aklib_story_アイドルのプロモーション

ページ名:aklib_story_アイドルのプロモーション

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アイドルのプロモーション

アイドルとしてランデン修道院を宣伝することは容易ではないが、修道士としての立派な品行のおかげで、アルケットは予想外の収穫を得るのだった。


我々は今日、過去を讃え、そして新たな始まりを迎えるため、一堂に会しました。

ここに集った一人ひとりが皆の兄弟姉妹です。我々を繋ぐ縁は、修道院からの大切な賜りもの……この縁に感謝を申し上げます。

我々はここで共に分かち合ったパンとビール、そして鐘の音と黄金色の麦畑を忘れることはないでしょう。ここで学んだ法も、兄弟姉妹との絆も決して忘れはしません。

さあ、皆でランデン修道院の幕引きを見届けましょう。

[ヒルデガルト] ついに、万策尽きたのですか……

[信心深い修道士] ええ、残念ですが。教会は、ランデン修道院の運営を今年いっぱいで中止することを正式に決定しました。

[信心深い修道士] 自力での運営がままならなくなった修道院に、教会はこれ以上予算を割いてはくれません。

[信心深い修道士] 今私たちにできるのは、敬意をもってその終焉を見届けることだけなのです。

[ヒルデガルト] もう少しだけ猶予はいただけないのでしょうか……修道士たちが総出で手を尽くして解決策を探しているところなんですよ。

[ヒルデガルト] もう少し時間があれば、黒字回復も夢ではないはず……

[信心深い修道士] シスター、申し訳ありませんが、教会は既に十二分に時間を与えました。

[ヒルデガルト] だとしても、なぜ修道院を取り壊さなければならないんですか?

[ヒルデガルト] 建物だけは、記念として残してもいいじゃないですか……

[信心深い修道士] いえ。長年の赤字を補填するためには、ランデン修道院の土地を手放してもらうほかないのです。

[信心深い修道士] こちらの麦畑と太陽が名残惜しいのは皆同じです。しかし、この土地がより大きな価値を生み出すことを阻むべきではないとは思いませんか?

[ヒルデガルト] もし私がもっと頑張っていれば、ここを守れたのでしょうか……

[信心深い修道士] シスター、私もこの結末を残念に思っています。しかし、変えられない結末は毅然とした態度で受け入れるべきと、経典の教義が示しているではありませんか。

[信心深い修道士] 在りし日の美しさを記憶に刻み、兄弟姉妹たちの未来に祝福を捧げましょう──

[エクシア] 爆破解体はあたしにまっかせといて!

[ヒルデガルト] エクシアさん!? どうしてあなたが!?

[エクシア] 用済みの建物をきれいさっぱり処分するのに、あたし以上の適任なんかいないからね~。

[エクシア] 役目を果たせなくなった修道院に残された価値は──派手な爆破で最後を飾ることだけでしょ!

[ヒルデガルト] ええっ!?

[ヒルデガルト] 待ってください! 本当に取り壊すにしても、最低限の敬意というものがあるでしょう! そんなふざけた──

[エクシア] ほらほら、どいたどいた!

[エクシア] 無駄話はもうおしまい! 最っ高に熱いフィナーレで数百年の歴史を持つ修道院を見送ってあげようよ!

[エクシア] さーん──にぃ──

[ヒルデガルト] 待っ──

[ヒルデガルト] 待って!

[アルケット] 待ってください!

[アルケット] ゆ、夢だったんだ……良かった……

[アルケット] それより……ここは……

[アルケット] あっ! 今日は握手会だったはず……もしかして私、握手会の最中に寝てしまったの!?

[マネージャー] 大丈夫ですよ。三十分ほど居眠りしちゃってましたが、お客さんは一人も来ませんでしたから。

[アルケット] そうですか、なら良かった……

[マネージャー] 全然良くありません!

[マネージャー] 朝からアルバムサイン会をやっているっていうのに、まだ一枚もアルバムが売れてないじゃないですか!

[マネージャー] 他のアイドルブースはどこも満員なのに……デビュー後あまり人気が出ていないアルケットさんとはいえ、さすがに悲惨すぎます。

[アルケット] すみません、そんな状況で気を抜いてしまって……

[マネージャー] ハァ……別に責めているわけではないんですよ。アルケットさんの努力もこの目で見てきましたし。

[マネージャー] ですが、人気アイドルになるためには、話題性とキャッチーなキャラが必要不可欠ですからね。そういったものはただ努力するだけでは手に入らないんですよ!

[マネージャー] まぁ修道院のシスター系アイドルなんてキャラでデビューを許した私にも責任はありますけど……次に新人アイドルのキャラ付けをするときは、ちゃんとご当地要素を取り入れなきゃ……

[アルケット] キャラというか、これがありのままの自分なのですが……

[アルケット] (それに、シスターのイメージで修道院を宣伝できないのなら、アイドルになった意味がないから……)

[マネージャー] とにかくアルケットさん、事務所側からすれば、あなたのアイドル人生は終了寸前なんです。

[マネージャー] 今日の握手会兼アルバムサイン会はまさに最後のチャンスですよ。山ほど在庫を抱えたアルバムを売りさばけなければ、二人揃って会社をクビになっちゃったりして。ハハッ……

[アルケット] 正直どうすれば売れるかはわかりませんが……頑張ります!

[マネージャー] あ、あれ! 誰かがこっちに歩いて来ますよ!

[マネージャー] 今日初めてのお客さんかもしれません。早く準備してください!

[アルケット] ゴホン……

[アルケット] (よ、よし。練習通りに挨拶を……)

[アルケット] 「鐘の音が奏でる愛のメロディーよ。素敵な運命に導かれ、私たちはここで出会った!」

[アルケット] 来てくださってありがとうございます。信心深きシスターは、今日もあなたと共に愛と希望の声に耳を傾けます!

[アルケット] 今このアルバム『愛の鐘の音ソナタ』を購入いただければ、ランデン修道院特製システィミルクパンボックスをプレゼントしますよ!

[アルケット] (最後にマネージャーさんから教わったエネルギッシュでエレガントなポーズを……それっ!)

[興奮しているファン] も……もしやあなたはあの噂に名高い──!

[興奮しているファン] こんなところでお会いできるなんて、なんて幸運なんだろう!

[アルケット] 応援ありがとうございます。でも「噂に名高い」なんて大袈裟ですよ……

[興奮しているファン] いえ、よくラジオであなたの歌を聴いてますし、アルバムもたくさん買ってますから!

[興奮しているファン] お会いするのは初めてですが、私のイメージ通り、キラキラと輝いていらっしゃいますね!

[アルケット] (これが「推される」感覚……落ち着いて、落ち着きなさい、アイドルとしてのイメージを崩さないようにしないと!)

[アルケット] (明るく優雅な笑顔を作る)

[アルケット] 応援ありがとうございます。これからもファンの皆様のご期待に応えられるよう、もっと頑張って歌いますね!

[アルケット] 「他人の良さを素直に認められるあなたは、さぞ知性のある優しい人なのでしょう」。あなたに幸運があらんことを。

[興奮しているファン] 話し声もすっごく素敵です! CDの歌声でそのまま喋ってるみたいですし、噂通りの美しい金髪で……あれ……えーっと、美しい髪色でお綺麗です!

[興奮しているファン] 今日はお会いできて本当に幸せです!

[興奮しているファン] ソラさん! サインしていただけませんか?

[アルケット] もちろんです! 握手会にお越しいただいた方にはみんな──

[アルケット] ってソラさん?

[困惑しているファン] え……はい。ソラさん、お願いします!

[マネージャー] ちょっとちょっと、人違いですよ。

[マネージャー] そこのボードをよく見てください。「アルケット」って書いてあるでしょう?

[冷静になったファン] はっ? アルケット? 誰だそれ?

[マネージャー] 握手会で他のアイドルに間違えられるなんて、普通はどんなお人好しでも激怒するでしょうに……

[マネージャー] あんな相手にパンまであげるなんて信じられませんよ。

[アルケット] 「誤解されたことに憤ってはならない」「自分に相応しくない虚名に浮ついてはならない」……教典にそう書かれていますからね。

[アルケット] あの方は興奮のあまり勘違いしただけですし、怒るまでもありませんよ……

[マネージャー] 随分と呑気なことを仰いますが、あなたの人気が出ないのは、そういうアイドルとしての意識や闘争心が欠けているからだとは思わないんですか?

[アルケット] いえ、人気が出ないのは歌とダンスが下手なせいだとばかり……

[マネージャー] いやいや、あなたに一番欠けているのはキャラ作りの意識ですよ。

[マネージャー] たとえば、今は「シスター」系アイドルでやってますが、お客さんの前に出たらただのシスターってだけじゃダメなんです。

[マネージャー] お客さんが「シスター」のどこに興味を抱くかを判断して、そこを磨いて強調した状態で舞台に立たないと。

[アルケット] ですが、私には「シスター」の知識こそあれ、「アイドル」の知識はからっきしですし……

[アルケット] プロモーションのためだというのは分かっていますが、なんだか素顔を仮面で覆っているように感じてしまって。

[マネージャー] プロのアイドルたるもの、そうやって自身のイメージを利用して注目を集め、多額のお金を動かすものなんです。少なくとも、広告会社がバックに付いてるアイドルはみんなそうですよ。

[マネージャー] 魅力的なキャラとイメージを維持できなければ、宣伝を任せてくれる企業さんの損失を招くことにもなります。

[アルケット] 損失を招くだなんて……そんなことした覚えは……

[マネージャー] スイーツ店の広告内で勝手に修道院のシスティミルクパンを宣伝したり、番組のインタビュー中にビールの講釈を垂れたり、道端で泥棒を捕まえるところを撮られてネットで話題になったり――

[マネージャー] 忘れたとは言わせませんからね。

[アルケット] 勝手に宣伝することや、美少女アイドルにお酒は禁物ってことは理解しましたけど……泥棒を捕まえることの何がいけなかったのですか?

[マネージャー] 「アイドルが泥棒を捕まえた」って事実はさておき、人々の目にはあれが「アイドルが通行人と大げんかをしていた」ように映るんです。

[マネージャー] 事情を説明するのにもコストがかかるんですよ……

[マネージャー] それにクライアントからすれば、子供服のイメージキャラクターを任せる以上、いかなる理由があろうと暴力的な事件には関わってほしくないはずです。ターゲット層の教育に悪いですからね。

[アルケット] そんなこと、契約書には書いてなかったのに……

[アルケット] ……いえ、仕事を台無しにしてしまって、すみません。

[マネージャー] ハァ……私も一人のマネージャーとして、自分の選別眼を疑ったことはなかったんですけどね。ヒルデガルトさんに声をかけた時も確信がありました……

[マネージャー] お金のことはともかく、成長した「アルケット」が、舞台の上でキラキラ輝いている姿が見てみたい――なんて、私も夢見ちゃいました。

[アルケット] ご期待に添えず本当に申し訳ありません……

[マネージャー] ま、とりあえず今日のところはここで引き続き頑張りましょう。私は他のブースに情報収集に行ってきますね。

[アルケット] 「アイドルとしてのプロ意識」か……

[マネージャー] そこのあなた、ちょっといいですか!

[ヒルデガルト] はい……?

[マネージャー] その整った顔立ちに気品のある立ち振る舞い……! あなた、アイドルになる気はありませんか?

[ヒルデガルト] アイドル……とはなんですか?

[マネージャー] ええっ? 今時アイドルを知らない若者がいるなんて。

[マネージャー] 簡単に言えば、歌やダンスで知名度を上げつつ自身を磨き、人々に幸せと笑顔を届けるお仕事ですよ!

[ヒルデガルト] (歌? ダンス? 賛美歌ならいつも歌っているけど、ダンスの方は全然……)

[マネージャー] 想像してみてください。綺麗な服を着て、煌びやかな舞台に立ち、その歌声で観客全員の視線を一身に集める自分の姿を! そりゃもう気持ちいいのなんのって――

[ヒルデガルト] (知名度を上げる? 修道院を宣伝するチャンスかも。)

[ヒルデガルト] 一つ質問なのですが、アイドルになったら、知名度を利用して商品の宣伝をすることは可能でしょうか?

[マネージャー] (この娘、冴えてる。アイドルの本質をズバッと突き止めたわ。)

[マネージャー] も、もちろんです! 無事デビューを果たせば、当然ながらそれはあなたの権利ですから!

[ヒルデガルト] では、もう少し詳しい説明を聞かせていただけないでしょうか?

[マネージャー] お任せください! では早速、どこかでお茶でもしながら、サクッと契約を結んでしまいましょう!

[アルケット] 修道院復興に繋がるビジネスチャンスを掴んだと思っていたのに、まさか契約書に定められた基本的な業務もこなせないなんて……

[アルケット] 「やたらと平坦に見える道は、常に誤った行先に通じている。」……教典に書いてあった通りね。

[アルケット] どのみち、修道院の振興は簡単なことじゃないみたい……

[アルケット] あっ、誰か来た。

[アルケット] 「愛の鐘の音は遠方からの客人を歓迎します──」

[アルケット] えーっと、えっ? こんにちは、あの……?

[通りすがりの老婦] あのぅ、あちらのカウンターに置いてあるパンに、「無料特典」とありますが……それってタダでもらえるってことかしら?

[アルケット] は、はい。握手会の特典なので……

[通りすがりの老婦] あなたと握手すれば、パンがもらえるの?

[アルケット] それは……

[アルケット] (普通に考えて、アルバムを買ってくれた人にだけあげるべきなのかな?)

[アルケット] (でもこのおばあさん、なんだか……)

[アルケット] えっと……構いませんよ、もらってください。

[通りすがりの老婦] こんなにたくさん……本当にいいんですか?

[アルケット] もちろんです! お力になれたら幸いです。

[アルケット] 「あなたの真心と善性が報われ、安らぎと幸せが訪れんことを。」

[通りすがりの老婦] おいしい……ここ一ヶ月間で食べたものの中で、一番おいしいわ……

[通りすがりの老婦] ありがとうねぇ、お嬢さん。なんて優しい方なのかしら。

老婦はアルケットの手を取ると、感謝をしっかりと伝えるように、力を込めてぎゅっと握った。

アルケットの手に、硬くザラついた手のひらの感触が伝わる。それは真っ直ぐで、暖かかった。

[アルケット] 応援ありがとうございます。どうぞお気をつけてお帰りください……

[アルケット] 今のが初めてのお客さんになるのかしら……

[アルケット] まぁともかく、これで来客数ゼロの事態は突破できたわ。修道院復興の最後の希望を絶やさないように、気を引き締めないと!

[アルケット] こ、こんにちは……

[ピュアな女の子] お姉ちゃん、こんにちは! あたしもパンをもらっていい?

[アルケット] パン……?

[ピュアな女の子] ここでパンがタダでもらえるって話を聞いたんだ!

[アルケット] それは……実はそうじゃなくて……

[アルケット] (でもこんな幼い子相手に商売をするのはさすがに……)

[アルケット] ううん、何でもない。遠慮せずに持っていって。おいしかったら、周りの人にもおすすめしてあげてね。

[アルケット] 来てくれてありがとう……「福音があなたの成長に寄り添い、知恵と健康があらんことを」。

[ピュアな女の子] こちらこそありがとう、シスターのお姉ちゃん! お姉ちゃんったらすっごく綺麗な声だし、テレビのアイドルみたいでかわいい!

[アルケット] 「アイドルみたい」って、褒めてくれてるのかな……

[スラム街の青年] (無言で近寄る)

[アルケット] こ……こんにちは!

[アルケット] 「愛の声はいつもここから見守っている」……あの……こちらのサイン付きアルバム、一枚いかがですか……?

[スラム街の青年] (恥ずかしそうに頭を掻く)

[アルケット] (この方も、裕福な人には見えない……)

[アルケット] コホン……来てくださってありがとうございます。こちら、些細なものですが、どうか今後も引き続き応援お願いします……

[スラム街の青年] (嬉しそうにパンを受け取る)

[スラム街の青年] (満足そうな顔で立ち去る)

[アルケット] ありがとうございます……どうかお気をつけて……

[アルケット] ……

[アルケット] ……「アルバム発売中」の看板、もっと目立つ場所に置いた方がいいのかな?

[ソラ] たっだいま~!

[ソラ] ねえねえ、さっき旧市街を通りかかった時、無料でシスティミルクパンが配られてたんだ!

[エクシア] そーんな珍しいことがあんの!? こりゃ今夜は双月が一つにくっついちゃうかもねぇ~。

[ソラ] うん。ラテラーノの教会のチャリティーイベントみたいでさ、あの大行列ったらあたしの昔のライブみたいで……ちょうど暇だったから、並んで一つもらってきちゃった!

[ソラ] パンを配ってたシスターの子もすっごく親切で超かわいかったんだから! パンの味だって最近オープンしたスイーツ屋さんに全然負けてないよ。はい、みんなも食べてみて。

[エクシア] うわぁ、このパン、なんか故郷の味って感じがするよ。

[ソラ] ラテラーノじゃ、こういう教会のチャリティーイベントってよくあるの?

[エクシア] ん~たぶんね。でもあたしの記憶だと、よく配られてたのは、パンよりもスイーツ店のクーポンだった気がする。

[ソラ] そう言えば、あのパンを配ってた子……なんとなく見覚えがあったんだけど、昔どこかで会ったのかな?

[芸能記者] もしもし? 編集長、ただいま到着しました。

[芸能記者] ハァ……鳴かず飛ばずのアイドルの握手会なんて撮る価値ないだろうに。記事の収益じゃタクシー代すらペイできそうにないぞ。

[芸能記者] 適当に撮って済ませて帰ろ──ってなんだあの大行列!?

[芸能記者] 行列の先にいるのは……あいつぁこの間撮った、道端で人を殴りつけてた女の子じゃないか!?

[鼠王] スラムがこれほど賑やかになるとは、珍しいこともあるものじゃ。

[鼠王] 董の奴が魚団子スープを一日無料で配ったとしても、ここまでの人数を集められるかのう?

[ピーターズ] ニーズにマッチしたイメージキャラクターの影響力というのは凄まじいものですからね。ですが、契約した当初は、あのシスターのお嬢さんにこれほどの力があるとは思っていませんでしたよ。

[鼠王] お主のビジネスパートナーを見る目は相変わらず優秀じゃのう。ラテラーノの人間も、皆が皆あのペンギンの部下のような跳ねっ返りではないようじゃな。

[ピーターズ] 畏れ多いです。コミュニケーションと異文化交流──そこにこそビジネスの本当の価値があるというのが私の考えです。

[ピーターズ] まぁ、あのような身銭を切るような取引を「ビジネス」と言っていいのかどうかは考えものですがね。

[鼠王] ともかく、適度に異文化を取り入れるのは悪いことではないじゃろうな。

[鼠王] スラムの空いた土地にラテラーノの教会を建てるよう、ウェイに相談してみるのも悪くないかもしれんのう。

[鼠王] ジジババの暇つぶしの場所ができるし、さらに無料のパンもあるとなれば完璧じゃな。

[マネージャー] アルケットさん……この大行列はどういうことですか!? アーツか何かでも使ったんですか?

[アルケット] 私もよく分かりません……シスターとして、普段していることをしただけなのですが。

[マネージャー] ちょっと待って!? こんなに人が来てるのに、なんでアルバムが一枚も売れてないんですか?

[マネージャー] いや、それはさておき……せっかくのチャンスなんですから、大勢が集まっている間に、キャッチコピーでも叫んで自分をアピールしてください!

[アルケット] 「ここに集いし我々は、皆、平等な兄弟姉妹です。」

[アルケット] 「これからも我々は、永遠に愛し合い、助け合って生きていくのです……」

[アルケット] ……こんな感じでしょうか?

[マネージャー] 余計に変な空気になっちゃったじゃないですか!

賑やか都市部から離れた郊外で、何の変哲もないブースの前に並んだ列は、どんどん長く伸びていく。

ポップなビートでリミックスされた賛美歌が響く中、夕日が人々の頭にかかり、行列を麦畑のような黄金色に染める。小柄なリーベリの少女は、一つまた一つと、パンを人々に手渡していく。

そのとても穏やかな光景は、まるで教会に飾られている大きな壁画のようだった。

[マネージャー] アルケットさん、本当に契約を更新しないんですか?

[ヒルデガルト] はい、もう何も迷いはありません。

[マネージャー] そんな……こないだの握手会も予想に反して大ヒットだったじゃないですか。アルバムは一枚も売れませんでしたが、ネットでの話題性は紛れもなく価値のあるものでしたよ。

[マネージャー] 「あれこそ有名人の本当にすべきこと」とか、「真のシスターアイドル」とか……ネットではかなり評価されてるんですよ!

[マネージャー] このままアイドルを続ければ、以前とは比べ物にならないほどの素晴らしい仕事が舞い込むはずです。

[マネージャー] きっと近い将来、アルケットさんはいろんな舞台で活躍できるようになりますよ! そしたらソラさんみたいなアイドルになるのだって夢じゃないです!

[ヒルデガルト] すみません……やはり、アイドルはひとまずやめておこうかと……

[ヒルデガルト] 契約に基づく委託業務も無事果たせましたし、龍門で修道院を宣伝することもできました。これからは、別のビジネスパートナーを探してみるつもりなんです。

[マネージャー] やっと大人気アイドルをプロデュースできると思ってたのに、また一から新人発掘かぁ……

[ヒルデガルト] 短い間でしたがお世話になりました。私にはまだ他にすべきことがありますので、残念ですが……申し訳ありません。

[ヒルデガルト] ラテラーノを離れて随分経ちましたが、私が本当にすべきなのは、ラテラーノの信仰を守り、伝えること――片時もそれを忘れたことはないんです。

[ヒルデガルト] 正直に言いますと、こういったビジネスは、私が本当にやりたいことではなかったので……

[ヒルデガルト] たとえ、修道院を守るためにビジネスをせざるを得ない状況であるとしても……人気を売るのではなく、もっと人々の助けになる具体的なものを売りたいのです。

[マネージャー] 率直なお言葉ですね……残念ではありますが、アルケットさんの気持ちも理解はできますから、これ以上は引き留めません。

[マネージャー] ……それで、これからどうするんです?

[ヒルデガルト] 「よき機会はいつも遠方への道すがらで見つかる」と教典にもありますし、手探りで進んでみます。

[マネージャー] そうですか……今さらなんですが、実はここでMSR主催のライブが開催されることになっていまして、スポンサーのフェンツ運輸からアルケットさんに指名オファーが届いてるんです。

[マネージャー] 龍門から去るのを引き留めはしませんが、せっかくですし卒業ライブはやっていきませんか?

[ヒルデガルト] ええっ? MSR? それにフェンツ運輸!?

[明るい修道士] 何を見てるんですか?

[生真面目な修道士] フィアメッタさんが持ってきた映画のビデオテープの山に、別のものが混じっていたみたいで。

[明るい修道士] ステージで歌っているのは……もしかしてヒルデガルトさん!?

[生真面目な修道士] あのヒルデガルトさんに、こんな一面があったとは。

[明るい修道士] そこまで不思議なことではない気もしますね。修道院にいた時も、賛美歌がお上手でしたから。それにしても、面白いアレンジの賛美歌ですね。

[生真面目な修道士] こういった職業はたしか……アイドルと言うのでしたっけ?

[生真面目な修道士?] 私たちも参考にしてみませんか? 知名度を上げられれば、修道院への関心を集めることもできるはずですし。

[明るい修道士] では、出し物はどうするつもりですか? 教典をオマージュした舞台劇? それとも賛美歌大合唱?

[生真面目な修道士?] ラテラーノで人気を得ようとするなら、やはり外国人キャラが必須でしょうね。

[生真面目な修道士?] 例えば……カジミエーシュの競技騎士とイベリアの審問官がコンビを組んでパフォーマンスするというのはどうでしょう?

......

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