aklib_story_狂人号_SN-ST-6_下層ホール

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狂人号_SN-ST-6_下層ホール

シーボーンを追ううちに、この船の主人、アルフォンソ船長が姿を現した。数十年の時を狂人号で過ごし、半分シーボーンになりかけながらも、彼は己の意志を失わずに生き続けていたのだ。しかし、船長は無情にも、ここから立ち去るようにと言い渡してきた。


[審問官アイリーニ] ッ……進めば進むほど、恐魚が増えてるじゃない……!

[審問官アイリーニ] 早く合流しないと危険ね……

[審問官アイリーニ] ……

[審問官アイリーニ] 師匠……私はどうすれば、あの人たちみたいに……

[???] ……グァア……

[審問官アイリーニ] ! シーボーン……!?

[審問官アイリーニ] (甲板で見たあいつだわ! でも、あんな一撃を食らったのに、少しもダメージを受けてないってこと……!?)

[???] ......

[審問官アイリーニ] (……どう仕掛けてくるかしら? 手足を遣うか、噛みついてくるか……)

[審問官アイリーニ] (何にせよ、まずは距離を取らないと。ハンドキャノンを――)

[???] ......

[審問官アイリーニ] ……え……?

[審問官アイリーニ] ちょ、ちょっと待って! あなたが腰から下げてるそれって……!

[審問官アイリーニ] どうしてそんなものを!? ……っまさか、あなた……!

[???] アオオオッ――!

[審問官アイリーニ] くっ……! う、ぁ……はぁっ……!

[審問官アイリーニ] (なんて馬鹿力……! 運良くしのぎはしたけど――)

[???] ……イ……

[???] ......

[審問官アイリーニ] 一体何が言いたいわけ?

[審問官アイリーニ] なんにせよ……こんなところで倒れるわけにはいかないわ!

[審問官アイリーニ] 私は、イベリアの審問官なんだからっ!

[大審問官ダリオ] ……やれやれ。

[大審問官ダリオ] 溟痕を焼くのに時間を取られてしまったな。

[大審問官ダリオ] ……状況は楽観視できそうにはない、か。

[恐魚] グルル……ギュギュ……

[ジョディ] (ここからなら、下の状況を見られそうだな……)

[ジョディ] もう何時間経ったんだろう? それに、大審問官さんは……あとどれくらい持ちこたえられるのかな……?

[ジョディ] ……もし、僕が……いや。考えるな、ジョディ。集中するんだ!

[ジョディ] 裁判所の人たち……どうか、間に合ってください……

[スペクター] あら、どうしたの? もうお終い?

[シーボーン] ……グ、アァ……ァ……

[スペクター] そう。――あなたのお友達が泣き叫ぶ声が聞こえる? サルヴィエントで見たお花さんは、まだいくらか綺麗だったけれど……あなたはどうかしら。

[スペクター] とりあえず、目が覚めてから最初のダンスレッスンとしては、退屈すぎるってことは確かね。

[シーボーン] ガァアッ……!

[スカジ] 待ちなさい!

[スペクター] あれは私が追いかけておくから、あなたはイベリアの小鳥さんを探してちょうだい。

[スカジ] ……今の気分はどう?

[スペクター] とってもいい感じよ。星の海から降り注ぐ滝みたいに、記憶が流れ込んでくるの。自分のすべてを思い出すにはもうしばらく時間がかかりそうだけど。

[スペクター] とはいえ、ここ数年のことを思い返すと、ちょっぴり恥ずかしくはあるわね。

[スカジ] ……まだ不安定な状態みたいだし、やっぱり私が追うわ。

[スペクター] なあに? 私の獲物を横取りするつもり?

[スカジ] 奴は海へ逃げ込もうとしてるのよ。

[スペクター] それはそうでしょうけど、あの子が逃げたのは私たちに勝てないからじゃないのよ。

[スペクター] 一体何を見つけたんでしょうね?

[スカジ] 今、そんなこと考えてる時間は――

[???] ......

[審問官アイリーニ] げほ、ごほっ……やっぱり、まだハンドキャノンを制御するのは無理そうね……

[審問官アイリーニ] ちょっと、待ちなさいってば……!

[審問官アイリーニ] ――って、あら? アビサルハンター?

[スペクター] おはよう、アイリーニ。次の獲物を連れてきてくれてありがとう。

[審問官アイリーニ] ……今、アイリーニって呼んだわよね? あなた……もしかして、記憶が戻ったの?

[スペクター] ええ。まだ完全ではないけどね。それでも、今はすっごくいい気分だし、コンディションも最高よ。

[スカジ] 二人とも、お喋りしてる場合じゃないわよ。

[スカジ] このシーボーン、甲板で見た奴でしょ。第二隊長の攻撃を避けられるくらいの相手なのよ。

[スペクター] すごいじゃない、アイリーニ。そんなのを相手にして、傷を負わされずにここまで追い立ててくるなんて。しっかり褒めてあげないとね。

[審問官アイリーニ] いいえ。追い立ててきたわけじゃないし、奴はそもそもほとんど攻撃してこないのよ。――ほら、今だってそうでしょう?

[スペクター] そうねえ……こんなに隙だらけでお喋りしてるんだから、衝動的に攻撃してくると思ってたんだけど。

[???] ......

[スペクター] あなたのお友達なら、ついさっき出て行っちゃったわよ。今から追いかければ、まだ間に合うんじゃない?

[スペクター] 仕掛けてこないってことは、あなたも平和主義者なのかしら?

[グレイディーア] ……

[グレイディーア] (カジミエーシュ……以前スカジが暫く滞在していた陸上国家だったわね。広大な草原と森林を有する、騎士の国だと聞いたことがあるけれど。)

[グレイディーア] (「騎士」、ね……)

[グレイディーア] ……果たして偶然なのかしら? あるいは、何かに惹きつけられているとか?

[グレイディーア] この船にしても――ブレオガン、あなたが故郷に残そうとしていたものは一体何? その答えはどこに隠したの?

[グレイディーア] ……うん?

[グレイディーア] (恐魚の死骸……だけではないようね。)

[グレイディーア] (この無駄のない切り口……抵抗した痕跡すら見当たらないわ。……その上匂いが入り混じって、空気がやけに濁っている。)

[グレイディーア] (船内に……まだ、ほかの何かがいるということ?)

[???] ——

[審問官アイリーニ] そのベルトと懐中時計は、間違いなく人間の――それも、イベリアの制式採用品よね!

[審問官アイリーニ] あなた、一体何者!?

[???] ......

[スペクター] 時間稼ぎをしているみたいね。

[スカジ] もう一匹が海へ戻ってしまったら、面倒なことになるわ。

[???] ......

[スペクター] それでもまだ攻撃はしてこないなんて……随分消極的なダンスパートナーね。

[スペクター] ――スカジ、私に合わせて。

[スカジ] ええ。

[???] ――グ、ッ……!

[???] ……ゥ、グ、ァァッ……

[スペクター] 二人がかりで攻撃したのに、反撃してこないわね。ここまで来るとなんだか可哀想。

[スカジ] ……! 違う!

[スカジ] 奴は時間稼ぎをしてたわけじゃないんだわ!

我がイベリアを穢したのは、何者だ? 無礼な輩め……

[審問官アイリーニ] こ、これは――鐘の音……!?

[???] ギュアアアアアッ――!

誰もいない黄金の広間に、鐘の音が響き渡る。

広間の灯りがちらちらと順に瞬いて、三人がそれに気を取られた瞬間に、シーボーンは玉座のそばへと降り立った。

そう、そこにあるのは玉座だ。

このイベリアの大船には、玉座が存在していた。それは傲慢さの結晶であり、権力の果実であり、愚昧な文明の共犯者であった。

[スペクター] あれって、まるで……

スペクターは、自分でもあまりにも馬鹿げていると思ったのか、それ以上言葉を続けはしなかった。

冠を被ったシーボーンは、カーテンと同じ色を纏っていた。玉座のそばで静かにひざまずくその姿は、玉座の主と最も親しい立場にあるように見えた。

それは、昔の王妃や大臣のように、イベリアの黄金の太陽に仕えていたのだ。

その時、玉座の陰から一人の男が現れた。

アイリーニは灯りを高く掲げて暗がりを照らし、その人物の全体像を確かめようとした。

[シーボーン?] 貴様らは、何故……我が船に、立ち入った?

[シーボーン?] ごほっ……げほっ、ごほ……っ、はあ……

[シーボーン?] ……答えろ。……この、偉大なる……アルフォンソに、何の用だ?

[アルフォンソ船長] 一体、何のために……これまでの、静寂を破り……何十年もの間、誰に顧みられることも、なかった……「我がイベリア」を訪れた?

[アルフォンソ船長] まずは、貴様から……答えろ。旧、イベリア人。

[審問官アイリーニ] ――

アイリーニは我が目を疑った。彼の顔には、見覚えがあったのだ。

若くして審問官となり、常に勉学を怠らずに過ごしてきたアイリーニは、経典を熟読し、歴史を学んで、信条を力に変えてきていた。ゆえにこそ、歴史書の中で見た顔を覚えていたのだ。

「このシーボーンが、アルフォンソですって?」

「あの人は、イベリアで最も偉大な船長なのよ!」

[審問官アイリーニ] ――あ、あなたがここの船長だって言いたいの!? そんなわけないじゃない、この怪物!

[審問官アイリーニ] そもそも、アルフォンソ船長は、六十年前の時点で五十歳近いご年齢だったのよ! 万一ご存命でも、当時のままの姿でいるなんてことありえないわ!

アイリーニは自身の動揺を感じ取っていたが、そんな弱みを見せるわけにはいかない。

彼女は反射的に、上官と同じように灯りを掲げた。

[審問官アイリーニ] 正体を現しなさい! シーボーン!

[アルフォンソ船長] ……

[???] ......

灯火が揺らめく。審問官が手にしたその小さな灯りは、黄金の広間が放つ輝きよりも、「喪失」という言葉こそが似つかわしいように感じさせるものだった。

黄金の時代。

玉座のそばに控えた「シーボーン」は、アイリーニをしばし見つめたあと、軽蔑したように目を背け、すでに人のそれではない「アルフォンソ」の腕を軽く撫でた。

ほんのわずかな静寂が、英雄を包み込む。

[アルフォンソ船長] ……「シーボーン」、だと? 馬鹿げた呼び名だな。

[アルフォンソ船長] 旧イベリア人よ、名を名乗れ。

[審問官アイリーニ] 私はイベリアの審問官、アイリーニよ。

[審問官アイリーニ] 「旧イベリア」だなんて、笑わせないでちょうだい。イベリアの名を汚す物言いは許さないわよ。私が――

[アルフォンソ船長] 口の利き方を弁えろ、小娘!

[???] (言葉を遮るような甲高い声)――

[審問官アイリーニ] っ……!

[アルフォンソ船長] この俺がヴィクトリア艦隊を焼き払い、獅子王の名誉を湖底へと投げ捨ててやった時、貴様はどこにいた?

[アルフォンソ船長] 船に積んできた純金を、俺がこの手でサルヴィエントにばら撒いていた時、貴様は何をしていた?

[アルフォンソ船長] イベリアの大方陣がリターニアの朝日を暗雲の如く遮った時、貴様はどうしていたかと聞いているんだ!

[審問官アイリーニ] 何を――

[アルフォンソ船長] ごほっ! ごほ、げほっ……っ、ごほっ……はあ、っ……

[アルフォンソ船長] 我が名はアルフォンソ。旧イベリアの公爵にして、その大艦隊の総指揮官。スタルティフィラ号の船長にして、自らに戴く王である。――貴様のような審問官風情が、誰に向かって口を利いている?

[???] ……(不満げに首を振る)

[アルフォンソ船長] 無知な国教会の手の者め。海を渡って俺を探しに来たことを褒められでもしたいのか?

[アルフォンソ船長] どう辿り着いたにせよ、すぐに立ち去れ。「狂人号」は貴様らを歓迎していない。――ガルシア、我が忠実なる副船長よ。こいつらのことは放っておけ。

[アルフォンソ船長] お前が奴らに血を流させれば、この連中はそれを千倍にして海へと返してくることだろうしな。

[ガルシア副船長] ア……(頷く)

[審問官アイリーニ] 裁判所への侮辱は、イベリアにおいては重罪よ。

[アルフォンソ船長] ……俺の言ったことが理解できないのか? 俺は出て行けと言ったんだ、旧イベリア人。この船の人間はとうに死に絶えているのだしな。

[審問官アイリーニ] ――ッ、私たちがどれだけの犠牲を払ってきたと思ってるの!?

[アルフォンソ船長] ……

[審問官アイリーニ] 私はっ……あなたの許可を得るためにここへ来たわけじゃないのよ……!!

[アルフォンソ船長] 騒々しい。……国教会の人間に再び会うことになろうとはな。お陰でますます貴様らに嫌気が差した。

[アルフォンソ船長] それにしても、「重罪」とは片腹痛い。あの惰弱な王族を相手に為す術もなかった国教会が、か?

[アルフォンソ船長] ……

[アルフォンソ船長] 貴様が旧イベリアから来たというのなら……今の教皇が誰かは答えられるだろう? もしや、カルメンか?

[審問官アイリーニ] ……! 聖徒閣下の御名を知っているの……?

[アルフォンソ船長] 聖徒? ふっ……聖徒だと?

[アルフォンソ船長] ッハハ、これは傑作だ! ハハッ、ハハハハ!

[審問官アイリーニ] な、何がおかしいのよ!

[アルフォンソ船長] まさか教皇になる勇気さえないとはな。奴は恥ずかしくないのか?

[アルフォンソ船長] 道理で、ここへ辿り着くのに六十年もかかったわけだ。あの災厄は旧イベリアを随分と臆病にさせたようだな。

[アルフォンソ船長] ……だが、それも些末なことだ。船医の奴が珊瑚へと変わる前に、俺はあいつと旧イベリアの現状についてあらゆる観点から推測を立てていた。……こうなることも、わかっていたさ。

[アルフォンソ船長] ――今、貴様らが立っている、この曇りなき黄金の広間こそが、我が記憶の中の祖国だ。

[アルフォンソ船長] そう、これこそがイベリアなのだ! 貴様の言う「イベリア」は、貴様が目にし、理解したいと思った非常に狭い範囲のことでしかない。

[アルフォンソ船長] かつては大地を股に掛けていたかの国が、ここまで腑抜けになるとはな。

アルフォンソはそう言うと、階段を降りてくる。

アイリーニは一歩後ずさり、その手の灯りがゆらりと揺れた。

[アルフォンソ船長] ……それで、エーギルまでいるのはなぜだ? 我がイベリアには、貴様らを歓待するつもりはないんだが。

[スペクター] ごめんなさいね、船長さん。悪気はなかったの。私たちは単に、気味の悪い怪物を追いかけてたせいで、あなたと副船長さんをそいつらと混同しちゃっただけなのよ。

[スカジ] ……ねえ、あなた今までどうやって生き延びてきたの?

[アルフォンソ船長] 馬鹿なエーギルにしては良い質問だな。俺と奴の狩猟ごっこも随分長く続いてきたが、今日明日辺りであれを収穫するつもりだったんだ。

[アルフォンソ船長] だというのに、貴様らが俺の獲物を追い払ってくれたお陰で――

[アルフォンソ船長] ――待て。まさか、貴様……!

[スカジ] ……?

[アルフォンソ船長] やはり違う……ただのエーギルではないな? 貴様ら二人ともだ!

[アルフォンソ船長] 名を名乗れ。

[スカジ] ……スカジよ。

[アルフォンソ船長] 違う、そんなはずはない。謀ろうなどとは考えるなよ。俺たちは何十年とこの船に囚われているが、頭までやられたわけではない。

[アルフォンソ船長] 奴らは、貴様を「Ishar-mla」と呼んでいたんだぞ。

[アマイア] ……あの鐘の音、あなたにも聞こえましたか?

[ウルピアヌス] この船にもまだ使い物になる設備があるとはな。

[アマイア] ここでは、あの鐘は狩りの始まりを意味するようですよ。

[ウルピアヌス] 狩人は誰で、狩られる獲物は何者だ?

[アマイア] 海の民たちは、そのようなことは気にも留めません。あのアルフォンソを弱った同胞と見なしていれば、強力な個体を生かすため血肉を分け与えることも厭わないでしょう。

[ウルピアヌス] ……

[アマイア] ――狩人が一人、向かってきていますね。

[ウルピアヌス] グレイディーアだろうな。あいつの鋭さを前にしては、陸で学んだ小細工など長くは通用しない。じきに顔を合わせることになる。

[アマイア] では、どうするつもりですか?

[ウルピアヌス] 貴様こそどうする?

[アマイア] 私は……あなたの選択が見たいと思っていますよ、ウルピアヌス。

[アマイア] 少し前まで、アビサルハンターへの興味は失っていたのですけれど……ローレンティーナに可能性を見た今となっては、ね。

[アマイア] それに、自覚があるかはわかりませんが、自発的に選択をし、その上で正気を保っているあなたは……もはや、私たちと変わらぬ存在になろうとしていますから。

[ウルピアヌス] ……

[アマイア] あなたは真相に迫れるのでしょうか? 神託を捨て、神の肉体を切り開き、海の神々の真実を理解することができるでしょうか?

[アマイア] あなたが求めている答えは、私ですら知りたいと願うほどに魅力的なのです。ふふっ、私にもまだ好奇心が残っているなんて……本当に残念。それは私が今も人間であることを意味していますからね。

[ウルピアヌス] 我々の考え方は初めから真逆のものだ。神託とは、その子孫の本能に刻み込まれるものだからな。

[アマイア] ……あら、まあ。

[アマイア] そんなふうに仰るなんて……私よりよほどシーボーンに近付いているのではありませんか?

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