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風雪一過_BI-8_チェックメイト_戦闘前
ドクターの作戦は、シルバーアッシュ家を惑わすことに成功した。 カランドの麓に到着したエンシアは、山を登り始める。その頃、策に阻まれたデーゲンブレヒャーとSharpの決闘が始まろうとしていた。
[メンヒ] ノーシス様、ペイルロッシュ領の境界線の林地に沿って捜索を行いましたが、行軍の痕跡は見つかりませんでした。
[ノーシス] ……引き続き探すんだ。
[メンヒ] はい。
[ヴァイス] ノーシスさん、動きがありました。
[ヴァイス] グロ将軍がある程度の人員と共にドクターの部隊から離れ、カランドを迂回した後、関所を強行突破して駅を占領しました!
[ノーシス] 何だと!?
[ヴァイス] 現在、グロ将軍の隊は駅の人々を追い払おうとしているようです。そして、それとは別の隊がコリントスの町へと向かっています。
[メンヒ] コリントス……ユカタンが監禁されている町です……目的は彼の救出でしょうか?
[ノーシス] ありえない。あまりに非効率的だ。恐らく別の目的がある。
[ノーシス] メンヒ、君が確認した際は、ドクターの侵攻ルートをどのように予想した?
[メンヒ] ……彼らはカランドに――そして関所にも繋がるルートを選んでいるものと考えました。
[ヴァイス] まさか、ドクターの目的は本当にカランドを迂回し、我々の領地を攻めることなのでしょうか……?
[ノーシス] その可能性もあると、君たちには警告したはずだ。
[ノーシス] いや、私も迂闊だったな。関所にもっと多くの兵力を配置しておくべきだったか。
[ヴァイス] ドクター……
[ノーシス] だが、アークトスの姿が見えない以上、現時点で彼らの目的を断定することはできない……
[ノーシス] ……駅にヴァレスをやってグロの対処をさせろ。ヴァイスはコリントスに向かえ。
[ノーシス] 麓の兵も一部関所の防衛に回せ。ドクターの部隊が関所を破り領地に侵入することは何としてでも阻止しろ。
[ヴァイス] わかりました。
[ペイルロッシュ家戦士] 将軍、駅は占拠できたのに、なんでまだここでじっとしてなきゃならないんです?
[ペイルロッシュ家戦士] 駅はシルバーアッシュの推し進める政策の象徴ですぜ。ドクターからは、怪我人は出すなと言われてますが、ここを破壊するなとは言われてませんよ。
[グロ] まぁ焦るな、次の列車が来てからに──
[グロ] ん? 次の列車であってるか? ドクターのメモだと……
[グロ] よし、間違いねぇ。
[イェラグ商人A] ひっ、何が起きてるんだ?
[グロ] ここはこのペイルロッシュ家のグロが占領した! 死にたくなかったらさっさと失せろ!
[イェラグ商人B] ペイルロッシュ家の者がどうしてここに!?
[イェラグ商人A] しかも最凶最悪と言われるグロ将軍だ! ペイルロッシュ家が侵攻して来たのか!?
[イェラグ商人B] ひいぃぃ! まだ死にたくない、早く逃げるぞ!
[グロ] そうだ、それでいい! さっさと逃げやがれ!
[エンシア] ……
[エンシア] えーと、グロ将軍……あの、迎えに来てくれてありがと。
[グロ] フンッ、ドクターからお前が助っ人だって聞かされてなけりゃ、シルバーアッシュ家の娘に協力するなんて死んでも御免だがな。
[グロ] けど、お前はマジであの兄貴と繋がってねぇのか?
[エンシア] あたしはお兄ちゃんを止めに来たんだよ。
[グロ] ……お前のことは信じねぇが、ドクターは信じる。Sharpの野郎も、あいつがもたらす勝利を信じろって言ってたしな。
[グロ] まあいい、これから山を登らなきゃなんねぇんだろ? 急げよ。
[グロ] お前らが行った後で、この鉄道をしばらく使えねぇようにしなきゃなんねぇからよ。シルバーアッシュ家の援軍がすぐには来れないようにするためにな。
[エンシア] うん、ありがとう、グロ将軍!
[グロ] ……こいつら家族は、ほんとわけわかんねぇな。
[グロ] よし、こっちもやることやるか。
[スキウース] ……フンッ、あの筋肉バカ、頭は悪いけど戦闘力は確かなものね。
[スキウース] 駅の方は任せて問題なさそうだわ。
[スキウース] 次は──ああもう、お尻が痛い……
[ブラウンテイル家戦士A] スキウース様、駄獣から下りて少しお休みください。あとは我々にお任せを。
[スキウース] フンッ、今は休んでる場合じゃないでしょ。
[スキウース] あたしたちの任務は、グロのなんかよりずっと骨が折れるのよ。
[スキウース] ユカタン救出に加えて、できる限りコリントスを占領しなきゃいけないんだから。
[スキウース] ドクターの作戦が成功するまで、シルバーアッシュ家の注意をどれだけ引けるかが鍵なのよ。わかる?
[ブラウンテイル家戦士A] ですがスキウース様……この程度の人数で我々は本当に持ちこたえられるのでしょうか? あのドクターは我々を陥れようとしているのでは?
[ブラウンテイル家戦士B] そうですよ、ラタトス様ですら……
[スキウース] 黙りなさい。
[スキウース] いい? ラタトスはこの家をこれまでずーっと支えてきたから、もうヘトヘトなのよ。だからこそこの件をあたしに任せたの。
[スキウース] ブラウンテイル家は今、存亡の危機に瀕してる……ここを凌いで未来を掴むか、屈服してシルバーアッシュ姓を名乗らされることになるかの瀬戸際なのよ。
[スキウース] エンシオディスが何を企んでいようと、イェラグをどうするつもりだろうと関係ない。でも、あたしたちブラウンテイル家は、他人の言いなりになんかならないわ。これまでも、これからも!
[スキウース] シルバーアッシュ姓になっても構わないって人は好きにしなさい。でも、ブラウンテイルという名字と、その心を失いたくない人はあたしについてきなさい!
[ブラウンテイル家戦士A] (これほどやる気と気迫に満ちたスキウース様は初めて見た……)
[ブラウンテイル家戦士B] (スキウース様って、意外とカリスマ性があるのかも……?)
[ブラウンテイル家戦士C] (ただ思ったことを言ってるだけなんだろうが、なんと力強い……スキウース様には、これまでこういう機会がなかっただけだ。)
[スキウース] 何こそこそ話してるのよ?
[ブラウンテイル家戦士A] (ラタトス様でさえ投降の意志があったと聞いたが、スキウース様が諦めないのであれば……)
[ブラウンテイル家戦士B] (俺たちがここで諦めるのは、あまりにも情けない。)
[ブラウンテイル家戦士C] (そうだな。それに正直言えば、ラタトス様が本当に投降を選ぼうとしたかどうかも疑わしい……)
[スキウース] いつまでゴチャゴチャ言ってるのよ! 逃げたいのならさっさと逃げなさい!
[ブラウンテイル家戦士たち] 俺たちはブラウンテイル家のために戦います!
[スキウース] ……フンッ、そうこなくっちゃ!
[エンシア] あとは、あたしに任せて。
[オーロラ] 本当に行くの……
[エンシア] 安心して、あたしはプロの登山家だよ。
[オーロラ] ……気を付けてね。
[オーロラ] 良い知らせを待ってるから。
[エンシア] ……治療のためにロドスへ行ってからもずっと訓練はしてたけど、こうやってちゃんと山に登るのは、ほんと久しぶりだな。
[エンシア] なんだか興奮してきちゃった、ハハッ。
[エンシア] 待ってて、お姉ちゃん。今行くからね。
エンシアは、子供の頃、姉を無理やり連れて山に登るのが好きだったことを思い出した。
だが姉はいつも、それほど疲れた様子でもないのに、途中で諦めて山を下りてしまう。
姉は、暖炉の隣にあるソファで縮こまり、妹や兄のために編み物をするか、うたた寝をするのが好きだった。
きっと、山が好きじゃないんだ。エンシアはそう思っていた。
だが、巫女になった姉は、山に閉じ込められてしまった。
エンシアには願いがあった。姉を山から救い出したいという願いが──
[ペイルロッシュ家戦士] 将軍、これでこの鉄道は使えなくなるはずですよね。
[グロ] さあな……まぁ、多分大丈夫だろ。
[グロ] 心配してても仕方ねぇし、もう片方の任務もしっかりやらねぇと。シルバーアッシュ家の領地で、派手に暴れて騒ぎを起こせってやつだ。
[グロ] ここは片付いたし、ほかの場所で一暴れと──
[グロ] ……ん?
[グロ] 来るのが少し遅かったみてぇだな、ヴァレス。
[ヴァレス] ……グロさん、ドクターは一体何を考えてますの?
[グロ] 昔のよしみで、教えてやりてぇところだがよ……
[グロ] 俺にもドクターの考えはさっぱりなんだ、ガハハッ!
[グロ] だけど自分のやるべきことくらいはわかってるぜ。でけぇ騒ぎを起こして、エンシオディスの邪魔をするってことだ!
[ヴァレス] グロさん、私はあなたを困らせたくはありませんの。
[ヴァレス] ペイルロッシュ家の優秀な戦士たちを、一人だって困らせようなどとは思っておりませんわ。
[ヴァレス] どうか抵抗はおやめください。あなた方に勝ち目はありません。
[グロ] ヴァレス、お前がつらい思いをしてるってことはわかるが、俺は人の慰め方を知らねぇ。
[グロ] 何をしようとお前が失ったもんは取り返せねぇこともわかってる。
[グロ] だから、お前のうっぷんが晴れるまで、喧嘩に付き合ってやるよ。
[ヴァレス] ……
[エンシア] ふぅ、ここまで来れば、第一関門は突破だね。
[エンシア] あっ……この道、確か巫女の試練で通る道だよね。
巫女の選抜儀式の前夜、姉と兄が険悪な様子だったことを、エンシアは思い出した。
あの晩、姉はリビングのソファで一人、夜明けまで座っていた。
年齢が規定に達していれば、自分も巫女の選抜に参加したかったと姉に伝えると、思い切り頭を叩かれた。
――ものすごく強い力で。
そのげんこつを最後に、姉と触れ合う機会がこれほど長い間失われることになるなど、当時は思いもしなかった。
[アークトス] ……
[ペイルロッシュ家士官] 旦那様、雪が降り始めましたね。
[アークトス] これはチャンスだ。
[アークトス] イェラガンドが俺たちに味方してくださっている。
[ペイルロッシュ家士官] 迂回して聖猟の山区に入り込むのはかなりの時間を要しましたが、結果は吉と出ましたね。
[アークトス] 麓の状況はどうだ?
[ペイルロッシュ家士官] 守備隊の戦力は予想をはるかに下回っています。どうやらドクター側で奴らの注意を引くのに成功したようです。
[アークトス] ハハ、よーし、いいぞ。ドクターもあっぱれだ!
[アークトス] 俺たちもペイルロッシュの名に泥を塗るわけにはいかんな。
[アークトス] 戦士たちよ! ここまで来たからには、もう身を隠す必要はない!
[アークトス] 俺の後に続け! シルバーアッシュ家の連中には構わず、カランドになだれ込み巫女様を救出する!
[ペイルロッシュ家戦士たち] おうっ!
[エンシア] ……こんな時に吹雪き始めるなんて。
[エンシア] イェラガンドはほんと、おふざけが好きだなぁ。
[エンシア] それとも、あたしが巫女の妹だから、試練を与えてるとか?
[エンシア] だとしても構うもんか。
[エンシア] こんな吹雪じゃ、あたしは止められないよ!
[エンシア] 行け、エンシア! オーロラたちの前であんな大きな口を叩いたんだもん、あんたならできるよ!
ロドスからイェラグに手紙を送るのは難しかった。
ヴァイスがロドスに来た時だけ、手紙を届けてもらえるのだ。
だが、ヴァイスがロドスに来るたび、彼女の心の中で喜びと悲しみがせめぎ合った。
喜びをもたらすのは、クーリエが届けてくれる姉の手紙。
悲しみをもたらすのは、ヴァイスとマッターホルンがいつも彼女を子ども扱いし、彼らの顔に浮かぶ憂いに気付かれていないと思っていること。
彼女もシルバーアッシュ家の子供である。両親が残した本を読み、両親のイェラグに対する展望についても知っている。ヒュパティア先生の授業でもなかなかの成績を収めるほどに優秀なのだ。
彼女はもちろん理解していた。
ただ彼女は納得ができなかったのだ。あらゆる悲劇は、起きるべくして起きたのだろうか?
もしそうだとしても、なぜよりにもよってそれが彼女たちの家で起きたのだろうか?
[メンヒ] ノーシス様、突然アークトス率いる部隊が麓に現れ、防衛線を突破しました!
[ノーシス] チッ……どこから現れたのだ!?
[メンヒ] 恐らく、聖猟が行われた山の中に分け入ったと思われます。それで彼らの痕跡を見つけられなかったのではないかと……
[ノーシス] 麓の隊では奴らを止められないのか?
[メンヒ] 一部を関所に向かわせたうえ、突然大雪も降り始めましたので……しかも向こうは戦闘に固執せず、明らかに防衛線突破だけを目的としています。
[ノーシス] ……
[エンシオディス] やられたな、ノーシス。
[ノーシス] ……
[エンシオディス] お前の最初の判断は正しかった。彼らの目的はカランドと巫女だけであり、他は二の次であったようだ。
[ノーシス] 皮肉を言うために戻ってきたのか?
[エンシオディス] いや、これは私でも判断しかねただろう。
[エンシオディス] お前がカランド貿易における自身の悪評を利用し、虚実の判じ難い芝居を私と演じたように──
[エンシオディス] ドクターも、自身に対する我々の理解不足を利用したのだ。我々にあるのは、ドクターはやり手の策士という印象のみだったからだ。
[エンシオディス] お前がドクターはイェラグを支配しようとしている可能性もあると考えたように、私もドクターの目的が巫女のみであるはずがないと考えた。
[エンシオディス] もちろん、ドクターであろうと我々が本当にそう考えると断定はできない。奴も賭けをしていたのだ。
[エンシオディス] 関所付近におけるドクターの行動は、イェラグに対する企みであるに違いない──お前がそう判断することに賭けた。
[エンシオディス] ドクターはお前の懸念を引き出せれば十分だった。お前ならその懸念を払拭するために兵を送るだろうと予測したからだ。
[エンシオディス] 結果的に、ドクターはこの賭けに勝ったのだ。
[ノーシス] エンシオディス、君の尊大さには本当に嫌気がさすよ。この期に及んで、まだ敵の行動を嬉しそうに賞賛するとはな。
[ノーシス] これはゲームではない。私たちに失敗は許されないのだ。
[エンシオディス] 私とて失敗は嫌いだ。
[エンシオディス] だからデーゲンブレヒャーを向かわせてある。
[ノーシス] アークトスを止めにか?
[エンシオディス] いいや……ドクターはなぜ、カランドにも関所にも侵攻可能なルートを選んだと思う?
[ノーシス] ……つまり、アークトスが率いる部隊こそ陽動部隊だというのか。
[ノーシス] となれば、初めからドクター率いる部隊は囮であると同時に、主力部隊でもあったというわけか。
[ノーシス] 動きが遅かったのはタイミングを見計らっていたからと考えれば、合点がいく。
[エンシオディス] そうだ。その上、私の予想通りならば、今頃、ドクターも動き始めているはずだ。
[エンシオディス] もしアークトスと合流されてしまえば、それこそ面倒になる。
エンシアは本当はわかっていた。
自分の願いは叶わないと。
彼女には、姉を山から救い出すことなどできない。
兄と姉の関係を修復することも、彼女にはできない。
自分の兄が何をしようとしているか全くわからないなんて、そんなバカなことがあるだろうか?
兄と姉の溝が徐々に深まっているのに気付かないなんて、そこまで鈍感なはずがあるだろうか?
とはいえ、彼女に何ができるというのか……
彼女は泣くことも、他人に悩みを打ち明けることも好きではない。だが、それ以上に、諦めることが大嫌いなのだ。
だから、彼女にできるのはピッケルを頭上の岩に打ち込むことだけ――そしてひたすらそれを繰り返した後、山頂から風景を見下ろせば、しばらくの間はその悩みを忘れられる。
吹雪が彼女の頬を叩き、一筋、また一筋の跡を残す。まるで涙のように。
[ペイルロッシュ家戦士] ドクター、アークトス様の方も動き出しました。
[ペイルロッシュ家戦士] 関所の方にはシルバーアッシュ家の増援が向かったようです。
[ペイルロッシュ家戦士] 今のところ、あなたの計画通りですね。
[ドクター?] ……
[ペイルロッシュ家戦士] ……やっぱり来やがったか。
[デーゲンブレヒャー] ここまでよ、ロドスさん。
[ドクター?] ……
[デーゲンブレヒャー] あら。
[デーゲンブレヒャー] あなた、たしかコードネームはSharpだったかしら。
[Sharp] ドクターが予備のフードを持ち歩いていたのが功を奏したな。
[デーゲンブレヒャー] なるほど……つまりこの大部隊でさえ、本命かどうかわからない──そういうことかしら?
[Sharp] 厳密には、この策はお前のためだけに用意されたものと言うべきだろう。
[Sharp] お前のように、すべての計画をたった一人の武力で覆せるような存在に対しては、ドクターも慎重にならざるを得ない。
[デーゲンブレヒャー] エンシオディスじゃあるまいし、敵から贈られる称賛や尊敬の言葉なんて、私にとっては何の価値もないわ。
[デーゲンブレヒャー] 私にとって、敵は地面に倒れるだけの存在だから。
[Sharp] ならば、俺たち全員が相手になることを喜ぶがいい。
[デーゲンブレヒャー] フン、私の相手になりそうなのはあなたくらいのものよ。
デーゲンブレヒャーは首を振り、ため息をつくように彼女にとっての事実を述べた。
Sharpは目の前の女性を見て、どういうわけか、とある友人のことを思い出した。同じエリートオペレーターであるStormeyeを。
もし彼がこの場にいたなら、このような相手に心を躍らせたことだろう。
しかしSharpにとっては、ドクターの装いでこの隊に紛れ込むのも、目の前の強敵に対処するのも、いずれも任務の一部にすぎない。
[Sharp] ……残念だが、俺も敵からの称賛に喜びは感じないタイプでね。
[デーゲンブレヒャー] 私は栄光なんてくだらないと思っているけど……あなたはそもそも興味すらないみたいね。
[Sharp] 単なる仕事にそんなものが必要なのか?
[デーゲンブレヒャー] 単なる仕事?
[Sharp] 個人的感情を仕事に持ち込むのはアマチュアだ。仕事ならば、プロ意識を重要視すべきだ。
[Sharp] 俺の戦闘スキル一つとっても、ひけらかす価値などありはしない。仕事を完遂させるための能力の一つにすぎないんでな。
[デーゲンブレヒャー] アハハハ、悪くない考え方ね。
[デーゲンブレヒャー] これまでずっと、自分の腕や信念に変なプライドを持ってる敵ばかりでうんざりしてたの。
[デーゲンブレヒャー] それに、そういう連中は例外なく私に負けてるしね。
[Sharp] お前の噂は耳にしている、黒騎士。
[Sharp] アーツを使えないリターニア人……あらゆる尊厳や自信は、お前の大剣の前では全くの無価値であると。
[Sharp] で、大剣はどうした?
[デーゲンブレヒャー] こんな素朴な国であんなもの持ってるとみんな怖がるでしょ。だから武器を変えたのよ。
[デーゲンブレヒャー] 実際、何を使おうと大して変わらないし。
デーゲンブレヒャーが持っていた剣を無造作に振ると、一瞬、吹雪ごと空間が真っ二つに斬られたように見えた。
[Sharp] だが俺は今回、勝利を約束されている。
Sharpはわずかに身をかがめると、腰にある制式刀の柄に手を置いた。
デーゲンブレヒャーはその構えから、記憶にある馴染み深い匂いを嗅ぎ取った。
カジミエーシュでは、ごく少数の者のみが放っていた匂いだ。
それは、戦場の匂い。
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