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シラクザーノ_IS-5_変わらざる掟_戦闘前
テキサスの選択にウォラックは憤りを見せる。一方ラヴィニアはベルナルドに会い、その選択を問いただそうとしていた。
[ウォラック] レオントゥッツォが嘘をついてるって可能性も考えてたが……こうして会ってみればすぐわかったよ。
[ウォラック] あんたは正真正銘のテキサスだな。
[テキサス] ……
[ウォラック] まずは自己紹介といこうか。俺はロッサティファミリーのウォラックだ。
[テキサス] お前、クルビア人か?
[ウォラック] ああ。うちの人間はほとんどがクルビア人だしな。
[ウォラック] 監獄生活はどうだった?
[テキサス] 特別なことは何もなかった。
[ウォラック] しかし、妙な話だよな。本来あんたはこんなに長くムショにいるべきじゃないはずだろう。ベッローネは何考えてんだ?
[テキサス] 法に従うことがそんなにおかしいか?
[ウォラック] シラクーザの裁判所が、本当に法律なんかに従ってると思うのか?
[ウォラック] この国の都市じゃ大抵、マフィアは通過儀礼として法廷に立って、監獄に入るもんなんだ。
[ウォラック] そのあとは、戦士を迎えるみたいにして、ファミリーの連中がそいつを連れ戻していくのさ。
[ウォラック] ここで表面上存在しているものは何もかも、地下の秩序に身を置いている俺たちからすればあってないようなものだ。
[テキサス] それで?
[ウォラック] あんたはクルビア育ちだろ? まだ説明が必要なのか?
[ウォラック] 「ばかげてる」。それ以外に言うことなんざ一つもねえよ。
[ウォラック] とはいえ、もちろん俺たちはそのおかげで、ここへ順調に溶け込めたわけだがな。
[テキサス] 政治の話が好きなのか?
[ウォラック] あんたはそうでもなさそうだな。
[ウォラック] 実のところ、俺もだよ。
[ウォラック] 率直に聞かせてもらおうか。――どうやって生き延びたんだ?
[テキサス] お前には関係ない。
[ウォラック] だったら質問を変えようか。どうして戻ってきた?
[テキサス] レオントゥッツォから聞いていないのか? 私はベッローネに借りがあるんだ。
[ウォラック] なら、ベッローネがあんたを呼びつけたのはロッサティの相手をさせるためだと知りながら、それでも帰ってきたって解釈してもいいわけか?
[テキサス] 私自身、戻ってきてから初めて知ったことではあるが――そう考えてもらっても構わない。
[ウォラック] 俺が間違ってるんじゃないかと思わされるほどストレートな物言いだな。
[ウォラック] だが、テキサスの名がクルビアの全ファミリーを率いていたことを忘れたとは言わせねえ。
[ウォラック] あんたの祖父さん――サルヴァトーレは、皆の信仰そのものだったんだ!
[テキサス] ……
[テキサス] テキサスが残したものはすべて、私とは無関係だ。
[ウォラック] 無関係だと!?
ウォラックは傍らのテーブルを殴りつけた。その指からは血が流れていく。
だが彼はそれに気付いていないかのようだった。
[ウォラック] チェリーニア・テキサス! あんたはサルヴァトーレの孫娘だ!
[ウォラック] あんたが生きている限り、無関係なんてことはあり得ねえ!
[ウォラック] その名前がロッサティの会議に出てくるだけで、俺たちは行動方針を変える羽目になるんだぞ!
[ウォラック] かつてのテキサスは俺たちの誇りだった……!
[ウォラック] サルヴァトーレの注いだ心血を無駄にさせないために、ジョヴァンナさんがどれだけ苦労してクルビアのマフィアたちをまとめ上げたかわかってるのか!?
[ウォラック] 俺たちがどんなにミズ・シチリアにへりくだってはるばるシラクーザまで戻ってきたと思ってんだ!?
[ウォラック] 生き延びるために……俺たちは移動都市の建設技術まで全部差し出して、タダ同然でシラクーザに新しい都市を建ててやってんだぞ!
[ウォラック] テキサスが没落したせいで、俺たちはこんな現実を受け入れなきゃならなくなったのに……
[ウォラック] あんたは――最後のテキサスは、平気でここに踏み込んできた!
[ウォラック] そのくせ、自分には無関係だの、借りを返しに来ただけだの、身勝手なことばかりぬかして……
[ウォラック] 俺たちの敵にまで回りやがって!
[ウォラック] ベッローネに借りがあるとか言ってたが――
[ウォラック] 生き延びた以上、俺たちに対してはもっと大きい借りがあるだろうがよ!
[テキサス] ジョヴァンナとは話をつける必要があるかもしれないが、クルビアのマフィア自体には何の借りもない。
[テキサス] ベッローネとの約束を果たしたら、私はシラクーザを去る。
[ウォラック] 信じると思うか?
[ウォラック] あんたの存在自体が、ロッサティの根底を揺るがすようなもんなんだぞ。
[テキサス] ……
[テキサス] ジョヴァンナはどうした?
[ウォラック] ああ?
[テキサス] なぜ彼女ではなくお前が会いに来たのかを聞いているんだ。
[ウォラック] 俺はあの人の代理人だ。
[テキサス] 彼女なら、ミズ・シチリアにへりくだったなどと言うはずはないし――
[テキサス] 使いをよこすこともしないだろう。
[ウォラック] あの人のことならわかってるとでも言いたいのか?
[テキサス] お前の反応を見るに、そうかもしれないな。
[ウォラック] ……
[ウォラック] そうかい……残念だ。
[ウォラック] どうやら、俺は噂のテキサスをまだよく知らねえみたいだな。
[ウォラック] 我ながら良い演技だと思ったんだが。
[テキサス] 悪くはなかった。
[テキサス] だが、シラクーザのすべてを見抜いたかのように語るお前のその姿には……既視感がある。
[テキサス] そういう態度を取るのはやめたほうがいい。
[ウォラック] 理由は?
[テキサス] お前がまだこの国をよく知らないということの表れになるからだ。
[ウォラック] ……
[テキサス] ただ、ある一点だけはお前の言う通りだと感じた。ここへ戻ってきた以上、私はジョヴァンナと話すべきだ。
[ウォラック] あの人には会わせられん。
[ウォラック] 悪いな、最後のテキサスよ。
[ウォラック] あんたはあまりにもシラクーザ人らしい……根っからのシラクーザ人だ。
[ウォラック] だからこそ、ドンに会わせるわけにはいかねえ。
[ウォラック] あんたはあの人を、多くの人間を揺るがして、いろんなものを壊しちまえる人だ。
[ウォラック] だから、帰ってくれ。
[ウォラック] さっさとベッローネとの約束を果たして、これまでのうのうと生きてた場所に戻ればいい。
[ウォラック] 何をしようと好きにしろ。
[ウォラック] だが、一つだけ覚えといてもらおうか。
[ウォラック] ロッサティファミリーはあんたを歓迎しない。
テキサスは立ち上がり、扉へと向かった。
殺し屋たちは我知らず彼女に道を譲る。
見渡せば、クルビア人たちの目には怒り、不満、嫌悪、困惑などの感情が浮かんでいた。
それはこの姓がもたらしたものだった。
「テキサス」。
彼女はため息をつくと、部屋を出た。
[ディミトリ] 珍しいお客さんだな。
[ラヴィニア] ベルナルドに会わせてちょうだい。
[ディミトリ] 何度も言ったはずだと思うが、ドンを呼び捨てにするのはやめてもらおうか、ラヴィニアさん。
[ラヴィニア] 彼がどこにいるか知っているんでしょう?
[ディミトリ] それを言う義務なんか俺にはないだろ?
[ラヴィニア] あなたが勝者として口にする皮肉を全部聞けば教えてくれるというのなら、好きなだけ聞いてあげるわよ。
[ディミトリ] 勝者、ね……
[ディミトリ] わかったよ。
[ディミトリ] 別に教えてやっても構わない。ドンはサルッツォの屋敷に向かったんだ。
[ディミトリ] つまり、あの人には会えないってことさ。
[ディミトリ] この屋敷でどんな騒ぎを起こそうと好きにすりゃあいい。
[ディミトリ] ただ、ドンがサルッツォと話すと決めた以上、余計な真似はしないほうがいいぜ。
[ラヴィニア] ……
[ラヴィニア] ご忠告なら結構よ。
[ディミトリ] そうかい。ついでにもう一つ伝えておこう。
[ディミトリ] あんたにどう思われたって、俺は気にしやしない。
[ディミトリ] だが、これだけは忘れないでもらいたいね。
[ディミトリ] レオンはあくまでこのファミリーの一員であって、あるべき道を先に逸れたのはあいつのほうだ。
[ディミトリ] 俺たちは「ファミリー」で、家族ってのは力を合わせていかなきゃならないもんなのさ。
[ラヴィニア] あるべき道、だなんてよく言えたものね。
[ラヴィニア] ただの野心を聞こえの良い言葉に置き換えるのはやめなさい。
[ディミトリ] ハッ。
一滴の雨が目尻に当たり、涙のように流れ落ちていく。
ラヴィニアにはこれまで、シラクーザの雨をこれほど冷たく感じたことはなかった。
しかし、彼女はすぐに雨を拭いた。
まだその時ではない。
[テキサス] もしもし?
[ラヴィニア] ……ペンギン急便の方にお話を伺いたいのですが。
[テキサス] 聞こう。
[ラヴィニア] お時間はおありですか?
[テキサス] 少しならな。
[ラヴィニア] そちらの会社のサービスについてお聞きしても?
[テキサス] うちは配達業だ。手紙、メッセージ、荷物、それと……人も運ぶ。
[テキサス] 「雨にも負けず」な。
[ラヴィニア] では、ひとつ依頼をさせてください。
[エクシア] あっ、ソラ! やっぱりここにいたんだ。
[ソラ] うん。カタリナさんちはたくさん資料があるし、色んな台本にメモがしてあって勉強になるからね。
[ソラ] これを見てると、あの人は本当に自分の仕事が好きなんだなあって思うよ。
[ソラ] ……はぁ……
[クロワッサン] ため息つくのはやめときや。
[クロワッサン] ソラが役者の仕事を人探しの道具にしたくないことくらい、ウチらもようわかっとるから。
[ソラ] うん……でも、この状況じゃ、やっぱりテキサスさんを見つけるのが最優先な気がして……
[ソラ] だって、あのラップランドまでシラクーザに戻ってきて、ああいうめちゃくちゃなことしてるわけだしさ。
[エクシア] まあ、それも考えてみれば当然だけどね~。
[エクシア] アイツってテキサスがいるところならどこにでも出てくるし。
[ソラ] あんなことしたのは、テキサスさんを助けるためだと思う?
[クロワッサン] 結果的に容疑は晴れたけども、どう考えてもおかしいとは思うで。
[ソラ] そうだね。あたしも、何か目的があっての行動だと思う。
[クロワッサン] いやあ、ウチああいう人と付き合うんはほんま苦手やわ。
[クロワッサン] 絶対にテキサスはんの味方やないとは思うけど、敵にしてもあんなフワフワした態度取ってくる敵があるかいっちゅう話やんな。
[クロワッサン] テキサスはんの中に何かを見出したい~みたいなことやろか。
[エクシア] でも、アイツが前くれたミルフィーユは結構美味しかったよね。
[クロワッサン] 食いしん坊は黙っとき。
[エクシア] あたしもさ、前はモスティマが何考えてるのかよくわかんなかったけど……それを考えること自体やめてみたら、むしろちょっぴり理解できるようになったんだよ。
[エクシア] ラップランドもそれと同じじゃない?
[エクシア] ああいう人たちが何考えてるのかを推測するより、いっそ言葉をそのまま受け止めてあげたほうがいいのかも、って。
[エクシア] とりあえず言ってることをまるっと信じてあげてこそ、最終的にその中に混ざった嘘を見抜けるようになるんだと思うよ。
[ソラ] んー、そう……なのかも……?
[クロワッサン] あ、ウチそろそろ何か食べるもん買うてくるわ。エクシアはん、護衛は任せたで。
[エクシア] お任せあれ~い!
[カタリナ] ソラ、またセリフの練習しにきたの?
[ソラ] あっ、カタリナさん、こんにちは。
[ソラ] 『テキサスの死』第二幕の公演までもうすぐなので、もっと気合いを入れていこうと思って。
[カタリナ] 言われてみれば、そろそろだったわね。忘れてたわ。
[カタリナ] ピッツァでもどうかしら、エクシア?
[エクシア] 食べる食べる~!
[ソラ] そういえば、脚本を書いたのはカタリナさんですし、本番は見に来てくれるんですよね?
[カタリナ] うーん――
[カタリナ] 実は私、しばらくここを離れるの。本当はそれを伝えようと思って来たのよ。
[ソラ] え?
[ソラ] しばらくって……長くなるんですか?
[カタリナ] んー……順調にいけば、そこまで長くはならないと思うわ。
[カタリナ] 大したことじゃないから、そこは安心してね。家でちょっとトラブルがあって、長女としてそれをなんとかしないといけないの。
[エクシア] お姉ちゃんは大変だねえ~……
[カタリナ] ふふっ、そうでもないわよ。
[カタリナ] ただ、第三幕のクライマックスがまだできてないのは気がかりなのよね。
[カタリナ] 今回のことでいいアイデアを見つけられるといいんだけど……
[ソラ] そうですね……
[カタリナ] あら、そんな顔しないで。ほんの少し会えなくなるだけよ。第二幕の公演はどうにか時間を作って観に行くから。
[カタリナ] その時は楽屋に遊びに行っちゃおうかしら。
[ソラ] えっ、いいんですか?
[カタリナ] せっかく友達になれたんだし、自分で書いた脚本を演ってもらうんだから、私だって間近で観たいもの。
[ソラ] それなら、戻ってきたら絶対連絡してくださいね! 約束ですよ!
[カタリナ] ええ、もちろん!
[カタリナ] それじゃ、もう行くわね。バイバイ。
[ソラ] はい、また!
[エクシア] まったね~!
[ウォラック] ドン、お荷物は置いて行かれるんですか?
[ジョヴァンナ] 事が済んだらまた戻ってきて脚本を書く予定だから、持っていく必要がないの。
[ウォラック] ……わかりました。
[ジョヴァンナ] それで、サルッツォとベッローネの様子は?
[ウォラック] サルッツォがレオントゥッツォを宴席に招き、ベルナルドはそれに応じました。
[ウォラック] 面白いことになりそうだってんで、街中の目がそのパーティーに注がれてるところですよ。
[ウォラック] 俺たちはどう動きましょうか?
[ジョヴァンナ] ……
[ジョヴァンナ] ウォラック、一つ手配をしておいて。
[ジョヴァンナ] 『テキサスの死』の第二幕を観に行くわ。
[ウォラック] そんなにご自分の脚本が気になるんですか?
[ジョヴァンナ] 心血注いで書いたんだから当然でしょう。
[ジョヴァンナ] それに、どう動くかを聞いてきたのはあなたじゃない。
[ジョヴァンナ] ベルナルド・ベッローネが劇場をあとにした今……私の答えはただ一つ。
[ジョヴァンナ] このジョヴァンナ・ロッサティが戻るべき時が来たということよ。
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