aklib_story_空想の花庭_HE-ST-2_祈りの園生を

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空想の花庭_HE-ST-2_祈りの園生を

茎を折られ、花びらが炙られた花を、寡黙な聖徒が拾い上げる。


[エイリーン] 早く来て、ホルスト! ほら、こっち!

[エイリーン] まさか本当に聖像の前に花を植えちゃうなんて。それにここの花、なんか他のところより綺麗に咲いてる感じしない? クレマンってば少し気が小さいとこがあるけど、結構やるじゃない!

[エイリーン] ステファノもよく許可したわね。聖堂の床を掘り返したり、色んなところから土やら何やら探したりさせるなんて……しかもどんな土を使えばいいかなんてことまでこだわったし。

[ジェラルド] あんまり走るな。自分が怪我人だってことを忘れるなよ。

[エイリーン] こんなかすり傷、どうってことないわよ。

[ジェラルド] かすり傷だって悪化するリスクはあるんだぞ。

[ジェラルド] それと、もうその名で呼ぶんじゃない。今の俺はジェラルドだ。

[エイリーン] はいはい! あんたまでぐちぐち細かいこと言うようになっちゃって……ステファノから変なこと学ばないでよね!

[エイリーン] あのおじいちゃんったら、お節介の焼きすぎであんなにしわだらけになっちゃったんだから。

[エイリーン] 年寄りは何事にも大らかにならないと、長生きできないわよ!

[ジェラルド] エイリーン! 口が過ぎるぞ。ステファノは修道院の未来のために尽くしてるだけなんだ。

[ジェラルド] 俺たちが今こんな風に暮らせているのも、あいつのおかげだぞ。

[エイリーン] 分かってるって! ただあの人が色々考え込んでる姿を見てると、何だかこっちまで気が滅入っちゃうってだけ!

[エイリーン] もしステファノがいつか耐えられなくなった時、ものすごく辛い思いをするんだろうなって……

[ジェラルド] あいつはサンクタの中でも特に頑固な男だ……何を言っても聞きやしないだろう。自分が一度正しいと思ったことは最後まで貫き通す奴だからな。

[ジェラルド] だが俺たちがここに住み着くことができたのは、あいつのそういう性格のおかげでもある。

[ジェラルド] あいつは、サルカズと他の者たちに違いなどないと言っていた……

[エイリーン] まったくその通りだよね。

[エイリーン] まあいいわ。もしいつかあの人が耐えられなくなったら、あたしとあんたで支えてあげれば済む話だし……恩返しってことでね。

[エイリーン] あんたも昔のことはもう忘れなさいよ。カズデルを離れたあの時、あたしたちはテレジア殿下を裏切ったの……ジェラルド、あたしたちは引き返すことはできないわ。

[エイリーン] 二度とね。

[ジェラルド] ……分かってるさ。

[ジェラルド] エイリーン、お前に言われるまでもない。

[ジェラルド] 俺はいつからか、殿下の描く景色が見えなくなっちまった……カズデルを率いる二人の殿下たちの中に、俺たちサルカズの未来を見出せなくなっちまったんだ。

[エイリーン] そう落ち込まないの。

[ジェラルド] ああ、大丈夫だ。少なくとも今の俺たちには、新たな生活があるんだからな。

[ジェラルド] カズデルを離れたいと願ってた奴らを連れ出した以上、俺たちにはそいつらに対する責任がある。

[エイリーン] 今の生活は……前よりずっと良くなったよね。

[ジェラルド] ああ、だが気を抜くな。前と違って物資支援もないし、時々手強い盗賊どもが襲ってくることだってあるんだ。

[エイリーン] ちょっと臆病すぎじゃない?

[エイリーン] あの悪名高き傭兵も、十何年後か経った頃にはすっかり田舎の猟師に変わっちゃってたりして。あはははっ!

[エイリーン] はははは……

[エイリーン] ……ねえ、ジェラルド……あのさ。

[ジェラルド] ん?

[エイリーン] もしも本当に武器を捨てて田舎の猟師になったら、自分がどんな姿になるかとか想像してみたことある?

[エイリーン] その時、あたしはどんな感じになってるだろうなー、とかさ。

[ジェラルド] いや……考えたこともないな。

[ジェラルド] その時の俺の姿か……

[ジェラルド] エイリーン、そんなに気になるんなら、お前が自分の目で確かめてみないか。

遠い昔、敵と死闘を繰り広げた後の夜に一息つきたい時、ジェラルドはいつも空を見上げることにしていた。

上空には鬱々とした暗闇が広がっており、焚火の炎は段々と弱まり消えてゆく。

数時間前に戦場でその身を血に染めた傭兵は、顔や体についた汚れを拭いつつ、同じく傷だらけの仲間たちを見つめながら、束の間、彼らにとってはいささか贅沢すぎる夢に想いを馳せた。

彼らのようなサルカズが、いわゆる「幸せな人生」を送ることなど本当にできるのだろうか?

かつての彼は、サルカズが再び故郷を持つ日が必ずやってくると固く信じていた。しかし同時に、己がますます無力になっていく実感も増しつつあった。

彼らはあまりに多くの血を流しすぎた。このままでは殿下の描く理想の未来図を実現する前に、彼らの血は流れ尽きてしまうだろう。

ゆえにジェラルドは、カズデルのすべてを捨て去ることに決めた。すぐに命を落とすであろう仲間たちを連れ、かつて命を賭したその地から逃げるようにして立ち去ったのだ。

名前も素性も隠した彼らは、ついに自分たちサルカズを受け入れてくれる安住の地を見つけ出した。彼らの願いは、ただこの地で普通の人と何ら変わりない、平穏な暮らしを送ることだけだった。

その願いは、一度は実現した。

しかしそんな暮らしが、苦渋に満ち、息継ぎさえも困難なものへと変わり始めたのは、一体いつからだろう?

それはまるで、食卓の上の誰も手を付けない料理のようだった。

誰もがそのままの状態を保とうと努め、粗末にする者などいないにも関わらず、それでもそれは腐っていくのだ。

血を流すことでしか終わらせることができないと言うなら……

俺にできることは一つしかない。

[ジェラルド] クレマン、もういいんだ。

[ジェラルド] 俺はもう逃げられないし、逃げるわけにもいかないからな。

[ジェラルド] あんたには昔の俺の名前を教えていなかったな。浸る価値のある過去も持たず、帰る家すら失った、ただの悪名高い脱走兵の名でしかないが。

[ジェラルド] 俺が生きている限り、奴らにとっては他の皆に手を出すための格好の口実になる。

[ジェラルド] そんな顔をするな。一足先にエイリーンに会いに行くだけさ。かつて危険と隣り合わせだった俺のような人間にとっちゃ、死は見飽きてるんだ。

[ジェラルド] 俺の首と引き換えに皆に生きる道を残せるなら、願ったり叶ったりだろ。

[ジェラルド] 俺がいなくなった後も、残された奴らの心配は無用だ。あいつらなら俺の言うことを聞いてくれるだろう。

[ジェラルド] ライムントはまだ若いから、一人で突っ走っちまうかもしれんが。その時は……よく言って聞かせてやってくれ。

[ジェラルド] ……

[ジェラルド] 最後に……

[ジェラルド] 今から言うことをステファノに伝えてくれ。最初に俺たちが荒野をさまよっていたあの時……俺たちはここに立ち寄って、留まろうとすべきじゃなかったのかもしれない。

[ジェラルド] しかしこの場所は俺にとって、俺たちサルカズにとって……あまりに理想的すぎたんだ……

[ジェラルド] 長い間ここで共に過ごしてきた日々は、すべてが夢のようだった。だがいつかは現実と向き合わなきゃいけないんだ。そのことは俺もよく分かってる。

[ジェラルド] 俺に代わってステファノに伝えてほしい──ありがとう。そして、すまなかったと。

[ジェラルド] 後のことは頼んだぞ、クレマン。

[ジェラルド] 結局、俺は元の名前で……

[ジェラルド] 俺は果たして猟師なのか? それとも……変わらずあの頃の傭兵のままなのか?

[ジェラルド] すまない、エイリーン。今の俺を見ても、お前はきっと眉をひそめるだろうな。

[クレマン] ……夜が明けました。

[クレマン] 昨日から今日にかけて、たくさんのことが起きました。ですが、またたく間にすべてが過ぎ去ったようにも思えます。

[クレマン] いずれにせよ……この夜は本当に長かった。そうは思いませんか?

[フェデリコ] あなたは何をしているのですか?

[クレマン] あなたが気にかけるほどのことでは、フェデリコさん。

[クレマン] 花を探しているんです。ジェラルドを手ぶらのままエイリーンの元へ行かせては、格好がつきませんから。

[クレマン] ですが……昨夜の大火事で全て焼け落ちてしまって、何も残ってはいないようです。

[フェデリコ] 花が欲しいだけなら、わざわざここで探さなくとも良いでしょう。

[クレマン] フェデリコさん、そうじゃないんです。あなたは分かっていない。

[クレマン] ここの花は特別なんですよ。この修道院で育てた特殊な品種の花で……

[フェデリコ] 友情と希望の象徴、ですか。

[クレマン] ええ……友情と希望。かつて司教が私に教えてくださったのです。これはラテラーノとイベリアが手を結んだ証であり、修道院の中で最も大切なものの一つなのだと……

[クレマン] なんと素晴らしいことでしょう……当時の私は、すぐにこの花たちに魅了されました。

[クレマン] あの頃の修道院には、まだあちこちで花々が咲き乱れていました。毎年開花期に鐘楼などの高所から見下ろすと、修道院全体がまるで花で埋め尽くされているかのように思えたものです。

[クレマン] エイリーンはその光景を特に気に入っていました。そしてジェラルドも……

[クレマン] サルカズを恐れ、会話したがらない者たちが大勢いましたが、一度開花期を迎えた後、お互いの関係はぐっと深まったのです。

[クレマン] 皆気づいたのです。残忍で好戦的だと噂に聞いていたサルカズも、花畑を通りかかるとしばし歩みを止めて花を眺めたり、そこに咲く花を少しだけ摘んで、家に持ち帰って飾ったりするのだと。

[クレマン] その姿は、凶悪な命知らずなどにはとても見えませんでした。彼らは我々と何一つ変わらないんです……

[フェデリコ] ……

[フェデリコ] そこに一輪残っています。

[クレマン] え? ああ……聖像の下のあれのことですか?

[クレマン] 幸運にもちょうど倒れてきた聖像の下敷きになったおかげで、あの状態を保てたんでしょうね……

[クレマン] ですが残念ながら、あれは私の求めている花ではありません。

[フェデリコ] なぜですか?

[クレマン] あなたは……あの花を見て分かりませんか?

[クレマン] 聖像の下に隠れて生き延びられたとはいえ、茎は折れていますし、花びらも炎に炙られてしまっていて、全身傷だらけです。

[フェデリコ] ですが、あれはまだそこにあります。

[クレマン] 本当にそうでしょうか?

[クレマン] 雨風に打たれようとも決してくじけず、どんな危険も恐れない……そんなものがどこかに存在すると、私もかつて信じておりました。笑わないでください……本当に心の底からそう信じていたのです。

[クレマン] あの頃も決して楽な暮らしとは言えませんでしたが、何もかもうまくいっているように思えました。

[クレマン] 少し余裕がある時には、ニーナおばさんが子供たちのためにお菓子を作ってあげていたものです。

[クレマン] ハーブピッツェルというお菓子をご存知ですか?

[クレマン] ニーナおばさんがハイマンと共にラテラーノから持ち込んだレシピに倣って、サルカズが栽培したハーブを使って作ったスイーツですよ。皆がとても大好きな、この修道院だけのお菓子なんです。

[クレマン] ニーナおばさんはいつもこうおっしゃっていました。私たち大人が苦しむのは仕方がない。だけど子供たちが「苦い」味しか知らないのはダメなんだと。

[クレマン] 子供たちは「甘さ」がどういうものか知らなくちゃいけないと……

[フェデリコ] ……そのスイーツのことは覚えておきましょう。

[クレマン] ははっ、もうでもいいことです。私たちは甘さなど忘れてしまって久しいのですから……

[クレマン] 今となってはもう、わざわざピッツェルなんてものを作ろうとする人は恐らくいないでしょう。

[クレマン] フェデリコさん、私は時々不思議に思うことがあるのです。

[クレマン] もしサンクタが特別でなかったとしたら……ラテラーノに住む人々が私と同じく、平凡で、普通で、取るに足らない人たちばかりだとしたら……

[クレマン] かの聖都は、今も同じ姿であり続けたでしょうか?

[クレマン] ラテラーノは、ラテラーノのままでいられたのでしょうか?

[フェデリコ] ……分かりません。

[クレマン] 残念です。

[フェデリコ] クレマンさん、あなたは……

[フェデリコ] もう、信じてはいない──いえ、考えを改めたのですか?

[クレマン] 私はただ、現実と向き合わざるを得なかっただけです。

[クレマン] 大抵の物事は皆が考えるほど揺るぎないものではありません。試練によって傷ついてしまう程度のものでしかないのです。

[クレマン] そして一度でも傷つき、異物が混ざれば……たとえそれが目立たぬ小さな傷跡だとしても、それを治すことは……元の姿に戻すことはできなくなります……

[クレマン] フェデリコさん、あなたが見つけたその花のように。

[クレマン] ここにはもう、私が求める花はなくなってしまったようです。

[フェデリコ] ……

[クレマン] そろそろ朝会の時間です。行かなくては。

[クレマン] さようなら、フェデリコさん。

[フェデリコ] ……

フェデリコ・ジアロは一人、明け方の聖堂にいた。

火災の痕跡はある程度片付けられており、聖堂内部は元々置かれていた調度品が失われたことで、より広々と感じられた。辺りにはただ、足音だけが響いている。

フェデリコは公証人役場の優秀な執行人である。執行人を拝命してから今年で六年目になる彼は、とうにこの仕事に習熟していた。

そして今年は、彼の肩書に聖徒の名が加わった年でもある。彼を教え導くことのできる者など誰一人いなかった。

茎を折られ、花弁の炙られたその花を、聖徒が静かに拾い上げる。

聖像の加護を受け、炎に呑まれる運命から免れた唯一の花である。あの大火事の中で生き延びたことはある種の奇跡と言えた。

しかしその場にいるもう一人にとっては、そんな奇跡には何の価値もなかった。

[フェデリコ] 花はまだここにあります。

[フェデリコ] なのに、求める花ではない?

[フェデリコ] 二度と治せない傷跡……

[フェデリコ] 理解できません。

[フェデリコ] ……

[フェデリコ] ラテラーノが、ラテラーノのままでいられるか……?

[フェデリコ] …………

[フェデリコ] 参考となるデータが不足しています。答えは出せません。

執行人フェデリコは、この時ふと気が付いた──

クレマンの表情があまりにも平静すぎたことに。

彼はジェラルドの死についても、他のサルカズたちへの対応についても触れなかった。

では、自分は?

行動を伴わない言葉には何の説得力もない。だから彼が、必ず真相を見つけ出せると口にすることはない。

ジェラルドの最後の願いを必ず叶えると、言葉にすることもない。

フェデリコは、目の前のボロボロの花をじっと見つめていた。

彼には予感があった──

いつの日か、自分が抱く疑問の答えがこの花から得られるだろうという予感が。

[エレンデル] ん──ふわぁ~あ──

[エレンデル] もう朝かぁ……サラ、そろそろ起きなきゃ……

[エレンデル] ん~、むにゃむにゃ、スゥ……

[エスタラ] エレン、エレン! 早く起きて、エレン──

[エスタラ] 起きてってば! ママが、ママが昨日帰って来てたの!

[エレンデル] え!?

[エレンデル] ママが? どこ、どこ!?

[エスタラ] うん、絶対にママのはず! ほらこれ見て──

[エレンデル] わっ! その毛布、ママがくれたやつ? ボロボロだけど……

[エレンデル] でも輪っかのマークがある! それに翼の生えた小人さんもいる……うん、間違いないよ。ママが前にぼくたちにくれるって言ってたやつだ!

[エスタラ] ちょっとボロボロだけど平気だよね。あたしたちはいい子だから、ママのことも分かってあげなきゃ。ママの服だってボロボロなんだし……

[エレンデル] うん、ぼくだってそれは分かってるよ。

[エレンデル] よし、フェデリコお兄ちゃんに会いに行こう!

[エスタラ] 今日もフェデリコお兄ちゃんと一緒に遊べるの……?

[エレンデル] おバカさんだな。ママが昨夜帰って来てたよって、お兄ちゃんに教えに行くんだよ。安心させてあげなきゃ!

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