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闇夜に生きる_DM-2_偶然_戦闘前
「同業者」を片付けた後、Wとヘドリー、イネスは三手に分かれる、先に合流したWとイネスが言い争いから刃を交えた矢先に、輸送隊が静かに到着する。
[サルカズ戦士] チッ、こいつらはこないだの――なんでこの場所がバレたんだ!?
[サルカズ戦士] さっさと撤退するぞ! ぼやぼやするな!
[W] 無理よ。もう囲まれてるわ。
[サルカズ戦士] なら包囲が薄いところを探るんだ! 一点突破するぞ!!
[W] 哨兵は全員やられて、こちらの位置は敵にバレバレ。なのに相手の布陣はわからない。それでもまだ戦うつもり?
[サルカズ戦士] 当たり前だ! 俺はこんなところで死ぬつもりはない!
[サルカズ戦士] いや待て、お前は確かヘドリーの……どうしてここにいる?
[サルカズ戦士] 奴はどうした? 巡回担当は奴――うわっ!
[サルカズ戦士] 通信機を……お前っ!!
[W] ……うるさいわねぇ。大丈夫よ、通信なんてする暇はないから。
[W] 巡回担当はあたしになったの。そうじゃないと、あんたたちの拠点に爆薬を仕掛ける時間がないでしょ?
[サルカズ戦士] ……ヘドリーが裏切ったのか……!
[W] そんな聞こえの悪いことを言わないでよ。
[W] あたしたちは遠出の準備をしてるだけよ。でもお客さんが来ちゃうんなら、留守番する人が必要でしょ。
[W] お茶菓子まで用意して、誠心誠意おもてなしをしてあげれば、あたしたちは追われなくて済むでしょうし。
[W] ということで、後はよろしくね。
[サルカズ戦士] お、お前は……俺たちをエサにするのか――!?
[W] ……うーん、そうなるかしら。
[W] まぁ、せいぜいもがいて頂戴。あんたたちが頑張ってくれればくれるほど、あたしたちは遠くへ行けるから。
[W] ――改めて、あんたたちの尽力に心から感謝するわ。
[ヘドリー] 逃げ遅れた部隊の援護を命令したはずだが……
[ヘドリー] ……なぜ後続にいない?
[W] 彼らは敵の足止めを引き受けてくれたわ。
[W] ……そんな顔しないでよ。安心して、ささやかなプレゼントも置いてきたから。
[イネス] ……他人のために戦う人なんて、ここにはいないわ。
[イネス] あなたは私たちの部隊を守るために、彼らを犠牲にしたんでしょ。……誤魔化さなくていいわ。私も妥当な判断だと思うし。
[イネス] だけど、上司に嘘をつくのはいけないわね。
[W] ......
[イネス] 私の目は誤魔化せないわ、W。言動には気をつけなさい。
[イネス] あなたはまだまだ未熟なんだから。
[W] ……ええ。しっかり覚えておくわ。イネス隊長。
[W] まだこれからも……お世話にならないといけないから。
[イネス] ――それで、どうするの? ヘドリー。
[ヘドリー] どうもしない。どちらにせよ、同じ様な結果になっただろう。
[ヘドリー] Wの判断は正しかったのかもしれないな。
[イネス] ……本当にそう思ってる?
[ヘドリー] あの拠点にいたサルカズは、身内ではないからな。
[ヘドリー] 彼らの立場も、過去も、生死も、我々には関係ない。
[W] 割り切ってるのね。
[ヘドリー] そんなことより仕事の話だ。イネス、W、それぞれ部下を連れてここを離れろ。部隊のトランスポーターには無線を止めさせ、指定のポイントで合流するんだ。
[ヘドリー] ……俺は後から追いつく。
[イネス] ……
[W] ......
[ヘドリー] ……それと。
[ヘドリー] お前たちが互いに利用し合うのは構わないが、直接刃を向けるのはよせ。
[イネス] 直接じゃなきゃいいの?
[W] 結構寛容なのね。でも、真っ向勝負だけが戦いじゃないわ。
[ヘドリー] お前たちは……
[ヘドリー] 何かあっても面倒は見きれんぞ。
[ヘドリー] 生き長らえたいなら、サルカズたちを有効活用するんだ。
ヘドリーはいつもこうだ。
考えるべきことを考えず、無駄なことに頭を悩ます。
……Wが優秀な戦士であることは否定しない。だが彼女には、多くのものが欠け過ぎている。
もし彼女が、ただの戦闘に長けたサルカズだったら……
……フンッ。
[W] まだ暗くなってないのに、焚き火をして待ってるなんて。
[W] もしかして、焚き火が好きなの?
[イネス] 別に。ああでも、人に邪魔されるのは好きじゃないわ。時間を守らないのも。
[イネス] ……あなたの部隊は、合流予定時間より三時間も遅れた。
[W] あの敵襲は、あんたとヘドリーが計画したの?
[イネス] ヘドリーに聞いてみれば。
[W] 知らないって言ってたわ。
[イネス] ……じゃあ偶然でしょ。きっと彼らがどこかで恨みを買ってて襲われたのよ。
[W] なーんだ。ヘドリーがわざと場所を敵に流したのかと思ったわ。
[イネス] そうしてほしかったの?
[W] 逆に、なんでそうしなかったの?
[イネス] っていうか、偶然なんて言われたのに疑わないのね。
[W] だって今更あたしを騙したところで、あんたたちに得があるとは思えないし。あたしを殺すつもりなら、もうとっくにやってるだろうし。
[イネス] へえ、結構考えてるのね。
[イネス] ……あなた、私たちの仲間になる前、どこにいたの?
[W] なによ、今更面接でもするつもり?
[イネス] 気になっただけよ。ヘドリーは仲間の過去は聞かない主義だけど、私は違うの。
[W] ふうん……まああんたは確かに、あたしたちとは違うわね。
[イネス] あなた……私に喧嘩売ってるの?
[W] 喧嘩なんてできないでしょ。近接戦が苦手なイネスさんは。
[W] ——!
[イネス] 一つ教えてあげる。長生きするには、一つの力に頼り過ぎちゃいけないの。
[イネス] アーツだけで戦ってるようじゃ、いざというとき詰むわよ。サルカズの傭兵だって、懐にナイフを仕込んでるでしょ。
[W] あんたのそれ、ただのアーツユニットじゃなかったのね。けど――
[W] あたしにお説教? サルカズでもないあんたが?
[イネス] ――チッ。
[W] ほら、白兵戦じゃやっぱりあんたに勝ち目はないわ。――ま、あたしも油断してたから、偉そうに言えないけど。
[W] こんな小さな傷一つでご教示くださり、感謝するわ。
[W] あーあ、それにしても惚けたふりをしながら奇襲をかけるなんて。あんたとヘドリーはそっくりね。まさに類友って感じ。
[イネス] やっぱりあなたはどこか変よ。あなたみたいに目立つ傭兵は、とっくの昔に死んでるのが普通よ。
[イネス] と言うより、これだけの短期間で多くの同業者から注目を集めたにもかかわらず、私たちの仲間になるまであなたのことは一度も聞いたことがなかった。どう考えてもおかしいわ。
[イネス] 言いなさい、あなたはどうして私たちに――いいえ、ヘドリーに近づいたの?
[W] あんた、忘れたの? 自分で言ってたじゃない。
[イネス] 私が? 何を?
[W] カズデルで、彼の首を欲しがってる人は多いって。
[イネス] ふうん、やけにあっさり言うじゃない……でもそう言うわりに、彼の首はまだしっかりついてるみたいだけど。どうして心変わりしたの?
[W] うーん……こっちの方が儲けがありそうだったから。
[イネス] 儲け? 欲しいものがあるの?
[W] ……そんなの、あんたに言う必要ないわ。
[イネス] フフ、今動揺したわね。適当に誤魔化せばいいものを、あなたって案外素直なのね。
[W] ――アーツで見るのはやめて。
[W] あたしの理由はあんたとは関係ないんだから、ほっといてよ。
[イネス] いいえ、そうとも限らないわ……
[W] ......
[W] ……何の音?
[イネス] ……東ね。近づいてくるわ。
[イネス] 一つじゃない……複数部隊いる、だけど本命はそのうち一つってところかしら。フンッ、慎重だこと……
[W] ほんとすごい数……あいつら、一体何人雇ったのよ。
[イネス] ……ヘドリーの言う通り、今回の戦いはこれまでで一番になりそうだわ。
[イネス] 心してかからないと。
[W] 怖いの?
[イネス] フッ……まさか。
[W] ヘドリーはきっと自分の本隊も連れて来るわ。トランスポーターに無線をつけさせて頂戴。
[イネス] そんなの自分で言いなさいよ。私に命令しないで。
[W] あーはいはい、わかりました。
[W] じゃあここで焚き火を見ててね。あたしは拠点に行って、様子を見てくるから。
[イネス] ……
[イネス] あれが……バベルの……
[ヘドリー] すまない、途中でルートを変更したせいで、予定より時間がかかってしまった。
[ヘドリー] 準備は?
[イネス] 全員、完了してるわ。
[ヘドリー] お前は?
[W] 問題なしよ。
[ヘドリー] ……この焼けた草地と割れた地面を見る限り、問題がなかったようには思えないんだが。
[W] これはただの準備運動よ。「直接」何かしたわけじゃないわ。
[W] ねえ? イネス。
[イネス] ええ。次は気付かれる前に、死体を闇に葬ることにするわ。
[ヘドリー] ……まったく……任務中はうまくやってくれよ。
[ヘドリー] 改めて説明するが、我々の任務は単純だ。目標を守る。ただそれだけだ。
[ヘドリー] 怪しい者を見つけた場合、警告は必要ない。すぐに撃て。この峡谷には誰も近づかせるな。
[ヘドリー] 以上だ。質問はあるか?
[W] 目標の行き先は?
[ヘドリー] 言えない。任務自体はいくつかのフェーズに分かれていて、ルートは決まっている。我々は三日後に目的地に到着後、引き継ぎをして終わりだ。
[イネス] ……ヘドリー。
[イネス] 彼らは何を運んでいるの?
[ヘドリー] それも言えな――イネス、待て!
[ヘドリー] アーツを使うな! 契約違反だ! 彼らを甘く見るな!
[イネス] でもただの輸送部隊でしょ――
[イネス] ……いや、私が先入観を持っていただけみたいね。これは確かに護送がいるわ――
[イネス] この影……運んでいるのは……巨大な……
[イネス] ……船? というよりは……
[イネス] 骨格?
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