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驚靂蕭然_12-14_耳を塞ぐ_戦闘後
目的を見失ったシージは、自分自身を疑い始める。ダブリン部隊、「グレーシルクハット」、ロドスは通信基地局を巡って争うが、最終的に放送設備はとうの昔に何者かに運び出されていたことに気付く。
[ベアード] すでにモーガンはみんなを連れ帰って、薬を配ってる。
[ベアード] ダグザとハンナは廃墟を巡回して、どこかにまだ隠れてる人たちがいないか探してる。
[ベアード] 封鎖エリアの状況は、あなたたちも分かってると思うけど……ここ数日、通りに顔を出す人はほとんどいなくなった。
[カドール] きっとたくさんの連中が、どっかのビルの小部屋に隠れて震えてるだろうな。深夜に残飯を漁ってどうにか生きてんだ。
[カドール] シージ、そういった奴らを全員探し出すつもりか?
[シージ] 全員を救うのが不可能だということは理解している。
[シージ] だが、撤退行動が行われようとしている事実を、隠れている者たちに知らせるのは重要だ。
[シージ] でなければ、大公爵たちによる砲撃が始まった際に、それがここを脱出するチャンスだということに大半の者が気付かず、何とかしてさらに身を隠そうとするだけだろう。
[カドール] それはそいつら自身の選択だ。もしかしたらサルカズたちがここを去るまで生き残ってるかもしんねぇだろ。
[シージ] だがそれでも、彼らには他に選択肢があることを知る必要がある。
[カドール] フンッ、なるほど。他の選択肢ね……
[カドール] 数日前、幾つかの場所で物音を聞いた……廃墟の中で餌を探してる野獣じゃなけりゃいいんだがな。
[シージ] モーガン、どうした? 顔色があまり良くないぞ。
[モーガン] いや……平気だよ。
[モーガン] ただ……ハハッ、ちょっと慣れなくてね。
[モーガン] シュトラウスとエミールが喧嘩を始めちゃってさ。緊急遮断薬一本のために、片方が相手の目を刺しちゃったんだよ。
[モーガン] 吾輩とアーミヤちゃんでどうにか二人を引き離したけどさ、あの目はもうどうしようもないね。
[モーガン] 吾輩たちはそんなにたくさん薬を持って来たわけじゃないじゃん。でも外には今、人が集まってて、中には……パニックを起こしてる人もいるんだ。
[モーガン] 自分が感染するんじゃないかって不安に思ってる人もいれば、自分がもう感染者になったことに全く気付いてない人だっている。
[モーガン] イネスから来るはずの連絡が届かなくて、アーミヤちゃんはイネスとドクターの状況を確認しに行かなきゃって言ってた。
[モーガン] 吾輩は……吾輩は一人で下にいるのがしんどくなって、息抜きするためにここに来たんだ。
[ベアード] あなたは、ここへ連れてきた人たち全員と顔見知り?
[モーガン] 吾輩は小さい頃からここで育ってきたからね。ノーポート区に関して言えば、ヴィーナはもちろん、あんたやハンナちゃんよりも詳しいって自信があるよ。
[ベアード] やることがない時はいつも街をぶらついてたよね。
[モーガン] そうだよ。ノーポート区は吾輩の手のひらみたいなもんなんだ。しわの一本一本がどこに繋がってるかまで知り尽くしてるよ。
[モーガン] ヴィーナ、吾輩は……吾輩はたくさんの知り合いを連れてこようとしたんだ。
[モーガン] シアターにも、もう一回行ってきたんだ。マクラーレンは吾輩たちに反応しないんじゃなくて……
[モーガン] 音が聴こえなくなってるんだよ。耳から血が出てるのが見えた。
[モーガン] それでメモを書いて見せたんだ。だけど、明らかに見たはずなのに……それでも部屋の中に隠れちゃった。
[モーガン] それとレコード屋のカーシュね……あいつにはいっつも時代遅れのレコードを掴まされてさ、いくら無駄金を注ぎ込んだか分かんないくらいなんだけど。
[モーガン] あいつの片方の足が完全に変形しててさ……どうやってここまで移動してきたんだか分かんない。
[モーガン] それから衣類の輸入業をしてたブレンダ……あの子からはよく龍門のファッション雑誌を借りてたんだよね。
[モーガン] 彼女の火傷の手当てをしてあげたんだ、でも……
[モーガン] 他にもクレア、アイリーン、イートン……
[モーガン] 吾輩は、全員知ってるんだよ!
[モーガン] ヴィーナ、吾輩たちはこれを見るためだけに戻ってきたってこと?
[モーガン] ……吾輩たちは一体何のために帰ってきたんだろう。
[モーガン] ヴィーナ、ねぇヴィーナ! もし今起こってることを黙って見てるしかないなら……もし吾輩たちが、この状況を変えられないなら……初めからここに来るべきじゃなかったのかな?
[モーガン] 吾輩は英雄たちの物語を読んだことがある。彼らはすごい冒険の旅に出たり、正義の味方として悪人を懲らしめたりしてた──
[モーガン] でも英雄以外の人たちは、物語の中のモブでしかなくて、主人公たちの話し相手や、成長のきっかけでしかないんだ。
[モーガン] 吾輩たちはずっとそんな物語の中にいると思ってた。それで吾輩は一人でずっといい気になって喜んでたんだよ……
[モーガン] でも実際の彼らはモブなんかじゃない。だって一人一人のことをよく知ってる──全員知ってるんだよ!
[モーガン] 「モンスターが村を破壊し、英雄がモンスターを倒しました」なんて簡単な話じゃないんだ。
[モーガン] これは、くだらない復讐小説なんかじゃない……
[モーガン] ヴィーナ、吾輩は二十年もここで過ごしてきたんだよ。ノーポートのみんなは英雄が悲しみ嘆く時にぼそっと呟く名前でも、悪役にとどめを刺す直前にさらっと流れるフラッシュバックでもない。
[モーガン] 彼らは……彼らは本来……
[シージ] モーガン、わかっている──
[モーガン] ヴィーナ……アレクサンドリナ・ヴィーナ・ヴィクトリア!
[モーガン] あんたがこの国に戻ったのは、立派な王冠を取り戻して、新たなアスラン王の不朽の伝説を作るためなの──?
[モーガン] それとも家に帰るためなの?
[モーガン] ヴィーナ、お願い、教えてよ……今の状況は、全部一時的なものだよね?
[モーガン] あと少しの辛抱だって言ってよ。
知りすぎるほど知っている相手の目から、涙がこぼれ落ちた。
シージが憶えている限り、モーガンが泣いている姿など、ビデオシアター以外の場所でほとんど見たことがなかった。
「諸王の息」は相変わらず、冷えきったままそこにあった。
[モーガン] ごめん、ヴィーナ、あんたを責めてるわけじゃないんだ……
[モーガン] ……ただ街を歩いてる途中、ふと顔を上げたら気付いたんだよ……
[モーガン] 吾輩たちは本当にノーポート区を失ったんだって。
[ベアード] モーガン!
[ベアード] ヴィーナ……
友人が去った部屋は物音一つしない。まるで過去の賑わいと喜びがすべて錯覚だと告げているかのように。
部屋のレイアウトは以前のまま、彼女たちが離れた時と何ら変わりはない。
ここには何もなくなってしまった。
ここ数日、シージは常にその「諸王の息」という名の剣に無意識に触れていた。
彼女は今も習慣のように剣の柄に手を置いた。
彼女はそこから何かしらのエネルギーを、背中を押してくれる力を感じようとしてきた。それが自分に課された責任でも、或いは自分が犠牲を払うことを定められた運命であっても構わなかった。
だが、今回もまた彼女に残ったのは失望だけだった。
自分は何のために戻ってきたのだ。この現実を経験するためか?
あるいは、人々の期待の眼差しがそもそも相手を間違ったのか? あまりに多くの錯覚をこの剣と師匠に与えられたせいで、自分が何かの象徴になれると勘違いしてしまっただけなのか?
シージは、自らの迷いをこれほど恨んだことはなかった。
[シージ] モーガン。
[シージ] ……私が帰ってきたのは、自分が後悔したくなかっただけなのかもしれない。何年も経った後で、当時何もしなかった自分に気付くのが怖かったのだろう。
[シージ] どこへ向かっているかはわからない……だが私はじっとしていられないんだ。
[デルフィーン] それは何かのたとえ話ですか、コルバートさん?
[デルフィーン] ヴィクトリアに対する皮肉とか?
[コルバート] たとえ話? いえいえ、私は回りくどい話が好きではありません。ただ老人が昔を懐かしんでいるだけですよ。
[コルバート] ここに皆さんが座っていらっしゃいますから、暇潰しに何かお話ししなければと思いまして。
[「グレーシルクハット」] 私の興味は未来にあるんだ。「ヴィクトリアの」サルカズ。
[「グレーシルクハット」] ターラー人、あなたたちは万全な準備をしてきたようだな。恐らく多くの兵を引き連れているのだろう。
[「グレーシルクハット」] だが、あなたたちも私と共倒れしたくはないはずだ。
[「将校」] 君がここでおとなしくしていれば、何も起こることはない。
[「グレーシルクハット」] つまり、あなたたちはあの飛空船の技術を独占したいと?
[「将校」] カスター公爵が君をここへ送り込んだのは、まさか散歩させるためではないだろう?
[「グレーシルクハット」] 我々は、利を分かち合うために手を結べるはずだと思うが? 飛空船に対するサルカズの守備は……恐らくそこまで緩いものではないだろう。これは誰にとっても簡単な任務ではない。
[「グレーシルクハット」] だが、もし我々が協力すれば、この技術は特定の大公爵一人だけのものではなく、ヴィクトリアのものにすることができる。
[「将校」] 私はヴィクトリアなどどうでもいい。
[「グレーシルクハット」] ……
[「グレーシルクハット」] どうやら、決心は着いているようだな。
[「将校」] 君が先ほど言ったように、我々はお互いの目標について、ある程度利害が一致している。
[「将校」] それを鑑みて、なるべく君を困らせないようにしてやってもいい。カスターのペットよ。
[「グレーシルクハット」] 先ほど明らかに私を殺そうとしていたがな。
[「将校」] なんだ、私に謝ってほしいのか?
[「将校」] 君が任務に失敗しても、せいぜい降職の処罰を受けるだけで、命を失うようなことはないだろう。
[「将校」] だが、もし君がどうしてもカスター公爵からの表彰と抜擢を欲しているというのであれば、試してみるがいい。
[「グレーシルクハット」] ウェリントンの配下は主と同じく頑固だな、今回の件で十分に理解した。
[「グレーシルクハット」] いいだろう、私はここに留まってやる。飛空船の技術はあなたたちに譲ろう。
[「グレーシルクハット」] しかし、交換条件がある。
[ドクター選択肢1] 君は我々との関係を再評価するつもりか?
[「グレーシルクハット」] こうなったからには当然だ、ロドスのドクター。
[「グレーシルクハット」] 友人になる誘いを断った以上、再び駒に成り下がってもらうしかないんだ。
[「グレーシルクハット」] 私は国剣を持ち帰る。ウィンダミアの娘とアレクサンドリナには、ここで死んでもらうとしよう。
[デルフィーン] ……
[「グレーシルクハット」] 運命を受け入れたか、後継者よ?
[「将校」] 私はその件に介入する命令は受けていない。
[「グレーシルクハット」] 同意が得られたようだな。
[「グレーシルクハット」] すでに成立した取引であれば、カスター公爵は必ず約束を果たす。すべての約束をな。
[「グレーシルクハット」] 安心するがいい、「将校」よ。これが我々の最大のポリシーだ。
[ドクター選択肢1] ......
[ドクター選択肢1] (小声)イネス。
[イネス] (小声)了解よ。
[イネス] 当事者の意見をまるで聞かないのは、あなたたちヴィクトリア人の悪しき習慣かしらね?
[イネス] 「グレーシルクハット」さん、さっきも言ったと思うけど、あなたの比喩はほんとお粗末よ。
[イネス] 私たちを駒と呼ぶのも、比喩でしょう。
[「グレーシルクハット」] どうやらロドスはウィンダミア公爵との関係を頼みの綱にしていると見える。
[「グレーシルクハット」] 賢いとは言えないな。すり寄る相手を間違えているぞ。
[イネス] 初めから誰にもすり寄る必要なんてなかったのよ。
[「グレーシルクハット」] では仕方ない──
[「将校」] 待て……
[「将校」] ウィンダミア家の娘……あれは幻術と影の複合アーツか!?
[「将校」] 彼女はどこだ?
[「将校」] やってくれたな貴様ら!
[イネス] 息ぴったりじゃない、「グレーシルクハット」さん。
[「グレーシルクハット」] ポリシーに関する問題だからな。
[イネス] 約束は必ず果たす、だったかしら?
[「グレーシルクハット」] いや、もう一つの方だ。
[「グレーシルクハット」] 一人勝ちを許してはならない。
[「グレーシルクハット」] ターラー人、この駆け引きはもはや意味をなさない。この者たちが放送を行えば、大公爵たちの主力艦隊は前進せざるを得なくなる。
[「グレーシルクハット」] そうなれば、飛空船は撃ち落とした者の手に渡る。
[「グレーシルクハット」] これであなたも私もボーナスを手にすることはできなくなったな。
[「将校」] ……
[「将校」] そうか。
[イネス] ドクター、危ない!
[アーミヤ] イネスさん、間に合いました。
[アーミヤ] 外の影は確認しました。
[「将校」] ロドス……公爵様は、現時点では君たちと敵対することを望んでいない。
[イネス] 不思議なことを言うわね、今の攻撃は敵対には含まれないの?
[イネス] 謝りたいなら聞くわよ。
[「将校」] ……
[「将校」] では、また会おう。
[デルフィーン] ダブリン部隊の死体……
[デルフィーン] やっぱり、ここにも送り込まれていたんですね。
[デルフィーン] 真新しい傷口ばかり……刀傷ですね。傷口は焼かれてるみたい……
[デルフィーン] 誰!?
がらんとした部屋の中、答える者は誰もいない。
デルフィーンは短剣を握り締めた。
母からはもっと戦闘訓練に励むよう、しょっちゅう叱られていた。しかしウィンダミア公爵はヴィクトリアにおいて剣術で名を馳せ、その娘である彼女も、大概の相手には負けない自信があった。
[デルフィーン] 通信基地局はこの辺りのはず……
[デルフィーン] 何これ──
[デルフィーン] あ、ありえない……
デルフィーンの目の前には無造作に延びたコードがあったが、本来これらのコードに繋がれているはずの設備は、跡形もなくなっていた。
デーブルの上にはすでに分厚い埃の層ができている。
何者かが先んじて放送設備を運び去ったのは明白だ。しかも……かなり前に。
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