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風雪一過_BI-7_砕氷_戦闘前
アークトスはドクターの助力を受けて態勢を立て直し、ラタトスは指揮権を妹に委ねるのだった。
[長老A] はぁ……
[長老B] どうだ?
[長老A] やはり、「チェゲッタ」たちが行かせてくれませぬ。
[長老A] エンシオディスめ、何が我らの安全のためだ! ここでじっとしていれば大丈夫だの何だのと、聞こえのいいことばかり言いおって!
[長老B] ほれ、私の言う通りだったろうが。エンシオディスは私たちをここに幽閉しておくつもりなのだ!
[長老A] 今現在、大長老は昏睡状態、巫女様も戴冠を受けておりませぬ。奴は裏切り者は他の両家だなどと申しておりますが、奴自身、何か良からぬ思惑があるに違いありません。
[長老B] よせ……ふぅ、今はそんなこと言っても仕方ない。これまで院内のことは大長老がお決めになられていた。しかし大長老がこの様子では、我々は誰の判断を仰げばよいのやら。
[長老C] まさか、これもイェラガンドのご意思だとでもいうのか……
[エンヤ] イェラガンドが今の状況を望んだか否かは身共も知り得ませんが、もし主が今のあなた方の姿をご覧になれば、心を痛めることでしょう。
[長老A] 巫、巫女様!
[長老B] 私たちは……私たちはただ心配を……
[エンヤ] 何かご心配なことでもございますか?
[長老C] 大長老の容体……それに今の三大名家の状況も……
[エンヤ] 先ほどお医者様に尋ねて参りました。確かに大長老の容体は予断を許しませんが、長年にわたり蔓珠院を束ねてこられたお方です。必ずやイェラガンドのご加護により快方に向かうことでしょう。
[エンヤ] それまでの間は、院内での物事は些事から大事に至るまで、すべて身共が代わりに采配いたします。
[長老A] それは……
[ヤエル] 巫女様は本来、戴冠の儀でイェラグの管理者となるはずでしたわ。大長老も巫女様を自らの後任とするご意思がありました。特殊な状況下であることも踏まえれば、問題があるようには思えませんが。
[ヤエル] それとも、長老たちにはもっと良い考えがおありなのでしょうか?
[長老A] たかが侍女頭が出しゃばりおって……
[長老B] やめておけ、ヤエルの言うことは正しい。
[長老B] 我々は元々巫女様のお力を疑ってなどおらぬ。今こうして巫女様が自ら立ち上がり、人々を安心させてくださると言うのならば、それに勝ることなどないだろう。
[エンヤ] 長老の皆様、ご心配にはおよびません。
[エンヤ] 大典であのようなことが起きた以上、エンシオディスには確かに蔓珠院を自らの兵で固める大義名分があります。
[エンヤ] それに、たとえエンシオディスが真に悪意を抱いていようとも、身共がいるからには、蔓珠院に手出しはさせません。
聖猟に臨む巫女は、ただ人目を奪うだけの眩しい存在だった。
しかし今の巫女からは、ある種の逆らえないような気迫が伝わる。
長老たちは顔を見合わせると、やがて次々に頭を垂れた。
「巫女様の仰せのままに。」
[エンヤ] 皆様、お下がりください。
[エンヤ] ……
[エンヤ] ふぅ……
[ヤエル] エンヤ、すっごく威厳があったわよ。
[エンヤ] 本当ですか?
[ヤエル] ええ。私はてっきり、あなたはあの大典での出来事に失望して、意気消沈しているかと思っていたもの。
[ヤエル] でも、余計な心配だったみたいね。
[エンヤ] いえ……確かに失望はしました。
[エンヤ] ですが、私が以前に失望した時は、その意思表示すらできませんでした。
[エンヤ] あの時の私は、自分の考えを押し通せるほどの実力もありませんでしたから。
[エンヤ] しかし今回は、失望こそしましたが、私には何かを変えられるだけの力を手に入れたのです。
[エンヤ] だからこそ、私はただ失意に沈んでいるのではなく、行動を起こすべきだと思っています。
[ヤエル] ……エンヤ、本当に成長したわね。
[エンヤ] 願わくば、いつまでも成長することなく子供でいたいものですね。一日中このようなことを考えているのは大変ですから……
[エンヤ] ……
[エンヤ] ですがあなたの言う通り、私も成長したのです。
[大長老] 信仰……
[大長老] ……ゴホゴホッ。
[修道士] 大長老、ようやくお目覚めになられましたか!
[大長老] 静かにせい。
[修道士] はい。
[大長老] 大典は……ゴホッゴホッ、どうなったんじゃ? わしは……確か、ブラウンテイル家の者を問いただし、その後は……思い出せぬ。
[修道士] アークトス様に毒を盛られたのです。その後、ノーシスが現れて、場はさらに混乱状態に陥りました。
[修道士] 最終的に、アークトス様とラタトス様が手を組んでエンシオディス様を制圧しようとしましたが、結局エンシオディス様に返り討ちにされたのです……
[大長老] そんなことは聞いておらん。
[大長老] 戴冠の儀は? 巫女は? 主権奉還はどうなったのじゃ?
[修道士] ……儀式は中止されました。エンシオディス様がペイルロッシュ家とブラウンテイル家を服従させた後、また改めて儀式を行うと宣言されましたので。
[大長老] ……
[大長老] ……エンシオディスめ、ゴホゴホッ。
[大長老] 巫女は?
[修道士] 巫女様は……今はご自分の部屋におられます。
[大長老] ……
小僧よ、初めて三家会議をそばで聴いてみて、いかがであった?
……大長老様、三家会議がこれほど退屈なものとは思っていませんでした。
三家の当主はイェラガンドに対して全くの無関心であるかのようでした。皆自分の一族のことしか話さず、どの家が行事を仕切るかすらあまり興味がないようで……
ははっ、聡明な子よのう。やはりわしの目に狂いはなかったか。
……大長老様、あなたはこのような現状をわかっていながら、あえて私に見学させたのですか?
その通り。
どうしてです?
いつかお前も大長老になるからだ。
そしてお前は理解するであろう。信仰とは一体何を意味するのか。
[大長老] お主……蔓珠院に来て何年だ?
[修道士] はい? ええと……二十五年でございます。
[大長老] その二十五年間──ゴホゴホッ、お主はこの蔓珠院が、このイェラグがどこか変わったと思うか?
[修道士] それは……シルバーアッシュ家がもたらしたものを除いては、何も変化らしきものはないかと。
[大長老] この土地は、千年来何も変わっておらぬ。
[大長老] これから未来永劫、変わるべきではないのじゃ。
[大長老] ゴホゴホッ、起こしてくれんか。
[修道士] ですが大長老、お身体が……
[大長老] わしの身体のことは……ゴホゴホッ、わしが一番よくわかっておるわい。
[大長老] わしはもう長くない。
[修道士] なっ……
[大長老] 巫女に本堂までお越し願え。わしから話があると伝えてくれ。
[アークトス] ドクター、お前に助けられたのはこれで二度目だな。
[アークトス] エンシオディスがイェラグに戻り、カランド貿易を設立してからというもの、俺は奴のやり方が気に食わなかった。
[アークトス] お前もイェラグに入った時に目にしたかもしれないが、奴が建てた貿易港は、俺にとってはまったく得体の知れない存在だ。
[アークトス] 奴が取り入れたものを俺も実際に使ったことがある。確かに便利だと感じたし、俺のところにも使っている者はいる。
[アークトス] 若い連中は、俺があいつらの話題についていけないと思い込んでいるらしいが、流石に俺もそこまで疎くはない。
[アークトス] だがエンシオディスにこのまま好きにやらせておけば、イェラグを待ち受けているのは破滅だけだ。
[アークトス] イェラガンドは我々を見ておられる。このままでは、イェラグに罰が下されてしまう──
[アークトス] 俺はその一心で、これまで奴に反対し続けてきた。だが、結果はこの通りだ。
[アークトス] ペイルロッシュ家には力自慢は揃っているが、頭を使うことのできる人間はいない。
[アークトス] いや、いなくなったと言うべきか。唯一それができたヴァレスはもう……
[アークトス] ……俺は、お前を信じていいのか?
[Sharp] ドクター、ラタトスが来たぞ。
[ラタトス] アークトス? 私はてっきり、もう全兵力を動員してエンシオディスとドンパチしている頃かと思っていたよ。
[アークトス] ドクターに止められなければ、とうの昔にそうしていたところだ。
[ラタトス] ドクター……
[ラタトス] あんたは私の命を救った……本来なら、あんたの恩に報いるべきなんだろうね。
[ラタトス] だけど、もしあんたの欲しいものがブラウンテイル家なら、申し訳ないが断らせてもらうよ。
[ドクター選択肢1] 君の手助けが必要だ。
[ドクター選択肢2] (彼女の上着の襟を整える)
[ドクター選択肢3] 悪人だと決めつけないでくれ。
[ラタトス] ……ここ数日で聞いた中じゃ、一番聞こえのいい言葉だね。
[ラタトス] ……あんた……
[ラタトス] あんたとは赤の他人だ。その赤の他人がなにか大きな策を考えているとなれば、疑心暗鬼にならない方が難しいと思わないか?
[ラタトス] ……まあいい。
[ラタトス] アークトスがここにいるんだ、深く考えなくともあんたたちが何をしたいかはわかる。
[ラタトス] 正直に言うと、あんたの部下が現れなければ、私はあのままエンシオディスに投降していたかもしれない。
[ラタトス] そんな私に手伝えることなんて、本当にあるのか?
[ドクター選択肢1] もしアークトスも投降するつもりなら、手伝えることはない。
[アークトス] ……ペイルロッシュ家は、絶対に降伏などしない。
[ラタトス] ……それで、あんたたちはどうするつもりなんだ?
[ドクター選択肢1] まず、君たちはすでに負けている。
[ドクター選択肢2] まず、君たちを勝たせることはできない。
[ラタトス] あんたにいちいち言われなくてもわかってるさ。
[ラタトス] 民衆の心は今、エンシオディスの側に傾いている。大典の後、あいつは私とアークトスの「罪」を宣言しただけにとどまり、私たち両家の領地に対し何ら手出しはしていない。
[ラタトス] あいつにしてみれば、あえて手を出さなくとも、すでに全イェラグを手中に収めたのと同義と考えているのかもしれない……
[ラタトス] いや、事実その通りだな。
[アークトス] ドクター、こんな状況から何ができるというんだ?
[ドクター選択肢1] 最も賢明な方法は、巫女を救出することだ。
[ラタトス] この状況をひっくり返せる可能性があるとすれば、確かに巫女が立ち上がることだけだな。
[ラタトス] エンシオディスが蔓珠院を支配した目的は、巫女が直接民衆に語りかける余地をなくすためだ。
[ラタトス] ただ問題は──エンシオディスがそんなことを予想していないはずがないということだろうね。
[ラタトス] むしろ、あいつが蔓珠院に兵を配置したのも、あんたが自分から網にかかりに来るのを待つためじゃないのか?
[ドクター選択肢1] 当然、正面突破などはしない。
[ドクター選択肢2] いくつか準備が必要だ。
[マッターホルン] 巫女様を奪還しに来る?
[ノーシス] ……エンシオディスが、すぐに両家へ攻撃を仕掛けなかった理由は二つある。
[ノーシス] 一つ目はその必要がないと思ったから。
[ノーシス] 二つ目はそのドクターとやらがペイルロッシュ家に手を貸すことを懸念したから。
[ヴァイス] ドクターですか……もし本当にドクターがアークトスさんに手を貸すようなことになれば、確かに不確定要素は増えますね。
[ノーシス] しかし、このドクターにはアークトスの軍隊を操って我々と争おうなどという気はないと見える。
[ノーシス] 君たちの意見を聞くならば、アークトスが無謀にも全面的な戦争を仕掛けるのを制止することで、流血沙汰や衝突の発生を抑えたいと考えている可能性が高い。
[ノーシス] とは言え、私自身はその可能性をあまり信じていない。私に言わせれば、ドクターが両家を支配して、イェラグの新たな覇者になろうとしている可能性も低くはない。
[マッターホルン] ドクターはそんな人ではない。
[ヴァイス] ええ、ドクターならそれが可能かもしれませんが、そんなことは考えないはずです。
[ノーシス] ……君たちにしろ、エンシオディスにしろ、なぜこの者をそこまで高く評価するのか──少々理解できないな。
[ノーシス] 君たちの判断が誤りでなければいいが。
[ノーシス] とにかく、どのような形になるにせよ、彼らは現状我々の支配下にあるカランドをターゲットにすると見てほぼ間違いないだろう。
[ノーシス] 世論をひっくり返すつもりならば、巫女の発言は必要不可欠だ。
[ノーシス] もし巫女がカランドから連れ出されてしまえば、エンシオディスの計画が最後の最後で水泡に帰したも同然と言えよう。
[ノーシス] 当然、そのドクターもそれを理解しているはずだ。
[ノーシス] だからドクターは必ず来る。
[マッターホルン] ……皮肉なものだ。彼らの目には我々シルバーアッシュ家が、自分たちのお嬢様を人質にしているように見えるだろうな。
[ノーシス] 実際その通りではないか。エンヤ・シルバーアッシュは、今や我々の人質だ。
[マッターホルン] ……
[ノーシス] 気に入らなければ言葉を変えよう。巫女は我々の最も重要な交渉材料となった。
[ノーシス] 言い方を変えたところで、本質は何も変わらないが。
[ヴァイス] ……ノーシスさん、これ以上わざとヤーカの兄貴を怒らせるようなことは言わないでください。
[ノーシス] 私は現実をはっきりさせてやっているのだ。
[ノーシス] それとも君たちは、エンシオディスの最終目標は決して主権奉還などではないことを理解していないのか?
[ノーシス] この国を信仰に託すという選択は、最初から彼の計画にはない。
[マッターホルン] ……
[ノーシス] 私はエンヤ・シルバーアッシュを貶しているわけではない。
[ノーシス] 元より彼女に興味などないのだ。不満などあろうはずもない。
[ノーシス] しかし、彼女が立派な巫女になったことは事実だ。
[ノーシス] ならば彼女は必然的にエンシオディスの障害となる、それだけだ。事ここに至れば、シルバーアッシュ家当主よりも魅力的な人物が舞台上に存在することは許されない。
[マッターホルン] ……わかっている。
[マッターホルン] もちろんわかっているさ。
[ノーシス] 我々はやり直しの利かない一度きりの対局に挑んでいるのだ。不必要な面倒事を増やしてはならない。
[ノーシス] メンヒ、偵察は君に任せる。
[メンヒ] はい。
[アークトス] よし、悪くない作戦だ!
[ラタトス] ……本気か?
[ドクター選択肢1] もちろんだ。
[ラタトス] ……
[ラタトス] 大部隊を急行軍させ破壊活動を行うことで、注意を引きつけ──
[ラタトス] あんたの目的がユカタンの救出にあると誤解させる。
[ラタトス] だが実際は、そのすべてがアークトスの本隊をカランドに接近させるため……そして、事前に山頂へあんたの手下を忍び込ませ、巫女の身柄を確保するためというわけか。
[ラタトス] 確実と言うには程遠いが、現実的な計画ではあるな。しかし──
[ラタトス] デーゲンブレヒャーはどうする? チェゲッタのまがい物には対応できても、本物の化け物への対抗手段がないのなら、エンシオディスに立ち向かうなんて夢のまた夢だ。
[ドクター選択肢1] Sharp.
[Sharp] これも仕事の一部か?
[ドクター選択肢1] そうだ。
[ラタトス] 簡単に言うが、あんた本当にできるのか?
[Sharp] さあな、だが十数分足止めすることくらいはできるだろう。
[ラタトス] ……あんたも化け物だな。
[ラタトス] ……ところでドクター、本気で私が手伝うと思っているのか?
[ドクター選択肢1] 無理強いはしない。
[ドクター選択肢2] この計画は、絶対に君が不可欠というわけではない。
[ラタトス] あんた、エンシオディスと似たところがあるね。
[ラタトス] 自分の計画をこんなにあっさり明かしておきながら、無理強いはしないって?
[ラタトス] だけど私は計画の全容を知ったんだ。
[ラタトス] そんな人間を素直に帰す奴なんているわけないだろ。
[ラタトス] ……
[ラタトス] まあいい……
[スキウース] あたしが代わりに行くわ。
[ラタトス] バカなこと言うな、スキウース。
[スキウース] 鏡で自分の顔を見てから言うのね、ラタトス。
[スキウース] 疲労困憊で顔面蒼白、目も死んでるわよ。
[スキウース] そんなあんたに、あたしの大事な夫を任せられるはずないでしょ。
[ラタトス] ……
[スキウース] それに、あんたがあの部屋でエンシオディスと何を話したかは知らないけど……
[スキウース] このままあんたが、ブラウンテイル家をあいつの手に渡すところなんて見たくないのよ!
[ラタトス] ……
[スキウース] なに睨んでるのよ、喧嘩でもしたいの?
[ラタトス] 今回に限っては、あんたが正しい。
[ラタトス] ……
[ラタトス] 仕方ない……ドクター、私に代わってこのスキウースがあんたの計画を手伝うよ。
[ラタトス] 実際、私は未だにエンシオディスから何かを取り返せるなんて希望は抱いちゃいないのさ。
[ラタトス] 私に言えるのは──幸運を祈る、それだけだ。
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