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理想都市-エンドレスカーニバル-_IC-ST-2_失楽園
数日後、ドゥリン人たちは地上へと移動を開始した。スディチは、滅亡前のゼルウェルツァを完璧な姿にするため、広場で作業をしていたところ、思いがけず師匠が残した手紙を読むこととなった。
数日後
スディチは今日も、広場のステージでせっせと働いていた。
都市の遺影をより美しいものにすることは、地上に向かうことと同様に、全住民による監督が必要な行為だ。
中でもドームは都市の顔として当然、最優先対象となる。
だからこそ、広場の誰もが見えるステージでデザインの作業をする必要があるのだ。
エッジはこれを、「時間の節約」だと表現している。
[スディチ] クソじじいめ、ただ単にこの方が面白いだけだろ。
ステージ下で得意げな顔をするエッジを見て、スディチはそう叫んでやりたいくらいには苛立っていた。
だが実際、彼は自身の予想以上にこの状況に適応しつつあった。
通りかかった者の質問に受け答えする時、聞きたくなくても他人の意見が耳に入ってきた時、自分のこだわりのために他人と口論する時でさえ――
彼は想像していたほどストレスを感じることはなかった。
ニタニタと笑っているエッジを恨めしく思いつつも、ステージでの作業を求めたエッジの意図は理解していた。自分に話しかけてくる周りの者たちの考えも。
周囲の者も、彼が何を考えているかわかっていた。
[エッジ] この小僧ときたら、最近は喧嘩してばかりではないか。
[エッジ] ちょっと意見をされれば長々と言い争うのだからな。
[エッジ] だが、出来つつあるものには確かに文句のつけようがない。
[エッジ] ふむ……ヴィンチよ、お前が今どこで何をしているかは知らんが、安心してよさそうだぞ。
[エッジ] おっと、そうだ。
[エッジ] スディチ!
[スディチ] 何だよ、オレは忙しいんだ!
[エッジ] 前にドームの点検を行った時、その先端で手紙を見つけた者がいたのだよ。
[スディチ] 手紙?
[キャッチ] そうだよ、君宛ての手紙だったんだ。
[スディチ] まさか……!?
私はゼルウェルツァで最も偉大な建築デザイナー、ヴィンチ・ブランクキャンバスだ。
この手紙はドームの先端に置いておく。
これを開くのは恐らく、次にドームの改造を担う者だろう。
それが私の愛弟子であることを願っている。
これは私が彼に残した手紙だ。
もしこれを読んでいる者が別の人物ならば、どうかこの手紙は彼に渡さないでくれ。
なぜならその状況は、彼の失敗を意味するからだ。
[デカルチャー] キャッチ、ごめんね。
[キャッチ] ん?
[デカルチャー] もし私もあなたのようにできたら……
[キャッチ] みんなそれぞれ性格が違うんだ、君の考えも理解できるよ。
[キャッチ] ただ言えるのは、もし僕がもっと早く気付いていれば、少し違う結果になっていただろうってことさ。
[デカルチャー] 今からでも戻って構わないんじゃないかしら。
[キャッチ] 大丈夫だよ。気にしないで。
[エリジウム] はぁ、なんだか君に悪いことしちゃったね、キャッチくん。
[キャッチ] いいんだって、エリジウム兄さん。あの時くれたアドバイスには、ほんとに感謝してるんだから。
[キャッチ] 確かに最初はスディチを刺激するために決断したことだけど、ヴィンチ先生を探したいのも僕の本音なんだ。
[キャッチ] 他のことはともかく、スディチの今の様子を伝えてあげれば、先生もきっと喜ぶだろうから。
[エリジウム] まったく君って奴は、何て言えばいいのやら。
[エリジウム] ところで僕が思うに、そのヴィンチ先生が、弟子のことをそれほど気にかけているなら、彼は地上へ行って鉱石病を治す方法を探しているかもよ。
[エリジウム] 僕も地上に戻ったら、彼の消息を何とかして探してみるよ。
[エリジウム] ハハッ、もしかしたら彼の方が先にロドスを見つけてくれるかもしれないね。
[キャッチ] ああ、そうだといいね!
[エリジウム] 僕の言いたいこと、わかるよね?
[キャッチ] わかるよ。僕たちはきっとまた会える。
[キャッチ] ゼルウェルツァ再建の時には、僕も力になりたいと思ってるし。
[キャッチ] その時は、絶対にスディチと一緒に、すごいデザインを考え出してみせるよ。
[エリジウム] 例えば僕の彫像とか?
[キャッチ] それは――多分無理かな。
[エリジウム] ちぇ、残念!
まず、突然去ってしまったことについて謝らせてほしい。
しかしこうでもしなければ、お前の性格からして、いつまでも独立することができないだろう。
いや、私がそばにいれば、お前を甘やかしてしまうからだ。
スディチ・ブランクキャンバス、お前にはとても才能がある。
鉱石病はお前の命を縮めてしまったが、同時に、命に対するお前の考えをより深いものとした。
そして、それがお前のデザインをさらに大きく変容させた。
その経緯の全てを、私はこの目で見てきた。
[興奮するアダクリス人] オラやる気出せぇ! 今日のオレたちの仕事は、この洞窟を完全に貫通させることだ!
[ヨタ] 聞こえたか、ヨギ!
[ヨギ] おう、兄貴!
[イナム] ふぁ~……ちょっとヨタ、何もこんなに早くから仕事することはないんじゃないの?
[ヨタ] 何言ってんだ、イナム。
[ヨタ] こいつはガヴィルがオレたちに与えた仕事なんだぜ。
[ヨタ] あいつはオレの命を救ってくれたんだ。今すぐ地底まで掘り進んで会いたいくらいなんだ。あいつが元気にやってるか見てぇんだよ。
[イナム] あんたが死んだって、あいつは死なないわよ。
[ヨタ] ハハハ、そりゃそうだ!
[イナム] そうだ、明日パーディシャーに会いに行くつもりよ。首長の件を話すの。
[イナム] だから、明日からズゥママがあんたたちのボスよ。何かあったら彼女を頼って。わかった?
[ヨギ] オレも一緒に行こうか?
[ヨギ] パーディシャーはどいつもこいつもロクなもんじゃねぇって言ってたろ?
[イナム] あんたね……ついてきたところで痛い目に遭うだけよ。
[イナム] 安心なさい。私だって、今まで伊達にトランスポーターやってたわけじゃないわ。
[イナム] それじゃあズゥママ、ここはあんたに任せたわよ。
[ユーネクテス] 安心してくれ。
[ユーネクテス] アイアンハイドの特殊装備、「マウンテンドリルアックスMKⅢ」も装備したからな。
[ユーネクテス] これで、作業効率は約三倍になる。
[ユーネクテス] ここは私一人に任せて構わない。
[イナム] ……時々、ガヴィルよりあんたの方が恐ろしいと思うわ。
しかしそれは同時に、お前を徐々に偏った性格に変えていった。
お前は自分のスタイルに固執するようになり、他人との関わりも避けるようになったのだ。
私はそれを不安に感じていた。
[クロッケ] そういえばアヴドーチャ、あなた地上に行った後はどうするつもりなの?
[アヴドーチヤ] 何のことですの?
[アヴドーチヤ] わらわがあのようなことを口にしたからには、地上で暮らしていくつもりがあるのではないかとお思いですの?
[アヴドーチヤ] ゼルウェルツァが再建されたら、わらわも戻りますわ。
[アヴドーチヤ] 何か問題でもおありかしら?
[クロッケ] うーん……実は、前にイナムとこんな話をしたのを思い出したんだよね。
[クロッケ] 将来的に私が地上へ行くことになったら、彼女と商売をするつもりなんだけど、そこでロドスっていう場所を紹介してくれたんだよ。
[クロッケ] でも私、地上のことはあんまりよくわからないでしょ? それで、アヴドーチャが私の代わりにやり取りして、私はそれを見ながら学ぶことにするよって言っちゃったんだよね。
[アヴドーチヤ] つまり……
[アヴドーチヤ] 貴方、わらわのことを売りましたの?
[クロッケ] ごめんって! でも、真剣に地上でビジネスをやってみたいんだ。力になって、アヴドーチャ!
[アヴドーチヤ] クロッケ・ダイアモンドフェース!!!!
[アヴドーチヤ] あれほどお酒は飲むなと言いましたのに!
[クロッケ] ホントごめんなさーい!
皆に受け入れられない時、人は往々にして錯覚に陥るものなのだ、スディチ。
そしてその錯覚は、自分が理解されないことや作品が認められないことは、自分の問題ではなく、周りが間違っているからだとお前に思わせる。
だが、時として、事実は決してそうではないのだ。
もちろん自分の考えを貫くのは悪いことではない。
しかし、もしその考えが、お前一人しか理解できないほど素晴らしいものであるなら、なおさらそれを周りに共有するべきではないのか?
[ガヴィル] ふぅ、この柱はここに置きゃいいんだな。
[ガヴィル] まさか広場まで修繕することになるなんてな……ドゥリン人はマジで徹底してるぜ。
[大祭司] ガヴィル。
[ガヴィル] ん?
[大祭司] お前さん、自分が今まさに歴史を創造しておるということに気付かぬか?
[ガヴィル] そうなのか?
[大祭司] 地下で永きにわたり生活する間、地上の者とこれほど大規模な交流を行ったドゥリン人はおらん。
[大祭司] お前さんの決定と影響のもと、一都市分という規模の人口が一度に地上に移るのじゃぞ。
[大祭司] アカフラは、この大地で最初にドゥリンの都市やドゥリン人と親交を結んだ地域となるのじゃ。
[大祭司] 未来の者たちが過去を振り返った時、これがお前さんの単なる思いつきで始まったなどとは思いもよるまいな。
[ガヴィル] そう言われりゃ、確かにそうかもしれねぇな。
[ガヴィル] だけどそりゃ別に悪いことじゃねぇだろ?
[大祭司] ハハハ、もちろん悪いことなどではないわい。
[大祭司] わしが言いたいのはだな──歴史とはまさにそういうものだということじゃよ、ガヴィル。
[大祭司] ドゥリンが地下に生活基盤を築くようになったのも、ただの偶然かもしれぬ。それと同様にな。
[大祭司] アカフラの伝統がお前さんにたやすく壊されたように、歴史とはさほど畏怖すべきものではないと証明しておるかもしれん。
[ガヴィル] そいつはどうだろうな。アタシは、歴史をわかる奴らはみんなすげえと思うけどな。
[ガヴィル] 例えば、ケルシー先生なんかはめちゃくちゃ詳しいし。
[大祭司] ケルシー? うむ……数少ないやり取りからわしが感じた印象によれば、彼女はこの大地で、最も歴史を軽蔑している人物であるのかもしれぬ。
[ガヴィル] そうか?
[大祭司] もちろん、彼女の軽蔑は深い理解に由来する、いかんともしがたい感情なのかもしれぬがな。
[大祭司] まあよい、これはまた別の話じゃ。
[大祭司] ズゥママが言っておったんじゃが、お前さんもこの選択をするかどうか迷ったそうだのぅ。しかし、それでもお前さんは自らの信念を貫いた……そして、これからも貫き通す、そうなんじゃろ?
[ガヴィル] そうだ。だってズゥママたちが言ってたからな。あいつらがアタシを支えるって。
[ガヴィル] そんで、じいさんもアタシたちとずっと一緒にいるんだろ?
[大祭司] ほう、わしのような老いぼれまで見逃さんのか。ガヴィル、お前さんという奴はまったく欲張りじゃのう。
[大祭司] 当然じゃ。ズゥママと一緒に機械いじりをする日々は、非常に充実しておるからな。
[大祭司] お前さんにわかるかのう、長生きし過ぎると目標を見つけるのが難しくなるんじゃよ。
[ガヴィル] わかんねぇな。
[大祭司] わからずともよいよい。わしはお前さんのそういうところが好きなんじゃ、ガヴィル。
[大祭司] 前へ進むがよい。一体どこまでその歩みを進められるのか、わしも興味があるからのう。
[ガヴィル] そんで、じいさんはなんでズゥママのとこにいねぇで、アタシとここでくっちゃべってんだ?
[大祭司] それはもちろん――
[大祭司] あやつに追い出されたからじゃ!
[大祭司] ドゥリンたちが作ったメカたちはビッグ・アグリーほど可愛くないと言ったら、怒ってしまいおったんじゃ。
[大祭司] はぁ……あやつがそこまで新しい友人の味方をするというのなら、わしにだって考えがあるぞい! ぷんぷんじゃ!
[ガヴィル] あっそ。
実際に体験しなくては永遠に理解できないこともある。
だから私はお前に一つの課題を残した。
お前が次の設計代表になるまで。
ゼルウェルツァのすべての人に、お前の作品に深い意味があることを納得させるまで。
私はお前のそばを離れ、お前が私を探すことも許さない。
我々は建築デザイナーであり、我々の仕事は多くの人を満足させるデザインを提供すること。
お前もいずれ気付くはずだ。お前にとって最大の課題は、デザイン上の欠陥でも、施工上の障害でもなく、ただ単純に――他人を納得させることだと。
[ガヴィル] うおっ! トミミ、感じたか?
[トミミ] はい、揺れてますね。
[ガヴィル] 昇降機で上がってきたってのに、それでもまだ感じるとは。
[ガヴィル] 相当でけぇなこりゃ。
[トミミ] ですが、ゼルウェルツァの住民の皆さんは全員地上へ行けました。一人残らずですよ!
[ガヴィル] ああ、みんなよくやってくれたな。
[アヴドーチヤ] ふぅ……
[ガヴィル] 大丈夫か? 無理すんなっつったのに、最後まで残るとか言い張りやがって。
[ガヴィル] 都市の崩壊から一体どんなインスピレーションが得られるんだか。
[アヴドーチヤ] 貴方に言ってもわかりませんわ。
[アヴドーチヤ] あれが都市の最後の瞬間……実に感慨深いですわ。
[スディチ] ……師匠、確かにこれはオレにとって難しい課題だけど……できる限りやってみます……
[ガヴィル] こいつ、寝言言ってやがるぞ。夢でも見てんのか。
[トミミ] スディチさん……どうやらお疲れみたいですね。
[ガヴィル] 仕方ねぇ。ここしばらくはマジで大変な日々だったからな。
[ガヴィル] 結局、こいつは本当にデザインを描き上げただけでなく、毎日現場に行って、最後まで工事を見届けたんだ。
[ガヴィル] こいつにこんなに責任感があるとは、ちょっと前の姿からは想像もできねぇよな。
[トミミ] はい、私もスディチさんを少し見直しました!
[ガヴィル] よっしゃ、行くか。
[ガヴィル] アタシたちが最後だ。みんなが待ってるぜ。
[トミミ] はい!
[ヨギ] どうしてガヴィルはまだ出てこねぇんだ? 何かあったんじゃねぇだろうな!?
[ヨタ] 縁起でもねぇこと言うな!
[ユーネクテス] 来たぞ。
[クロッケ] アヴドーチャはまだ来ないの? 早く滝で遊びたいのに。
[デカルチャー] 先に行けばいいじゃないの。
[クロッケ] それはダメだよ。こういうのって何て言うんだっけ……そうだ! 歴史的な一幕でしょ!
洞窟の入口を、ドゥリンとティアカウたちが取り囲んでいる。
彼らは昇降機に乗る最後の数名を待っていた。
ガヴィルがいつも通りの笑みを浮かべ、スディチを抱えて現れた。
彼女は右手を上げ、喜ぶ人々に挨拶をした。
[ガヴィル] 今日は嬉しい日だ。お前ら、湖へ行って思いっきり遊ぼうぜ!
彼女がそう言うと、群衆からは熱烈な歓声が沸き起こった。
今日のアカフラは、いつにも増して賑やかだ。
そしてこれからは、もっと賑やかになるだろう。
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