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喧騒の掟_CB-ST1_風吹く夜
カポネはガンビーノを裏切った。モスティマはバイソンを救い出した。そして鼠王は本当の姿を見せた。龍門に、夜風がそっと吹いた。
......
……自分は優秀なトランスポーターだと、ずっと思っていた。
トランスポーターという仕事は、貨物や郵便物を運ぶ。
あるときは人の想いを、またあるときは富を、そしてあるときは破滅すらも運んでゆく。
父さんは凄い人物だと思う。ミノスから龍門にやってきて、フェンツ運輸を創った。
しかしそこに群がってきた人々は、利害関係に媚びへつらう排他的な集団でしかなかった。
それはとても複雑で、煩わしくもあるけど、ぼくはどうにか対応できている。
でも父さんは、ぼくにこう言ったことがある……。
「大地の彼方はもっと素晴らしい」と。
[バイソン] ……うっ! ぼくは……。
[マフィアA] なにブツブツ言ってやがる!?
[バイソン] ……。
[マフィアA] 目ぇ覚めたんなら、大人しくしてるんだな。さもないと男前になっちまうぞ。
[マフィアA] フン、ボスがペンギン急便を潰したら、お前も処理してやる。
[バイソン] (そうか、ぼくは……こいつらに……テキサスさんたちは、まだあの連中と戦っているのか?)
[バイソン] (クソ……どうしてこんな時は役立たずなんだ……ぼくだってフェンツ運輸の……)
[バイソン] (……車が停まった。)
[マフィアA] 俺らだ。ボスがあのフォルテの坊主をとっつかまえて……。
[マフィアA] ちょっと待て、何をするつもりだ!?
[マフィアB] カポネさんの命令だ。
[マフィアA] カポネだと? こっちはボスの命令だぞ! あの野郎、厚かましいことを——。
[カポネ] 俺が厚かましくもなんだって?
[バイソン] ——!
[カポネ] よく来たな。フェンツ運輸のお坊ちゃま。
[カポネ] お初にお目に掛かるぜ。
[バイソン] ……いま自分の仲間を殺したの?
[カポネ] 裏切り者を始末するのはファミリーの掟でね。龍門の流儀にも合っているハズだが。
[バイソン] そのことは聞いてないよ……あなたの目的はなんなの?
[カポネ] 取引だ。
[カポネ] ガンビーノのやってることは血の気だけが盛んな愚か者の蛮勇に過ぎない。奴のやり方だとな、いずれファミリーは栄光ってやつに溺れて滅亡するしかないんだ。
[カポネ] 俺はそんなもん望んていない。もちろんファミリーのメンバーたちもだ。そんな無意味な死なんて誰が望む?
[バイソン] 何が言いたい?
[カポネ] ガンビーノを潰すのに手を貸そうと言っている。
[バイソン] あなたのことが信用できるとでも?
[カポネ] ……なに、俺はお前がペンギン急便とやり合うことになっても手を貸せるぜ。
[バイソン] ……。
[カポネ] 俺だって馬鹿じゃない。この龍門で何年もやってきたんだ、とうの昔から準備を重ねてる。
[カポネ] お前の父親は権力者だ。龍門の民間トランスポート業の七割以上をその手に握っている。
[カポネ] そして、龍門の上層部とも戦略的な協定関係にある。
[カポネ] どっからどう見ても、ペンギン急便の連中はお前たちの事業の最大の障害だ。
[カポネ] 俺が欲しいのはただ一つ。ペンギン急便の持ってるパイプを全て引き継ぐことだけだ。お前にこの借りを作っとけば、あとでフェンツ運輸との商売話も良い方向に転がるだろう。
[バイソン] 父さんとエンペラーさんは息の合うパートナーだよ。残念だけど、あなたの推測は思い込みに過ぎない。
[カポネ] フェンツ運輸のようなデカい組織が、本当にお前の親父の元に一枚岩になってるとでも思うのか?
[カポネ] お前は、俺たちを甘く見ているようだな。確かに今のファミリーは不幸な失敗が重なって消耗してはいるがな……。
[カポネ] 昔、俺たちの祖先はかつてシラクーザの漆黒の円卓で、誇りをもって自らを「シチリア人」と名乗っていたぞ。
[カポネ] 血まみれな権力闘争をこの目で見てきたんだ。
[カポネ] 正直に言えよ。お前の父親の周りの人間がペンギン急便をどう思ってるのか? 龍門をどう思ってるのか?
[カポネ] そしてお前はどう思ってるのか?
[バイソン] ……あなたは事あるごとに「ファミリー」を口にするけど、たった今自分の手で家族を殺したでしょ。
[バイソン] そんなあなたの提案を、ぼくが受け入れると思う?
[カポネ] あいつの死は単に……俺たちとのビジネスで利害関係が合わなかっただけさ。
[バイソン] フン、あなたたちが支払うのが紙幣なのか火薬なのか、誰にも分からないでしょ。
[カポネ] ——残念だよ。俺はお前がもっと賢いかと思っていたがな。まさか自分とは無関係の些細な間違いで死ぬとは。
[バイソン] ――!
[カポネ] 怖いだろう。いずれはフェンツ運輸を引き継ぐとはいえ、お前はまだタダの乳臭いガキだ。
[バイソン] ……それがどうした? ミノスの人間は若い頃から度胸があることで有名なんだけど。
[カポネ] どうあっても考えを変えるつもりはなさそうだな。
[カポネ] もしお前がこのまま生きていけば、これからもこういう事を見ていくだろうな。しかし残念だが、今お前に残されているのは、冥土への一本道だけだ。
[バイソン] (クッ——! この縄、どうしてこんなにキツイんだよ。これだと間に合わない! )
[カポネ] お前が死んだら、フェンツ運輸は混乱するだろうし、近衛局も巻き込んじまうかもれない。俺からすれば、その状況を利用するのも一興だけどな。
[カポネ] お喋りはこれぐらいにして、そろそろお別れだぜ。お坊ちゃまよ。
[???] おやおや、バイソンくんに手を出したら、君はファミリーの掟から外れるんじゃないのかい?
[???] それとも、君はここで自分を終わらせたいの?
[マフィア] 誰だ!?
[モスティマ] 通りすがりのトランスポーターさ。
[カポネ] ……お前には覚えがある。角を持つサンクタだな。今夜、俺たちのことをだいぶ邪魔してくれたな。
[モスティマ] お褒めにあずかり光栄だよ。
[カポネ] ペンギン急便の情報を徹底的に洗ったが、お前のコトだけは出てこなかった。お前はいったい何者だ?
[モスティマ] うーん……それ君に答える必要ある?
[モスティマ] 私はただ落とした荷物を探しに来ただけなんだけどね。そう、ごく普通のトランスポーターみたいにさ。
[マフィア] カポネさん、この拠点は俺たちが制圧しました。ここにいるのは全て味方です。あの女は一人です。
[カポネ] ……。
[モスティマ] どうした? 私のことがまだ気になるのかい?
[モスティマ] 私は大丈夫だけどね。いつでもお付き合いしてあげるよ。
[カポネ] フン……普通のトランスポーターね。
[カポネ] まぁいい。今はお互いやるべきことがあるしな。
[マフィア] カポネさん!
[カポネ] 死にたいならお前だけで行け。
[カポネ] 俺たちの目的は生き延びることだ。一時の感情に流されたら本末転倒だろうが。
[モスティマ] ……そんなに怖がらなくてもな。買いかぶりすぎだよ。本当に私はただの普通のトランスポーターなんだけどね。
[カポネ] 角を持つサンクタ人が自分の事を普通だと言って、それを誰が信じると思う?
[カポネ] 俺はお前と戦う気はない。好きにしろ。
[モスティマ] さっきは殺して口封じをしようとしてたのに、どうして掌を返す気になったの?
[カポネ] マフィアとして生きてれば、想定外のコトなんざ山ほどある。
[カポネ] この坊主が俺たちに協力せず、殺せもしないとなると、別な方法を探すしかないだろ。
[バイソン] ……。
[カポネ] 機会があれば、また今晩中に会うことになるだろうよ。
[カポネ] その時には、お前たちがもうガンビーノの奴に始末されてるといいがな。ま、俺としてはその逆でも一向に構わねぇけど。
[バイソン] ……本当に行ってしまった。
[モスティマ] もう自分で縄を解いていたんだね。手を貸そうか?
[バイソン] いえ大丈夫。自分で立てます。助けて頂いて、ありがとうございました、モスティマさん。
[モスティマ] ところで他のみんなは?
[バイソン] うっ……。
[モスティマ] フッ、その表情から察するに、かなり振り回されてるみたいだね。
[バイソン] ……皆さんのテンポが早すぎて……。
[モスティマ] 言ったでしょ。それで、どこにいるって?
[バイソン] テキサスさんは「大地の果て」に行くって言ってました。一時間後にそこで集合だと。
[モスティマ] わかった。私が連れて行ってあげるよ。
[バイソン] それで「大地の果て」って……その名前に、一体どんな意味が?
[モスティマ] うーん……名前の由来はよくわからないね。要はボスが持ってる拠点の一つだよ。
[モスティマ] 各地からやって来た人がわざわざあの店を訪れるらしいから、少なくとも裏社会の人たちの間では有名なところだろうね。
[バイソン] それってつまり——。
[モスティマ] 単なるバーなんだけどね。
[バイソン] ……。
[バイソン] ところでモスティマさん、これは何してるんですか……?
[モスティマ] テーブルクロスの中に潜り込んで、大きな幽霊に変装するんだよ。一番手っ取り早い仮装がこれだし。
[バイソン] えと、ぼくが知りたいのは、どうしてその大きな幽霊に仮装するのかなんですけど……。
[モスティマ] 安魂夜のムードにはピッタリだからよ。こうすれば、周りの人はイベントに参加して仮装しているだけだと思うだろうし。
[モスティマ] さっきの「カポネさん」はまだ遠くへ行ってないはずだよ。
[バイソン] ——!
[モスティマ] 突然現れた黒い角のサンクタ人は、手にアーツユニットを持ち、すごい剣幕だった——。ってね。
[モスティマ] 彼みたいな何でも掌握して仕切りたがる人間って、こんな時は警戒しないわけないでしょ? だから余計な刺激はしないようにね。
[バイソン] そ、そうですね。
[バイソン] アーツユニット……今気付いたんですけど、モスティマさんはアーツ使いなんですか?
[モスティマ] 昔はね。私もひと通り訓練を受けたことがあるんだよ。
[モスティマ] これでも毎日ぐーたらしてサボりまくるエクシアとは大違いだったんだよ。
[バイソン] なるほど……。
[バイソン] モスティマさんはやっぱりエクシアさんとは旧知の仲なんですね。
[モスティマ] ハハ、本来この話は、騒がしい新歓パーティーで心置きなくするはずだったんだけどね。
[モスティマ] ペンギン急便って、そもそも年中パーティーしてるから。たまに爆発だの襲撃だの、ちょっと騒ぐような事が起きるのは必然だよね。
[バイソン] 必然ですか……。
[モスティマ] そういうのは意外?
[バイソン] いえ、ぼくはただ、モスティマさんのような方でもそんな一面があるなんて、と……あんなに謎めいた噂もあるぐらいですし……。
[モスティマ] 失望した?
[バイソン] いえ! そんな! ぼく、こんなこと言って失礼すぎですよね。本当にすみません!
[モスティマ] 結局のところ私もペンギン急便の一員だしね。トランスポーターをしていれば、どんな状況でも、就労規則第一条「臨機応変」を実践しないとね。
[バイソン] (第一条の内容がどんどん変わっていくな……。)
[モスティマ] 確かここからは、こっち左に行って、次は右に行って、それから三つ目の角を曲がって……うん、近道しよう。
[バイソン] もうこんな時間なのに、街に人がどんどん増えてきてますね。
[モスティマ] 安魂夜って、こういうところがいいよね。
[モスティマ] 面白いでしょ? 外ではフロート屋台や楽しげなパーティーをしているのに、ここにあるのは臭い下水道の蒸気だけ。たった一枚の壁で隔てられているだけなのにね。
[バイソン] ……面白い……ですか。
[モスティマ] そろそろ残り時間が少ない。急ごうか。
[バイソン] ここは、墓地?
[モスティマ] そうだよ。墓地を街のど真ん中に作る都市なんて、龍門ぐらいなもんだよ。
[バイソン] ……あの人たち、みんな喪服を着てます。
[モスティマ] あの厳粛に弔っている様子は、ラテラーノにいた頃を思い出すね。
[バイソン] ラテラーノ……それはどんな場所なんですか?
[モスティマ] 興味があるのかい?
[バイソン] まぁ、そうですね。実はぼくは前から、もっと遠い場所に行ってみたいとずっと思っているんです。
[バイソン] いつになったら、ぼくも国際トランスポーター契約を結べるチャンスがくるのかな……。はぁ。
[モスティマ] 都市間のネットワークは昔に比べて発達しているから、いずれ街を離れる機会も出てくるよ。
[モスティマ] ……そして、担う距離が長くなればなるほど、その責務は重くのしかかる。
[バイソン] 国々を巡る旅って、そんなに大変ですか?
[モスティマ] そうだね……。ハッキリ言って最大の障害は天災さ。もし不用意に遭遇したら、この大地そのものを敵として対峙することになる。
[モスティマ] ある物流拠点にいたときに、天災トランスポーターから貰っていた情報をウッカリなくしたせいで、一度だけ天災に遭遇したことがある。いくつか山を隔てていたから助かったけどね。
[モスティマ] 真っ黒で重たい雲が落ちてきて、暴れ回る空全体が自分の敵になったようなあの感覚は、いま思い出してもゾッとするね。
[バイソン] 天災……でも移動都市にいれば、都市が移動して回避してくれますよね?
[モスティマ] それはそうだけど、ほかに困る事もあるからね?
[モスティマ] 天災を避けるために都市が移動したおかげで、目の前にあったはずの目的地からどんどん遠ざかっていく……そのときの気持ちを想像してごらん?
[バイソン] うわ……最悪ですね。
[モスティマ] だから、天災トランスポーターたちとは絶対にいい関係を築かないとダメなんだ。それと彼らの定期連絡が届くときは、絶対に居眠りをしてはいけない。
[バイソン] ……へへっ。なんか今の話を聞いたら、やっぱりモスティマさんの方が、よりぼくの同業者って感じがしますね。
[モスティマ] ……。
[バイソン] う、ごめんなさい、調子に乗りすぎました。
[バイソン] ——あの、モスティマさん?
[モスティマ] ……ん? あ、ごめん、ちょっと考え事してただけさ。
[モスティマ] さて、さっさと墓地を抜けていこう。足音を立てないように気をつけてね。
[バイソン] わかりました。
[モスティマ] ところで安魂夜の由来は知ってる?
[バイソン] 唐突ですね? 確かぼくの記憶では、サルカズの古い祭祀と関係があるような……。
[モスティマ] その通り。安魂夜は、実は古代サルカズ人のある祭祀を起源としてるんだ。大昔、この名前にはもっと複雑な意味があったらしい。
[モスティマ] 今の大半の祝日はなんらかの祭祀や信仰と深い関係があるんだ。ただ人々の記憶から忘れ去られてしまっているけどね。
[モスティマ] 安魂夜というのは、人々が死者の魂を迎え入れ、彼らの人世への未練を癒やし、再び輪廻の輪へ送り出す。そういう日なんだよ。
[モスティマ] 今となっては、こういうことを真に受けてる人は少ないけどね。
[モスティマ] 生者は幽霊に扮して平和なイベントを楽しんでるのに、迎えるべき死者が眠る墓地を訪ねてくる人は少ない。これでは本来の意義は果たせないよね。
[バイソン] 人は色んなことを経験しすぎていると、それを忘れて憂さを晴らしたくなるのかもしれません。
[モスティマ] 人生とは経験の重なりだからね。不幸なことだって、誰にでも一度は経験するに違いない。
[モスティマ] ただ、花束を持った墓参りの人たちを見ていると、心が少し落ち着くね。
[バイソン] ……はい。
[バイソン] そういえば、モスティマさん、さっき言っていた「落とした荷物を探しに来た」って……。
[モスティマ] 言ってなかったっけ?
[バイソン] 何をでしょう?
[モスティマ] とある人が高額な依頼をしてきてね。内容は「バイソンを連れて世間を見せること」なんだ。なんかとっても粋な依頼だよね。
[バイソン] と、父さん……!
[モスティマ] あと君の評価なんだけど、実は私の意見も反映されるみたいなんだよね。
[バイソン] えーっ?
[お爺さん] ……こんな夜更け、さすがに誰もおらなんだか。
[お婆さん] あんな育ち方をした子はね、すぐいなくなってしまうものなのよ。鉱石病だなんて、あんたの考え過ぎだよ。
[お婆さん] 董はね、よくやってるみたいだよ。店の状況も悪くない。最近は弟子の面倒まで見てるってさ。
[お婆さん] それに比べてあんたはね、いつも心配させるわ。商売もロクにやらないし、本当馬鹿な……。
[お爺さん] ばあさん、もうそのへんにしておきなさい。
[お婆さん] あんたこそ、少しは何か言ってやりなよ。ないなら、早くロウソクを着けておくれ!
[お爺さん] 火はどこだったかな……おぉ、ここだ。
[お爺さん] あぁ、そういえばこの小僧がヤニの味を覚えたぐらいのときには、もうどこかに行ってしまった後だった。今思うとヤツにタバコの火の一つでも着けてやりたかった。残念じゃ……。
[お爺さん] ロウソクだけだと不憫だな。どら、お前も吸うか?
[お婆さん] 何やってるのあんた! タバコなんて吹かしてないで、早くロウソクの火を着けるんだよ! このバチ当たりめ。
[お爺さん] はいはい、着けたよ。
[お婆さん] ああぁぁ、ファーちゃん……。
[お爺さん] 止しなさい。今夜は声をあげて泣いてはいかんのだ。さぁ、もう行こう。時間も遅い。帰って董の奴に腸粉でも作ってもらおう。
[お婆さん] こんな夜中に腸粉なんて食べてどうするんだい!
[お婆さん] ……お若い方、ここまで連れてきてくれて、ありがとう。夜は道がよく見えないから、とっても助かったわ。
[???] ……気にしないでください。ついでだったので。
[モスティマ] うわ、風が吹いてきたね。
[バイソン] ちょっと涼しくなってきました。
[モスティマ] 爽やかな夜風にキャンディの甘い香り、そして煌めく都市の夜景。これこそ龍門の絶品たちだね。
[モスティマ] あの金色に輝く華やかな通りが見える? まるで真夜中の太陽みたいでしょ。
[バイソン] えっと、あそこが目的地ですか?
[モスティマ] サンセット通り東1301号、入り口に巨大なペンギンの落書きがあるから、すごくわかりやすい。
[モスティマ] さて、ここからは君だけで行ってね。
[バイソン] ペンギンの落書き……わかりました。でもモスティマさんは?
[モスティマ] うーん——私はずっと君の側にいられる訳じゃないよ?
[バイソン] それはそうですけど……モスティマさんは前回もそうやって突然消えたし……。
[モスティマ] それは悪かったね。私にも色々と仕事があるからさ。
[モスティマ] みんなと仲良くするんだよ。
[バイソン] で、できる限り頑張ります。
[モスティマ] それじゃ、またね。
[ジェイ] ……董の親父さん、何があったんすか?
[董] ジェイ坊か? お前は無事なようだな。いいから早く家に帰れ!
[ジェイ] 誰がこんなヒデぇことを? 埠頭の連中か? それともあの不良学生どもか?
[董] いや、みんなちげぇよ。今回の事は気にすんな。命は無事さ。大したことじゃない。
[ジェイ] 親父さん……。
[董] ……今日はな、爺さんと婆さんがファーの墓参りに行ってんだ。お前は知らないだろうが、アイツはあの人たちの孫みたいなもんだったからな。
[董] どうせ二人の帰りは遅いだろうし、飯でも作って持って行ってやろうと思ったら、連中に会ってしまって……。
[ジェイ] どこの連中か心当たりはあるんですかい?
[董] ……どうせ龍門の人間じゃねぇよ。おい、とにかくお前は首突っ込むんじゃねぇぞ!
[ジェイ] へい、分かりやした。
[董] ジェイ坊! お前せっかく鬼の姐さん……。
[董] ホシグマさんとの誤解を解けたのによ。それに仕事も紹介してもらえたんじゃねぇのか? 大事にしろよ!
[ジェイ] わかってやすよ、親父さんは先に休んでいてくだせぇ。
[ジェイ] 俺が様子を見に行ってきますんで。
[董] ジェイ坊、このクソガキっ、戻れ、どこに行く!?
[董] ……あの馬鹿っ! 肝心な時に話を聞かねえ! あのガキは!
[???] 若いモンはあれぐらいの方がいい。お主だって、まんざらでもなかろうに。
[董] ……リンさんか? 何しに来た? 俺の情けねぇツラでも笑いに来たのか?
[リン] 龍門最高の魚団子職人がこんな危険を冒さなくてもいいはずじゃ。素直に連中に言ってやったらどうじゃ?
[リン] 鼠王の居場所がそんなに大切か? そんなことより、皆が最高の魚団子を食べられなくなる方がよほど大事だと思うがな。違うかの?
[董] ルールはルールだからな。
[リン] たかだかワシらで決めた程度のルールじゃぞ。
[董] ……それでも、だ。
[リン] でも無駄に殴られてしまったのう。ワシはもう隠れるのをやめるつもりじゃったぞ。
[董] ハッ、アンタがどんなつもりだったかなんて知るもんかい!
[リン] ほら、起こしてやろうか。魚団子をこねている間に、腕が鈍ったのかの?
[董] 俺が手ぇ出したら、後でまた目ぇつけられるからな。追っ払ってくれるとでも言うのか?
[董] 今の俺は平穏に暮らしたいだけだ。殴りたきゃ、殴ればいい。今まで散々殴られてきたしな。
[リン] フォフォッ、古い友がこれほどまでに元気だったとはな。ワシも安心じゃ。
[董] 奴らの目的はアンタの方だろうが。何が安心なものか。
[リン] だからこそ安心だと言うておる。
[董] ……昔からいつもそんなんでよ。疲れねぇのか?
[リン] そら疲れるに決まっとろうが。だが昔のようにはいかん。ワシらにはそれぞれ責任がある。この街そのものを背負ってるからな。
[董] 俺は——。
[リン] お主はただ魚団子を売っていればよかろうて。他の事など気にするでない。
[リン] 歩けるか? 少しワシの散歩に付き合ってくれるかの?
[董] 大丈夫だ、こんなの大したことじゃ――いだだ! 何しやがる!?
[リン] 深くなくても怪我は怪我じゃ。相変わらず死ぬほど頑固じゃな。
[リン] ……過去の事はもう気にするでない。これはお主が選んだ道だ。誰に恥じる必要もなかろう。
[リン] お主の魚団子も、この龍門の一部だ。ワシのことなんかより、よほど重要じゃな。
[リン] そうだ。お主はもう自由なのじゃよ。
[董] ならなぜアンタは俺の魚団子を一度も買いに来てくれねぇんだ?
[リン] ——フム、話を変えるとしようかの。で、最近はどうじゃ?
[董] 実は、クルビアで龍門の料理が流行ってるらしくてよ。向こうに行くチャンスを探してちっとばかり店を広げようかと——。
[リン] それは許さん。
[董] ……。
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