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空想の花庭_HE-6_夜半の歌声_戦闘前
オレンの指揮の下、ラテラーノ部隊は修道院への突入態勢に入る。この情報は、出立の準備を整えているサルカズたちの元にもすぐに伝わった。
[ジェラルド] 全部調べてきた。屋内に戦闘の形跡はなく、子供たちが起きた様子もない。どっちもぐっすり眠ってる。
[ジェラルド] ハイマンが子供たちを傷つけるはずがない。この点については安心してもらいたい。
[フェデリコ] 現時点では、というだけの話です。
[フェデリコ] 彼女の理性がどれだけ持つかは、私には判断しかねます。
[ジェラルド] ……それでも感謝する。
[ジェラルド] 子供たちが目を覚ましたら、あんたはハイマンの件をどう伝えるつもりだ?
[フェデリコ] 彼らには知る権利があります。
[ジェラルド] 知らない方が幸せなことだってある。
[フェデリコ] それは私に対する助言だと解釈してよろしいですか?
[ジェラルド] いや、フェデリコ……
[ジェラルド] フェデリコと呼んでも構わないよな?
[ジェラルド] あんたはハイマンを見逃してくれたし、子供たちの信頼も得てる。最終決定はあんたに任せる。
[フェデリコ] ……
[ジェラルド] 少し荷が重いか?
[フェデリコ] 重装備は着用していませんが。
[ジェラルド] ふっ、あんた流のユーモアと受け取っておこう。
[ジェラルド] 何を見てるんだ?
[フェデリコ] これが何かご存知ですか?
[ジェラルド] それは……布団に使う布か? 住民の多くはこういった布で冬用の布団をこしらえるんだ。だがこんな模様は初めて見たな。
[フェデリコ] これはラテラーノでよく見かける模様です。
ボロボロの布の下で、双子の安らかな寝息がゆっくり響いている。
執行人はほとんど凝視するようにしばらくそれを見つめた後、簡素な木机に視線を移した。
そこには陶土の花瓶が置かれていた。
瓶の中には、花が入れられている。しなび始めていたが、明るい色をしたそれは、子供たちを除けば、この室内に唯一存在する色鮮やかな物だった。
[ジェラルド] そりゃ……花か? 枯れ始めてるな。ここ二、三日は交換してないみたいだ。
[フェデリコ] これはハイマンさんのご趣味ですか?
[ジェラルド] それは……どうだろうな。
[ジェラルド] 俺について来る奴らのことは、何でも知ってるつもりだったんだが……その俺にもはっきりとは分からんな……
[フェデリコ] ……
[フェデリコ] 直ちに聖堂まで戻る必要があります。
[フェデリコ] サルカズに関する問題についてですが、判断を下すために必要な情報はすでに集まったと考えます。
[ジェラルド] じゃあ、その判断を聞かせてくれ。
[フェデリコ] その前に一つ知っておくべきことがあります──あなたはオレン・アルジオラスと交流がありますか?
[ジェラルド] あのオレン特使のことか?
[フェデリコ] ええ。
[ジェラルド] 来てすぐにいなくなっちまったし、そこまでの会話をした覚えもないな。
[フェデリコ] 了解しました。
[フェデリコ] あなたはジェラルドと名乗っていますが、それは本当の名ではありませんね。
[ジェラルド] ……十年も使ってきた名前を、本当の名前じゃないと言い切れる奴がいるか?
[ジェラルド] 俺たちはここでずっと暮らしてきた。ボロ板を使ってこの地に最初の家を建てたあの日から、俺は荒野の猟師ジェラルドなんだよ。
[フェデリコ] あなたの自己認識は、私には関係ありません。それがジェラルドだとしても、問題ない。
[ジェラルド] だったら──
奇妙な切迫感に駆られ、言葉が口を衝いて出た。
しかしフェデリコは相手に口を挟む余地を与えなかった。
十年もの間、正式に呼ばれなかったその名を、彼は口にした。
[フェデリコ] カズデル内戦の最中に頭角を現した傭兵であり、中庭公証人役場により指名手配中の逃亡犯の一人。計三十二項目の罪状記録を持ち、かつて教皇庁旗下の執行小隊三部隊を壊滅に追いやった張本人……
[フェデリコ] ホルスト・ティフィンデール。
[ジェラルド] ──!
[ジェラルド] 知ってたのか……
[フェデリコ] はい。そして私がその情報を得られたということは、他の方々にも調べがつくということです。
[フェデリコ] これは最後の警告になります──
[フェデリコ] ジェラルドさん、あなたの正体はすでに暴かれています。
[ベテラン特殊部隊員] 前方の建物を確認。目標地点に間違いなし。
[ベテラン特殊部隊員] 俺たちの修道院に住みたがるサルカズがいるなんて、本当かね? 想像もできんが。
[駆け出し特殊部隊員] 早速行動に移りますか?
[ベテラン特殊部隊員] 慌てるな。上官の命令があるまで待つんだ。
[ベテラン特殊部隊員] このまま監視を続けよう。どのみちここら一帯の包囲は完了してるわけだしな。
[ベテラン特殊部隊員] 前にあのサルカズの小隊を捕えた時のように……
[ベテラン特殊部隊員] 相手がサルカズである限り、一人たりとも逃すんじゃないぞ。
[駆け出し特殊部隊員] はっ!
[スプリア] 食べ物を持ってきたの。あんまり見つけられなかったけど、ちょっとだけでも食べたら?
[フォルトゥナ] ごめん、スプリアさん……今は食欲が……
[スプリア] 気にしないで。ここに置いとくよ。そのうち食欲が湧いてくるかもしれないしさ。
[フォルトゥナ] ……
[フォルトゥナ] ありがとう、スプリアさん……
[スプリア] 今度は何のお礼?
[フォルトゥナ] ううん、なんでもないの。ただ……お礼が言いたかっただけ。
[スプリア] 感謝する暇があったら、これ食べてさっさと寝ちゃいなさいよ! そうすれば私の仕事も楽に片付いて、早く帰れるしね。
[フォルトゥナ] そ、そうなの? じゃあ今すぐ寝るね……
[フォルトゥナ] ……
[スプリア] ……
[フォルトゥナ] ……
[フォルトゥナ] ごめん、なんだか寝付けなくて……
[スプリア] でしょうね。
[フォルトゥナ] スプリアさんはずっとここにいて大丈夫なの? その……わざわざ付いててくれなくても、私はもう平気だから……
[スプリア] いい子ね。でも私の仕事はあなたを見張ることだからね。あんまり私をお人よしだと思わない方がいいよ。
[フォルトゥナ] ……安心して。逃げたりしないから。
[スプリア] そんなの分かんないでしょ。おとなしく見える子ほど警戒しなきゃいけないものだよ。
[スプリア] あなた、その額から生えた黒い角が何を意味するか知ってるの? 今の状態でラテラーノへ連れて行かれたら、自分の身に何が起きるのか分かってる?
[フォルトゥナ] それは……分からない。
[スプリア] でしょうね。だって今のあなたは、私に共感することもできないんだもの。
[フォルトゥナ] ……
[スプリア] そんな顔しないの。ちょっと脅かしただけよ。教皇聖下はお優しいお方だから、心配することもないって。
[フォルトゥナ] ううん、心配してるわけじゃないの。
[フォルトゥナ] どんな罰を受けることになったって、それが当然の報いだから……
[フォルトゥナ] 何の音? 外に誰かいるの……?
[スプリア] 外で何が起きてようと、あなたには関係ないよ。
[スプリア] おとなしくここで待っててちょうだい。私が見てくるから。
[スプリア] ……あれ?
[スプリア] 変ね……誰もいない?
[???] ちょっと見ねぇ間に、そんなに隙だらけになっちまうもんかね?
[スプリア] フンッ。相変わらず人をイラつかせる喋り方だね。
[スプリア] ヴィクトリアにいた時、ちゃんと仕事してたのか疑わしくなるよ。ラテラーノの敵を作りまくってただけじゃないの? オレン。
[オレン] そりゃ濡れ衣だ。俺ほど真面目に仕事してた奴は他にいねぇよ。
[オレン] 仕事と言やぁ、お前の方はもう準備できてんだろうな、スプリア?
[スプリア] かもね。
[オレン] 曖昧なのは好きじゃなくてな。はっきり答えてもらうぜ。
[オレン] 予定通り進んでんなら、夜明け前に動くぞ。
[フォルトゥナ] (変だな……まだスプリアさんが戻ってこない。)
[フォルトゥナ] (外も静かになった……)
[フォルトゥナ] (な、何の音?)
[フォルトゥナ] スプリアさん……?
[フォルトゥナ] キャッ……むぐぐ!
[低く抑えた男の声] シッ、声を出すな。
[ライムント] 俺だよ。
[フォルトゥナ] ライムント!?
[ライムント] フォルトゥナ、俺と一緒に来るんだ。
[レミュアン] やっと出て来た。
[フェデリコ] レミュアン、なぜここにいるのですか。
[レミュアン] ちょっとアクシデントが起こっちゃったの。厄介な人に邪魔された上に、その人に逃げられちゃって……はぁ、こうやって口に出すとますます情けなくなってくるわ。
[レミュアン] 近くで物音がしたから様子を見に駆けつけたんだけど……
[レミュアン] 少し意外だったわ、フェデリコ。あなたの口からあんな脅し文句が出てくるだなんて。
[フェデリコ] 脅し文句とは?
[レミュアン] あら? 違うの?
[レミュアン] じゃあさっきの話は一体どういう意味かしら……
[フェデリコ] 実情をお話ししただけです。正しい判断とは、正確な情報を知ったうえで下されるべきものですから。誰かを脅す必要など私にはありません。
[レミュアン] うーん……とりあえずあなたの考えは理解したわ。
[レミュアン] だけど人というのは一番予測しがたい生き物よ。自分自身ですら自分の考えが分からないなんてこともよくあるし、行動と考えが全く一致しないケースだって珍しくないわ……
[レミュアン] 私の経験上、事態は往々にして「最も合理的」な方向には進まないものよ。
[フェデリコ] ……
[レミュアン] この話はひとまず置いといて……どうやら今置かれてる状況は、私が考えていたよりもはるかに複雑らしいわね。
[レミュアン] 情報交換の必要があるわ、フェデリコ。
[レミュアン] つまり私たちが見たあの化け物は、失踪したハイマンっていう名前のサルカズだってこと?
[レミュアン] あなたが目撃した時の彼女の状態と私が見た時とでは、少し差異があるみたいね。もしそうだとすれば……
[フェデリコ] 正常な生理的形態を失い、意思疎通も不可能、理性もなく、食欲を剥き出しにした状態だった彼女が、わずかに理性を取り戻し、さらには言語によるコミュニケーションも可能な状態へと変化した。
[レミュアン] つまり、進化ね。
[フェデリコ] 現時点ではそのように推測しても問題ないでしょう。
[フェデリコ] 彼女の身に何らかの変化が起きたようです。私はイベリア関連の任務にあたる中で、海岸線付近で頻繁に活動を行う教会組織に関する資料を閲覧したことがあります。
[レミュアン] 深海教会のことね。
[レミュアン] よく知っているわね、フェデリコ。前にも任務中に似たような生物を見たことがあるのかしら?
[フェデリコ] ごくわずかですが。
[レミュアン] ないわけじゃないってことね。それなら話が早いわ。
[レミュアン] 向こうの事情が少し気になったから、前に多少調べたことがあるの……あの教会に関しては、今後イベリアの裁判所と協力することになるかもしれないわね。
[レミュアン] 教皇聖下も近頃はこの件で頭を痛めていらっしゃるみたいだけど、まさかこんなところで出くわすなんて……
[フェデリコ] 厄介な問題です。
[レミュアン] ええ、かなり厄介だし、危険だわ……さっき私の邪魔をした人も、もし向こうから退いてくれなかったら、私でも敵わなかったんじゃないかしら。
[レミュアン] 少し頭に来ちゃった……やっぱりもっと早く昔のレベルまで身体を戻さなきゃダメね。そうじゃないとあのニコニコ顔の宣教師さんはおろか、スプリアにだってバカにされちゃうもの。
[レミュアン] そういえばフェデリコ、このことをジェラルドさんに伝えちゃって本当に良かったの?
[フェデリコ] 彼には知る権利があります。
[レミュアン] そう、あなたが決めたことなら異論はないわ。それで、これからどうするの?
[フェデリコ] 一つ調べたいことがあります。
[レミュアン] 何かしら?
[フェデリコ] 炎が自ら燃え出すことはありません。聖堂で起きた火災には不審な点があります。
[フェデリコ] それと、あの花……いえ、まだ確かなことは言えませんが。
[フェデリコ] まずはあの助燃性物質を探し出す必要があります。
[ジェラルド] こんな時間にいきなり起こしてしまってすまないな。
[慎重なサルカズ住民] 大丈夫だ。そもそも寝付けないって奴も結構いたから、ちょっと声掛けただけで飛び起きてきた。
[慎重なサルカズ住民] 皆にはすでに知らせてある。いつでも出発できるぞ、ジェラルド。
[慎重なサルカズ住民] しかし……明日の朝まで待つって話じゃなかったのか? どうして突然心変わりしたんだ?
[慎重なサルカズ住民] あの火事が原因なのか……?
[慎重なサルカズ住民] ジェラルド、あれは絶対にライムントの仕業じゃないってことだけは俺が保証する。だからそこまで慌てなくたって──
[ジェラルド] いや、あいつのことは疑っちゃいない。
[慎重なサルカズ住民] だったら……
[ジェラルド] 想定外の事態が発生したんだ。それについては後で説明する。とにかく明朝までは待っていられなくなった。
[ジェラルド] 前に外の様子を探りに行った奴らからまだ連絡はないのか?
[慎重なサルカズ住民] ああ。かなりキナ臭い感じだな。何かトラブルにでも遭ったんじゃないか?
[慎重なサルカズ住民] どうするジェラルド? 俺が何人か連れて、もう一度行った方がいいか?
[ジェラルド] ……いや、一緒に行動しよう。後で他の奴らにもこう伝えておけ。くれぐれも部隊から離れないようしっかりついてくること。誰一人としてはぐれちゃならんとな。
[ジェラルド] 俺は年長者を連れて前方のルートを探るから、お前とライムントはしんがりを務める。それでいいだろ。
[慎重なサルカズ住民] ……いいわけあるか。あんた、なんか様子が変だぞ。
[慎重なサルカズ住民] 一体何があったんだ? ジェラルド、あんたがそこまで張り詰めてるのはどういうわけだ?
[慎重なサルカズ住民] ……あのラテラーノ人たちのせいか?
[ジェラルド] ……お前に隠し事はできないか。
[ジェラルド] 相変わらず慎重な男だな、リィド。
[慎重なサルカズ住民] よしてくれ。今の俺はそんな名前じゃない。
[ジェラルド] すまん。俺はただ……
ジェラルドはそれ以上言葉を継げなかった。
旧友がなぜ自分の焦りを一目で見抜いたのか、気付いたのだ。腰に忍ばせたナイフへと、無意識に手を伸ばしていたからだ。
今まさに自分は、猟師のジェラルドから、再びあの頃の傭兵へと戻りつつあった。
[ジェラルド] 悪かった。さっきの空気は……俺たちがまだカズデルにいたあの頃とよく似ていたな。
[ジェラルド] 俺の考えすぎかどうかは今はまだ分からん。だが、どうも悪い予感がするんだ。ただの直感だと思ってくれて構わんが、なるべく早くここを離れるべきだと俺は思う。早ければ早いほどいい。
[ジェラルド] そうだ、早ければ早いほどな。お前は準備ができた奴らを連れて先に行け。今すぐ出発だ。
[慎重なサルカズ住民] 前も言ったろ。あんたがボスだ。言ってくれれば俺たちは動くよ。
[慎重なサルカズ住民] ただ一言だけ言っておく。前にあんたが直感を持ち出した時にはこう言ってたな。俺たちなら理想の地を見つけ出し、過去を捨てて平穏な暮らしが送れるはずだと。
[ジェラルド] ……
[ジェラルド] 見つけ出せるさ。俺が約束する。
[慎重なサルカズ住民] あんたを信じてる。
[慎重なサルカズ住民] 前回、俺たちを率いてここを見つけたのは事実だしな。
[ジェラルド] ……このまま何事もなければいいが。
[ジェラルド] すまないエイリーン、今度はお前を連れては行けないようだ。
[ジェラルド] 俺を責めるか?
[ジェラルド] もしお前がまだ生きていて、今の光景を目にしていたら、なんて思うだろうな……
[ジェラルド] ……!
[ジェラルド] 誰だ?
[クレマン] ジェラルド、私です。
[クレマン] 今お時間は大丈夫でしょうか?
[クレマン] とある件について、あなたに伝えておくべきかと思いまして……
[リケーレ] ふぅ、あのご老人、威圧感が半端ないな。
[リケーレ] ったく……ただの任務だったはずが、こんなことになるとは。
[リケーレ] サルカズに、堕天と来て、おまけに今度は狂った司教か。まったく勘弁してほしいぜ……この修道院はどうにも一筋縄じゃいかないみたいだ。
[リケーレ] しかもよりによってフェデリコの奴が一緒とは……うーむ、果たして良かったのやら悪かったのやら。
[リケーレ] 万一のためにも……
[リケーレ] オレン、俺だ。
[リケーレ] すぐに動くつもりなのか? 今そっちに人手は足りてるんだよな?
[リケーレ] あのステファノって司教を調べた方がいいと思う。様子が変だったんだ。もしかしたら危険因子になるかもしれん。
[リケーレ] 直感か、だって?
[リケーレ] そうとも言えるかな……この修道院にはあまり良い印象を抱いてないんだ。いや、違うな。なかなか悪くない場所だからこそ、残念に思えてならないのさ。
[リケーレ] お前は俺より長くここにいて、そういう風には感じないのか?
[リケーレ] だってよ、誰もが懸命に努力してるのに、それでも何の希望もないなんて、そんな場所があるか?
[リケーレ] 本当に胸の痛む話だよ。
[クレマン] ……そんなところです。まさかライムントがまだ知らないとは思わなかったので、デルフィナとフォルトゥナの件を不用意に彼に知らせてしまいました。
[クレマン] かなり動揺していたようでした。正直少し心配です。
[ジェラルド] ……
[クレマン] その……大丈夫でしょうか? ジェラルド?
[ジェラルド] ……平気だ。心配はいらない。
[ジェラルド] あんたのせいじゃないさ。頃合いを見てあいつに伝えられなかった俺の責任だ。
[ジェラルド] ライムントはどうしたんだ?
[クレマン] 私からフォルトゥナのことを聞いた後、フォルトゥナを連れ戻すと話してすぐ飛び出していきました。
[クレマン] あの子の傍には監視役としてラテラーノの使者がいるはずです。本当に大丈夫でしょうか……?
[ジェラルド] ……サンクタがそんな行為を許すはずがない。
[ジェラルド] ライムントはここで生まれ育った奴だが、ここは外とは訳が違う。俺たちとサンクタとの関係がどういうものなのかを、あいつはまだよく分かっちゃいない。
[クレマン] 確かこうおっしゃっていましたね。サンクタとサルカズとの関係は……
[ジェラルド] 最悪だ。
[ジェラルド] 俺たちが本当にただの平民だったら、事態はここまでひどくなっていなかったかもしれんが……
[クレマン] では、ライムントはいま危険な状態なのでは!?
[ジェラルド] あいつを探しに行ってくる。教えてくれて助かったよ。
[クレマン] 私にできることは、これくらいしかありません……
[クレマン] ジェラルド、今や私にも、あなたの判断は正しかったのだと思えてきました。あなたたちは一刻も早くここを離れるべきです。
[クレマン] そう、一刻も早く……それこそが賢い選択なのです。明日まで待つなど、断じてなりません……!
[ジェラルド] ……確かにそう考えてはいるが……
[ジェラルド] クレマン、えらく顔色が悪いな……ひょっとして他にも何かあったのか?
[クレマン] 私は大丈夫です。ただ少し、その……今日は色々ありすぎて、少し気分が優れないだけです……
[クレマン] 行ってください、ジェラルド。あなたの言う通り、我々は今や別々の道を歩み始めています。これ以上ここに留まるべきではない。
[ジェラルド] クレマン、なんだかずいぶん思い詰めているみたいだが、少し冷静に──
[慎重なサルカズ住民] ボス、まずいことになった!
[ジェラルド] 何事だ?
[慎重なサルカズ住民] あんたの言った通り、前に出た奴らとは反対側から出発しようと準備していたんだ。そしたら前方に、修道院方面へ接近中の部隊が現れやがった!
[ジェラルド] なに……? 部隊だって?
[慎重なサルカズ住民] ラテラーノ人どもさ! サンクタもいれば、護衛隊の制服を着てる奴までいやがる!
[慎重なサルカズ住民] 間違いねぇよ! 昔あれだけやり合った野郎どもだからな、忘れるはずがねぇ。
[慎重なサルカズ住民] すぐに囲まれちまうぞ……ハハッ、聞いてんのかよジェラルド? 俺たちもうすぐ包囲されちまうんだ!
[慎重なサルカズ住民] 奴ら端っから、俺たちを見逃すつもりなんてなかったのさ!
[ジェラルド] ……
ジェラルドは何度か手のひらを握りしめた。
数回呼吸した後、彼はようやく気が付いた。自分の指が凍るように冷たかったせいで、ナイフを覆う革が焼けるように熱く感じられたのだと。
[ジェラルド] クレマン。
[クレマン] はい。ジェラルド、これからどうしますか……?
[ジェラルド] 心配するな。
[ジェラルド] ちょっとばかり長く逃げすぎてたんだ。それが今、元の道へと戻っただけ……もうじきすべてに片が付くだろう。
[慎重なサルカズ住民] ボス、どうする? 命令を。
[慎重なサルカズ住民] みんな覚悟はしてきたんだ。いつでもやれる。
[ジェラルド] これまで、お前たちには苦労をかけてきたな。
[慎重なサルカズ住民] 水臭いこと言わないでくれ。
[クレマン] ジェラルド? あなたは一体何を考えているのですか……?
[クレマン] 早まってはいけません。そのナイフを置いてください……!
[ジェラルド] 俺は至って冷静さ、クレマン。
サルカズは深々と息を吐き、ナイフを握る手に力を込めた。すると鞘から白く光る刃がゆっくりと姿を現した。
それはあまりに熱かった
一瞬、ジェラルドは長年の友を掴む力を危うく失いかけた。
[ジェラルド] この十年間で、今日ほど心が落ち着いている日はない。
[ジェラルド] 血を流すことでしか終わらせることができないと言うなら、俺にできることは一つしかない。
[ジェラルド] 心配はいらないさ。サルカズの血が無駄になることはない。
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