aklib_story_暴風眺望_9-14_旗は風に揺れて_戦闘前

ページ名:aklib_story_暴風眺望_9-14_旗は風に揺れて_戦闘前

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

暴風眺望_9-14_旗は風に揺れて_戦闘前

ダブリンの幹部たちは「リーダー」を回収するため、多くの命を奪っていく。ジェーンは民間人を救うため、身を挺してダブリンに立ち向かうのだった。


p.m. 5:57 天気/雨

ヒロック郡 第十地区付近の空き家

[重傷感染者] ……う、っ……

[Outcast] やあ、目が覚めたかな。

[Outcast] ……おっと、返事はいらないよ。心肺の損傷状態から見て、息をするだけでも激しい痛みがあるだろうからね。

[重傷感染者] げほ、ごほごほっ……

[Outcast] 腹部がほとんど裂けているよ……想像よりもずっとひどい状況だ。生きているのが不思議なくらいだよ。

[Outcast] ――しかし……その理由も見当はつく。いやなに、私は医者でこそないが、各種族の生体構造についてはいくらか理解があってね。

[Outcast] 私の同僚は君をヴイーヴルだと思ったようだが、そう思うのも無理はない。彼は若者だからな。かつてこの土地に根を下ろしていた君たちの先祖――その巨大な姿と力強さなど、見たことがないのさ。

[重傷感染者] う、ぐッ――!

[Outcast] そう興奮するな。無闇に暴れたところで、死期を早めるだけだぞ。

[Outcast] 君のアーツは既に見ているし、それに応じて少しばかり準備もさせてもらった。この部屋で火を放とうと思っても、そう簡単にはいかんだろうな。

[重傷感染者] ! …………

[Outcast] ほう、実に興味深い表情をするね。私への攻撃手段がないとわかった途端、むしろ気が楽になったと見える。

[Outcast] しかも、先ほどの自己防衛の動作より、よほど素直な反応だったところを見るに、それが君の本心なのかな?

[重傷感染者] ……違う……

[Outcast] どうやら、否定するのが習慣になっているようだね。

[Outcast] 大方、君はなりたくない人間になることを余儀なくされているのだろう。その苦痛は、はっきりと見て取れる。

[Outcast] 君を利用しているのは誰だ? 高塔の落とす影か、どこにでも手を伸ばす支援者か、あるいは、故国の再興を渇望する遺民たちか?

[Outcast] いいや、どれも有り得まい。傀儡に率いられるだけの軍隊ならば、ロンディニウムの監視下でこれほど急速に力をつけることなどできんからな。

[Outcast] ——

[Outcast] ――君は、表舞台に押し出された、誰かの影なのだろう。

[Outcast] となれば裏で糸を引くその人物は、君とまったく同じ血を引いていると推測するのが妥当かな?

[重傷感染者] ……やめて……

[Outcast] それは話をやめてくれ、ということかい? その人物に言及するだけで、そこまで恐れを感じるものなのか?

[Outcast] それもそうだ、君だけじゃない、ヴィクトリア全土が……いや、この大地の誰もが恐れを抱くものだろう。

[Outcast] 彼女は恐らく、君と同年代の若者なのだろうが、この短期間で自分を利用しようとしていた人々の力をすべて、その手に収めてしまったのだからね。

[Outcast] そう考えると、変化は思ったよりも早く訪れることになるだろうな……我々も早いところ、対策を立てておかねばなるまい。

[重傷感染者] キミ……たち……ラテ……ラーノが……

[Outcast] ははっ。私の行動理由なんて、想像しなくていい。

[Outcast] 君を助けると決めた時、その正体など私は気にしていなかった。こうして推測が結論に近付いたからといって、今更心変わりなんてしないさ。

[重傷感染者] キミ……は……

[Outcast] 私が誰かって? 知らない方が君のためだよ。

[Outcast] 君が動けるようになって、ここを離れたその後も、私に助けられたということは決して口にしないでくれ。

[Outcast] ――私は君をここでは死なせない。それだけ分かっていればいい。

[重傷感染者] ……

[重傷感染者] ……わかった……あり、がとう……

[Outcast] いやいや、お礼はまだ取っておいてくれ。私にできるのは、壊死した組織の除去と止血くらいのものだからね。

[Outcast] 何せ、君の身体を傷つけたのは活性源石――最も感染力の高い源石なんだ。こうなると、既に大量の源石粒子が傷口から血液循環系に入り込んでいることだろう。

[Outcast] 阻害剤の投与は行ったが、それでも内臓や皮膚に源石結晶が形成されるのは防げない。

[Outcast] もうじき、君は高熱の中で再び意識を失うことになる。しかしそれはむしろ不幸中の幸いというやつさ。急性の発作が起きた際に訪れる激痛を、多少は軽減することができるからな。

[Outcast] 恐らく知らぬ間に血を吐くことになるだろう。窒息しないように、できるだけ頭の位置を高くしておくよ。

[重傷感染者] ……うぅ……うん……

[Outcast] この先、君を待ち受ける苦しみはこれだけに留まらない。今後、これまで通りの生活には戻れなくなるだろう。鉱石病は、君の運命を一変させてしまうんだ。

[Outcast] かつて君に付き従っていた者は去って行く。それどころか、君を敵視してつばを吐きかける者もいるだろう。もう戦士たちを率いることなどできないし、同胞に受け入れてもらうことも困難になる。

[重傷感染者] ……そ、う……

[Outcast] おや? この話を聞いて、またその表情をするのか。鉱石病患者としての未来に絶望はなく、むしろ解放された気分といったところかな。

[Outcast] まあ、それも道理というものか。不意を打った砲撃がどれほど猛烈だろうとも、一匹の若き紅龍を無抵抗に釘付けにすることなどできないのだからね。

[Outcast] 君は己が命運から逃れることを切望している……そしてそうした抵抗には、得てして代価が必要だ。

[Outcast] ……どうやら、私は少々思い違いをしていたようだね。

[Outcast] 君はほかの同族たちとは違い、そこまで貪欲でも戦闘狂でもないらしい。だが、それでも確かに、彼らの特徴である我慢強さと勇気を有していると見える。

[重傷感染者] ……うん……!

[Outcast] さあ、もう寝なさい。これ以上我慢しなくていい。私はここにいるから。

[重傷感染者] あぶ、な……

[重傷感染者] ……い……

[重傷感染者] …………

[Outcast] 君のそばにいるのは危ないと? じきに気を失うという時に、伝えることがそれか?

[Outcast] ——

[Outcast] 確かに。周囲が静かすぎる……

[Outcast] 奴らにとって、君は単なる捨て駒ではないのかもしれないな。どうやら、計画の変更をせねばならないようだ。

[Outcast] リスクは承知しているが、ロドスには君がもたらす情報が必要だ……ケルシーなら、それを理解してくれるだろう。

[ダブリン兵士] ……ご、ご報告します……! 近辺で捜索を行いましたが、見つかりませんでした……!

[「略奪者」] ンだと!? この役立たずのゴミどもが!

[「略奪者」] たった一人も満足に見張っとけねえのかよ!

[ダブリン兵士] も、申し訳ありませんっ!!

[「放火魔」] 彼女がケガを負って倒れるのを見たというのは本当なのか?

[ダブリン兵士] は、はいっ……私の部下の衛兵が目撃したという報告が。砲弾が落ちてきた時、リーダーはまだ、今朝処刑を行った場所の近くにいらしたので……

[「略奪者」] 「リーダー」? あいつがリーダーだってこたぁお前の貧相な頭でもわかってるみてえだなあ!?

[「略奪者」] そのくせ、敵が近付いてきた途端にてめえのことだけ考えて、尻尾巻いて逃げ出したってのか!? 俺たちの一員になった時立てた誓いを忘れたとは言わせねぇぞ!

[ダブリン兵士] あ、あまりに一瞬の出来事でしたので、全員、反応が遅れてしまい……

[ダブリン兵士] それに、リーダーからは「考え事をしたいから、余計なことはせず持ち場を守れ」と命令されていたものですから……

[「略奪者」] あァ!? だったら俺が死ねっつったら死ぬんだろうな、てめえ!

[「略奪者」] この*ヴィクトリアスラング*!

[「放火魔」] まあまあ、その辺にしておけよ。そいつを殺したところで意味ないだろう?

[「放火魔」] 俺たちの仕事は、彼女の生死と現在地を確認することだしな。

[「劇薬学者」] ……どけ……私が……やる……

[「放火魔」] おい、ほどほどにしろよ。

[「劇薬学者」] ……

[ダブリン兵士] じょ、上官っ!? お許しを、うぅっ……やめ……

[ダブリン兵士] なんだ……これ、は……ぐあっ!? お、おえっ――

[ダブリン兵士] ――は……はハッ……ハ、ハハハッ……

[「劇薬学者」] 彼女を……どこで見た……

[ダブリン兵士] 倒れた! 倒れた! ギャハハハハハッ! 倒れ倒れ倒れ倒れ倒れ―― ギ、イヒヒヒ、ぶっ刺さった! ハハッ、死んだ! 死んだ死んだ――

[ダブリン兵士] 死ん……

[「放火魔」] ……で、これのどこが「ほどほど」なんだ?

[「劇薬学者」] 量が……多かった……記録……しておく……

[「略奪者」] ケッ……相変わらず、マジで薄気味悪ぃ*ヴィクトリアスラング*野郎だ。人間で薬の出来を試すような変態とは関わりたくねえな。

[「放火魔」] まあ、こいつが嘘をついちゃいないことはわかったろ。

[「放火魔」] 彼女はつい先ほどまで、この辺りに倒れていたんだろう。――その上重傷を負っていて、それは恐らく致命傷ときている。

[「略奪者」] つっても、そんな傷負った奴がどうやって逃げるってんだ? まさか地面をぶち抜いてったわけじゃねえだろうしよ。

[「放火魔」] もう一度通りをまるごと爆破してもいいぞ。探しやすくなるだろ。

[「略奪者」] ……お、おいおい! マジでやるならその前に連絡しろよ!?

[「会計官」] 通りをまるごと爆破……? 誰だ、そんなことを考えてる奴は。

[「放火魔」] 俺だが? 通りどころか都市全体を焼き払ってでも、見つけないといけないだろうが。

[「会計官」] ……お前はヴィクトリア軍並みに愚かだな。無闇な破壊をして都市の価値が落ちたら、占領する意味もなくなるだろうが。

[「放火魔」] ならどうしろと?

[「放火魔」] もし、俺たちの目と鼻の先で彼女が消えたことがリーダーに知られたら、責任を負える奴なんていないだろ。

[「雄弁家」] 失礼、加えて申し上げますと――恐れるべきものはリーダーの怒りだけではありません。

[「雄弁家」] 考えてもみてください。多くの兵士と協力者たちにとっては、彼女こそが、ダブリンの代表なのです。

[「雄弁家」] もしも彼女が我々の支配を逃れ、我々の敵、ないしはよからぬ考えを抱く「友人」の手に落ちたとしたら……もたらされる結果は、想像するに恐ろしいものがありますよ。

[「略奪者」] *ヴィクトリアスラング*! そういや、あの女……! 俺たちの計画を全部知ってんじゃねえか!

[「放火魔」] …………

[「放火魔」] なあ、お前たち。この件、あの二人にも知られてると思うか?

[「会計官」] 彼女たちであれば、会議のあと早々に去って行った。恐らく、情報はまだ耳に入っていないだろう。

[「略奪者」] けどよ、マンドラゴラはあの女を毛嫌いしてんだろ? だったら別にいなくなったって構やしねぇんじゃねーの。

[「放火魔」] アルモニの方はどうだ? ……あいつときたら、こちら側の人間と考えていいのかどうか、イマイチよくわからないからな。

[「雄弁家」] 言葉には気を付けてください。我々は皆、リーダーの元に集う同胞なのですよ。

[「略奪者」] 言ってろよ、口先野郎。お前らがアルモニに手を出そうが俺は知ったこっちゃねぇがよ。マンドラゴラの方はなかなか大した嬢ちゃんだ。あいつまで巻き込んだら承知しねぇぞ。

[「雄弁家」] 疑われるとは心外です、我が友よ! 彼女もまた強い絆で結ばれた我らが戦友なのです。何しろ我々と同様に、リーダーの前で才能と忠誠心を示すことを望んでいるのですから。

[「会計官」] それにしても、アルモニはどうやってマンドラゴラを手懐けたんだろうな。あんな急に従順になるものなのか? やけに上機嫌で、嬉しいことでもあったようだったし。

[「放火魔」] なんにせよ、基地局を占拠しに行ってるだけだろ。そんなことよりも他の都市をさっさと燃やす方が早いのにな?

[「会計官」] ……少しは落ち着け。何にせよ、リーダーが今に至るまで、我々の計画を承認していないことは確かなんだ。

[「雄弁家」] 大丈夫です。我々の行動には間違いがないと証明することさえできれば、説得の機会も自ずと訪れますよ。

[「略奪者」] ってこたぁ……やっぱ俺らはあいつを探し出さなきゃなんねーんだよな?

[「雄弁家」] ええ。街中をひっくり返してでも、ね。

[「略奪者」] チッ、わーったよ。だったら、グズグズやってねぇで出発するぞ。

[「会計官」] 待て。その前に「囚人」を起こしに行け。

[「略奪者」] あぁ? 五人で行ってもまだ足んねえって言うのかよ?

[「会計官」] 「我々は、どんな手柄も公平に配分しなければならない」。取り決めのことを忘れるな。

[「略奪者」] ……ったく……仲間だろうが構わず陥れるような奴に、取り決めがどうとか言われたかねぇな。

[「略奪者」] それで、ほかの連中に知られたくねえってんなら、これを知ってる兵士どもはどうすんだ?

[「雄弁家」] もちろん連れて行きますよ。彼女を見つけるまでは、人手が多ければ多いほど望ましいですからね。

[「略奪者」] 見つけるまでは、な。そんで、見つけた後は?

[「雄弁家」] そのくらいのこと、皆さんならおわかりになるでしょう?

[「雄弁家」] 「ダブリンは誰をも逃さない」――

[「雄弁家」] その秘密を垣間見ることなど、誰にもできないのですから。

[ジェニー] ――それで、この包帯は必ず処分すること。

[有志の青年] えっ? だけど、これはもう洗ったやつだし……

[ジェニー] それでも、使っちゃダメだよ。この箱の物資は、もう源石に汚染されちゃってるの。粉塵を完全に取り除ける保証はないからね。

[有志の青年] はぁ……ジェーン、君の言ってることが正しいのはわかるよ。でも俺たち、本当に物資不足なんだ。

[有志の青年] ほら、あっちの方を見てくれ……重傷者がまた、何人も運ばれてきている……

[ジェニー] あっ……あの人たち……

[有志の青年] 知り合いか?

[ジェニー] ……うん、ええと……知り合いだった、よ。

[ジェニー] でもきっと、向こうはあたしに会いたくないと思う。

[ジェニー] あの人たちを運ぶの、手伝ってあげてくれない? あたしはその間に診療所へ行ってくるよ。もしかしたらまだ物資が見つかるかもしれないしね。

[有志の青年] ジェーン、あっち! 誰か来たみたいだ!

[ダブリン兵士] さっさとどけ!

[ジェニー] …………!

[有志の青年] 上官! もしかして、手伝いに来てくれたんですか?

[ダブリン兵士] うるさい、邪魔をするな!

[悲しげな女性] ちょっと待って、あなた……ローナン?

[ダブリン兵士] ……

[ダブリン兵士] ――くまなく探せ、絶対に逃すな! いいかお前ら、この近くは路地が多い。こういう場所は人を隠すのには事欠かないはずだ。

[悲しげな女性] ローナン、私よ、私たちよ! どうして無視するの? ……その服を着ているから? 顔が見えなければ他人だとでも言うの?

[ダブリン兵士] ……俺には重要な任務が残ってるんだ。これ以上うだうだ言うようなら、手が出るぞ!

[悲しげな女性] 話を聞いてちょうだい! クレイグがケガをしたの! お願いだから助けて……あの子はずっと、あなたについて色々手伝ってきたのよ……

[ダブリン兵士] わけのわからんことを言うな!

[悲しげな女性] う、うぅっ……あぁ……!

[ジェニー] (彼女の背中、ひどい傷……)

[ジェニー] (それに、クレイグも……頭のケガは軽くない。)

[ジェニー] (早く止血してあげないといけない。けど、あの子には避けられてるし……)

[ダブリン兵士] どうだ、見つかったか?

[ダブリン兵士] ……本当に、ここには隠れてないんだな?

[ジェニー] (……誰かを探してる?)

[ダブリン兵士] ……いや、待てよ。こんなに大勢が集まっていたら、我々が去った後いくらでも紛れ込めるだろう。それで取り逃がせば、上にご報告のしようがない……

[ジェニー] (もしかして……さっきOutcastが救助に向かった人を探してるの?)

[ジェニー] (だとしたら、彼女が危ない。)

[ジェニー] (あたしも行かないと!)

[ダブリン兵士] おい、お前たち。立て、ここから出て行け!

[有志の青年] 上官、ここにいるのはほとんど負傷者なんですよ! 動けるわけが……

[ダブリン兵士] 動けなくても動くんだよ!

[ダブリン兵士] 誰かこの感染者どもを全員ここから追い払え! ただし、よく気を付けろ! 奴らの死骸は爆発するからな!

[ダブリン兵士] たとえば、この顔面血まみれのガキ――

[クレイグ] う、ぅっ……! やだ……助、けて……ママ……

[悲しげな女性] クレイグ、クレイグ!! やめて、その子を連れて行かないで!

[有志の青年] そ、そんな……! 助けないだけならまだしも、殺すおつもりなんですか!?

[ダブリン兵士] 聞こえの悪いことを言うな。ターラー人たる者、大義のために必要な犠牲もあるのだとわきまえろ。

[憤慨する青年] ローナン……! てめえ、前回もそんなこと言って、シアーシャを売りやがって! そのせいで俺たちはあいつを失ったんだぞ!

[ジェニー] (……シアーシャ!?)

[ジェニー] (この人が……シアーシャを売った……)

[ジェニー] (そのせいで……あの子は、あんな目に……)

[ジェニー] (……だったら、さっきのは……この人の制服は、シアーシャの命と引き換えに手に入れたもの?)

[ダブリン兵士] あいつは俺らの信頼を裏切りやがった! だから報いを受けたんだ……ハッ、いい気味だぜ!

[ダブリン兵士] リーダーのご威光と、我々の戦いの意義深さを理解できない連中にはああいう結末がお似合いだ。――これ以上協力を拒むようなら、次はお前たちの番だぞ!

[ジェニー] ……やめて。もう沢山だよ。

[有志の青年] なっ……ジェーン? もう行ったんじゃなかったのか?

[ダブリン兵士] 今度は誰――ん? 見覚えのある顔だな……貴様はターラー人じゃないだろう?

[ジェニー] それ以上、喋らないでって言ってるの。

[ジェニー] 「大義のため」? 「必要な犠牲」? 軽々しく言わないで。そんなこと、他人が勝手に決めていいことじゃない。

[ダブリン兵士] なっ……その旗は……!

[ダブリン兵士] き、貴様、ヴィクトリアの軍人か!

[ジェニー] ……「ヴィクトリアの軍人」?

[ジェニー] ……

[ジェニー] 違うよ。あたしはもう、軍人じゃない。

[ジェニー] だけど――あなたがここにいる罪のない人たちの命を踏みにじろうとするなら、私があなたの敵になる。

[ダブリン兵士] ……罪のない人? 貴様は、こいつらがやってきたことを承知の上でそう言ってるのか?

[ダブリン兵士] このガキも含めて、ここにいる連中で……手を汚したことがない奴なんていると思ってるのか?

[ジェニー] だったら、そう言うあなたは?

[ジェニー] 同胞を売って権力を手に入れて、その権力でさらに彼らをいたぶる……あなたの罪は、誰が裁くの?

[ダブリン兵士] フンッ。貴様のそれは誰に向けた演説だ? 正義ぶるのはやめろ。――おい、誰かさっさとこの脱走兵を叩き出せ! 感染者諸共、全員始末してやれ!

[悲しげな女性] ひっ……! いや、お願い、助けて……!

[ジェニー] それ以上進んだら、容赦しないよ。

[ダブリン兵士] 貴様なんぞに何ができる? そこをどけ!

[ダブリン兵士] そんな旗なんざ大事そうに持ち歩いてるくらいだ、どうせ大した実力じゃないんだろう?

[ジェニー] たとえ私が実力不足でも、これ以上、好きなようにはさせない!

[ダブリン兵士] イカれてやがるな。こいつらとは元々、赤の他人だろう? そこまでして利用されたいのか? どこまでバカなんだ?

[ジェニー] 私は……

[クレイグ] ……う、うっ……うぁ……っ……

[ジェニー] 確かに、ターラー語を話すことはできない。

[ジェニー] あなたたちの生活を、身をもって経験したこともない。

[ジェニー] 鉱石病の苦しみだって知らない。

[ジェニー] だけど……

[ジェニー] 私は二年以上の間、あなたたちが暮らす街を歩いてきたの。

[ジェニー] あなたたちの泣き声を聞き、そしてそれ以上に、たくさんの笑顔を見てきた。

[ジェニー] 私はずっと、心の底からこう思ってた。私たちはみんな同じ、人間同士なんだ、って。

[ジェニー] もちろん、人が人である限り、過ちを犯すこともある。そうなった時には、咎められ、裁きを受け、良心の呵責に苛まれるべきだと思う。

[ジェニー] ――だけど、その裁きを下す人が、恩知らずの悪人であってはいけない。

[悲しげな女性] あなたは……私たちを、守ろうとしてくれるの? 私たちのことを……恨んでないの?

[ジェニー] ……正直に言えば、少しも恨んでない、とは言えないよ。

[ジェニー] 私はもう、私たちの間にある、埋められない溝が見えないフリはしない。クレイグが間違ったことをしたのも事実だと思う。どんな罪も、庇うつもりはない。

[ジェニー] でもね、ある人が教えてくれたの。――目の前で起きる悪事を見過ごしてはいけない、って。

[ジェニー] それに敵とか味方とかは関係ない。――誰だって、最初からそうあるべきなんだよ。私も最初からそうすべきだった。

[悲しげな女性] ……っ……ありがとう……本当に、ありがとう……

[クレイグ] ……あ、ぁ……

[ジェニー] 安心して、クレイグ。

[ジェニー] 私がこれまで一人前の兵士だったかなんて、わからないけど。軍を抜けると決めた時から、戦う覚悟はできてるから。

[ジェニー] ……それにしても、その傷……

[ジェニー] あっ、そうだ! 旗布を使えば……

[ジェニー] 私の持ち物で一番清潔なのはこれだってこと、うっかり忘れかけてたよ。持ち歩いてるだけよりも、ずっといい使い道があるのにね。

ジェーンは旗を破いて得た布で、怪我をした子供の頭を優しく手当てした。

[クレイグ] ううっ……ご……ごめん、なさい……おねえ、さん……

[ジェニー] いいから、今はゆっくり眠って。

[ジェニー] そこの兵士。あなたはもうここから出て行きなさい。

[ジェニー] その前に――シアーシャにしたことへの責任は取ってもらうけど。

[ダブリン兵士] ハッ、貴様一人でか?

[ジェニー] 私一人でも、やってみせるよ。

[憤慨する青年] ……いいや、あんたは一人じゃない。

傷の浅かった人々が、至る所で立ち上がる。彼らは、一人、また一人と、旗を握り締めたジェーンの元へと集まっていく。

[ダブリン兵士] お前たち――何をしている!?

[ダブリン兵士] ダブリンに盾突くつもりか? おい、オブライエン! お前は俺の味方だよな? だったら、一緒にそいつを捕まえよう! なあ、まさかダミアンの死を忘れたわけじゃないだろ!?

[憤慨する青年] もちろん違うさ、ローナン。俺はダミアンを忘れちゃいない。けどな……俺は、シアーシャのことだって忘れられないんだ。

[憤慨する青年] 確かに、俺たちは散々間違ったことをやってきた……でも、俺だってバカじゃない。今は、俺たちをずっと助けてくれてた人が誰なのかくらいわかってる。

[ダブリン兵士] だが、そいつはターラー人じゃないんだぞ!

[ジェニー] ――みんながどういう目をしているか、見えないの?

[ジェニー] これは……少なくとも今、この瞬間、「ターラー人じゃない」私と共に立ち上がることを選んでくれた――そんな目だよ。

[ダブリン兵士] チッ……救いようのないバカどもが! そんなに死にたきゃ死ぬがいい!

[ジェニー] みんな、怪我には気を付けて! 無理はしないでね。

[ジェニー] あの人たちのことは、私が何とかするよ。

[ジェニー] 安心して。私は……

[ジェニー] ううん。――私たちは、絶対に勝つんだから!

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧