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闇夜に生きる_DM-1_埋蔵_戦闘後
数カ月後、ヘドリーの首を狙う者たちの暗殺計画を片付けた後、傭兵たちはカズデルから戻ったトランスポーターから「バベル」の任務を託される。不安の渦中にある彼らだったが、その命運を受け入れる。
数カ月後
p.m. 4:28 天気/曇天
カズデル東西部の戦場 軍事緩衝地帯の境目
待ち伏せだ。
お前の言う通り、俺の首を狙っている奴は多いようだな。
こちらは掃討部隊の半分ほどの規模だからな。俺を殺るには千載一遇のチャンスに見えるんだろう。
……その「チャンス」がエサとも知らずに。馬鹿なことだ。
敵軍の数は少ない。さっさと首謀者を片付けて撤退する。
よし、ではまた後で。カズデルに向かったトランスポーターも、もうすぐ戻る頃だ。
[ヘドリー] ――
[W] ……何を探しているの?
[W] この死体は……さっきの刺客?
[ヘドリー] ――あった。
[ヘドリー] やはり持っていたか。
[W] これは……メモ?
[W] この人は知り合いなの?
[ヘドリー] ああ。
[ヘドリー] 一緒に仕事をして、死線をくぐり抜けた。数ヶ月前にはスカーモールで互いの勝利を祝ったよ。
[ヘドリー] そういえばそのとき彼は、娘を俺にやると言っていたな。
[W] 馬鹿みたい。傭兵なんて遅かれ早かれ――
[W] ————
[W] ――あんた、まさか……?
[ヘドリー] いや、もちろん断ったさ……
[ヘドリー] 別の理由でな。
[W] じゃあそれには何が書いてあるの?
[ヘドリー] 市況や値段など、傭兵なら知っていて損はない情報だ。お前も見ておくといい。
[W] ......
[W] ……意味がわからないんだけど。
[W] この名前は、どれも偽名やコードネームよね。その後ろに描いてあるキャンディの絵は何?
[ヘドリー] これは彼が使っていた暗号のようなものだ。キャンディの数が懸賞金の額を示している。つまりこの数が多いほど、人気のターゲットというわけさ。
[W] ふうん、悪趣味な暗号ね。気持ち悪い。
[W] ……でもこの金額はかなりのものね。これって誰がお金を払うの?
[ヘドリー] 例えば俺たちの雇い主だ。彼らは我々が契約を遂行した後、それとは別に金を積んで我々を殺そうとすることもある。
[ヘドリー] 強い傭兵であればあるほど値段は高騰し、値の張る傭兵であればあるほど危険な存在とみなされ、死に近づいていく。それでも死なずに生きている者には……さらに高値が付けられる。
[ヘドリー] この戦場こそが我々を死に追いやる元凶であり、生きる道を与えてくれる救済者でもあるんだ。
[W] ふうん。理にかなってるじゃない。
[ヘドリー] まあそうだな。これがいわゆる業界のルールってやつさ。
[ヘドリー] ……「傭兵ヘドリー、十粒。強い部下あり、十五粒。交友あり、二十粒。」
[ヘドリー] ずいぶん吹っかけてるな。
[ヘドリー] ……
[ヘドリー] 「W、昔の方は、精算済み。新しい方は、面倒だ。十粒、状況により値上げ検討。」
[ヘドリー] お前も高く評価されていたようだ。
[W] 先月、樹林で武器商人たちを生き埋めにしたからかもね。
[W] はぁ……でも喜んでいいのか……
[ヘドリー] 武器商人? 聞いてないぞ。なぜ報告しなかった?
[W] ほかのついでにやっただけだもの。
[W] あんたたちがラテラーノ人から略奪したときも、報告しようなんて思わなかったでしょ?
[ヘドリー] まあ、そうだが。
[W] それと同じよ。
[W] 任務じゃないんだし、蹴散らした石の数まで報告する義務なんてないわ。
[W] それより……あたしはその「W」よりも強い?
[ヘドリー] 戦闘力の「強弱」だけが兵士の価値じゃない。俺に言わせれば、命令に従うことの方が重要だ。
[W] もう、細かいわね。わかったわよ。次からはしっかり報告します。これでいい?
[W] それで、その「W」ってのは、どんな人だったの?
[ヘドリー] そんなに気になるのか。奴とは長い付き合いだったが、相当変わっていたな。奇人と言ってもいいかもしれない。
[ヘドリー] だが、毎回仕事に精を出し、とても優秀だった。
[ヘドリー] 奴は我々のリーダーになろうとしていたんだ。我々に自分の誕生日を祝わせるためにな。
[W] ……誕生日? サルカズがそんなもの気にしてたの?
[ヘドリー] まさか。いくら奴が奇人とはいえ、そこまで変なことはしないさ。
[ヘドリー] 奴が言う誕生日とは、あるラテラーノ人を殺して銃を手に入れた日のことだ。何か因縁や思い入れでもあったんだろうな。
[W] ふーん……ラテラーノ人を狩って楽しむ傭兵ねぇ。生きてれば仲良くなれたかもね。
[ヘドリー] サルカズとラテラーノには、長きに渡る確執があるとはいえーー
[ヘドリー] 「楽しむ」だと?
[W] 違うの? 少なくとも、あたしは楽しんでるわよ。
[ヘドリー] ――そうか。
[ヘドリー] 「W」も、楽しんでいた。
[ヘドリー] 奴はいつもあっけらかんと笑いながら、裏があるような含みのある口調で話し……
[ヘドリー] そのくせ、誰よりも人を信じやすかった。ありえないほどにな。
[W] それでよく傭兵が務まっていたわね。警戒心がなかったの?
[ヘドリー] 奴は「執念」に囚われていたんだ。執着心の強い者は、容易に他人を信じ、手駒に取られる。それが善意のものでも、悪意のものでもな。
[W] ……なんか、ただの馬鹿みたいだけど。まぁわかったわ。
[ヘドリー] ああ、お前にはよくわかるだろう。
[ヘドリー] お前たちは似た者同士だからな。偽装に秀で、自信があり、自分が思うままに動く。
[W] あたしが?
[W] ......
[W] ……フフッ。
[W] あんたはまるで、あたしの心が見えるみたいね。もしかしてイネスと同じアーツが使えるの?
[ヘドリー] いや……
[W] でも、あたしにあんたたちを道連れにできる力があるって、昔からわかってたんでしょ?
[ヘドリー] はぁ……その強気な言い方、イネスとよく似ているな……
[ヘドリー] ああ、そろそろ戻るか。雨が降りそうだ。
[ヘドリー] トランスポーターにも会わなければ。
彼女の笑顔を見たのはそれが初めてだった。Wと同じ笑顔だった。
俺は彼女が偽装に長けていると言ったが、それには、そうであってほしいという願いもあった。傭兵の戦争に終わりはない。一生心を麻痺させて戦うよりは、自分を偽る方が幾分マシだろう。
俺には、共に道を切り開くことのできる傭兵が必要だったんだ。戦場によくいる傀儡ではない、自ら考えて動くことができる仲間が。
あの日から、WはWになった。
……だが、イネスの言う通りだ。
こんなことは、馬鹿げている。
[ヘドリー] イネス、なぜこんなところで焚き火を眺めている。テントで待っていればいいじゃないか。
[イネス] ……カズデルからの報せは、良いニュースじゃなかったみたいね。
[ヘドリー] 察したか。
[イネス] 帰ってきたトランスポーターの不安を感じたの。あの人、落ち着いてるように見えたけど、心の中では気が狂いそうになってたわ。
[イネス] ……それとあなたの表情よ。本人はうまく隠してるつもりみたいだけど。
[イネス] 何があったの?
[ヘドリー] ……仲介人が死んだ。カズデルの工業エリアでな。
[ヘドリー] 死体は鍛造炉に放り込まれていたそうだ。頭は溶けていたが、あの目に痛い程に派手な赤色のズボンで、彼だとわかったらしい。
[イネス] 誰がやったの?
[ヘドリー] わからない。発見したのはごみ焼却の担当者だ。
[ヘドリー] だが、犯人もあまり余裕がなかったらしい。周囲の金属に揉み合いの痕跡が残されていた――
[ヘドリー] 鋭い刀痕がな。
[イネス] ……もういいわ。どうせ犯人は見つからないでしょうし。
[ヘドリー] まあそうだろうな。しかしこれが、カズデルでの寝床を手放すことを良しとせず、それでいて傀儡になることを拒んだ男の最期か。似合いすぎて笑えるな。
[イネス] 全然笑えないわよ。お金を払う人が消えたのよ?
[ヘドリー] ……だがこれから話すことは、もっと笑えないぞ。
[ヘドリー] ……情報を手に入れた後、カズデルを離れたトランスポーターは、とある者たちと接触した……
[ヘドリー] とある……諜報員たちとな。
[ヘドリー] 正確に言えば「接触」したというより、「足止めを食らった」と言う方が正しいようだが。
[イネス] ……つまり私たちは、また弱みを握られたってことね。
[イネス] でもそんなの、今に始まったことじゃないわ。こちらが先手を打てば……
[ヘドリー] いや、今回は無理だろう。トランスポーターはその後一つ、命令を受けている。
[イネス] ……命令を受けた? 私たちへの? 誰から?
[イネス] 私たちは何でも言うことをきく奴隷じゃないのよ?
[ヘドリー] ああ、もちろんわかっている。だが今は黙って話を聞いてくれ。
[ヘドリー] 俺たちはこれから戦場を離れ、郊外の山道に入る。峡谷を抜ける必要もあるかもしれん。
[ヘドリー] ……ある輸送部隊を護送するために。
[イネス] 輸送部隊の護送ねぇ。定番の仕事だけど、ただの護送任務じゃないんでしょ?
[ヘドリー] ……わからない。
[イネス] ……はぁ?
[ヘドリー] すまない。詳しいことは俺も把握できていない……
[ヘドリー] だが俺は、これは数少ないチャンスだと考えている。
[ヘドリー] 変わりつつある状況に誰もが機会を伺っている今、部隊を率いる者として、大人しく死を待つことはできん。
[ヘドリー] そして……この件に関しては、お前とWに任せたい。どうだ?
[イネス] ……細かい疑問は置いておいて――
[イネス] Wと同行することは拒否するわ。
[イネス] 彼女の評判は広まってきてるけど、肝心の本人が、まだそれに相応しい器になってないもの。
[ヘドリー] そうか? 素晴らしい活躍をしていると思うが。
[イネス] 私にはあなたが見えないものが見えるの。あなたの評価より、自分のアーツを信じるわ。
[イネス] それに「新たにヘドリーの手下になった爆破の専門家が、戦場を火の海に変えている」なんて噂もあるのよ。
[イネス] このせいで、他の部隊は不安になってる。「戦場」なんて毎日変わるものだし、自分が戦場の中心にならない保証なんてないから。
[ヘドリー] ……わかっている。
[イネス] 彼女はね、殺すときも騙すときも、心の中には何もないの。言うなれば、彼女は傭兵としてあまりにも「できすぎている」……
[イネス] 何かあったときに背中を撃たれるかもしれない。そんなのは私も御免よ。それ以上に、彼女に「護衛」ができるとは思えないけどね。あなたも大事な任務なら尚更、彼女に任せないほうがいいわ。
[イネス] それとももしかして、彼女を使わなければいけない理由があるの?
[ヘドリー] いや……俺は使えるものは全て使うだけだ。それしか方法がないからな。
[ヘドリー] こんな状況だ、もう誰も無関係は貫けない。
[ヘドリー] 傭兵はどこにも属さない。つまり帰る場所もないということだ。戦争が終われば、我々も共に滅びるだけだ。
[ヘドリー] 戦争はいずれまた起こり、繰り返されていくだろうが、我々の命は一つだけだ。
[ヘドリー] このまま根なし草のような生活でいいと思うか?
[ヘドリー] だからこそ、我々はどんなチャンスも逃すわけにはいかないんだ。地位と居場所を築くためにな。
[イネス] ……
[ヘドリー] ……護衛対象の部隊はレム・ビリトンからこちらを目指している。カズデルの勢力範囲に入れば、確実に攻撃を受けるだろう。
[ヘドリー] この拠点に滞在している者の多くは、その危険性から任務を受けることを渋った。任務に挑むにはまず部隊を再編する必要がある。
[ヘドリー] だがそれだけのリスクを負う価値は十分にある。我々は、少なくとも君には――
[イネス] 待って。
[イネス] ……私は別に、あなたの判断に疑念を抱いてるわけじゃないわ。ただ……
[イネス] ……ううん、いいわ。今まで通り、あなたの言う通りにする。だからあなたも、そんなに言葉を選んでくれなくていいわよ。
[イネス] それよりもちょっと落ち着いたら? 足元を見てみてなさい。
[ヘドリー] ……足元?
[ヘドリー] ああ……俺の影のことか。
[ヘドリー] 俺にはお前が見ているものは見えない。どうかしたのか?
[イネス] 影が揺れてるわ。
[ヘドリー] ……風で焚き火が揺れているからだろう。
[イネス] もう、私が言ってる意味はわかってるでしょう。あなたたちサルカズは、いつもそう。自分のことになると、誤魔化してばかり。
[イネス] ……ヘドリー。後のことばかり考えたって意味はないわ。それにあなた一人で多くを抱える必要もない。私たちはただの傭兵なんだから。
[ヘドリー] ……ああ、そうだな。気をつけよう。
[イネス] ほんとにね。それでWを私に押し付けて、あなたはどうするの?
[イネス] 何か企んでるんでしょう?
[ヘドリー] 言えない。本当の情報を知る者は、それなりの責任を負うからな。
[イネス] 他の部隊の人たちはともかく、自分の仲間くらいは信用してほしいものだけど。
[ヘドリー] 悪気があって言わないわけじゃないんだ。ただ……
[イネス] じゃあ、正直に全部話して。
[イネス] ほら、さっさ教えなさいよ!
[イネス] トランスポーターは一体誰に会ったの?
[ヘドリー] ……
[ヘドリー] ……
[ヘドリー] ……「バベル」。
[ヘドリー] 彼らは、バベルがカズデルに撒いた諜報員だった。
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