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理想都市-エンドレスカーニバル-_IC-5_ラストスパート_戦闘前
観測問題の解決と遊興を兼ねた水泳大会に、ガヴィルたちが参加。一方、デザインの重責に怖気づくスディチは、工業代表の励ましにより、ボートに乗って自分も大会に参加することを決める。
[クロッケ] それでは、ただいまより第一回ゼルウェルツァ・アカフラ・ロドス合同水泳大会を開催いたします!
[クロッケ] 今大会はわたくし、ゼルウェルツァ商業代表でありますクロッケ・ダイアモンドフェースが、デカルチャー・シルバーミントさん製作の高精度カメラをお借りして、皆さんに中継映像をお届けいたします。
[クロッケ] まずは、本レースのコース紹介をいたしましょう。
[クロッケ] コースは、こちらの岸から向こう側のトンネルがある岸辺まで、直線距離でおよそ一キロの地底湖となっております。
[クロッケ] そしてレースのルールですが──
[クロッケ] そんなものはありません! 一番最初に湖の向こう岸に着いた人が勝者です!
[クロッケ] 勝者は所属チームの代表として、私クロッケ・ダイアモンドフェースから特製クラフトビール一ヶ月間飲み放題権を贈呈いたします!
[クロッケ] ではまず、ロドスからの参加者は──
[クロッケ] 「イベリアの風、ロドス一のイケメン」エリジウム選手!
[エリジウム] ハハッ、ドゥリンのみんな、どうもどうも!
[イナム] ……さっき彼がクロッケを連れ出して長々と話してたのは、彼女にこれを言わせるためだったのね。
[クロッケ] アカフラの代表として泳ぐのは、この方──
[クロッケ] ガヴィル選手!
[トミミ] ガヴィルさん、頑張ってください!
[ガヴィル] お前らよろしくな!
[クロッケ] そしてゼルウェルツァから参加するのは、なんと──
[クロッケ] 我らが環境および気象代表、エッジ先生!
[アヴドーチヤ] ……
[アヴドーチヤ] ねえ、トンネル内の計器設置場所を下見するために人を送り込むだけのはずが、どうして水泳大会になってしまっているのかしら?
[ガヴィル] 楽しいだろ?
[ガヴィル] 設備やら何やらは、まだ時間がかかりそうだし。
[ガヴィル] それに、鉄道が直ってないうちは、行き来するのは面倒だからな。どうせ行かなきゃなんねぇなら、面白くした方がいいだろ?
[アヴドーチヤ] ハッ……お好きになさいまし。
[ガヴィル] お前は参加しねぇのか?
[アヴドーチヤ] 興味ありませんわ。それでしたら、トミミさんとデカルチャーさんの施工準備の進み具合を見に行った方がまだましですわ。
[ガヴィル] はぁ、ウルサス人はホントつまんねぇな。
[アヴドーチヤ] わらわはウルサス人ではありません!
[アヴドーチヤ] ところで、貴方一体どうやってエッジ先生を説得しましたの……
[エッジ] アヴドーチャ、これは私が自分で望んだことなのだよ。
[アヴドーチヤ] えっ、ですが……
[エッジ] 私はな、お前たちが楽しむついでに、こちらを手伝ってくれればいいと思っておったんだ。
[エッジ] お前たちが手を貸してくれるというのであれば、このようなイベントに参加するくらい、どうということはないんだよ。
[エッジ] それにしても、この都市の連中は。水遊びは好きなくせに、泳ぎが得意な奴が一人もいないなんてな。
[エッジ] はぁ〜……ゼルウェルツァの威信がかかっているというのに、この老体に鞭打たねばならんとは。
[アヴドーチヤ] ……
[ガヴィル] ハハッ、心配すんな先生。友好第一、勝負はその次だって。
[エッジ] フンッ、そうは言うが、ゼルウェルツァが地上人にレースで負けたなどという噂が広まれば、私たちのメンツはどうなる? やはりこの老いぼれが死ぬ気で泳ぐしかあるまいて。
[ガヴィル] アヴドーチャは? 興味はないらしいが、泳げないとは言ってねぇだろ。
[エッジ] 私たちドゥリン人は、他人を困らせたりはしない。興味がないというのなら、無理強いなどできないさ。
[アヴドーチヤ] ……
[エッジ] それに、アヴドーチャは元々ゼルウェルツァの人間ではないしな。ゼルウェルツァ代表として出たくない気持ちは尊重すべきだ。
[エッジ] つまり、私が覚悟を決めるしかないのさ。
[アヴドーチヤ] ……わかりました、わかりましたわよ! このわらわが、ドゥリンを代表して参加すればよろしいのでしょう?
[アヴドーチヤ] それでご満足していただけるかしら!
[エッジ] おお! 本当か、アヴドーチャ?
[アヴドーチヤ] そこまで言われて、知らぬ振りができると思いますの!?
[ガヴィル] ハハハ、そうこなくっちゃな!
[エッジ] クロッケ!
[クロッケ] ……えっ、アヴドーチャ、本当に参加するの?
[アヴドーチヤ] 何か問題でもございますかしら?
[クロッケ] (小声)一ヶ月クラフトビール飲み放題権……もし彼女が勝てば、大損じゃないの。
[クロッケ] あの〜、どうせただのエンジョイ大会だし、あんまり真面目にやらなくても大丈夫だからね。
[アヴドーチヤ] 出るからには必ず勝ちますわ! ゼルウェルツァのため、ビールのために!
[クロッケ] うぅ、了解。それじゃあ頑張って。
[クロッケ] 皆さんすみません、ちょっと予定変更です。
[クロッケ] ゼルウェルツァ代表選手は、エッジ先生からアヴドーチャさんに急遽変更となりました!
[クロッケ] 彼女に盛大な拍手を!
[ガヴィル] とはいえ、エッジ先生は結局、観測のためにアタシたちと一緒に湖を渡らなくちゃならないんだろ?
[ガヴィル] そんじゃこうしようぜ、エッジ先生。レース中はアタシの背中に乗りな。アタシが運んでやるから。
[エッジ] なんと!
[アヴドーチヤ] ガヴィルさん、わらわを甘く見ていらっしゃるの?
[ガヴィル] ん? そんなことはねぇけど。
[ガヴィル] ただ、アタシはそれでも負けねぇってだけだ。
[アヴドーチヤ] ……
[ガヴィル] それよりアヴドーチャ、参加するなら早く着替えてこいよ。
[アヴドーチヤ] 貴方がハンデを背負うというのなら、わらわもこの格好で結構ですわよ。不公平すぎるのはつまりませんもの。
[ガヴィル] ほう?
[アヴドーチヤ] わらわは普段、あまり運動を好みませんが、だからといって運動が得意じゃないというわけではございませんのよ。
[アヴドーチヤ] サルゴン人に遅れを取るほど、か弱くありませんわ。
[ガヴィル] ハハハ、わかるか、アヴドーチャ。今のお前の目、会ってから一番活き活きしてんぞ。
[アヴドーチヤ] (ウルサス語)慮外者めが。
[クロッケ] それでは、代表選手三名はスタート位置についてください。
[ガヴィル] 呼ばれてるぞ。
[アヴドーチヤ] 貴方に言われるまでもありませんわ。
[エリジウム] あのー……今口を挟むのはちょっと場違いかもだけどさ、僕も競争相手の一人だってこと、二人とも忘れてない?
[エリジウム] まあいっか、どうせすぐにわかるだろうし。最後にみんなをあっと驚かすのは僕だってね。
[クロッケ] さて、選手たちはそれぞれ位置につきました。それではカウントダウンです!
[クロッケ] さーん──
[ガヴィル] 先生、しっかりつかまってろよ。レースが始まったら構ってやれるとは限らねぇからな。
[エッジ] 安心しろ、伊達に歳をとってないぞ。
[クロッケ] にー──
[アヴドーチヤ] ……くっ! 挑発されて、思わずウルサス語を口にしてしまいましたわ。
[アヴドーチヤ] ガヴィルさん、絶対に打ち負かして差し上げますわ。
[クロッケ] いーち──
[エリジウム] あっ! さっきクロッケさんに言ってもらった二つ名に、「荒野の孤高者」ってのも加えてもらえばよかったな。
[エリジウム] 残念、次は忘れないようにしなきゃ。
[クロッケ] (あれ、そういえば映像を撮るんだったら、彼女たちのスピードに追いつけなきゃ撮影できないよね?)
[クロッケ] (船もないし、泳ぎながら撮影なんてできないし、どうしよう?)
[クロッケ] (うーん、まあいっか。)
[クロッケ] スタート!
クロッケの号令と共に、三つの影──正確には二つの影と、一つの影を背負った影が、一斉に水に飛び込んだ。
いよいよレースの始まりだ。
[遠くの放送] 速い速い! まず先頭に飛び出したのはやはりガヴィル選手だ!
[遠くの放送] ガヴィル選手は、ゼルウェルツァに来てからというもの、その比類なき運動能力を我々に見せつけてくれているわけですが──
[遠くの放送] 今回も、エッジ先生を背負っているハンデをものともせず、先頭に躍り出ています!
[スディチ] あいつらはホントのんきだな。
[デカルチャー] どうして一緒に観戦しないの、スディチ・ブランクキャンバス?
[スディチ] デカルチャー!? どうしてここにいるんだ? 鉄道修理の準備をしてるんじゃないのか?
[デカルチャー] そんなに難しいことじゃないし、すでに仕事はロボットたちに振り分け終わったわ。
[スディチ] オレは鉱石病なんだ、軽々しく近づかない方がいいよ。
[デカルチャー] でも鉱石病はそう簡単に伝染しないわよね。違う?
[デカルチャー] それに、あなたの家は静かでしょ。私ここが好きなのよ。
[スディチ] ……
[遠くの放送] これは予想していませんでした! 首位は相変わらずガヴィル選手ですが──
[遠くの放送] その後にピッタリとつけているのは──アヴドーチャ選手だ!
[遠くの放送] ゼルウェルツァでは、いつも優雅な淑女という印象のアヴドーチャ選手ですが、まさかまさか! その身体にこれほどの力を秘めていたとは驚きです!!
[遠くの放送] アヴドーチャ選手がガヴィル選手に食らいついたまま、二人の距離は全く開いていません。
[遠くの放送] うわっ、ちょっと見えない……誰か肩車して。
[遠くの放送] うん、よし! ありがとう。
[スディチ] ウルサス人はみんな体力バカで、氷をかじるだけでも三ヶ月は生きられると『奇談怪論』に書いてたが、まさかあのガヴィルに食らいつくなんて……
[デカルチャー] やっぱり向こうの状況が気になってるじゃないの。どうして近くへ見に行かないのかしら?
[スディチ] オレはあんな時間の無駄に、興味ないんで。
[デカルチャー] そう? でも、コンペ用の設計図を書く筆が、さっきからちっとも動いてないみたいだけど。
[スディチ] ……
[スディチ] アンタ一体何しに来たんだ、デカルチャー?
[デカルチャー] 私はただ、ちょっと気になっただけよ。スディチ、あなたは何を悩んでいるの?
[デカルチャー] ガヴィルたちを騙してしまったと思ってるとか?
[デカルチャー] 本来、これって面倒な話じゃないのよ。あなたにドームを直す気があれば、すべての問題は簡単に解決するでしょ。
[デカルチャー] だけどドームを修理したくないあなたは、みんなの採決を口実に修理できないと言い張って、滑り台を爆破して鉄道の方を再建することを「無理やり」提案した。
[スディチ] 滑り台を爆破して鉄道を修理すれば、同じように活性源石層の分布状況を調べられる。オレは間違ったことは言ってない!
[デカルチャー] あなたが間違ってるなんて言ってないわ。機械設備での源石観測は淘汰されかけている技術で、都市にある装置も少し古いとはいえ、まだ使用できるのは事実だもの。
[デカルチャー] だからボートの完成を待って装置を設置しに行けば、エッジ先生の問題は解決するわ。
[デカルチャー] 彼があなたに、ドームを修理しろとしつこく迫ることはなくなり、あなたはこの家で自分の好きなデザインをして、キャッチと切磋琢磨を続けることができる。すべて丸く収まるでしょうね。
[デカルチャー] なのに、どうしてあなたは焦っているの?
[デカルチャー] 何のために焦っているの?
[スディチ] オレは……
[遠くの放送] さあ、レースもあたたまって参りました! 私の目測では、およそ三百メートルを過ぎたところでしょうか。
[遠くの放送] え? もう四百メートル? オッケー、了解。
[遠くの放送] とにかく、現在の順位はスタート時と同じく、一位ガヴィル選手、二位アヴドーチャ選手、三位エリジウム選手です。
[遠くの放送] しかし……奇妙なことに、エリジウム選手が二人を追い抜いたことは一度もありませんが、彼の泳ぐ姿はとても……カッコいいかも?
[遠くの放送] もしかして、彼は、あえて三位をキープしているとか?
[スディチ] オレはただ、少し落ち着かないだけだ。
[スディチ] 全部をガヴィルたちに丸投げしてるような気がするんだ。
[スディチ] キャッチと、ゼルウェルツァの新しいシンボルの設計権を巡ってコンペすることには同意した。だけど……どうやって市民を説得すればいいんだ? オレには、これだって思えるものがまだないんだ。
[デカルチャー] スディチ、もしあなたがキャッチの前でも、それくらい素直に話せれば、あなたたちの関係はもっと良くなるはずよ。
[スディチ] ……ないな。
[スディチ] オレがあいつを好きになることは永遠にないし。あいつもそうに違いないよ。
[デカルチャー] うーん……まあ、私はリラックスするために来ただけだから。あなたがここで真っ白な設計図に向かってボーっとしていようと、私には関係ないわ。
[デカルチャー] でも、もし見に行く気があるのなら──
[奇怪なロボ0429] デカルチャー、デカルチャー。鉄道橋建設用ボート、一艘完成。湖畔ニ停泊中。計画通リデス。
[デカルチャー] そのボートには、エッジ先生が必要としてる掘削機と源石鉱脈の観測用設備が搭載されてるわ。私の代わりに設備を届けてきてもらえないかしら?
[スディチ] ……
[スディチ] ありがとう。
[奇怪なロボ0429] デカルチャー、デカルチャー。スディチノ面倒、見ル。
[デカルチャー] 彼の面倒を見てるのは……何も私一人だけじゃないわ。
[デカルチャー] まあでも、彼も行ったことだし、ようやく一眠りできるわね。
[デカルチャー] あとの工程は、あなたたちとあの地上人たちに任せたわよ?
[奇怪なロボ0429] 安心安全。トモダチノズゥママ手伝ッテクレル。安心。
[デカルチャー] あなたたち、そんなに彼女のことが好きなの?
[奇怪なロボ0429] ズゥママ当機タチノ面倒見ル。ズゥママ好キ。
[デカルチャー] ほんと、不思議な地上人よね。
[高いクロッケ] さらに正確な実況をお届けするために、私たちも湖のそばまで移動してきました!
[高いクロッケ] おや? あちらからやって来るのは、建築デザイナーのスディチ氏でしょうか?
[高いクロッケ] ちょっと、あなたたち動かないで! バランスが崩れるでしょ!
[高いクロッケ] きゃああああ!
クロッケは、レース状況をもっとよく見るために、ドゥリン人たちがタワー状に重なったその天辺に立っていた。
しかし、十数人分もの高さにまで積み上げられたドゥリンタワーはやや歪んでおり、クロッケがふらついたことで、決定的に傾いて──
[クロッケ] 痛ったーい! うあー、お尻が……
[トミミ] えっと……ここにボートがあるって、ロボットさんが言ってたはずなんだけど。
[トミミ] この設備はエッジ先生が使うやつだよね?
[トミミ] よいしょっと。ガヴィルさんの装備も載せておいて、ボートを運転する人に持って行ってもらおう。
[スディチ] はぁ……はぁ……
[スディチ] これが例のボートだよね?
[トミミ] スディチさん? 多分そうだと思いますけど。
[スディチ] 先に行かせてもらうよ。
[トミミ] えっ?
[クロッケ] おや? ……ロボットたちが湖まで運んできたボートにスディチ氏が飛び乗って、そのまま対岸に向かって行ってしまいました!
[クロッケ] まさか、彼もレースに参加するというのでしょうか!?
[クロッケ] 確かに言われてみれば、乗り物を使ってはいけないなんてルールは定めてなかったかもしれません!
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