aklib_story_狂人号_SN-5_灯台制御室_戦闘後

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狂人号_SN-5_灯台制御室_戦闘後

狩人たちとアイリーニは、ダリオとジョディに灯台を任せ、狂人号が発する信号を追って船へと向かうことにした。一方でアマイアとウルピアヌスは、先んじてそこへ辿り着こうとしている。その頃、深海教徒とティアゴの会話を聞いていたエリジウムは、深海教徒に捕らえられてしまっていた。


[アマイア] あと少しで、目的の場所に着きますよ。

[ウルピアヌス] ……

[アマイア] いかがですか? 私なしでは、スタルティフィラ号に辿り着くこともできなかったでしょう。何しろ、シーボーンはあなたに食らいつき、噛み砕き、絡め取って、巣へと運び去るでしょうからね。

[ウルピアヌス] ――貴様は、クイントゥスとは違うようだな。

[アマイア] 違う、というのは……この肉体のことでしょうか?

[アマイア] こんなものは、重要ではないと思いますけれど。

[ウルピアヌス] 一体何を企んでいる?

[アマイア] あなたこそ、何をお考えなのですか? あなたの同族は皆、敵を忌み嫌い、そしてそのためにこそ自らの血を疑うもの。ですが、あなたはというと……平静を装っているように見えます。

[アマイア] 私に何を求めていらっしゃるのでしょうか?

[ウルピアヌス] ……

[アマイア] おや、実に賢明な沈黙ですね。どうやら、エーギルのすべてが交渉下手というわけではないようです。

[アマイア] あるいは、単にあなたが人から煙たがられるタイプだというだけのことかもしれませんが。

[ウルピアヌス] ……

[アマイア] ……望むなら、答えをあげましょう。クイントゥスやほかの人はそうはしませんが、シーボーンは問いに応じるもの。我々は使者と同様に物事を理解し、人類の発想に囚われぬようにしなくては。

[ウルピアヌス] 馬鹿げたことを言うな。

[アマイア] ……ここへ来る前……

[アマイア] 私は、ウルサスの本を一冊翻訳していました。種族や国家、歴史に関するもので、それをイベリア語と、ヴィクトリア語に訳したのです。

[アマイア] ――ご覧ください、狩人さん。

ウルピアヌスは彼女の手の動きを追い、無意識のうちに海へと視線を向けた。

漆黒の海には、圧迫感のある暗雲が垂れ込めてはいるものの、かすかに星が見えていた。

[アマイア] エーギル人でさえも、海上から海を眺めることはあまり多くはないでしょう。……種族や国家によって大地は細かく分けられ、互いに争い続けています。

[アマイア] ですが――この果てしなき海の上に、そうした隔たりを示す境界線があるでしょうか?

[審問官アイリーニ] くっ! この怪物ッ――!

[審問官アイリーニ] ジョディ、聞こえる!? あなた、無事なんでしょうね!?

[恐魚] グジュ……グギュギュ……

[ジョディ] く、来るな……!

[大審問官ダリオ] 設備の復旧に伴って、この下等生物たちも、ここが理想的な隠れ家などではないことに気付き始めたようだな。

[ジョディ] っ、上官!

[大審問官ダリオ] ――上へ向かえ、エーギル。お前の手にあるものは工具であって、剣と灯りではないだろう。

[大審問官ダリオ] アイリーニと共に、任務を続行しろ。裁判所と狩人たちが求めるものを探し出すんだ。

[ジョディ] わ、わかりました! どうかお気をつけて!

[スカジ] 本当に、あの船を見つけられると思う?

[グレイディーア] 何にせよ、イベリア以外の切り口は存在しないわ。

[スカジ] だけど……仮にその船がロドスのような場所だとして、どうして六十年間も、イベリアに戻ろうとしなかったのかしら。

[スペクター] それを言うなら、私たちも迷子になって、帰り道を見つけられずにいますでしょう?

[恐魚] (海水を打ちながら這いずる音)

[スペクター] この子たち、どんどん増えているようですね。

[スカジ] ……大丈夫?

[スペクター] 「大丈夫」……? 私がどうかしましたか?

[スカジ] イベリアに来る道中は一言も喋らなかったじゃない。

[スペクター] では、あなたから見た私はお喋りな人だったのでしょうか?

[スカジ] ……

スカジは、スペクターの目をまじまじと見つめた。

彼女が陸地でようやくローレンティーナを見つけた時、その瞳にはもやがかかっているように見えた。

そしてサルヴィエントの時には、その顔つきが昔の彼女に戻ったのを見ることもできたが、それはほんの少しの間だけだった。ロドスに戻ると、彼女は再び深淵へと落ちていってしまったのだ。

しかし、今……スカジにはよくわからなくなっていた。現在のスペクターの状態は正気と呼べるのか、それとも……と。

彼女はなんだか、嫌な予感がしていた。

心の奥底でずっと漂っていた、とある憶測が気にかかるのだ。

[スペクター] どうしたのですか?

[スカジ] ……

[グレイディーア] 考えすぎるのはよしなさい、スカジ。

[グレイディーア] 人魚姫さん、あなたもよ。もうじきに目が覚めるはずだもの。

[スペクター] 目覚める……私が、ですか?

[グレイディーア] ええ、必ずね。

[グレイディーア] だから、今のところは……あなたたち二人で、この雑魚たちを片付けていてちょうだい。相手はいくらでも湧いてくるから、呼吸を整えて体力を温存しておくようにね。

[スカジ] そのくらいわかってるわ。

[スペクター] ……そんなに急いで舞台に上がらないといけないのかしら? 嵐のほうは、まだ準備ができていないようですけれど。

[スペクター] ああ、でも……私たちのダンスパートナーは、もう待ちきれないようですね。うふふ……

[審問官アイリーニ] まったくもう! 次から次へと……!

[ジョディ] アイリーニさん!

[審問官アイリーニ] ! よかった、無事だったのね! さっきの光は、やっぱり上官の灯りだったんだわ!

[ジョディ] あの……大審問官さんから、任務を続行しろと言われたんですが――何をすればいいんでしょうか? あの船の位置情報を割り出すとか……?

[審問官アイリーニ] そうね……本当は、技師の到着を待って始める予定だったけど、あなた一人でもこの塔を起動させられたわけだし――

[恐魚] シュー……ギュルル……

[審問官アイリーニ] ――早く行って! 今は一刻を争う事態だもの!

[不気味な深海教徒] ティアゴか。この場を訪れたということは、ようやく理解したようだな……

[ティアゴ] お前らはどうして逃げなかったんだ? この町には前から、懲罰軍や審問官が潜伏してたってのに。

[不気味な深海教徒] では、聞くが……ご自慢の町民たちが戻らないのは何故だと思う?

[ティアゴ] ……!

[不気味な深海教徒] 裁判所はすでに、戸惑うグランファーロの人々をすべて捕らえた。彼らはどうなるかは、知っての通りだ。

[不気味な深海教徒] お前も、嫌というほど味わったことがあるだろう?

[ティアゴ] ……グランファーロが壊滅させられるのを黙って見てはいられん。何かできることをしなくては……

[不気味な深海教徒] では、裁判所に逆らうつもりか? それ自体はお前の自由だが、グランファーロの滅亡を早めるだけだろう。イベリアは反逆行為を許さないのだから。

[不気味な深海教徒] 我々は誰をも喜んで受け入れるが、軟弱者にその資格はない。一時的に意志を固めたところで、それは気の迷いでしかないことを……そして、今お前が誰に向かって話しているかを理解しているのか?

[ティアゴ] ハッ、誰に向かって、だと? 俺が本気で調べていれば、お前らなんぞ今頃は懲罰軍に一掃されてるだろうよ。

[ティアゴ] それよか、教えてくれ。お前らはグランファーロに何をもたらしてくれるんだ?

[不気味な深海教徒] この町は、あくまでも……単なる人類の居住地にすぎない。

[不気味な深海教徒] 我らが陸にもたらさんとしているのは、そのように虚ろで物質的なものではなく、より高尚なものなのだ。

[恐魚] (建物の隙間で這いずる音)

[不気味な深海教徒] ……どうやら、つけられていたようだな。

[恐魚] シュウウ……

[エリジウム] ははっ。この恐魚、なかなか勘が鋭いね。

[不気味な深海教徒] よそ者か? ちょうどいい。お前の血肉を以て、傷付いた者の養分とし、この大地に還元してやろう。

[審問官アイリーニ] っ、床どころか壁や階段にも溟痕が……! ああもう、本当にどこからでも入ってくるのね!

[審問官アイリーニ] ジョディ、まだなの!? こいつらどんどん増えてるわよ!

[ジョディ] あと少しです!

[ジョディ] ――それにしても、不思議だな……長いこと放置されていたはずなのに、信号受信装置がきちんと機能しているなんて……一体どういう仕組みなんだろう?

[ジョディ] うーん、端末に残ってる記録では……

[ジョディ] あ、あった! ええと――

[恐魚] シュゥ、シュウゥ……

[審問官アイリーニ] このっ……!

[審問官アイリーニ] (すごい数……爆発的に増えてるのね……! しかもこいつら、地面に溶け込むみたいにして、溟痕伝いに移動してるじゃない!)

[審問官アイリーニ] (こんな状況が続いたら、たとえ師匠やアビサルハンターたちでも溟痕の広がる場所だと長くは留まれそうにないわね……)

[恐魚] (踊り場を這いずる音)

[審問官アイリーニ] ! まずい――ジョディ、下よ!

[ジョディ] え、下って――

[グレイディーア] そのまま続けてくださいな。

[ジョディ] ……あっ、は、はい……!

[審問官アイリーニ] ――! アビサルハンター!

[グレイディーア] あなた、随分ひ弱ですのね。こういう際限なく湧く怪物を相手取るならば、呼吸の労力を節約して、もっと機敏に動きなさいな。

[グレイディーア] こんなふうにね。

[審問官アイリーニ] ッ、何よ、もう……!

[グレイディーア] それで、あとどれくらい掛かりますの?

[ジョディ] 実は、この端末の操作方法まではノートに載っていなかったので、手探り状態で――

[ジョディ] しかも、意味のわからない通信記録が次々に出てきてしまって……それが今でも、新しく増え続けているみたいなんです……!

[審問官アイリーニ] 今でもって……どういうこと? 裁判所が最後に通信を試みたのは相当前のことなのよ!

[ジョディ] さ、最初は僕も、電力供給が止まっていたせいで、データが破損したのかと思ったんですけど……でも、こ、これは――

[ジョディ] 僕の推測が正しければ……

[ジョディ] 何十年もの間、灯台に信号を送り続けている船が存在するんだと思います……!

[審問官アイリーニ] なん、ですって……!?

[グレイディーア] ここからの距離は?

[ジョディ] 少々お待ちを……ええと、航路の記録によると――

[ジョディ] ……

[審問官アイリーニ] ……どうしたの?

[ジョディ] ……そ、それが……すぐ近くにあるみたいです……!

[ジョディ] まさか、こんなに近かったなんて――

[ジョディ] うわっ!

[審問官アイリーニ] な、何!?

[グレイディーア] 恐らく、この建物の地下が溟痕に覆われてしまったのでしょうね。

[審問官アイリーニ] だったらすぐに、このあとの方針を固めないと……!

[グレイディーア] 方針? 船の位置が判明した以上、そちらへ向かう以外に何もないでしょうに。

[審問官アイリーニ] いいえ、それじゃダメよ! 恐魚の掃討を続けなくちゃ。懲罰軍の援軍が無事に辿り着けるように――

[グレイディーア] 奴らを完全に滅ぼすことはできませんのよ。どんなに奮闘したところで、より強い獲物が狩場へ入ってくる前に、あなた方の体力が尽きてしまいますわ。

[グレイディーア] それとも、イベリアにはこの灯台の下で入口を守る大審問官さんのような方が、あと何千人もいるとでもいうのかしら?

[審問官アイリーニ] そ、れは……だけど……

[グレイディーア] 好機というのは、一瞬ですのよ。

[審問官アイリーニ] ……

[グレイディーア] ――船の座標は特定できますの?

[ジョディ] あっ、ええと……航行範囲をある程度絞ることはできます。どうしてこのルートを回り続けているのかまではわかりませんが……

[グレイディーア] きっと異常な海流に乗せられ続けているのでしょうね。現状、あの船はシーボーンに囲まれた四角い箱でしかありませんもの。

[審問官アイリーニ] でも、移動はどうするの? 私たちの船は、ここまで乗ってきたあの一隻しかないのよ。

[グレイディーア] あなた方にお譲りしますわ。海での戦闘には慣れていますもの。

[大審問官ダリオ] ――いいや。

[大審問官ダリオ] アイリーニ。彼女らと共に船に乗り、スタルティフィラへ向かえ。

[審問官アイリーニ] 上官!? な、なぜですか……!?

[大審問官ダリオ] すでにイベリアの眼は起動した。となれば、この場所にはまだ使用に耐えうる防衛設備があるはずだ。

[大審問官ダリオ] その上、カルメン閣下も海岸に残る邪悪を排除し終えたら、こちらへ支援に来てくださる。無尽蔵に湧く敵を相手に、時間を浪費する必要はないということだ。

[審問官アイリーニ] そ、それなら、私も上官と一緒に……!

[大審問官ダリオ] 駄目だ。お前は彼女たちと行け。

[大審問官ダリオ] その目で海を確かめてこい。

[審問官アイリーニ] ですが……

[大審問官ダリオ] お前の命を救ったのは私ではなく、その経典だ。

[大審問官ダリオ] イベリアの名に恥じぬよう、正しい道を選びなさい。

[審問官アイリーニ] ……わかりました。

[審問官アイリーニ] 私は――イベリアの眼となって、スタルティフィラをイベリアのもとへ取り戻してみせます。

[大審問官ダリオ] 良し。ならば行け。

[大審問官ダリオ] お前が正しい判決を下すその時を、楽しみに待っていよう。

[審問官アイリーニ] はい、上官!

[大審問官ダリオ] ……お前も、この場を離れ、彼女らと共に行くといい。

[ジョディ] いいえ……上官、僕はここに残ります。

[大審問官ダリオ] 危険を承知の上でのことか?

[ジョディ] その、僕は……あの黄金の船のことは何も知りませんが、すごく煌びやかで、素晴らしい船だというのは聞いたことがあります。……でも……自分の使命は、そこにはないと思うんです。

[ジョディ] ええと……こんなことを言うのも、おかしな話でしょうが……この灯台を探索していると、自分の価値を感じられたんです。なので、どうか……

[ジョディ] どうか、ここに居させてもらえませんか。

[スカジ] ……これで百匹ね。でも、どれだけ仕留めたところで、効いてる実感が少しも湧かないわ。

[スペクター] この子たち、星の数ほどいるようですね。

[スカジ] 突破するだけなら簡単だけど、灯台を守り抜くとなると……いつまで剣を振り続けたらいいのかしら。

[スペクター] ふふふ……死骸が溶けて分解されると、彩り豊かな絨毯に変わっていくなんて……

[スペクター] 命で織られたこれこそ……陸で一番美しい絨毯なのでしょうね……

[スカジ] (溟痕は確実に広がっているし、このままだと……)

[大審問官ダリオ] お前たちの武器では奴らを焼くことはできないが、私にはできる。

[グレイディーア] その方法では、長くは持たせられませんわよ。海藻の先端を切り落としたところで、その生長は止められませんもの。

[大審問官ダリオ] だが、それで十分だ。――お前は部下を連れてここを出ろ。道中は船を使うがいい。さもなくば、方位を見失うだろうからな。

[グレイディーア] あなた、ここへ残るのは危険だということを――

[大審問官ダリオ] ――わかっているさ。

[グレイディーア] ……そう。では生き延びてくださいね、大審問官さん。

[グレイディーア] サメ、スカジ、行くわよ!

[スカジ] ……じゃあ、目標の船に……?

[グレイディーア] ええ。

[グレイディーア] 長いこと陸で待たされてきたけれど、ついにエーギルへ戻ることができるの。私たちは……

グレイディーアは、そこで言いよどむ。

そして、その手で自分の首元をさすった。襟元の辺りに、ざらざらとした手触りがある。

あの船は、すぐそばにある――しかし、焦りは禁物だ。海は未だ危険に満ちている。そうでなければ、三人の狩人が陸へ閉じ込められることもなかったのだから。

それでも、彼女は焦燥に駆られずにはいられなかった。

[大審問官ダリオ] ……

[ジョディ] ……行ってしまいましたね。

[大審問官ダリオ] ああ。懲罰軍の増援が到着するまで、我々は孤立無援となる。この岩礁を離れる手段さえ残されてはいない。

[ジョディ] ……

[大審問官ダリオ] ……お前の仕事ぶりは上等だ。ゆえに、質問に回答する権利を与えよう。

[ジョディ] あっ、は、はい! もちろん、正直にお答えします!

[大審問官ダリオ] お前は、海岸を離れ、ここへ同行するに当たり、相応の覚悟を決めていたのか?

[大審問官ダリオ] 何しろ、お前はごく普通の人間だ。確か清掃員だったか……戦いとは縁遠い存在であることは事実だ。そんな人間が海へと踏み込み、恐魚との死闘を目の当たりにするのは容易なことではないだろう。

[大審問官ダリオ] しかし……私の灯りに照らされようと、お前の表情は少しも揺らがない。――お前は何を考え、何を為そうとしている?

[ジョディ] ……

[ジョディ] ……物心ついたばかりの頃、両親がいなくなって。周りの人から、僕はエーギル人で、僕たちは元々灯台を直すためにやってきたけれど、今はもう全部駄目になったんだ、と聞かされて育ったんです。

[ジョディ] 僕は……少し前まで、何一つ知らずにぼんやりと毎日を過ごしていました。恐魚が現れた時だって、ティ……ええと、ある人が、すぐに町を離れるようにと言ってくれたんですが……

[ジョディ] ……僕には、どこへ行けばいいかすらもわからなくて。

[ジョディ] これまでは、「エーギル人だから」という理由で、人の言うことばかり聞いて生きてきたんです。……それに、その……実は僕、礼拝堂の介護士であって、清掃員ではないんですが……

[ジョディ] とにかく、それも仕事と呼べるほどのものではありませんし……エリジウムさんみたいに、あの人が話してくれたみたいに生きられたら、僕も本当の意味で生きていると言えるかもしれないと思って。

[ジョディ] だから……これがチャンスだと思ったんです。

[大審問官ダリオ] ……死を恐れる気持ちはあるか?

[ジョディ] 死ぬのが怖くない人なんて、いないと思いますよ。

[大審問官ダリオ] ならば、お前には打ち明けておこう。……この海岸は、溟痕によって完全に覆われてしまった。そのため、我々に残された時間は非常に限られている。

[ジョディ] ……そんな……

[大審問官ダリオ] カルメン閣下とケルシー医師には溟痕を処理する手段があるのだろうが、今この場にいる私の判断は悲観的なものだ。

[大審問官ダリオ] ――彼女らがここを去ったことは、我々への死刑宣告にも等しいだろうな。

[ジョディ] それで、あの人たちについていくようにと仰ったんですか……?

[大審問官ダリオ] お前は、自分の意志でその指示を拒否した。ゆえに後悔したところで意味はないだろう。しかし、たとえここで命を落としても、その死は決して無意味なものにはなりえない。

[ジョディ] ……

[大審問官ダリオ] ……動じていないようだな。

[ジョディ] あはは……さすがに、少しは動揺していますよ。でも、向こうの人たちについて行ったとしても、九死に一生を得られるかどうかという感じでしょうし。

[ジョディ] 僕としては、この灯台にいられるだけでも……

[大審問官ダリオ] 諦めるにはまだ早い。

[大審問官ダリオ] イベリアの眼には、防衛システムがあるはずだ。その起動を頼む。

[ジョディ] あっ、はい、やってみます。でも……あなたはどちらへ行かれるんですか?

[大審問官ダリオ] ……今、この時……

[大審問官ダリオ] 我々は、故郷を遠く離れたこの海で、孤立している。

[大審問官ダリオ] しかし……ここまで辿り着き、そのたびに幾度も失われていった船と命は、この小さな岩礁そのものよりもはるかに重いものだ。

[恐魚] ……シュウゥ……

[恐魚] グギュ……ジュジュ……

[大審問官ダリオ] 海とイベリアとの間には、正義も……そして悪すらも存在しない。

[大審問官ダリオ] ただ、剣と灯りが――

[大審問官ダリオ] ――そして、私が在るだけだ。

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