aklib_story_ドッソレスホリデー_DH-ST-4_変わらぬ双日

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ドッソレスホリデー_DH-ST-4_変わらぬ双日

危機は去り、バカンスはまだ続いていく。この一件に関わった人々には、それぞれに考えることがあるようだ。


[D.D.D.] ……ふわあ~。

[マネージャー] ……ああ、よかった。やっと目が覚めたんですね、D.D.D.。

[D.D.D.] ふ……あはは、何それ~。大げさじゃない? もう二度と目が覚めなさそうに見えてたの?

[マネージャー] いえ、そういうわけではありません。ただ、昨晩は帰ってくるなり倒れるようにして眠っていたので、少し心配だったんです。

[D.D.D.] なるほど、そういうことね……あ、ところで外って今どんな感じ?

[マネージャー] 街の様子はどうか、ということですよね? まあ、事件の前と何も変わりませんよ。賑やかで、騒がしくて……

[マネージャー] 強いて言うなら、朝食をとっていた時、多くの人が昨日のことを話しているのが耳に入ってはきましたが……その人たちも、そこまで気にしている様子ではありませんでしたね。

[D.D.D.] そっかそっか。多分もう、うやむやになっちゃったんだね。

[D.D.D.] ……カンデラ市長って、ホントにすんごい人だなあ。

[D.D.D.] 昨日だってさ……あの状況で、まさかあんなふうに対応するなんて思わないじゃん?

[マネージャー] 本当に……あの時は私も、衝撃のあまりテレビに釘付けになりましたよ!

[マネージャー] あんな方法で場を収めるだなんて、前代未聞のことだと思います。

[マネージャー] その上、あの危ない人たちに立ち向かって戦う人が大勢現れたところも驚きでしたね……

[D.D.D.] そうなんだよ! オイラなんて、一部始終をその場で見てたけどさ……あれは不思議な光景だったな~……

[D.D.D.] カンデラさんに向かってさ、そう遠くないところから、彼女を殺そうと突っ込んできてる奴らがいるんだよ?

[D.D.D.] でも、彼女はそんなの目に入ってすらないみたいでね……ドローンはクルーズ船の近くに配備できてるかとか、それで船内の状況を確認できるかとか、そんなことしか気にしてないんだ。

[D.D.D.] って言うかなんなら、スクリーンだの海だのを指さしては、そばにいる人と談笑してるくらいの余裕かましててさ!

[D.D.D.] いや~……あれはもう、目の前で起きてるすべてが現実とは思えないくらいだったよ。

[D.D.D.] で、最後に例の二人が現れて……

[D.D.D.] 一気に現実なんだって、引き戻されたよね!

[D.D.D.] あれはもうホンットに……超、超超超エキサイティングな体験だったね!

[マネージャー] ……そして、そのお陰で今、あなたは創作意欲に満ち溢れている……というわけですね。

[D.D.D.] おっ、さっすが~! オイラのこと、よくわかってるじゃない!

[マネージャー] ふふっ。長い付き合いなんですから、当たり前でしょう?

[D.D.D.] アハハ、それもそっか! うん! 君の言った通り、今のオイラは創作意欲バリバリだよ。この瞬間心の中にある恐怖、感激、混乱、全部混ぜ込んだ新しい曲を作りたくてうずうずしてるんだ!

[D.D.D.] この曲は、オイラ自身のために作るものだけど、彼女たちとも関係の深い一作として仕上がるだろうね!

[ミヅキ] ん~この都市自体は、まあまあ面白いね。

[ミヅキ] リターニアのオペラも、クルビアの映画も、ボリバルのコーヒーも……体験してみたかったことは全部ここで楽しんだことだし。

[ミヅキ] でも、そろそろ潮時かなあ。ここの人はみんなつまんないし、大会も途中で飽きちゃったし……

[ミヅキ] あんなことになるって知ってたら、チェンさんと一緒に船に乗ってたんだけどなあ。……そうすればきっと、いっぱいお手伝いしてあげられたのに……

[ミヅキ] まあ、今更考えても仕方ない。何はともあれ、この都市にいても退屈だし、次の行き先を考えなくちゃ。……そういえば、チェンさんたちはこの後どこに行くのかな?

[ミヅキ] ……あっ、良いこと思いついた。チェンさんがどこから来たのかを知ることができたら、そこになら、きっとチェンさんみたいな良い人がたくさんいるはずだよね! うん、追いかけてみよう!

[チェン] ――本当にわかっているのか? いくらなんでもメチャクチャすぎるぞ、スワイヤー。

[スワイヤー] はいはい、そうね、そうですね! もう、アタシだってよくわかってるってば! でも、それでどうしてアンタにお説教されなきゃいけないわけ!?

[チェン] 今の近衛局はお前に預けられているも同然なんだぞ! だというのにお前ときたら……

[スワイヤー] そんなことくらい、自分でもちゃんと考えてるわよ!

[スワイヤー] っていうか、アンタの方こそ……ロドスで働くとかオペレーターになるとか言っといて、こんな所でこそこそバカンス過ごしてんのに何を偉そうにしてるわけ!?

[チェン] 私のこれは……いや。……まあ、いい。確かにお前の言う通りだ。

[スワイヤー] ふんっ。やっとわかったみたいね。

[ホシグマ] おや、終わりですか? もっとやり合ってもいいんですよ。チェンが龍門を離れてからというもの、長いこと二人のケンカを見てませんしね。

[スワイヤー] この前ロドスに行った時もしたわよ。

[ホシグマ] ははっ、そうでしたか。まあとにかく、問題も解決したことですし……せっかくここまで来たんですから、嫌なことなんてきれいさっぱり全部忘れてバカンスを楽しみましょうよ。

[ホシグマ] ね、あなたもそれでいいでしょう? チェン。

[チェン] はぁ……そうだな。

[ホシグマ] どうしました。もしかして、昨日のことでも考えているんですか?

[チェン] ……ああ。昨日受けたあれは、私の人生において最も不要な栄誉かもしれない、と思っていたところだ。

[ホシグマ] はは、確かにそうですね。正直に言うと、私でも不快に感じましたから。

[ホシグマ] ですが、起きてしまったことです。

[ホシグマ] 誰もが満足する結果がもたらされることは少ないんです、チェン。

[チェン] わかっているさ。

[スワイヤー] はいはい、その辺で辛気くさい話は終わり! 座ってうだうだお喋りするより、ショッピングに行ってご馳走でも食べた方がずーっと元気出るでしょ!

[スワイヤー] ほら、行くわよ。このアタシがお昼を奢ってあげるんだから!

[スワイヤー] で、あのネズ公はどこに行ったのかしら?

[ホシグマ] 朝早く出かけたようですよ。生憎のところ、場所まではわかりませんが。

[チェン] ああ……それなら、心当たりがある。私が探してこよう。

[スワイヤー] あら、そう。じゃあ、見つけたら連絡して。

[スワイヤー] ふん。アイツったら、昨日の夜からアタシを避けてるのが見え見えなのよ。見つけたらタダじゃおかないんだから……!

[ユーシャ] ここを離れたら、店の管理はあなたに任せるわ。

[ユーシャ] 私が教えたこと、忘れてないでしょうね?

[カジノのオーナー] はい、もちろんです。ご安心ください。

[チェン] お前たち、何の話をしているんだ?

[カジノのオーナー] ああ、チェンさん。いらっしゃいませ。実は、姐さんから色々と教えていただいてたところで……

[ユーシャ] ストップ。詳しく話さなくていいの。逮捕されても知らないわよ。

[チェン] 私は既に警察官ではない。

[ユーシャ] あら、失礼。こんなお節介焼きの観光客なんて見たことないから現役なのかと思ったわ。

[チェン] ふん、言ってくれる。

[ユーシャ] で、それはそうと……ん、あなたはもう下がってていいわよ。

[カジノのオーナー] はい、姐さん。

[ユーシャ] ――で? 私に何か用?

[ユーシャ] まさか、理由もなく飲みに誘いたくなったなんて言わないわよね?

[チェン] そのまさかだと言ったら、どうする?

[ユーシャ] そうね……一杯くらい、付き合ってあげようかしら。

[チェン] ――私の知る龍門青年起業家協会の会長は、きびきびとした仕事ぶりで、自分にも他人にも厳格な人物でな。

[チェン] 今回は、それを目にするいい機会になったと思っている。

[ユーシャ] ……ふうん。じゃあ、話しておくけど。――私の知ってる龍門近衛局特別督察隊の隊長って、犯罪者に対して容赦のない、公正無私な人なのよね。

[ユーシャ] 今回は、それを理解するいい機会になったと思ってるわ。

[チェン] そうか。ところで、今回お前をここに来させたのは、やはり、ウェイか?

[ユーシャ] いいえ、フミヅキ夫人よ。彼女が私を長官の代理に、って推してくれたの。

[ユーシャ] 最初はその理由がよくわからなかったけど、あなたに会って納得したわ。

[チェン] ……お前、それで腹は立たないのか?

[ユーシャ] 別に怒ったりしないわよ。私からすれば、これはチャンスだしね。

[ユーシャ] 鼠王の娘が鼠王だとは限らない。けど、そうであることだってできるんだから。

[チェン] お前が奴を手伝う理由は、そこにあるのか?

[ユーシャ] ……それは、あなたには言わないわ。チェン・フェイゼ。

[チェン] なぜ。

[ユーシャ] だって、私はあなたとは違うもの。

[チェン] 私が龍門を捨てたからだとでも言いたいのか。

[ユーシャ] いいえ。最初のうちは、ほんの少しだけそう考えていたけど、今はそんなこと思ってないわ。

[ユーシャ] だからこれは文字通り、私はあなたとは違う、というだけの意味。

[チェン] そう聞かされたところで、やはり耳が痛い言葉であることに変わりはないが。

[ユーシャ] そんなの、あなた自身の問題でしょ。

[チェン] ……そうかもな。

[スワイヤー] ――もしもし、ネズ公はもう見つかった?

[チェン] ああ、見つけた。今は隣にいるぞ。

[スワイヤー] そう、上出来ね。で、アンタたちはどこにいるの?

[チェン] 海岸公道26号線沿いのバーだ。

[スワイヤー] 26号線? あら、ちょうどいいじゃない! その辺りに良さそうなお店があるのよね。そこの住所を送るから、アンタたち先に行っててちょうだい。

[スワイヤー] ……いいこと? アンタ「たち」って言ったんだから、そこのネズミも絶対連れてきなさいよ! 逃がしたら許さないんだから!

[チェン] とのことだ。聞いたな、リン・ユーシャ。

[ユーシャ] はぁ……もう。あの女、相変わらず面倒くさいわね。

[チェン] で、どうするんだ?

[ユーシャ] 行きましょう。

[チェン] ビーチの方は人が多いな。

[ユーシャ] ドッソレスの象徴の一つだったクルーズ船が沈没したんだもの。野次馬が湧くのも当然よ。

[チェン] クルーズ船……か。

[ユーシャ] そうやってあれこれ考え込むのはやめたら? そんなことしても、私たちがあのクルーズ船を爆破したって事実は変わらないんだし。

[ユーシャ] まあ、もしあの船を弁償することになってたらと思うと……大会の賞金で帳消し、って言ってくれたカンデラさんには感謝しないといけないけどね。

[チェン] ……正確には、「私たち」ではなく「お前が」爆破したんだがな。

[ユーシャ] もっといい方法があった?

[チェン] ないな。

[チェン] ……ん? あそこにいるのは……

[エルネスト] …………

[ユーシャ] ――エルネスト?

[エルネスト] やあ。チェンさんもリンさんも、お揃いで。

[チェン] なぜ、ここにいるんだ?

[エルネスト] いやあ、それが……親父は処分未定なんだけど、とりあえずそれ以外の逮捕者については、基本的に死罪を免じて追放処分……っていうのがカンデラさんのお達しでね。

[エルネスト] その上、俺の処分については、カンデラさんがここ数年の働きぶりを考慮してくれてさ。お陰で、街に残ることを許されたんだ。……もちろん、職は失うことになるけどね。

[チェン] なるほど。それで、キミはここに残るつもりなのか?

[エルネスト] ううん、離れようと思ってる。

[エルネスト] でも、俺もラファエラも、どこへ行けばいいのかなんて見当もつかないからさ……こうやって、ぼーっと海を眺めてたってわけ。

[ユーシャ] ラファエラってあの子のこと?

[エルネスト] そうだよ。元々あいつは、親父の戦友だったピューおじさんの子でね……おじさんは、監獄から親父を救い出すために死んじゃったんだけど、その時にラファエラのことを託していったんだって。

[チェン] ……

[エルネスト] ところで、二人は……今この場で俺を始末しておこう、とか思わないの?

[チェン] 生憎、私にはキミを裁く資格がないのでな。

[ユーシャ] もし、あなたの計画が成功していたら、出会い頭に殺してたと思うけど、今は、そこまでする気はないわ。

[エルネスト] ハハッ、そっか。お二人らしい答えだなあ。

[エルネスト] ……ねえ、チェンさん、リンさん。これが炎国だったら、俺みたいな奴は「この不孝者が」って非難されちゃうかな?

[ユーシャ] そうなるでしょうね。

[チェン] 「大義親を滅す」という言葉もあるが、キミはそこまでしていないだろう。

[エルネスト] アハハ……確かに。俺には大義なんてないからね。

[エルネスト] ……だけど、少なくとも今回の一件では、俺は親父を裏切ろうなんて思わなかったんだ。

[エルネスト] 船で俺がチェンさんに話したことは、嘘じゃないんだよ。

[エルネスト] 二人がここにいる間、こんなこと考えたかどうかは知らないけど。

[エルネスト] ――俺は、頭ではよくわかってるんだ。この都市が何の上に築かれたものなのか。どんな犠牲を払って、成り立っているものなのか。

[エルネスト] それでも、街にそびえる高層ビルや、青い海と空を眺めていると……これもまた、正しいことなんじゃないかって思わずにはいられない。

[エルネスト] ボリバルの人々に楽園を与える方法なんて……俺には、この都市を存続させること以外、想像がつかないんだよ。

[チェン] ……だが、キミはここを去ることを選んだのだろう。

[エルネスト] うん。……正直、二人に出会ってなかったら、俺はきっと今からでももう一度カンデラさんの部下になろうとしてたと思う。

[エルネスト] でも、チェンさんが言ってくれた言葉で……また、迷い始めたっていうのかな。

[エルネスト] だって、二人はほかの国から来た人だしさ。……こことは違う場所になら、もっと違う方法もあるのかもって思うようになったんだ。

[エルネスト] ……ふぅ。二人に聞いてもらってたら、なんだかちょっとスッキリしてきたよ。

[エルネスト] お礼を言わせて。こんな無駄話に付き合ってくれてありがとう。出会い頭に殺さないでくれたことも。

[ユーシャ] 感謝されるほどのことじゃないわ。これまでとは偶然立場が違っただけだもの。

[エルネスト] ハハ、リンさんらしいや。じゃあ、これ以上二人の邪魔をしちゃ悪いから俺はそろそろ行こうかな。まだしばらくドッソレスにはいるだろうから、俺の力が必要になったら遠慮なく連絡してね。

[チェン] わかった。

[ユーシャ] ……一応言っておくけど。私には、彼の力になることなんてできないわよ。

[チェン] それは私も同じことだが……お前は何が言いたいんだ?

[ユーシャ] このまま放っておくのは、ちょっともったいないと思っただけ。

[チェン] ……なるほど。考えておこう。

[ホシグマ] ああ、いたいた。おーい、チェン!

[チェン] ん、来たか……驚いたな。キミも一緒だったとは。

[シデロカ] こんにちは、チェンさん。実は、ちょうど市政府から出たところでお二人にお会いしまして、スワイヤーさんが誘ってくださったものですから、お言葉に甘えて。

[チェン] そういうことか。で、その市長との話し合いの方はどうだった?

[シデロカ] それがですね。あなたたちの恩恵に預かって、といいますか。今回の件で、私たちも貢献していたと見なされたようで、すぐに同意していただけました。

[チェン] ……なんというか……あの人らしい話だな。

[スワイヤー] こ~のネズ公っ! やっと捕まえたわよ! アタシから逃げ回るなんて、一体全体どういうつもり!?

[ユーシャ] 私は別に逃げ回ってなんかないわよ。あなた頭に問題があるんじゃないの? スワイヤー。

[スワイヤー] はあ~!? 問題あるのは明らかにアンタの方でしょ!?

[ユーシャ] ……普通の人は、友達が遊びに行ったのに嫉妬して勝手に後をつけといて、いざ到着したら、会いに行くどころか相手から隠れるだなんてこと、しないのよ。

[スワイヤー] 知らないわよそんなの! どうしようとアタシの勝手でしょ!?

[ユーシャ] ……はぁ。

[ホシグマ] そうだ、お嬢様が先ほど、午後はショッピングに行くついでにお土産を見繕いたいと言っていたんです。チェンとリンお嬢さんも、食後にご一緒しませんか?

[チェン] 構わない。そうしよう。

[スワイヤー] ネズ公、アンタはぜ~ったい一緒に来なくちゃダメなんだからね!

[ユーシャ] しょうがないわね。いいわよ、特段やることもないし。

[スワイヤー] ふふっ、素直でよろしい! それじゃ、まずはご飯にしましょ!

[シデロカ] ……ん? うん。

[シデロカ] 皆さん、こちらへ。ポーズを取っていただけますか?

[ホシグマ] ポーズ?

[シデロカ] ふとに思いついたのですが、今の光景を写真に撮ったら、素敵な一枚になるのではないでしょうか。このバカンスの記念として、私が撮影しましょう。

[スワイヤー] あら、いいじゃない! もちろん大賛成よ! ほら、ネズ公。写真を撮ってもらえるんだから、ちゃんと立ちなさい。

[ユーシャ] ……はいはい……わかったわよ。

[ホシグマ] ははっ、なるほど。確かに、この四人が集まることなんて滅多にありませんからね。撮ってもらいましょう、ね、チェン?

[チェン] そうだな。

[シデロカ] よろしいですか? では、撮りますよ。はい、チーズ――!

ドッソレス産の手挽きコーヒーは独特の香りを持っている。最高級品ともなれば、その濃厚な香りは格別だ。

口にするまでは、芳醇な香りが。そしていざ口にしたときには、苦みばかりが広がる。……しかし、その後しばらく待てば、それらの織りなす旨味を味わうことができるのがこのコーヒーである。

苦くはあるが渋みはなく、香り高くコクが深い。どんな辛口の批評家ですら、この味にはケチのつけようがないだろう。

リターニアのとある貴族たちの間では、この嗜好品はステータスですらあり――ドッソレス産の絶品コーヒーを手に入れられる者は、地元社交界における絶対的な発言権を持つという話だ。

そして……今、龍門総督ウェイ・イェンウが手にしたカップの中で静かに湯気を立てているのは、そうした希少なコーヒーである。

[フミヅキ] あら? 目を通していらっしゃるのはユーシャが今回のドッソレス訪問について書いた報告書ですか?

[ウェイ] ああ。カンデラとはしばらく会っていないが、これを見る限り、彼女は相変わらず狂った奴だな。

[フミヅキ] あなたは彼女とは違う、と仰るのですか?

[ウェイ] 無論だとも。

[フミヅキ] ふふ、そうですか。ところで、向こうへ送ったトランスポーターからの報告を聞きましたが、ユーシャとチェンちゃんは、本当によくやってくれたようですよ。

[フミヅキ] スワイヤー家のお嬢さんとホシグマまでもが向こうに行っていたのには、少々驚きましたけれど……

[ウェイ] ……そうだな。二人は確かに、よくやってくれた。

[ウェイ] だが、恐らくこれは、当人たちからすれば大して喜ばしい結果でもなかったことだろう。

[フミヅキ] なぜ、そうお思いになるのですか?

[ウェイ] お前は、カンデラが彼女たちを傷つけるようなことはないと言っていたな。……私も、それには同意する。

[ウェイ] だが、あの二人にはまだ、カンデラのような者の善意をどう受け入れるべきかなど、見当もつくまい。

[ウェイ] 何しろあの女の価値観には、「是非」なんてものは存在しない。あるのは結果だけだ。

[フミヅキ] ……つまり、あなたはまだ、初めからチェンちゃんとユーシャを行かせるべきではなかった、と仰りたいのかしら?

[ウェイ] いいや、その逆だよ。お前の言った通り、彼女たちは上手くやっていた。ドッソレスはいい経験になっただろう。カンデラに会うことも含めてな。

[フミヅキ] あら、まあ。ふふっ、あなたがそんなふうに前向きなことを仰るなんて、珍しいこともあるものですね。

[フミヅキ] それなら、いいものをお目にかけましょうか。

[ウェイ] うん?

[フミヅキ] ユーシャが持ち帰ってきた写真ですよ。

[ウェイ] ……

[フミヅキ] ほら、ご覧になって。本当に、若いというのは、それだけで素敵なことですね。みんなの生き生きとした姿といったら。

[フミヅキ] 私たちにもこんな時がありましたね、イェンウ。あなたも、覚えていらっしゃるかしら?

[ウェイ] もちろん、よく覚えているとも。

[フミヅキ] まぁ、よかった。……それにしても……チェンちゃんは元気にやっているようで、私も安心しました。

[フミヅキ] この写真はフォトフレームに入れて、大事にしまっておくことにしましょうか。

[ウェイ] そうだな。お前のいいようにしなさい。

[フミヅキ] ……ねえ、イェンウ。

[ウェイ] なんだ?

[フミヅキ] チェンちゃんは、帰ってきてくれると思いますか?

[ウェイ] ああ。いずれ、帰ってくるさ。

[フミヅキ] ふふっ、では、その日を楽しみにしていましょうか。

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