aklib_story_翠玉の夢_DV-6_夢からの解放_戦闘前

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。 各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。 著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

翠玉の夢_DV-6_夢からの解放_戦闘前

銀色の何かを操っているのは被験者たちの集合意識だったことが判明し、実験の持つ真の目的の恐ろしさが見えてきた。他方で、サリアは基地を利用するフェルディナンドの目論見を看破するものの、それを伝える手段は現状ないようだ。

---

巨大な機械が暗闇の中で沈黙していた。

絡み合うケーブルはまるで植物の根や茎が広がったように見え、その「枝」の先には重たいつぼみがついている。

そのつぼみはわずかな輝きを放つ電極で、それが取り付けられた生命体から養分を吸い取っているようだった。

姿を消した開拓者たちは、皆頭にその電極を付け、並んで寝かされていた。

彼らは今も正常な呼吸をしていたが、外で何が起きているかに気付いた様子はまったくない。

室内で最も目を引いたのは、すべてのケーブルの中を流れ、中央の機械へと集まっている銀色の液体だ。

異様な状態にある数十名の被験者たちに比べると、その液体のほうこそ「生きている」ように見えた。

[エレナ] どうしてこんなことを……

[エレナ] ……え……もしかして、ヘレン……？

[エレナ] なんでここに……

[サニー] ディルク、ゲイル、ソフィア！

[サニー] ここにいたのか……！

[サニー] みんなを解放しろ。

[ドロシー] ……

[ドロシー] お願いだから、もっと小さな声で話してくれる？ みんなをびっくりさせちゃうわ。

[ドロシー] ごめんなさい、少し待っていてね……ちょっとトラブルがあったんだけど、すぐに解決するから。大丈夫よ、私が保証するわ。

[サイレンス] ……あの人たちに話しかけてるの？ 聞こえてないと思うけど……

[サイレンス] このバイタルサイン、昏睡状態のジョイスに似てる……ほかではこんなの見たことない。

[サイレンス] あの電極と、銀色の液体は……被験者たちの中枢神経系に接続されているのかも。

[エレナ] ドロシー……どうして、ヘレンまでここにいるの？

[ドロシー] 彼女、フェルディナンドの審査を通過できないかもって心配していたから……私から提案したの。

[エレナ] 提案って……被験者にならないか聞いたってこと？

[エレナ] 今朝まで普通に話してたヘレンが、こんなふうになってるなんて……

[ドロシー] 私は彼女を救いたいの。

[ドロシー] みんなの苦しみを感じ取れるのと同じように……彼女がどんなに苦しんでいるか、私にはわかるから。

[ドロシー] ヘレンの抱えているローンは、彼女の家族全員の生活を壊していたのよ。

[ドロシー] そのせいで、彼女は毎日を恐怖の中で生きていた……もし本当に解雇されてしまったら、自殺すら考えたと思うわ。

[ドロシー] 私がここで実験を止めてしまったら……彼らはみんな、悲惨な運命を辿るしかなくなってしまう。

[ドロシー] そんな残酷なこと、私にはできないわ。

[サニー] ……やめろ。

[サニー] その独善的な物言いを今すぐやめるんだ。でなきゃ、次はあんたの頭をぶち抜くかもしれないぜ。

[ドロシー] サニー……あなたは、この光景のことも、私のことも、正しく理解していないからこそ怒りを感じているのよ。

[ドロシー] だけど、私にはあなたを理解できるわ。

[サニー] バカげたこと言ってんじゃねえ！

[サニー] あんたは俺たちをよーく「理解」してるから、お優しくもお恵みくださったわけか。天災や獣に殺される以外の新しい「チャンス」――

[サニー] 大企業様の実験室で、生ける屍になる道を！

[サニー] 実に寛大なご提案だな！

[ドロシー] ……これまでに、考えたことはないの？ 同じ感染者なのに、なぜ都市で仕事を続けられる人と、故郷を離れざるを得ない人がいるのかを……

[サニー] あんたに言われるまでもないさ。

[サニー] あの時――診断結果が出た翌日、俺のところには保険契約書と解雇通知書が届いた。

[サニー] 契約書のほうは569ページもあったが、解雇通知書は薄っぺらな紙切れ一枚だ。

[サニー] 会社側が高額な保険料を払ってもいいと思えるくらいの価値を証明できない限り、感染者を雇おうとする企業なんざほとんどない――

[サイレンス] ……

[エレナ] っ……

[ドロシー] 不公平だとは思わなかった？

[サニー] ……当然だろ。

[ドロシー] それなら、きっとあなたも私のことを理解してくれるはずよ。

[Mechanist] ……サイレンスとグレイに連絡がつかない。

[Mechanist] 基地は完全に封鎖されているようだな。

[ミュルジス] フェルディ……ナンド……

[サリア] ラボの封鎖は目的ではなく、その達成のための手段にすぎない。

[サリア] 奴はこれから、359号基地で派手に行動を起こすはずだ。

[Mechanist] サイレンスたちが危険にさらされかねないぞ、ドクター。

[Mechanist] 基地内部の情報はないが……今すぐ支援に向かうべきだろうか？

[ドクター選択肢1] フィリオプシスなら……

[ドクター選択肢2] ……九号デバイスはどうだ。

[Mechanist] 確かに、九号デバイスの通信システムは通常のものとは違う……あれなら、信号が一瞬でも回復すれば、フィリオプシスから送られてきた記録を確かめられるだろう。

[Mechanist] すぐに同期を試してみよう。

……本当に彼と一人で会うつもりですか？ フランクスさん……

ええ。管理局からの許可も得ているわ。

ですが、ローキャン・ウィリアムズは狂人だそうですよ。残酷な人体実験を行って、百年以上の懲役判決を受けたとか。

知ってるわ。昔、彼の講義を聴いたことだってあるしね。

でも、科学者って皆頭がおかしい連中なのでは――あ、いえ、申し訳ない……あなたも科学者でしたね。ただ、あなたみたいな優しく淑やかな女性は、彼らとは違うと思いますし……

大丈夫、わかってるわ。私を心配してくれてるんでしょう？ ありがとう。よく気をつけるわね。

は、はい……それで、どのくらい面会されるおつもりで？

一時間よ。必要なら、来週もまた同じ時間に来るわ。

あの人と話したいことがそんなにおありなんですか？ そんなに他人に構わない人だと思いますが……

それは……きっと彼から何かを得ようとしていたからでしょうね。だけど私は……あの人に、助けを求めに来たのよ。

[ドロシー] チャンスというのは、等しく与えられるべきだと思うの。才能の違いで人生の方向を決められるのは望ましくないわ。

[ドロシー] 才ある人がその才能で特権を得ると、結果的にその人がほかの人の利益を奪ってしまい、公平性を損なうことになる……

[ドロシー] 私はその既得権益を持つ一人であることを、自分の「幸運」を恥じているの。

[ドロシー] だからここにいる人たち……ディルク、ヘレン、そしてサニー……あなたのことも含めたみんなを、泥沼に飲み込まれる前に助けてあげたいだけなのよ。

[ドロシー] 私は、これまで……才ある人がひいきされることなく、努力した人だけに「幸運」が訪れる、そんな未来を願って力を尽くしてきた。

[サニー] ……

[ドロシー] もう何年も、そのために努力してきたの。

[ドロシー] だけど、個人に改造を加えて強化したところで、この問題は解決しない……

[ドロシー] 生まれつき強い人が同じことをすれば、より強くなれるのは明白だもの。そうなれば、新しい基準での競争でも、出だしで先手を打たれてより大きな格差が生まれる可能性すらあるし……

[ドロシー] 真の平等を目指すために、私にできるのは……

[サイレンス] ……個人差をなくすこと……？

[サイレンス] 意識のない被験者……感情的な反応をするアーツの被造物……そしてそれを繋いでいる巨大な機械……

[サイレンス] あなたのしてる、実験って……

[サイレンス] 似たような話は聞いたことがあるけど、こんな狂気的なこと、どれもとっくに失敗したと思ってた……

[ドロシー] ……「狂気的」……ね。

[ドロシー] 技術それ自体に「狂気的」なものなんてないのよ。だって、色んな理想を実現するための手段にすぎないんだもの。

[ドロシー] 話を戻しましょう。――個人差は必ず存在している。それを無視したり忘れたりする必要はないけれど、一生振り回される必要もないと思うの。

[ドロシー] この技術があれば、人々はお互いをより平等に感じられる。そして大地を、空気を、雨をも等しく感じることができるの。

[ドロシー] 険しい道に行く手を阻まれることもなければ、嵐で視界を遮られることもない……

[ドロシー] 前へ進むため苦難に耐える必要はないし、大切な家族との別れもなくなって、より安全に遠くを見すえることができるのよ。

[ドロシー] そんな未来がどれだけ素晴らしいものなのか……あなたたちにはわからないの？

[エレナ] ……じゃあ、私は……

[エレナ] これが何の実験なのか、理解してなかったってこと……？

[サイレンス] ……エレナ。銀色のアレを操っている術師の正体がわかったよ。

[サイレンス] さっきまでこの被験者たち一人一人が術師だと思ってたけど、実際には――

[サイレンス] この人たちは全員で「一人」の術師なんだ。

[ドロシー] ……鋭い観察力ね。

[サイレンス] ドロシー。あなたの思い描く未来は……あなたの想像上のものでしかない。

[サイレンス] 私の想像では……別の光景を思い浮かべた。

[サイレンス] 優れた術師なら、一人でも簡単に建物を破壊できるもの……それが三人もいれば一つの区画を監視・制圧してしまうこともできる。

[サイレンス] だったら、数十、数百、数千人の力を合わせたらどうなると思う？

[サイレンス] ……大地の隅々に至るまで、その人たちの監視から逃れることはできなくなる。その上どんなに堅牢な砦も、彼らからすれば簡単に握りつぶせるおもちゃ同然の存在になるんだ。

[サイレンス] そして、あなたが気にかけ、「友人」と呼ぶ被験者たちは――この技術を利用したがっている奴らからすれば、永遠にただの実験台にしかなりえない。

[サイレンス] これが失敗すれば……ううん。そうなればまだマシなのかもしれないな。ああいう奴らは失敗作には興味がないから、放っておいてくれるしね。

[サイレンス] それより、「幸運にも」成功してしまうことのほうこそが、最大の不幸なんだ。

[サイレンス] 仮に成功してしまえば、その日を境に被験者たちは企業や政府の監視下でしか生きられなくなってしまうから。

[エレナ] オリヴィア……初めて見たよ、キミがそんなに……

怒っているところなんて。

一方でサイレンス自身も、己の怒りを感じ取っていた。頭の中がざわついて、過去の光景が次々と浮かび上がり、理性や教養を吹き飛ばしていく。

[サイレンス] 確かに、あなたは彼らの運命を変えることになる。だけど、その代償として――彼らの自由と人生は永久に失われてしまう！

[ドロシー] ……私がみんなを守ってみせるわ。

[ドロシー] そのためなら、喜んでこの命を捧げましょう。

[サニー] ……きっと、ここであんたを殺すのが誰にとっても一番安全なんだろうな。

[ドロシー] それがあなたたちの下した判断なら……

[ドロシー] 抵抗はしないわ。

[エレナ] サニー！ 衝動的になっちゃダメ！

[サニー] ははっ……衝動的になんてなってないさ。

[サニー] なんなら、これまでで一番頭が冴えてるくらいだ。

[サニー] ドロシー・フランクス……あんたが描く未来は魅力的だと認めざるを得ない。

[サニー] 俺はあと一歩であんたのラボへ足を踏み入れるところだったし……その手を取りたいと思った回数に至っては、あんたでさえ想像のつかない数だろう。

[ドロシー] ……なぜそうしてくれなかったの？

[サニー] 簡単さ。俺の未来は……俺のものだからだ。

[サニー] あんたの言葉や態度を前にして……手を取りたいと思うたびに意識させられるんだ。

[サニー] あんたが俺たちを操っていることをな。

[ドロシー] そんな……

[サニー] 甘い夢から抜け出すのは……悪夢から逃れるよりも難しい。

[サニー] あんたもその夢の中にいるのかもしれないが、俺たちが向き合うべきなのは現実のほうなんだ。

[サニー] サイレンス先生の言う通り、こんな実験は初めから存在しちゃいけなかったのさ。

[サニー] この国には生んだ狂気にはもうたくさんだ。こんな狂った考えは……さっさと葬り去ったほうがいい。

[サニー] たとえ俺たちがここで全滅しようとも……俺が最悪の結末を迎えることになろうとも――

[サニー] こんなことはこれっきりで終わらせたいんだ。

[エレナ] っ……オリヴィア、どうしよう！？ どうすればサニーを説得できるのかな……！？

[エレナ] たとえ、やったことが間違いでも……ドロシーは本気で被験者の人たちを助けたいと思ってるのに……

[エレナ] 阻止されるべきことを、罰されるべきことをしたんだとしても……こんなふうに……大好きな人たちからなんて……

[サイレンス] ……

[フィリオプシス] サニー……

[サイレンス] ……ジョイス？

[サイレンス] 目が覚めたの……？

[フィリオプシス] フランクス主任を傷つけるのはやめてくれ。

[Mechanist] ドクター、同期は失敗だ。

[Mechanist] ……基地内の状況は、想像以上に深刻なのかもしれないな。

[ミュルジス] っう……

[ドクター選択肢1] 大丈夫か？

[ミュルジス] ええ。支えててくれてありがとう、Dr.{@nickname}。

[ミュルジス] お陰様で、やっと足の感覚が戻ってきたわ。

[ドクター選択肢1] 359号基地の背後にいるのはライン生命だけではない。

[ドクター選択肢2] フェルディナンドはほかの大きな勢力と手を結んでいる。

[ミュルジス] フェルディナンドの協力者のことなら、サリアにもよくわかってるはずよね。

[ミュルジス] あなたが長いこと追い続けてきたパワードスーツ……あれを着ることになるのは、最先端の武器を求める人たちだけだもの。

[サリア] お前はその連中を見たんだろう。もったいぶらずに、集めた証拠を出せ。

[ミュルジス] ……はい、どうぞ。

[ミュルジス] やっぱりさっきの優しさは気のせいだったのかしら？ あなたが欲しがる証拠を掴むために、あたしは死にかけたのに。

[サリア] ――

[サリア] 我々の推測は当たっていた。

[サリア] フェルディナンドはもはや野心を隠そうともしていない。

[ドクター選択肢1] この実験と引き替えに後ろ盾を得るつもりなのか。

[ミュルジス] ……そう。それでライン生命を乗っ取る気なの。

[ミュルジス] あいつの一番の目的はクリステンよ。彼女を探し出さないと……

[ミュルジス] サリア、メッセージは確認してくれた？

[サリア] ……ライン生命にいる内通者に連絡してみたが、社内はいつも通りだと言っていた。

[ミュルジス] 統括が顔を出さないことに慣れきってるせいね。

[ミュルジス] フェルディナンドは何年もかけて統括を実質的なお飾りに仕立て上げてきたの……この実験と引き換えに、切り札を得るのがこの計画の最終段階よ。

[ミュルジス] まあ、もしかするととっくに手遅れかもしれないけど……

[ミュルジス] あたしが捕まるより一週間以上前から、クリステンに連絡がつかないの。

[Mechanist] 彼女を探すとして、基地のほうはどうするんだ？

[ミュルジス] サイレンスさんなら大丈夫だと思うわよ。あたしも、彼女には一杯食わされたことがあるしね。

[サリア] ……

[ミュルジス] 躊躇ってる時間なんてないわよ、サリア。

[ミュルジス] 選択をしないと。

[サリア] ……これは選択肢のある問題ではない。

[サリア] 基地の問題を解決するには、フェルディナンドの問題を片付ける必要があり、その方法は目の前にある。

[ドクター選択肢1] 総括に会いに行くとしよう。