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翠玉の夢_DV-S-2_慮い衡る
若者というのは意気投合したその一瞬で手を取り合い、その後長い年月をかけて互いを見定めあうもの。最後にどうなろうと、出会った当初は、多かれ少なかれ同じ志を持っていたことは確かだ。
[ライン生命警備課職員] ……
[ライン生命警備課職員] ……私です。
[ライン生命警備課職員] あなたの予想通り、保安官は開拓隊を助けるほうを選び、エレナ・ウビカはクルーニー主任を裏切りました。
通信機の向こうからため息が聞こえてくる。
[パルヴィス] それは残念。
[パルヴィス] やっぱりフェルディナンドの負けか。
[ライン生命警備課職員] なぜこうなるとお分かりになったのですか? 数人味方が増えたところで、多勢に無勢の状況に変わりはなかったはずでは……
[パルヴィス] さっき、本部で君の昔の上司に会ったんだ。
[ライン生命警備課職員] さ、サリア主任に!?
[ライン生命警備課職員] そんな……
[パルヴィス] 興奮すると身体に障るよ。君もこっぴどくやられたんだろう? ……大方あの保安官かな。どこかサリアに似ているとか、君から聞いた記憶があるよ。
[ライン生命警備課職員] ……本当に主任みたいになれる人なんていませんよ。
[ライン生命警備課職員] 私はただ……理解できないだけなんです。主任がなぜあんな選択をしたのか……
[ライン生命警備課職員] 懸命に働くあの人の姿を私はずっと見ていたんです。自分の健康や名誉なんかよりもライン生命を優先しているのは明らかで……
[ライン生命警備課職員] 私も、主任のようにライン生命を守りたいと思っていました。それなのに、あの人はなぜ私たちを見捨てたんでしょうか……
[パルヴィス] 先に彼女を失望させたのは私たちのほうかもしれない、とは思わないのかい?
[ライン生命警備課職員] それは……
[パルヴィス] ま、君はまだ若いからね。
[パルヴィス] 若者というのは意気投合したその一瞬で手を取り合い、その後長い年月をかけて互いを見定めあうものだ。
[パルヴィス] 今は激しく対立していても……出会った当初は、多かれ少なかれ同じ志を持っていたことは確かだったのさ。
[ライン生命警備課職員] ……
[ライン生命警備課職員] パルヴィス主任……何か音楽をお聴きになっているのですか?
[パルヴィス] ……おや、君はこれを聴いたことがなかったっけ?
[パルヴィス] すまない、忘れていたよ。君は会社に加わったのが遅いほうだからライン生命最初の新年会にはいなかったんだったね。
[パルヴィス] あの頃は……ライン生命も自社ビルなんて持っていなかった。
[パルヴィス] クリステンが、トリマウンツ工科大のそばにあるオフィスビルのフロアを半分借りて、そこを拠点にしていたんだ。彼女自身はサリアと一緒に近くの古アパートに住んでいたっけね。
[パルヴィス] フェルディナンドはいつも、もっと資金を調達してくると言っていたが……彼が前の会社を離れたあと、取引先がメールを返してくれなくなったとか。
[パルヴィス] 私のほうは、まだ元の研究所に籍を置いていたから、トリマウンツに戻れるのは月に一、二回くらいのものでね。
[パルヴィス] だけど、年末にミュルジスがメッセージを寄こしたんだ。新年会をやるから絶対来て、とね。
[パルヴィス] あの夜は大雪で、D.C.からの帰り道は大渋滞だった。私も、老骨に鞭打ってまで行くつもりはさすがになかったんだが、ミュルジスに脅されてね。
[パルヴィス] 時間通りに戻らなかったら、冷えて水浸しの枕で年明けを過ごさせてやるぞ、と言われたものだから。
[パルヴィス] もうすぐ日付が変わろうという時に、私はやっとオフィスに辿り着いて――
[パルヴィス] そこでこの曲を聴いたんだ。
[パルヴィス] 正直に言うと、聞き苦しい曲でね。
[パルヴィス] 私はリターニア人だから、今でも理解できないよ。ミュルジスはあれほど素晴らしいアーツを扱えるのに、どうして音楽のセンスは褒められたものじゃないのか……
[パルヴィス] けれど、ほかのみんなは気にしていないようだった。……信じられないことに、フェルディナンドがサリアをダンスに誘って、サリアもその誘いを受ける、なんて一幕もあったりしてね。
[パルヴィス] そんな中、クリステンは……彼女はただ、そばに立ってそれを眺めていた。あの夜、彼女は窓の外よりも、部屋の中にいる人たちのほうに目を向け続けていたんだ。
[パルヴィス] そんなあの頃のことを……今では私も、よく思い出せないんだ。
[パルヴィス] この続きは……どんなふうに歌うんだったっけね。
[パルヴィス] はぁ……
[パルヴィス] 年を取り過ぎたのかな……
[パルヴィス] ……
[ライン生命警備課職員] ……
[ライン生命警備課職員] 主任……パルヴィス主任?
[ライン生命警備課職員] 眠ってしまわれたのですか……?
返事は返ってこなかった。
メロディーはそのまま流れ続けて、最後までいくと、再び曲の頭に戻る。
年老いたキャプリニーがまだ通信機のそばにいるかどうか、彼には判別がつかない。
彼に唯一わかるのは――夜が明けて本部に戻れば、パルヴィスはいつもの場所で、階下を行き交う若者たちをカップを片手に微笑みながら眺めているだろうことだけだった。
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