aklib_story_闇夜に生きる_DM-2_偶然_戦闘後

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闇夜に生きる_DM-2_偶然_戦闘後

傭兵部隊は敵襲により一瞬で散り散りになった。目覚めたイネスはWとの共同作戦を余儀なくされると、Wを見捨てたふりをして追手を罠にかけた。しかし、それでも依然として強敵による包囲が解けることはなかった。


カズデル北部には、バーチの樹林が広がっている。

春には新芽が伸び、冬には枯れる。それは命の時間を表しているようだった。

長い長い厳冬の先にあるのは死のみだ。全ての生命は、いつか必ず彼の地を離れる。月光を反射する、源石だけを残して。

……すっかり生気を失った灰白色の幹の細長い影が、雪の上で交差し重なり合っている。

私の眼前には、そんな光景が広がっていた。

......

……イネス!

……イネス! ねえっ!

……聞こえないの!?

[W] さっさと起きなさいよ、イネス!

[イネス] ぐっ――

[イネス] (頭が……痛い……)

[イネス] ……何が……あったの?

[W] 何がじゃないわよ。……仕方ないわね。頭をぶつけて記憶があやふやなんて困るから、一応教えてあげるわ。

[W] 一時間前、あたしたちは奇襲を受けた。敵が早すぎて、術師の防御は間に合わなかったわ。部隊は散り散りになって、この辺りに残っているのはあたしたち二人だけよ。

[イネス] ……

[イネス] 通信は?

[W] 妨害されてる。どんな手段を使ってるのかわからないけど、相手はかなりの腕前ね。

[W] ただ幸い、敵は護送ターゲットの方には向かわなかったわ。あいつらもはっきりとした情報は掴んでなかったんでしょう。

[イネス] ……

[W] ......

[イネス] ……作戦に戻りましょう。なんとか他の人たちと合流しないと。

[W] あら? あたしの言うことを信じるの? 絶対疑って突っかかってくると思ったのに。

[W] あたしはあんたを生き餌にするかもしれないわよ。

[イネス] 今私とあなたが戦ったら、どっちが生き残ると思う?

[W] そんなのもちろん――

[W] ......

[W] チッ――ホントにいい性格してるわ。傷を隠してることを、最初から「その目」で見抜いてたってわけ?

[イネス] へぇ……そんなに痛かったの?

[イネス] 感情も外ヅラと同じように偽装できるのかと思ってたけど、そうでもないのね。

[W] ――目が覚めて一番にそのお得意のアーツを使うなんて。まさか、あんたにこんなに「信用」されてるなんて思わなかったわ。

[イネス] フッ……ただの習慣よ。

[W] そう? じゃあ言い直してあげる。目覚めた瞬間に周りを警戒するなんて、とんだ臆病者だこと。

[W] 痛っ……! ちょっと!

[イネス] さっきあなたが言ってた生き餌って、悪くない提案よね。

[イネス] まともに立つこともできない傭兵なんて、それくらいしか使えないもの。周りの敵には、私が知らせておいてあげるわ。

[イネス] きっとみんな喜んでやって来るでしょうね。ま、せいぜいくたばらないように頑張って。

[イネス] じゃあね、W。

[イネス] 最後に一応言っておくけど、あなたのことなんて一度も信用したことないから。

[W] チッ、この――!

[W] ——

[サルカズ戦士] ……傭兵を発見。

[サルカズ戦士] コードネームを確認……Wだ。

[W] ……こんな早く来るもの?

[W] いや、もしかして、ずっとあたしたちをつけてたの……?

[サルカズ戦士] お前ら程度なら、一人や二人泳がせておいても恐れるに足りないからな。

[サルカズ戦士] お前らが本隊に合流するまで監視を続けるつもりだったが、まさか仲間に置き去りにされるとは残念だったな。

[サルカズ戦士] ……あの部隊の情報を全て教えろ。そうすれば楽に死なせてやる。

[W] はぁ……できることなら教えてあげたいんだけど、何も知らないのよね。

[サルカズ戦士] そんな言葉が信じられるか。……俺たちはこんなところでもたもたしてる暇はないんだ。雑な拷問をされて、苦しみながら死ぬことになっても構わないのか?

[W] そう言われてもねえ……。聞きたいなら、あの女を追いなさいよ。あたしよりも色々知ってるから。

[サルカズ戦士] ……お前をエサにしたあいつか。お前もはらわた煮えくり返ってるんじゃないのか?

[サルカズ戦士] 仲間をかばってないで、俺たちの言うことを聞いておいたほうが楽しめるぞ。

[W] ……エサねぇ。

[W] あんた、工業用源石の破片で、オリジムシをおびき寄せたりする?

[サルカズ戦士] ……は? 何を言ってるんだ?

[W] カズデル伝統のやり方よ。オリジムシってよく面倒事の原因になるでしょ?

[W] だから、野生のオリジムシはそうやっておびき出すの。

[W] ――どれほど効果があるかはおいといて、そうやって集められた虫たちがどうなるか知ってる?

[サルカズ戦士] そんなの、今関係ない――

[W] ……捕まったオリジムシはね、粉々に吹き飛ばされるのよ。後ろに隠れてた、あんたのお仲間みたいにね。

[サルカズ戦士] なっ――いつの間に!?

[W] 「エサ」には罠がつきものでしょ? さっさとあたしを殺すか、尻尾を巻いて逃げればよかったのに。

[W] ……もう一回チャンスをあげましょうか?

[W] あーコホン――

[W] ――こんな早く!? ずっとあたしたちをつけてたの?

[サルカズ戦士] チッ、狂人が!! 馬鹿にしやがって! ぐっ……

[サルカズ戦士] 後ろから――

[イネス] 静かに、暴れないで。

[イネス] 私は剣術のプロじゃないから、手元が狂って、あなたを殺してしまうかもしれないわ。

[サルカズ戦士] お前――いつの間に――

[イネス] 私と影の親和性は高い。偵察員を一人も用意しないで、影に身を潜めた私を追えるとでも思ってたの?

[イネス] さあ、吐きなさい。あなたたちの雇い主は誰?

[サルカズ戦士] ――言わねぇ。

[サルカズ戦士] う、あああ!!

[W] ちょっと! 内臓をかき回したら喋れなくなっちゃうじゃない! もう少し優しくやりなさいよ!

[サルカズ戦士] ハッ……カズデルの――は――お前たちを――許さない――

[イネス] (カズデル……)

[イネス] それで終わり? ――そう、ありがとう。

[W] あんた、拷問するの下手ね。

[イネス] ……はぁ。あなたがまだ生きてるなんて、残念だわ。

[W] じゃあ、あいつがあたしを殺してから出てくれば良かったでしょ。何を焦ってるの。

[イネス] 焦ってないわよ。あなたより奴らを潰すことを優先しただけ。

[イネス] 自分の手に掛かって死ぬべき敵が隙を見せてるのに、我慢できる傭兵なんていないでしょう?

[W] ……フフ。

[W] あんた、サルカズらしくなったわね。

[イネス] すっかり毒されちゃったわ。

[W] でも、さっきはちょっと騒ぎすぎたわね。敵がわらわら集まってくるかも。

[イネス] 丁度いいわ。一網打尽にして、護送ルートから遠ざけましょう。

[イネス] こいつはさっき「一人や二人泳がせておいても」って言ってたから……残りの仲間は全員殺されてるでしょうね。

[イネス] このレベルの奴に、あれだけ多くの仲間を始末できたとは思えないけどね。……それに、こいつは何かに怯えてるみたいだった。この戦場には何かあるわ。

[W] そうだとしても、あたしたちは戦うだけよ。……よいしょっと。

[イネス] ……あなたの怪我、本当に偽装だったの?

[W] そんな訳ないでしょ、傷自体は本物よ。

[W] ただそこまで気にしてないってだけ。

[W] それよりあんた、目を覚まして一目見ただけで、あたしがあいつらにプレゼントを用意してたことまで見抜いたのね。

[イネス] 私が起きなかったら、私がエサに使われたんでしょうね。

[W] そのときはあんたが殺されるのを待って、起爆してたと思うわ。

[イネス] フンッ……

[イネス] もしいつか、あなたの心の内面を見透かせる人が現れたら……

[イネス] あなたはきっと、敵わないでしょうね。

[W] そうでしょうね。期待して待ってるわ。

[W] あら、また始まったみたいね。そろそろアーツで周囲を探索してみたら?

[イネス] ……言われるまでもないわ。

[イネス] ……

[イネス] あれは……

[W] なんて顔してんのよ。そんなまずいことが起きてるの?

[イネス] ……ええ。

[イネス] でも、逃げられそうにないわ。思い切ってやるしかない。

[W] やるって……あんたは正面切っての戦いは苦手でしょ。あたししか戦えないじゃない。

[イネス] あなたでもきついかもしれないわ……。とりあえず、急いで西に向かいましょう。ヘドリーの部隊と合流できれば、まだどうにかなるかもしれない。

[W] もし合流できなかったら?

[イネス] ……誰も生き残れない。

[サルカズ戦士?] 護送部隊は半分以上片付けました。ですが、輸送部隊がA5合流ポイントに到達するのを阻止することはできませんでした。

[サルカズ戦士?] 囮が多すぎた……護衛部隊の大半が、ダミーだったとは。

[サルカズ戦士?] バベルが敢えて奇策をとったか、それとも本隊にはもともと護衛が必要なかったのか、どちらかだな。

[サルカズ戦士?] ……はい、これ以上引き延ばすわけにはいきません。すぐに始末をつけなければ。

[サルカズ戦士?] 後始末は現地の奴らに任せておけば良いと思っていたんだが……この程度もうまくやれないとは。

[サルカズ戦士?] でもまあ仕方ない。傭兵も雑魚ばかりではないようだし、ヘドリーの部隊も予想以上の強敵と聞いている。

[サルカズ戦士?] もし我々が彼らよりも先に声をかけていれば……ヘドリーたちはかなり役に立ったでしょうね。

[サルカズ戦士?] まだ追いますか?

[サルカズ戦士?] しかし追った先には……

[サルカズ戦士?] ……

[サルカズ戦士?] わかりました、将軍。仰せのままに。

[サルカズ戦士] ……見失ったか?

[サルカズ戦士] 二手に分かれよう。お前たちは東、私は西だ。

[W] はあっ……はあっ……

[W] あいつら、確かに、敵にすると厄介ね。

[イネス] そんなこと、言わなくてもわかるわ。隠れてなさい。

[イネス] チッ……

[イネス] ……

[W] アーツを使うのもうやめれば? そのうち目が見えなくなるわよ。痛くないの?

[イネス] 痛くないわけないでしょ。でもなんとか糸口を見つけないと――

[傭兵] う……うわああ――や、やめてくれ――投降す――

[W] あら、随分気持ちよく斬られる音がしたわね。今の見た?

[W] あいつらは傭兵じゃないみたい。私たちとは全然違うわ……

[イネス] うるさいわね、黙ってなさい!

[W] あの廃墟の中に見える数人だけが相手でも、今の私たちじゃきっと勝てないわ。

[イネス] ――何をするつもり?

[W] ……やめて。

[W] その目であたしを見ないで。

[イネス] 見るも何も、まだ目が潰れてないってだけよ――

[イネス] それは……砲撃用の榴弾? そんなに抱えてどうするつもり?

[イネス] 奴らを道連れに自爆でもするの?

[W] それで敵を一人でも減らせるなら儲けものでしょ。

[イネス] 死にに行くのはやめて。そんなの意味ないわ。

[W] 意味?

[W] あたしたちは、戦うために生きてるんでしょ?

[イネス] ……狂ってる。サルカズはみんな狂ってるわ。

[W] ……そうね。あんたはあたしたちと違って狂ってない。だからあたしは、あんたを信用してないの。

[イネス] ちょっと、W! 待ちなさい!

[イネス] 戻りなさい! W!

[イネス] ――チッ!

[サルカズ戦士] ああ、一人見つけた。Wだ、リストに載っている。

[サルカズ戦士] あれほど広範囲を破壊できる源石榴弾を素手で投げておきながら、どうしてお前はピンピンしている?

[サルカズ戦士] 私の仲間たちは、みんな一瞬で火に呑まれたんだぞ。

[W] まぁ慣れよ、慣れ。

[サルカズ戦士] ……将軍はお前を気に入るだろうな。

[サルカズ戦士] ……W、抵抗を止めろ。お前がバベルから受けた任務の全貌を我々に語れば、別の晴れ舞台を用意してやることもできる。

[W] ずいぶん高く評価してくれるのね。どうしてそんなにあたしを信じてるの?

[W] その答えによっては、あたしもあんたを信じるかもしれないわよ。

[サルカズ戦士] フンッ、先にこちらに問うとは、頭は悪くないようだな。

[サルカズ戦士] 傭兵は戦争の道具だ。競い合う必要があるなら、便利な道具を求めるのは当然だろう。

[W] ……道具? 違うわ。あたしたちは、使い捨ての消耗品よ。

[サルカズ戦士] どちらも似たようなものだ。好きに考えろ。

[サルカズ戦士] それと、四時の方向、十七メートル先に隠れている傭兵。

[サルカズ戦士] 剣を下ろせ。どうせお前に勝ち目はない。試したければ試してみても構わないが。

[イネス] ……

[イネス] フンッ……

[イネス] 私たちに何をさせたいの?

[サルカズ戦士] ふむ……Wとイネスだな。情報通りだ。

[サルカズ戦士] お前たちの部隊はもう八割以上、壊滅した。残りの二割もこいつと同じ運命をたどるだろう。

[イネス] もしかして、足元のそれは……

[サルカズ戦士] ああ――

[サルカズ戦士] こいつはかつて、人の形をしていた。

[イネス] ――

[サルカズ戦士] これで理解したか? お前たちが相手にしているのは普通の傭兵ではない。とはいえ、殺人鬼でも、暗殺者でもないがな。

[サルカズ戦士] 生き残りたいか? ならこうしよう。お前たちのリーダーを含めた三人の内、二人が手を組んで、一人を殺せ。

[サルカズ戦士] その首を持ってくれば、残りの二人は、我がサルカズ部隊が受け入れる。

[サルカズ戦士] 誤解なきよう言っておくが、これは決して私一人の思いつきなどではない。我々も死んでいった戦士たちのためにケジメをつける必要があるというだけだ。

[サルカズ戦士] ……はぁ、ここが戦場でなければ、我々はサルカズ同士、もっと楽しい取引ができただろうな。

[W] ……ご厚情感謝するわ。

[イネス] 残念だけど、私は多分、このイカれた女には勝てないわ。真っ向勝負は苦手なの。

[W] へぇ……珍しく素直じゃない。

[イネス] そりゃそうよ。あなたと手を組んで、ヘドリーを殺さなくちゃいけないんだもの。

[W] まああたしたち二人がここにいる以上、それが最善の策よね。

[サルカズ戦士] では――

[サルカズ戦士] ……ぐっ。

[サルカズ戦士] カハッ、せっかくの提案を……なぜ……自ら死を求める?

[W] 命を弄ばれる側になりたくないからよ。他人の命を好きなようにする方が楽しいもの。

[W] それに、あんたみたいな馬鹿の言いなりになりたくないしね。さっきの提案、くだらなすぎるわ。

[イネス] ……

[W] そうそう。ついでに教えてあげるけど、あんたを睨みつけてる、このもう少しで目が潰れそうな子羊ちゃんはね……

[W] 実はサルカズじゃないの。あんた、地雷を踏んだわね。

[サルカズ戦士] ――こんなことをして……どんな結果が待っているかわかっているのか? この戦い、お前たちは勝てないぞ。

[W] ……結果?

[W] うーん……知らないわね。興味もないわ。

本当に行くのか? 艦船はもう目の前だぞ。

ええ。こんなに早く気づかれるとは思わなかったわ。諜報員のミスかしら。

だとしても、護衛隊がいたはずだ。

……あの戦士たちを未知なる危険に晒したのは、私たちの失態よ。

傭兵とは本来そういうものだ。それに私たちも……遅かれ早かれ、彼らと同じ危険を背負うことになる。

でも私なら彼らを救えるわ。私たちのミスで何も知らないまま死のうとしている、勇敢な戦士たちを。

……否定はしない。だが、テレジア――

どのサルカズも……いいえ、どんな人だって、無駄死にしていい理由なんてないのよ。

……はぁ、私が何を言っても、君の意思は変わらないのだな。……ならば、私も共に行こう。

ええ、ありがとう――

――ケルシー。

[イネス] ……

[W] やっぱり増援が来たわね……

[W] あの数……

[W] ......

[イネス] ちょっと、ショックで倒れるなんてやめてよ。

[W] ごめんなさい……でももう意識が……

[イネス] あなたが謝るなんて似合わないわ。しっかりしなさいよ。

[W] こないだ気を失ったのはそっちだから……今回はあんたが面倒を見て……

[W] あんまり意地悪しないでよ……少し……休むだけだから……

[イネス] ……チッ。

[イネス] 十四、十五……いや、もっといる……

[イネス] あれだけの人数が整然と並んで、声ひとつ上げないなんて……あれはプロの……ううん、私たちよりもずっと戦いを知ってるわね……

[イネス] ……カズデルか……フンッ……

[イネス] ――!

イ……聞こえ……ある……

お前たち……救出……

[イネス] 通信が……戻った?

[イネス] ――!

[イネス] こ、この感覚は……一体……

[イネス] 誰か、近づいてくる……!

[イネス] ……ヘドリー。

[ヘドリー] ――イネス! 今どこにいる? Wはどうした?

[イネス] 戦争が始まる前……あなたはカズデルで……生活していたことが、ある。そうでしょう?

[イネス] ……一つ、質問してもいい?

[ヘドリー] ――その喋り方……負傷しているのか? まずは息を整えろ。

[ヘドリー] 安全な場所に隠れておくんだ。輸送本隊に救護を要請してあるから――

[イネス] ……私の話を聞いて……ヘドリー。

[ヘドリー] ……なんだ。

[イネス] ……あの、サルカズの王……カズデルを失ったあの……殿下は……

[イネス] 白髪の……女性だった?

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