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闇夜に生きる_DM-ST-1_生存
強気に偉ぶる子供、弱気で臆病そうな子供、彼らの心には隔たりこそあれど、現状互いを頼らざるを得ない。Wは可能性を、そして自分自身を目の当たりにした。
[W] このまま進むつもり?
[W] 治療しないと、間違いなく感染するわよ。
[たくましい子供] ――魔族の話なんて信じるもんか!
[W] 魔族……魔族ねぇ。
[W] 周りが「魔族」だらけだから、その呼び方自体忘れかけてたわ。
[たくましい子供] クソッ、ついてくるなよ!
[W] 十分離れてるでしょ?
[たくましい子供] 殺したいなら今すぐ殺せばいいだろ!
[弱々しい子供] ル、ルブレフ君、あまりあの人を刺激しないほうがいいよ……
[たくましい子供] ……ああもう! わかったよ。行くぞ。
[たくましい子供] あんな奴、気にするな。
[弱々しい子供] ご、ごめん……
[たくましい子供] 魔族と関わるより、病気になるほうがマシなんだからな!
[弱々しい子供] ……うん。
[W] ふーん……
[W] そう言えば、この近くに廃病院があるわよ。チェルノボーグの地区病院。
[W] どこにあるか、教えてあげましょうか?
[たくましい子供] ……
[弱々しい子供] ルブレフ君……?
[たくましい子供] 無視しろ、俺たちを騙そうとしてるんだ。
[たくましい子供] ……あいつを撒こう。
[たくましい子供] あの街道が見えるか? そこの角から走っていって、一分以内に逃げ込むぞ!
[弱々しい子供] ……わかった。
[たくましい子供] ――よし、走れ!
[W] へえ、なかなか速いじゃない。
[たくましい子供] あ、あいつはなんでこんな早く追いついて来るんだ――うっ!
[弱々しい子供] ルブレフ君……足が! 血、血が黒くなってる……
[たくましい子供] クソッ、お前を助けてなけりゃ、あんな奴簡単に撒けるのに……!
[弱々しい子供] ごめんね、ごめんね……
[たくましい子供] もういい! 静かにしろ。
[たくましい子供] 隠れるぞ。
[W] ......
[W] この先の道を左に曲がると、廃墟になった広場があるわ。
[W] 広場の西側に見える、一番大きな白い建物が病院よ。
[W] 打ち捨てられた病院。
[弱々しい子供] ……僕たち、見つかってるみたい……
[たくましい子供] お前が言うこと聞かないからだろ――もういいよ。
[たくましい子供] おい、魔族。
[たくましい子供] ……なんで俺たちにそんなこと教えるんだ?
[W] ただの気まぐれよ。
[W] あんたたち、どんな関係?
[弱々しい子供] ……
[たくましい子供] ……食べ物を探してたら、こいつを見つけたんだ。
[弱々しい子供] ルブレフ君は、僕を助けてくれた……
[W] へぇ……だからその子の言うことを聞いてるの?
[弱々しい子供] ……
[W] そしたら今度は、あんたが恩人を助ける番じゃない?
[たくましい子供] こいつに何をさせるつもりだ?
[弱々しい子供] ルブレフ君……
[W] 別に何もさせないわよ。ただ、この先のそう遠くないところに病院があるなあっていうだけで。
[W] レユニオンは医療物資をただ放置しておくほど馬鹿じゃないわ。だから、もしあんたがそのルブレフ君を助けたいなら……奪うしかない。
[W] あそこは暴徒と化した感染者で溢れてる。あんたらの家族や親戚、友達を殺した奴らよ。
[W] だけど、鉱石病の初期症状を抑える薬があるのはあそこだけ。
[W] 奪うのが無理なら、盗んでもいいと思うけど――
[W] あそこにいる人が手を貸してくれるなんて、甘いことは考えないようにね。
[たくましい子供] 行くなよ! こいつの言うことなんて聞かなくていい!
[弱々しい子供] で、でも……
[W] ――行くな?
[W] ルブレフ、この子はあんたの名前を知ってるみたいだけど、あんたはこの子の名前を知ってるの?
[たくましい子供] そんなこと、お前に関係ないだろ!?
[たくましい子供] おい、絶対に行くな! お前には無理だ! あそこはみんな――
[弱々しい子供] 僕は――
[弱々しい子供] 僕は……やってみたい……
[弱々しい子供] ルブレフ君以外にも、天災で怪我をした人はたくさんいる……
[弱々しい子供] みんな痛い思いをしてるんだ……だから、僕が……
[たくましい子供] クソッ、こんな悪魔にそそのかされて! 何で俺の言うことを聞かないんだ!
[弱々しい子供] 僕は……
[W] この子に、あんたの言うことを聞く義務なんてないわ。
[W] みんなを助けたい。いい考えね。
[W] 教えてあげる。あの病院の医療物資は、地下倉庫にあるわ。
[W] 駐車場の通気口から忍び込んでもいいし、科学廃棄物だらけになってなければ、排水溝を進んでもいい。
[W] もしかしたら、死んじゃうかもしれないけどね。
[弱々しい子供] ……
[たくましい子供] ほら、足が震えてるじゃないか! やめとけ! こんな魔族の言うことなんて聞かないほうがいいんだ!
[たくましい子供] さっさと行くぞ!
[弱々しい子供] 待ってよ、ルブレフ君! 僕は……
[弱々しい子供] うわっ――
[たくましい子供] な、何だ?
[W] 龍門で色々あったから……ここにも影響が出てるのね。
[W] 天災が起きて、怪我人が溢れて……今のチェルノボーグでは医療物資は貴重よ。みんな放っておくわけはないわ。
[W] 魔族のあたしが、ここの病院についてこんなに詳しいのは……どうしてだと思う?
[たくましい子供] この――うっ、ああ――
[弱々しい子供] 僕は……僕は……
[W] ――あの子、苦しそうね。このままの勢いで悪化すれば、いずれ薬も効かなくなる。
[W] もしあんたが今、決断しないんだったら……
[W] 二人とも、ここで死ねばいいわ。
[弱々しい子供] ああ……
[たくましい子供] おい、お、お前、何するつもりだ! 近づくな!
[W] 行くの?
[W] 行かないの?
[W] ああ……でも今から行っても遅いかもね。もう暴動が起こってるみたいだし、盗み出すのもきっとかなり難しくなった――
[弱々しい子供] で、でも……ぼ、僕は行くよ。
[W] ――へぇ……死ぬわよ。
[たくましい子供] な、なんでそいつの言うことを聞くんだ、せっかく俺が助けてやったのに!
[弱々しい子供] で、でも……僕は、やってみたいんだ……
[たくましい子供] そんなこと……お前にできるわけないだろ! 大丈夫、このまま薬局と食べ物を探して歩いてれば、きっとどうにかなる!
[弱々しい子供] でも――
[弱々しい子供] ごめん……ごめんね! ルブレフ君!
[たくましい子供] おい……おい! 待てよ! 行くな! おい!
[W] あの子の名前すら知らないあんたが、止められるわけないのよ。可哀想に。
[たくましい子供] お前……あいつを騙したな!
[W] 騙す?
[W] 嘘は一つも言ってないわ。
[W] もちろん、信じる信じないはあんた次第だけど。
[W] あの子を信じるかどうかも、あんた次第よ。
[たくましい子供] ……クソッ、俺が、あいつを止めに行く、うぐ……
[W] どうして? あの子を信じられないの?
[たくましい子供] あ、あいつは、俺がいなきゃ何にもできないんだ……
[W] あの子が逃げないか心配してるのね。
[W] あんたはこう考えてるんでしょ……あいつはどうして俺をこんな魔族のところに残していったんだ、俺が殺されてもいいのかって。
[たくましい子供] デタラメ言うな!
[たくましい子供] *ウルサススラング*! この化物め――
[W] ――黙って。
[W] ……ここで一歩も動かず、あの子を待ちなさい。
[W] そうじゃなきゃ、今すぐにでも殺すわよ。
[たくましい子供] うう――
[W] あんたは知らないだろうけど……
[W] あたしは殺人鬼よ。
[W] この街を破壊し、あんたの両親や友達を傷つけた殺人鬼。
[W] ……ああ、アハハ、そうだ。
[W] あんたはまだその刀を持ってるんだったわね。その血に染まった柄の装飾は、サルカズのものよ。
[W] 血は、誰のだと思う?
[たくましい子供] う……うう、し、知らない……お前はあいつを……クソッ、こっち見るな!
[W] ……泣けばいいわ。子供は泣くものだから。
[W] これからの生死は……あんたたち次第だけどね。
[たくましい子供] あいつには無理だ……
[W] そうかしら?
[たくましい子供] だって、俺が瓦礫の下から掘り出さなかったら、あいつはとっくに……
[たくましい子供] ……だからあいつは、俺なしじゃダメなんだ。
[W] ......
[W] 誰にも……その人がいないとダメなんて相手はいないのよ。
[W] そう、誰にもね。
[たくましい子供] ……
[W] 静かになってきたわね。
[W] あの大虐殺以来、抵抗する奴は減ったわ。いい傾向ねぇ。楽ができるし、死人も減る。
[W] 病院の方も静かになった。
[たくましい子供] ……
[たくましい子供] あいつは……もしかしたら……
[W] 何?
[たくましい子供] あいつはもしかしたら……行ってないかも……
[たくましい子供] もうこんなに……うう、時間が経ったのに……
[W] そうね、逃げたのかもね。
[たくましい子供] ……
[W] だけど、あんたがあの子を助けたんだから、あの子もあんたのために頑張るはずでしょう?
[たくましい子供] ……俺は……
[W] それとも、あんたはあの子を救えるけど、あの子はあんたを救えないと思ってるの?
[たくましい子供] あいつは……ずっと何をさせてもダメだったんだ!
[たくましい子供] 食べ物を探しに行ったときもそうだ! あいつは店の中に人がいることにも気づかなかった!
[たくましい子供] あいつのせいだ! あいつのせいで俺の足が――
[W] ......
[たくましい子供] ……
[W] どこに行くつもり?
[たくましい子供] ……一人で帰る。
[W] 言ったでしょ、ここを離れたら死ぬって。
[たくましい子供] でもあいつは逃げたんだ!
[W] へぇ――
[W] その目……あんた、あの子を恨んでるのね。
[たくましい子供] ち、違う!
[たくましい子供] だって、もし……本当に行ってても……こんなに時間が経ってる……きっともう……あいつは……
[W] ――黙りなさい。
[W] あの子が戻るまで、あんたに本当のことはわからない。
[W] あの子が帰って来るって思っててもいいし、帰ってこないって思っててもいいわ。
[W] だけどあの子じゃ無理だなんて思ったり、恨んだりするのは、あんた自身に問題があるわ。
[W] ……あんたはどうして、あの子が失敗するか、逃げるに違いないって決めつけてるの?
[W] あんたがあの子を助けたから? あんたの方が上だから?
[たくましい子供] ……うう。
[たくましい子供] うわああ――
[W] まだ泣く元気があるのね。
[W] 安心して、すぐに痛みで泣く余裕すらなくなるわ。
[W] あんたはまだ小さいしサルカズでもないから、ホントに耐えられなくなったらあたしに言って。
[W] 楽にしてあげるから。
[W] ......
[たくましい子供] う……ううん……うう……
[W] 意識が混濁してきたわね。
[W] あーあ……間に合わないかぁ。
[たくましい子供] やめろ……俺はまだ……
[たくましい子供] あいつを……待……
[W] ......
[W] 死ぬのが怖いから、あの子を信じることにしたの?
[W] 子供は人の顔色を窺うのが上手ね。そうやってあたしの機嫌をとっても、何にもならないわよ。
[たくましい子供] ……うう……
[W] だけどあの子……確かに時間がかかりすぎね。
[W] ……最後に、もう十分だけ待ってあげる。
[W] 安心して。いくらあたしだって、子供を苦しんで死なせるなんてことはしないわ。
[たくましい子供] ……
[W] ……大人しくなったわね。
[W] ……泣く余裕もなくなったの?
[W] あたしを恨んでる? それともあの子を?
[W] もしかして、お節介で人を助けて、怪我したことを後悔してる?
[たくましい子供] ……して……ない……
[W] そう?
[W] まだ喋れるのね。ちょっと感心したわ。
[たくましい子供] ……
[W] ルブレフ。
[W] あの子の……人の行いを決めるのは、何だと思う?
[W] 出身? 立場? 過去? それとも約束?
[W] ……どれも違うわ。
[W] 答えはね、あの子の人生があの子にもたらす影響の全て、変化し続けるあの子自身の信念と考え方よ。
[W] それと、あの子がどれほど自分を信じてるか。
[W] あんたはあの子を助けた。でも心の奥ではあの子を信じてないし、見下してるでしょ。自分があの子の救世主だなんて思って。
[W] でも、あの子はどう? すごく単純よ。あんたに助けられたから、あんたのことを助けたい、ただそれだけだもの。
[W] その点で言えば、あの子はあんたより強いわ。
[W] 刀をしっかり持っておきなさい。それはサルカズの刀だけど、持ち主に代わって、あたしがあんたにプレゼントするわ。
[W] それを使いこなすもよし、売ってお金に換えるもよし、好きにすればいい。
[W] ――それだけよ。
[たくましい子供] お前……何を言って……
[弱々しい子供] ル、ルブレフ君! 大丈夫!?
[弱々しい子供] 見て! 見て!
[弱々しい子供] 医療キットを盗んできた! 痛み止めも、包帯もあるよ!
[弱々しい子供] えっ、なんで返事しないの? ルブレフ君、まさか――
[たくましい子供] うるさい、なぁ……生きてるよ……
[弱々しい子供] よかった……! じゃあ僕、傷口の手当をするね……!
[弱々しい子供] えっと、包帯はどうやって使うんだっけ……これが抑制剤? あ、開けてみよう……
[たくましい子供] ……お前の親、医者じゃないのかよ?
[弱々しい子供] そうだけど……使い方は教わってないよ。でもやってみる……痛っ……
[たくましい子供] ……怪我、してんのか?
[弱々しい子供] うん……でも大丈夫、大したことないよ……鉄パイプでちょっと殴られただけだから……
[たくましい子供] 全然……ちょっとじゃない……だろ。この、ばかやろう……
[弱々しい子供] ……ヘヘ……
[たくましい子供] あの……サルカズは?
[弱々しい子供] あれ……僕が来たときにはいなかったよ……ずっと一緒にいたの?
[たくましい子供] ……
[弱々しい子供] ルブレフ君?
[たくましい子供] ……
[たくましい子供] ……えっと、その……お、お前の名前は?
[弱々しい子供] えっ? ……アンドレイ。
[たくましい子供] フルネームは……?
[弱々しい子供] アンドレイ・フョードロヴィチ・オストロフスキーだよ……へへ。
[たくましい子供] 何笑ってんだよ?
[弱々しい子供] やっと聞いてくれたね、ルブレフ君。
[たくましい子供] ……ごめんな。
[弱々しい子供] そ、そんなつもりじゃないよ……謝らないで……
[弱々しい子供] これでよし。少しは楽になった?
[たくましい子供] ああ……
[弱々しい子供] よかった!
[弱々しい子供] じゃあ支えるから、一緒に戻ろう。
[弱々しい子供] みんな、この医療キットを見たら喜ぶよ!
あの二人の子供を見ながら、あたしは微笑んでいた。
不安の種が消えたとき、あの子たちは本当の意味で、この街で……この大地で生きていくことができるようになるだろう。
生きなさい。生きてこそ、苦しむこともできる。
炎に向かう虫のように、罠に飛び込む獣のように。
代価を払ってでも、何かを追い続けなさい。
[W] そうでしょう?
[W] ……タルラ。
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