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紅炎遣らう落葉_CF-7_心刺す棘_戦闘前
ノイルホーンに救い出された女学者――未来は、今こそがリオレウスを討伐するチャンスだと語る。その頃、自分の怪我の手当を終えたヤトウは、老狩人の救出とリオレウスの問題解決という二択に対して決断を下していた。
[ノイルホーン] はあッ――!
[学者アイルー] ニャッ!?
[学者アイルー] ノイルホーン! あなた、危うくわたしを斬るところでしたニャ!
[ノイルホーン] 悪い、この太刀がまだうまく使えなくてな。
[学者アイルー] ニャ! この洞窟のモンスターたちは、あの洞窟にいたのよりずっと怖いですニャ。
[学者アイルー] それに、体表の源石を見る限り、相当ひどい感染状況ですニャ。落ち着きもありませんし、逃げているようにも見えますニャ。
[学者アイルー] あっ、どうしてこんなことを知っているか気になりますかニャ? それはもちろん、ずっと感染生物の観察を……
[学者アイルー] ニャ~ア! わたしの話ちゃんと聞いてますかニャ?
[ノイルホーン] 今は救助が優先だ! 見に行ってくる!
[ノイルホーン] おーい、この辺はもう安全だぞ! どこにいるんだ?
[???] こっちこっち! こっちに来て!
[ノイルホーン] っていうと……ここか?
[???] そうそう、そこの扉! 何かで塞がれてるでしょ?
[ノイルホーン] ……? いや、何にもねえけど……?
[???] えっ! じゃあどうして開かないんだろ? 色々試したけど全然ダメで……
[ノイルホーン] 下にある取っ手を持ち上げてみるのはどうだ?
[???] ん? ……こう、かな? あっ! 開いた!
[???] な~んだ、こうやって開けたらよかったんだね! 道理で開かないわけだ。あははっ、面白い設計!
[ノイルホーン] こんなことで三日も閉じ込められてたのか?
[???] えへへ……まあ、観測に夢中になってたのも理由の一つかな。とんでもないものを見ちゃったから……
[???] って、あれ? 何かふわふわしたものを踏んでるような……
[ノイルホーン] まあ……そりゃ、オリジムシの死骸を踏んづけてるからな……ところで、あんたの名前は?
[???] うわわ、ごめんね、オリジムシさん……
[???] あっ、自己紹介してなかったね! あたしは滝居未来(たきい・みらい)、生態学者だよ。
[学者アイルー] この人のツノ、ノイルホーンのとは違いますニャ!
[ノイルホーン] へえ、「未来」っていうのか。
[滝居未来] うん。
[ノイルホーン] 俺たちはこの近くで任務に当たってるロドスのオペレーターでな。俺はノイルホーン、こいつは……
[学者アイルー] ニャ! あなた先ほど、学者さんだと仰いましたニャ!
[滝居未来] そうだよ。今はこの辺りで生態の調査をしてるところ。
[学者アイルー] ニャニャ! では、あなたの研究ノートを見せてもらってもいいですかニャ?
[滝居未来] えっ? ……あっ、おちびちゃん、何するつもり?
[学者アイルー] わたしは「おちびちゃん」ではありませんニャ。アイルーという種族の、学者なのですニャ! 見てください、わたしも研究ノートを持っていますニャ!
[滝居未来] わあ、フクラミ草の実が弾ける瞬間を描いたの? あたしこれすっごく好きなんだ! これが弾けるのって、実の中にある液体の圧力に起因してるってことは知ってる?
[学者アイルー] やっぱりそうでしたかニャ! 実が熟成していくうちに、中の粘液がどんどん増えて……
[ノイルホーン] おいおい……あんたを助け出したのは俺なんだから、俺の話も聞いてくれよ。
[滝居未来] あっ、うん。
[ノイルホーン] ……あんた、どうしてこんな場所にいたんだ?
[滝居未来] 環境調査のためだよ。あたし、これでも学者だからさ。
[ノイルホーン] じゃあ、もう一つ聞きたいんだが……
[滝居未来] あ、待って! その前に、すっごいことを教えてあげたいの! あたしが何を見たか、絶対想像もつかないと思うな!
[滝居未来] この坑道の奥に……何がいると思う?
[滝居未来] す~~~っごく大きな、空飛ぶ怪物がいるんだよ!
[ノイルホーン] ……ああ。
[滝居未来] 聞いてた!? 空飛ぶ怪物だよ! しかも火まで噴くんだから!
[ノイルホーン] ……そうか。
[滝居未来] そ、そうかって……わくわくしたりしないの?
[ノイルホーン] そいつなら、リオレウスって呼ばれてる奴だ。俺たちはここに振り落とされた瞬間まで、あいつの背中に乗ってたんだぜ。
[滝居未来] ええ!? そんなあ……
[滝居未来] じゃあ、新種ってわけじゃないんだね。残念……最近ハマってるマンガの登場人物からもらった名前を付けようと思ってたのに……ぬか喜びだったかあ……
[滝居未来] って、待って! そういえば、そこのおちびちゃん……あなたみたいなフェリーン、見たことないかも!
[学者アイルー] ちょ……ちょっと、何のつもりですかニャ! 近すぎですニャ!
[滝居未来] そう言わずに、観察させてよ!
[ノイルホーン] ストップストップ! そんなことより、あんた……リオレウスを見たんだよな?
[滝居未来] うん。じっくり観察もしたよ。鉱床内での行動や、源石環境での変化もきちんと記録したけど、いらなくなっちゃったね。
[学者アイルー] 行動記録と言いましたかニャ?
[ノイルホーン] 源石環境での変化もって、本当にか!
[ノイルホーン] その記録、なんとか見せてもらえねえかな……!? すっごく大事なことなんだ!
[滝居未来] もちろん! それじゃ、ついてきて!
[学者アイルー] ニャ! 食料に水、照明設備まで揃ってますニャ。……えっと、これは何ですかニャ?
[滝居未来] 源石から身を護るための防護設備だよ。
[学者アイルー] ……色々揃ってますニャ。三日もここにいられた理由がわかりましたニャ。
[滝居未来] でしょ? 涼花草味の炭酸水だって持ってきてるんだから。
[学者アイルー] ノイルホーン、見てくださいニャ。ここのハシゴから脱出できそうですニャ。
[ノイルホーン] ここは……源石加工所の出入り口みたいだな。どこでリオレウスを観察してたんだ?
[滝居未来] 洞窟の奥に少し歩いていったら、すぐそこの坑道の中にいたんだ。
[滝居未来] あなたたちが使ったあの天井は村とすごく離れてるけど、逆に鉱床に近いから、リオレウスにとって移動が便利になっているわけ。
[ノイルホーン] あんた……この場所には詳しいのか?
[滝居未来] まあ、一応ね。
[滝居未来] そうだ。これ、あなたに渡しておこうかな。
[ノイルホーン] それは?
[滝居未来] あなたたち、リオレウスに連れてこられちゃったんでしょ? ほかに仲間がいないわけじゃなくて、はぐれただけなんだったら……はい、使って。
[滝居未来] 発煙筒だよ。あそこのダクトを使って外に煙を出せば、気付いてもらえるかもしれないでしょ。
[ノイルホーン] 確かに。ありがとうな。
[滝居未来] どういたしまして。それと、データは全部ここにまとまってるから……ちょっと字は汚いけど、見せながら説明してあげるね。
[滝居未来] リオレウスは四日前、この鉱床に来たの。あの時はちょうど、作業員たちがシフト交代中だったんだけど、みんなリオレウスの姿に怖がって逃げ出しちゃってね。
[滝居未来] その時リオレウスの噴いた火が、爆発を引き起こして……坑道の一部が崩れちゃったから、通路を封鎖したってわけ。
[ノイルホーン] なるほど……活性源石の粉塵が舞ってた原因はそれか。
[滝居未来] うん。それに、リオレウスの状態もあんまり良くないんだ……大量の活性源石の影響を受けて、食事もろくに取れていないし、それもあって怒りっぽくなっているみたいでね。
[滝居未来] リオレウスの周りには大量の源石粉塵が漂ってるけど……それが炎のブレスと合わさって、凄まじい破壊力を引き出してるんだ。……幸い鉱床でひどく暴れることはなかったけどね。
[学者アイルー] ニャニャ! きっと、リオレウスの炎の威力が突然上がった原因はそれですニャ!
[滝居未来] あれ? そういえば、あなたたちは鉱床の外でリオレウスに遭遇したんだよね?
[ノイルホーン] ああ。それも一度だけじゃなくてな……だから、リオレウスの状況確認と対処をしにきたのさ。あいつが動き回るせいで、源石粉塵が村に広がっちまってるしよ。
[滝居未来] 一つ言っておくけど、リオレウスのもたらす問題を完全に解決したいのなら、今のうちだと思うよ。
[ノイルホーン] なに?
[滝居未来] 今のリオレウスはすごく弱ってるんだ。回復力自体はかなり高そうだけど、元気になるまでにはそれなりに時間が必要だろうし……その上この鉱床は過剰採掘で崩れやすくなってるから……
[滝居未来] 脆くなってる場所をいくつか爆破すれば、鉱床全体を崩落させることだってできる。これって使えるんじゃないかな?
[ノイルホーン] そうは言っても、リオレウスがあちこちで火を噴いたらどうするつもりだ? 鉱床中の源石が活性化させられちまったら、大変なことになるぞ。
[滝居未来] それはそうだけど……信じてほしいの。この方法なら、リオレウスは火を噴く間もなく大量の土石流に飲み込まれるはずだよ。
[滝居未来] だけど、そうするにも人手が足りないんだよね。もう一人手伝ってくれる人がいないと、あたしが目印をつけておいた場所すべてに、同時に人を配置するなんてできないし。
[学者アイルー] ヤトウが来れば、できるかもしれませんニャ。
[滝居未来] そのヤトウっていうのは、あなたたちの仲間?
[学者アイルー] はい。凄くまじめな人で、頼りになるんですニャ! それにわたしのようなアイルーも、あと二匹いますニャ。
[滝居未来] それなら頭数が足りるかな。でも……
[ノイルホーン] でも?
[滝居未来] リオレウスについては、まだ少し気になるところがあるんだ。あなたたちの判断にも影響するようなものかもしれないの。
[滝居未来] あたしの記録を見てもらえばわかるはずだよ。237ページの右下のほうに書いてあるから。
[滝居未来] ここ……リオレウスの身体から落ちてきたものを調査した結果、鉱石病に感染してはいないことが判明したの。だから、あの変化は感染によって起きたことじゃないんだ。
[学者アイルー] 感染してないんですかニャ? では、食事を取れない原因は……?
[滝居未来] 源石に原因があると思う。でも感染状態ではないことは確かだよ。ただ、ほかにも不思議なことがあって……源石がやたらいっぱいリオレウスの身体に付着してて、結晶までできちゃってるんだよね。
[ノイルホーン] 待てよ……感染してねえなら、源石は身体から生えてるわけじゃなくて、くっついてるだけなんだよな? だったらいつかは剥がれるかもしれねえし、感染拡散に繋がらない可能性もある、か?
[滝居未来] 理論上はそうだけど、確かなことは言えないね。それに……
[滝居未来] リオレウスの源石に対する行動も変なんだ。あたしのよく知る生物の行動とは違って、何て言うか……説明しにくいんだけど。
[滝居未来] ひとまず、自分の目で見てもらったほうが良いと思うな。
[学者アイルー] ニャ! すぐに出発しましょうニャ! 変わったツノの学者さん、わたしたちを連れて行ってくれますかニャ?
[ノイルホーン] いや、待った……
[学者アイルー] あっ、確かにまだ脱出したばかりですし、疲れてますかニャ?
[滝居未来] あたしは大丈夫だよ。
[ノイルホーン] や、そうじゃなくてな……
[ノイルホーン] 通信機が――反応したんだ。
[滝居未来] ここの信号増幅器の影響を受けたのかもしれないね。
[学者アイルー] なら、ヤトウと連絡が取れますニャ? 早くこっちの状況を教えてあげましょうニャ。
[ノイルホーン] ちょっと待ってくれ。
[ノイルホーン] まずは大事なことをはっきりさせないと……あんたについてな、滝居さん。
[滝居未来] え、あたし?
[ノイルホーン] あんたはリオレウスが来る前に、物資を十分持って、たった一人で鉱床までやってきたんだろう?
[ノイルホーン] ここの状況にやたら詳しいようだが、採掘作業には参加してなかったはずだ。作業者だったら、あんなふうに閉じ込められずに済んでただろうからな。
[ノイルホーン] しかも、俺が見る限り、あの村人たちは外の学者が自由に鉱床を調査することなんか許すはずがねえ。
[ノイルホーン] だから、あんたの正体には怪しいところがある。
[ノイルホーン] それに、あんたの名字……露華村の村長と同じだよな。
[ノイルホーン] あんたが村長の関係者なら、どうして俺たちに鉱床をぶっ壊す方法なんかをほいほい教えてくれた上に、リオレウス探しまで手伝ってくれるんだ?
[ノイルホーン] 滝居未来、あんたの目的を教えてくれ。
[滝居未来] はいはい、わかったよ。元々隠すつもりなんてないし、遅かれ早かれバレちゃうだろうしね。
[学者アイルー] ニャ!? 本当にわたしたちを騙したんですかニャ? ということは生態学者じゃないんですニャ……一体、何者ですかニャ!?
[滝居未来] いやいや、生態学者っていうのはほんとだよ! 身分証もあるし!
[滝居未来] ただ、言ってなかったことがあるのも確かなんだ。……一つは、滝居應があたしの叔父さんだってこと。それともう一つは、あたしがこの鉱床に入ったのは誰にも知られてないってことだね。
[滝居未来] あ、それに……あなたがロドスの人だと知ってたこともかな。源石粉塵の拡散に叔父さんが焦ってきたら、あなたたちに連絡できるようにと思って、ロドスの連絡先を残しておいたのはあたしだから。
[ノイルホーン] あんたが俺たちの連絡先を? そりゃまたどうして?
[滝居未来] あたしの目的はこの鉱床を閉鎖することなんだけど、一人じゃみんなを説得できなくてね。
[滝居未来] 本当は、自分であなたたちを呼ぶつもりだったんだ。
[滝居未来] 鉱床の奥を見せれば、村人たちを無理にでもここから離れさせてくれるはずだと思ったから。でも、その前に通信機を村の人たちに取り上げられちゃってさ……
[滝居未来] それで、ここを徹底的に壊すためのチャンスを求めて、一人で忍び込んだわけ。
[ノイルホーン] 俺たちなら村人を避難させられるって考えたのはどうしてだ? 採掘を止めさせない可能性もあったじゃねえか。それに……そこまでして鉱床を壊したがる理由は?
[滝居未来] このまま露華村の採掘状況を放っておけば……間違いなく、もうじき天災が来るからだよ。
[ノイルホーン] 何……!? もうじきってそりゃいつだ!?
[滝居未来] 今のところ、この辺の環境に異常が発生しているだけの段階だし、正確にいつとまでは言い切れないんだよね。
[ノイルホーン] じゃあ、崖にあった木にあんたの名前が刻まれてたのは、その調査をしてたからってことか?
[滝居未来] うん。あそこに行ったなら、方向がわからなくなる現象に出くわしたと思うけど……あれは、異常な力場が発生しているせいなんだ。
[滝居未来] まずいことに、ああいう異常現象はどんどん増えてきてて……
[滝居未来] その上、ここに来たあのリオレウスっていう怪物も不安要素になってきてるんだよね。あたしはあれが巣穴で火を噴くところは見てないけど、脅威だってことに変わりはないし。
[滝居未来] とはいえ、あたしの計画通りにこの鉱床を崩しちゃえば、問題は全部解決できると思うよ。
[ノイルホーン] そうは言うが……そもそも、この鉱床が天災を引き起こすってのはどうしてなんだ?
[滝居未来] それは……見てもらえたらわかると思うよ。
[鍛冶屋アイルー] あれ、ヤトウ! 血が出てるニャ!
[ヤトウ] ッ、ああ……砕けた石が刺さっているようだ。恐らく、リオレウスの尻尾回転で吹き飛ばされたあの時からだろうな……しかし、気付かなかったのが不思議なくらいだ。
[ヤトウ] 太ももの内側から……これはどこまで刺さっているんだ? 深さはわからないが、まずは石を取り除くしかないな。
[ヤトウ] 何か使えそうな薬は持ってないか?
[鍛冶屋アイルー] これは……
[鍛冶屋アイルー] 使えないニャ。これもだめだニャ。
[ヤトウ] いや、ないならいい。縄代わりに使える素材はどうだ?
[鍛冶屋アイルー] あるニャ! この草を束ねて、まとめて、編み込めば……これで使えるニャ!
[ヤトウ] 強度は……足りそうだな。
[ヤトウ] 燃やせるものは持ってるか?
[鍛冶屋アイルー] さっき拾ったニャ!
[ヤトウ] よし、だったら……それに、火をつけてくれ。
[ヤトウ] 火がついたら、この短刀を綺麗に拭いて、火の上に置くんだ。できるか?
[鍛冶屋アイルー] わかったニャ……
[ヤトウ] ふぅ……
[ヤトウ] これは、第四回目の音声記録だ。記録者は変わらず、ロドス行動隊A4隊長、ヤトウ。
[ヤトウ] 先のリオレウスとの戦いで、不慮の事態によりノイルホーンと別れてしまった。それでも、主要な任務は変わらずリオレウスを追跡することだが……私の負傷により、一時的な停滞状態に陥っている。
[ヤトウ] 今回の任務は、予期せぬ困難が多く発生し、進捗も滞り気味だ。
[ヤトウ] ……だが私は、この任務を完遂できると信じている。たとえ代償を払うことになったとしてもな。
[ヤトウ] ――只今より、戦闘中に負った傷の応急処置を行う。任務後に手当の流れを振り返るため、録音記録を残しておく……
[ヤトウ] (深呼吸)
[ヤトウ] まずは、身体に刺さった石を取り除く。
[ヤトウ] ぐ、ぅっ――!
[鍛冶屋アイルー] 血が! 血が出てるニャ!
[ヤトウ] っ……ふぅ……
[ヤトウ] 次に……縄で締めて、止血を……
[ヤトウ] うっ、ああ……!
[ヤトウ] はぁっ、はあ……傷は……骨が見えるほど深いようだが、幸い動脈には至っていないな……
[ヤトウ] ……傷口の……汚れを落として……
[ヤトウ] すぅ、はぁ……
[ヤトウ] よし……できた。……このあとの行動に支障が出ないよう、活動能力を維持する必要がある。
[ヤトウ] 薬と包帯が不足しているので……
[ヤトウ] ――どうだ、できたか?
[鍛冶屋アイルー] できたニャ。
[ヤトウ] ありがとう。――傷口は、焼いて塞ぐ。今回の音声記録は以上だ。
[ヤトウ] 短刀をくれ。
[ヤトウ] (深呼吸)
[ヤトウ] (短刀を傷口に当てる)
[ヤトウ] ぐあっ……う、ぐっ……!!
[ヤトウ] ああっ……!
[鍛冶屋アイルー] ニャ! ヤトウ!
[ヤトウ] ……大丈夫……もう大丈夫だ。
[ヤトウ] これで……血も、ちゃんと止まった。
[鍛冶屋アイルー] あっ、向こう見てニャ!
[ヤトウ] あれは……信号煙? オトモが教えてくれた方向と同じようだし……ノイルホーンたちか? であれば、リオレウスの居所に到着したのかもしれないな。無事ならよかった……
[ヤトウ] しかし……もうすぐ夜が明けるはずなのに、なぜまだこんなにも暗いんだろうか? あの黒い雲は――ん?
[ヤトウ] 何の音だ?
[鍛冶屋アイルー] 森からだニャ! 地響きがしてるニャ!
[ヤトウ] これは……獣の群れか!
[鍛冶屋アイルー] 見て、向こうだニャ!
[ヤトウ] 森の獣たちが暴れ出している……!
[ヤトウ] こんな数の獣が一斉に現れるなんて……何かを感じ取ったのか?
[???] 助けて! 助けてください!
[ヤトウ] っ、誰かの声が! 今行くぞ!
[焦慮する村人] クソッ! この獣ども、どっから湧いて出たんだ!
[臆病な村人] 村長の命令とはいえ、今森に入ったら危ないって言ったのに……外の人のために身体を張ることになるなんて……だ、誰か! 誰か助けてください!
[焦慮する村人] 叫んでも無駄だ! こんなところ、誰もいるわけない! 何とかして凌ぐしかないだろ!
[ヤトウ] ……村の人か? なぜここに?
[臆病な村人] ほ、ほら! 叫んでよかったでしょ!
[ヤトウ] 私についてきてくれ。森の外まで送ろう。
[焦慮する村人] それじゃ、あっちの方角に連れてってくれないか? 向こうなら、獣から逃れられるところまで行けるはずだ。
[ヤトウ] ああ、わかった。
[ヤトウ] この辺りだな。ここならまだ、獣も来ていないようだ。
[臆病な村人] ……あら? 落ち着いて見たら、あなたたち……
[臆病な村人] ねえ、ほら、あの人たちよ! 村長から探してほしいって頼まれてた外の人! やっぱりまだ生きてたのね!
[ヤトウ] 村長が……私たちを探しているのか?
[焦慮する村人] ああ。しかし、ロドスの人は本当に強いんだな……道理で、未来が連絡先を残しといてくれたわけだ。
[焦慮する村人] ええと、俺らは村長から、あんたたちがあの崩れた洞窟に閉じ込められてないか見てこいって頼まれてな。それで、もし見つけたら……
[焦慮する村人] あんたたちを連れて山を下りて、村から遠ざけるようにって言われてたのさ。
[ヤトウ] それはなぜだ?
[臆病な村人] しゃ、喋ってる場合じゃないでしょう! 獣がこっちに来てるわ!
[ヤトウ] また数が増えたな。このままではまずい……
[ヤトウ] くそっ、私のせいだ。オトモに追跡してもらったとはいえ、柏生さんを一人にしてしまったし、こうなると……
[ヤトウ] ……二人とも、自分たちだけで安全な場所まで逃げられそうか?
[焦慮する村人] ここからなら大丈夫だと思うよ。
[ヤトウ] わかった。……悪いが、これ以上あなたたちを護衛できそうになくてな。どうか気をつけて退避してほしい。それと、村に戻り次第、村人全員に早く村を離れるよう伝えてもらえると助かる!
[焦慮する村人] ああ! その……ありがとうな!
[ヤトウ] よし……柏生さんを助けに行くぞ。
[鍛冶屋アイルー] ノイルホーンはどうするのニャ?
[ヤトウ] ……確かに、ノイルホーンたちはまだリオレウスのところにいる。こちらの計画を伝えるべきだが、今は探している時間が――
[通信機] ピーッ、ピーッ……
[鍛冶屋アイルー] ニャ! 通信機が鳴ってるニャ!
[ヤトウ] ノイルホーンからだ! 通信が回復したんだな!
[ノイルホーン] ヤトウ、聞こえるか?
[ヤトウ] ああ。信号煙を見たが、あれはお前たちか?
[ノイルホーン] おう、ちゃんと見えてたか。俺は学者先生といるんだが、今のところ無事だぜ。お前のほうはどうだ?
[ヤトウ] ああ、私のほうも異常は……特にない。
[ヤトウ] それより、外の状況はわかるか?
[ノイルホーン] 天災の予兆があるんだろう?
[ヤトウ] ああ。すでにいくつか異常現象が起こりつつある。現状を見るに、村の人々を避難させるだけの時間はありそうだが……森の獣たちはすでに暴れ始めていてな。
[ヤトウ] この先の行動方針について、お前に伝えておく。
[ヤトウ] ……私は大きなミスをした。少し前、柏生さんと言い争いになり、彼はどこかに行ってしまったんだ。
[ヤトウ] 今の状況では、柏生さんが危険にさらされてしまう。だから私は……お前たちと合流する前に、彼を助けに行く。
[ヤトウ] リオレウスの脅威に関しては、現状解決策が掴めないが……柏生さんに迫る危険は確かなものだからな。
[ヤトウ] こんなことになったのは私のせいだし、彼を放っておくわけにはいかない。
[ノイルホーン] 了解。ただ、俺からも伝えとかねえといけないことがあってな。
[ヤトウ] ……何だ?
[ノイルホーン] 俺たちは今、リオレウスがいる場所の真上にいるんだ。そして、ここはやっぱり村の中の洞窟と繋がってる……
[ノイルホーン] ここは源石鉱床で、リオレウスはここから活性源石を広げちまってるみたいなんだ。
[ヤトウ] 鉱床か……なるほど。
[ノイルホーン] それと……リオレウスの問題を完全に解決する方法も見つけたぜ。
[ヤトウ] 方法というのは……?
[ノイルホーン] 鉱床をまるごと崩壊させることで、リオレウスを倒す。リオレウス自体の脅威も、鉱石病の拡散も一気に解決するんだ。これなら後顧の憂いなくみんなを退避させられる。
[ヤトウ] 本当に可能なのか?
[ノイルホーン] ああ。この鉱床に詳しい研究者からの提案だからな。……だが、そうするにも俺と学者先生だけじゃ手が足りない。お前の助けが必要なんだ。
[ノイルホーン] このチャンスを逃したら、何か異変が起きたっておかしくない。最悪の場合、これまでにないレベルの危険に直面する可能性だってある。……お前の判断を聞かせてくれ。
[ヤトウ] ……わかった。
[ノイルホーン] ヤトウ……
[ヤトウ] やれやれ……難問だな。
[ノイルホーン] ……じゃあ、もう一言だけ言わせてくれ。
[ノイルホーン] いつか下した決断を覚えてるか? 俺たちはあの時にもう、自分の道を選んでるんだぜ。
[ヤトウ] ……
[ヤトウ] ……あぁ……覚えてるさ。できないとは言ってないだろう。
[ヤトウ] あの日の決断に変わりはない。――そちらのことはなんとか抑えておいてくれ。私は柏生さんを探しにいく。
[ヤトウ] 彼のことは、私が絶対に守ってみせる。
[ヤトウ] 私が必ず、皆を救う。リオレウスには、誰も傷つけさせはしない。
[ノイルホーン] よし、わかった! お前も気をつけろよ。
[ヤトウ] そちらもな。
[柏生義稜] 死ね! 死んでくれ!
[柏生義稜] さっさと……消えろ!
[柏生義稜] バカな小僧め……! なぜだ、一体なぜ……
[柏生明] 止めるな、親父。
[柏生義稜] この能なしが……!
[柏生義稜] お前らは……狩人の癖に森の掟すら守らずに、森から安息を奪い、森を騒がせて、それに驚いた獣どもが畑を踏み荒らすのを好きにのさばらせやがった!
[柏生義稜] これはあの連中からの報復なんだぞ!
[柏生明] だけど、あの人たちは採掘用の道具しか持ってないし、あんな獣に敵うわけない。
[柏生明] だから、俺が……森に入らなきゃなんないだろ。みんなが獣災に襲われるのを黙って見てなんかいられない。
[柏生義稜] お前も源石の採掘には反対してただろう? ちょうどいい機会じゃないか!
[柏生義稜] 森にいる奴らなんぞ、自業自得だ! 獣に食われてしまえばいい!
[柏生明] 親父……俺はこの村の狩人だから、こんな時動かないわけにはいかないんだよ。
[柏生義稜] バカ野郎、なんでわからないんだ! このクソガキが!
[柏生義稜] どうしても出て行くと言うなら、お前の足を叩き折ってやる!
[柏生明] ……結局あの時、あんたは俺を止められなかったじゃないか。
[柏生明] だから俺はあんな死に方をしたんだぞ。
[柏生義稜] ああ……そうだ、俺のせいだ。
[柏生義稜] 俺のせいでお前は死んだ……俺は、父親失格だ。
[柏生明] あんたは自分の無能さを恥じるべきだ。
[柏生明] そして償うべきなんだ。己の罪をな。
[柏生義稜] そう……そうだ、償うべきだ。……お前のために、獣どもを皆殺しにしてやる。これは復讐だ……!
[柏生義稜] 特にあの、でかくて邪悪な狂った怪物……火を噴くあいつは、生かしちゃおけん……!
[柏生義稜] ……だってのに、俺はもう何一つできそうもない……
[柏生義稜] この腕は矛を持ち上げられもしないほどに弱り、この目は奴らが襲いくるのを見るしかできないほどに濁った。
[柏生明] だったら、死ぬしかないな。
[柏生義稜] ああ……死ぬしかない。それしかできない。
[柏生義稜] だが、あと一頭だけ……もう一頭だけ仕留めてみせる。
[柏生義稜] そうすれば……お前に会いに行けるだろう。
矛を振ろうとしてみても――
腕には力が入らず、矛は勢いのまま地面に落ちた。
拾おうとは思わない。そうする意味も失った。
獣は牙を剥き、逃げ場をなくした獲物を引き裂こうとしていた。
[柏生義稜] ッ、どういうことだ……? 攻撃を……止めたのか? あの鱗のついた獣……見覚えがないぞ……
[柏生義稜] 今のところは、獣同士でやり合ってるが……
[柏生義稜] 俺は……こいつらに殺されるのか……
[オトモアイルー] ヤトウ殿、よくお考えになられよニャ。この状況では、ひとたび入れば出られぬやもしれぬニャ。
[柏生義稜] ……誰だ……?
[ヤトウ] 中に入る方法を教えてくれるだけでいい。切り込むしかないなら、このまま行く。
[柏生義稜] 声が……聞こえるような……
[ヤトウ] 死ぬにはまだ早いぞ、柏生さん。
[柏生義稜] ……!
[柏生義稜] 小娘、なぜここに来た?
[ヤトウ] あなたを助けるためだ。
[柏生義稜] 来るな、俺なんかを助けてどうする!
[ヤトウ] バカなことを言うな!
[ヤトウ] リオレウスを討伐すると言い張っていたのはあなただろう!? それなのに、こんな名もない獣の牙にかかって死にきれるのか!?
[ヤトウ] この状況を見ろ! 狂った獣たちが今にも山を下りようとしているんだぞ! そうなれば真っ先に襲われるのはあの村だ!
[ヤトウ] よく知る人々が逃げ惑い、はぐれた子供が命を落とす――そんな惨劇が起こっていいと言うのか!
[ヤトウ] 柏生さん。あなたは露華村唯一の狩人なんだろう。だったら、あなただけは諦めてはいけない。
[ヤトウ] ましてや、ここで後悔に苛まれるだけなんてもってのほかだ。あなたは自分の命を捨てていいような立場ではないんだぞ!
[ヤトウ] 今一度、その矛をしっかりと握り直して、執着を捨て去るんだ。狩人として何をすべきかをよく考えてくれ!
[ヤトウ] 獣の牙から己の故郷を守り抜き、命尽きるまで生きる希望を燃やし続ける……それが狩人の為すべきことじゃないのか!
[ヤトウ] 皆が生き残るためには代償を負う者が必要なんだ。……狩人も私たちも、そういう道を選んだ人間だろう。
[ヤトウ] ならば立て!
[柏生義稜] 明……
[柏生義稜] お前もこんなことを言ってたな……あのとき、俺はお前を止められなかった……
[柏生明] ああ。必ず奴らに打ち勝ってやる、と言ったな。
[柏生義稜] ……お前にはできたのか?
[柏生明] やり遂げたさ、父さん。
[柏生義稜] ……明……
[柏生義稜] ……お前の矛は手に馴染む。しっかり握っておかないとな。
[柏生義稜] そら、さっさと消えろ。……二度と俺の前に出てくるなよ。
[柏生義稜] 俺も奴らに打ち勝ってやる。
[柏生義稜] ――それにしても、まったく……やかましい小娘だな。
[柏生義稜] 普段は口数が少ないくせに、一度しゃべり出すと裂獣よりも鋭いことを言う……
[ヤトウ] 話す余力があるなら急いでくれ。後ろは頼んだぞ。
[柏生義稜] 若造の指揮なんざいらん。……自分の心配だけしてろ。
[オトモアイルー] 先ほどの話を聞いておったら、ワシがまだココット村にいた時のことを思い出すニャ。
[オトモアイルー] まだハンターが村にいなかった頃……皆の前に立ち、村を守るべくモンスターたちを討伐していたのは村長だったのニャ。その勇敢な姿から、かの人は「英雄」と呼ばれるように……
[オトモアイルー] ニャ! 首根っこを掴んで持ち上げるのはご勘弁願いたいニャ!
[ヤトウ] 右側はお前に頼みたいと思ってな。
[オトモアイルー] ヤトウ殿……伝授した技はきちんと覚えておるかニャ?
[ヤトウ] いくらかイメージトレーニングはしておいた。
[オトモアイルー] ならば、今から言うことを心に刻むのだニャ! ――荒れ狂うモンスターの如く、守りを捨てて立ち向かうのニャ。これぞ、双剣の極意なり……ニャ。
[オトモアイルー] ワシらはその状態を「鬼人化」と呼んでいるのニャ。
[ヤトウ] 「鬼人化」か……
[ヤトウ] よし。行くぞ、二人とも。
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