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怒号光明_R8-11_国土覆う「黒雪」_戦闘前
ウルサスで最も恐ろしい暴威が、年若きリーダーへと襲いかかる。それは、死をもたらす恐怖と陰謀の住まう深淵からの挨拶だった。
フェイゼへ:
雪は未だ解けない。春は遠い。
まるで春が訪れることはないかのように。
ロウソクの灯火を目にする度に、思わず指で潰して消したくなる。しかし、この暗闇の中では再び火を灯さなければならない。
冬よ、早く過ぎ去れ。このままでは雪に潰されてしまいそうだ。
どうか、早く。
2月21日
[感染者戦士] タルラ、大丈夫か?
[タルラ] ……
[タルラ] 何がだ?
[感染者] 数ヶ月前から随分憔悴しているように見える。何かあったのか?
[タルラ] いや……何も。
[感染者] お前と出会ってまだ日が浅いが、ほかの奴らの話を聞く限りじゃ、昔のお前は、もっとこう……明るい性格だったんじゃないのか?
[盾兵] おい。タルラが意に介さない様子だからと言って、あまり調子に乗るなよ。今の話を大尉に聞かせてみるか?
[感染者] それは勘弁してくれ。
[タルラ] ミスターはそんなに恐ろしい人じゃないぞ。盾兵の脅し文句なんて気にしなくていい。
[タルラ] ただ、近頃は喉の調子があまり良くないと聞いている。話すことが少なくなったせいで、お前たちが無言のプレッシャーを感じているのだろう。
[タルラ] 私に関しては……心配には及ばない。
[タルラ] そうだな……考えることが多くなっただけだ。我々の部隊は刻一刻とウルサスに近づいている。相談が必要な問題も多いから、頭を悩ませているのがお前たちに伝わってしまったのかもしれないな。
[感染者] そうなのかもな……食うもんもなけりゃ水もない。人手も足りてないし、このままじゃみんな持たないぞ。
[タルラ] ああ。だから、今まで以上に慎重に外部勢力の動向を探らなければならない。
[タルラ] いま最も重要なのは、現地の感染者集落や団体と、いち早く連絡を取ることだ。
[タルラ] しかしその一方で、我々の居場所を探ろうとする輩が必ず現れる。万が一にでも奴らの罠にかかれば、我々は一人残らず雪原から追い出される羽目になる。
[感染者] そいつは面倒だな。
[タルラ] ああ、そうだ。しかしこれからの計画を綿密に立てておけば、そのような事態には及ばない。
[タルラ] ……つまり、損失を最低限に抑えることが最優先の課題だ。
[タルラ] 今の部隊を分散すれば目立たなくはなるだろうが、それでは意思の疎通に問題が生じる。
[感染者] ああ、そうだな……ウルサスから奪ってきた受信端末は使えない。俺たちじゃ、あいつらの発信機は手に入れられないからな。
[タルラ] 今のままでは、我々の連絡員と偵察員は不要な危険にさらされ続けることになる。
[タルラ] 遊撃隊の暗号は学習に時間がかかる。通信用の設備をフルセットで用意したければ、原型モデルを入手する必要がある……か。
[スノーデビル隊員] タルラ! ……タルラ、偵察員が襲撃に遭った!
[感染者] それくらい自分でなんとかできないのか――
[スノーデビル隊員] 黙れ、今までと状況が違う! 相手が何者かも確認できないまま、あいつは突然その場で倒れたんだ!
[スノーデビル隊員] つまり敵は、俺たちの偵察術師を見つけて、ピンポイントで襲ったということになる。並の感染者監視隊の仕業だとは思えない……
[タルラ] 戦友の命に関わることなら、何事も無視できない。
[タルラ] スノーデビル、事件現場まで案内してくれ。
[タルラ] 盾兵、もしかするとウルサス師兵団に属する部隊に目をつけられた可能性がある。付いてきてくれ。
[盾兵] わかった。
[タルラ] たとえ先遣隊でも十分に警戒しろ。少しでもミスがあれば、大規模な衝突を招きかねない。それだけはなんとしても回避するように。肝に銘じておけ!
[盾兵] 了解!
[タルラ] 伝令兵、ミスターに報告を!
[スノーデビル隊員] 早く……フロストノヴァの姐さんを――うっ! ぁ、カハッ……!
[感染者] コンドラシャ!!
[感染者] 貴様!
[盾兵] スノーデビル!
[スノーデビル隊員] うっ!!
[盾兵] なっ……! 何だあれは!? は、早くそいつを下ろせ! その槍を抜くんだ!!
[盾兵] (……あ、あの体を貫いている……黒い槍は!?)
[盾兵] (そんな、まさか……なぜこんなところに帝国に飼われるあの忌々しい存在が……!?)
[???] シュー……
[感染者] う、あ……ぁ!
[感染者] いったい何なんだこいつは!?
[感染者] 吐き気がする……クソったれ! いくぞ、奴を滅多切りにしろ!
[盾兵] やめろ!
[感染者] な、何だよ? 何で止めるんだ!
[盾兵] お前はわかっていない! 俺たちが何に出くわしたのかを……相手の正体も知らないまま軽率に動くな!
[???] シュー……コホー……
[感染者] なにビビってんだよ!? こっちはこれだけ大勢いるんだぞ!
[盾兵] (盾のふちを思い切り地面に叩きつける)
[感染者] ひっ!!
[盾兵] 貴様、死にたいのか!?
[盾兵] あれは……
[盾兵] ウルサスの皇帝近衛兵だ! クソッ!!
[皇帝近衛兵?] ……師団の盾兵も、ここまで落ちぶれたか。
[皇帝近衛兵?] これは忠告だ。今すぐ自害しろ。
[盾兵] 盾兵総員! 陣形を整えろ! 他の戦士を守れ!
[盾兵] 最大級の警戒態勢で当たれ! 少しの隙も見せるな!
[皇帝近衛兵?] シュー……
[皇帝近衛兵?] 恐怖が空気中に満ちている。
[皇帝近衛兵?] お前のそばにいる感染者は、まだ準備ができていないようだな。
[感染者] お……俺は……
[盾兵] 恐れるな! お前が恐れれば恐れるほど、奴の殺意はみなぎる!
[盾兵] 奴はいつ動くかわからん……目を開けろ、視線をそらすな!
[皇帝近衛兵?] ……
[皇帝近衛兵?] また無駄足だったか……この三つの都市の情報網は、全て廃棄するべきだ。まったくもって価値がない。
[皇帝近衛兵?] 感染者よ。
[感染者] な、な……! なにを偉そうに! 貴様……
[皇帝近衛兵?] 現地の駐屯軍に投降するか、今すぐ私に鼻と口を削がれるか、好きな方を選べ。
[感染者] は、は……鼻と口を削ぐ? それって……
[感染者] デーモン……? 顔削ぎのデーモンか!? でもあれは……あれはただの作り話だろ?
[感染者] あいつがそうなのか!? 人を殺して顔を削ぎ、身元不明の死体をたくさん林に残していくってのは!?
[感染者] でも、だとしたらあいつは何年生きてるんだよ……だって、あの伝説はもう……だ……だけど可能性は、デーモンしか……!
[盾兵] 違う! 奴らは伝説や作り話に出てくるような化け物じゃない! ただの殺し屋……殺人鬼だ!
[感染者] う、嘘だ! デーモンなんかに敵うわけないだろうが! 俺たちにどう戦えってんだ? こっちは生身の……普通の人間なんだぞ!
[皇帝近衛兵?] 感染者が人を……普通の人間を名乗るのか。
[皇帝近衛兵?] ふ……はは。
[感染者] ……お前、お前!
[感染者] た……助け――
[盾兵] 逃げるな!
[盾兵] 一人も逃げるな! 逃げれば死ぬぞ!
[感染者] でもこいつ、こいつは人じゃねぇよ! 俺たちに――
[盾兵] 逃げた奴は極刑に処す!
[感染者] は!?
[盾兵] お前たちの命は他の者たちの命と繋がっているんだ。今、この防衛線が崩れてしまえば、全員あの世行きだ!!
[盾兵] 奴らはお前たちが想像しているような恐ろしい存在じゃない! 奴らだって肉体を持っている。いくら皇帝近衛兵であろうと俺たち盾兵で構成された何層にも連なる防壁を容易に破ることなどできん!
[盾兵] だが……お前たちが怯んで逃げ出せば、お前たちが奴らの突破口になる。一番初めに命を落とす羽目になるぞ!
[皇帝近衛兵?] 同じウルサスの強大な武力を代表する者だというのに、貴様ら盾兵は我々に敵対し、感染者と共に行く道を選ぶとは。何と愚かな……
[皇帝近衛兵?] この時代は不幸に満ちている――
[盾兵] 奴らが抜くぞ! 盾兵、構えろ!!
[皇帝近衛兵?] ……
[盾兵] ……
[皇帝近衛兵?] シュー……コホー……
[盾兵] ……かかって……こない?
[皇帝近衛兵?] ……焦げ臭い。
[感染者] あ……体が暖まってきた……?
[感染者] ――まさか、まさか彼女が!?
[感染者] 来たのか! これで安心だ。デーモンだろうが何だろうが、彼女なら燃やし尽くしてくれる!
[盾兵] ……気を抜くな! 皇帝近衛兵はそんな――
[???] 何をしに来た!?
[皇帝近衛兵?] コホー……
[???] お前は私たちの同胞を傷つけた。暴力で従わせようというのなら、私たちも――
[タルラ] 暴力を――
[タルラ] ……
[皇帝近衛兵?] 見つけたぞ。
[皇帝近衛兵?] 3、7、22、36。【暗号】、【暗号】。
[タルラ] ……なぜ、ウルサスの皇帝近衛兵が……こんなところに!?
[皇帝近衛兵?] コホー……
[盾兵] タルラ……大尉は呼んでいないのか……!?
[皇帝近衛兵?] 我々がここに現れた理由が知りたいのか。
[皇帝近衛兵?] 答えてやろう。我々はお前を探していた、公爵の娘よ。我々は現状を把握し、評定しなければならない。
雪が地に落ちる音までが鮮明に聞こえる。
[タルラ] お前は何を言っている?
[皇帝近衛兵?] 公爵の娘よ。思い出すがいい。お前の身分からすれば、より礼儀をわきまえた呼称で我々を呼ぶべきだということを。
[感染者] なんだって?
[タルラ] ……誰が、誰の娘だって?
[皇帝近衛兵?] どうやら、事実を否認するつもりらしいな。
[タルラ] 私があの蛇の娘だと!? ふざけるな!
[皇帝近衛兵?] 憤怒。葛藤から生まれた怒り……それは事実から逃れるためか。
[タルラ] 「皇帝の利刃」……ハッ! 今日は私を嘲りに来たというのか? それとも、ここで殺すつもりか!?
[皇帝近衛兵?] シュー……
[盾兵] ――タルラを守れ!
[盾兵] (全員、聞け! 近衛兵がどれだけ強かろうと、所詮は一人だ! タルラが先陣を切りながら俺たちの指揮を執れば、あとはお前たちのサポート次第でなんとか――)
[盾兵] (……おい、どうした?)
[感染者] ……
[感染者] (公爵の娘って……どういうことだ?)
[「皇帝の利刃」] シュー……
[「皇帝の利刃」] まだ、彼らに自分の正体を教えていないのだな。
[「皇帝の利刃」] これも計画の一環か?
[感染者] ……計画? 一体なんの話だ?
[盾兵] 貴様、俺たちを惑わす気か!?
[タルラ] 仲間割れを狙っているようだが、相手を間違えたな、殺し屋。私の身分と、彼らと共に実現すべき理想とは無関係だ。
[「皇帝の利刃」] 仲間割れ? それは仲間同士でしか成立しない。お前と彼らとの間に信頼が存在するかどうか、それさえ疑わしい。
[「皇帝の利刃」] 今はっきりしているのは、そうだな……お前は、彼らがお前の正体を知ってもなお、お前を信じるはずだと思い込んでいる――ということぐらいか。
[タルラ] 帝国のために陰で虐殺を繰り返してきた畜生以下の覆面殺人鬼のお前に、私のことについてどうこう言われる筋合いはない。
[「皇帝の利刃」] 粗野な言葉遣い……そして満ち溢れる自信。
[「皇帝の利刃」] これもお前の思惑通りなら……私は現状を再検証する必要がある。
[「皇帝の利刃」] 今日はここで撤収する。しかし覚えておくがいい。私とお前の周りにいる者には共通点があるということを。
[「皇帝の利刃」] それはお前に対して不信感を抱いているということだ。たとえ取るに足らない程度の信用でも、お前は行動によって勝ち取るべきだ。
[タルラ] ……
[タルラ] 待て。
[「皇帝の利刃」] シュー……まだ何か質問が?
[タルラ] お前は私の同胞を傷つけた。そして、私たちの居場所も知った。
[「皇帝の利刃」] ……何が言いたい?
[タルラ] この秘密を、帰って誰に報告するつもりだ?
[「皇帝の利刃」] コホー……
[「皇帝の利刃」] 秘密とは、何を指している?
[タルラ] お前に私たちの居場所をバラされるわけにはいかない!
[盾兵] (タルラ……相手はウルサスの皇帝近衛兵だぞ……俺たちに勝ち目はあるのか?)
[タルラ] (やるしかない……監視隊や帝国軍までもが次々にやって来れば、その損失は計り知れない!)
[タルラ] (いいか? やつは今、我々の出方を待っている。)
[タルラ] (敵の動きを止めて初めて、撤退か追撃かの選択肢が得られる……選ぶ権利が欲しければ、躊躇してる暇はない!)
[タルラ] 戦士たちよ! 必要以上に奴を恐れる必要はない! 相手は恐怖の化身かもしれないが、不平等に対する怒りに恐怖が敵うものか!
[盾兵] ――そうだ。遊撃隊が帝国の殺し屋を恐れる理由などない!
[盾兵] ここで恐れるなど、それでも感染者の盾と槍を名乗る戦士か!? 近衛兵一人がいかに足掻こうが、団結した俺たちの相手ではない! 奴はただの人殺しだ!
[「皇帝の利刃」] 一人? ……違うな。
[「皇帝の利刃」] お前たちの後ろに、もう一人。
[盾兵] ……!
タルラの来た方角にはすでに、コートをまとった人影がもう一人、静かに佇んでいた。
薄暗い空からはらはらと舞い落ちる雪が、そのコートにも降りる。しかしそれは瞬く間に黒く染まり、砕け散って地面へと落ちた……まるで泥のように濁った滴と化して。
[タルラ] 二人……!?
[盾兵] だからなんだ? たった二人で我々数十人を包囲したつもりか? 思い上がるな!
[「皇帝の利刃」] コシチェイの娘よ。お前は「彼らは自分の正体を知っても、自分を疑わない」と判断した、そう仮定しよう。
[「皇帝の利刃」] ならば、その検証を行なっても構わないだろう? だがお前の判断が誤りだった場合、お前の父親と我々の間で交わされた約束は、その場で全て無効と見なされる。
[感染者] 一体何の話なんだよ……?
[盾兵] ……
[盾兵] 何をくだらないことを考えている!?
[盾兵] ボヤボヤするな! 奴らの狙いはタルラの命だけじゃないんだぞ!
[感染者] ……あ!?
[盾兵] 彼女が死ねば、この殺人鬼どもが俺たちのことを見逃してくれるとでも思ってるのか!?
[盾兵] タルラを守れ!
[タルラ] いや……戦士たちを守れ!
[タルラ] まずは奴らにプレッシャーをかけ、後退させるんだ! 撤退ルートを確保したら、最後は自分の身を守れ!
[タルラ] 無理に敵を仕留めることなど考えるな! 限りある力を温存し、死なないように己を守るんだ。いいな!
[タルラ] 生きてさえいれば……また始められる。しかし死んでしまったら、そこで全ておしまいだ!
[タルラ] 生きろ!
[「皇帝の利刃」] それはお前の父親が言っていたことと違う。
[「皇帝の利刃」] ……我々を失望させるのか、北原感染者のリーダー。
[タルラ] 私はリーダーなんかじゃない。
[タルラ] 私はただの……感染者だ。お前たちに期待などされてたまるか!
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