力であなたを守ります。
[ブラックナイト] フッ、結構な自信じゃない。期待してるよ。
[ブラックナイト] ……これからはこの部屋であんたと一緒に住まないといけないの?
[マルベリー] あなたは、治療室に入らなければならないほどの重症ではありませんが、それでも目を離すわけにはいきません。
[マルベリー] ですからしばらくの間、健康状態を把握しておくために、同居させていただきますね。
[ブラックナイト] ここの窓、開かないの? 風に当たりたいんだけど。
[マルベリー] 暑いですか? それならクーラーをつけますね。
[マルベリー] これならどうでしょうか?
[ブラックナイト] うーん……なんだか変な感じ。
[マルベリー] ブラックナイトさん、もしかして体調が優れないとか?
[ブラックナイト] かもね。身体の問題化も。
[マルベリー] ごめんなさい、ちょっと失礼しますね。
[ブラックナイト] ちょっ、何?
[マルベリー] おでこの温度は普通ですね……
[マルベリー] 晩ご飯の後に医療部へ行って、より精密な検査をしましょう。
[ブラックナイト] えっとその……大して問題はなさそうだから、医療部に行く必要はないんじゃない?
[マルベリー] 本当ですか? でも具合が悪そうに見えますよ。
[ブラックナイト] 本当だって。
[マルベリー] わ、分かりました……
[マルベリー] あっ、これを渡すのを忘れていました。
[ブラックナイト] これは?
[マルベリー] お守りです。
[ブラックナイト] お守りだってのは分かるけど、それにしてもジャラジャラつけ過ぎでしょ。
[マルベリー] その……多ければそれだけ、効果も上がると思いまして。
[ブラックナイト] 言っておくけど、こんなかさばるものを身に着けてあちこち行ったりしないよ。
[マルベリー] 外出の時にまで着けておく必要はありません、タンスとかに掛けてるだけでも十分なので。
[ブラックナイト] ダメだね。香の匂いが強すぎるから服にまで匂いが移っちゃう。
[マルベリー] ご、ごめんなさい! 配慮が足りませんでした!
[ブラックナイト] ……チッ、これだから、温室育ちの女との付き合いは面倒なんだ。
[マルベリー] (うぅ、ものすごく接しづらい……ダメダメ、何と言おうとこれは私の任務なんだ。頑張って彼女と仲良くならないと。)
[マルベリー] その……どこか見に行きたいところはありませんか? 私がご案内しますよ?
[ブラックナイト] いい、あんたはここにいて。私について来ないで。
[マルベリー] でも……
[ブラックナイト] でもじゃない。
[マルベリー] ブラックナイトさん、待ってください!
[マルベリー] 私、ずっとブラックナイトさんはそういう性格の方なんだと思っていました。他の人と親しくする気はない上、初めての場所で警戒しているから、ああいう態度だったんだって。
[マルベリー] ……でも今思えば、彼女はここが好きじゃなかっただけなんだろうと思います。
[ドクター選択肢1] だがあの時に出て行きはしなかった。
[ドクター選択肢2] 彼女がこのタイミングで出て行った理由は?
[マルベリー] 先月、私たちが救援任務を終えて荒野から戻った直後、彼女は正式オペレーターから協力オペレーターに戻りたいと言い出しました。
[マルベリー] もしかしたら、荒野での任務中、ロドスに対する不満を覚えるような出来事があったんじゃないでしょうか。
[マルベリー] もしくは……もうここには居られないと、私が思わせてしまったのかもしれません。
[ドクター選択肢1] ありえない。自分を卑下しないでくれ。
[ドクター選択肢2] 彼女はそんなこと思っていない。
[マルベリー] ありがとうございます……ドクター。
[ドクター選択肢1] その荒野での出来事で、思い当たることを話してくれないか?
[マルベリー] それなんですが、実は考えてもよく分からなくて。私からすれば、こんなに頭を悩ませる出来事が起こった記憶がないものですから。むしろとても面白くて、楽しかったんです。
[マルベリー] てっきり今回の外勤任務を経て、ブラックナイトさんとも、かなり親しくなれたとばかり思っていたのに。
[マルベリー] なんでしたら、彼女もすっかり私たちの生活に馴染んでくれたとまで考えていました。
[ブラックナイト] 先に言っておくよ。こうして外に出た以上は私の指示に従うこと。足手まといになるようなことは許さないからね。
[マルベリー] でも、隊長は私ですよ?
[ブラックナイト] 私よりも強いの?
[マルベリー] ……いえ。
[ブラックナイト] 私よりも長い間、荒野で暮らしてきたの?
[マルベリー] それもないです……
[ブラックナイト] じゃあ、なんで命令に従わなければならないわけ?
[マルベリー] でも……
[ブラックナイト] ……ぷっ、あははは。
[マルベリー] ブラックナイトさん……どうして急に笑い出したりするんです?
[ブラックナイト] なんでもない。あんたのそのぼやぼやした顔を見てると、なんだか笑いが堪えらえなくなっちゃって。
[マルベリー] ではさっきの話は……?
[ブラックナイト] 冗談だよ。任務が終わるってのに、まだそんな緊張した様子で、毎日テントの中に引きこもってるから、今日は何が何でも外に連れ出してやろうと思ってね。
[マルベリー] 私てっきり……
[ブラックナイト] てっきり、全部本心で言ってるって思った?
[マルベリー] ……はい。
[ブラックナイト] 正直言うと、前なら確かにそう思ってたよ。
[マルベリー] ……私の勘違いじゃなかったんですね。
[ブラックナイト] でもあれは全部私の偏見だったでしょ? 今まで一緒に過ごす間、あんたがやってきたこと全部が私に証明してくれたんだもの。あんたは優秀だってね。
[マルベリー] 急に私を褒め出したりしてどうしたんですか? な、何だかすごく恥ずかしいです。
[ブラックナイト] 恥ずかしがる必要なんてある? 優秀なら褒められて当然だ。あのおばあさんだって、誰もがもう助からないって思ってたのに、あんたが方法を閃いたおかげで助けられたじゃないの。
[マルベリー] 皆さんの手助けがなかったら、私も何もできませんでしたよ。
[ブラックナイト] 謙遜しなくていい。あんたが凄いからこうして褒めてあげてるの。そのまま受け取って。
[ブラックナイト] ほら、投げるよ。食べてみな。
[ブラックナイト] もう、なんでこんな近距離でもキャッチできないかな……
[ブラックナイト] まぁいいや、あんたはもうこっちのを食べな。
[マルベリー] そ、その果物拾っちゃダメですよ。地面に落ちたから不衛生だし、食べたらお腹を壊しちゃいますよ。
[ブラックナイト] 心配ないって。ちょっと皮が剥けちゃったぐらいで、食べられなくなるわけじゃないから。
[マルベリー] だとしても、せめて袖とかで拭いた方がいいと思いますよ。
[マルベリー] ……お、美味しい。こんな果物を食べたのは初めてです。
[ブラックナイト] 前に仲間と一緒に行動してた時、川に近い林があってね。
[ブラックナイト] その林の中にこの果物がたくさんあったんだ。林を出る時は、みんなポケットに詰められる限り詰めて、パンパンになるぐらい採ってた。
[ブラックナイト] それ以降、全然見かけなかったけど、まさかこんなとこにたくさん生えていたなんてね。
[マルベリー] じゃあ、私たちもたくさん採って帰りましょう、皆さんにも食べてもらいたいですし。
[ブラックナイト] 今日連れ出したのは、果物狩りをするためじゃないんだけど。
[マルベリー] あっ、し、失礼しました、てっきり外へ散歩しに来ただけかと……ブラックナイトさん、もしかして他に何かご用事が?
[ブラックナイト] 何おどおどしてるのよ? いいからついて来て。
[マルベリー] えっ、ちょっ、引っ張らないでください!
[マルベリー] ここは……
[ブラックナイト] シッ、静かに。洞窟にデカいのが隠れてるから、驚かせないで。
[マルベリー] (小声)どうして私をここに? 危険過ぎますよ。
[ブラックナイト] (小声)危険? 私がいる限り、あんたはこれ以上ないほど安全だけど?
[マルベリー] (小声)昔、専門家の先生が言ってたんです、野外で仕事をする際は可能な限り野獣を避けるべきだって。
[ブラックナイト] (小声)ストップストップ、先生の言うことなんか知ったこっちゃないって。ほら見て、あいつが出てくるよ。
洞窟の中から微かな音が聞こえてくる。マルベリーはその音の主を確かめようと目を細めた。
だがしばらくすると先ほどの音は消え、聞こえてくるのは洞窟の前に生えた低木が風に吹かれて発する、葉擦れの音だけであった。
彼女が痺れを切らし、野営地へ帰ろうと声をかけようとした瞬間、一匹の野獣が洞窟から顔を覗かせた。
その野獣は、非常にがっしりとした体格をしており、毛皮はとても滑らかだった。開いた口の中には、獲物の喉元を容易く噛みちぎることができるほどの太く鋭い牙がはっきりと見て取れる。
[マルベリー] (小声)す、すごく大きい……
[マルベリー] (小声)わ、私ちょっと怖いです。ブラックナイトさん、その……もう帰りませんか。
[ブラックナイト] (小声)安心して、この距離じゃこっちが見つかることはないよ。もし慌てて立ち上がったら、逆に気付かれちゃうって。
[マルベリー] (小声)で、でも私……
[ブラックナイト] (小声)焦っちゃダメ、もう少しだけここで待とう。
野獣の獰猛な容姿を見て、マルベリーは思わず両手で顔を隠した。しかし、せめて野獣が洞窟の入口で鼻をひくつかさせている様子を観察しようと、こっそり指の隙間から覗き見た。
どうやら周囲に危険がないと判断したのか、野獣は警戒を解いて、何かを呼ぶかのような唸り声を数回ほど喉元から発した。
すると、よちよち歩きの小さな獣の子が一匹、洞窟の中からフラつきながら姿を現した。
湿った泥で足を滑らせたのか、その子は数歩も進まないうちに勢いよく転んでしまい、野獣の後ろ脚に頭をぶつけてしまった。
しかし野獣は怒る様子もなく、ただ振り返って再び立ち上がるよう鼓舞するかの如く、優しくその子の頭を舐め回した。
[マルベリー] (小声)頑張って、あなたならきっとできますよ。
[マルベリー] (小声)わぁ、立ち上がれました。
[マルベリー] (小声)す、すごく可愛いです。
[ブラックナイト] (小声)この前ここら辺で食料を探してた時に、ちょうど妊娠していたあいつを見かけてね。日数的に、そろそろ子供が生まれてる頃なんじゃないかと思って。
[マルベリー] (小声)いいですねぇ、お母さんと一緒にいられて。あれなら何も怖がる必要はありませんね。
[ブラックナイト] (小声)見て、もう行っちゃうよ。
[マルベリー] (小声)あの子たちはどこに向かうのですか?
[ブラックナイト] (小声)秋のうちにたらふく食っておかなくちゃいけないんだよ。でなきゃ寒くて長い冬を越せないからね。
[ブラックナイト] ほら、もうあいつら見えなくなったよ。私たちもそろそろ戻ろう。
[マルベリー] あんな場面は、今まで一度も見たことがありません。あっ、違う。ドキュメンタリーでなら見ましたけど、数に入りませんよね。
[マルベリー] 直接見た今みたいに、心が震えることはなかったですから。
[ブラックナイト] 心が震えるだって? こんなのよくあることじゃない。
[マルベリー] ブラックナイトさんが以前暮らしていた場所では、いつもこういう素晴らしい出来事を見られるから、そんなことが言えるんですよ。
[ブラックナイト] ……そうだね、こういう場面はしょっちゅう見かけるよ。
[マルベリー] ちゃんと記録してくださいね、ブラックナイトさん。
[ブラックナイト] え? 記録するって何を?
[マルベリー] 今回のことはとても貴重な体験だったので、ぜひ本艦へ送る報告書に記録してください。報告する価値のある一件ですから。
[ブラックナイト] ……分かった、書いておく。
[マルベリー] 締め切りギリギリになってから書く、なんてことじゃダメですよ。
[ブラックナイト] 分かった分かった。ほらさっさと行くよ、あの果物を採って帰るんだろう? 野営地にいるみんなもきっと食べたいだろうし。
[マルベリー] 私が空気が読めなくて、あんな興を削ぐようなことを言ったせいでブラックナイトさんを怒らせてしまったんじゃないかって。彼女の性格なら、ああいった些細な決まり事は鬱陶しかったはずです。
[マルベリー] はぁ……ドクター、どうしましょう? 私、ブラックナイトさんが出て行っちゃった今になって気付いてしまいました。謝りたくてももう無理なんだって。
[ドクター選択肢1] 君のせいじゃない。気にすることはないよ。
[ドクター選択肢2] 別れが言えなかったのを後悔してるんじゃ?
[マルベリー] どちらにせよ、今更何を言ったって遅いですよね。
[マルベリー] えっ!?
[ブラックナイト] 二人ともここで何をゴチャゴチャ話してるの? あっ、ドクター、私の出した申請書の許可は下りたの? 提出して何日も経つのに、連絡が来ないんだけど?
[ドクター選択肢1] 今ちょうど話し合っていたところだ。
[ドクター選択肢2] 入る前にまずはノックをしてくれ。
[ブラックナイト] フンッ、まわりくどいことは嫌なの、面倒くさい。
[マルベリー] ブラックナイトさん、うぅ……てっきりもう出て行っちゃったんだとばかり……私、ちゃんとお別れも言えてなかったから……
[ブラックナイト] えっ、ここを出る時はきちんと申請書を提出して許可をもらわないとダメって言ったのはそっちでしょ?
[マルベリー] ……でも、ブラックナイトさんのことだし、そういった規則に嫌気が差したんじゃないかと思って……
[ブラックナイト] これだけ長く居座ってたら、私だって分かるよ。あんたたちの規則にはそれなりの意味があるってね。正直あんまり好きってわけじゃないけど、まったく我慢できないってこともない。
[ブラックナイト] それに……ここには友達がいるんだから、黙って出て行ったりするはずないでしょ。
[ドクター選択肢1] 出て行かなければならない理由って何なの?
[ドクター選択肢2] どうしてここに残ってくれないんだい?
[マルベリー] そうですよ、ブラックナイトさん。もし何か気に入らないところがありましたら、なんなりと言ってください。私たちの方でちゃんと解決しますので。
[ブラックナイト] 場所の問題じゃないの。
[マルベリー] 場所じゃなければ、人の問題ですか? も、もしかして私のことが嫌いだから、こ、ここにいたくないとか……
[ブラックナイト] そんなの一度も思ったことないけど。
[マルベリー] 私のことが嫌いじゃないんですか?
[ブラックナイト] あんたは優しいし、仕事に責任感があって、能力も高い。私が今までここに居座ってたのは、あんたがまだ私の助けを必要としていたからだよ。じゃなきゃとっくに出て行ってた。
[マルベリー] 私があなたの助けを必要としている?
[ブラックナイト] そうだよ、あの日のこと忘れたの?
[医療オペレーター] あれ、ブラックナイトさんじゃないですか。どうかしたんですか、こんなところまで来て? もしかしてお身体の調子が悪いとか?
[ブラックナイト] ううん、ちょっと訊きたいんだけど、マルベリーはいる?
[医療オペレーター] いますけど、その……彼女を待ってたんですか?
[ブラックナイト] 昨日、任務を終えて本艦に戻ったって聞いたんだけど、まだ一度も顔を合わせてなくって。彼女に何かあった? もしかして怪我でもしたとか?
[医療オペレーター] いえいえ、別にそんなことは。
[ブラックナイト] じゃあ今何してるの?
[医療オペレーター] 今回の救援任務で運ばれた患者数が予想を大幅に超えてしまって、医療部の人手が全然足りていない状態なんです。それで、一時的にマルベリーさんに軽症者の応急手当をお願いしまして。
[ブラックナイト] それって良くないんじゃないの? だって彼女、外勤任務から戻ってきたばっかりなんでしょ。
[医療オペレーター] 実は、明日からで大丈夫と言ったんですが、本人がどうしてもすぐに始めたいと。
[ブラックナイト] ふぅ……
[医療オペレーター] なんだかとても心配しているみたいですけど。
[ブラックナイト] どうしてそんな不思議そうな顔をしてるわけ?
[医療オペレーター] いえ、マルベリーさんはあなたの話になると、いつもため息をつくものですから。どうもマルベリーさんは、あなたに嫌われていると思ってるみたいですよ。
[ブラックナイト] ありえない。一度もそんなこと言ったことないし。
[医療オペレーター] それなら良かった。みんなも、是非あなたに彼女のことを助けてあげてもらいたいと思ってるんですよ。
[ブラックナイト] 彼女を助ける? どうして?
[医療オペレーター] マルベリーさんは専門分野ではとても頼りがいがあるんですけど、いかんせんまだ年齢が若いでしょう? 荒野でのサバイバル経験も未熟なので、あなたについていれば色々学べると思いまして。
[ブラックナイト] 彼女、もう仕事は終わってるの?
[医療オペレーター] とっくに終わってる頃だと思いますけど……
[マルベリー] スゥ……スゥ……おじさん、動かないでください……怪我をしてるんですから……
[医療オペレーター] わわっ! マルベリーさん、クローゼットに寄りかかったまま寝てますよ。きっとすごくお疲れだったんでしょうね。
[ブラックナイト] 寝言で何か言ってる? ろくに寝ることもできないなんて……
[ブラックナイト] メット。
[メット] グゥ!
[ブラックナイト] この子をもっと深く眠らせて。
[メット] グゥ──
[マルベリー] スゥ……
[ブラックナイト] ねぇ、ちょっと手伝ってくれる? この子を運んでやりたいんだ。こんなとこで寝かせるわけにはいかないよ。
[医療オペレーター] あっ、はいはい、ただいま。
[ブラックナイト] まったく、面倒ばかりかけてくれちゃって。
[マルベリー] あの日、宿舎まで運んでくださったのはブラックナイトさんだったんですね。
[ブラックナイト] 他に誰がいるっていうの? あの日あんなぐっすり寝られたのは、全部メットのおかげなんだからね。
[マルベリー] 私、誤解しちゃってました……
[ブラックナイト] あんたは色々と考え過ぎ。
[ドクター選択肢1] 誤解を生んだ原因はそれだけではないと思う。
[ドクター選択肢2] ブラックナイトの話し方も誤解を生みやすい。
[ブラックナイト] ……
[ブラックナイト] ごめん、今まで一緒に過ごしてきた中で、あんたみたいな女の子はいなかったから。
[ブラックナイト] わざと困らせるつもりはなかったんだ。
[マルベリー] 大丈夫です。で、でも誤解が解けたのなら、ブラックナイトさん、どうかここに残ってください! 私ここで色々と学びましたから、あなたの病状もきっと抑えられるはずです。
[ブラックナイト] でも私……やっぱり荒野に戻りたいんだ。私にとっては、あそこの暮らしが一番性に合ってるから。
[ドクター選択肢1] 大丈夫、外勤任務ならたくさんあるから。
[ドクター選択肢2] 荒野の外勤任務だけを担当しても構わない。
[ブラックナイト] ううん、それでもやっぱり違うんだ。ここなら衣食住に困ることはないし、私の病状を抑えてくれる薬もあるってことは分かってる。新しい仲間とも知り合えたし、新しいスキルも学ぶことができた。
[ブラックナイト] それで満足すべきなんだけど……
[ブラックナイト] 夜中に目が覚めて、月も星も虫の鳴き声もない部屋で、真っ白な天井をじっと見ていると、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになる時があるんだ。
[ブラックナイト] 自分の直感が言っているんだ。心が訴えかけてくるし、頭も一杯。
[ブラックナイト] それは、すごく簡単な一言で言い表せられる――
[ブラックナイト] 見上げれば空が見える場所で暮らしたいってね。
[マルベリー] ブラックナイトさん、ご自分の身体の状態が……どれだけ悪いのかご存じですか? その空が、あなたを守ってくれるって言うんですか?
[マルベリー] 私は反対です! 許可できません! ドクターも、どうかブラックナイトさんの申請書に許可を出さないでください!
[ブラックナイト] マルベリー、聞いてほしい。自分にとれる選択肢があまりないってことは、よく分かってる。だからこそ私は真剣に考えて、自分自身が一番求めているものを選んであげたいの。
[ブラックナイト] あんたを連れてって見せてあげたあの野獣のこと、覚えてる?
[マルベリー] はい……今も覚えています。
[ブラックナイト] 荒野にはね、ああいった野獣がたくさんいるの。たくさん。
[ブラックナイト] 数年前、一匹の眠獣と出会ったんだ。とても強い子だったから、一目見て、絶対にこの子を飼い慣らしてやるって決めたの。
[ブラックナイト] 何度も近づいて交流しようとしたけど、いつも拒絶された。私の姿を見ると、すぐどっかに消えちゃうの。美味しいエサやふかふかで暖かい寝床をあげても、まったく興味を示してくれなかった。
[ブラックナイト] ある時、その子が獲物に反撃されて傷ついたことがあったの。私はその子を助け、野営地まで連れ帰って治療してやった。
[ブラックナイト] 最初こそすごく警戒されていたけど、だんだん怪我が治っていくにつれて、どんどん打ち解けていったんだ。
[ブラックナイト] その時私は、やっとこの子を飼い慣らすことができた、これでもう四六時中見張っておく必要もなくなったって思ったね。
[ブラックナイト] でもある日短い狩りを終えて、野営地まで帰ってみたら、あの子はいなくなってた。私があの子に編んでやった小さな帽子をその場に残してね。
[ブラックナイト] すごくムカついたよ、毛糸なんて荒野じゃ滅多に手に入らない……私てっきりあの子がその帽子を気に入ってくれたと思ってたのに。
[ブラックナイト] それでその子の足跡を辿って、後をつけていったの。
[ブラックナイト] で、見つけた時にはその子、ひたすら砂地でゴロゴロしてたんだ。全身砂だらけ。でも、すごく楽しそうだった。それまで私が見てきた中で、あの時が一番楽しそうだったかな。
[ブラックナイト] それを見た私は、その場から立ち去った。気付いたんだ。あの子は私の所有物じゃない、あの砂地の、あの広い砂漠に属するものなんだってね。
[マルベリー] 私……私……
[ドクター選択肢1] ……そうか。
[ドクター選択肢2] 分かった。
[ドクター選択肢1] ブラックナイト、君の申請を許可しよう。
[ドクター選択肢1] 以後、君は本艦駐留不要の協力オペレーターだ。
[ブラックナイト] ……どうも。
[マルベリー] どうしても出て行かなくちゃならないのなら、せめて……せめて、十分な量の薬を持って行ってくださいね。
半年後
[マルベリー] 早く、早く繋がってお願い。
[マルベリー] もしもし? 聞こえますか? こちらはマルベリー、龍門へ向かう任務中に超大型の砂嵐に遭遇、至急救援を要請します!
[マルベリー] もしもし? 誰か応答してください!
[マルベリー] 他に何か方法は? 一体どうすれば……もしかして私……
[マルベリー] (ここで死ぬのかな。)
[マルベリー] お腹空いた。すごく眠いし、苦しい。
[マルベリー] 誰も来ないだろうね……誰も。
[マルベリー] うぅ……パパ……ママ。
[マルベリー] ごめんなさい……私もう……だめみたい……
[???] グゥ──グゥ──
[マルベリー] (誰……私を舐めてるのは? うっ、くすぐったい……)
[???] 気がついた? さっさと目を開けて。
[マルベリー] (よく見えないけど、すごく聞き覚えのある声……)
[???] そんなに目を細めちゃってどうかしたの?
[???] あぁ、砂が目に入っちゃってたのか。
[???] (息を吹きかける)
[???] これでどう? まばたきしてみて。
[ブラックナイト] まったくもう、私がいなかったらどうなっていたことやら。
[マルベリー] うわぁぁん!
[ブラックナイト] ちょっとちょっと、いきなり抱きつかないでよ!
[ブラックナイト] 早く放して!
[マルベリー] ……会いたかったです。
[ブラックナイト] 分かった分かったってば……しょうがないな、少しだけだよ。もう少しだけ、このままでいてあげる。
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