このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。 各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。 著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。 |
闇夜に生きる_DM-6_遁走_戦闘後
移動中に天災に見舞われた傭兵たちは、後退を余儀なくされる。Wは依然として狂人の姿勢を崩さず、天災を間近で見るためと天災に接近する――しかし真の目的は、トランスポーターとの会合を隠す為であった。
バベルで一体何が起きたのか――。当時テレジア殿下を知る者は、誰もが同じ疑問を抱いていた。
Wは間違いなく真相を探り出していたはずだ。あれだけ殿下を慕っていた彼女が、謎を謎のままにしておくとは思えないからな。
だが長い旅路の間、彼女は黙して語らなかった。俺もあえて尋ねることはしなかったし、イネスも探ろうとはしなかった。しかし、イネスの方が真相に近いところにいることは常々感じていた。
ふと気付いた時には、いつの間にか俺が一番後ろを歩く一人になっていた。
[ヘドリー] ……わかりました。
[ヘドリー] はい、問題ありません。各分隊間で連絡を保ちます。
[ヘドリー] ……承知しました。
[ヘドリー] ……ふぅ。
[ヘドリー] しばらくここに駐留することになった。
[イネス] 予定と違うわね。なにがあったの?
[ヘドリー] 先行部隊が天災雲を観測したそうだ。とはいえ、ここには天災トランスポーターがいないからな。万が一に備えて、距離を保つことになった。
[ヘドリー] 無理に進んでもリスクしかない。これが最良の選択だろう。
[イネス] ……天災ね。
[ヘドリー] これまで荒野で猛威を振るう天災はほとんど見たことがない。詳細がわからないのが辛いところだ。
[ヘドリー] とは言え、カズデルと源石の関わりは決して浅くはない。非感染者たちほど慌てる必要はないだろう。
[ヘドリー] ……Wは?
[イネス] 自分の小隊にいるはずよ。
[イネス] ……彼女が気になるの?
[ヘドリー] いや……。Wは随分変わった。俺にはもう、よくわからんよ。
[イネス] へえ……あんなに気に入ってたのにね。
[ヘドリー] 最近の彼女はあまりにも落ち着いている。
[ヘドリー] 戦場で会ったときは、前と同じ皮肉な態度だったがな。
[イネス] 前と同じじゃなくて、前よりひどくなってるって言うべきだわ。
[イネス] でも珍しいわね、あなたがそんな微細な違和感に気づくなんて。
[ヘドリー] ……嫌味は止めてくれ。もしWが大人しくしているとしたら、それはもう「微細」な違和感ではないだろう。
[イネス] Wは――あっ。
[イネス] 山の方に雲が集まり始めてる。気圧の変化も激しいみたい……あれが天災雲?
[ヘドリー] ……あの規模だと、ここに留まるのも危険かもしれん。全分隊に連絡を。元のルートに沿って五十キロ後退だ。
[ヘドリー] Wにも連絡を、早く。
[イネス] ……何度も言ってるでしょう。私に命令しないで。
[イネス] はぁ……
[イネス] 今のWから受けるイメージは、あれとよく似てるわ。
[W] ――わぁー!
[イネス] W! 何してるの――!
[イネス] こんな、風の強いところで!
[W] 決まってるでしょ、天災を楽しんでるのよ!
[イネス] あなた、気でも狂ったの――
[W] えぇ? 何言ってるの? きーこーえーなーいー!
[イネス] チッ、最初から気が狂ってるんだったわね、Wは。
[イネス] 天災であなたが死ぬのは自由だけど、部下まで死なせないで!
[W] 大丈夫、もうヘドリーと一緒に撤退させてるわ! あたしだって馬鹿じゃないんだから――あっ。
[イネス] チッ! W! 気をつけなさい!
[W] あんたこそ近づかないでよ。ここから落ちたらあんたじゃひとたまりも――
[イネス] じゃああなたは大丈夫とでも言うわけ? 死にたくないならさっさと戻ってきなさい――!
[ヘドリー] ……お前たち、一体何をしていたんだ。
[イネス] 彼女に聞いて。
[W] こいつがあたしの邪魔をしてきたのよ。
[ヘドリー] ……はぁ。
[ヘドリー] 幸いWのチームが皆無事だったから良いものを。そうでなければ、レユニオンのリーダーと合流する前に、軍法会議にかけられていたぞ。
[イネス] ……
[ヘドリー] 戻って休んでくれ。連絡があるまで待機だ。
[W] 天災の中で戦うのはそんなにいけないことなの? 鉱石病が怖いってこと? それとも嵐が?
[イネス] 何が怖いってことじゃないでしょ。ただみんな、それで死にたくないだけよ。
[W] でも、天災だって早めに慣れておいたほうがいいでしょ。
[W] 面白い経験になるもの。
[ヘドリー] イネス。
[イネス] そんな顔しないでよ。別に怒ってないわ。子供が喧嘩した後の機嫌取りみたいなことはしないで。
[イネス] Wは……自分の部隊をとても丁寧に管理していたわ。
[ヘドリー] 珍しいな。
[イネス] ええ……さらに頭がおかしくなったのか、それとも……はぁ。
[イネス] 彼女が天災雲だなんてとんでもない、あれはくそったれの天災そのものよ!
[ヘドリー] (なんて汚い言葉を……)
[W] ふんふん~ふふ~ん~♪
[サルカズ戦士] ……随分機嫌が良いようだな。
[W] 当たり前じゃない。
[W] カズデルみたいに陰気臭い場所を抜け出せたのよ?
[サルカズ戦士] まさかそれが、天災雲の真下を待ち合わせ場所にした理由じゃないだろうな。俺を殺したいのか……?
[W] もう、そんなわけないでしょ。
[W] みんなあたしのことを狂人だって言うけど、狂人になるとどんな良いことがあるか教えてあげましょうか?
[サルカズ戦士] 知りたくもないが、大体わかってる。どちらにせよ、俺はあんたに従うさ、ボス。
[W] フフ、それで良いわ。
[W] さっき話した良いことっていうのはね、変わったことをすればするほど、怪しまれにくくなるってことよ。
[サルカズ戦士] そうか……はぁ。
[W] それでバベルのことだけど、ロドス号は確かにカズデルを離れた、そうよね?
[サルカズ戦士] ああ。正確に言えば、あれほどのサイズの船が殿……テレシスの手に渡ったという情報を、誰からも聞いてないというだけだが。
[W] それで十分よ。
[W] フフ、やっぱり手がかりは出てくるものね。
部隊に見慣れない顔が増えてきたことに、俺は安堵していた。カズデルを離れたことを実感できたからだ。
同行者の中には、かつての敵も、戦友もいる。
だが、俺たちは過去など気にしない。傭兵は当たり前のように生死を軽んじる生き物だ。大事なのは、今だけだ。
或いは……そう思うのは、俺たちが一秒たりとも平和を味わっていないからだろうか。あの短い戦争が終わってすぐ、俺たちはこの戦場にやって来たから。
……しかし、平和、か。そんなものは傭兵にとって、毒薬にしかならないのかもしれない。俺たちはこれまで常に、戦いと衝突によってバランスを保ってきた。
Wが良い例だ。彼女は傭兵らしい生き方を楽しんでいる。
[タルラ] ……ああ。
[タルラ] 歓迎しよう。
[タルラ] 遠路はるばるやって来た戦士たちよ。
戦争は、決して避けられるものではない。
こんなことは、傭兵なら当然知っている。ただそのときになって、俺は初めて実感した。
争いは、この大地の隅々にまで広がっている。それはきっと、この地に独立した意志を持った生命が誕生したときから、決まっていた未来だ。
――そして我々は、その中に再び、身を投じることになった。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧