aklib_story_望むままに

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望むままに

外勤任務中、ブレミシャインはとある兄弟に出会う。彼女はその兄弟に、自分と姉の姿を重ねるのだった。


[ブレミシャイン] 流れてきた強盗団……ロドスにはこんな依頼も来るんだね。

[術師オペレーター] うん。各地の事務所ごとの運営状況にもよるけど、どんなおかしな依頼が舞い込むことだってあり得るよ。

[前衛オペレーター] まぁ普通は感染者や源石関連の案件が多いけどな。

[前衛オペレーター] 事務所からの情報によれば、村の民兵が今回の作戦に協力してくれるそうだ。なんでもそこの隊長はすごいらしいぞ。

[ブレミシャイン] でもここまで来るのにかなり時間がかかっちゃったし、なにか問題が起きてなければいいけど……

[狩人の弟] 君たちが強盗の捕縛に協力してくれるロドスか?

[ブレミシャイン] はい。

[ブレミシャイン] あなたが民兵隊長のランドンさんですか?

[狩人の弟] いや、俺は弟のランディだ。兄貴は……

[狩人の弟] 少し前、兄貴の隊がパトロール中に襲われてな。隊員は皆無事だったが、兄貴だけ行方不明なんだ。ずいぶん探したが、まだ見つからないんで、一時的に俺が民兵隊を率いている。

[ブレミシャイン] ごめんなさい。もう少し早く来ていれば……

[狩人の弟] 君たちのせいじゃない。トランスポーターが情報を伝えるのにも時間がかかるからな。

[狩人の弟] 今はただ、君たちの力も借りて強盗どもを捕まえて、村の平和を取り戻したい。それだけだ。

[ブレミシャイン] ……依頼によると、強盗団がキャラバンの源石武器を奪って、この辺りに流れてきたという話でしたが……

[ブレミシャイン] だとしたら、かなり厄介な相手です。

[ブレミシャイン] 恐らく、強盗はこの村にも目をつけています。皆さんは村に残って襲撃に備えてください。

[狩人の弟] しかし――

[民兵A] 彼らが残れというなら任せておけばいいじゃないか。何を出しゃばる必要がある。

[狩人の弟] グラン、兄貴は奴らのせいで失踪したんだ!

[民兵A] だから何だ? ランドンは村一番の実力者だ。それを失踪させるような相手に、俺たちが敵うとでも?

[民兵A] お前が行ったところで、何ができるっていうんだ?

[狩人の弟] ……グラン、言い争いはよそう。

[狩人の弟] だが強盗を捕まえないと、村に平和は戻らないんだ。

[民兵A] ならばどうやって捕える? パトロールのやり方はおろか、隊の分け方すら知らないお前の「素晴らしい」采配でか?

[民兵A] それとも、俺たちの名前すらロクに覚えちゃいないお前さんの「天才的」リーダーシップでか?

[民兵A] まさか、自分がランドンになれるとでも思っているのか?

[狩人の弟] 何だと!?

[民兵A] この際だから言わせてもらおう。

[民兵A] 皆が本気でお前のような代理隊長を認めたとでも思ったか? ランドンの顔を立てただけだと何故気付かない?

[民兵A] これまでお前は、俺たち民兵の訓練に参加せず、毎日山で狩りばかりして、村の防衛なんて考えたこともないだろ。

[民兵A] それがランドンがいなくなった途端、急にランドンの代わりに隊長を務めてこの村を守るとは笑わせてくれる。今までお前は何をやっていた?

[民兵A] しかもこれ見よがしにランドンの剣なんか持って、俺たちに見せつけてるつもりか?

[民兵A] そうだろう、みんな!

[民兵B] まったくだ! もう我慢ならん!

[民兵C] そうだ。なんでお前に命令されなくちゃいけないんだ!

[民兵B] やめだやめだ、行くぞ!

[民兵A] そういうことだ。わかっただろう、ランディ。この件はそこのよそ者たちに任せとけばいい。

[民兵A] 一目見ただけでわかるよ、お前より何倍も有能だってな。

[狩人の弟] ……

[ブレミシャイン] ……

[追魔騎士] 貴様の夢は他者より与えられし物。そしてその信念も借り物にすぎない。

[追魔騎士] 無論、若さを理由に己の迷いから逃げ、目を逸らすこともできるだろう……だがそのような行いに、一体何の意味がある?

[追魔騎士] 世間の者は、耀騎士を意固地で頑迷と笑うこともできようが、その行いの強大さと有り様を、否定できる者など在りはしない。

[追魔騎士] だが貴様はどうだ。――貴様は、騎士ですらない。

[ブレミシャイン] あの……

[狩人の弟] あいつらが行かなくても、俺は君たちと一緒に行くよ。

[ブレミシャイン] ですが……

[狩人の弟] 道案内が必要だろう?

[術師オペレーター] 一緒に来てもらおうよ、ブレミシャイン。

[ブレミシャイン] わかった……

[狩人の弟] この辺りに怪しい者はいないようだ。人がいた痕跡もない。

[前衛オペレーター] へぇ、こいつは驚いた。口先だけかと思ったが、なかなかやるみたいだな。

[術師オペレーター] あんたは物の言いようを知らないんだから、黙っときなよ……

[狩人の弟] いいんだ。俺も他人に誇れるのは狩りくらいのものさ。

[狩人の弟] もう少し進んでみよう。

[狩人の弟] それから……さっきは見苦しいところを見せてすまない。

[狩人の弟] 彼らは君たちに協力したくないわけじゃなくて、俺に協力したくないだけなんだ……

[ブレミシャイン] どうして皆さんあんな態度なんですか?

[狩人の弟] それは……俺が兄貴の代理になったからだろうな。

[狩人の弟] 俺の爺さんは先代の民兵隊長だった。小さい頃から、俺と兄貴は爺さんに鍛えられて育った。

[狩人の弟] この辺は国境に近く、流れ者の強盗やバウンティハンターなんかが多いんだ。爺さんは、俺たち兄弟が大人になったら、協力して村を守ってほしいと願っていた。

[狩人の弟] だが生まれつき人付き合いが得意な兄貴と違って、俺は一人でいるのが好きだった。

[狩人の弟] 彼らの言うとおり、俺は一度も訓練に参加したことはないし、いつも山に籠もって狩りばかりしていた……

[狩人の弟] 兄貴はそんな俺の考えをわかっていて、一人で民兵隊長の任を負ってくれていたんだ。

[狩人の弟] それで問題が起きるなんて考えたこともなかった……今回、兄貴が失踪するまではな。

[ブレミシャイン] ……

[狩人の弟] はぁ……

[ブレミシャイン] さっき言われていましたが、今使っている剣は、お兄さんのものですよね?

[狩人の弟] ああ。

[狩人の弟] 兄貴が失踪した場所の近くに落ちていたらしい。

[狩人の弟] これで兄貴を傷つけた強盗どもを倒してやりたくてな、持ってきたんだ。

[ブレミシャイン] ですが、かなりの重さに見えますし、向いてないんじゃ……

[狩人の弟] ……構うものか。こいつで奴らを打ち負かしてやる。

[ブレミシャイン] でも――

[ブレミシャイン] 危ない!

[ブレミシャイン] ……!

[ブレミシャイン] ハァッ!

[狩人の弟] ……お前はっ!?

[強盗] チッ。

[狩人の弟] 待て!

[ブレミシャイン] 待ってください、先走らないで!

[ブレミシャイン] ダメだ、先にこの人たちを片付けよう!

[狩人の弟] 待ってくれ!

[強盗] ……

[狩人の弟] 兄貴……なんだろ?

[狩人の兄] ……ランディ。

[狩人の弟] 兄貴、その服は、俺たちを襲った強盗たちのじゃないか。

[狩人の弟] どうして……?

[狩人の兄] 賢いお前ならわかるはずだ。

[狩人の弟] あの強盗どもとグルだったのか……?

[狩人の兄] そうだ。

[狩人の弟] どうして?

[狩人の兄] ランディ、俺はあんな辺鄙な田舎村に閉じ込められたまま終わりたくないんだよ。

[狩人の兄] 一生あの間抜けどもに号令をかけるだけの民兵隊長だなんて、まっぴら御免だ。

[狩人の兄] それだけさ。

[狩人の弟] 兄貴!

[強盗] くっ……

[ブレミシャイン] なんて数なの……

[術師オペレーター] ブレミシャイン、ここは私たちに任せてランディを追って。

[ブレミシャイン] でも……

[術師オペレーター] 嫌な予感がするんでしょ? 私も感じてる。

[ブレミシャイン] ……うん。

[術師オペレーター] じゃあ早く行って。その予感が的中しないように。

[術師オペレーター] これくらい私たちで対処できるから安心して。

[前衛オペレーター] その通りだ。

[ブレミシャイン] わかった!

[狩人の兄] ランディ、なぜ俺の剣を持っている?

[狩人の弟] ……

[狩人の兄] 重い剣は苦手じゃないのか? 自分の短剣の方が手に馴染むと、いつも言っていただろう。

[狩人の弟] 兄貴、理由はわかるだろ。

[狩人の弟] 昔はそんな奴じゃなかったのに、どうして……

[狩人の兄] 昔はそんな奴じゃなかった、か。

[狩人の兄] まぁ、その通りだな。

[狩人の兄] 今までは村を守るため、皆の手本となるために、ずっと自分を抑えてきたんだ。

[狩人の兄] 他人と罵り合う感覚だって味わったこともない。

[狩人の兄] 今になってやっとその痛快さを知ったよ!

[狩人の弟] くっ……

[ブレミシャイン] ランディさんの声が聞こえた。この先だ……

[ブレミシャイン] ランディさん――

[狩人の兄] それとなぁ、ランディ。

[狩人の兄] 教えてやるよ。俺もずっとお前みたいに生きたかったんだ。誰が死のうがお構いなしで、一日中自分のことだけ考えて、山に籠もって狩り三昧でも誰にも咎められない感覚を味わいたかったんだよ!

[狩人の兄] 今ならわかるよ。

[狩人の兄] 確かに最高だ! 道理でお前が夢中になるわけだな!

[狩人の弟] ……

[狩人の弟] 兄貴……俺のせいで、仕方なく責任を背負っていたのか?

[マーガレット] マリア、正直に答えてくれ。

[マーガレット] 私は、お前の夢を奪ってしまったのか?

[ブレミシャイン] ……

[狩人の兄] かもな。

[狩人の兄] これから俺は、今までやってみたくてもできなかったことをやりまくる。物を奪ったり、火を放ったり……

[狩人の兄] あとは――人を殺したりな。

ランドンは剣を振りかぶり、ランディ目がけてためらうことなく斬りつけた。

まるで目の前にいるのは弟ではなく、道を阻む丸太だとでも言わんばかりに。

[ブレミシャイン] させない!

[狩人の兄] ふん……助っ人か。

[ブレミシャイン] 自分の弟を手にかけるつもり!?

[狩人の兄] 悪いか? 俺はこの道を行くと決めたんだ。それならコイツが弟だろうが何だろうが、ただの邪魔者なんだよ。

[ブレミシャイン] ランディさん、立ってください!

[ブレミシャイン] 村を守るんでしょう!?

[狩人の弟] 兄貴……

[狩人の弟] 兄貴がこんな風になったのは、俺の責任でもある。すまなかった。

[狩人の弟] だけど、どうしても村を壊すというなら……俺があんたを止める。

[狩人の弟] 俺が、俺たちの村を守る!

[狩人の兄] 村を守る?

[狩人の兄] 何を言っているんだ、ランディ。

[狩人の兄] 今までお前が村を守ったことがあったか?

[狩人の兄] お前は村のために何をした? ほら、言ってみろ!

[狩人の兄] グランたちがお前に従うか? あいつらをどうやって動かす? 民兵の仕事を知ってるのか? 何も知らないくせに。

[狩人の兄] そんなザマで、よく俺の前で村を守るなんて言えるな?

[狩人の弟] これから学んでいくさ!

[狩人の兄] これから? これからなんてないんだ、弟よ。

[ブレミシャイン] 自分勝手な考えを押しつけないで!

[狩人の兄] その女を止めろ!

[ブレミシャイン] うっ。

[狩人の兄] ランディ、お前はこれまで通り気ままに暮らしてろ。

[狩人の兄] 俺が村を潰したら、さっさと逃げればいい。

[狩人の兄] 今のお前は、大義を掲げて昔の俺の言葉を語り、昔の俺の理想を自分のものとして振る舞っているが……

[狩人の兄] ただただ滑稽なだけだ。

[狩人の弟] なんでだよ! 村を守りたい気持ちが間違ってるって言うのかよ!

[狩人の兄] 間違っちゃいないさ。ただ――

[狩人の兄] 少し遅かったな。

鋭い金属音とともに、ランディの長剣は両断された。

[狩人の弟] ぐ……あ……

[狩人の兄] これ以上夢を見るのはやめろ、ランディ。

[狩人の兄] 村を出て、新しい場所で暮らせ。

[ブレミシャイン] ……ランディさん。

[狩人の弟] ……

[狩人の弟] ブレミシャインさん。俺は間違ってたのか?

[狩人の弟] もっと早く兄貴の責任を一緒に背負ってやるべきだったのか?

[狩人の弟] わがままで、自分本位な俺への罰なのか?

[ブレミシャイン] ……

どう答えるべきなのだろう?

間違っていた? でも本当に間違いなのだろうか?

間違っていない? 言ってみたところで信じてもらえるだろうか?

[前衛オペレーター] ブレミシャイン、二人とも無事か!?

[ブレミシャイン] 大丈夫だよ……そっちは?

[前衛オペレーター] 二人捕まえて、強盗どもの拠点を聞き出した。今から片づけに行っても一向にかまわないぞ。

[術師オペレーター] よしなよ。あいつらの人数は想像以上だったし、こっちの戦力じゃ一網打尽にするのは難しいでしょ。

[術師オペレーター] 一度村に戻って民兵たちも連れてこないと無理だよ。

[ブレミシャイン] うん、じゃあ一回戻ろう。

狭い部屋に金属音が絶えず響いている。

ブレミシャインは真剣な面持ちで、赤く熱した鉄塊をひたすら打ち続けている。まるで自身の意志を鍛えるかのように。

[ブレミシャイン] ……

[ブレミシャイン] お姉ちゃん、彼がお兄さんに投げかけた問いは、お姉ちゃんが私にした質問と似てるんだ。

[ブレミシャイン] 「私は、お前の夢を奪ってしまったのか?」

[ブレミシャイン] 立場はちょうど真逆だけどね。

[ブレミシャイン] でもこれ、実はお互い様の問題だと思うんだ。

[ブレミシャイン] 私が機械いじりに夢中になったせいで、お姉ちゃんは余計に騎士競技に熱を注ぐことになった。

[ブレミシャイン] こう言うと、私がお姉ちゃんの選択権を奪ったことを責めてるみたいでしょ。

[ブレミシャイン] だけど逆にして、お姉ちゃんが騎士競技に熱を注いだせいで、私はますます機械いじりにのめり込むことになった――

[ブレミシャイン] こう言うと今度は、お姉ちゃんが私の夢を奪ったことを責めてるみたい。

[ブレミシャイン] どっちも理屈が通ってそうで、通ってなさそうでもある。

[ブレミシャイン] 今になってちょっとわかったんだ。こういう言い方って、責任を押しつけ合う時にしかしないんだよね。

[ブレミシャイン] 本当にそう思ってるわけじゃなくて、ただ相手のせいにして納得したいだけなんだ。

[ブレミシャイン] 実際は、こういうことをはっきり決めるのって無理でしょ?

[ブレミシャイン] 私たちは小さい頃から一緒に暮らして、刺激し合ってきた。お互いのことはよくわかってるんだから。

[狩人の弟] ブレミシャインさん、武器を作ってるのか?

[ブレミシャイン] いえ、これは同僚のヴァルカンさんという方から教わった集中方法なんです。

[ブレミシャイン] 武器を作るためじゃなくて、自分の雑念を払うためにやってます。

[ブレミシャイン] やってみますか? すごく効きますよ。

[狩人の弟] はは、やめておくよ。

[狩人の弟] 伝えておくことがあってな。強盗団の掃討作戦には、ほとんどの民兵が参加してくれるそうだ。村では物資と武器の準備を進めているよ。

[ブレミシャイン] あなたはどうするんですか?

[狩人の弟] 俺は……

[ブレミシャイン] ……

[ブレミシャイン] 実は、私もあなたと似た境遇なんです。

[ブレミシャイン] 私にもお姉ちゃんがいます。

[ブレミシャイン] 私のお姉ちゃんもあなたのお兄さんと同じで、私たち二人で背負うべきかもしれない責任を一人で背負い続けていました。

[ブレミシャイン] そして私は当たり前のように、お姉ちゃんに守られながら自分の好きなことをしていたんです。

[ブレミシャイン] ちなみに私の好きなことと言ったら、機械いじりとか、武器や装備なんかの製作でした。今着てる甲冑も自作なんですよ。

[ブレミシャイン] ……ちょうど良い鉄塊は……っと、これにしよう。

[狩人の弟] ……

[ブレミシャイン] だけどある日、お姉ちゃんは家を離れざるを得なくなって、遠い場所へ行っちゃいました。

[ブレミシャイン] それから、今までお姉ちゃんは私を色んなことから守ってくれてたんだって、やっと気付きました。

[ブレミシャイン] それで私も、あなたみたいにお姉ちゃんが背負ってくれてたものを背負おうとしたんです。

[狩人の弟] それは……うまくいったのか?

[ブレミシャイン] ダメでした。アハハ……

[ブレミシャイン] お姉ちゃんの責任を背負おうとしたら、さんざん批判されちゃったんです。その中で一番的を射ていたのは――

[ブレミシャイン] 「お前の夢は借り物だ」っていう言葉です。

[ブレミシャイン] 私はお姉ちゃんが見た景色を見たことも、お姉ちゃんが歩んだ道を歩いたこともありません。

[ブレミシャイン] 危機が迫ってからようやく何とかしなきゃって気づいて、いざやってみたら、ことごとく失敗しちゃって。

[ブレミシャイン] うーん……全然炉の手入れがなってないよ! あとで綺麗にしてあげないと。

[ブレミシャイン] お姉ちゃんはよくやったって言ってくれました。けど実際は全然ダメだったって自分でもわかってるんです。

[ブレミシャイン] 唯一、あなたより運が良かったのは……最後にお姉ちゃんが帰ってきてくれて、負うべき責任をまた背負ってくれたってことです。

[ブレミシャイン] しかも前よりずっとたくさん、ずっと上手に。

[狩人の弟] 俺の兄貴はそれとは逆に、重圧に耐えきれなくて、責任を放棄することを選んだってわけだな。

[狩人の弟] そして俺も失敗した。

[狩人の弟] 今さらこんな話をして、どうなるっていうんだ?

[ブレミシャイン] 私は機械いじりに熱中したのを後悔したことも、お姉ちゃんの代わりに責任を背負おうとしたのが間違いだったって思ったこともないんです。

[ブレミシャイン] この想いがあなたにも伝わればいいなって。

[狩人の弟] ……

[ブレミシャイン] 準備不足だったことも、お姉ちゃんの代わりにお姉ちゃんの道を歩むには力不足だったことも今では理解しています。

[ブレミシャイン] 結果的に、私の行動はそれを身をもって確かめるだけに終わってしまいましたが、その一歩を踏み出した自分を誇らしく思います。

[ブレミシャイン] 私じゃ騎士の道を歩み続けることは難しいかもしれません。ですが少なくとも、自分の信念には背きませんでした。

[狩人の弟] ……君はたくましいな。

[ブレミシャイン] そんなことないですよ。訓練に耐え切れなくて教官のおばに弱音を吐くこともありますし、お姉ちゃんが帰ってきた時なんか泣いちゃうところでしたから……

[ブレミシャイン] あの頃は、大好きな機械いじりをする時間もほとんどありませんでした。

[ブレミシャイン] ですが、趣味の時間がなくなったって、私は血筋や家族、もしくは別の何かによる繋がりが余計な物だとは思いません……

[ブレミシャイン] だから、私が責任を負わなきゃいけなくなった時も、それが当たり前だと思ったんです。

[ブレミシャイン] これが私の答えです。

[ブレミシャイン] あなたの答えを聞かせてください。

[狩人の弟] ……俺は今まで、兄貴がもたらすものを当たり前のように享受してきた。

[狩人の弟] だからなのか、兄貴のあんな姿を見せられて、なんとも後ろめたい気持ちになったんだ。

[狩人の弟] だが俺はこの村の一員だ。今でもこの村を守りたいと思っている。

[狩人の弟] 何を今さらと言われてもいい。信頼されなくてもいい……俺はこんなことで後悔したくないんだ。

[狩人の弟] だから……本当は、俺が兄貴を止める役割を買って出るべきだと言いたい。

[狩人の弟] だけどどうすればいいかわからないんだ……

[ブレミシャイン] ……折れた剣を貸してもらえますか。

[ブレミシャイン] 私があなたにぴったりの武器を作ります。

[狩人の弟] えっ?

[ブレミシャイン] その剣はあなたには重すぎます。重心が不安定になって、力もうまくコントロールできていません。

[ブレミシャイン] 手に馴染まない武器で実力を発揮できる人なんていませんよ。

[ブレミシャイン] もしお姉ちゃんがここにいたら、きっと先頭に立って強盗団の拠点に飛び込んで、敵を蹴散らしたはずです。

[ブレミシャイン] だけど私は職人です。最高の道具を作って周りに力を与えるのが、職人としての戦い方ですから。

[狩人の弟] ……ありがとう。お願いするよ。

[ブレミシャイン] ……

[ブレミシャイン] お姉ちゃん、この兄弟は私たち姉妹のもうひとつの未来だったりしないかな?

[ブレミシャイン] つまり、お姉ちゃんは騎士の道を捨てて、この大地を放浪する――

[ブレミシャイン] そして私はお姉ちゃんの理想を継いで、正真正銘の騎士になる。そんな未来。

[ブレミシャイン] うわぁ、なんて未来なんだろう。お姉ちゃんが落ちぶれて、私が本物の騎士になるなんて、全く想像できないよ。

[ブレミシャイン] だけど騎士小説の中には、凋落しても信念を持ち続ける騎士だっているんだ。そういう人もカッコいいよね……

[ブレミシャイン] ……っと、つい雑念が。集中、集中!

[民兵A] ……

[狩人の弟] ……

[民兵A] 話は聞いた。ランドンは……

[狩人の弟] グラン、すまない……

[民兵A] 何を謝る? 裏切ったならアイツは敵、それだけの話だ。

[狩人の弟] ……グラン。今日から俺も訓練に加わるよ。

[民兵A] なんだ、まさかまだランドンになれると思っているのか?

[狩人の弟] 兄貴になるつもりはない。この村の民兵隊長になるだけだ。

[民兵A] ……勝手にしろ。

数日後

[狩人の弟] はぁっ!

[前衛オペレーター] うおっ、今の一撃はいやらしいな。

[術師オペレーター] あんたは防ぎきれる?

[前衛オペレーター] 当然だ。だが、偵察オペレーターの及第点に迫る実力だな。

[前衛オペレーター] たった数日でここまで成長するとは、機会があればロドスへの加入を推薦してもいいくらいだ。

[ブレミシャイン] ふぅ、ゾフィアおばさんが訓練をつけてくれた日々を、少し思い出しちゃった……

[ブレミシャイン] どんな攻め方をされたっけ……確か、こう!

[ブレミシャイン] くらえっ!

[狩人の弟] くっ……

[ブレミシャイン] それから自己流の追撃も!

[狩人の弟] ブレミシャインさん、正直そのアーツにはそろそろ慣れてきたぞ……

[民兵A] あいつ、真面目に戦う姿はなかなか様になってやがる……

[民兵B] ランディの奴、どうして俺たちと一緒に訓練する気になったんだ?

[民兵A] ふん、最初からやれってんだ。

[狩人の弟] ここだ!

[ブレミシャイン] 惜しかったですね。あなたがアーツに慣れてきたのには気づいてたから、こちらもそれに備えてたんです!

[ブレミシャイン] だけど、どんどん良くなってきてますよ!

[狩人の弟] もう一度だ!

[ブレミシャイン] あ、ちょっと休憩にしましょう。見せたいものもあるので、一緒に来てください。

[ブレミシャイン] どうぞ。あなたの体格に合わせて鍛えた長剣です。

[狩人の弟] 兄貴のと同じだ……

[ブレミシャイン] ふふ、見た目を似せて作りましたから。振ってみてください。

[狩人の弟] 軽い……

[ブレミシャイン] どうですか? これなら力を発揮できそうですか?

[狩人の弟] ブレミシャインさん、本当になんとお礼を言ったらいいか……

[ブレミシャイン] お礼なんていいんです。これであなたが立ち直れるなら、私も嬉しいですから!

[ブレミシャイン] よし、じゃあ行きましょう。あの強盗たちをやっつけに!

[狩人の弟] ああ!

[狩人の兄] ふん、やはり来たか。

[狩人の弟] 兄貴、驚いていないようだな。

[狩人の兄] 俺たちは村を攻めるため、お前たちは俺たちを討つため、互いに準備の時間が必要だった。元々スピードを競うゲームだってことはわかっていたからな。

[狩人の兄] ただお前たちがそれに勝っただけの話だ。驚きはしないさ。

[狩人の弟] 兄貴……

[ブレミシャイン] 他の人は私たちに任せてください。お兄さんのことはどうかお願いします、ランディさん。

[狩人の弟] ああ。

[狩人の兄] やはり俺の後を継ぐつもりなんだな……あの剣を叩き折れば、お前も自由になれると思ったんだが。

[狩人の弟] 兄貴を責めるつもりはない。だけど責任から逃れても、自由になれるとは思ってないんだ。

[狩人の兄] それは徹底的に逃げ切っていないというだけだ。

[狩人の兄] ん? その武器は……

[狩人の弟] これは職人さんが兄貴の剣を俺の体に合わせて鍛え直してくれたものだ。これからは、この剣で俺たちの村を守る。

[狩人の兄] ぐっ……いい太刀筋だ。腕を上げたな。

[狩人の兄] 弟よ、責任を引き継ぐことが何を意味するか、わかっているのか?

[狩人の兄] 皆はお前の肩書きしか見なくなる。やれ「村の守り神」だの、「正義の化身」だの、うんざりするような肩書きだ。そうなればもう、ただの「ランディ」として自由に生きられなくなる。

[狩人の兄] 今までの暮らしより何倍も苦しいぞ。

[狩人の兄] その責任はこれまで、お前には一切関係のないものだった。本来ならば、今後も一生関わる必要はなかった。

[狩人の兄] 小さな頃からそういう人間になろうと志した俺でさえ、最後には放棄することを選んだんだ。途中からその理想を引き継いだお前が、いつまで耐えられる?

[狩人の弟] 俺は後悔してるんだ、兄貴。もっと早く話し合って、もっと早く兄貴と喜びや悲しみを分かち合えばよかった。お互いをもっと理解していれば、こんな風にならなかったのかもしれない。

[狩人の弟] いつまで耐えられるか、と聞いたな。俺は耐えるなんて考え方はしないようにしようと思ってる。

[狩人の弟] 我慢して耐えるんじゃなく、仲間とともに努力して、それを喜びや楽しみに変えるつもりだ。

[狩人の弟] できるかはわからないが……でもやってみたいんだ。

[狩人の兄] 俺よりもうまくやれるとでも言うつもりか。

[狩人の弟] 違う。そもそも俺たちは比べ合う必要なんてないんだ。

[狩人の兄] ……

[狩人の弟] ……

[狩人の兄] 死ね。

[狩人の弟] すまない、兄貴。

[前衛オペレーター] 全員縛り終えたぞ。これで解決だな。

[狩人の兄] ……

[狩人の兄] それで、俺をどうするつもりだ?

[狩人の弟] 兄貴、本当に考え直す気はないのか?

[狩人の兄] こうすると決めた時から、俺はもう過去を捨てている。

[狩人の兄] 俺のことは見知らぬ強盗だと思って殺せばいい。これが兄として最後にお前にしてやれることだ、弟よ。

[狩人の兄] この一ヶ月間、今までにない体験をしてきて、俺は二十数年感じたことのない喜びを得たんだ。

[狩人の兄] まだ満足とは言えないが、それでも十分だ。

[狩人の弟] (縄を解く)

[狩人の弟] 行けよ、兄貴。

[狩人の兄] ……

[狩人の弟] どこか遠くへ行け。

[狩人の弟] 振り向くことも、戻ってくることも、懺悔することも許さない。

[狩人の弟] でなければ、あんたを殺す。

[狩人の兄] ……

[狩人の弟] ……

[狩人の弟] 兄貴。

[狩人の弟] すまない、兄貴。

[狩人の弟] もし改心してくれたら、殺さずにいようと思った。

[狩人の弟] だがもし本当にこのまま逃がしたら、外で多くの人が不幸になる。

[狩人の兄] ……そうだ……それでいい……

[ブレミシャイン] ……

[術師オペレーター] 彼は間違ってないよ、ブレミシャイン。

[ブレミシャイン] わかってる……

[ブレミシャイン] わかってるよ。

[ブレミシャイン] ただ肉親同士でもこんな風になっちゃうなんて、考えたことなかったんだ。

[狩人の弟] 申し訳ない、ロドスの皆さん。俺がこうするしかなかった。

[術師オペレーター] うん、みんなわかってるから。

[前衛オペレーター] 先に埋葬してやりな。

[ブレミシャイン] ……私も手伝います。

[狩人の弟] 兄貴、昔はここで剣の練習をするのが一番好きだったよな。ここに埋めてやるからな。

[狩人の弟] ……兄貴ほど立派な民兵隊長になれるかは、正直わからない。

[狩人の弟] だけど、頑張るよ。

[狩人の弟] ロドスの皆さん、今回は本当に感謝する。君たちがいなかったらどうなっていたか……

[ブレミシャイン] いえ、ランディさんがいてこその結果です。それより、民兵たちがあなたを待ってますよ。せっかく新しいリーダーとして成果を上げたんですから、みんなに声を掛けてあげてください。

[狩人の弟] そうだな。そうしよう。

[狩人の弟] ……みんな。

[狩人の弟] 兄貴がやったことを弁護するつもりはない。

[狩人の弟] それから、過去の俺が怠け者で遊んでばかりで、まともに仕事もしていなかったのは事実だ。誰の目にも兄貴には到底及ばない人間として映っていたのは知っている。

[狩人の弟] だが、俺も村の一員だ。

[狩人の弟] 村をより良いものにして、平和を守ることも俺の願いなんだ。

[狩人の弟] これからは、俺が兄貴に代わって、村を守る責務を担っていこうと思う。

[狩人の弟] どうか協力してほしい!

[民兵A] ……(拍手)

[民兵B] 昔のお前は気に入らなかったが、今のお前になら従ってやる!

[民兵A] しっかりやれよ、ランディ。期待してるぞ!

[ブレミシャイン] ……

[前衛オペレーター] どうしたブレミシャイン? すっきりした顔をして。

[ブレミシャイン] あの兄弟を見て、ちょっと怖くなってたの。でも吹っ切れたんだ。

[ブレミシャイン] 私はお姉ちゃんと仲がいいのは当たり前だと思ってたし、これからもその当たり前が続いていくと思ってた。

[ブレミシャイン] だけどそれはたまたま私の運が良かっただけって気づいた……

[ブレミシャイン] 仮にあの時私がたまたま勝ち進んで、お姉ちゃんが戻ってきた時にはもうすでに優秀な競技騎士になっていたら――

[ブレミシャイン] 私はお姉ちゃんの敵になってたんじゃないかなって。

[ブレミシャイン] 考えても答えは出ないんだけどね。

[術師オペレーター] そんなこと考えなくていいよ。

[ブレミシャイン] うん、わかってる。

[ブレミシャイン] 私が自分の立ち位置をここに決めた時、もう気づいてた。そんなことはきっと永遠に起こらないだろうって……

[ブレミシャイン] だって私は永遠にあの位置に戻ることはないから。

[ブレミシャイン] 昔の私だったら、それはお姉ちゃんの方がふさわしいからだって言うと思う。

[ブレミシャイン] だけど今なら、私が今立ってる場所が自分にとって一番ふさわしいからだって胸を張って言えるよ。

[ブレミシャイン] 私はスポットライトに照らされたいなんて思わない。私が作ってあげた装備をつけて、お姉ちゃんがスポットライトの下でキラキラ輝いてくれれば、それで満足なんだ。

[ブレミシャイン] お姉ちゃんが剣を望むなら、一番鋭い剣を作ってあげる。お姉ちゃんが盾を望むのなら、私は一番頑丈な盾を作ってあげるよ。

[ブレミシャイン] もしもお姉ちゃんが一本の道を望むなら、私はそれを切り拓くための最高の道具を作ってあげる。

[ブレミシャイン] それでいいんだ。

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