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シラクザーノ_IS-7_忘れえぬ記憶_戦闘前
観客は四方へ逃げ去り、殺し屋たちの戦場もほかの場所へと移り――誰もが、あの過去を思い出す。
[エクシア] ソラ、大丈夫!?
[ソラ] うん、なんともないよ。
[エクシア] よかった。……テキサスのとこ、行きたい?
[ソラ] ……さっき会った時、待ってろって言われたの。
[クロワッサン] せやったらまずは避難やな。どこもかしこもめちゃくちゃやし……
[ラップランド] テキサスを失いたくないなら、追いかけたほうがいいと思うよ。
[ソラ] ラップランド……
[クロワッサン] ……
[エクシア] ラップランドもそれと同じじゃない?
[エクシア] ああいう人たちが何考えてるのかを推測するより、いっそ言葉をそのまま受け止めてあげたほうがいいのかも、って。
[エクシア] とりあえず言ってることをまるっと信じてあげてこそ、最終的にその中に混ざった嘘を見抜けるようになるんだと思うよ。
[クロワッサン] 追いかけたほうがって……理由は?
[ラップランド] あの部屋に誰がいるかくらい知ってるでしょ。
[ソラ] ジョヴァンナ・ロッサティ……
[ラップランド] この大地に、テキサスをシラクーザに戻らせることができる人がいるとすれば――
[ラップランド] それはボクでも、ベルナルドでも、ミズ・シチリアでもない。
[ラップランド] ジョヴァンナこそがその人なんだよ。
[ジョヴァンナ] あなた、随分背が伸びたわね。
[テキサス] 当然だろう。もう何年も経ったんだ。
[ジョヴァンナ] そういえば、龍門から来たあなたの友達に会ったわよ。あなたの話を少し聞いたけど、心配してたみたい。
[テキサス] ……三人が来たのは予想外だった。
[ジョヴァンナ] あの人たち、あなたとは全然違うタイプよね。ああいう明るい友達ができてたなんて意外だわ。
[テキサス] お前も似たようなタイプだろう。
[ジョヴァンナ] 本気で私を友達と思ってくれてたら、こんなに長い間手紙の一つも寄こさないはずないでしょう。
[テキサス] ……
[ジョヴァンナ] まあいいわ、きっと何か事情があるんだろうし。
[テキサス] お前のほうは?
[ジョヴァンナ] 私?
[ジョヴァンナ] ……語るほどのことはないわ。
[ジョヴァンナ] あの粛清はあまりに急なことだったから、クルビアのマフィア全員が危険に晒された。私はそれを見過ごせなくて、立ち上がってその局面を取り仕切ったの。
[ジョヴァンナ] そのあとはミズ・シチリアと接触して、何とか事態を収束させたってところね。
[ジョヴァンナ] 話すとしたらそれくらいよ。
[テキサス] 事もなげに言うんだな。
[ジョヴァンナ] ……言われてみれば、文句の一つも言えばよかったかしら。
[ジョヴァンナ] でも、そんなものぶつける相手はもうずっといなかったから。
[テキサス] それで自分の思いを脚本にぶつけたわけか。
[ジョヴァンナ] ふふっ、わかっちゃった? 『テキサスの死』は会心の出来なの。
[テキサス] お前しか知り得ないような話も盛り込まれていたしな。
[ジョヴァンナ] なら、私の記憶力も捨てたものじゃなさそうね。
[ジョヴァンナ] でも、第三幕で描くあなたの「死」については、まだいいアイデアが湧いてこないのよ。
[ジョヴァンナ] 見たところ、もう考える必要はないみたいだけど。
[テキサス] フッ。
[ジョヴァンナ] 実は、脚本を書いてた目的はもう一つあったの。ベルナルドがファミリーを息子に任せて、自分はデッラルバ劇団で芸術監督をやっていたことは公然の秘密だったから――
[ジョヴァンナ] 彼と接触するチャンスがほしいと思ってね。知っての通り、こんなことをしてるマフィアは多くないし。
[ジョヴァンナ] だけど、その彼がこんなことをやってのけるとはね。
[ジョヴァンナ] 一代でベッローネをここまで大きくしただけのことはあるわ。
[ジョヴァンナ] あの人は本気でミズ・シチリアとやり合うつもりなんでしょうね。
[テキサス] その割に、お前は緊張していないようだな。
[ジョヴァンナ] ベルナルドがあなたをロッサティへの切り札と考えているなら、残念だけど目論見違いだもの。
[ジョヴァンナ] あなたが私のところへ来たのは正しかったわね。
[ジョヴァンナ] ベッローネとの間にどういう問題があるにせよ、私はそれを解決してみせるわ。
[ジョヴァンナ] だから私につきなさい。
[ジョヴァンナ] 二人でなら、シラクーザで地位を築いていくこともできる。
[ジョヴァンナ] これはあなたがサルヴァトーレの孫娘だからではなくて――
[ジョヴァンナ] あなた自身にその力があると私が知っているからこそなのよ。
[ジョヴァンナ] 一緒にやり直しましょう、チェリーニア。
[テキサス] ……
[テキサス] 私がどう生き延びたか、気になっているだろう。
[テキサス] あの粛清は偶然で生き延びられるようなものではなかったんだ。
[ラップランド] このオペラを舞台上で演じた今……キミは七年前のことをどれくらい理解してるのかな?
[ソラ] 七年前……テキサスさんのお父さんであるジュセッペが、自分の父――サルヴァトーレを殺して、テキサスファミリーはシラクーザの支配下を脱すると宣言した。
[ソラ] そしてそれはミズ・シチリアの怒りを買い、彼女は十二家の精鋭たちをクルビアへと送り、粛清を行わせるに至った……
[ソラ] あなたは、当時の精鋭の一人だったんでしょう?
[ラップランド] 察しがいいね。
[ラップランド] 当時、チェリーニア・テキサスの名はまばゆいばかりだったんだ。シラクーザ人はこぞってあの子を称賛してたよ。テキサスがクルビア出身であるにもかかわらず、ね。
[ソラ] あなたはずっと……テキサスさんに勝ちたかった、ってこと?
[ラップランド] あれ、そう聞こえた?
[ラップランド] でも、全然違うよ。
[ラップランド] あの子がサルッツォにいた頃、ボクたちは数えきれないくらい手合わせをしてたんだ。
[ラップランド] その時は勝つこともあれば負けることもあった。
[ラップランド] 確かに、テキサスに勝ちたいとは思ってるけど、そのあと起きたことのカギはそこにはないよ。
[ソラ] だったら……
[ラップランド] キミはあの子をすっごく気にかけてるよね。
[ラップランド] ただ、残念だけどそれもこの物語のカギにはならないんだ。
[ソラ] それなら、せめて教えて。その日、何が起きたのか……
[ラップランド] あの時、ボクは粛清に参加した。
[ラップランド] ファミリーのためにあの子がボクと殺し合う、そんな刺激的なシーンをいくつも想像してね。
[ラップランド] それでも、あの日の一幕はボクの想像を超えるものだった。
[ラヴィニア] ……あなたも殺し屋だったのね、ダンブラウンさん。
[洗車工] ああ。
[ラヴィニア] ……
[洗車工] ――七年前、俺はテキサス家の粛清に加わってた。
[洗車工] 予定より早く都市に入り、洗車工の仕事を見つけ正体を隠して……陰からテキサスファミリーの動向をうかがってたんだ。
[洗車工] あの日、シラクーザからほかの連中もやってきて……
[洗車工] そこで、俺はテキサスファミリーの奴らに見つかった。
[洗車工] 向こうのマフィアは軽薄で傲慢な奴ばかりだし、本来なら簡単に始末できたはずだが――
[洗車工] その中に、目を引く人がいたんだ。
[洗車工] 俺も彼女を知ってた。あの人はテキサスの人間だったが、シラクーザ人らしさがあるともっぱらの評判でな。
[ラヴィニア] ……チェリーニアさんのことね。
[洗車工] あんたを見てると、時々あの人を思い出すんだ。
[ラヴィニア] もしかして……彼女も私と同じで、殺し屋に理想を語るような愚か者だったってこと?
[洗車工] ……いいや。
[洗車工] ラヴィニアさん。
[洗車工] あんたの理想を笑うつもりなんか少しもない。ただ……不思議だっただけなんだ。
[洗車工] 俺には、あんたの言うことがおとぎ話みたいに聞こえてさ。
[洗車工] あんたの理想は俺からすれば美しすぎて、聞いてるうちによく眠れちまうような代物なんだよ。
[洗車工] ……あの日、俺には手を下す準備ができてた。
[洗車工] 向こうも、俺がただの洗車工じゃないってわかってたと思うんだ。
[洗車工] でも……
[洗車工] こんなふうに、あの人は何もせず、俺にそばを通らせたのさ。
観客は四方へ逃げ去り、殺し屋たちの戦場もほかの場所へと移り――
劇場内はすでにがらんとしていた。
空のステージの上、ラップランドは話をしながら軽快なステップを踏んでみせる。
[ラップランド] テキサスファミリーはほとんど皆殺しにされた。
[ラップランド] だけど、チェリーニアだけは――
[ラップランド] 影も形も見当たらなかったんだ。
[ラップランド] 取り逃がすなんて許されないし、長女とあったらなおさらだ。みんながあの子を探し回ったよ。
[ラップランド] そんな時、大きな火事が起きたんだ。
[ラップランド] 炎はファミリーのすべてを飲み込むように、テキサスの屋敷を包み込んでいって……
[ラップランド] 火事を起こした本人は、その入り口に立っていた。
[ラップランド] ちょうどボクの目の前にね。
[ラップランド] あの子はゆっくり振り返ると、ボクのほうへ歩いてきた。
[ラップランド] その瞬間、ボクは理解したんだ。
[ラップランド] あの子はテキサス家の終焉をただ何もせず見守ることにしたんだってね。
[ラップランド] でも、誰があの子を責められるっていうんだい?
[ラップランド] チェリーニアは祖父を殺した父の共犯者になりたくなかっただけ……
[ラップランド] あの子を責める資格なんて、あの子自身にしかないのさ。
[ラップランド] ただ、それだけでもないけどね。
[ラップランド] その時、あの子は――
[ラップランド] 嫌気が差した顔をしていたから。
[洗車工] チェリーニアのことは……サルッツォの連中や俺にとっては、秘密でもなんでもなかった。
[洗車工] なんせ、当時サルッツォの部隊を率いていたのはラップランドお嬢さんだったしな。
[洗車工] あの人が追放されたのは、チェリーニアを殺すために勝手な行動をした結果、ファミリーの奴らが反撃を受けて、その損失がデカかったからなんだ。
[ラヴィニア] ……私は……
決して逃げないし、目を逸らしはしない――
彼女はずっと、自分にそう言い聞かせてきた。
だが、今は言葉が出てこないことに気が付いた。
[洗車工] ラヴィニアさん……その辺に転がる死体を見ろ。それに、遠くから聞こえる叫び声を聞いてみろ。
[洗車工] あんたに何ができる?
[洗車工] 俺からできるアドバイスは一つだけ……チェリーニアと同じようにするのが賢明だ。
[洗車工] 逃げるんだよ。
[洗車工] できるだけ遠くへ。
[洗車工] たとえ最後には過去に追いつかれることになっても、少しの間の安らぎだけは得られるから。
[洗車工] でなきゃ――あんたは死ぬことになる。
[ラヴィニア] だとしても……
[ラヴィニア] そんなこと、したくないわ。
[ラップランド] 今になって、過去はあの子を訪ねてきた。
[ラップランド] 初めは気が進まないかもしれないけど、向き合うことを迫られて、何一つ変わってないことに気付いた時――
[ラップランド] それまで避けていたものも、そう悪くないと思うかもしれない。
[ラップランド] 結局、龍門での生活は、テキサスにとって長い旅でしかないわけだしね。
[ソラ] ……そしてそんな今、あの人の目の前には、彼女のファミリーと一番繋がりの深かった人が現れた……
[ソラ] そう言いたいんでしょ?
[ラップランド] うん。
[ソラ] ……本当にそうなったら、その選択を尊重する。
[ラップランド] あの子の親友なのに?
[ソラ] 親友だからこそ、だよ。
[クロワッサン] せやなあ。
[エクシア] まあ――シラクーザのピッツァが口に合わなくなったりしたら、話は別だけどね。
[テキサス] お爺様は過去を大切にする人だった。だから、ルーツを忘れないために私をシラクーザへ送り出したんだ。
[テキサス] 私はシラクーザでしばらく暮らして――
[テキサス] その間大勢の人から、「あなたはシラクーザ人らしい」と言葉をかけられた。
[テキサス] けれど私にしてみれば、単にいつも通りやっていただけだ。
[テキサス] クルビアでもシラクーザでも、私の生活は何ら変わりなかった。
[テキサス] さらに言えば、シラクーザで見たものは、クルビアで見たものと何も変わらないものだったんだ。
[テキサス] お前は物語としてのテキサスファミリーの話をよく知っているかもしれないが、私はそれをこの目で見た。
[テキサス] 人生は演劇ではないし、そこにはヒーローも悪役もいない。あの場で起きたのはただのくだらん殺人だ。
[テキサス] あの時、父はBSWから手に入れた模造銃を使ったが、発砲時暴発に見舞われて、自分も怪我を負った。
[テキサス] 倒れこんだお爺様に対して、父は傷を負った手で剣を抜いたが、その一撃目は逸れたようだった。
[テキサス] 私は入り口ですべてを聞いていた。しわがれた罵倒や、痛みに呻く声……
[テキサス] それが途絶えるまで長い時間がかかった。
[テキサス] その瞬間、私はそうした何もかもが嫌になったんだ。
[テキサス] だから去ることにした。
[ジョヴァンナ] それは、龍門こそが自分の居場所だってこと?
[テキサス] わからない。私にも確信はないんだ。
[テキサス] だが少なくとも、龍門での日々は楽しかった。
[ジョヴァンナ] ……
[ジョヴァンナ] 言いたいことははっきり言う、そういうところ……あなたって本当変わらないのね。
[ジョヴァンナ] ……
[ジョヴァンナ] きっとあなたは、私に助けを求めにきたか……
[ジョヴァンナ] あるいは、昔話をしにきたものと思ってたんだけど。
[ジョヴァンナ] 私の思い上がりだったみたいね。
[ジョヴァンナ] 結局あなたは、もう昔には戻れないって伝えにきただけだった。
[ジョヴァンナ] こんなのあんまりだわ、チェリーニア。
[ジョヴァンナ] まだ生きていたことを知らせて喜ばせておいて……
[ジョヴァンナ] 私の希望を勝手に打ち砕いちゃうんだもの。
[テキサス] すまない、ジョヴァンナ。
[テキサス] シラクーザ人にも、クルビア人にもなりたくはない――
[テキサス] 私はただのチェリーニア・テキサスなんだ。
[ジョヴァンナ] ――これが最後のチャンスよ。
[ジョヴァンナ] その扉を出た瞬間、あなたは私を……ロッサティを敵に回すことになる。
[ジョヴァンナ] 私はロッサティファミリーのドンとして、目の前に立ちはだかる障害を――あなたを排除することを躊躇いはしないわ。
[ジョヴァンナ] お願い……そんなことさせないで。
[テキサス] ……
[テキサス] ジョヴァンナ、私たちは過去に囚われすぎている。
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