aklib_story_淬火煙塵_11-19_運命に立ち向かう_戦闘前

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淬火煙塵_11-19_運命に立ち向かう_戦闘前

最後の蒸気騎士が墓の奥深くから立ち上がり、ヴィクトリアを奪い取ろうとするすべての敵に向かって突撃する。


[ダグザ] シージ、前を見ろ!

[ダグザ] あれはまさか……

[シージ] ……蒸気甲冑だ。

通気孔から外に噴き出す白い蒸気が漆黒の甲冑に映り、ひときわ目立つ。

一度、また一度と鳴る。

まるで呼吸のように。

それは濃霧を振り払い、歴史の中から目覚めようとしている。

それを阻めるものも、それに勝てるものもない。

見捨てられたとて、裏切りに遭ったとて。それは最強だ。

死でさえその歩みは止められない。

[ヴィクトリア傭兵] 動き出した、見ろ、動き出したぞ!

[ヴィクトリア傭兵] *ヴィクトリアスラング*、これは一体どういうことだ!

[トター] チッ、矢では役に立たない!

[トター] 急げ! 榴弾を用意!

巨大な甲冑が残骸の中から立ち上がる。

重々しい足音。

重苦しい噴射音。

それは一歩一歩、取り乱す人々の方へと向かう。

[「蒸気甲冑」] (重苦しい噴射音)

[ヴィクトリア傭兵] 無意味だ。

[ヴィクトリア傭兵] トター、サルゴン出身の君じゃわからないだろう。

[ヴィクトリア傭兵] 俺が小さい頃、寝る前の物語といえば彼らの話だったんだ。

[ヴィクトリア傭兵] いま俺が子供を寝かしつける時、話してやるのはやっぱり蒸気騎士の物語さ。

[ヴィクトリア傭兵] あれに勝てだって? どうやったら勝てるんだ?

[ヴィクトリア傭兵] 俺たちの誇り、俺たちの栄光だ。一度裏切られた英雄に、どうやったら勝てるんだよ?

[ヴィクトリア傭兵] 勝てるわけがない。

[ヴィクトリア傭兵] こいつは……ヴィクトリアの蒸気騎士なんだ。

[トター] どけ、どけ!!

[モーガン] これって……何の音?

[インドラ] 噴射音だな。

[モーガン] そんなわけある?

[インドラ] 噴射音に違いねぇ、あいつらが帰ってきたんだよ!

[インドラ] やっぱ、ついてく人を間違っちゃいなかった! 我らが王は切り札をここに隠してやがったんだ!

[インドラ] モーガン、俺たちの部隊に蒸気騎士が加わったぜ!

[モーガン] ロンディニウムにほんとにまだ蒸気騎士がいるの? 彼らがここにいるっていうの?

[モーガン] 彼らが諸王の眠る地を……「諸王の息」を守っていたの?

[インドラ] ハハ、あいつらがこれまで何してたかなんてどうだっていいだろ!

[インドラ] ヴィーナはあいつらの王なんだぜ!

[インドラ] 俺たちが蒸気騎士と一緒に地上に上がりゃあ、サルカズの野郎どもはぜってー……ぜってー……って、モーガン、お前なにそんな変な顔してんだ?

[モーガン] ヴィーナは、「諸王の息」を持ち去ろうとしてるんだよ。

[モーガン] 四年。丸々四年間、蒸気騎士は日の当たらない地下に隠れて、一歩もあの剣から離れなかった。

[モーガン] サルカズがこのヴィクトリアを占領しても、工場を接収しても、貴族たちの屋敷を焼き払っても、彼らは現れなかったんだよ。

[モーガン] 一体何を考えてるの?

[モーガン] 彼らが……諸王の眠る地の侵入者と、同じ側に立つと思う?

[モーガン] ん? 誰!?

[インドラ] ……モーガン、武器を握れ。

[インドラ] こいつらは……強ぇぜ。ずっと俺たちの周りに潜んでやがった。

[インドラ] へっ、いいじゃねぇか、ちっとは面白くなってきたぜ。

[???] ノーポート区のチンピラがなぜここにいる?

[???] アレクサンドリナのところのあのグラスゴーとやらか?

[インドラ] 隠れてコソコソ言ってんじゃねぇよ、さっさと出てきやがれ!

[???] チッ、不確定要素が多すぎるな。あの噴射音がロンディニウムで再び鳴るとは。

[???] 蒸気騎士に生き残りがいると知ったら、公爵様はどう思われるだろうか?

[???] 彼女は不安に思われるか? それとも栄光を鎧とする英雄たちの帰還に喜ばれるだろうか?

[???] フッ、栄光か……

[???] まずはこのチンピラどもを片づけるぞ。こいつらにアラデルの邪魔をさせるな。

[「蒸気甲冑」] (重苦しい噴射音)

[シージ] ……蒸気騎士。

[シージ] 四年が経った……蒸気騎士の中に、まだ生き残りがいたのか?

[ダグザ] あの傷跡……明らかに致命傷だ。サルカズの釘はほとんどすべての甲冑の核心部を破壊していた。中にいた者が生き延びるなど不可能だ……

[ダグザ] それに、王室の鍵がなければ、諸王の眠る地を出入りすることはできない。

[ダグザ] 彼はこうやって、この暗い地下に閉じ込められていたんだ。丸々四年間も……

[ダグザ] たとえ即死は逃れられたとして、どうやってこんな場所で生き延びたんだ?

[シージ] ……

[ダグザ] 甲冑の中の人……今の彼はどんな姿をしている?

[「蒸気甲冑」] (重苦しい噴射音)

[アラデル] ……

[アラデル] ……あなたは……誰?

[アラデル] いえ……あなたは……何?

火の光が甲冑のヘルメットの中で点った。

アラデルは感じた。冷たい視線がこちらをじっと見つめている。

その視線がこの場にいる全員をじっと見つめているのを。

火……

炎の中で雄たけびを上げていたあの古の鎧。

それは幼い頃なりたかった彼女の理想だ。

それはかつて救いを託した彼女の希望だ。

それは彼女が自らの目で見た破滅だ。

それは彼女が直視できない悪夢なのだ。

彼は再び戻り、自分の目の前に立っている。

アラデルは、身体の震えを抑えることができなかった。

[アラデル] あなたは……この全てを終わらせに来たの?

[「蒸気甲冑」] (重苦しい噴射音)

[シージ] ……

[シージ] アラデル!

[シージ] 危ない――!

[シージ] 蒸気騎士よ。私はアレクサンドリナ・ヴィーナ・ヴィクトリア、アスラン王の子である。

[シージ] 攻撃の手を止めるんだ、騎士。

[シージ] 私たちは敵ではない。

[「蒸気甲冑」] ……

「ヴィクトリア。」

シージは頭上から響く声を聞いた。

蒸気騎士が話しているのか? 彼女は確信が持てなかった。その声は人の声というより、むしろ機械の轟音に近い。

濃い白の蒸気が再び彼女たちの目の前で噴き出す。先ほどよりもさらに激しく、頻度は増していた。

漆黒の騎士が彼女に向けて巨大な武器を掲げた。

「ヴィクトリア。」

シージはふと気付いた。目の前の蒸気騎士が呼んでいるのは自分の姓ではないということに。

彼が見ているのは自分の手に握られている剣。

「諸王の息」――ヴィクトリアの王権の象徴だ。

[「最後の蒸気騎士」] 「ヴィクトリア。」

彼はこの剣を「ヴィクトリア」と呼んでいるのだ。

彼が命を懸けて守ると誓ったヴィクトリア。

彼は、広大なヴィクトリアに裏切られた。ならば、象徴となるヴィクトリアを守ることにしたのだ。

帝国最後の騎士は、ヴィクトリアを奪い取ろうとするすべての敵に復讐する。

彼が王位継承者に突撃した。

[ダグザ] シージ、避けろ!

[ダグザ] なぜ蒸気騎士があんたに攻撃する?

[ダグザ] まさか、相手が誰だか認識できていないのか……

[トター] 伏せろ――!

[ダグザ] うぐっ……ハァ……

[トター] あの剣……刃が炎でできている。

[トター] あれに触れてはダメだ!

[ヴィクトリア傭兵] 狂ってる、奴は狂ってるぞ! 俺たちに止めることはできない!

[ヴィクトリア傭兵] 早く引け、ここから離れろ……はな……

[ヴィクトリア傭兵] ぐはっ!

[トター] ……

[トター] それほど間を置かずに、俺たちは全員殺されるだろうな。

[シージ] 貴様の部下を連れて逃げろ。

[トター] ……

[アラデル] ……ヴィーナの言う通りにしなさい。

[トター] なら、任務はキャンセルってことか。

[トター] 騎士のお嬢さん、どうやら俺の引退計画は先延ばしになるようだ。

[シージ] ダグザ、貴様も傭兵に続いてここを離れろ。

[ダグザ] 殿下!

[シージ] 貴様は彼らに向けて最後に礼をした者だ。

[シージ] 彼らの物語を日の下に持ち帰るべきだ。

[ダグザ] これは我々全員の物語だ、シージ。

[ダグザ] ……私たち一人一人によって語られるべきなんだよ。

[ダグザ] アラデル、あんたが何を血迷ってるのか私にはわからない。

[ダグザ] 正直に言おう、あんたはかつて私の憧れだった。あんたは騎士の栄光に値する人物だと思っていた。いや、私が想像する「騎士のお手本」でさえあった。

[ダグザ] 自らが先頭に立ち、名利を求めず、永遠に敵を恐れることはない。

[ダグザ] あんたは高潔不変のカンバーランドなのだ!

[アラデル] ……

[アラデル] 不変の高潔なんてないのよ、ダグザ。

[ダグザ] それでも私たちは肩を並べ戦ったんだぞ、違うか?

[ダグザ] ここにはあんたの物語もある、アラデル。

[ダグザ] ……もしあんたが戻ってきてくれるのなら。

[アラデル] ……もう無理よ。そうでしょう?

[ダグザ] それは、あんた次第だろう。

[ダグザ] だが今は……まずは目の前の騎士と向き合おう。

[ダグザ] 騎士の戦いは公平と栄誉がなければならない。これは私の師が教えてくれたことだ。

[ダグザ] 相手がこれほどまで栄誉ある英雄なら……

[ダグザ] 殿下、どうか私に貴殿と肩を並べることを許していただきたい。

[シージ] ……もちろんだ。

[アラデル] 戦う……彼と戦う?

[アラデル] 哀れで、醜くて、皆を欺いた裏切り者が……

[アラデル] どうやったら運命に逆らえるの?

[アラデル] ヴィーナ、これってよくできた寓話だと思わない?

[アラデル] かつて英雄になりたかった子供がいた。でも彼女は悪者になってしまい、過去から舞い戻った英雄と再び向かい合った時に、その英雄の剣が自分に向けられていたと気付くのよ。

[アラデル] 彼女の死が、この物語の結末であるべきなの。

[アラデル] 彼女はすべてを剥奪されるべきよ。残された使命すら果たすことができなかったもの。

[アラデル] ヴィーナ……私は……

[シージ] 私はもう貴様から「使命」という言葉を聞きたくない、アラデル。

[シージ] 前を向け、アラデル・カンバーランド。私の使命であるとか、貴様の使命であるとか、そんなものは存在しない。

[シージ] まずは彼を鎮めてやらねばならない。その後もしまだ貴様がこの剣を欲するのなら、私に挑んでこい、受けて立ってやる。

[シージ] これは貴様のクソみたいな使命ではない、アラデル。貴様がそうしたいなら、そうすればいい。

[シージ] だが、その言葉はもう口にするな。

[アラデル] ……

[「最後の蒸気騎士」] (重苦しい噴射音)

[アラデル] 気を付けて、彼が来るわ。

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