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狂人号_SN-5_灯台制御室_戦闘前
イベリアの眼は再び光を取り戻し、「最後の騎士」は去った。一方グランファーロでは、ジョディを連行されたと聞いたティアゴが深海教徒に接触を始めている。他方で、町へ増援に来るはずの懲罰軍は、溟痕に足止めされているようだ。
[Aya] 大人しく待ってられないの?
[Frost] ......
[Alty] ケルシーの言うことが本当なら、皆もじっとしてられないでしょ。
[Alty] こうして陸を歩いていようとも、私たちは海にいる。あの腐った末裔たちが変えているのは、「環境」なのよ。
[Alty] このままだと、いずれ私たちにも影響が及ぶことになる。現状はそれを座して待ってるようなものよ。
[Aya] でも、そうしてるのは私たちだけじゃないし、その理由も人それぞれでしょ。
[Aya] この大地は、私たちが生きていくのには向いてないってだけのことかもよ。
[Frost] (賛同を表すソロを奏でる)
[Frost] 音楽が……足りない。
[Frost] 何か、できることをしたい。
[Dan] だったら、音楽のためになんかすればいいんじゃね?
[Frost] (再び賛同を表すソロを奏でる)
[Alty] 何かって、具体的にはどうするの?
[Aya] んー……まあいっか。ここで待つだけっていうのもつまんないだろうし……
[Aya] ライブに備えて、ウォーミングアップでもしてきたら? ……あ、一応言っておくけど、あんまり遠くに行ったらダメだからね、Frost。
[Frost] ……わかった。みんなはどうする?
[Aya] 私はパス。
[Alty] かったるいからやめとくわ。
[Dan] もうちょっとで、インスピレーションがいい感じにまとまりそうなとこでさ~! ほんとにあとちょっとなんだけど!
[Frost] ……良いだろう。(激しいソロを奏でる)
[Frost] 行ってくる。
[息切れした深海教徒] はぁっ……はあ……
[息切れした深海教徒] くっ……あの審問官も、あの女も……一体、何をした……!? 海の恩寵を、容易く消し去ってしまうとは……!
[息切れした深海教徒] ! そうか、これはエーギルの技術だな……! あのエーギルが残した、奇妙な機械のせいに違いない! なんとかして、あれを破壊しなくては!
[恐魚] (足を這い登ってくる音)
[息切れした深海教徒] ああ、そうだな……懲罰軍に包囲され、脱出に失敗した今……我々に退路などありはしない。
[息切れした深海教徒] だが、敬愛する預言者様は、すでに海へと帰られた。
[息切れした深海教徒] となれば、我々にできることは――彼女のために道を切り開くことだけだ。
[恐魚] ギュ……! ジュジュジュ……!
[息切れした深海教徒] 奴らが潮汐を阻むつもりなら、我らの手で滅ぼしてやろう。私の命など惜しくはない。所詮そんなものは、長き道のりの中ではほんの一部に過ぎないのだから。
[戸惑う町民] ひ、ひいっ!
[ティアゴ] 落ち着け、俺だよ。……お前、どうしてまだ避難してないんだ?
[戸惑う町民] っ、ティアゴ町長……! それが、昨日は随分酔っ払ってたもので……鉗獣みたいに寝転がってて、なんにも気付かなかったんです……
[戸惑う町民] でも、目を覚ましてみたら、そこら中ひどい有様で……なんだか、地面まで変なふうになってますし……
[戸惑う町民] 一体何が起きたんですか? もしかして、裁判所の連中も来てたりします? というか、俺たち、どうなっちゃうんでしょう……?
[ティアゴ] ……海には何の罪もない。裁判所と違ってな。なんせ、奴らはこれまでにも、法を振りかざして俺たちを断罪してきたんだ。
[ティアゴ] 恐魚のほうは、もうしばらく待てば海に帰るだろう。……だが、審問官はグランファーロに死刑宣告でもするつもりに違いない。それを許すわけにはいかん。
[戸惑う町民] な、何を言って――頭でも打ったんですか!?
[ティアゴ] 俺は狂ってなんざいない! ただ知りたいだけだ! 裁判所がこの町をぶっ壊して、皆を捕まえ尋問しようとする前に、俺に何ができるのかってことをな!
[ティアゴ] 審問官はとっくにこの町へ来てるんだ。奴のことは路地で見かけたんだが、あんなに年を食った審問官は初めて見た。なんだか知らんが嫌な予感がする……
[戸惑う町民] だとしても、一体どうするつもりなんです? そいつの前で道理の一つも説いてみますか?
[ティアゴ] いいや。――また、どっちにつくかを選ぶべき時が来たんだ。そうだろ?
[ティアゴ] エーギル人が連行された時だって、あいつらに味方してやることはできたはずだ。それなのに、誰もがただ見ているばかりで、何一つ行動しやしなかった。
[戸惑う町民] ……ティアゴさん、あんた……
[ティアゴ] そして今、もう一度選択の時が来た。グランファーロのすべてが裁判にかけられるのを見過ごすか、あるいは――
[戸惑う町民] やっぱりどうかしてますよ! あれは審問官なんです! 指一本動かさなくたって、俺たちを始末できるような相手なんですよ!
[ティアゴ] いいから、あいつらに会わせてくれ。
[戸惑う町民] ……何を言ってるんですか?
[ティアゴ] 俺が何年この町に住んでると思ってる? 下手な芝居はよせ。
[戸惑う町民] ……
[戸惑う町民] わかったよ、ついてこい。……本気で裁判所に復讐したいっていうならな。
[ティアゴ] ……
[エリジウム] ティアゴさん……あなたは一体……
[審問官アイリーニ] ……
[ジョディ] ……もうすぐです……!
[審問官アイリーニ] すぐって……もう随分経ってるのよ。
[ジョディ] あっ、す、すみません……
[審問官アイリーニ] ……いいえ。私のほうこそ、焦りすぎてたわ。
[審問官アイリーニ] ……
[ジョディ] あの……審問官さん。ほかの人たちが心配なようでしたら、行って助けてあげてください。この場は僕だけでも大丈夫ですから。
[審問官アイリーニ] ダメよ。上官から下された任務はあなたを守ることだもの。見ての通り、あの怪物たちは隙あらば向かってくるし、軽率にあなたのそばを離れるわけにはいかないわ。
[ジョディ] でも……僕、あなたの足を引っ張りたくないんです……
[審問官アイリーニ] そんなこと言われたって、私は命令に従うだけよ。上官のご判断が正しかったと証明するためにも、灯台の再起動に専念しなさい。
[ジョディ] ……わかりました。
[審問官アイリーニ] ところで……イベリアの眼に関する知識は、ご両親から受け継いだものなの?
[ジョディ] はい。正確には、グランファーロの皆が人生をかけてきたことの集大成と言いますか……その人たちは、イベリアでも有数の灯台技師だったんだって、ティアゴおじさんが言っていました。
[審問官アイリーニ] そう。……あの町は元々、裁判所が定めた要衝だったのよ。エーギル人と深海教会関係の事件が立て続けに起きたことで、放棄されたんだけどね。
[ジョディ] ……
[審問官アイリーニ] あなたの傷を抉ろうってわけじゃなくて、ただ……出発前に、当時の判決関係の書類を読んだんだけど……ううん。やっぱり、何でもないわ。
[審問官アイリーニ] ――ねえ、裁判所のことは嫌い?
[ジョディ] ええ、と……
[ジョディ] 空に浮かんだ暗雲を除けば、町で皆を圧迫しているのは「裁判所」の三文字くらいだとは思います……というのも、かつてのあの町は輝いていて、故郷を建て直す勇気を与えてくれる場所でしたから。
[ジョディ] その頃の労働者や技術者たちは、情熱を胸に、災厄へ立ち向かおうとしていました。なのに、それと戦うより前に、裁判所がすべてを奪い去ってしまったんです。
[審問官アイリーニ] それは、今もそう思っているってこと?
[ジョディ] 僕は、あそこで育ちましたから。これまでに見聞きしてきたすべてがそう物語っていると感じるんです。
[ジョディ] って、すみません、審問官さんにこんなことを言って。
[審問官アイリーニ] あなたは事実を述べただけよ、市民。その行動が、イベリアへの忠誠を証明してくれていることだしね。
[審問官アイリーニ] ……とはいえ、審問官の目の前でそんな言い方をする勇気があるとは思わなかったけど。
[ジョディ] 確かに、ここへ来る前なら言えなかったと思います。……ですが今は……広場で見ていた彫刻でも、想像の中のものでもない、本物のイベリアの眼を見ることができたので。
[ジョディ] グランファーロの人たち皆が口々に語っていた、僕らの為すべきことに実感が湧いてきて……
[ジョディ] 実は今、すごく感動してい――
[ジョディ] ――あ、れ? 今……塔の下のほうで、何かが光っていませんでしたか? 青くて、きらきらした……
[審問官アイリーニ] ッ、あれは――
[審問官アイリーニ] ――溟痕だわ!
[スペクター] あなたの戦いの相手は、本当に私なのでしょうか?
[最後の騎士] ……
[スペクター] その目には、あの灯台しか映っていないように見えます。ですが、それはなぜなのでしょう? どうして、あれに固執するのですか?
[最後の騎士] 大波……空、ヲ……
[最後の騎士] ……小麦、は……すべテ、口を閉ザし……実リ、が……来、タる。
[恐魚] グ、ゥギュ……ジュジュッ……!
[大審問官ダリオ] 奴は言葉を話せるようだが、同族に指示を出してはいないようだ。やはり恐魚たちに混乱が見受けられる。
[大審問官ダリオ] 手早く済ませるとしよう。
[最後の騎士] がッ、あアァ――!
[スペクター] ――まあ、驚きました。先ほどまでとはまったく違う所作ですね。
[最後の騎士] ……
[大審問官ダリオ] 妙に人間らしい動きだ。クランタの騎士特有の突撃歩法か。――お前は、一体何者だ?
[最後の騎士] ……
相も変わらず、騎士は二人を無視し続けていて、その目はまったく別のほうへと向けられていた。
巨大な灯台は、騎士の攻撃を受けた今も微動だにしていなかった。大いなる静謐をも生き延びたイベリアの眼が、一人の騎士の一撃などで壊れようはずもなかったのだ。
この事実は騎士を大層困惑させ、それと同時に意欲的にもさせた。
[最後の騎士] ……雲、山々、灰塵……腐食せシ、温床、ニ……在る、もノ……
[最後の騎士] 波ハ……不滅……
[恐魚] グジュジュ……ギュギュ……!
[大審問官ダリオ] 恐魚がお前に惹きつけられている。手傷を負ったな?
[スペクター] ええ、そのようです。けれど、かすり傷ですし、ご安心を――
[スペクター] ッ……
[大審問官ダリオ] ……退け。戦える状態ではないだろう。
彼は、そばにいるアビサルハンターをちらと見た。先ほどの戦いの中で、彼女は何度も不自然に動きを止めていた。
ダリオは、彼女に関する報告を一通り受けている。この人物は、サルヴィエントでの実験の関係者であり――あの激戦のあとに見た彼女とは、まるで別人のように見えた。
彼女は何者で、今は一体「誰」なのだろうか?
[大審問官ダリオ] 先ほど受けたものは大した傷ではないようだが、足元すらもおぼつかないその様子……
[大審問官ダリオ] サルヴィエントでのことが、病の根源か?
[スペクター] ……ただ、少し潮風に酔ってしまっただけですよ。
[最後の騎士] ……騎士、よ……同、胞よ。何故、お前ハ……空気を噛ミ、温度ヲ感ジねば、なラず……文明ノ、果実……味わウこトを、許サれナい……
[最後の騎士] ッ……!
その時、地響きがした。
久しく供給されていなかったエネルギーが、配管を通り、イベリアの眼の朽ちた体を駆け巡って、まぶたを開かせているのだ。
[スペクター] ……目覚めたようですね。島全体が、起きぬけの寝言を口にするのが聞こえます。まるで何世紀も眠っていたかのように、冬を体から取り除こうとしているのです。
[最後の騎士] ……万物ノ、輪……
[最後の騎士] アレは……海の、物デは……なイ……
巨大な灯台の影から、それを見上げる騎士は――
当惑した様子だった。
[最後の騎士] ……コレ、は……波、デは……なイ……
[最後の騎士] 大、波ハ……何処、だ?
何の気配も悟れないほどに――光の差す方角に合わせて傾く影のような自然さで、スペクターは武器を振るった。
しかし、眼前に立つ人型のシーボーンは、信じがたいほどの瞬発力でそれを回避してみせた。
中空の騎士は、はるか遠くを見つめていた。
新たな波の音が、その耳に届く。――訪れる波を打ち砕かねば。
[最後の騎士] ……Ishar……mla……
[最後の騎士] 来、イ――ロシ、ナンテ――!
[ロシナンテ] ――!!
[最後の騎士] 追、えッ……!
[スペクター] どうやら、光を恐れているようですね。
[大審問官ダリオ] 奴を追うのはよせ。ああいったシーボーンは、あれ一体には留まらない。その上、今の任務は灯台の防衛だ。
[スペクター] 騎士さんは、灯台への興味を失っただけだと思いますけれど。
[大審問官ダリオ] 怪物の動機になど興味はない。
[スペクター] 怪物、ですか? では、あなたからすれば私も怪物なのかしら?
[大審問官ダリオ] ――確かに、お前には変化が訪れている。
[大審問官ダリオ] その変化が、すべてのアビサルハンターの身体に起こるかどうかはわからないが……
[大審問官ダリオ] 必要とあらば、この岩礁はお前たちが踏み入った最後の地となるだろう。
[スペクター] ここは海に囲まれているのに、あなたはこの地を「陸」と呼ぶということですか?
[大審問官ダリオ] 災厄が変えたのは海岸線であり、国境線ではないからな。
[大審問官ダリオ] 大いなる静謐に飲まれようとも、この地はイベリアの法律に従わねばならない。
[スペクター] 「法律」……高尚な言葉ですね。けれど、すべての生き物がその尊さを知っているわけではありませんよ。
[大審問官ダリオ] ……準備をしろ。迎撃するぞ。
[ジョディ] も、もう少しで完了します!
[恐魚] ジュル……グギュ……
[審問官アイリーニ] だったら急いでちょうだい! このままじゃ、塔が溟痕に飲み込まれちゃうわ!
[ジョディ] ……すみません、ちょっとトラブルが……!
[ジョディ] 付属設備のどこかが損傷しているみたいで……だ、だけど、それを調べるには時間がかかりすぎます……!
[審問官アイリーニ] とりあえず、中心設備さえ動けばそれでいいわ。必要なのは大船の位置情報だもの。理想を言えば、海岸線とのコンタクトを再建できるといいけど――
[ジョディ] わ、わかりました! でも――そういう設備は、もっと上にあるみたいです……!
[審問官アイリーニ] なら行きましょ! 早く!
[ジョディ] ……いいえ。
[ジョディ] 僕はここに残ります。一番目立つレバーを引いてもらえたら、灯台は起動できますし……電気系統の再起動が終わるまでは、ここで監視しておかないといけないので。
[ジョディ] 代わりに、上へ向かってもらえませんか。
[審問官アイリーニ] っ、何を――あなたが恐魚に襲われでもしたら、私たちは――
[ジョディ] わ、わかっています……! ぼ、僕だって、失敗したくはありませんから!
[ジョディ] 考えてもみてください。――あの怪物たちが襲ってくるのは、僕たちが巣に侵入したからですよね?
[ジョディ] だったら、あいつらも設備の破壊を続けることはないでしょうし……ここでやり合うほうが危険だと思うんです。だから、行ってもらえませんか……!
[審問官アイリーニ] ……そのレバーとやらが、主電源のスイッチなのね。
[ジョディ] はい。それを引けば、灯台のメインシステムは動き始めるはずです……ええと、ノートに書かれている通りなら、の話ですが……
[審問官アイリーニ] いいでしょう。
[審問官アイリーニ] 待ってなさい、ジョディ。すぐに戻るわ。
[審問官アイリーニ] ええと、制御装置は……これね。
[審問官アイリーニ] ……
塔の中からは、外の状況が見えない。
スタルティフィラが沈んでいないというのは本当なのだろうか? それに、どうやってあの大船を探すつもりなのだろうか?
懲罰軍は果たして、上官とアビサルハンターたちの援護を間に合わせられるのだろうか? グランファーロの深海教徒は、まだ何か秘密を隠してはいないだろうか?
このレバーを引けば、すべての答えが得られる……そんな場面に彼女はいた。
アイリーニは戸惑いを覚えるはずだった。しかし、すでに多くを受け入れすぎていた。彼女は海のあらゆる事実を知り、その目で目撃してきたのだ。
[審問官アイリーニ] ――時が来たのね。
[審問官アイリーニ] さあ、アイリーニ。覚悟はいいかしら。
まばゆい光が海を、そして万物を突き抜ける。
その光は道を開き、影を払っていく。
[審問官アイリーニ] ……や、った……!
[審問官アイリーニ] やったわ! ジョディ、見える!? 私たち、ついに――
[恐魚] (壁を這いずる音)
[審問官アイリーニ] ッ! いけない……!
[聖徒カルメン] 君にもまだ、彫刻を観賞する心の余裕があろうとはな。
[ケルシー] イベリアの眼……エーギルとイベリア、双方の技術を組み合わせた結晶。――陸地において、円滑な通信は移動都市の中でしか実現はできません。都市と都市の間には、大きな隔たりがありますから。
[聖徒カルメン] だが、それも当然のこと。源石に富んだ陸の環境では、干渉を受けない通信手段などありはしない。ゆえに現状、いつ天災で壊れるともしれないと承知の上で、基地局を置くよりほかにないのだ。
[聖徒カルメン] とはいえ、すでに移動式の基地局を実現した国もあるそうだがね。噂では、各都市間を決められた軌道で航行する仕組みだそうだ。それを作った技師たちは、灯台守に劣らぬ優秀さだと感じるよ。
[聖徒カルメン] ――今なお、人類はこの大地の上を、道も見いだせぬまま彷徨い続けている。皆、同じようにテラの大地を手探りで進んでいるのだ。
[聖徒カルメン] だが、海のほうはどうだろうか?
[ケルシー] 海には源石がなく、エーギルの通信技術は陸の国々よりはるかに進歩しています。――イベリアの眼は、単なる灯台ではないのでしょう。
[聖徒カルメン] その通り。あれぞまさしく「イベリアの眼」だからな。そして、知る者こそ多くはないが――かの灯台は、ブレオガンが我々に遺してくれたイベリアへの通信装置でもある。
[冷静な町民] お久しぶりです、閣下。
[聖徒カルメン] ああ、久しいな。――ケルシー女史の提案に対し、裁判所が迅速に対応できたのは、君たちの功績だ。
[聖徒カルメン] グランファーロでの生活はどうだったかね?
[冷静な町民] そうですね……同僚たちが潜伏している都市に比べれば、大した危険は感じられませんでした。
[ケルシー] ……
[聖徒カルメン] では、ここで知りえたことを報告してもらおうか。
[冷静な町民] 申し訳ありません。私の持ちうる情報は、閣下とそちらの女史ならばご存知であろうことばかりです。
[冷静な町民] 大審問官よりいただきましたご命令は――このグランファーロの中に法律に背き、我が国を冒涜するような輩が潜伏していないかどうかを監視せよ、という内容だったかと存じます。
[冷静な町民] 私の結論としましては、今のところそのような人物はおりません。
[聖徒カルメン] なるほど。……深海教徒が現れた時、君は所属部隊への即時報告を行わなかったそうだな。
[冷静な町民] はい。ですがそれも、あの邪教徒たちは大した連中ではないと判断してのことです。懲罰軍の撤退後、裏で糸を引いている輩を炙り出す好機と考えまして。
[聖徒カルメン] では、奴らの指導者は誰だ? もしや……海による大地への侵略を指揮する、偽の司教がまだいるというのだろうか?
[冷静な町民] 奴らの指導者は……明確な証拠はなく、単なる私の憶測にはなりますが――
[冷静な町民] ティアゴ氏ではないかと。彼は元々、イベリア中央部から来た労働者で、名目上はこの町の現町長です。
[冷静な町民] 「イベリアの眼」の計画が破棄され、裁判所がグランファーロの反逆者たちを掃討してからというもの……彼は裁判所への不満を相当声高に、隠そうともせず口にしておりますので。
[聖徒カルメン] ティアゴ……グランファーロの労働者が、邪教徒を匿っているというのだな。――ケルシー女史。我々のターゲットが見つかったようだ。
[ケルシー] ……
[冷静な町民] ……それともう一点、ご報告を。懲罰軍が襲撃を受けたようです。
[聖徒カルメン] 何……?
[聖徒カルメン] 懲罰軍はこの件に大方陣を投入している。グランファーロに巣食う悪党程度の相手にはもったいないほどの戦力を揃えているというのに、一体何が起きた?
[冷静な町民] 溟痕が地表へと滲み出してきているようです。グランファーロの周辺およそ50キロほどが……円状に取り囲まれている状況です。
[冷静な町民] その上、それは完全な真円なのです。まるで、コンパスで描いたかのように……
[冷静な町民] この状況、囲まれているのは町ではなく、我々なのだと思います。
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