器用で不器用な男と不器用で器用な男の話

登録日：2016/11/07 (月) 00:05:13
更新日：2024/01/29 Mon 13:23:02
所要時間：約 20 分で読めます

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器用で不器用な男と不器用で器用な男の話は2001年6月に行われたラーメンズの第九回公演『鯨』に収録されているコント。
同公演の最後を飾るだけあり、笑えて泣けて、そして最後にちょっとだけクスッとする内容でファンからの評価が高い作品の一つである。

【CHARACTER】
片桐（演：片桐仁）
「ダリとピカソとガウディと工藤静香の生まれ変わり」を自称する芸術家。
トレードマークのもじゃもじゃの髪の毛をトイレットペーパーで束ねた独特のセンスを見せている。
前向きで強気な性格だが…

小林（演：小林賢太郎）
デザイナーズマンションの17階に住むエリートサラリーマン。
引っ込み思案でコミュニケーション能力にやや難があるが、真逆の性格である片桐とは何故か仲が良い。
本作では片桐を自分の部屋に案内する所から話が始まる。

【STORY】
「なあなあ、今の何？」
「今のって？」
「こう、ピッピッピって…」
「ああ、カードキーだよ」
「おいおいおい！すげぇな昨今のマンションは！！スパイ屋敷かよ！！！」
最新式のマンションに驚く片桐に説明をする小林。
自分の身の回りにはないハイテク装置に片桐のテンションが上がる。しかし…
「…違うよ？」
「…うん、違う事は分かってるよ」
小林の真面目な返答に片桐も思わず冷静になってしまう。
気を取り直し、部屋中の電気が点けっぱなしな事に「流石金持ちの家は違う」と感心する片桐だが、
小林が「鍵を開けるとセンサーで自動的に点くようになっているんだ」と解説を受けてまたまた興奮する片桐。
「おいおい！スパイ屋敷かよ！！！」
「…え？だから違うよ…！？」
ここまで読んできた皆さんはそろそろお気づきだろうか。

小林はジョークを全て真に受けるタイプだという事を。

「こんだけ広いと部屋のあっちとこっちで時差があるんじゃねえか？」と片桐が言っても、
「いや…どうかな、あるのかな…まあ、でも厳密には…」と真面目に考えてしまう小林。
窓ガラスが全て開く事を知った片桐が「全開きか！！お前は全開き人間か！！！」と調子づいても、
今まで聞いたこともない言葉に戸惑いながら辞書を引いたり検索をしようとする小林。
「もっとこう…楽しめよ、会話を。俺が『スパイ屋敷かよ！』って言ったら、『ハッハッハ、そんな訳ないだろ』ぐらいさぁ…」
「…分かった」
片桐のアドバイスを受け、今度こそ上手な返しをしようとする小林。だが…
「オレ、海好きなんだよねぇ」
「ハッハッハ、そんな訳ないだろ！」
「違うぜ、使い方！！」
結果は大失敗。泣き出してしまう小林を何とかなだめ、紆余曲折ありながらも将来の夢を語り、小林家の冷蔵庫から何か一つご馳走になる片桐。
「うわぁ、冷蔵庫もでけぇなぁ…一人暮らしじゃそんなに入れる物ないだろ？」
「そうね、ほとんど開けないなぁ…ビールならいくらでも入ってるから、飲んで、どんどん！片桐君好きだって言うから、ｶｯﾃ↑ｷﾀﾝﾀﾞ↑!!!」
興奮のあまり後半は声が裏返ってしまった小林に、片桐がその中の一本を手にして尋ねる。
「…これ、どこの国のビール？」
「ドレッシング」
「…ああ、西アフリカのドレッシング共和国ね」
言い終えた後すぐさま小林の後ろに回り、腹話術のように口を動かしながら「ねえよ、そんな国！！」と正しいボケ方を教える。
「ねえよ、そんな国…」
「そうそう、ないない！そんな国はない！」
「…あああああああああ！こうやんのかあああああああああああああああああ！」
どうやらやり方を覚えたらしい…と思いきや、
「ねえよ、そんな国…！ねえよ、そんな国！！」
ツッコミはこれしかないと思っているらしい。流石に片桐も「万能じゃねえぞ。『ねえよ、そんな国』は限定だからな。そんな使えないよ」と焦る。
せっかく片桐が「しかしなんでも入ってるなー。お前んちの冷蔵庫は東急ハンズだな！」と言っても本当に冷蔵庫が東急ハンズになったのかとパニックを起こす小林。元の木阿弥である。
「学習能力ゼロだな！誰もいねぇよ！」と片桐に言われてようやく落ち着きを取り戻す小林。
安心した片桐がドレッシングを飲み「っくー！！このビール酸っぱくて美味いね！」と言うが、
「そう？良かった♪」と意に介さない。
ラベルを見せ、「このビール酸っぱくて美味いね！」と強調しても、
「だからこれは、ドレッシングなんだよ…間違えちゃったんだね！」と意図を理解してくれない。
呆れた片桐がビンを冷蔵庫に戻すが、どうやら本当に間違えたと思っているらしく
「しょうがないよ、英語で書いてるんだし…誰にでも間違いはあるよ！ドンマイ！」とずれた励ましをする。
気まずい空気が流れる中、小林がぎこちない口調で「ごめんね…僕、こう…下手なんだ…お喋りが」と呟く。
そんな空気をぶち壊そうと、「いいって…無理してもしょうがないし。ショウガが入っていない冷蔵庫なだけに、『しょうがない』」と片桐が返す。
何か返さなければ…と焦る小林に、「いや、今のは俺が悪かった！！」と片桐が謝る。
「ううん、すっごく面白かったと思うよ！だって食べるショウガと『しょうがない』の『しょうが』が同音異義語になってるんだもん！そういうのダジャレって言うんだろ？すっげぇや！！！」とフォローをするが…
片桐のハートはボロボロ。「難しいね、お喋りって…もっと勉強しなきゃ。スクールみたいなのってあるのかな」小林も必死に挽回しようとするが、焼け石に水。
片桐も「もう一周して面白い」と返すのが精一杯である。
「…うわぁ！凄いなぁ…『一周して面白い』ってTVで芸能人が使ってた！片桐君のトークはもうプロ並みって事だね！」
片桐は呆れながらも「俺はちっとも凄くなんかない。28歳でマンション買ったお前の方がよっぽどすごいよ。下らない冗談ばっかり言ってる四畳半画家のオレなかより、よっぽどな」と返す。
小林が気を使い、創作活動の状況を尋ねるが、「箸にも棒にも掛からない。分からんかねぇ…俺の作品の面白さが」と投げやりに答えるだけ。
「…面白い事教えてやろうか？今朝な…絵具全部捨てちゃった！！！」
「…あ、ハッハッハ、そんな訳ないだろう！」
流石にようやく理解したのか、小さくガッツポーズをする小林。
だが、空気がおかしい。
「…ちょっと待ってよ…」
「今日は、お別れを言いに来たんだ…」
「え？え？え？」
「分かっちゃったの。オレ、才能無いみたい…！笑っちゃうよな！！10年棒に振っちゃった！！！！…地元で、地味に働くわ」
「やめてよ？面白くないよ…」
「そう。人生ってのは…面白くないもんなんだよ」
小林にトイレットペーパーを渡し、その場を去ろうとした片桐。だが…

ふざけんなぁああああああああああああああああああああああああああああ！

驚く片桐を尻目に、窓を全開にした小林がなおも叫ぶ。

僕は…片桐君に憧れてたんだぞ！

毎日パソコンの前に座って！

全然興味ない仕事覚えて！！

会社のために、頭と体と時間すり減らして！！！

小林の体に、風に舞ったトイレットペーパーが飛んでくる。
それでも、小林はなおも叫び続ける。

ああ、お金はあるよ！マンションも買ったよ！

だからってねぇ、面白い事なんて何一つなかった！！でも、片桐君は違った…

小さな部屋で大きな油絵書いて！

毎晩飲み明かして！汗かいてバイトして！！

面白い事いっぱい言って！そのお金でまた絵を描いて

…なんか、すっげえカッコよかったんだよね！！！！！

そうだ、ボクん家で暮らしなよ！！だから行くのやめなよ！！全部アトリエにしちゃっていいからさ！！

だから行くの…やめなよ！！！！！

絵具なら僕が全部買ってあげるからさあああああああああああ…

行くなあああああああああああああああああああああ！

僕は一人でどうすればいいんだぁ…！

がっくりと項垂れる小林に片桐が「ありがとうな。止めてくれたの、お前だけだ」と暖かい声をかけ…

餞別に何かくれよ。何インチ？でけぇな！BS見れる奴だろ！？うわ薄ぃー！！

こんだけ薄けりゃ二枚重ねて使えるな！！『意味ねえだろ！』『一枚無駄じゃん！』

いや、あれがいいや。画面だけ空中にビュイーンって出る奴！！

『ねえよそんなの！』『まだねえよ！！』

『…スパイ屋敷かよ！！！！』

あー、ドレッシング飲みすぎた。トイレ行くわ…

今まで教えて来た突っ込みを一人で行い、トイレに行こうとして何やらパントマイムのような動きをし…

『ねえよ、赤外線はよー！！！』

小林の顔を変顔で覗き込む片桐。思わず小林の顔から笑みがこぼれる。

「面白かった？」
「面白かった…」
「お前は、そうやって笑って暮らしてろ！！」

微笑み返す片桐が一枚の紙を渡す。そこには彼の実家の住所が書かれていた。

「俺も、面白かったよ…」

そう言って去って行く片桐の残したメモを除く小林。どこに住んでいるのかと思いきや…

「近いっ！！！」

追記・修正はボケを真に受けてしまう人がお願いします。

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▷ コメント欄

• 項目読んで泣いてしまった -- 名無しさん (2016-11-07 20:10:31)
• これに限らないけどラーメンズのコントって大体頭おかしい方が立場というか地位上だよな -- 名無しさん (2016-11-08 02:56:13)

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