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風雪一過_BI-ST-2_山雪来る
ノーシスは橋と線路を爆破し、正式に宣戦布告をした。
[ラタトス] おい。
[ラタトス] こんな荒野に連れて来るなんて、何かお宝でも掘り起こして見せるつもりか?
[ノーシス] 口封じのため、と言ったらどうする。
[ラタトス] 減らず口を……まぁ、逆にここで私に口封じされるってのも、悪くない選択かもね。
[ノーシス] もうすぐで着く。ラタトス、この場所に何か心当たりはあるか?
[ラタトス] ……記憶が確かなら、イェラグの外へ通じる道があったはず。だがここら一帯の橋は吹雪で破壊され、とっくに放棄されただろ。
[ラタトス] 元来、ここは猛吹雪がよく起こる。補強した橋ですら維持するのが難しく、皆ここの道路の再開発は諦めた。
[ノーシス] ラタトス……トゥリクムの関所にどれだけ人を忍ばせている?
[ラタトス] エンシオディスが毎日誰と何の取引をしているかが、私の耳に入る程度には。
[ノーシス] では君は、最近どれだけの武装戦闘員と装備が、君の監視をくぐり抜けてイェラグに入ってきたか知っているか?
[ラタトス] ……
[ラタトス] まさか、エンシオディスはトゥリクムを避けて、こんな場所にまで鉄道を敷いたとでも言いたいのか?
[ラタトス] ……そんなバカなことが。
[ノーシス] あちらだ、見ろ。
[ラタトス] あの道の先は谷だろ……
[ノーシス] それは昔の話だ。
[ラタトス] ……
[ラタトス] …………
[ラタトス] ありえない!
[ノーシス] 橋、レール、それを支える構造物のすべてが、両側の切り立った山の中に可動式装置によって収納されている。
[ノーシス] 人目を避けるため、列車が通過する時だけ、橋が山の中から伸びて線路が完成する……
[ノーシス] アイディアはごく単純だが、どれほど複雑な設計でもって実現したことか……実に名残惜しい。
地面に落ちた雪が僅かに震えている。かすかな機械音が次第に大きくなっていく。
橋の軸受け部分から火花がとび散る。イェラグを照らす文明の灯火のように。
機関車が貨物車両を引き連れ、すさまじいスピードで橋を踏み越えていく。列車の重量を表すように、火花が次々に舞い上がる。
青年が皆の方を振り返り、指を鳴らした。
突如膨張した炎が辺りを明るく照らすと、熱がぶわりと広がった。炎が車両をいくつも飲み込んで、祭りの夜のかがり火よりも激しく燃え上がった。
やがて、耳をつんざく音とともに車両が無残にも引き裂かれ、炎を突き破った。
きらきら光る金属が花火のように弾け飛び、まっすぐ伸びた頑丈な橋の鉄筋に音を立ててぶつかると、そのまま下へと落ちていく。
毛皮製品が炎に焼かれて舞い踊る一方で、高品質な戦闘服は少しも傷つかずに散らばっている。
すべてがあまりに突然起こったせいか、あるいは轟音が感覚を麻痺させてしまったからか、この瞬間を目撃した全員がただ呆然とそれを眺め、しばらく何も言葉を発しなかった。
青年だけがただ一人、何事もなかったかのようにアーツユニットをひと振りし、雪の上にさざ波をたてた。
彼はアーツを発動させると、輝く制式軍刀を足元に引き寄せ、手に目をやった。武器はすでに手の中にある。
[ノーシス] ヴィクトリアの鍛造加工だな。
[ノーシス] とても鋭い。
[ノーシス] かすかに浮かぶ青い刃文……シルバーアッシュ家の鉱区で、これに似たような金属を見た者はいないか?
[ラタトス] ……
[ノーシス] 単刀直入に言おう……君は私からエンシオディスの情報を得たい。そして私はブラウンテイル家の勢力を用いて彼に対抗したい。
[ノーシス] 最初にも言ったはずだが、誠意を示すべきなのは私だけではない。なぜならブラウンテイル家のやり方を私はよく知っているからだ。
[ノーシス] 君たちは自分にメリットがない、あるいはエンシオディスには逆立ちしても敵わないと悟れば、私を捕らえ、それを手柄に彼らに取り入ろうとすることも考えられる。
[ノーシス] だが時間はすでに差し迫っている。エンシオディスが一体どれほどの人員と武器を運び込もうとしているのかは、私でも予測がつかない。
[ノーシス] だからこそ私はすぐに行動を開始した。エンシオディスが多大な戦力を秘密裏にイェラグへ運び込む前に、輸送ルートを破壊し――
[ノーシス] さらには、君たちの退路を断ち、共犯者に仕立てる必要があった。
[ノーシス] たとえ君たちがエンシオディスに投降したいと考えたところで、今日のこの爆破の罪から逃れることは不可能だ。
[ノーシス] そして、この線路が損壊した以上、エンシオディスはアークトスと正面から戦うのに充分な兵力を揃えることはできまい。
[ノーシス] 君たちにはもはや選択肢はない。
[ラタトス] ……誰か、ノーシスを捕らえろ!
[ノーシス] 待て!
[ノーシス] ラタトス、それが君の答えか?
[ラタトス] ノーシス、前提を見誤ったね。
[ラタトス] 私は初めからあんたなんて信用していない。裏切り者をそう簡単に信用するはずないだろ。
[ラタトス] カランド貿易を追い出された後も、あんたがなぜ堂々とうろついていられるのか、私はずっと疑問だった。
[ラタトス] エンシオディスがあんたを放っておく理由は、あんたが握っている情報が取るに足らないもので、裏切りも想定の範囲内だからだろうと私は推測していた。
[ラタトス] そしてあんたは、あいつに目くらましとして利用されているのも知らずに、私たちのところにノコノコやって来た……そう思ってたんだけど、今となっては状況が変わった。
[ラタトス] あいつがあんたを自由に動き回らせたうえ、ここまでのレベルの機密を漏洩させるなんてことをするか? これほど重要な線路に守備兵を配置しないなんてことがあるか?
[ノーシス] 君の言う通り。彼が備えを怠るはずはない。あれはエンシオディスなのだ。
[ノーシス] 焦らずともすぐにわかる。彼らの本来の任務は雪の上に残った列車の痕跡を隠すことだからな。
[???] 調子に乗るなよ、ノーシス。
[ノーシス] 紹介しよう。これがエンシオディスが秘密裏に訓練している部隊、その名も「チェゲッタ」だ。
[ラタトス] なっ、こいつらが……チェゲッタだって!?
[ノーシス] 彼らは古代の伝説に語られる山雪鬼の名を冠し、イェラガンドの威光に帰順することなく、最も純粋な力で信仰に挑む。
雪山の奥深くに潜むという、伝説の山雪鬼――「チェゲッタ」。
それらは不気味な仮面をかぶり、巨大な鈴をぶら下げ、獣の毛皮を身にまとうとされ、イェラグの子供たちはその名を聞いただけでたちまち泣き出すという。
それは所詮ただの伝説にすぎないが──
彼らがかぶる仮面を見て、ラタトスは思わず身震いをした。そして目の前にいるこの部隊の装備から、列車の周りに散らばった戦闘服を連想するのは難しくない。
[「チェゲッタ」] ……旦那様の寛容な処遇を、貴様はこのような卑劣な裏切りで返すのか。
[「チェゲッタ」] ここにいる奴らを全員捕らえろ!
[ノーシス] さてラタトス、君の誠意を示す時だ。
[ラタトス] チッ、借りは返してもらうぞ!
[ノーシス] まもなく、ここで落雷による雪崩事故が起こる。
[ノーシス] エンシオディスが秘密裏にここに送り込んだ部隊は、不幸にもその事故に遭い行方不明となるだろう。
[Sharp] ……部隊の名称は「チェゲッタ」と言ったか。現場にいた数は比較的少数で、皆ラタトスたちに捕らえられた。
[Sharp] 貨物列車を運転していた二名の「チェゲッタ」も、生き残りはしたものの、同様に監禁された。
[Sharp] 俺が見たのはここまでだ。誰にも気付かれてはいないと自信を持って言える。
[Sharp] エンシオディスもこれが単なる雪崩だとは思わないだろうな。
[エンシア] ドクター! こっちこっち!
[Sharp] シルバーアッシュ家の疑いを避けるため、俺は一旦ここで離れる。ドクター、次の指示を待っている。
[ドクター選択肢1] クリフハート!
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 久しぶり。
[エンシア] ふぅ……ドクターの無事な姿を見てやっと安心できたよ。誰に聞いてもドクターは仕事があるから会えないの一点張りだったからさ。
[エンシア] 大典が終わるまでずっとペイルロッシュ家にいなきゃいけないんだよね……? あたし心配だよ。
[エンシア] ドクター、どうして何も言わないの? ……無事なんだよね?
[エンシア] ねえ、ペイルロッシュ家に何かされたわけじゃないんでしょ!?
[エンシア] それほど久しぶりでもないけど……
[エンシア] でもドクターを招いてからいろんなことがあったし、たしかに随分時間が経ったようにも感じるね。
[エンシア] あ、でも聞いたよ。アークトスさんたちとはなんとかうまくやってるみたいだね?
[エンシア] ううん……それも当然か。ドクターってロドスでもみんなに好かれてるもんね。
[エンシア] そうだ、あたしに何か手伝えることない? 次々巻き込んじゃって申し訳ないと思ってるんだ。ドクターのためにできることがあればしてあげたいよ。
[ドクター選択肢1] エンシオディスを守ってあげて。
[ドクター選択肢2] 巫女様によろしく伝えてくれる?
[エンシア] え? ブレヒャーお姉ちゃんだっているし、あたしがいても邪魔になるだけだよ。
[エンシア] でもドクターがそう言うんだったら、気にかけておくね。
[エンシア] お姉ちゃんも最近はすんごく忙しいだろうからさ、あたしも会えてないんだよ。
[エンシア] でも本当に必要な時は、山道を登ってこっそり会いに行っちゃおうかな。
[エンシア] はぁ……ドクターの力になりたかったのに、逆にドクターに気を使わせちゃうなんて。
[ドクター選択肢1] じゃあ、イェラグの伝説のチェゲッタについて教えて。
[エンシア] チェゲッタなんて、どこで聞いたの?
[エンシア] それって、実はもうずーっと昔の噂話なんだよ。
[エンシア] すっごく昔、イェラガンドが吹雪から人々を守ってた時に、その庇護を受け入れない山の妖怪たちがいたんだって。その中で──
[シルバーアッシュ家戦士] ……多くの線路が同様の被害を受けていることを確認致しました。損失はすでに算出済みで、修復にはしばらく時間がかかる見込みです。
[シルバーアッシュ家戦士] しかし最も深刻なのは、イェラグと外界を繋ぐ線路のうち、我々が完全に管理していた数本が遮断されたことです。
[エンシオディス] つまり、現在イェラグに外部の力が介入することは容易ではないということか。
[シルバーアッシュ家戦士] しかし、我々が必要とする各資源および材料の備蓄は充分にあり、線路修復までの間も活動の維持は可能です……
[エンシオディス] それは些細な問題だ。私が言っているのはその件ではない。
[シルバーアッシュ家戦士] ……それと、ノーシスがラタトスと接触し、我々の領地周辺を徘徊する様子が確認されています。
[エンシオディス] わかった。
[エンシオディス] ドクターの状況はどうだ?
[シルバーアッシュ家戦士] ペイルロッシュ家は、ドクターに対する厳重な監視を解除した模様です。ただドクターの護衛は非常に用心深く、我々では追跡できておりません。
[エンシオディス] わかった、下がれ。
[シルバーアッシュ家戦士] はい。
[デーゲンブレヒャー] 随分と徹底的にやられたわね。
[エンシオディス] 少しばかり予想外であったと認めざるを得ないな。だがノーシスであれば当然これくらいのことはやってのけるだろう。
[デーゲンブレヒャー] あなたの信頼は本当にねじ曲がってるわね。
[エンシオディス] 彼は長年カランド貿易の一翼を担ってきた逸材だ。いくつかの分野で私の予想を超える力を発揮しても驚きはしない。
[エンシオディス] だがそれは決して信頼ではない……要求だ。シルバーアッシュ家が一人の人材に求めるものだ。
[エンシオディス] 私はこれまで、イェラガンドの肩から全イェラグを受け継ぐ資格を得られるのは、それを背負う準備ができた者だけだと思っていた。
[エンシオディス] だが、三家会議と蔓珠院はこの問題をあまりに長い間放置しているように思う。
[デーゲンブレヒャー] だから、あなたや巫女がイェラグを背負うことにした、なんて言わないでね。
[エンシオディス] ……彼女は最終的にそれを選ぶかもしれない。
[エンシオディス] そして私は次のステップのための準備をする必要がある。
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