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理想都市-エンドレスカーニバル-_IC-6_戦うか逃げるか_戦闘前
対岸のトンネル内で思わぬ危機が発覚した。活性化した源石鉱脈により、ゼルウェルツァはいつ滅びてもおかしくない状況だという。皆が議論する中、ガヴィルは地上へ避難することを提案する。
スディチが目を覚ますと、そこにはよく知る二人の姿があった。
[クロッケ] アヴドーチャ、着替えを持ってきたよ。
[アヴドーチヤ] お手数をおかけ致しましたわね。ありがとうございます。
[アヴドーチヤ] ただクロッケさん、今後はもう少しお酒を控えた方がよろしいと思うわ。
[クロッケ] アハハ、ごめんね。でもほら、結果的には悪くないと思わない?
[アヴドーチヤ] ……そうかしら。私にはわかりませんわ。
[アヴドーチヤ] はぁ、着替えられる場所を探してきますわ。
そこで二人は、スディチが目を覚ましたことに気付いた。
[アヴドーチヤ] あら、お目覚めになったのね、スディチさん。
[スディチ] オレはどうしたんだ?
[アヴドーチヤ] 気を失った時のこと、覚えてらっしゃる?
[スディチ] ボートを運転してたら、エッジじいが飛び乗ってきて、それから……えーと……
[アヴドーチヤ] 貴方がたが揉み合いになって運転がおろそかになった結果、ボートは岸へと突っ込んで、二人とも吹っ飛んでしまいましたのよ。
[スディチ] エッジじいは?
[アヴドーチヤ] 少し前に起きて、エリジウムさんを連れてトンネルの計器を確認しに向かわれましたわ。
[スディチ] そうか……って、ボートに乗せた設備は?
[アヴドーチヤ] ほとんど破損しましたわ。代わりの計測用設備は、デカルチャーさんが急ピッチで製造してらっしゃいます。
[アヴドーチヤ] それと、掘削機はもう必要ありませんわ。
[スディチ] どうして?
[アヴドーチヤ] 先程から、何かうるさいとはお思いになりませんこと?
アヴドーチャは呆れ顔で、少し離れた場所へと目をやった。
アヴドーチャの言葉で、ようやくスディチも気付いた。ずっと聞こえていた騒音はチェーンソーの轟音によく似ている。それと、岩が崩れる音だろうか?
[スディチ] ガヴィル、アンタ何してるんだ……
[ガヴィル] 見りゃわかんだろ、岩壁を綺麗に片付けてるんだよ。
[アヴドーチヤ] ボートの衝突によって、崩壊していた場所に大穴ができましたが、それでも簡単に通ることはできませんの。
[アヴドーチヤ] 掘削機も壊れてしまいましたので、通れるようになるまでもう少し時間がかかるものと思われましたが――
[アヴドーチヤ] ご覧の通りですわ。
[ガヴィル] ハハッ、鉄道の改修や源石の調査と比べりゃ、こっちの方が明らかにアタシの得意分野だぜ!
スディチが辺りを見渡すと、美しく切り揃えられた岩塊がたくさんあり、二人が並んで歩くのに充分なほどの穴が開いていた。
これは間違いなくガヴィルの傑作だ。
つまり、掘削機が損壊した状況にもかかわらず、ガヴィルは自力でトンネル内へと通じる道を切り開いたのだ。
アカフラで聞いた無敵のガヴィルに関する信じがたい伝説……その一部はもしや真実なのだろうか? スディチはふと、そう思った。
[ガヴィル] おう、エリジウム、早かったな?
[エリジウム] ……
[ガヴィル] 何かあったのか? エッジ先生は?
[エリジウム] 状況はあまり芳しくないね。
[ガヴィル] なんだ、巨大なオリジムシでもいたのか? シエスタでそういうやつを見たってプロヴァンスが言ってたぞ。
[エリジウム] なにかしらの生き物なら、まだ冗談を言い合える気分だったんだけどね。
[エリジウム] ついておいでよ。
がれきを避けながら、全員がトンネルの中へと入った。
中に広がる空間は、トンネルというよりも実際には洞窟に近く、奥は広大で入り組んでいた。
しかし、エリジウムの案内は非常にわかりやすく、そのおかげで、全員洞窟の中を迷うことなく進むことができた。
あまりにスムーズだったため、この短時間でどうやってトンネルの構造を彼が理解したのか、誰もが不思議に思った。もしや以前このトンネルに来たことがあるのではないかと疑うほどだった。
しかし、エリジウムが足を止めた場所には、そんな冗談めいた疑いがどうでもよくなるほどに、全員が自分の目を疑うような恐ろしい光景が広がっていた。
それは岩層の外にむき出しになった源石鉱脈だった。
さらに、源石について少しでも知識がある者ならば容易に気付くであろう。この源石鉱脈が活性化して随分経っていることに。
そして源石鉱脈の活性化が示唆するのは、近い将来における――
爆発。
あるいは――
災い。
[スディチ] ありえない!
[エッジ] 確かに都市を建設した時に、この方角に源石鉱脈の存在を検知したことがある。しかしトンネルからはかなり距離があったはず――
[エリジウム] 前の大地震で、源石鉱脈がここまで移動したっていう可能性はないかな? その後も何度か小さな余震があったって聞いたよ。
[エリジウム] こんな鉱脈が急に現れるはずはないしね。
[エッジ] その可能性はなきにしもあらずか……
[エッジ] いや、そうに違いない! この鉱脈は、例の大地震によってここまで移動して来たのだ!
[エッジ] しかも地震に刺激されて、ゆっくりと活性化し始めたんだろう。
[エッジ] ドームの源石探知設備が壊れていたせいで、我々は今までこの問題に気付けなかったというわけか――
[スディチ] クソ……
[エッジ] スディチ、慌てるな。これはお前のせいではない。
[エッジ] ドームの改修については、皆で決めたことだ。これは私たち全住民の問題だ。
[エッジ] ただ……
[エッジ] 我々が今歩いてきた道は五百メートルあるかどうかだ。この距離で活性源石鉱脈が丸ごと爆発すれば……
[エッジ] ゼルウェルツァが難を逃れる可能性はゼロだ。
[放送] ゼルウェルツァ市民の皆さん、緊急のお知らせです。
[放送] 先程の水泳大会終了後、エッジ先生が大会参加選手数名を率いて崩壊したトンネルの調査を行いました。
[放送] その調査の結果、たいへん危険な状況であることが判明しました。
[放送] エッジ先生は、我々の都市から直線距離でおよそ一キロ地点のトンネル内において、活性化した源石鉱脈を発見しました。
[放送] この源石鉱脈は、ゼルウェルツァの建設当初、都市から約三キロ離れた地層に埋没していることが確認された鉱脈と同一であると推測されており――
[放送] 半年前の大地震によって地層に変動が生じた影響で、鉱脈が移動してこの都市付近まで広がり、活性化し始めたと見られます。
[放送] 現在、エッジ先生が他の専門家を率いて、急いでこの源石鉱脈の活性化レベルを測定しており、それを基に鉱脈がいつ爆発するのかを判断します。
[放送] 詳細な結果が得られ次第またお知らせします。
[放送] 住民の皆様は、どうぞ慌てずに避難の準備をお願いします。
[だらけたドゥリン人] ん? 活性源石鉱脈が爆発するだって? どうしてこんな急に?
[冷静なドゥリン人] 前回の大地震でドームが壊れてから、ずっとドームの源石探知設備を修理してこなかっただろ。だから気付かなかったんじゃないか?
[だらけたドゥリン人] そういや確かに、エッジ先生がそんなこと言ってたな。
[だらけたドゥリン人] だとしたら、仕方ないか。
[イナム] あんたたち……「どでかい水たまり」を建設しようっていう決定が間違ってたとは思わないの?
[だらけたドゥリン人] なんでだ? 俺たちはこの結果を甘んじて受け入れるさ。
[冷静なドゥリン人] それに、エッジ先生の警告が嘘だとも思ってない。
[冷静なドゥリン人] 俺たちが、ドームの穴を修理せずに「どでかい水たまり」を建てることを決めた時、先生は警告していたんだ。
[冷静なドゥリン人] それで潜在的リスクがあることを理解し受け入れたうえで、俺たちは「どでかい水たまり」の建設を決めたんだよ。
[冷静なドゥリン人] 俺たちはただ、自分たちで選択したツケを払うだけだよ。
[イナム] ……
[だらけたドゥリン人] そうだぞ、地上人。あんたは別に俺たちを気の毒に思う必要なんてないんだからな。
[だらけたドゥリン人] 考え方を変えれば、俺たちは少なくともこの長かった夏を、目一杯楽しむことができたんだからな。だろ?
[冷静なドゥリン人] 全くもって同意だな。
[だらけたドゥリン人] しかし避難か……記念に何を残していくかまだ考えてなかったな、お前は考えてあるのか?
[冷静なドゥリン人] 俺はお前とは違うからな。俺は当時細かい部分まで注文して作ったあの大満足のデザイナーズマイホームだ。
[だらけたドゥリン人] そうかい、俺はもうちょっと考えなくちゃな。例の源石鉱脈がそう簡単に爆発しないことを祈るよ。
[冷静なドゥリン人] まずは一杯飲んだらどうだ? カールミードでいいか?
[だらけたドゥリン人] 飲んだ気がしねぇよ。俺はやっぱセブンススピリッツだ。
[イナム] ドゥリン人は、地上のアダクリスと大して変わらないおバカさんだとばかり思ってたけど……そうでもないみたいね。
[エッジ] はぁ……
[アヴドーチヤ] エッジ先生、どうなんですの?
[エッジ] 最終的な結論は計算が全て完了してからになるが、私の経験から判断するに――
[エッジ] 一ヶ月も経たないうちに、爆発するだろう。
[アヴドーチヤ] 一ヶ月?
[アヴドーチヤ] でしたらすぐさま鉄道を敷設し、トンネルを通じて市民を避難させなければなりませんわ。
[エッジ] 不可能だ、間に合わん。
[エッジ] 地中をより深く掘って、臨時シェルターを設ける方が現実的だ。
[アヴドーチヤ] この距離で源石鉱脈が爆発しても、ドームが爆発の威力をある程度抑えてくれるかもしれないことはわかっていますわ。
[アヴドーチヤ] ですが本当の問題は、爆発後に起こる源石粉塵の拡散ですのよ!
[アヴドーチヤ] もしそれが起きれば、源石粉塵はこの空間に充満して感染が爆発的に広がる大惨事になりますわ!
[アヴドーチヤ] 事態がここまで深刻であるなら、たとえ実現が難しくても、トンネル内の障害を除去して鉄道を新たに敷設し、全員をオルツィムガへ避難させなければなりませんわ!
[エッジ] しかし、現在トンネル内はすでに源石だらけだ。トンネルを無事に通過するのは非常に困難だぞ!
[エッジ] ゼルウェルツァには数十万の住民がいる。トンネルの幅はせいぜい横並びで二十人しか通れないぞ。列車を走らせたところで、全員を安全に運ぶのにどれだけ時間がかかるかわからないのか!?
[ガヴィル] おい……なにを言い争ってんだ?
[アヴドーチヤ] ガヴィルさん、貴方には後ほど説明いたしますわ。エッジ先生、他にもっと良い方法があるとおっしゃいますの?
[エッジ] 今すぐ源石鉱脈の反対方向に掘り進めるべきだ。
[エッジ] 住民全員を収容できる小型のシェルターを掘り、収容後に来た道を封鎖する。深くまで掘ればあるいは――
[アヴドーチヤ] この都市の住民数十万人を収容できるシェルターを作るだなんて、ゼルウェルツァの科学技術をもってしても、短時間で完成させるのは非常に困難ですわ。
[アヴドーチヤ] それに、シェルターに移動したとして、その後の避難生活はどう送るのです。どう解決するおつもりですの!?
[エッジ] 列車に乗ってトンネルを行けば解決するというのか!
[アヴドーチヤ] トンネル内の危険な源石鉱脈エリアを抜けることさえできれば、解決の余地はありますわ!
[アヴドーチヤ] ですが臨時のシェルターにとどまり、源石鉱脈の爆発が他の都市に通ずる唯一のトンネルを封じてしまったなら――
[アヴドーチヤ] わらわたちは、ただ死を待つだけですのよ!
[エッジ] うぅ、お前の言うことは確かに間違っていない。だがしかし……
[アヴドーチヤ] 危険性はもちろん理解していますわ。ですがこれは、現状における最善の方法ですわ!
[ガヴィル] ……なあ、アヴドーチャ。
[アヴドーチヤ] 重要な話でなければ、後にしてくださるかしら、ガヴィルさん?
[ガヴィル] アタシもお前らの邪魔はしたくねぇ。けどよ――
[ガヴィル] あのトンネルが使えねぇってんなら……
[ガヴィル] トミミが言ってた、あの超便利大エレベーター壱号機とやらを改造してここの住民全員を地上に連れて行って、アタシたちの集落でしばらく生活させりゃあいいんじゃねぇか?
[ガヴィル] この方法になんか問題でもあんのか? お前らがそんなに喧嘩するほどのことか?
[アヴドーチヤ] 地上へ……向かう?
[ガヴィル] そうだ。
[ガヴィル] なんだ、お前ら……まさか地上へ行くことは頭になかったのかよ?
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