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イマジナリーコンパニオンとは

イマジナリーコンパニオン(以下、IC)とは、主に子どもに見られ、ある程度の期間に渡って遊び相手や話し相手になったりする想像上の友人や仲間のことをいう。

ICは本人の「外部」または「内部」に現れ、実際にそこにいるかのような「生々しい実在感」が感じられる。しかし本人はICが実在しないことを理解している。

 

通常は幼児期あるいは児童期に出現し、児童期の間に消失する。

稀ではあるが青年期以降も持続したり青年期以降に出現したりする場合もある。

 

ICがいることは子どもの発達過程において正常であり、本人がコントロールできる限り治療の対象ではない。

 

井上(2019)は、以下のように解説している。

イマジナリーコンパニオン(imaginary companion:IC):は,通常児童期にみられる空想上の仲間をいう。ICは実際にいるような実在感をもって一緒に遊ばれ,子どもの心を支える仲間として機能する。ICはほぼ打ち明けられず,やがて消失する。精神症候学の主な専門書で触れられていないことからもわかるように,ICは健康な心の成長の一時期に出現する空想と理解してかまわない。ICを知らないと妄想や解離症状などと間違えられるかもしれない。特殊な場合ICが20歳台まで存続したり異常な性質を帯びたとされる症例報告があり,ICの知識は臨床視点のひとつとして役立つだろう。

 

また、澤(2009)は、ICを以下のようにまとめている。

現実には存在しない他者が,頭の中あるいは外に生々しい表象と実在感を伴って反復的に現れ,会話が成り立つ。この場合の他者をimaginary companion(IC)という。〔…中略…〕ICはおおむね伴侶的であるが,ときに自傷他害を促し,さらには患者の身体活動を行うことがある。患者はICを客観的な実在と混同することはなく,その非現実性を認識し,私秘的にする。ICは表象的でありながら知覚的である,知覚と表象の中間領域で生じている現象と言える。

 

表象とは、簡単に言えば「心の目」に映るものである。それに対し知覚は実在するものを五感で感じとることである。

ICは表象の領域と知覚の領域の両方の性質を持ち、また空想的でも現実的でもない。

生々しい表象と実在感を伴っている点ではファンタジーとは異なる。しかし専門家であってもファンタジーと誤解されることも多い。

 

何よりICは「生々しさ」がある他者であり、自らの意志によって左右されたり変更したりできるものではない。大饗ら(2007)は「ICという名は体を表すわけではない」と言う。

 

名称

学術的には「イマジナリーコンパニオン(IC)」がよく使われる。その他、imaginary playmate、invisible friend、make-believe companion、pretend friendといった表現もある。

インターネット上では「イマジナリーフレンド(IF)」が使われることが多く、ICがいる者を「IF保持者」「IF持ち」と呼ぶこともある。

 

定義

ICの定義では、1934年にSvendsenが提唱した定義が有名である。森口(2014)より引用する。

An invisible character, named and referred to in conversation with other persons or played with directly for a period of time, at least several months, having an air of reality for the child but no apparent objective basais

これを犬塚ら(1990)が日本語に訳している。

目に見えない人物で,名前がつけられ,他者との会話の中で話題となり,一定期間(少なくとも数ヵ月間)直接に遊ばれ,子どもにとっては実在しているかのような感じがあるが,目に見える客観的な基礎を持たない。物体を擬人化したり,自分自身が他者を演じて遊ぶ空想遊びは除外する。

幼少期のICについては親などの他者との間で話題にされることがある。しかし、年齢が上がるにつれて他者からは隠されるようになる。

 

実際にはこれ以降定義について議論されておらず、定義の一致をみない。調査者によって定義付けがされ、調査結果にもばらつきがある。

研究者によっては物体の擬人化や空想遊びも含めている場合もある。

 

参考文献・引用文献

  • 井上勝夫 『イマジナリーコンパニオン』 精神科治療学 34, 38-40, 2019.
  • マルクス・イェーガー 木谷知一訳 『基礎としての精神病理学』 星和書店, 2019.
  • 森口佑介 『空想の友達 子どもの特徴と生成メカニズム』 心理学評論 57(4), 529-539, 2014.
  • 北村俊則 『精神・心理症状学ハンドブック 第3版』 日本評論社, 2013.
  • 澤たか子 『イマジナリーコンパニオン』 精神科治療学 24(8), 1013-1015, 2009.
  • 大饗広之・浅野久木 『解離と Imaginary Companion 成人例について』 精神科治療学 22(3), 275-280, 2007.
  • 犬塚峰子・佐藤至子・和田香誉 『想像上の仲間 文献の展望』 精神科治療学 5(11), 1013-1015, 1990.