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驚靂蕭然_12-14_耳を塞ぐ_戦闘前
レユニオン、「グレーシルクハット」、ロドス、そしてダブリン部隊がノーポート区に集結し、事態はさらに混乱していく。そしてシージのアスラン王族としての身分と、手中にある「諸王の息」は、否応なく彼女を渦の中心に据えようとするのだった。
[レイド] そうだ、思い出した。あれはロドスの制服だ……
[レイド] Guardさんが同じものを一着持っていた。スージーさんもカレドンを去った後、あのロドスという所へ行ったはずだ。
[レイド] きっと良い人たちなのだろうな。でなければ、スージーさんを助けるはずがない。
[レイド] ここで、感染者たちのことも助けていることだし。
[レイド] ハァ、良い人は大抵不運に見舞われるんだ。自分に多くを課してしまうからな。
[レイド] だが、誰にも背負えない責任というものはある。
[レイド] 可哀そうなロドス。彼らは、一番初めから道を誤っていたのかもしれない。
[レイド] ナインの言ってた通り、注射と薬では鉱石病の問題を解決することはできないから。身体的な苦痛は和らぐかもしれないが、他人の視線はそう簡単には変えられないんだ。
[レイド] だから非感染者の奴らが、俺たちを見るように、俺たちの声を聞くように、俺たちは腐ったゴミなんかじゃないと認めるように迫る必要がある。
[レイド] あなたたちはどう思う?
[???] ......
[レイド] ずっとつけてきてるあなたたちのことだよ。今の俺の話について、何か意見はあるかな?
[???] レユニオン。
[???] お前は我々の任務対象ではない。
[レイド] それなら、今まで通り別々の道を行こうじゃないか。
[レイド] ……本当に行ったか。
[レイド] ダブリンが来ているのなら、俺も感染者たちを連れて今すぐに撤退すべきだな。
[レイド] ……チッ、もう少し時間があれば、もっと多くの人々を説得できたのに。
[レイド] さて、彼女を迎えに行くか。
[イネス] あなた、詩人を名乗ってるのね……
[「グレーシルクハット」] イネスさん、何か言いたそうだが?
[イネス] これまで何人か詩人に会ったことがあるけど、皆あなたよりずっと優れていたわ。なぜなら──
[イネス] 彼らは決して比喩を濫用しないもの。
[イネス] 埃だの、やすりだの……
[イネス] この区画、この国家、それからこの大地において、誰が埃で、誰がやすりだっていうのかしら?
[イネス] あなたは何の資格があって、そんな決めつけをしているの?
[イネス] 戦争はどんな比喩にも、どんな修飾にも値しないのよ。
[イネス] 戦争は、大いなる旅路でも、再び栄光を鋳造する炉の火でも、復興へと帆を掲げる船でもないの。
[イネス] 泥の中で息をしようともがく人々や、吹き飛ばされ廃墟の中に落ちていた腕、そして永遠に消えることのない臭気。
[イネス] 戦争っていうのは、それだけよ。
[イネス] ……私はよく知っているわ、戦争はそんなものでしかないって。
[「グレーシルクハット」] 互いの意見の是非については保留にしておこう。私はベテラン傭兵の考え方を尊重する。
[「グレーシルクハット」] だが駒から友になるかどうかの提案については、結論が必要でね。
[ドクター選択肢1] イネス。
[イネス] 何かしら。
[ドクター選択肢1] デルフィーンの答えはどうだった?
[イネス] 同意してくれたわ。私たちと彼女が生きてここから出られればの話だけど。
[イネス] 彼女は通信基地局へ向かったわ。すぐに放送が始まるはずよ。
[「グレーシルクハット」] 残念だ、我々が対立する必要はなかったというのに。
[「グレーシルクハット」] あなたはヴィクトリアの招待を無下にした。
[ドクター選択肢1] カスター公爵はヴィクトリアの代表ではない。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] アマチュア詩人の誘いを断っただけだ。
[「グレーシルクハット」] 遅かれ早かれ彼女が代表することになる。
[「グレーシルクハット」] 賢い決定ではないよ。
[「グレーシルクハット」] よく回る口など何の役にも立たないぞ、ロドスのドクター。
[「グレーシルクハット」] これもあなたたちの小細工かな?
[イネス] デルフィーン? あなたどうして……
[パーシヴァル] 早く逃げて! あいつらが──
[「グレーシルクハット」] あなたたちは……
[「将校」] ここは本当に賑やかだな。
[「グレーシルクハット」] あなたのことは赤鉄親衛隊の隊長と呼ぶべきだろうか? それともダブリンの「将校」と呼ぶべきかな?
[「グレーシルクハット」] あなたたちがお出ましとはな。
[カドール] しんどい日々もようやく終わりか。
[カドール] デルフィーンとあのドクターが、通信基地局をどうにかしてくれるんだよな?
[カドール] 全部うまくいくさ、オレらはノーポート区から出られるんだ。
[ベアード] その後はどこに行くつもり?
[カドール] ……さぁな。
[ベアード] ノーポート区でギャングをやってるような奴は、孤児院上がりか、早くに身寄りをなくした人間がほとんど。
[ベアード] 私たちはみんな同じようなもの。
[カドール] 何とかなんだろうよ、食ってく方法なんていくらでもある。ハッ、あの伝説の「錆鎚」に加わるのもアリかもな。
[カドール] とにかく、オレは難民になって大公爵の領地で高慢ちきな奴らに飯を恵んでくれってひざまずくことはねぇだろうよ。
[ベアード] カドール──
[カドール] 何が言いたいかはわかるぜ。オレがまだ「サルカズをぶっ飛ばす」みてーな幼稚でバカな話をしてると思ってんだろ。
[カドール] ……
[カドール] ……ベアード、オレはここ数日で十分多くを失った。この上、ほんの少しだけ残った最後の意地まで捨てちゃいけないんだ。
[カドール] こういう……痛みや苦しみ、もし最終的にオレがそんなモンに押しつぶされちまう弱虫なら、今すぐ路地裏で死んでやるよ。
[ベアード] カドール……押しつぶされるのは、非難されるようなことじゃないのかもしれない。背骨まで鉄でできてる人なんていないから。
[カドール] ……
[ベアード] 昼間、ビデオシアターに行ってきた。補給品満載の荷車に人々が殺到していたあの時、群衆にマクラーレンはいなかった。だから彼の身に何か起きたんじゃないかと思って。
[カドール] 気にする必要はねぇよ。あいつは前から疑り深い変人だったろ。
[ベアード] あなただって前、彼の所で水割りをたくさん飲んでた。
[カドール] はいはい、せいぜいあいつが長生きできるよう祈っといてやるよ。そんでどうだったんだ?
[カドール] ……あいつはまだ生きてんのか?
[ベアード] ビデオシアターの外壁はひどい有様だった。おそらく彼は何度も襲われたんだと思う。
[ベアード] 名前を呼んでみても、返事がなかった。初めはどこか別の場所に逃げたのかと思ってたけど……板が打ちつけられてる窓の隙間から、彼の両目が覗いてた。
[ベアード] 痩せてて、眼が浮き出てるみたいに見えた。見開かれた眼は血走ってて、そこに浮かんでたのは恐怖と絶望だった。もう一度見る勇気は私にはなかった。
[ベアード] 彼は──
[ベアード] ビデオシアターから、もう出られないのかもしれない。
[ベアード] ……私たちはそうした人、さっきあなたが言ってた「弱虫」と、そこまで違わない。ガドールも分かってるはず。
[カドール] ……フッ。
[シージ] 私たちにはまだ救うチャンスがある。まだ決定的に手遅れではないんだ。
[シージ] 当然ながら、それはとても難しい。予測されるサルカズの反撃から生き延び、その上、大公爵軍の砲火を耐えなければならない。
[シージ] だが、不可能ではない。
[シージ] 私たちは今、この地におけるサルカズ駐屯軍の動向を掴まなくてはならない……
[カドール] フンッ、陛下はいつだってタイミングよくオレらを励まして、何をしなきゃならねぇかを教えてくれるんだな、ほんと頼りになるぜ。
[シージ] ……
[シージ] カドール……
[カドール] 何かご命令でも?
[シージ] 一つ訊きたい……貴様は、国王とは何だと思う?
[カドール] 何だよ、オレまでオマエの家臣にするつもりか?
[シージ] 違う。何度も言っているだろう、私はグラスゴーのヴィーナだ。それ以外の何者でもない。
[シージ] ただ、この問いの答えを本気で考えた経験がなかったことに、今更気付いたものでな。
[シージ] 私は理解できていないのかもしれない。栄誉や威厳、称賛する言葉以外に、国王と貴様らの接点なんて……
[シージ] いや、私たちにとって、どのような存在なのか。
[カドール] どんな存在でもねぇよ。
[カドール] てか、オレには何の関係もねぇんだ。そんな奴に敬意を払うくらいなら、ポケットん中の金が足りなかった時、メシ代をまけてくれた食堂のオヤジに頭を下げるぜ。
[シージ] 古来より、ヴィクトリアには国王がいた。
[カドール] そうだったのか? で、そいつらは何者だ? すまねぇな、オレは高貴なアスランでもドラコでもないんだ。オマエが言ってる国王なんて誰一人会ったこともない。
[カドール] 新聞の上でしか見ねぇ名前ってんなら、コマーシャルによく出てるシラクーザレストランのヴィトシェフの方がよほど馴染み深いぜ。
[カドール] オレらに国王がいなくなって何年も経ったが、いなくなった後オレらの生活は酷くなったか?
[カドール] まぁ、もしかしたらそうかもな。
[カドール] だが、それが国王の存在と関連してるとは到底思えねぇ。玉座に座るのがオマエだろうと別の奴だろうと、どうせオマエら高いとこに座ってる連中は、下々のことをまともに見やしねぇんだからよ。
[カドール] オマエらの定義じゃさ、愚かな王は飲めや歌えやの贅沢三昧、賢明な王っつーのは戦争や税金についてちゃんと考えるような奴のことを言うんだろ。
[カドール] ハッ。オレからすりゃ、どっちも自己満だ。どのみち全部支配できると思ってやがる奴の思い上がりにしか見えねぇんだよ。
[カドール] 教えてくれよ、シージ。ノーポート区の連中から唯一の希望として崇められるのは……
[カドール] 気持ちいいか?
[カドール] あいつらを救うことが、オマエのクソ誉れ高い使命だとでも思ってやがんのか?
[シージ] ……私は「使命」という言葉は使わない。決してな。
[シージ] ただ──
[カドール] ただ、奴らの期待に応える責任が自分にあると思ってんだろ?
[カドール] そりゃ同じこったろうが、可哀そうな陛下。
[シージ] ……
[カドール] 自分でもよく分かってんだろ、ああいう視線が向けられてんのは、オマエがストリートギャングの一員だからなのか……
[カドール] それともオマエが持ってるそのご立派な名字、「ヴィクトリア」のおかげなのか。
[カドール] 正直な、オレだって誰かにこの状況をどうにかしてほしいよ。底なしの肥溜めみてぇな場所から全員救い出してほしいと願ってる。
[カドール] だが、そんなことが誰にできるってんだ? 夢見てんじゃねぇよ。
[カドール] 責任を担う勇気っつーのは、ストリートでやっていく分には立派な素質だろうよ。だがな、シージ。
[カドール] いかにも「国王」みたいな態度で、相手に嘘の希望を見せんな。
[カドール] でもって……自分が生まれた時から、そういう期待を背負うべき定めとか、下らねぇことなんて考えんじゃねぇ。
[ベアード] 誰か来た。
[カドール] チッ、始末するか?
[ベアード] ううん、下手に動くと感づかれる。今は奴らの行動を把握できればそれでいい……
[シージ] どこかおかしい、警戒を高めろ。
[サルカズ兵士] 貴様……ら……
[ベアード] 誤解しないで、私たちは別にちょっかいを出しに来たんじゃない。ただ通りかかっただけで……
[カドール] ベアード! 下手に動くなっつったのはオマエだろ?
[ベアード] チッ、私は何もしてない!
[シージ] この血は……こいつはすでに重傷を負っていた。その状態で必死にここまで逃げてきたんだ。
[モーガン] 封鎖エリア内部の人がやったのかな?
[カドール] んなはずねぇ。オレらをここに閉じ込めたのはこいつら軍隊だぞ。オレらもやろうとしたことはある、一人や二人ならチャンスはあるかもしんねぇが……
[カドール] 一回奇襲に成功しても、奴らはすぐに対応してくる。だがもし──
[ダグザ] おい、この付近は……普段からこんなに静かなのか?
封鎖エリアの高い壁の上では、いつもと同じようにサーチライトが青白い光を放っている。
彼女たちはもはやノーポート区の悪臭には慣れている。しかし今、この場所には新鮮な血の臭いが立ち込めていた。
[シージ] ……ここを離れるぞ、急げ。
[シージ] このエリアに残っている市民をすぐに集めなければならない。
[ダグザ] けど、イネスさんとドクターからまだ連絡を受けてない……
[シージ] あの二人が順調に行動していると思うしかない。
[シージ] すでに何者かが迫っているんだ。
[ダブリン兵士] 本当か?
[ダブリン兵士] 本当だ、あれはアスランだ。
[ダブリン兵士] だが俺たちの目標ではない。
[ダブリン兵士] 構わん、あのお方が自ら判断なさるはずだ。
[イネス] クソッ、扉が封じられてるわ。
[イネス] ドクター、私の背後へ。
[コルバート] 皆様、ようこそホテル・サンセットストリートへ。これほど多くの貴賓の方々においでいただくのは随分と久しぶりです。
[パーシヴァル] コルバートさん! 隠れてって言ったじゃないですか!
[コルバート] お客様がお越しになったのにお出迎えしないというのは、ホテルの支配人として失格でしょう。
[コルバート] 大変申し訳ございません、今は厳しい状況でして……でなければ、皆様にウェルカムドリンクをご用意したのですが。
[コルバート] 皆様のために何かお手伝いできることはございますかな?
[「グレーシルクハット」] ……
[「将校」] ……
[デルフィーン] では普通のお水はありますか? 私……喉が渇いていて。
[コルバート] もちろんですとも、デルフィーン様。
[「グレーシルクハット」] ウェリントンはやはりここを見逃さなかったか。
[「将校」] カスター公爵とて同じだろう。
[「グレーシルクハット」] ここを離れたいと言ったら、叶えてくれるかな?
[「将校」] 君とそっちの青髪のフェリーンはダメだ。
[「グレーシルクハット」] 恐らく、カスター公爵とウェリントン公爵は、サルカズに対抗するという点において、ある程度の利害が一致していると思うが。
[「グレーシルクハット」] 我々個別の目的についても……同様ではなかろうか。
[「将校」] 私はただ命令に従うだけだ。
[「グレーシルクハット」] ターラー人は皆、そのように融通が利かないのか?
[「将校」] ユーモアは、友人にしか向けない主義でね。
[「グレーシルクハット」] それはちょうどいい。私は交友関係を広げることが大好きなんだ。同じヴィクトリア人同士、まずは天気に関する愚痴から始めるのはいかがかな?
[コルバート] そうですね、天気と言えば……ロンディニウムの天気というのは、常にひどいものですが、最近はますますひどくなっております。
[コルバート] 四十年前であれば、もう少し太陽の出る日が多かったのですが。
[コルバート] あの頃は、このホテルの景気もずっと良かったものですよ。素晴らしいホテルだったんです!
[コルバート] ドアマンとして働き始めたばかりの時のことを、今でもよく覚えています。
[コルバート] 当時は公爵様も好んでこちらにご滞在になったと伺っていますよ!
[「グレーシルクハット」] あなたに用はないから静かにしていてくれるかな、サルカズ。
[コルバート] 大変恐れ入りますが、私をあなたと同じヴィクトリア人として見ていただけませんか。
[コルバート] ここにいる全員がヴィクトリアの民なのです。だから、もっと気楽に話をすべきですよ。
[イネス] 自分をヴィクトリア人だと言うサルカズなんて珍しいわね。
[コルバート] お嬢さん、あなたの状況も私と同じようなものではありませんか?
[イネス] ……
[コルバート] 私たちのようなカズデル以外に住むサルカズであっても、自分の家を見つけなければならないものでしょう?
[イネス] きっとほとんどのサルカズがそうは思ってないでしょうけどね。
[コルバート] だからこそ彼らは常にあそこまで失望し、あそこまで疲弊しているのです。
[コルバート] 私はここで一生を過ごしてきました。ここの壁や床板の一枚一枚をよく知っています。はるか遠くのカズデルよりもずっとね。
[コルバート] ここ数日の怠慢をお許しいただきたい。以前であれば、テーブルの一つ一つをこの手でピカピカに磨いていたものですが、どうにも手が回りませんので。
[コルバート] 私は自分の仕事を誇りに思っています。皆様にはこのホテルの以前の姿を本当に見ていただきたかった。
[コルバート] あの歳月が……私に錯覚を与えていたのです。ずっとこんな日々が続いていくのだと。
[コルバート] ハァ……しかしあの幸せな時間はもう終わってしまったのです。
[コルバート] パーシヴァル、なんと惜しいことでしょう。あなたが入った時にはもはや、このホテルは廃れてしまっていたのですから。
[パーシヴァル] ……正直、あたしはそんなに気にしてませんけど。
[コルバート] 実を言えば、今のように戦火によって壊され、崩れてしまった方がまだ受け入れられましょう。
[コルバート] 私が悲しいのは……
[コルバート] いつもと同じ麗らかな午後に、テーブルを拭き終わってふと顔を上げると──
[コルバート] 周りのすべてがこれほど古びていたのかと、はたと気付いたこと。
[コルバート] そして私は、どのようにしてそうなったのかさえ知らないのです。
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