aklib_story_火山と雲と夢色の旅路_SL-4_船乗りが海へ_戦闘前

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火山と雲と夢色の旅路_SL-4_船乗りが海へ_戦闘前

エイヤフィヤトラはケラーから博物館の収蔵品が紛失したことを聞かされ、黒い羊の仕業だとすぐにわかった。商店街の人々は依然再度の移転に反発しており、仕事が再びうまくいかなかったコスタは、博物館にてかつての友人ケラーと偶然出会うのだった。


[アダクリス人A] なぁなぁ、あのアンマイヤーとかいう尻尾なし、おかしくねぇか!

[アダクリス人A] あいつが食う飯に限って羽獣の卵の殻が入ってるわ、橋を渡る時にはロープが急に切れるわ、建てた家は滝で流されるわ、鱗獣を捕まえたら逆にでかい鱗獣に連れて行かれるわ! 出来すぎてんぜ!

[アダクリス人B] うーん、イナムがこういうのを言う言葉を言ってた。なんだったっけか? フゴウ体質?

[イナム] 不幸体質ね。

[イナム] あんたたち、アンマイヤーさんにちゃんとお礼言いなさいよ。彼女がいなかったら、一日仕事したら一日休むあんたたちじゃ、ここの新しい家が全部建つまでどれだけかかったことか!

ドカーン――

[アンマイヤー] ゴホゴホッ、ゴホゴホッ!

[イナム] ど、どういうこと? なんでドアが爆発したの?

[アンマイヤー] 平気だよ。すぐに直せるから……ヒンジの接着剤を乾かしてたんだけど、あたしのやり方が良くなかったのかも、ハハ……

[アダクリス人A] 接着剤?

[アダクリス人B] そいつはオレの酒壺だぞ、ばあちゃんからもらったやつ。

[イナム] ……

[アンマイヤー] ……

[イナム] ゴホン、荷物は全部運んだのよね?

[アダクリス人A] 全部ここにあるぜ、午前中はずっとかかりっきりだったんだ! 今夜はしっかり風呂に入らねぇとな。

[アンマイヤー] 午前中ずっと? 何の荷物なの……これ、コーヒー?

[イナム] そう。全部シエスタのコーヒーよ。シエスタとの取引ルートが開拓できてね。これは送られてきた最初の商品よ。

[アンマイヤー] どれどれ、パッケージに説明が書いてある……「花の種とコーヒー豆を一緒に焙じた」……うん。シエスタ人は、この方法でコーヒーの苦みを和らげるんだよ。

[アンマイヤー] 子供の頃、おじいもそうしてコーヒーを飲んでたな。

[イナム] アンマイヤーさんのお爺さんは、シエスタ人なのよね?

[アンマイヤー] うん……だけど、うちはずっと前にシエスタからクルビアに引っ越しちゃったんだ。でもね、今月の仕事を終わらせたら、シエスタに行く交通費が貯まるんだ!

[イナム] ん? シエスタに行きたかったの? それならもっと早くに言ってくれれば、シエスタからのキャラバンにあんたを連れて行かせたのに。一時間ちょっと前に出発しちゃったわよ。

[アンマイヤー] え?

フィールドワーク日誌:

1095年9月3日 リターニア北部 ウナ火山

目標:ウナ火山噴火についての一次観測データを取得し、噴火時の火山周辺の源石粉塵濃度の減衰値を計算することで、理論モデルを確立する

推定観測時間:五時間

メンバー:カティア、マグナ、ケラー

古びたノートの間に、一枚の写真が挟まっていた。

登山服を着た三人が一列に並んでいる。山の風に吹かれて三人の顔は赤く染まっていた。

[アデル] ケラー先生も……当時のフィールドワークチームにいたんですね。

[カーン] あの時の調査は、元々ケラー教授も参加するはずだったんだ。

[カーン] だけど山に登る前日、ケラー教授は突然チームを離脱して、ウィリアム大学に戻った。

[アデル] 突然戻るなんて、何か理由があったんですか?

[カーン] 分からない。当時のフィールドワークノートにも全く記載がないんだよ。事実として確認できるのは、あの事故の後に、ケラー教授がウィリアム大学とリターニア政府の会議に現れたってことだけだ。

[アデル] ドリーさん、その時はあなたもいたんですか……?

[アデル] はぁ……やっぱり探し物を見つけないと相手にしてくれないんですね……

[アデル] なら、ドリーさん、火山警告花を知っていますか? 火山活動に応じて色が変わる植物らしいんですけど、ドリーさんが探してるのはこの花の種ですか?

[アデル] それとも……黒曜石? 土に埋まる黒い結晶は、種のようにも見えますよね……?

アデルの独り言に対する反応は何もなかった。巨大な火山岩の標本はいつだって沈黙したままだ。

[アデル] 私の考え過ぎでしょうか……

[アデル] ドリーさん、もう少しヒントをくれませんか。そうすれば、もっと早く見つけられるはずですから……

[ケラー] アデル? 何を探しているんだ?

[アデル] ……何でもありません、ケラー先生。

アデルがノートを閉じて、整理用のダンボール箱の中に入れるのをケラーは静かに見ていた。

アデルはうつむいたまま、近くにあった資料をいくつか手に取ると両親のノートの上に被せた。

[ケラー] アデル……何か聞きたいことがあるなら、直接聞いてくれていい。

アデルはしばらく沈黙した。

[アデル] ……何もありません、ケラー先生。

[ケラー] ……

[ケラー] 君に共有しておきたいことがある。

[ケラー] 火山に最も近い観測所からのデータと黒曜石サンプルの分析結果に基づいて、シエスタ火山の噴火時期が数日早まる可能性があるという予測が出た。

[ケラー] シエスタ火山のデータには少しおかしな点がある。火山内部の源石鉱脈のエネルギー活動は二年前の夏にピークを迎えた後になぜか急速に低下し、その後またゆっくりと上昇している。

[ケラー] 噴火に備えるために我々に残された時間はあまりない、急ぐ必要がある。

[ドリー] わお! 火山が早めに噴火するの? そんなラッキーなことある?

[アデル] (小声)ドリーさん! いきなり飛び出さないでください……

[ケラー] アデル、私の話を聞いているか?

[アデル] はい! 聞いてます!

[ケラー] ……

[ケラー] アデル、君が単なる幼い少女ではなく、すでに経験豊富な学者であることは理解している。観測の下準備など君にとっては些細なことだろう。だがくれぐれも集中は切らさないように。いいね?

[アデル] すみません! ケラー先生……

[ドリー] あはは! よそ見したの先生に見つかっちゃったね。

[ケラー] そうだ、ここ数日の間に、博物館で怪しい客を見かけなかったか?

[アデル] 何かあったんですか?

[ケラー] 体験エリアに置いてあった、サウンドストーンのサンプルが消えたんだ。

[アデル] サウンドストーン? 風が吹くと、楽器を鳴らしたみたいな音が出る石ですよね?

[ケラー] ああ。どうやら博物館の警備を強化するように、シティホールの人間に報告しておく必要があるようだな。

[アデル] 私も気を付けてみます。

[ケラー] この天気のせいなのか、最近は奇妙なことがよく起こる。物をなくしたという届け出がやけに多い。

[ケラー] 今朝のニュースでも、建設中の区画の倉庫が何者かによって荒らされて、現場はひどい有様だと報道していた。

[アデル] ――!

[フェンツ物流職員] マネージャー、被害状況はすでに確認しました。紛失したものはありません。主な損害は物資を詰めていた箱の損傷です。一部の食品類を除き、他の商品の被害はそこまで大きくありません。

[バイソン] そうか、分かった。

[コスタ] シエスタでこのようなことが起こり、大変申し訳ございません。ひとえに私どもの監督不行き届きが致すところです。御社のシエスタとの提携のお考えに影響を及ぼさなければよいのですが……

[コスタ] もちろん、提携解消のご決断をなさるのであれば、私も事実をありのままヘルマン市長に報告いたします。

[コスタ] そうなれば、ビジネスパートナーを失ったヘルマン市長と職を失った私は共に深い悲しみを背負うでしょうが……

[バイソン] 責任の追及は、正直に言えばそれほど重要ではありません。何よりもまず、このようなことが二度と起こらないように手を打つ必要があります。

[バイソン] どうやら……住民の方々は新区画におけるフェンツ運輸の計画を歓迎していないようですね。

[コスタ] ……近頃の私は五体満足でバイソン様とお仕事ができていることを幸いに思うことがよくございます。

[バイソン] ……え?

[コスタ] あっ、つまりその、ここの住民に都市再建を受け入れさせるのはあなたの仕事ではないということです。

[バイソン] フェンツ運輸とシエスタの今後の提携には住民の方々の支持が欠かせません。みなさんには今回の再建が一方的な強制だと思ってほしくないんです。

[コスタ] ご配慮をいただき、大変感謝しております。

[バイソン] ……こうなった以上、シティホールには今後倉庫付近の警備業務に更に注力していただき、くれぐれも再発がないようお願いしたいです。

[コスタ] はい。バイソン様のご意見は確実に担当部署に伝え、しっかりと実行させます。

[コスタ] 私の仕事、住宅ローン、それと不安に駆られているフィアンセに代わり感謝を申し上げますよ、バイソン様。

[コスタ] ……もし他に何もないようでしたら、私はこれで。移転同意書にサインをもらうために、商店街の人々を説得に向かわないといけませんので。

[ヘルマン] スワイヤーさんがお越しになった際に、しっかりとおもてなしができなかったことを、大変遺憾に思っています。

[ヘルマン] ここ数日、ニューシエスタを観光した印象はどうですか?

[スワイヤー] とても清潔で、美しい場所ね――だけど、どうも面白みに欠けているように感じて、あまりぱっとしないわね。正直言って、前の方が好きだったわ。

[ヘルマン] 奇遇ですね、私の娘も似たようなことを言っていました。

[ヘルマン] しかしシエスタは、元々の黄金の海岸線を離れることを余儀なくされたために、観光業を柱とした元の経済モデルを続けることができない定めにあります。

[スワイヤー] ほんと残念よね。アタシは結構あの「旧シエスタ観光商店街」が気に入ってたのに……

[スワイヤー] 市長さんはどうやら、フェンツ運輸との提携の成功を信じてるみたいね?

[ヘルマン] スワイヤーさんが一味違った提案をしてくれることも期待していますよ。

[ヘルマン] しかし、ご一族のご高名はかねてより伺っていますが、執行投資人の人選がまさかあなたであるとは思いませんでした。

[ヘルマン] たまたま知ったのですが、ついこの間シエスタで会社の登記をされたようですね。業務内容は、たしか建築および文化エンターテイメントですか……?

[スワイヤー] なるほど。市長さんがあまりアタシを信じていないのは、アタシの権力がグループの中でまだ十分じゃないと思っているからかしら?

[ヘルマン] まさか。未来というのはいつも若者の手にあるものです。ただふと思い出したんですよ。ヴィクトリアの「グループ」というものとやり取りしてから、すでに三十年以上も経っていたのだと。

[スワイヤー] 少しでもシエスタの歴史に詳しい人だったら、みんなが知っているでしょ。当時のシエスタが、めちゃくちゃに膨らむヴィクトリアの野心から逃れるのは、簡単なことじゃないわ。

[スワイヤー] そして、ヘルマン市長がその「揉め事」の中で示した存在感は、今でも多くの政治家たちの語り草だわ。

[スワイヤー] 市長さん、あんまり心配する必要はないわよ。今のアタシの身分は複雑じゃないもの。アタシがもたらすのは、誠意ある協力とより多くのビジネスチャンスだけよ。

[ヘルマン] スワイヤーさんはフェンツ運輸と新たな区画の開発権を争うおつもりのようですね。もちろん私はお二方の健全な競争を嬉しく思っていますよ。シエスタは常に誠意ある協力を歓迎していますから。

[ヘルマン] 我々は、あなたが入札の場で提案するプランに期待しています。そして、このニューシエスタで楽しいバカンスを過ごせるよう祈っています。

[ヘルマン] 龍門にお帰りになったら、御祖父様によろしく伝えてください。

[レストラン店長] 私はサインしないわ!

[レストラン店長] 前に一回越してるのよ、あと何回振り回されなきゃいけないの……それに、この店を取り壊して、どうやって生きていけって言うのよ……

[レストラン店長] 市長がそこら辺をきちんと説明してくれない限り、絶対に立ち退きなんて考えないから。

[バー店長] まだ立ち退きを諦めてねーの?

[バー店長] コスタ、お前せっかくシティホールに潜り込んだのにさ、結局んとこイキったお偉いさんどもにこき使われるだけなのか? 俺たちのためを思ってなんとかしてくれねーのかよ?

[バー店長] お前は自分の爺さんのカフェを継ぐ気がないにしても、俺たちはこの通りを頼りに食っていくつもりだよ。

[バー店長] はぁ……みんな必死にこの通りの活気を取り戻そうとしてるんだよ……どうにか助けてくれよ、な?

[年老いた店主] おっと、シティホールのお偉いさんじゃないか。今日もせっせとわしらを追い出そうとしておるんか? 立派な制服を着たら、自分がどこの生まれか忘れてしもうたか?

[年老いた店主] お前さんの爺さんに代わって、恥ずかしく思うわい。

[コスタ] ……

[コスタ] この仕事嫌いだ……

[スワイヤー] 店長さん、アタシのアイスできたかしら?

[年老いた店主] もうすぐじゃ!

[年老いた店主] 遅くなってすまんのう。ほれ、アイス四つ乗せじゃぞ。

[スワイヤー] ねえ、ついでに聞くけど、あっちで叱られて落ち込んでるのって、誰なの?

[年老いた店主] 構わんでいいわい。わしらの家を取り壊そうとしてる疫病神じゃ。

[スワイヤー] 例のブツは持ってきた?

[エニス] はい。

[スワイヤー] 来る途中で、誰にも気付かれなかった?

[エニス] 申し訳ありません、警視! ルートとリーフに見つかってしまいました!

[スワイヤー] 何ですって!?

[スワイヤー] コホン……ほら、満足した? 早くブツを渡しなさい。

[エニス] 警司って本当にこうやって潜入調査員とやり取りするんすか? なんかカッコいいっすね!

[エニス] こっちの袋に入ってるのは、商店街の各店舗の概要、居住人数、大まかな経営状況っす。リクエストのあった店主の性格なんかも大体書いておきました。

[エニス] こっちの袋の方は、フェンツ運輸の最近の動きです。シエスタの特産品なんかを買い付けて、ヴィクトリアやクルビアに販売するって言ってるみたいっすね。数もなかなかですよ。

[スワイヤー] やるじゃない! 向こうの資料はどうやって入手したの?

[エニス] ちょろいっすよ、運送ドライバーの募集に応募すれば終わり一丁上がりです。

[スワイヤー] どうやら、バイソンはそれで住民を取り込もうとしてるみたいね……確かにあいつのやりそうなことだわ。

[スワイヤー] 仮に将来本当に物流センターが建ったとして、ここの人たちは喜んで仕事を変えるかしら?

[アイス屋店主] エニス、キュラソーをくれ!

[エニス] ……はいよ。

[アイス屋店主] 浮かない顔してどうしたんじゃ? おお。お前さんもきっと飽き飽きしとるんじゃな? それで看板をまた出して、そうやって反対の意を示しとるんじゃろう?

[アイス屋店主] ほんと迷惑なもんじゃ。隣の家の若い夫婦なんて最初はあんなに仲睦まじかったのに、今じゃ立ち退きの件で毎日喧嘩しておるぞ……

[エニス] はいキュラソーお待たせ!

[スワイヤー] ……この通りの人たちは引っ越したくないのね。

[エニス] ほとんどがそうっすね……引っ越すってことは、どうやって暮らすかを一から考えなきゃならないすから。そもそも俺たちは移動都市に越してきたばっかで、みんなまだ慣れてる最中ですし。

[エニス] 観光客もほとんど見かけなくなって、景気が悪い上に、失業者も増えてます。引っ越しには先立つもんが必要ですから、もう一回ってなると、生活がもっと厳しくなりますよ……

エニスは首を横に振り、その話題をやめた。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] エニス、アンタたちみたいなお店は、維持するのにどれくらいお金がかかるの?

[エニス] 一ヶ月で大体……五百金券いかないくらいっすかね?

[スワイヤー] え? それだけ?

[エニス] 大体は中古のものを買うか、自分で作るかして、それに普段の水道光熱費を少し節約すればいいんで。実際のとこスワイヤーさんの想像よりはずっと安いですよ。

[エニス] 時々マジで知りたくなるんすけど……アンタたち金持ちって、悩みを抱えたことなんて、ないんじゃないんすか?

[エニス] 十分な金さえあれば、生活のすべてが、思い通りになるんですか?

[スワイヤー] ……お金で解決できるのは面倒事であって、問題ではないのよ。

[エニス] はぁ、もし引っ越し以外の選択肢がない場合、スワイヤーさんならどうしますか? ここら一帯の土地を請け負った後に何を建てるつもりなんすか?

[スワイヤー] それを聞くなら、先に答えてちょうだい。もし、どうしてもこの通りを再建しなきゃいけないとしたら、アンタはどんなふうになってほしいかしら?

[エニス] 現実味がなくてもいいんすよね?

[スワイヤー] 言ってみなさい。

[エニス] ……巨大なウォーターパークっすね。

[エニス] ここにしかないような、どこよりも大きいウォーターパークを建てれば、観光客を引きつけることができるんじゃないかなって。そうすれば、このバーも取り壊さずに済むでしょう。

[エニス] それに、チビたちもずっとパークに遊びに行ってみたいってうるさいんすよ。

[スワイヤー] うん、ナイスアイデアね。

[エニス] なんかテキトーだなぁ……

[エニス] フェンツ運輸のお坊ちゃんと比べたら、アンタが本気で入札に参加しようとしてるようには見えないっすよ……

[スワイヤー] ふんっ、アタシと争う人は大体がそう思ってたわ。

[エニス] それで最終的にどうなったんすか?

[スワイヤー] アタシの全勝ね。

[エニス] ……ぷっ、すごいや。

[ヘイリー] エニス! 看板にペンキを塗るの手伝っておくれ。博覧会がもうすぐで始まるだろ、看板の見栄えを良くしておきたいんだよ。

[エニス] 今行く!

[エニス] そうだ、前のペンキがまだ残ってた。それと数日前にライトバーを安く手に入れたんだ。それも後で一緒に掛けとこうか?

[ヘイリー] いいねぇ、余ったペンキでテーブルや椅子や額縁なんかも塗り直しとこうか。ルートとリーフが、最近誰かに絵を教えてもらったとか言ってたろ、一緒にやらせたらどうだい?

[エニス] おっけー、すぐやる!

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] ねぇ、エニス!

[スワイヤー] 看板はオレンジにしなさい。アタシの目に狂いはないわ。きっと今よりもお客さんが来るようになるわよ。

コスタは自分がどうやってここまで来たのか覚えていなかった。

ニューシエスタに越してから、しばらくして、この特殊な形の建築物はいつの間にか通勤ルートに現れていた。自分も関連書類を取り扱った気がする。

ヴォルケーノミュージアム? なぜ地価の高い移動都市に人々はわざわざこんな博物館を建てるのだろうか? 火山のどこが研究に値すると言うのか?

[観光客] 走らないの!

[小さな観光客] やだ! おっきい石見るんだもん! マグマ見るんだもん!

[観光客] はぁ、どうしてこんなものが見たいのよ。

[小さな観光客] 火山ってカッコいいもん!

[観光客] ふん! カッコいいねぇ……

「火山からはとても美しい風景が見える」、コスタの頭の中にそんな言葉が浮かび上がった。誰かが自分にそう説明したことがあった気がする。

[小さな観光客] この火山の名前言える? ぼく全部知ってるよ!

[観光客] 私がそんなの知ってどうするの……

[小さな観光客] なら教えてあげる! これはタンボラ火山、これはカトラ火山、これはムラピ火山、これはヤ……ヤ……

[コスタ] 「ヤスール火山」。

[小さな観光客] わっ! どうして急に後ろからしゃべるの、びっくりしたよ!

[コスタ] あっ、ごめんなさい……

[コスタ] (どうして俺は知っているんだ? 自分でもわからん。)

[小さな観光客] ふんっ、ヤスール火山でしょ、ぼく知ってるよ! 大地で最も美しい火山でね。山の至る所で、静かに流れる渓流みたいなマグマを見られるんだよ……

[小さな観光客] これ全部本に書いてあることだよ、ぼく全部覚えてるんだ!

[小さな観光客] でもここにはどうして説明文が何もないんだろう……ぼくの言ったことが合ってるか見せたかったのに!

[観光客] はいはい。全部合ってるわよ! もう見終わった? ここには説明文もないし、行きましょう――

[ケラー] ご不便をおかけして申し訳ございません。この展示エリアはまだ完成していないんです。後ほど説明文をここに掲載する予定で――

[小さな観光客] 嫌だ! ぼく、まださっきのあの火山おじさんに話し終わってないもん、おじさんぼくの話聞いてよ!

[コスタ] ――?

コスタは服の裾を引っ張られ、仕方なく足を止めた。自分は行かなければならないと伝えない限り、子供は諦めないだろう。

彼は少しうんざりしながら男の子に説明をしようと振り返ったが、そこでガラスのショーケースに映った意外な顔を見た。

[コスタ] どうして君が……

[ケラー] コスタ……?

[コスタ] 君……戻ってきていたのか?

[ケラー] ……ああ。

ノーバディにはなりたくない♪

大声で叫ぶよ――! これこそが俺の人生だ♪

あっ、すまんすまん、店にまだ客がいたことに気付かなかったよ。

変だな、黒曜石祭の真っ最中だってのに、どうしてカフェでおとなしく本を読んでる奴なんかいるんだ? なぁ、ここでギターの練習してもいいか?

はぁ、やっぱやめとくか。客の邪魔したらまた爺さんに叱られるからな。新しいギターを買ってもらうために、ここは静かにしとくのが賢いチョイスだぜ。

何の本読んでるんだ? へぇ火山に関する本か……カッケーな、俺にも見せてくんないか?

......

明日も、またここに来るのか?

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