aklib_story_画中人_WR-6_画中_戦闘前

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画中人_WR-6_画中_戦闘前

皆が目を覚ますと、なんと町は昨日の災難など発生しなかったかのように、全て元通りになっていた。ラヴァたちはすぐレイを訪ね、事の経緯を話した。するとレイはこの地の「法則」を打ち明けた。


[ラヴァ] う……ん……?

[ラヴァ] ……寝てたのか?

[ラヴァ] ああ、思い出した……昨日は夜遅くまで被害の確認作業を手伝ってたから、戻ってすぐに寝たんだった……

[ラヴァ] 日の出も日の入りも本当に正常に戻ったんだな……

[ラヴァ] ……クルース、起きろ!

[クルース] ……ZZZ……

[ラヴァ] おい、クルース!

[クルース] んっ……んん……?

[クルース] ふあ……あ、おはよ、ラヴァちゃん……

[ラヴァ] いつも不思議に思ってたんだが、どうしてクロスボウを抱えたままの状態でそんなにぐっすり眠れるんだ?

[クルース] 睡眠はぁ……一番大事なものでしょぉ……うう~ん!

[クルース] ふぅ――……

[クルース] よし! 顔洗ってこよぉっと。

[ラヴァ] ロドスにいる時もそんくらいシャキッと起きてくれると助かるんだけどな。

[クルース] 無理だよぉ~お休みとお仕事は別物だもん。

[クルース] 今日はまたみんなの再建の手伝いを……

[クルース] ……ラヴァちゃん、私もしかしてまだ寝ぼけてるのかなぁ? 窓の外にいるあの人って――

[ラヴァ] ん?

[女の子] お母さん、お母さん、早く。講談に間に合わなくなっちゃうよ!

[町民] はいはい、わかったから走らないの。転ばないでちょうだいね。

[女の子] 大丈夫だよ! 早く行こ!

[ラヴァ] …………

[クルース] …………

[ラヴァ] あ、あの子の母親……? 無事だったのか?

[クルース] そういうことじゃないと思うよぉ。

[クルース] あそこの軒を見て。昨日はアーツの余波で吹き飛んでたのにぃ。

[ラヴァ] ……嘘だろ?

[町民A] さぁ、できたてのお餅だよ! 胡麻餡が香ばしくて美味しいよ~!

[町民B] 酒醸だよー! 金木犀酒醸だよー! ご賞味あれ~!

[ラヴァ] ……どうなってるんだ?

[クルース] うーん……元に戻ってるねぇ。

[ウユウ] お、恩人様!?

[ウユウ] 恩人様方、私を覚えていますよね? そうですよね? これは悪夢ではありませんよね?

[ラヴァ] 落ち着け。何を言ってるんだ――

[ウユウ] ああ良かった、お二方は私を覚えておいでだった! あのですね、目が覚めたら、昨日の事は全く起こらなかったかのように、全てが元通りになっていたんですよ!

[ウユウ] 墨魎の襲撃も壊れた家も亡くなった人も全て幻だったんですか? それにランの母親まで出てきたんですよ! どうなってるんだ? 真っ昼間に幽霊を見たのかと思いましたよ――

[ウユウ] ――そうだ! あのお坊様……サガさんは? サガさんは無事なのでしょうか?

[クルース] 見てないなぁ――あ、ランちゃんだぁ。

[ウユウ] や、やぁランちゃん!

[女の子] ん? おじさん誰? どうして私の名前を知ってるの?

[ウユウ] 恩人様! 恩人様! ほら、今のを聞きましたか?

[クルース] ……ランちゃん。私たち煮傘さんの講談を聞きにきたんだけどぉ、どうして今日はこんなに早く終わっちゃったのぉ?

[女の子] あ、そうだったんだ。先生、今日はお体の具合が悪いみたいだったから、お母さんは残ってお手伝いをしてる。お話を聞きに来たたくさんのおじさんやおばさんも、みんな先生のお手伝いをしてるよ。

[クルース] それは残念だなぁ。

[女の子] だよねえ。

[クルース] ランちゃん、このおじさん、昨日のお話を聞き逃したんだってぇ。昨日はどんな話をしてたか、まだ覚えてる?

[女の子] 昨日は行ってないんだ。一日中お母さんと凧あげをしてたから。

[クルース] 残念だねぇ、何も聞けなくて。

[ウユウ] は、はは……ランちゃん、本当に私を覚えてないのかい?

[女の子] おじさん誰? あっ、もしかして通りの端に引っ越してきたばかりの人?

[ウユウ] な、なんでもないよ。遊びに行っておいで……

[女の子] えー? まぁいっか。おじさん、お姉ちゃん、またね!

[ウユウ] どうして私たちだけが覚えているんでしょう……?

[クルース] 謎だねぇ……だけどランちゃんがあんなに元気になったんだから、悪い事じゃないよねぇ。

[ウユウ] はぁ……確かにそうですが、恩人様も冷静すぎやしませんか……?

[ラヴァ] あの女将が言っていた「水面の月を掬う」というのは、もしかしてこういうことだったのか?

[ラヴァ] ……サガがどこにいるか大体検討がついたぞ。

[サガ] おお! この黒胡麻のお汁粉はなんとも香ばしく、甘くて美味だ。後味も申し分ないぞ! 女将殿、本当に食べぬのか?

[レイ] やめておくわ。甘すぎる物は好きじゃないの。

[サガ] そうであったか。実にもったいない。では拙僧が遠慮なく――

[ラヴァ] サガ!!

[サガ] わわわっ――!

[サガ] ラヴァ殿! どうしてそのような大声を? 危うく黒胡麻のお汁粉をひっくり返すところであったぞ……

[ラヴァ] お……オマエはアタシを覚えてるのか?

[サガ] なにゆえそのような……?

[サガ] ははあ……分かったぞ。皆、この現象に困惑しておるのだな?

[ウユウ] お坊様、何が起こっているのかご存知なのですか?

[サガ] 拙僧は絵巻の中で長い長い時を過ごしているのだ。この程度の法則など、当然見つけておるぞ。

[サガ] 拙僧らのような「絵の外の人」を、とりあえず一つの目だと思ってくれ。拙僧らは四人だから、四つの目があるということになる。

[サガ] 拙僧らが眠って、四つ全ての目が閉じられると、この大地は誰にも見られていないことになる。すると絵は段々と最初の状態に戻っていくのだ。私たちが再び目を開けたとき、全ては元通りだ。

[サガ] つまり毎朝起きると、こうなっておるのだ。拙僧はとっくに慣れてしまった。

[ラヴァ] ……つまりアタシたちは本当に……絵の中にいるってことか?

[サガ] うん? 以前もそう申したであろう?

[クルース] じゃあサガさん、私たちの思考や考え方も、絵の影響を受けることはあるのぉ?

[サガ] ん? 拙僧はここに来てから特に考えが変わったりなどはしておらぬが……

[レイ] それはあなたがそういう人だからよ。

[レイ] あなたのお寺の住職様は、外界から切り離された環境でも、あなたを世事に疎い人にはしなかった。それどころかあなたは、極東を離れてからも見聞を広め続けた。

[レイ] だからあなたはここで困惑こそすれ、諦めようなんて考えたことはないでしょう? 自分を強く持ちながら、知らない物事を新鮮な知識として取り入れていける人には、異常は起きないわ。

[レイ] しかし多くの人は、夢と同じで、ここにいる時間が長くなるほど、現実では当たり前だったことをどんどん忘れていくのよ……時間が経つほど、この天地が当たり前だと思うようになるわ。

[レイ] 最後に、あなたは絵を受け入れ、絵もあなたを受け入れる。そしてあなたは絵画の中の人――「画中人」になり、二度と逃れられなくなるの。

[サガ] なんと! 以前、女将殿が拙僧にラヴァ殿を探させたのは、それを防ぐためでもあったのか! ああ……拙僧、何たる鈍さよ……

[クルース] ラヴァちゃん、昨日気づいたんだけどぉ……ここには、源石が全く存在しないんだよねぇ。

[ラヴァ] …………

[クルース] たとえ炎国の移動手段のない片田舎で、天災が少ない地域だったとしてもぉ、源石のエネルギーを全く利用せずにこんな町を作るのは難しいと思うんだぁ。

[ラヴァ] ……たしかに。

[ラヴァ] 待てよ……じゃあレイさんは?

[レイ] ただの現地の女将ですよ。

[ラヴァ] だけどあなたは昨日の出来事を覚えている……

[レイ] 私にとっては、昨日は今日でもあり、今日は明日でもある、そういうことです。

[レイ] なぜなら私は……彼女と約束を交わしたから。

[レイ] だから私は、この私が実際には本当の「私」ではないことを知っています。だけど、私は私でしょう?

[ウユウ] ……どういう意味ですか?

[レイ] あなた方は心優しく、この小さな町が苦しむのを見過ごせなくて、救いの手を差し伸べた。ですが結局のところ……全ては水泡に帰す定めということです。

[レイ] 前回きちんと説明することができなかったのは、あの時もう一人、外界からのお客人が婆山町に来ていたからです。今はもう帰ってしまったようですが……

[レイ] あらためて、本当に申し訳ありません。昨日は無用なことに手を煩わせてしまいました。あなた方にとっては、それこそ災難だったでしょう。

[サガ] ん? 外からの客というのはもしや……?

[レイ] それは言えないわ。

[サガ] なるほど、ならば合点がいった。

[ラヴァ] そこで謎めいた話をしないでくれ……で、仮にここが絵の中だったとして、アタシたちはどうやって入ってきたんだ?

[レイ] それも言えません。

[ウユウ] ううむ、何も言えないと……ならば我々はどうすればいいのでしょうか?

[ラヴァ] ……それはあなたたちが言う、「彼女」が関係しているんですが?

[レイ] ……鋭いですね。

[ラヴァ] 彼女はどこに?

[レイ] ここにはいません。

[ラヴァ] 彼女とはいったい誰ですか……?

[レイ] あなた方もご存知の人物です。

[ラヴァ] それは……

[レイ] シッ。

[レイ] ここでその名前を言ってはいけません。いいですね?

[ラヴァ] …………

[レイ] 彼女は普段理由もなくこんなことをするような人ではありません。実際、彼女は面倒事を嫌うタイプなんです。

[レイ] おそらく彼女とあなた方の間には……何かしら感情のもつれがあるのでしょう。

[ラヴァ] 確かに……もしそういうことなのであれば、納得できるな……

[レイ] ですからこの婆山町は、まさに「水面の月」なのです。

[サガ] なんと……拙僧が鐘を叩かなくとも、この町には代わりにそれを担うことができる人がいるのだな。まことに残念だ……拙僧は鐘を叩くのが好きなのだが。

[ラヴァ] これは……墨魎の出没の合図か?

[レイ] ええ……おそらく私があなた方に真相を伝えたからでしょうね……ですがここの住民が実際には被害を受けないと知って、あなた方も随分気が楽になったでしょう。

[レイ] ここに隠れていてください。あるいは、東に進み東昇河まで行けば何も出ないでしょうから、そこに避難してください。

[レイ] ですがどうかお気をつけて。東昇河の最東端から更に東へ行くと、また西の鴻洞山に戻ってしまいますから。

[レイ] しばらく隠れていれば、墨魎も落ち着くでしょう。

[クルース] この怪物たちは一体何なのぉ?

[レイ] あの人が機嫌の悪い時に、暇つぶしに筆に任せて塗りたくったものですよ。あえて言うなら、彼女の雑念です。

[ウユウ] で……ですが隠れていろとは……? 同じことがまた起きるのを、ただ黙って見ていろと……

[ウユウ] ランは……傷ついて泣いていた。それをただ見てるだけなんて、私の心が耐えられません……

[レイ] 全てが偽りだと思えば、少しは楽になるでしょう。

[ウユウ] ですが――

[ラヴァ] でも、もし偽りではなかったら?

[レイ] 答えはもうその目で見たでしょう。

[ラヴァ] それでも……

[クルース] それでも、あんな悲鳴は聞きたくないなぁ。もうたくさんなのぉ。

[クルース] とにかく西に行って全部倒しちゃえばいいんでしょお?

[サガ] その通りだ! 水面の月を掬って何が悪い!? それで心が満ち足りるのなら、拙僧は一向に構わぬ!

[サガ] 拙僧、いざ参らん!

[ラヴァ] ま、待て!

[クルース] 焦っちゃだめだよぉ。冷静になれば、楽勝だよ~。そうだよねぇ、ウユウくん?

[ウユウ] は、はは。今回こそお手伝いしますよ……

[ウユウ] 待って、待ってくだい恩人様! クロスボウをお忘れですよ!

[レイ] ……それもそうね。

[レイ] ふぅ……こんなお人好したちをここに閉じ込めておくなんて、あなたは何を考えているの……?

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